弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     原判決を破棄する。
     被告人Aを懲役三月に、同Bを罰金五〇、〇〇〇円に処する。
     被告人Bにおいて右罰金を完納することができないときは、金五〇〇円
を一日に換算した期間、同被告人を労役場に留置する。
     被告人Aに対しては、この裁判確定の日から三年間、右刑の執行を猶予
する。
     被告人Bに対し、選挙権及び被選挙権を有しない期間を三年に短縮す
る。
         理    由
 本件控訴の趣意は、原審検察官山本清二郎作成名義の控訴趣意書記載のとおりで
あり、これに対する答弁は弁護人秋田経蔵提出の上申書記載のとおりであるから、
これをここに引用し、これに対し次のとおり判断する。
 控訴趣意一、法令の適用の誤りの主張について、
 (一) 所論によると、原判決は被告人A、同Bの両名に対する昭和三七年九月
四日付起訴状記載の公訴事実、即ち、
 被告人A、同Bの両名は、昭和三七年七月一日施行の参議院議員通常選挙に際
し、全国区から立候補したCの選挙運動者であるが同人の立候補の決意を知り、同
人に当選を得しめる目的を以て、未だ同人の立候補の届出がないのに、
 第一、被告人両名は共謀の上、(一)昭和三六年一二月一九日頃東京都江東区a
町b丁目c番地大衆食堂D方において行われた理容組合d地区講師会の会合に赴
き、同所で選挙人である同会々長E外二二名に対し、右Cのための投票並に投票取
纒等の選挙運動を依頼し、その報酬として右Eに現金三、〇〇〇円を供与し、
(二)同三七年一月一五日頃、同都台東区ef丁目g番地料理店FことG方におい
て行われた理容組合hブロツクi支部役員会に赴き、同所で選挙人であるH外一九
名に対し、前回様の依頼をなし、その報酬として右Hに現金三、〇〇〇円を供与し
たものである。
 との公訴事実中、各事前運動の点については、いずれも改正前公職選挙法第二五
三条第一項によりその罪の時効が完成したものであるから、免訴すべきところ、右
各事前運動は各金員供与の罪と一個の行為にして数個の罪名に触れる関係にあるも
のとして起訴されたものであるから、主文において特に免訴の言渡しをしない旨判
示している。然しながら、刑法第五四条第一項前段の観念的競合の関係が成立する
場合にあつては、単純一罪と同様に一体として観察し、該当する罪名中最も重いも
のについての時効期間に従つて全体の公訴時効の成否を決すべきものであるから、
本件の場合、重い供与罪の刑に対する一年の公訴時効(昭和三七年五月一〇日改正
前公職選挙法第二五三条第三項)が適用され、軽い事前運動の点について先ず六月
の短期時効が完成すべき<要旨>ものではないと主張する。よつて所論に基き審究す
るに、観念的競合犯は刑法第五四条第一項前段により科刑上これを一罪とし
て扱い、その最も重い刑を以て処断することとしているから、時効についても各別
にこれを論ずることなく一体として観察し、その最も重い罪の刑につき定めた時効
期間によるべきものと解する。そこで本件についてこれをみると、原判決が前記昭
和三七年九月四日付起訴状記載の第一の(一)及び(二)の公訴事実につき各事前
運動と各金員供与の所為とが刑法第五四条第一項前段の観念的競合の関係にあるこ
とを認めながら、事前運動の点については前記改正前公職選挙法第二五三条第一項
により六月の時効が完成したものとして免訴すべきであるとしたこと所論のとおり
であり、右は前記の理由により刑法第五四条第一項前段及び刑事訴訟法第三三七条
第四号の解釈適用を誤つたものという外なく、而して右各犯行についてはいずれも
重い金員供与罪につき定めた一年の時効が適用される結果、各犯行から昭和三七年
九月四日の本件起訴の日まで未だ一年を経過していない本件については時効は完成
せず、従つて右法令違反は判決の結果に影響を及ぼすことが明らかであり原判決は
この点において破棄を免かれない。論旨は理由がある。
 (二) 所論は、被告人Aの原判示第三の(二)の事実は昭和三七年五月一〇日
法律第一一二号による公職選挙法改正後である同年五月二一日の事案であるから、
改正後の新法を適用すべきであるのに、原判決が右改正前の旧公職選挙法を適用し
たのは法令の適用を誤つた違法があると主張する。よつて按ずるに、原判決が被告
人Aの前記法律改正後の犯行である原判示第三の(二)の所為についても、同人の
右法律改正前の犯行と一括し、その適用法条として単に公職選挙法第二二一条第一
項第一号第二三九条第一号第一二九条を掲記していることは所論のとおりである。
