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平成28年8月30日判決言渡同日原本領収裁判所書記官
平成26年(ワ)第25928号損害賠償請求事件
口頭弁論終結日平成28年6月9日
判決
原告パイオニア株式会社
同訴訟代理人弁護士佐長功
同江幡奈歩
同辛川力太
同訴訟代理人弁理士加藤志麻子
被告株式会社いいよねっと
同訴訟代理人弁護士小林幸夫
同訴訟復代理人弁護士弓削田博
同河部康弘
同訴訟代理人弁理士矢口太郎
同補佐人弁理士高橋隼人
被告補助参加人ガーミンリミテッド
同訴訟代理人弁護士小林幸夫
同坂田洋一
同訴訟代理人弁理士矢口太郎
主文
1原告の請求を棄却する。
2訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第1請求
被告は,原告に対し,2億9505万9600円及びこれに対する平成26
年10月10日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2事案の概要
本件は,発明の名称を「ナビゲーション装置及び方法」とする特許権を有す
る原告が,ナビゲーション装置を輸入・販売する被告に対し,これらの行為が
上記特許権を侵害する旨主張して,不法行為による損害賠償請求権に基づき,
損害賠償金2億9505万9600円及びこれに対する訴状送達日の翌日であ
る平成26年10月10日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅
延損害金の支払を求める事案である。
1前提事実(当事者間に争いのない事実及び弁論の全趣旨により認められる事
実)
(1)当事者
ア原告は,電子・電気機械器具の製造,販売等を業とする株式会社である。
イ被告は,スポーツ用品の販売,電子機器及び電子機器用部品の販売等を
業とする株式会社であり,被告補助参加人(以下「補助参加人」という。)
の日本国内総販売代理店である。
ウ補助参加人は,スイス連邦内に登記上の本社を有する会社である。
(2)原告の特許権
原告は,次の特許権(以下「本件特許権」といい,この特許を「本件特許」
という。)の特許権者である。
なお,補助参加人は,平成27年2月25日付けで本件特許について無効
審判を請求したところ,原告は,同年11月27日付けで訂正請求をし(以
下,同訂正請求を「本件訂正」という。),平成28年3月24日,同訂正
を認め,同審判請求は成り立たない旨の審決がされた。これに対して,補助
参加人は,審決取消訴訟を提起し,係属中である。
ア発明の名称「ナビゲーション装置及び方法」
イ出願日平成6年4月28日
ウ登録日平成15年6月20日
エ特許番号特許第3442138号
(3)特許請求の範囲の記載
本件特許に係る特許請求の範囲の請求項1の記載は,次のとおり(ただし,
下線部分(本件訂正により訂正請求された部分)を除く。)であり(以下,
この発明を「本件発明」という。),本件訂正後の同請求項の記載は,次の
とおり(下線部分を含む。)である(以下,この発明を「本件訂正発明」と
いう。)。
「移動体の現在位置を測定する現在位置測定手段と,前記現在位置から経由
地を含む前記移動体が到達すべき目的地までの経路設定を指示する設定指令
が入力される入力手段と,前記設定指令が入力され,経路の探索を開始する
時点の前記移動体の現在位置を探索開始地点として記憶する記憶手段と,前
記記憶した探索開始地点を基に前記経路の探索を行い,当該経路を経路デー
タとして設定する経路データ設定手段と,前記移動体の現在位置と前記設定
された経路データとに基づいて前記移動体を目的地まで経路誘導するための
誘導情報を出力する誘導情報出力手段と,前記移動体の移動に基づいて前記
誘導情報出力手段を制御する制御手段と,を備え,前記制御手段は,前記記
憶した探索開始地点と,当該経路データが設定され,前記移動体の経路誘導
が開始される時点の当該移動体の現在位置を示す誘導開始地点とが異なり,
誘導開始地点が,設定された経路上の,経由予定地点を超えた地点となる場
合に,前記誘導開始地点からの前記移動体の誘導開始に基づいて前記誘導情
報出力手段を制御することを特徴とするナビゲーション装置。」
(4)本件発明及び本件訂正発明の構成要件
ア本件発明を構成要件に分説すると,以下のとおりである(以下,分説し
た構成要件をそれぞれの符号に従い「構成要件A」などという。)。
A移動体の現在位置を測定する現在位置測定手段と,
B前記現在位置から経由地を含む前記移動体が到達すべき目的地までの
経路設定を指示する設定指令が入力される入力手段と,
C前記設定指令が入力され,経路の探索を開始する時点の前記移動体の
現在位置を探索開始地点として記憶する記憶手段と,
D前記記憶した探索開始地点を基に前記経路の探索を行い,当該経路を
経路データとして設定する経路データ設定手段と,
E前記移動体の現在位置と前記設定された経路データとに基づいて前記
移動体を目的地まで経路誘導するための誘導情報を出力する誘導情報出
力手段と,
F前記移動体の移動に基づいて前記誘導情報出力手段を制御する制御手
段と,を備え,
G前記制御手段は,前記記憶した探索開始地点と,当該経路データが設
定され,前記移動体の経路誘導が開始される時点の当該移動体の現在位
置を示す誘導開始地点と,が異なる場合に,前記誘導開始地点からの前
記移動体の誘導開始に基づいて前記誘導情報出力手段を制御する
Hことを特徴とするナビゲーション装置。
イ本件訂正発明を構成要件に分説すると,構成要件AないしF,Hは上記
アと同じであり,構成要件Gˊは次のとおりである。
Gˊ前記制御手段は,前記記憶した探索開始地点と,当該経路データが
設定され,前記移動体の経路誘導が開始される時点の当該移動体の現在
位置を示す誘導開始地点とが異なり,誘導開始地点が,設定された経路
上の,経由予定地点を超えた地点となる場合に,前記誘導開始地点から
の前記移動体の誘導開始に基づいて前記誘導情報出力手段を制御する
(5)被告及び補助参加人(以下「被告ら」と総称する。)の行為
補助参加人は,別紙被告装置目録に記載された各装置(以下「被告装置」
と総称する。)を日本国内に向けて輸出し,補助参加人の日本国内総販売代
理店である被告に対して販売した。
被告は,業として,被告装置を補助参加人から輸入し,日本国内において
販売した。
なお,被告装置の動作の態様は,別紙被告装置動作目録記載のとおりであ
る。
2争点
(1)被告装置は本件発明の構成要件Gを充足するか(なお,被告装置が本件
発明の構成要件AないしF,Hを充足することは当事者間に争いがない。)
(2)被告装置は本件発明と均等であるか
(3)本件特許には無効理由があるか(抗弁)
(4)本件訂正により本件特許の無効理由が解消したか(再抗弁)
(5)原告の損害額
3争点に関する当事者の主張
(1)争点(1)(被告装置は本件発明の構成要件Gを充足するか)について
ア原告の主張
(ア)本件特許に係る明細書(以下「本件明細書」という。)の記載(段
落【0018】等)からすれば,本件発明の構成要件Gは,移動体の現
在位置と,探索開始地点を基にした経路探索により設定された経路デー
タに基づいて移動体を誘導する本件発明の経路誘導(構成要件E)にお
いて,「移動体の移動の結果,誘導開始地点(探索終了地点)が,設定
された経路上の,経由予定地点を超えた地点となる場合において,当該
移動体の誘導開始地点を基準とした経由予定地点についての経路誘導を
行う」ことを意味することが明らかである。そして,構成要件Gの「制
御」においては,「移動体の移動の結果,誘導開始地点(探索終了地点)
が,設定された経路上の,経由予定地点を超えた地点」であるか否かを
判断していればよく,経由予定地点を実際に通過したという事象の有無
の判断は必要としない。
一方,被告装置においては,直近の転換点の先の転換点の誘導情報に
ついても一覧として表示した上で,直近の転換点については着色し,又
は最上部に表示するようになっている。このような表示がされる以上は,
被告装置においては,かかる一覧表示に対応するデータベースが作成さ
れ,データとして蓄積された上で,これを誘導情報の出力にそのまま利
用していると理解できる。そして,かかる一覧表示において,直近の転
換点についての着色ないし最上部への表示という,自車位置と結びつけ
た誘導情報の表示が実現されることからすれば,被告装置の制御におい
ては,かかるデータベース上の情報を参照し誘導情報を出力していると
