弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
   1 本件控訴を棄却する。
   2 控訴費用は,控訴人の負担とする。
         事実及び理由
第1 当事者の求めた裁判
1 控訴人
 (1) 原判決を取り消す。
(2) 被控訴人が中労委平成9年(不再)第36号事件についてした平成13年12月
5日付け命令を取り消す。
 (3) 訴訟費用は,第1,2審とも,被控訴人の負担とする。
2 被控訴人
   主文と同旨。
第2 事案の概要
 労働組合である控訴人は,懲戒解雇された組合員につき,解雇の撤回,原職へ
の復帰等を求めて千葉地方労働委員会に救済申立てをしたところ,同委員会は,
救済申立ての一部を認容し,その余を棄却する旨の初審命令を発した。そこで,
控訴人は,棄却された分について被控訴人に再審査の申立てをし,使用者である
再審査被申立人は,救済申立てを一部認容した初審命令の取消しを求める行政
訴訟を提起した。同行政訴訟において初審命令の取消請求を棄却する判決が確
定したところ,被控訴人は,判決確定を理由に,労働組合法27条10項に基づき
控訴人の再審査申立てを却下する決定をした。本件訴訟は,控訴人がこの再審
査申立却下決定の取消しを求めたものである。
1 前提となる事実(当事者間に争いがないか,甲第1号証ないし第4号証により
認められる。)
(1) 控訴人組合員の解雇
 控訴人は,千葉県地域の運輸及び一般産業に働く労働者でA労働組合に
登録された者により組織された個人加入の労働組合であり,株式会社B(以
下「B」という。)は,一般貨物自動車運送事業等を業とする株式会社である。
 Bは,平成7年10月19日,いずれも同社の従業員で,かつ控訴人の組合
員であったC及びD(以下,両名を「Cら」といい,各人は姓のみで表示する。)
に対し,懲戒解雇(以下「本件懲戒解雇」という。)する旨告知した。
(2) 救済申立て
 控訴人は,平成7年11月14日,千葉地方労働委員会(以下「千葉地労委」
という。)に対し,Cらに対する本件懲戒解雇の撤回,原職への復帰,本件懲
戒解雇の日の翌日である同年10月20日から原職復帰の日までに受けるべ
き賃金の支払並びに文書の掲示及び交付を求めて救済申立て(以下「本件
初審申立て」という。)をした。
 千葉地労委は,平成9年8月7日,本件懲戒解雇が労働組合法(以下単に
「法」という。)7条1号及び3号の不当労働行為に該当すると認定した上,B
に対し,Cらに対する本件懲戒解雇の撤回,原職への復帰及び命令交付の
日から原職復帰の日までの間のCらの受けるべき賃金の支払を命じたが,C
らにも非難されるべき行為があったとして,本件懲戒解雇の日の翌日から命
令交付の日の前日までの間の賃金支払及び文書の掲示・交付を求める部分
の救済申立てを棄却する命令(以下「本件初審命令」という。)を発した。
(3) 再審査申立て
 控訴人は,平成9年8月22日,被控訴人に対し,本件初審命令が申立てを
棄却した部分を不服として,再審査を申し立てた(以下「本件再審査申立て」
という。)。なお,控訴人は,平成10年3月9日,Dに係る再審査申立てを取り
下げた。
(4) 行政訴訟
 他方,Bは,平成9年9月3日,千葉地方裁判所(以下「千葉地裁」という。)
に対し,本件初審命令のうち救済を命じた部分の取消しを求める行政訴訟
(以下「本件行政訴訟」という。)を提起した。
 千葉地裁は,平成11年2月8日,Dに係る請求については,BとDとの間に
おいて和解が成立したとして訴えを却下し,Cに係る請求については棄却す
る判決をした。
 Bは,同判決を不服として控訴したが,東京高等裁判所は平成11年8月1
9日同控訴を棄却する判決をし,同年12月17日,最高裁判所がBの上告を
棄却したことにより,千葉地裁の上記判決が確定した。
(5) 本件決定
 被控訴人は,平成13年12月5日,千葉地労委の救済命令が本件行政訴
訟の確定判決により支持された以上,法27条10項により被控訴人は再審
査をなし得ないとして,本件再審査申立てを却下する決定(以下「本件決定」
という。)をし,控訴人は,同月16日に本件決定書の交付を受けた。
 控訴人は,平成14年3月1日,本件訴訟を提起した。
2 争点
 本件再審査申立てについて法27条10項が適用されるか。
