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裁判例


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         主    文
     本件控訴は之を棄却する。
     控訴費用は控訴人の負担とする。
         事    実
 一、 控訴代理人は「原判決を取消す。名古屋簡易裁判所昭和三三年(へ)第二
〇号公示催告事件について昭和三十四年一月九日同裁判所のなした原判決請求の趣
旨欄記載の約束手形の無効を宣言する旨の除権判決は之を取消す。訴訟費用は第
一、二審共被控訴人の負担とする。」 との判決を求め、被控訴代理人は主文同旨
の判決を求めた。
 二、 当事者双方の事実上の陳述証拠の提出援用書証の認否は左記の外原判決事
実摘示の通りであるからここに之を引用する。
 (1) 控訴代理人は
 (イ) 原判決四枚目裏七行目五に記載の除権判決の証拠となつたものには偽造
のものが存するとの主張は撤回する。
 (ロ) 被控訴人は控訴人から提起された本件手形金請求訴訟(大阪地方裁判所
昭和三三年(ワ)第三九一四号)の訴状を昭和三十三年九月五日送達せられ本件手
形は控訴人が所持している事実を知つたのだから被控訴人はさきになした公示催告
の申立は遅滞なく之を取下ぐるが相当である。従つて、その後昭和三十四年一月九
日被控訴人が除権判決の申立をなした行為も不当であつて之等は畢竟権利の濫用で
あると述べ、
 (2) 被控訴代理人は
 (イ) 右控訴人主張事実中大阪地方裁判所に被控訴人から提起された控訴人主
張の如き本件手形金請求訴訟が係属していることは之を認めるがその余の主張は之
を争う。
 (ロ) 被控訴人は欺罔手段を併用した窃盗により本件手形を奪取されたもので
ある。従つて、被控訴人は除権判決を求める権利がある。
 (ハ) 被控訴人は前記大阪地方裁判所の手形金請求訴訟において被控訴人は除
権判決を受けるため公示催告中である旨の記載ある昭和三十三年十一月二十二日附
準備書面を同月二十九日同訴訟の共同被告たる豊田通商株式会社との関係において
陳述し控訴人もその頃本件手形について公示催告中であることを知了している。然
るに、控訴人は相当の手続をなさなかつたため除権判決がなされたのであるから控
訴人は此の点からいうも不服申立権がない。
 (ニ) 控訴人は本件手形が控訴人の手許にあることが判明したのであるから公
示催告の申立は取下ぐべきであつたと主張するが若し控訴人が何人にも対抗し得べ
き正当の権限に基いて手形を所持しているのであれば公示催告中の事実を知られて
いるのであるから之に対し適当な処分を講すべきであつて被控訴人としては手形な
くして手形金の支払を受けるため除権判決を受くべき必要があつたのであるから公
示催告事件取下の義務はない。のみならず、控訴人は本件手形窃取犯人の共犯者金
判載の実弟であり本件手形を有償取得したものではない。従つて、被控訴人が除権
判決を受けること自体は権利濫用とならないと述べ、
 (3) 控訴代理人は右被控訴人主張事実中控訴人が被控訴人主張の右(ハ)記
載の準備書面を受取つたことは之を認めるがその余の事実は之を争うと述べた。
 (4) 立証として、控訴代理人は甲第九号証を提出し乙第四号証の成立は之を
認む同第五号証は原本の存在並成立を認むと述べ、被控訴代理人は乙第四、五号証
を提出し甲第九号証の成立を認めた。
         理    由
 被控訴人が昭和三十三年五月九日名古屋簡易裁判所に対し本件手形を窃取せられ
たとして、公示催告の申立をなし右事件が同庁昭和三十三年(へ)第二〇号事件と
して係属したことは成立に争のない甲第二、四号証によつて之を認めることが出来
名古屋簡易裁判所が昭和三十四年一月九日右事件につき除権判決をなしたことは当
事者間に争がなく右除権判決において無効と宣言せられた手形が本件手形であるこ
とは右甲第二号証によつて之を認めることが出来る。(被控訴人は右手形の振出年
月日は虚偽記入されたものであると主張するが此の点に関する判断はしばらく措
く。)
 控訴人は約束手形につき公示催告手続を申立てる権利を有するものは手形の最終
所持人であるが控訴人は本件手形を取得すると之を浅倉静男に譲渡したものである
から控訴人は本件公示催告申立をなした当時は手形の所持人でなかつたし又手形の
占有を窃取紛失の事由によつて失つたものでもないから右除権判決を取消さるべき