理解できる。以上からすれば,被告装置の制御において,移動体が設定
された経路上の経由予定地点を超えた位置にあるかどうかについて判断
していることが推認され,これが構成要件Gを充足することは明らかで
ある。
(イ)本件特許出願時においては,主要カーナビメーカーが,実際にノー
ドとリンクを用いた地図データを利用したナビゲーション装置を実用化
していたことに加え,ナビゲーション装置において,ノードやリンクを
利用した具体的な経路探索や経路誘導に関する種々の技術が知られてい
た。
このような,ナビゲーション装置に関する一般的な技術常識に照らせ
ば,被告装置は,誘導開始時において,自車位置のリンクと経路リンク
上の先頭のリンクとの対比によって探索開始地点と誘導開始地点との比
較を行うものであり,正に構成要件Gに対応する制御がされている。
つまり,被告装置における制御は,①探索開始地点を,当該地点を含
むリンクに置き換える,②誘導開始地点を,当該地点を含むリンクに置
き換える,③それぞれの地点を含むリンクを比較する,という具体的な
手段を介して,探索開始地点と誘導開始地点が異なることを認識してい
る。
(ウ)被告らは,構成要件Gは不明確であるから,本件特許が無効でない
ならば,本件明細書に記載された本件発明の実施例の構成(「走行軌跡
データを用いて,出発地点P0から順次図5に実線で示すように走行し
たものとして目標経由地点の更新を行う」構成)に限定解釈すべき旨主
張する。
しかし,上記(ア)のとおり,本件発明の構成要件Gは,後記(3)ア
(エ)aの「場合1」の状態において,正しい誘導情報を出力するように
したものであることが明らかである。
また,移動体が,誘導開始時において,設定された経路上に存在しな
い場合(後記(3)ア(エ)aの「場合2」)にどのような動作をするかと
いった点は,構成要件Gの充足性とは関係がない。
したがって,本件特許は,上記のとおりの構成要件Gの解釈に基づい
て無効理由がなく,同構成要件をそれ以上限定解釈すべき理由はない。
イ被告らの主張
(ア)被告装置は,次の転換点を案内するに当たって,どこで経路探索が
終了したとか,どの転換点を通過したとか,どのルートを通って現在地
に至ったかという情報を全く参照することなく,単に,①「ルート探索
開始地点」を始点とし,「目的地」を終点とする設定されたルート情報
と,②車両の現在位置及び車両の進行方向に関する情報を参照し,車両
の現在位置が設定されたルートを外れている場合は,「目的地」を終点
とする新たなルート探索を行い,車両の現在位置が設定されたルート上
にある場合には,設定されたルート情報と車両の進行方向を参照し,設
定されたルート上の進行方向の先にある直近の経由点に所定距離近づい
た場合に直近の経由点に関する誘導情報を出力する制御を行うものであ
る。
以上のとおり,被告装置は,単に車両の現在位置と車両の進行方向に
基づいて,車両の現在位置が設定されたルート上にある場合には,車両
の進行方向に基づいて設定されたルート上の次の転換点を案内する制御
を行っているにすぎないから,明らかに構成要件Gを充足しない。
なお,経路データ上の現在位置は,座標だけでなく,経路データのど
のノード(経由地点)間に移動体が存在するのかを含む意味であり,特
定のノード間に移動体が存在する場合には,経路を逸脱していない旨判
断し,経路データ上の進行方向にある直近の経由地点へと誘導するもの
である。このような制御方法は,本件特許出願前から公知であり,経由
地点のデータベースを用いて経由地点の一覧表示等を行っていることを
もって,被告装置が構成要件Gを充足するものではない。
また,原告は,構成要件Gの「異なる場合」について,誘導開始地点
が,設定された経路上の,経由予定地点を超えた地点となる場合を意味
するにすぎない旨主張する。しかし,原告が,平成15年1月21日発
送の最後の拒絶理由通知(乙8)において指摘を受けたのに対し,同年
2月5日付け提出の手続補正書(乙10)において,構成要件Cの限定
及び構成要件Gの文言追加により,構成要件Gの「異なる場合」の処理
が,構成要件Cで記憶した探索開始地点を実際に誘導開始地点と比較す
るものであることを明確にし,これによって本件特許は特許査定を受け
た。以上の出願経過からすれば,原告の「異なる場合」についての上記
解釈は,包袋禁反言の原則により許されない。
(イ)被告装置における,「マップマッチングで特定されたリンク」と
「経路リンク」との比較は,本件発明のような「異なる場合」を判定す
るための比較ではなく,一致するかどうか(経路リンクを構成する一連
のリンクにリンク番号が一致するリンクが含まれているか)を判定する
ための比較であり,一致していれば経路上にあるとし,異なっていれば
経路を逸脱していると判断するものである。そして,この処理は,ナビ
ゲーション装置であればどの装置でも共通する処理であり,本件特許出
願日以前から公知であった技術である。
被告装置では,現在位置たる地点を特定するのにリンクを用いている
のであり,すなわち現在地に近いリンクと経路を構成する各リンクを比
較して一致するリンクを特定することに加え,一致したリンクと現在地
を比較することで経路上の現在地を特定するという処理を行っている。
したがって,リンクの利用はあくまで現在地に最も近い経路リンクを探
し出すための中間的なもので,現在地という地点をリンクに完全に置き
換えているわけではない。
仮に,原告が主張するような,地点とリンクの置換えが可能であった
としても,探索開始地点や誘導開始地点は,それぞれ各リンク上の単な
る一地点にすぎず,リンクを代表する点ではないから,各点に基づいて
リンクを特定できたとしても,リンクから探索開始地点や誘導開始地点
を導き出すことはできない。現に,リンクとリンクを比較する作業では,
誘導開始地点と探索開始地点を比較した場合とは異なる結論に達する場
合があり,リンクとリンクの比較を,探索開始地点と誘導開始地点の比
較に含めることは論理的にも不可能である。
(ウ)構成要件Gの「探索開始地点と…誘導開始地点と,が異なる場合に,
前記誘導開始地点からの前記移動体の誘導開始に基づいて」なる文言は
不明確であり,とりわけ「異なる場合」には複数の場合があること(後
記(3)ア(エ)a参照)や,「誘導開始地点からの前記移動体の誘導開始
に基づいて」の意義が不明確であるところ,仮に本件特許が有効である
とした場合には,これらの文言は,従来技術との関係から限定解釈され
るべきである。具体的には,本件明細書上の実施例(段落【0036】)
からすれば,構成要件Gの制御は,「走行軌跡データを用いて,出発地
点P0から順次図5に実線で示すように走行したものとして目標経由地
点の更新を行う」ような制御を意味すると解すべきである。
そして,被告らが行った走行実験(乙3)によれば,被告装置は,少
なくとも「ルート上の転換点の通過」を判断するような制御や,「走行
軌跡データを用いて,出発地点P0から順次図5に実線で示すように走
行したものとして目標経由地点の更新を行う」ような制御を行っていな
いことは明らかである。
(2)争点(2)(被告装置は本件発明と均等であるか)について
ア原告の主張
仮に,被告装置における態様が,経路誘導に当たって,誘導開始地点が
含まれるリンクと,探索開始地点が含まれるリンクとの対比を行って誘導
情報を出力するという構成を有するものと評価できるとしても,以下のと
おり,当該構成は,構成要件Gの構成の均等物であるから,被告装置は本
件発明と均等なものとして,本件発明の技術的範囲に属する。
(ア)第1要件
本件発明の解決課題は,経路の探索中に,経路に含まれる経由予定地
点を超えてしまった場合でも,正しく経路誘導を行うことにある。
そして,本件発明の構成要件Gにおける解決手段と従来技術を対比す
ると,本件発明の従来技術にみられない特有の技術的思想を構成する特
徴的部分,すなわち本質的部分は「移動体の現在位置を示す誘導開始地
点が,設定された経路上の経由予定地点を超えた地点となった場合であ
っても,探索開始地点に関する情報との比較に基づいて誘導開始地点を
正しく認識し,これに応じた誘導を行うこと」となる。他方で,制御が
地点同士の直接の比較により行われること自体が,本件発明を特徴付け
るほどの重要部分であるとはいえない。したがって,被告装置の構成が
本件発明と異なる部分は,本件発明の本質的部分ではない。
なお,従来技術において,経由予定地点を超えた地点となったことを
判断する必要性すら認識されていなかった以上,誘導開始地点が経由予
