弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     原判決を破棄する。
     本件を高松高等裁判所に差戻す。
         理    由
 上告代理人弁護士白石近章の上告理由について。
 原判決はその挙示の証拠により、被上告人からDに対し判示立木を代金八五万円
で売渡し、次いで昭和二八年三月二七日頃Dは上告人の代理人であるEに右立木を
代金九五万円で転売し、内金二〇万円の支払を受けたところ、同年六月一日頃Eは
上告人の代理人としてD及び被上告人と協議の上、上告人のDに支払うべき前示の
残代金は直接被上告人に弁済することとし、即時内金三〇数万円を被上告人に支払
つた上、被上告人との間に残額四〇万円の債務を以て消費貸借の目的とし、これを
判示の如き期限及び利息の定めで返済する旨約定した事実を認定した上、更に挙示
の証拠によつて、Eには上告人の代理人として右残代金三〇万円の支払をすること
は勿論右準消費貸借契約を締結する権限のなかつたこと、しかしEが右契約を締結
するについて判示のような事情が認められるから、被上告人はEに右代理権限あり
と信ずるについて正当な事由があつたものであり、従つて上告人は被上告人に対し
民法一一〇条の責を免れ得ないものであると判示していることは原判文上明らかで
ある。しかしながら、表見代理人の行為に基づき本人が民法一一〇条の責を免れ得
ないものとするが為めには、表見代理人に何らかの代理権限、いわゆる基本代理権
の存することを必要とするものであるが、原判決はEが右準消費貸借契約締結の際
に上告人の為め何らかの法律行為をなし得べき権限のあつたことについては何ら説
示するところがない。尤も、原判決は前叙によつても明らかなように、Eが上告人
とDとの間の前示売買契約について上告人を代理して該契約を締結する代理権限の
あつた趣旨を判示しているから、原判決はこの代理権限がすなわち当時Eの有して
いた右にいわゆる基本代理権であると思惟したものであつたやも計り難いが、右代
理権限は右売買契約の締結と同時に、(代理権の一回の行使によつて)すなわち前
示準消費貸借の締結前たる三月前にすでに消滅していたものと認めるを相当とする
から、これを以て右の基本代理権と目することはできない。要するに原判決はこの
基本代理権の存在について周到な考慮を運らした形跡がなく漫然として民法一一〇
条の適用を認めたのは審理不尽理由不備の誹を免れないものであつて、論旨は結局
理由あるに帰し原判決は爾余の論旨に対する判断をまつまでもなく、叙上の点にお
いて到底破棄を免れない。
 よつて、民訴四〇七条一項に従い、裁判官全員の一致で主文のとおり判決する。
     最高裁判所第一小法廷
         裁判長裁判官    下 飯 坂   潤   夫
            裁判官    斎   藤   悠   輔
            裁判官    入   江   俊   郎

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