(1) 控訴人の主張
 本件再審査申立てについては,以下の理由により,法27条10項の適用は
ないと解すべきであるから,本件決定は法律上の判断を誤った違法がある。
ア 法27条10項の趣旨は,判断の抵触の回避にあるところ,本件行政訴訟
において,争点とされ,判断の対象とされたのは,本件懲戒解雇の不当労
働行為該当性だけであり,本件初審命令が申立てを棄却した部分につい
ては判断の対象とすることはできなかった。他方,本件再審査申立てにお
いて争点となるのは,本件初審命令が控訴人の救済申立てを棄却した部
分の当否ないし行政救済としての裁量権の範囲であって,不当労働行為
該当性が否定される余地はなかった。
 したがって,被控訴人が本件再審査申立てを棄却しても,あるいはこれ
を容れて本件懲戒解雇の日の翌日から本件初審命令交付の日までの賃
金支払を認める救済方法に変更しようとも,本件行政訴訟の判断と被控
訴人の判断が矛盾抵触するおそれはなく,本件は,法27条10項の規定
の射程範囲外であった。
イ 本件初審命令により賃金支払の救済が否定された期間は,21か月と15
日間に及び,その間のCの未払賃金額は934万7287円の多額に上ると
ころ,本件懲戒解雇を無効とする以上,解雇の翌日以降に同人が受ける
べき賃金は全額支払われるべきであって,これを限定する労働委員会の
裁量などない。したがって,本件初審命令がCへの賃金支払を命令交付の
日から原職復帰の日までの間の分に限定したのは違法であるから,控訴
人にとっては,被控訴人に本件再審査申立てに対する判断を求める実益
が大いにある。
ウ 被控訴人は,平成10年7月3日に本件再審査申立てについて審問を終
結したにもかかわらず,本件行政訴訟の確定を待ち続け,これが確定した
後さらに約2年も放置した後,本件決定を行ったのであるから,著しい手続
の懈怠があるというべきである。
(2) 被控訴人の主張
ア 法27条10項の趣旨
 使用者が地方労働委員会の命令に対して訴訟を起こしたが,裁判所の
判決でその訴の全部または一部が容れられず,労働委員会の命令の全
部または一部がその判決で支持されたときは,使用者の当該命令違反に
対して刑罰が科せられる(法28条)。しかるに確定判決に使用者が違反を
犯し,刑罰に処せられた後になって,職権により,又は労働者の申立てに
基づいて被控訴人が地方労働委員会のその命令の再審査をし,その結
果,万一地方労働委員会の命令が取り消され又は変更される等の事があ
っては不都合であるため,法27条10項は,使用者の起こした訴訟の判決
が確定した後には,被控訴人は,同一事案について再審査をすることがで
きないと規定しているのである。
 したがって,法27条10項の規定によれば,千葉地労委の初審命令が確
定判決によって支持された本件においては,被控訴人は,本件初審命令
について審査することができないのである。
イ 再審査ができないとされる範囲について
 不当労働行為の救済命令の当否は,行政庁である労働委員会が公権
力の行使としてした行政処分の当否に他ならないから,使用者が自由に
処分し得る法律関係に関するものではなく,不当労働行為救済手続の趣
旨に照らすと,たとえ複数の救済方法が存在し,それらが個別に履行し得
るものであるとしても,不当労働行為が一個である以上,全体として一個
の行政処分であるとされている。
 本件においては,Cの本件懲戒解雇という一個の不当労働行為事実に
ついて,取消訴訟で地労委命令を争っているものであるから,救済命令取
消訴訟における確定判決によって本件初審命令が支持された以上,当該
不当労働行為事実に関しては,被控訴人は再審査をなし得ないものであ
る。
第3 当裁判所の判断
1  労働委員会の救済命令は,正常な労使関係秩序の回復,確保を目的とし
て,不当労働行為に該当する事実が存するときに,これに対する適切な救済方
法を決定するものであるから,ある不当労働行為についてある救済命令が発せ
られた場合,それが一個又は複数の救済方法又はそれらの一部であったとし
ても,その救済命令は,全体として上記正常な労使関係秩序の回復,確保を目
的とした一個の行政処分であるというべきである。したがって,初審命令が,労
働組合又は労働者の申し立てた一つの不当労働行為についての複数の救済
方法のうち一部を認め,その余の部分を棄却する判断をした場合,労働組合又