定地点を超えた地点となったことを具体的にどのように認識するかとい
う,下位概念的な具体的手段までを本質的部分と理解するのは誤りであ
る。
(イ)第2要件
本件特許出願前の公知技術と対比して従来技術では解決できなかった
課題であって,当該特許発明により解決されたものとは,「設定された
経路上の経由予定地点を超えた地点となった場合であっても,これに応
じた誘導を行うこと」である。
そして,誘導開始地点が設定された経路上の経由予定地点を超えた地
点となった場合においては,誘導開始地点が含まれるリンクと探索開始
地点が含まれるリンクとを対比する方法は,地点同士を直接対比する方
法と同様に,これにより移動体の現在位置を示す誘導開始地点を正しく
認識し,これに応じた誘導を行うことができる。
したがって,誘導開始地点と探索開始地点との対比を,誘導開始地点
が含まれるリンクと,探索開始地点が含まれるリンクとの対比に置換し
ても,本件発明と同一の作用効果を奏することができる。
なお,経由地点を超えていないリンクにおいて,地点の判別ができな
いことは,本件発明の目的及び作用効果に何ら関係しない。
(ウ)第3要件
本件特許出願時において,ナビゲーション装置における経路探索及び
経路誘導の制御においては,地点に対応するリンクに置き換えるのが通
常であったから,誘導開始地点と探索開始地点との対比を,誘導開始地
点が含まれるリンクと,探索開始地点が含まれるリンクとの対比に置換
することは,当業者には容易であった。
なお,経路探索及び経路誘導という,ナビゲーション装置の基礎とな
る制御において,地点を対応するリンクに置き換えることが本件特許出
願時において技術常識であったにもかかわらず,地点の比較をする場合
においてのみリンクを利用しない,ないし利用が困難であるとするのは
不合理である。
(エ)第4要件
経路の探索中に経路に含まれる経由予定地点を超えてしまった場合で
あっても正しく経路誘導を行う本件発明に新規性及び進歩性が認められ
る以上,当業者が容易に推考できたものではない。被告は,第4要件に
ついて立証責任を負うところ,被告装置が出願時の公知技術と同一であ
るか,又は当業者が公知技術から容易に推考できたことについて何ら主
張立証できていない。
(オ)第5要件
原告は,拒絶理由通知(乙8)の指摘の限りにおいて必要な補正を行
ったのみであり,本件特許の出願経過を参酌しても,原告が,構成要件
Gにつき,「地点」と「地点」同士を「直接」比較するもの以外の態様
について意識的に除外したなどという解釈は成り立たない。
イ被告らの主張
(ア)第1要件
経路誘導開始前に車両が動いたか否かを,具体的に探索開始地点と誘
導開始地点とを比較して,「探索開始地点と誘導開始地点とが異なる場
合」に当たるか否かで判定するのが,構成要件G,すなわち本件発明の
要旨である。したがって,具体的な「探索開始地点」と「誘導開始地点」
とを比較し,これらが「異なる場合」を判定することこそが,本件発明
を特徴付ける本質的な構成要件であるところ,被告装置はそのような構
成を有しない。
原告は,平成15年2月5日付け提出の手続補正書(乙10)により,
構成要件Cを新たに限定するとともに,構成要件Gに「前記記憶した探
索開始地点と」との文言を追加することで,構成要件Gの「異なる場合」
のコンピュータ処理が,構成要件Cで記憶した探索開始地点を実際に誘
導開始地点と比較するものであることを明確にし,これにより,本件特
許の特許査定を受けたものである。このような出願経過によれば,原告
の「異なる場合」の解釈は,包袋禁反言の原則により許されない。
(イ)第2要件
「点と点の比較」と「リンクとリンクの比較」は同意義ではなく,誘
導開始地点と探索開始地点が異なるものの,誘導開始地点が含まれるリ
ンクと探索開始地点が含まれるリンクが一致する場合が存在するため,
「点と点の対比」を「リンクとリンクの対比」に置換することにより本
件発明と同一の作用効果を奏することができるとはいえない。
また,被告装置で行っているリンクとリンクとの比較は,本件発明の
ような既知の地点同士を比較する場合に行われる処理ではなく,既知の
現在位置が,経路リンクのどのリンク(処理前には未知)上に載ってい
るかを特定するための処理であるところ,比較する点の両方が既知であ
る場合には,わざわざリンクに置き換えて比較する必要はなく,単純に
両地点同士を直接比較すればよいだけである。
また,被告装置におけるリンクとリンクの比較は,それだけで終わる
処理ではなく,経路リンク中に一致するリンクを特定できたならば,改
めて,現在位置の座標と特定されたリンクとの比較を行って現在位置が
当該リンクのどの位置にあるかを演算する必要がある処理である。
したがって,構成要件G中の「点と点の対比」を「リンクとリンクの
対比」に置換することに意味はなく,そのような置換をする可能性はな
い。
(ウ)第3要件
本件発明のように,比較する地点の両方が既知である場合には,わざ
わざリンクに置き換えて比較する必要はなく,逆に,そのような処理は
リンクに置き換える処理が介在する分だけ処理に時間がかかるため,当
業者がそのような置換を行うことはあり得ない。したがって,「誘導開
始地点と探索開始地点との対比を,誘導開始地点が含まれるリンクと,
探索開始地点が含まれるリンクとの対比に置換すること」には阻害要因
がある。
(エ)第4要件
被告装置の,リンクとリンクとの対比により経路上で現在位置を特定
する処理方法は,乙17(特開平5-93631号公報)や乙18(特
開平5-53504号公報)にあるように公知である。また,乙1(特
開昭61-216099号公報,以下「乙1文献」という。)にはカー
ナビゲーション装置が開示されているところ,同文献には,仮に第2,
第3の経由地まで到達してしまったとしても,再度経路の設定を行うこ
となく,最も近い次の経由地を誘導する技術思想が開示されている。そ
うすると,乙1文献に記載された発明(以下「乙1発明」という。)に
おいて,現在位置のリンクと経由地のリンクとを比較して,最も近い次
の経由地を探す構成にして被告装置を容易に想到し得る。
したがって,被告装置は,少なくとも本件特許出願時における公知技
術から当業者が容易に推考できたものである。
(オ)第5要件
前記(ア)記載の出願経緯によれば,原告が,構成要件Gの「異なる場
合」の技術意義として,コンピュータ処理が構成要件Cで記憶した探索
開始地点を実際に誘導開始地点と比較する以外の処理を意識的に除外し
たことが明らかである。
実際に,原告が,平成15年2月5日付けで提出した意見書(乙9)
においても,「…制御手段における記憶された探索開始地点と誘導開始
地点を比較する点を明確に致しました。」と記載されている。以上から
すれば,構成要件Gは,「地点」と「地点」同士を「直接」比較するも
のに限定され,原告が主張するリンクとリンクとの比較のような他の手
段による「異なる場合」の判定は意識的に除外されたものである。
(3)争点(3)(本件特許には無効理由があるか)について
ア被告らの主張
(ア)乙1文献に基づく新規性要件違反(無効理由1)
本件発明は,本件特許出願前に日本国内又は外国において頒布された
乙1文献に記載された発明(乙1発明)と同一であるから,本件特許は
新規性を欠如し,無効である。
すなわち,乙1文献には,明らかに構成要件A~F及びHが開示され
ている。また,乙1発明は,経路探索後誘導開始指令が与えられるまで
の間に車両がP0からPXまで移動し(本件発明の探索開始地点と誘導
開始地点とが異なる場合に相当する。),出発交差点ではない交差点P
4に所定距離以内に近付いた場合に,前記車両が後戻りすることのない
ように通過した経由地を案内対象から除外し,代わりに当該近付いた交
差点P4を新たな出発交差点として誘導案内するものである。このよう
に,乙1文献には,構成要件Gに相当する構成が開示されているといえ
る。
なお,本件発明と乙1発明とは,車両を移動させることを想定してい
ない期間内に,車両を移動させてしまった場合の問題点を解決するとい
う点で,課題が完全に一致する。
また,乙1発明においても,経路誘導とは,通過交差点を手前にして
次の交差点の形状を表示するだけでなく,経路データとして画面上に地
図と現在の自車位置(走行軌跡)を表示するためのデータを用いて,入
力した出発地から目的地までの経路誘導に利用していることは明らかで
あり,本件発明と乙1発明との間には,実質的な相違点はない。
このほか,現在位置とリンクとを比較することを実行するナビゲーシ