ものであると主張する。然しながら民事訴訟法第七百七十四条第二項第一号に所謂
「法律ニ於テ公示催告手続ヲ許ス場合ニ非サルトキ」とは原判決も指摘する如く現
にとられた公示催告手続について抽象的一般的に之を認める法律上の根拠を欠く場
合をいい控訴人が主張する右の如き具体的個別的の公示催告手続内でなされた事実
認定が不当である場合を包含しない。本件の場合手形については一般的に公示催告
手続が認められていること明であるから控訴人の主張はその理由がない。
 控訴人は右民事訴訟法第七百七十四条第二項第一号の如く解釈するときは証券証
書の所持人に非ざるもの又は窃取せられ紛失した事実なきに拘らず之ありとして虚
偽の申立をなしたものの申立により除権判決がなされた場合に証券証書の権利者に
対する権利救済の道を封じ権利者をして権利を失わしめる結果となると主張す<要
旨>る。然しながら、除権判決による証券の無効宣言は単に証券の占有に代らしむる
効力を有し且之に止まるものであつてそれ以上の効力を有するものではな
い。換言すれば、除権判決による無効宣言によつて申立人は証券によつて義務を負
担する者に対し証券を占有せずして権利を行使し得ることとなるに過ぎないのであ
つて固より実体上の権利者の権利を否定するものではない。従つて、本件の場合控
訴人が若し実体上の権利を有するとすれば手形金請求訴訟において之を主張すれば
足りるのであつて除権判決に対し不服の訴をなすべき必要も利益もないこと被控訴
人主張の通りであるから控訴人の右主張はその理由がない。
 控訴人は更に控訴人が被控訴人等を被告として本件手形金請求訴訟を提起し右訴
状が被控訴人に送達せられたから被控訴人は本件手形が控訴人の手中に存すること
を知つたものである。従つて、被控訴人は此の時以後公示催告の申立を取下ぐべき
で又除権判決の申立をなすべきものではない。而も、被控訴人は公示催告の申立権
を有するのでないのに之あるものの如く申立て裁判所をして除権判決をなさしめた
のは犯罪行為であり控訴人の行為は権利の濫用であると主張する。而して、控訴人
が被控訴人等を相手として大阪地方裁判所に本件手形金請求訴訟を提起し右事件が
同庁昭和三三年(ワ)第三九一四号として係属したこと、並右事件において被控訴
人が本件手形につき公示催告の申立をなした旨の記載のある昭和三十三年十一月二
十二日附準備書面を提出し控訴人は之を受取つたことは当事者間に争がなく成立に
争のない乙第四号証によれば右準備書面が昭和三十三年十一月二十九日附口頭弁論
期日において陳述されていることが認められるからおそくとも同日以前には右書面
が控訴人に送達されていたことが推認せられる。従つて、控訴人はその頃既に本件
公示催告事件が係属していたことを知つていたものと認めねばならないから控訴人
としては若し控訴人が正当な手形権利者であるとすれば直ちに右事件につき適当な
処置をなすべきものであること被控訴人主張の通りであるといわねばならないから
右手形金請求訴訟の提起によつて被控訴人は手形が控訴人の手中に存することを知
つたからと言つて本件公示催告事件を取下げ除権判決の申立をなすべきでないとは
当然には言い得ないのであつて除権判決に対する不服申立の理由が限定されている
事実並除権判決の前記の如き効力を考慮するときは除権判決のありたる後右事情を
以つて権利濫用として除権判決取消の理由となすことが出来ないものといわねばな
らない。尚原本の存在並成立の争のない乙第五号証成立に争のない甲六号証によれ
ば控訴人は一応本件公示催告を申立つべき権利を有するものと認められ控訴人主張
の如くその権利なくして公示催告の申立をなし裁判所を欺罔して除権判決を得たも
のと認めることが出来ない。甲第八、九号証を以ても右認定を左右するに足らず他
に右認定を左右するに足る証拠がない。畢竟控訴人は自己のなすべき行為をつくさ
ずして被控訴人の行為を非難するものということが出来るから被控訴人の行為を以
て権利濫用となすことが出来ない。されば被控訴人の本訴請求は失当として棄却す
べきものである。
 以上の理由により右と同趣旨に帰着する原判決は正当であるから本件控訴を棄却
し民事訴訟法第三百八十四条、第八十九条、第九十五条を適用し主文の如く判決す
る。
 (裁判長裁判官 県宏 裁判官 越川純吉 裁判官 奥村義雄)

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