弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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主文
被告人両名をそれぞれ懲役6月に処する。
被告人両名に対し,この裁判確定の日から3年間,それぞれ
その刑の全部の執行を猶予する。
理由
[罪となるべき事実]
被告人Aは,岡山県警察本部交通部運転免許課教習所係所属の技術職員として,
平成27年6月22日から26日までの間に実施された新任技能検定員審査に関
し,同係所属の職員が作成した審査問題の決裁等の職務に従事していたもの,被告
人Bは,C教習所管理者であったものであるが,
第1被告人Bは,自己が管理者を務める前記教習所所属の教習指導員等を前記審
査に合格させるため,同審査において出題される筆記試験問題に関する情報を
入手しようと考え,平成27年6月17日午後1時30分頃,岡山市D区EF
番地G所在の岡山県運転免許センター内岡山県警察本部交通部運転免許課応
接コーナーにおいて,被告人Aに対し,「Aさん,何でもええんじゃけど,何
かヒント教えてもらえんじゃろうか。」などと申し向け,前記審査の筆記試験
問題又はその出題範囲に関する情報を教示してほしい旨依頼し,もって被告人
Aが職務上知り得た秘密を漏らす行為をそそのかし,
第2被告人Aは,被告人Bのそそのかし行為を受け,前記第1記載の日時場所に
おいて,被告人Bに対し,自己が決裁した際に知った前記審査の筆記試験問題
を教示し,もって職務上知り得た秘密を漏らし
たものである。
[証拠の標目]
(省略)
[法令の適用]
罰条
第1の所為(被告人B)平成26年法律第34号附則5条により同法による改
正前の地方公務員法62条,60条2号,34条1項
前段
第2の所為(被告人A)平成26年法律第34号附則5条により同法による改
正前の地方公務員法60条2号,34条1項前段
刑種の選択被告人両名につき,懲役刑
刑の全部執行猶予被告人両名につき,刑法25条1項
[量刑の理由]
本件で漏らされた職務上の秘密は,新任技能検定員審査の筆記試験問題である。
試験問題の内容を漏らすことは試験自体の意味を失わせるものであるから,本件秘
密は,それ自体,秘密性の高いものである。また,技能検定員は,指定自動車教習
所で技能試験の検定を実施するための資格であり,現在の自動車免許取得制度にお
いて重要な資格である。その資格を得るための試験問題の秘密性や要保護性は高い。
さらに,被告人両名の行為により,受験者5名に試験問題の内容が事前に伝えら
れた上,試験が実施されており,本件各犯行が試験に与えた影響は小さくない。そ
の5名は,本件発覚により失格処分となっており,それらの者に与えた影響も無視
できない。加えて,元警察幹部が現職警察職員をそそのかし,現職警察職員が試験
問題を漏らしたのであるから,本件各犯行は警察組織への信頼を失わせるものでも
ある。
被告人Aは,県警本部の技術職員であり,前記筆記試験問題を決裁する担当係長
として,その試験問題の秘密を厳重に守るべき立場にありながら,教本の該当ペー
ジを示したりキーワードを伝えたりして問題のほぼ全てを被告人Bに漏らしている
のであって,被告人Aの行為は,自らの職責を否定しかねない重大な職務犯罪とい
える。また,被告人Aが,その供述するように,今後の執務を円滑に行うため,被
告人Bが管理者を務める自動車教習所と良好な関係を築いておきたいと思うところ
があったとしても,被告人Bからの頼みを受け,安易にそれに応じているのである
から,その意思決定は強く非難される。
他方,被告人Bは,警察署長等も務めた元警察幹部であり,明確な自覚がないと
しても,警察における経歴等の立場の違いを背景に,それを利用して,被告人Aに
前記筆記試験問題を漏らすようそそのかしているのであって,被告人Bの行為は被
告人Aの立場につけ込んだ悪質な犯行といえる。また,被告人Bは,その供述する
ところによれば,自らが管理者を務める自動車教習所所属の受験者の負担を軽減さ
せるために,本件犯行に及んだというのであるが,そのような動機に特段酌むべき
事情はなく,その意思決定も強く非難される。
これらの犯情に照らすと,弁護人の指摘する被告人Aが退職金を受領できなくな
る可能性を踏まえても,本件は,被告人両名とも,罰金刑ではなく懲役刑を選択す
べき事案というべきであるが,実刑に処すほかない事案とまではいえない。
そこで,これらの事情に加え,被告人両名とも,事実を認め,反省の情を示して
いること,被告人Aは,3か月の停職処分を受けて自主退職を余儀なくされ,被告
人Bも,当時の会社を退職し,本件により一定の社会的制裁を受けていること,被
告人Aの妻と現在の雇用主が,被告人Aの今後の監督と雇用を約する旨証言してい
ること,被告人Bの妻も,被告人Bの今後の監督を証言していること,被告人両名
とも前科前歴を有しないことなどの一般情状を考慮すると,被告人両名に対しては,
主文の刑に処した上,その刑の全部の執行を猶予するのが相当である。
よって,主文のとおり判決する。
(求刑被告人両名につき懲役6月)
平成28年6月17日
岡山地方裁判所第1刑事部
裁判官後藤有己

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