ョン制御方法は,本件特許出願前から公知である(乙17,18参照)。
(イ)乙1文献及び乙2文献に基づく進歩性要件違反(無効理由2)
本件発明は,乙1発明に,本件特許出願前に日本国内又は外国におい
て頒布された乙2(特開平5-313575号公報,以下「乙2文献」
という。)に記載された発明(以下「乙2発明」という。)を組み合わ
せて容易に発明できたものであるから,本件特許は進歩性を欠如し,無
効である。
すなわち,前記(ア)のとおり,乙1文献には,明らかに構成要件A~
F及びHが開示されており,当該構成は,本件発明と乙1発明との一致
点である。そして,乙2文献はナビゲーション装置に関するものであり,
乙2発明においては,探索開始地点P0と誘導開始地点PXとが異なる
場合であっても,誘導開始地点PXが経路外れを起こしていない場合に
は,後方ノードP3を通過したものと判断し,この誘導開始地点PXか
らの前記移動体の誘導開始に基づいて前方ノードP4を案内するように
誘導情報出力手段を制御することができる(乙2文献の段落【0022】
【0023】【0041】等参照)。
そして,乙1発明と乙2発明は同じナビゲーション装置に関する技術
であり,乙1発明を乙2発明に組み合わせる十分な動機付けがあるとこ
ろ,乙1発明の目的経由地点の決定方法に代えて乙2発明の目的経由地
点の決定方法を組み合わせても,本件発明の構成を得ることができるた
め,本件特許は,乙1文献と乙2文献に基づき,進歩性がない。
なお,乙2文献に開示された経路誘導制御技術は,本件特許出願前か
ら公知である(乙17,18参照)。
(ウ)乙2文献に基づく新規性要件違反(無効理由3)
本件発明は乙2発明と同一であるから,本件特許は新規性を欠如し,
無効である。
なお,厳密には,乙2発明は「現在経路誘導に用いている誘導経路デ
ータと,自車位置データ及び車両方位データとから」誘導経路外れの有
無と,経由地通過の判定を行って,これに基づいて誘導情報の出力を行
う技術であり,「経路誘導が開始される時点の当該移動体の現在位置を
示す誘導開始地点…に基づいて」誘導情報出力手段を制御する本件発明
とは異なる点があるようにも解される。しかし,乙2文献の「現在経路
誘導に用いている」の文言には,「経路誘導が開始される時点」すなわ
ち「現在経路誘導」を開始した時点も当然に含むものであり,「現在経
路誘導」を開始した時点においても「誘導経路データ」や「自車両位置
データ及び車両方位データ」も存在し,これらに基づいて「現在経路誘
導」を開始した時点における誘導経路外れの有無と,経由地通過の判定
を行うことは同様に可能であり,乙2文献の開示事項と本件発明の構成
要件Gとの間に実質的な相違点はない。
このほか,乙2文献には,構成要件Cの開示がある(段落【0022】
ないし【0024】参照)。
(エ)実施可能要件違反(無効理由4)
a構成要件Gの「異なる場合」には3つの場合(転換点通過後に経路
探索が終わって,依然として設定経路上にある場合(場合1),転換
点通過後は設定経路を外れてしまう場合(場合2),転換点通過前に
経路探索が終わって,かつ設定経路上にある場合(場合3))がある
ところ,本件明細書中には上記の「場合1」についてしか開示がなく,
その他の場合について実施可能な程度に記載されていないから,実施
可能要件に違反する。
bまた,探索終了地点PXから,実際に誘導が開始されるまでの間に,
車両が経由地点を通過した場合,ナビゲーション装置の動作がどのよ
うに制御されるかについて,発明の詳細な説明中には一切記載されて
いないから,構成要件Gの「誘導開始地点からの…誘導開始に基づい
て前記誘導情報出力手段を制御する」方法について実施可能な程度の
記載がなく,実施可能要件に違反する。
すなわち,探索終了地点PXが確定されてから次の目標経由地点を
案内するまでにある程度の時間がかかり,この間に車両が走行して目
標経由地点を通過してPXˊに至ってしまうことも考えられるが,本件
発明の構成によれば更新された目標経由地P4を削除する手段がない
ので,P4に後戻りするように案内されてしまい,本件発明の目的を
達することができない。
(オ)サポート要件違反(無効理由5)
a上記(エ)aのとおり,構成要件Gの「異なる場合」には3つの場合
があるところ,本件明細書中には1つの場合についてしか開示がなく,
その他の場合について記載がないから,サポート要件に違反する。
bまた,探索終了地点PXから,実際に誘導が開始されるまでの間に,
車両が経由地点を通過した場合,ナビゲーション装置の動作がどのよ
うに制御されるかについて,発明の詳細な説明中には一切記載されて
いないから,構成要件Gの「誘導開始地点からの…誘導開始に基づい
て前記誘導情報出力手段を制御する」方法について記載されておらず,
サポート要件に違反する。
すなわち,探索終了から誘導開始までの間にも演算時間とデータ読
み出し描画までの処理を完了するためにゼロではない「ある程度の時
間」を要することは明白であり,その間に車両は確実に移動する。そ
して,構成要件Gの記載からすれば,PXではなくPXˊからの誘導開
始に基づいて誘導情報出力手段を制御するものでなければならないが,
本件明細書の発明の詳細な説明にはPXˊに相当する地点の記載はなく,
誘導開始地点ではなく経路選択入力時点の移動体の現在位置であるP
Xに基づく経路案内の例しか示されていない。
(カ)明確性要件違反(無効理由6)
構成要件G中の「異なる場合」及び「誘導開始に基づいて前記誘導情
報出力手段を制御する」の意義が不明確であり,明確性要件に違反する。
まず,前記(エ)a同様,「異なる場合」には3つの場合が想定される
ところ,「場合2」や「場合3」を含むと解することには意味がなく,
「場合1」に限られると解されるところ,本件明細書の特許請求の範囲
の記載からはこのように読み取ることはできず,本件発明は,その記載
が不明瞭で,発明を明確に特定できないことから不明確である。
また,「誘導開始に基づいて前記誘導情報出力手段を制御する」との
記載が技術的にどのような制御を意図しているのか,特に「探索開始地
点からの前記移動体の誘導開始に基づいて前記誘導情報出力手段を制御」
する場合との技術的差異が不明確である上,そもそも当該記載自体が不
明確である。
イ原告の主張
(ア)乙1文献に基づく新規性要件違反(無効理由1)
本件発明と乙1発明には,以下の相違点が存在するから,本件発明は
乙1発明と同一ではない。
なお,乙1発明には,課題が2つあるところ,そのうち1つだけに着
目する被告らの主張は誤りである。また,乙1発明における「出発交差
点」と,本件発明の「経路探索開始地点」に対応し得る地点は同じでは
ない。
【相違点1】
本件発明においては,「前記現在位置から経由地を含む前記移動体が
到達すべき目的地までの経路設定を指示する設定指令が入力される入力
手段」を有するのに対し,乙1発明においては,出発地(現在地)と目
的地の途中に存在する,「出発交差点」と「目的交差点」の間の経路設
定を指示する指令が入力される入力手段を有するにすぎない点(構成要
件B)
【相違点2】
本件発明においては,「前記設定指令が入力され,経路の探索を開始
する時点の前記移動体の現在位置を探索開始地点として記憶する記憶手
段」を有するのに対し,乙1発明においては,このような記憶手段がな
い点(構成要件C)
【相違点3】
本件発明においては,「前記記憶した探索開始地点を基に前記経路の
探索を行い,当該経路を経路データとして設定する経路データ設定手段」
を有するのに対し,乙1発明においては,出発地(現在地)と目的地の
途中に存在する,「出発交差点」と「目的交差点」の間の経路の探索を
行い,そのデータを設定する設定手段を有するにすぎない点(構成要件
D)
【相違点4】
本件発明においては,前記移動体の現在位置と前記設定された経路デ
ータとに基づいて,前記移動体を目的地まで経路誘導するための経由予
定地点についての経路誘導を行う誘導情報を出力する誘導情報出力手段
とその制御手段を有するのに対し,乙1発明においては,通過交差点を
手前にして次の交差点の形状を表示するにすぎない点(構成要件E,F)
【相違点5】
本件発明においては,制御手段が,「前記記憶した探索開始地点と,
当該経路データが設定され,前記移動体の経路誘導が開始される時点の
当該移動体の現在位置を示す誘導開始地点と,が異なる場合に,前記誘
導開始地点からの前記移動体の誘導開始に基づいて前記誘導情報出力手
段を制御する」のに対し,乙1発明においては,このような制御を行わ