然しながら、昭和三七年法律第一一二号公職選挙法の改正法律は、公職選挙法第二
二一条第一項、第二三九条について何等の改正をも加えていないのであるから、原
判決が右法律改正の前後に亘る各所為につきその適用法条として単に公職選挙法第
二二一条第一項第一号第二三九条第一号を掲記したのは正当であつて、(尤も、同
法第一二九条については改正が行われたが、右は公職の候補者の立候補の届出期間
等を定めた同法第八六条の改正に伴い、その引用項目を改めたに過ぎず、被告人等
の届出前運動の成否には何等関係がないから、原判決が改正前の同法第一二九条を
適用した誤りがあつたとしても判決に影響を及ぼすべき法令違反とは認められな
い)論旨は理由がない。
 更に、所論は原判決は被告人Aを処断するに当り、同被告人の各所為は刑法第四
五条前段の併合罪であるから、同法第四七条本文第一〇条により原判示第二の罪の
犯情を最も重いとして、右罪の刑に法定の加重をした刑期範囲内で処断した。然し
ながら、Aに対する原判示第一の(一)(二)、第二及び第三の(二)の各犯行
中、重い供与罪の供与金額はいずれも金三、〇〇〇円であつて、その間に甲乙がな
い。このような場合には公民権停止につき原判示第三の(二)の罪を以て最も重い
として、その刑に法定の加重をなすべきであるのに、それをしなかつた原判決には
刑法第一〇条の解釈を誤つた違法があると主張する。然しながら、刑法第四七条本
文第一〇条により刑の軽重を定めるに当つては、各その主刑を以てこれを比較すべ
きものであり、主刑に軽重のない場合は犯情により軽重を定めるものであるから、
新法が公民権停止の条件につき旧法より厳重な規定を設けたからといつて、右法律
改正後の犯情が重いと言うことはできないのであつて、犯情により刑の軽重を比較
する場合には、供与した金額の外、犯行の動機、時期、その他諸般の情状を綜合考
量してこれを決すべきものであり、原審が証拠に現われた諸般の情状を綜合考量し
た結果、判示第二の罪の犯情を最も重いと認めたのは相当であり、原判決には何等
所論の如き法律の解釈、適用を誤つた違法はない。論旨は独自の見解であつて採用
し難い。
 然しながら、原判決には前記(一)の法令の適用を誤つた違法があるので、その
余の論旨に対する判断を省略し、刑事訴訟法第三九七条第三八〇条第四〇〇条但書
に則り、原判決を破棄し、当裁判所において更に次のとおり判決する。
 (罪となるべき事実)
 原判示事実中第一の冒頭記載部分を「被告人両名は共謀の上、前記Cの立候補の
決意を知り、同人に当選を得しめる目的を以て未だ同人の立候補の届出がないの
に」と改める外原判示のとおりであるから、ここにこれを引用する。
 (証拠の標目)
 原判決の記載のとおりであるから、ここにこれを引用する。
 (法律の適用)
 法律に照らすと、被告人両名の判示第一及び第二の各所為中、金員供与の点は各
刑法第六〇条公職選挙法第二二一条第一項第一号に、事前運動の点は刑法第六〇条
公職選挙法第二三九条第一号第一二九条(前記法律改正前のもの)に、被告人Aの
判示第三の各所為中金員供与の点は公職選挙法第二二一条第一項第一号に、事前運
動の点は同法第二三九条第一号第一二九条((一)については前記法律改正前のも
の)に該当するところ、以上の各事前運動並に金員供与の所為は一個の行為で数個
の罪名に触れる場合であるから、刑法第五四条第一項前段第一〇条により、いずれ
も重い金員供与の罪の刑で処断することとし、各所定刑中被告人Aについてはいず
れも懲役刑を、同Bについてはいずれも罰金刑を選択し、以上は刑法第四五条前段
の併合罪であるから、被告人Aについては同法第四七条本文第一〇条により犯情最
も重い判示第二の罪の刑に併合罪の加重をし、被告人Bについては同法第四八条第
二項により各罪につき定めた罰金額の合算をし、右刑期または罰金合算額の範囲内
で被告人Aを懲役三月に、同Bを罰金五〇、〇〇〇円に処する。被告人Bにおいて
右罰金を完納できないときは、刑法第一八条により金五〇〇円を一日に換算した期
間、同被告人を労役場に留置することとし、被告人Aについては同法第二五条第一
項に則りこの裁判確定の日から三年間右刑の執行を猶予し、被告人Bについては昭
和三七年法律第一一二号による改正前の公職選挙法第二五二条第三項により、選挙
権並に被選挙権を有しない期間を三年に短縮する。
 よつて主文のとおり判決する。
 (裁判長判事 渡辺好人 判事 目黒太郎 判事 深谷真也)

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