弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件上告を棄却する。
     上告費用は上告人らの負担とする。
         理    由
 上告代理人手代木隆吉、同岡田介一の上告理由第一について。
 被上告人の本訴請求は、登記を不適法としてその抹消登記手続を請求するもので
あつて、印鑑の盗用の事実も、偽造印鑑の使用の事実も、登記申請に関する意思の
欠缺を理由として本件登記を不適法であるとする被上告人の主張には相違を来たさ
せるものではないから、いずれも請求を理由あらしめる攻撃防禦方法にすぎないも
のというべく、従つて、被上告人が所論のように主張事実を変更したことは本訴請
求の基礎または原因に変更を生じたものとは認められないとした原審判断は正当で
ある。所論は採るを得ない。
 同第二第一点について。
 Dが被上告人の印鑑を偽造した旨の原審認定は挙示の証拠に照らして首肯し得な
いではなく、原判決に所論の違法は認められない。所論は、ひつきよう原審の裁量
に委ねられた証拠の取捨、判断、事実の認定を非難するに帰し、採るを得ない。
 同第二第二点(一)について。
 所論の点についての原審認定は、挙示の証拠により首肯し得られ、原判決に所論
の違法はない。所論は、原審の裁量に委ねられた証拠の取捨、判断、事実の認定を
非難するものにすぎず、採るを得ない。
 同第二第二点(二)、第三点前段について。
 所論は、上告人らの表見代理の抗弁を排斥した原判決には、理由不備または理由
そごの違法があると主張する。
 しかし、取引の安全を目的とする表見代理制度の本旨に照らせば、民法一一〇条
の権限踰越による表見代理が成立するために必要とされる基本代理権は、私法上の
行為についての代理権であることを要し、公法上の行為についての代理権はこれに
当らないと解するのが相当である。(尤も、私法上の法律関係に関連して公法上の
行為につき代理権を与えられた者は、何らかの私法上の行為についてもまた代理権
を与えられている場合が多いであろうし、その場合は、その私法上の行為について
の代理権が前記の基本代理権となり得ることは勿論である。)本件の場合、上告人
らは、Dの判示抵当権設定契約につき、被上告人に効力の及ぶ民法一一〇条の表見
代理の成立を主張するのであるが、原審の認定判示するところによると、Dが被上
告人より依頼されて被上告人のために処理した行為は印鑑証明書下付申請行為とい
う公法上の行為であつて、Dが一定の私法上の行為につき被上告人の代理人であり
代理権を有していたことの具体的な主張がなく、その立証もない、というのである
から、右原審の確定した事実関係のもとでは、本件抵当権設定契約につき表見代理
の問題を生ずる余地がないとした原審判断は正当である。原判決に所論の違法はな
く、引用の判例は事案を異にして本件に適切でない。それ故、所論はすべて採るを
得ない。
 同第二第二点(三)について。
 所論追認の点は、上告人らにおいて原審で主張しなかつたところであるから、原
判決が判断を加えなかつたのは当然であつて、原判決に所論の違法は認められない。
 同第二第三点後段、第四点について。
 所論は、Dが被上告人の代理人と称して上告人Aとの間に締結した判示根抵当権
設定契約が、被上告人に対し効力を発生しているとの事実を前提として原判決の違
法をいうものであるが、かかる事実は原審の認定に副わない事実であり、所論は、
ひつきよう前提を欠く主張たるに帰し、採るを得ない。
 よつて、民訴四〇一条、九五条、八九条、九三条に従い、裁判官全員の一致で、
主文のとおり判決する。
     最高裁判所第一小法廷
         裁判長裁判官    入   江   俊   郎
            裁判官    斎   藤   朔   郎
            裁判官    長   部   謹   吾

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