ない点(構成要件G)
(イ)乙1文献及び乙2文献に基づく進歩性要件違反(無効理由2)
a前記(ア)のとおり,本件発明と乙1発明には,構成要件B~Gに係
る相違点である相違点1~5が存在する。
そして,被告らは,構成要件B~Fに係る相違点1~4については,
何ら容易想到性の理由を示していないから,乙1文献及び乙2文献に
基づく進歩性欠如の主張はそもそも成り立つ余地がない。
bまた,構成要件Gについても,乙2文献に基づいて容易に想到し得
るものではない。乙2発明は,乙1発明とは全く異なる技術的課題を
解決するものであるから,乙1発明と乙2発明を組み合わせるべき理
由はない上,乙2文献の具体的な記載からしても,本件発明の構成要
件Gを容易とすべき理由はない。
(ウ)乙2文献に基づく新規性要件違反(無効理由3)
本件発明と乙2発明には,以下の相違点が存在するから,本件発明は
乙2発明と同一ではない。
【相違点1】
本件発明においては,「前記設定指令が入力され,経路の探索を開始
する時点の前記移動体の現在位置を探索開始地点として記憶する記憶手
段」を有するのに対し,乙2発明においては,このような記憶手段がな
い点(構成要件C)
【相違点2】
本件発明においては,制御手段が「前記記憶した探索開始地点と,当
該経路データが設定され,前記移動体の経路誘導が開始される時点の当
該移動体の現在位置を示す誘導開始地点と,が異なる場合に,前記誘導
開始地点からの前記移動体の誘導開始に基づいて前記誘導情報出力手段
を制御する」のに対し,乙2発明においては,そのような制御を行わな
い点(構成要件G)
このほか,乙2発明においては,「経路探索中に車両が移動してしま
い,経由予定地点を超えてしまう」という問題は生じないため,本件発
明のように「経路探索を開始する時点」や「誘導開始地点」について全
く記載されておらず,「経路探索開始地点」が「誘導開始地点」と異な
るか否かという点についても全く記載も示唆もされていない。
(エ)実施可能要件違反(無効理由4)
a構成要件Gにおける「探索開始地点と,…前記移動体の経路誘導が
開始される時点の当該移動体の現在位置を示す誘導開始地点と,が異
なる場合」とは,「移動体の移動の結果,誘導開始地点が,設定され
た経路上の,経由予定地点を超えた地点となる場合」(場合1)であ
る。そして,この解釈に基づいた場合に,本件明細書の発明の詳細に
本件発明が当業者が実施し得る程度に記載されている(段落【001
8】,【0028】~【0036】,【0038】参照)。
b本件発明は,被告らが主張するような,「探索終了地点PXから実
際に誘導が開始されるまでの間に,車両が経由地点を通過した場合」
という問題に対応してこれを解決する特定の制御を提供する発明では
ない。
また,本件発明において,「探索終了時点」から「実際に誘導が開
始される」までにある程度の時間がかかることが問題とされているも
のでもない。
(オ)サポート要件違反(無効理由5)
前記(エ)aと同様の理由により,「異なる場合」に関する被告らのサ
ポート要件に関する主張は理由がない。
また,前記(エ)bと同様の理由により,「探索終了地点」から「誘導
開始地点」に至るまでに「経由予定地点」を通過した場合の制御につい
て本件明細書にサポートがないことは,本件特許のサポート要件違反の
根拠にはなり得ない。
(カ)明確性要件違反(無効理由6)
前記(エ)aと同様の理由により,「異なる場合」に関する被告らの明
確性違反に関する主張は理由がない。
また,請求項1の文言や発明の詳細な説明の記載からすれば,構成要
件Gにおける「前記誘導開始地点からの前記移動体の誘導開始に基づい
て前記誘導情報出力手段を制御する」とは,「移動体の誘導開始地点を
基準とした経由予定地点についての経路制御を行う」ことを意味し,明
確である。
(4)争点(4)(本件訂正により本件特許の無効理由が解消したか)について
ア原告の主張
(ア)本件訂正は,明瞭でない記載の釈明を目的とするものであるが,仮
に,同訂正前の請求項1につき,複数の「異なる場合」があると解釈さ
れる立場に立つならば,特許請求の範囲を減縮することを目的とする訂
正であるともいえる。
また,本件発明において「誘導開始地点からの前記移動体の誘導開始
に基づいて」誘導情報出力手段が制御されるのが,「誘導開始地点が,
設定された経路上の,経由予定地点を超えた地点となる場合」であるこ
とは,明細書の段落【0018】,【0028】~【0038】,図5
からも明らかである。
よって,本件訂正後の発明は,当初の明細書に記載された範囲のもの
であり,同訂正は,実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更するもの
ではない。
(イ)被告装置が本件訂正発明の構成要件Gˊを充足し,また,それと均
等であることは,前記(1)ア及び(2)アと同様である。
(ウ)本件訂正発明に係る特許に無効理由が存しないことは,前記(3)イと
同様である。
なお,被告らが主張する「案内開始地点」という文言は,そもそも本
件訂正発明に含まれていない文言である。また,「異なる」との文言は,
本件訂正前から存在した文言であり,「超えた点」については,本件明
細書中にはその文言はないが,同明細書の段落【0018】の記載によ
ってサポートされている。
このほか,仮にいったん経路逸脱が生じたとしても,設定された経路
上にいれば,経路誘導を行うことは可能であり,このような場合を構成
要件Gˊから除外しなければならないものではない。
また,本件訂正は,本件発明の意義を何ら不明確にするものでもない。
イ被告らの主張
(ア)本件訂正に関して,「異なる」「超えた点」「案内開始地点」とい
った用語は,本件明細書には一切記載がなく,明らかにサポートされて
いない。同明細書中には,これに対応する実施形態として,段落【00
33】ないし【0034】に,軌跡データを利用して移動体が各経由地
点を通過したかの判定処理が記載されているのみであり,同段落の記載
が,本件訂正後の構成要件Gˊの用語とどのように対応し,サポートさ
れているのか不明である。
したがって,本件訂正は,願書に添付した明細書等に記載した事項の
範囲内においてされたものではなく,特許請求の範囲の減縮,誤記又は
誤訳の訂正,明瞭でない記載の釈明のいずれにも該当しないから,訂正
要件を充たさない。
(イ)被告装置が本件訂正発明の構成要件Gˊを充足せず,また,それと
均等でもないことは,前記(1)イ及び(2)イと同様である。
(ウ)本件訂正発明に係る特許に無効理由が存することは,前記(3)アと同
様である。なお,構成要件Gˊは,経路逸脱により1つ目の経由予定地
点を経ないで経路上の点に到達する場合を含む記載であり,このような
場合が除外されるようにしなければ,本件訂正後の請求項1の記載は,
依然として発明の構成に欠くことのできない事項のみを記載したものと
はいえない。
また,本件発明の意義からすると,Px(誘導開始地点)がP1(経
由予定地点)を超えているか否かの判断を行うことの限定は無意味であ
るだけでなく,本件発明の意義を不明確にするものであり,特許請求の
範囲に記載された発明を実質的に変更するものである。
以上からすれば,仮に本件訂正が認められても,本件明細書に記載さ
れた発明ではないから,サポート要件違反であることに変わりはなく,
無効とされるべきである。
(5)争点(5)(原告の損害額)について
ア原告の主張
(ア)被告における平成18年11月(被告装置の輸入・販売開始時期)
から平成26年3月までの売上額は149億0200万円を下らない。
そして,被告の売上額のうち,被告装置の販売に基づく部分は,少なく
とも60%を占めているため,被告装置の販売に基づく売上額は,89
億4120万円を下らない。
また,特許法102条3項所定の実施料相当額は,被告装置の輸入・
販売等により得られたであろう89億4120万円の3パーセントであ
る2億6823万6000円を下らない。
(イ)被告は,上記(ア)の金額を任意に支払わず,原告をして弁護士費用
の支出を余儀なくさせた。本件での弁護士費用相当額は,上記2億68
23万6000円の10%である2682万3600円を下らない。
イ被告らの主張
いずれも争う。
第3当裁判所の判断
1本件明細書の記載について
本件明細書には,以下の記載がある(甲2)。
(1)【産業上の利用分野】
本発明はナビゲーション装置及び方法に係り,特に予め設定した経路デー
タを用いて経路誘導を行うナビゲーション装置及び方法に関する。(段落