は労働者は被控訴人に再審査の申立てをし(法27条11項,5項),使用者は
裁判所に救済命令取消しの行政訴訟を提起する(法27条6項)ことができる
が,この再審査及び行政訴訟のいずれにおいても,当該不当労働行為の存否
及び救済命令の適否について審理され,初審命令の適法性,相当性について
判断されるものである(ただし,この場合,再審査においては,労働組合又は労
働者の不服申立ての限度において(労働委員会規則55条)初審命令を変更す
るか,申立てを棄却して初審命令の全部を支持する再審査命令を発することに
なり,行政訴訟においては,使用者の請求を認容して初審命令を取り消すか,
請求を棄却して初審命令の全部を支持するか,又は一部認容及び一部棄却の
判決をすることになる。)。
 2  ところで,【要旨】法27条10項は,「第6項の訴に基く確定判決によって地方
労働委員会の命令の全部又は一部が支持されたときは,中央労働委員会は,
その地方労働委員会の命令について,再審査することができない。」と規定して
いるところ,この規定の趣旨は,初審命令が使用者の提起した取消訴訟で審理
判断され,その全部又は一部が正当として支持されて確定した後に,当該初審
命令が再審査され,更には再審査の結果についての取消訴訟が提起されて,
確定判決によって支持された初審命令と矛盾抵触する事態が生ずると,法的
安定性を著しく損なう結果となることから,そのような事態に立ち至ることを防ぐ
ことにあるものと解される。初審命令の全部又は一部が確定判決によって支持
された場合,当該命令に違反する行為をした者には禁こ等の刑罰が科されるの
であるが(法28条),そのようなことになった後も初審命令の是非が論議される
ことは耐え難いことといわなければならないのである。
    そして,法27条10項が再審査について特に限定していないことや上記の同
項の趣旨に照らせば,同項にいう再審査には,中央労働委員会が自ら職権で
行う再審査のみならず,救済申立ての一部を棄却された労働組合又は労働者
が申し立てた再審査も含まれるものと解さざるを得ない。
    控訴人は,労働組合である控訴人のする再審査の申立ては,これが認められ
ても使用者側が提起した取消訴訟の確定判決と矛盾抵触することはなく,した
がって,本件については法27条10項の適用はないと主張するが,前記前提と
なる事実によれば,本件再審査の申立ては,Bによって懲戒解雇されたCらにつ
き,当該懲戒解雇が不当労働行為に当たることを前提に控訴人がした救済申
立てのうち一部を棄却した本件初審命令に対するものであり,本件行政訴訟
は,控訴人がした救済申立てのうち一部を認容した同じ本件初審命令に対する
ものであるから,いずれも一つの不当労働行為に対する一個の救済命令の当
否を労使のそれぞれが問題にする関係にあるということができるところ,仮に被
控訴人が本件再審査申立てを認めることになれば,行政訴訟の確定判決に支
持された初審命令を変更することになるばかりか,この変更後の命令に対する
取消訴訟においても不当労働行為の成否が争われることとなって,確定判決に
よって支持された本件初審命令と矛盾抵触する判断も招来されかねないことに
なるのである。一つの不当労働行為に対する救済命令に係る行政訴訟は,1回
で解決を図るというのが法の趣旨というべきである。したがって,控訴人の上記
主張は,採用することができない。
 3  かかる見地に立って本件をみると,前記前提となる事実によれば,本件初審
命令について使用者であるBが提起した本件行政訴訟は,Cに係る部分につい
てBの請求を棄却する判決が平成11年12月17日に確定したというのである
から,被控訴人は,もはや控訴人のした本件再審査申立てについて審査し得な
くなったものというべきである。
    そうすると,そのことを理由に控訴人の本件再審査申立てを却下した本件決
定は,正当というべきである。
 4  よって,当裁判所の上記判断と同旨の原判決は相当であり,本件控訴は理由
がないから,これを棄却することとして,主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 久保内卓亞 裁判官 大橋 弘 裁判官 長谷川 誠)

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