【0001】)
(2)【発明が解決しようとする課題】
上記従来のナビゲーション装置においては,経路探索中に走行していた場
合等のように探索終了時に自車位置がいくつかの経由地をすでに通過してい
るような場合であっても最初に通過すべき経由予定地点P1ˊを目標経由地点
としてメッセージを出力することとなっていた。(段落【0008】)
このため,経由予定地点設定終了のタイミングにおいて,経由予定地点P
1ˊ,P2ˊ,P3ˊをすでに自車が通過し自車位置がC1であったとすると,経
由予定地点P1ˊ,P2ˊ,P3ˊを通過してきたにもかかわらず,ナビゲーショ
ン装置は,次の目標経由地点はP1ˊ地点である旨のメッセージを出力してし
まうこととなっていた。(段落【0009】)
そこで,本発明の目的は,通過すべき経由予定地点の設定中にすでにそれ
らの経由予定地点のいずれかを通過してしまった場合でも,正しい経路誘導
を行えるように経路誘導メッセージを伝達するナビゲーション装置及び方法
を提供することにある。(段落【0011】)
(3)【作用】
このような構成により,本願請求項1または6に記載のナビゲーション装
置または方法の発明では,移動体が経路探索を開始した探索開始地点と,当
該経路が設定された誘導開始地点とが異なる場合に,具体的には,探索開始
地点から経路を設定するまでの間に移動体が移動することにより経路探索を
行う際に用いた移動体の現在位置とは異なる位置から誘導を開始する場合に,
的確に移動体の実際の現在位置に対応する経路誘導を正確に行うことができ
る。したがって,経路探索を開始してから,経路設定が為され,当該経路に
基づいて移動体の誘導を開始するまでに,ある程度の時間を要する場合など,
移動体が経路設定を開始した位置から移動したことにより,当該経路探索開
始時に設定された交差点などの経由地を通過してしまうことがあっても,例
えば,当該通過した経由地を経路誘導の対象から除外すれば,経路誘導を行
う移動体の実際の現在位置に基づいて的確に経路誘導を行うことができる。
…(段落【0018】)
(4)【実施例】
次に図3,図4及び図5を参照して実施例の動作を説明する。この場合に
おいて,経由地の設定,すなわち,経路データの設定はシステムコントロー
ラ5がCD-ROMDKの記憶データに基づいて自動的に探索して設定する
ものとする。(段落【0028】)
入力装置11を介して,システムコントローラ5に対し,最終目的地点に
対する経路データの自動設定指令が入力されると(ステップS1),システ
ムコントローラ5は,RAM9の走行軌跡バッファLOBから最新の軌跡デ
ータ(最新の通過地点データ)の格納位置を示す最新データポインタPS
(図3の例では,PS=3)を記憶し,当該最新の通過地点をスタート(出
発)地点P0として確定する(ステップS2)。(段落【0029】)
次にシステムコントローラ5は,経由地を自動的に探索し,複数の経路デ
ータを算出する(ステップS3)。なお,経由地は手動設定も可能である。
次にシステムコントローラ5は,算出した複数の経路データのうちからいず
れかの経路データを操作者が入力装置11を介して選択するまで待機状態と
なる(ステップS4)。(段落【0030】)
操作者がいずれかの経由予定地点データ群を選択する旨の指示を入力装置
11を介して与えると,選択された経路データは正式な経路データとして採
用される。(段落【0031】)
この選択指示の入力タイミングにおいて,システムコントローラ5は,R
AM9の走行軌跡バッファLOBから最新の軌跡データ(最新の通過地点デ
ータ)の格納位置を示す最新データポインタPE(図3の例では,PE=m
-1)を記憶し,当該最新の通過地点Cを探索終了地点PXとする(ステッ
プS5)。(段落【0032】)
次に選択された経路データを構成する経由地番号データP1~Pn及び各
経由地の経度・緯度データLL1~LLnのうちスタート地点P0から探索終
了地点PXまでの経路データ,すなわち,走行軌跡データLO3~LOm-1を
用いて,疑似的に走行したものとみなして,目標経由地の自動更新を行い
(ステップS6),自動更新後に実際の経路誘導のためのメッセージを出力
する。(段落【0033】)
より具体的には,経路データの自動設定指令を自車位置がP0の地点で入
力し,走行し続けて,P1,P2,P3を経由して自車位置がPXの地点に至
ったときに経路データの設定が終了した場合を想定する。(段落【003
4】)
この設定期間中に走行軌跡データバッファLOBに蓄えられた走行軌跡デ
ータは,ポインタPS=3~ポインタPE=m-1に対応する走行軌跡デー
タLO3~LOm-1となる。(段落【0035】)
そこで,これらの走行軌跡データLO3~LOm-1を用いて,出発地点P0
から順次図5に実線で示すように走行したものとして目標経由地点の更新を
行う。すなわち,経由地点である経由地番号P1~P3に対応する位置はす
でに通過したとして,自車位置がCにある場合には,次の目標経由地はP4
に対応する地点である旨をディスプレイ17に表示し,あるいはスピーカ2
1から音声により操作者に伝えることとなる。(段落【0036】)
上述したように,本実施例によれば,走行軌跡を用いて,すでに経路デー
タ設定中に通過してしまった可能性のある地点の走行を再現しているため,
実際に自車が走行した場合と全く同一の条件で,実際の経路データ設定終了
地点における経路誘導メッセージを表示しあるいは音声で告知できるため,
過った経路誘導が行われることがなくなる。(段落【0037】)
(5)【発明の効果】
本願発明によれば,移動体が経路探索を開始した探索開始地点と,当該経
路が設定された誘導開始地点とが異なる場合に,具体的には,探索開始地点
から経路を設定するまでの間に移動体が移動して経路探索を行う際に用いた
移動体の現在位置とは異なる位置から誘導を開始する場合に,的確に移動体
の実際の現在位置に対応する経路誘導を正確に行うことができる。したがっ
て,経路探索を開始してから,経路設定が為され,当該経路に基づいて移動
体の誘導を開始するまでにある程度の時間を要する場合に,移動体が経路設
定を開始した位置から移動し,当該経路探索開始時に設定された交差点など
の経由地を通過してしまうことがあっても,例えば,当該通過した経由地を
経路誘導の対象から除外すれば,経路誘導を行う移動体の誘導案内開始時の
実際の現在位置に基づいて的確に経路誘導を行うことができる。(段落【0
038】)
2争点(1)(被告装置は本件発明の構成要件Gを充足するか)について
(1)ア本件発明の構成要件Gは,「前記制御手段は,前記記憶した探索開始
地点と,当該経路データが設定され,前記移動体の経路誘導が開始される
時点の当該移動体の現在位置を示す誘導開始地点と,が異なる場合に,前
記誘導開始地点からの前記移動体の誘導開始に基づいて前記誘導情報出力
手段を制御する」というものであるから,上記構成要件の文言によれば,
本件発明は,探索開始地点と誘導開始地点とを比較して両地点が異なるこ
とという要件を充たす場合に,所定の制御を行うものであることが明らか
というべきである。
イ前記1認定の本件明細書の記載をみても,【作用】欄には,「本願請求
項1または6に記載のナビゲーション装置または方法の発明では,移動体
が経路探索を開始した探索開始地点と,当該経路が設定された誘導開始地
点とが異なる場合に,具体的には,探索開始地点から経路を設定するまで
の間に移動体が移動することにより経路探索を行う際に用いた移動体の現
在位置とは異なる位置から誘導を開始する場合に,的確に移動体の実際の
現在位置に対応する経路誘導を正確に行うことができる。…」(段落【0
018】)との記載があり,【発明の効果】欄にも,「本願発明によれば,
移動体が経路探索を開始した探索開始地点と,当該経路が設定された誘導
開始地点とが異なる場合に,具体的には,探索開始地点から経路を設定す
るまでの間に移動体が移動して経路探索を行う際に用いた移動体の現在位
置とは異なる位置から誘導を開始する場合に,的確に移動体の実際の現在
位置に対応する経路誘導を正確に行うことができる。…」(段落【003
8】)との記載があり,これらの記載は,「本件発明は探索開始地点と誘
導開始地点とを比較して両地点が異なるか否かを判断するものである」と
いう構成要件Gに係る上記解釈を裏付けるものである。
ウさらに,本件特許の出願経過からも上記解釈は裏付けられる。すなわち,
原告は,本件特許の審査段階において,特許庁から平成15年1月21日
発送の拒絶理由通知(乙8)を受けたところ,そこには「…請求項1の記
載では本願発明の目的である通過すべき経由地点の設定中にすでにそれら
の経由地点のいずれかを通過してしまった場合でも,正しい経路誘導を行
うための構成である『設定指令が入力された時点での車両現在位置を探索
開始地点として記憶し,この記憶された探索開始地点と,経路データが設
定され移動体の経路誘導が開始される時点での移動体の現在位置を比較す
る』点が明確に記載されていない。…よって,請求項1は,特許を受けよ
うとする発明の構成に欠くことができない事項のみを記載したものではな
い。」とされていた。原告は,上記拒絶理由通知に対応して,同年2月5
日受付の意見書(乙9)を提出し,そこにおいて「審査官殿のご指摘の通
り,本願発明における探索開始地点と経路誘導地点に関する上述の点が不
明瞭であると考えますので,『設定指令が入力され,経路の探索を開始す
る時点の前記移動体の現在位置を探索開始地点として記憶する記憶手段』
と構成要件を加えることにより,探索開始地点が記憶されることを明確に
するとともに,経路データ設定手段が『記憶した探索開始地点を基に経路
の探索を行い,当該経路を経路データとして設定する』と補正して探索開
始地点と経路データの関係を明確にし,制御手段おける記憶された探索開
始地点と誘導開始地点を比較する点を明確に致しました。」(1頁下9行
~2行)と記載し,併せて,同日受付の手続補正書(乙10)を提出して
上記記載に沿った補正を行い,探索開始地点と誘導開始地点とを比較する
ことを明確にしたものである。以上の出願経過も,構成要件Gに係る上記
解釈を裏付けるものである。
(2)しかるところ,被告装置において,「探索開始地点」と「誘導開始地点」
を比較して両地点が異なるかどうかを判断しているものと認めるに足りる証
拠はない。
かえって,証拠(乙16の1)によれば,被告装置においては,①経路誘
導の計算が行われ,これが終了すると,出発地点P0から目的地Pnまでの
経路を示す経路リンクのリストがメモリに保存され,②他方で,上記①の経
路誘導とは独立して,継続的に,車両の現在位置Cと地図データの地図リン
クとのマッチングが行われ,その際,車両の現在位置Cと,地図データのノ
ード間を結ぶ地図リンクとを比較することで,車両の現在位置Cと一致する
地図リンクを特定し,③上記②のマップマッチングで特定されたリンクが上
記①の経路リンクの一つと直接対応すると,道路境界領域の処理は行われず,
その代わりに地図リンクと一致する経路リンクに基づいて誘導が行われ,他
方で,現在位置Cが,マップマッチングによって特定された経路リンクに載
っていない場合,所定の方法で絞り込んだ道路境界領域内のリンクと現在位
置とを比較してリンク上に載っているか否かの判定をするとの作業が行われ
ていることが認められる。
なお,乙16の1は,補助参加人の関連会社所属のエンジニアが作成した
宣誓書であるが,同記載内容は,被告装置の制御に関する他の証拠とも矛盾
がなく,これを特段疑う理由もないから,信用できるものといえる。
以上からすれば,被告装置では,探索開始地点と誘導開始地点とを比較し
て両地点が異なるか否かを判断するという作業は行われず,あくまで,車両
の現在位置が所定の経路リンク上に載っているか否かが判定されているにす
ぎないから,被告装置は本件発明の構成要件Gを充足しないものというべき
である。
(3)アこれに対し,原告は,本件発明の構成要件Gは,「移動体の移動の結
果,誘導開始地点(探索終了地点)が,設定された経路上の,経由予定地
点を超えた地点となる場合において,当該移動体の誘導開始地点を基準と
した経由予定地点についての経路誘導を行う」ことを意味するものであり,
移動体が設定された経路上の経由予定地点を超えた位置にあるかを判断し
ていれば構成要件Gを充足する旨主張する。
しかし,原告の上記主張は,結局,構成要件Gが,探索開始地点と誘導
開始時点とを比較するのではなく,経由予定地点と誘導開始地点とを比較
するものである旨の主張であり,同構成要件に定められた「前記制御手段
は,前記記憶した探索開始地点と,当該経路データが設定され,前記移動
体の経路誘導が開始される時点の当該移動体の現在位置を示す誘導開始地
点と,が異なる場合に」という文言に明らかに反するものであるし,上記
(1)説示の本件明細書の記載や本件特許に係る出願経過にも反するもので
あるから,到底採用することができない。
なお,被告が行った被告装置に係る走行実験の結果(乙3,4)によれ
ば,被告装置が一定期間衛星信号を受信できない状態を作出し,その間に
車両が経由予定地点を通過した後,再度,衛星信号を受信可能な状態とし
てもなお,同装置が,既に通過した経由予定地点への案内をせず,直近の
経由予定地点への誘導情報を出力することが示されており,被告装置にお
いては,経由予定地点の通過情報を利用していないものと認められるから,
この点からも,原告の上記主張は採用できない。
イまた,原告は,本件特許出願当時の技術常識に照らせば,被告装置は,
①探索開始地点を,当該地点を含むリンクに置き換える,②誘導開始地点
を,当該地点を含むリンクに置き換える,③それぞれの地点を含むリンク
を比較する,という方法により,探索開始地点と誘導開始地点が異なるこ
とを認識している旨主張する。
しかし,被告装置において,原告の上記主張に係る方法が実施されてい
ることを認めるに足りる証拠はなく,かえって,前記(2)認定のとおり,
被告装置では,探索開始地点と誘導開始地点とを比較して両地点が異なる
か否かを判断するという作業は行われず,あくまで,車両の現在位置が所
定の経路リンク上に載っているか否かが判定されているにすぎないと認め
られるから,原告の上記主張も採用できない。
(4)以上からすれば,その余について判断するまでもなく,被告装置が本件
発明の構成要件Gを実施しているものとは認められない。
3争点(2)(被告装置は本件発明と均等であるか)について
原告は,仮に被告装置が本件発明の構成要件Gを文言上充足しないとしても,
誘導開始地点と探索開始地点との対比を,誘導開始地点が含まれるリンクと,
探索開始地点が含まれるリンクとの対比に置換した被告装置は,本件発明と均
等である旨主張するので,以下この点につき検討する。
特許請求の範囲に記載された構成中に,相手方が製造等をする製品又は用い
る方法(以下「対象製品等」という。)と異なる部分が存する場合であっても,
①同部分が特許発明の本質的部分ではなく,②同部分を対象製品等におけるも
のと置き換えても,特許発明の目的を達することができ,同一の作用効果を奏
するものであって,③上記のように置き換えることに,当該発明の属する技術
の分野における通常の知識を有する者(当業者)が,対象製品等の製造等の時
点において容易に想到することができたものであり,④対象製品等が,特許発
明の特許出願時における公知技術と同一又は当業者がこれから当該出願時に容
易に推考できたものではなく,かつ,⑤対象製品等が特許発明の特許出願手続
において特許請求の範囲から意識的に除外されたものに当たるなどの特段の事
情もないときは,同対象製品等は,特許請求の範囲に記載された構成と均等な
ものとして,特許発明の技術的範囲に属するものと解するのが相当である(以
下,上記①ないし⑤の要件を,順次「第1要件」ないし「第5要件」という。)
(最高裁平成10年2月24日第三小法廷判決・民集52巻1号113頁参
照)。
(1)第1要件について
原告は,本件発明において,探索開始地点と誘導開始地点とを直接比較す
ることは本質的部分ではないと主張する。
しかし,均等の第1要件における本質的部分とは,当該特許発明の特許請
求の範囲の記載のうち,従来技術にみられない特有の技術的思想を構成する
特徴的部分であると解すべきであるところ,本件発明は,従来技術では経路
探索の終了時にいくつかの経由地を既に通過した場合であっても,最初に通
過すべき経由予定地点を目標経由地点としてメッセージが出力されること
(段落【0008】参照)を問題とし,このような事態を解決するために,
通過すべき経由予定地点の設定中に既に経由予定地点のいずれかを通過した
場合でも,正しい経路誘導を行えるようなナビゲーション装置や方法を提供
することを目的としており(段落【0011】参照),具体的には,車両が
動くことにより,探索開始地点と誘導開始地点のずれが生じ,車両が,設定
された経路上にあるものの,経由予定地点を超えた地点にある場合に,正し
く次の経由予定地点を表示する方法を提供するものである(段落【0018】
【0038】等参照)。
このように,本件発明が,車両が動くことにより探索開始地点と誘導開始
地点の「ずれ」が生じ,車両等が経由予定地点を通過してしまうことを従来
技術における問題とし,これを解決することを目的として,上記「ずれ」の
有無を判断するために,探索開始地点と誘導開始地点とを比較して両地点の
異同を判断することを定めており,この点は,従来技術にはみられない特有
の技術的思想を有する本件特許の特徴的部分であるといえる。
そして,本件明細書(甲2)において,上記「ずれ」を判断する方法とし
て,上記両地点を直接比較する方法以外の方法は何ら記載されておらず,そ
れ以外の方法が想定されていたとは認められない。
また,前記2(1)ウ認定の本件特許に係る出願経過からも,探索開始地点
と誘導開始地点とを比較して両地点の異同を判断することが本件発明の本質
的部分であることは明らかである。
なお,原告自身も,本件発明においては「探索開始地点に関する情報」と
「誘導開始地点」とを比較する旨主張している(原告第9準備書面9頁参照)
ところ,上記「探索開始地点に関する情報」の中核は「探索開始地点」自体
であるから,原告の上記主張を前提としても,本件特許において,探索開始
地点と誘導開始地点との比較が本質的部分であるといえる。
以上からすれば,探索開始地点と誘導開始地点とを比較して両地点の異同
を判断することが本件発明の本質的部分というべきであり,かつその比較方
法としては,両地点を直接比較することが当然に予定されているものであっ
て,これに反する原告の主張は採用できない。
なお,原告は,従来技術において,経由予定地点を超えた地点となったこ
とを判断する必要性すら認識されていなかった以上,この点に関する下位概
念的な具体的な手段まで本質的部分であるとはいえないとも主張する。しか
し,前述のとおり,本件発明において探索開始地点と誘導開始地点の「ずれ」
を問題とし,その有無を判断するために,上記両地点を比較することが必須
であり,この点が本件発明を特徴付けているといえるものであって,その比
較の具体的手段が単なる下位概念であるとはいえないから,原告の上記主張
も採用できない。
(2)第2要件について
原告は,本件発明における誘導開始地点と探索開始地点との対比を,誘導
開始地点が含まれるリンクと,探索開始地点が含まれるリンクとの対比に置
換しても,本件発明と同一の作用効果を奏することができる旨主張する。
しかし,そもそも,前記2(2)認定のとおり,被告装置では,本件発明の
ように探索開始地点と誘導開始地点とを比較して両地点が異なるか否かを判
断するという作業は行われず,あくまで,車両の現在位置が所定の経路リン
ク上に載っているか否かが判定されているにすぎないと認められるから,本
件発明における探索開始地点と誘導開始地点とをそれぞれリンクに置換した
としても,被告装置で行っているリンク同士の比較とは異なるものとなる。
つまり,原告が主張する上記置換によっても被告装置の構成に至ることはで
きない。
また,本件発明において,探索開始地点と誘導開始地点との比較をリンク
とリンクとの比較に置き換えたとしても,同一のリンク上に探索開始地点と
誘導開始地点とがいずれも存在する場合には,その地点同士の異同を判別で
きないため,この観点からも,上記置換によって本件発明と同じ効果を奏す
るものとはいえない。
なお,原告は,経由予定地点を超えていないリンクにおいて,地点の判別
ができなくても,本件発明の目的及び作用効果に関係しないとも主張するが,
前記(1)のとおり,探索開始地点と誘導開始地点とを比較して両地点の異同
を判断することが本件発明の本質的部分であることに照らせば,原告の上記
主張は採用できない。
以上からすれば,本件発明における探索開始地点と誘導開始地点との比較
をリンクとリンクとの比較に置換しても,それによって被告装置の構成には
ならない上,本件発明と同じ目的を達することはできず,また同一の作用効
果を奏するものともいえない。
(3)このように,本件発明の構成要件Gを被告装置の構成に置換することは
少なくとも均等の第1及び第2要件を充足しないため,被告装置が本件発明
と均等であるとはいえない。
4結論
以上によれば,その余の点について判断するまでもなく,原告の請求は理由
がないからこれを棄却することとし,主文のとおり判決する。
東京地方裁判所民事第47部
裁判長裁判官沖中康人
裁判官矢口俊哉
裁判官村井美喜子
(別紙)
被告装置目録
下記型番に示されるナビゲーション装置

被告装置1nuvi360
被告装置2zumo550
被告装置3nuvi250
被告装置4nuvi250plus
被告装置5nuvi205W
被告装置6nuvi900
被告装置7nuvi203
被告装置8nuvi205
被告装置9nuvi1480
被告装置10nuvi205Wplus
被告装置11nuvi1360
被告装置12nuvi1460
被告装置13nuvi2465
被告装置14nuvi2565
被告装置15nuvi2580
被告装置16nuvi2582
被告装置17nuvi2582V
被告装置18nuvi3770V
被告装置19zumo660P
被告装置20nuvi2582R
被告装置21nuvi2582Rplus
被告装置22nuvi2790
被告装置23nuvi2790V
被告装置24nuvi2590
被告装置25nuvi2595V
被告装置26nuvi2592
被告装置27nuvi2795
被告装置28nuvi3750plus
以上

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弁護士 求人 採用
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激動の時代に
今後の弁護士業界はどうなっていくのでしょうか。 もはや、東京では弁護士が過剰であり、すでに仕事がない弁護士が多数います。
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ではどうしたらよいのでしょうか。
答えは、弁護士業もサービス業であるという原点に立ち返ることです。
我々は、クライアントの信頼に応えることが最重要と考え、そのために努力していきたいと思います。 弁護士数の増加、市民のニーズの多様化に応えるべく、従来の法律事務所と違ったアプローチを模索しております。
今まで培ったノウハウを共有し、さらなる発展をともに目指したいと思います。
興味がおありの弁護士の方、司法修習生の方、お気軽にご連絡下さい。 事務所を見学頂き、ゆっくりお話ししましょう。

応募資格
司法修習生
すでに経験を有する弁護士
なお、地方での勤務を希望する先生も歓迎します。
また、勤務弁護士ではなく、経費共同も可能です。

学歴、年齢、性別、成績等で評価はしません。
従いまして、司法試験での成績、司法研修所での成績等の書類は不要です。

詳細は、面談の上、決定させてください。

独立支援
独立を考えている弁護士を支援します。
条件は以下のとおりです。
お気軽にお問い合わせ下さい。
◎1年目の経費無料(場所代、コピー代、ファックス代等)
◎秘書等の支援可能
◎事務所の名称は自由に選択可能
◎業務に関する質問等可能
◎事務所事件の共同受任可

応募方法
メールまたはお電話でご連絡ください。
残り応募人数(2019年5月1日現在)
採用は2名
独立支援は3名

連絡先
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所 採用担当宛
email:[email protected]

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職種 事務職
時給 当社規定による
勤務地 〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
その他 明るく楽しい職場です。
シフトは週40時間以上
ロースクール生歓迎
経験不問です。

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履歴書の返送はいたしませんのであしからずご了承下さい。
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
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