弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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主文
1原告の請求を棄却する。
2訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第1請求の趣旨
1被告は,原告に対し,330万円及びこれに対する平成27年2月26日か
ら支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2訴訟費用は被告の負担とする。
3仮執行宣言
第2事案の概要
1本件は,期限付任用である非常勤の国家公務員として札幌保護観察所職員に
任用された原告が,同観察所長らの言動等により平成27年4月以降も再任用
されることに対する期待を生じさせられたにもかかわらず,同年2月26日に
札幌保護観察所長が原告の再任用を拒否した行為(以下「本件再任用拒否」と
いう。)は国家賠償法上違法であると主張して,同法1条1項に基づき,33
0万円(慰謝料300万円及び弁護士費用30万円の合計額)及びこれに対す
る本件再任用拒否の日である同日から支払済みまで民法所定の年5分の割合に
よる遅延損害金の支払を求める事案である。
2前提事実(争いのない事実並びに掲記の証拠及び弁論の全趣旨により容易に
認められる事実)
当事者
原告は,後記⑶のとおり,平成4年6月1日から札幌保護観察所の特殊事
務処理保護司(いわゆる内勤保護司等の正式名称である。以下「内勤保護司」
という。)として勤務を開始し,以後,平成27年3月31日までの約23
年間にわたり,その非常勤職員として同観察所において勤務していた。内勤
保護司制度は平成22年3月31日をもって全国的に廃止され,その後,原
告は非常勤の事務補佐員として任用されていた。
保護司制度の概要
ア保護司とは,任期を2年として法務大臣が委嘱する非常勤の国家公務員
である。
保護司のうち保護観察所長から内勤保護司として指名された者は,保護
観察所内における所掌事務の処理を担当し,保護司の本来的業務である保
護観察事件や生活環境調整事件を担当することも可能である。
保護司に対しては,活動の内容に応じて一定の実費弁償金が支給される
にとどまり,給与は支給されていない(保護司法11条)。
イ事務補佐員は,保護観察所等において更生保護法に基づき行われる各種
業務の補助を行う非常勤の国家公務員であり(平成22年4月1日付け法
務省保総第136号〔乙9〕),上記のとおり,内勤保護司制度が廃止
された以降は,従前,内勤保護司として保護観察所に勤務していた者を事
務補佐員として雇用を継続する例があった。
原告の就労歴
ア原告は,平成4年6月1日に札幌保護観察所において内勤保護司に採用
されて以降,平成22年3月31日まで,2年ごとに合計8回(計18年)
にわたり再任用が行われた(甲1ないし3)。
上記任用における原告の勤務条件は以下のとおりである。
勤務時間午前9時30分から午後4時(うち休憩時間1時間)
までの計5時間30分
勤務場所札幌保護観察所
給与実費弁償金として1日あたり4900円
イ札幌保護観察所長は,平成22年3月31日をもって内勤保護司制度が
廃止されたこと(上記⑴)に伴い,原告を含む同日まで内勤保護司として
委嘱していた者を,国家公務員法附則13条,人事院規則8-12(職員
の任免)46条及び46条の2に基づき,同年4月1日付けで事務補佐員
(任期1年)として採用し,原告は,1年ごとに再任用され,平成24年
3月31日までは以下の条件で勤務した(乙3の1及び2)。
勤務時間午前9時から午後2時(うち休憩時間1時間)までの
計4時間
勤務場所札幌保護観察所
給与時給875円
ウ原告は,平成24年4月1日から平成27年3月31日まで,上記イと
同様に,1年ごとに再任用され,以下の条件で勤務した(甲4,5,乙3
の3及び4)。
勤務時間月曜日から木曜日までは午前9時から午後2時ないし
午後3時(うち休憩時間1時間)までの計4時間ない
し5時間
金曜日は午前9時から午後2時(うち休憩時間1時間)
までの計4時間
勤務場所札幌保護観察所
給与時給875円
本件再任用拒否
札幌保護観察所長は,平成27年2月26日,原告に対し,事務補助職員
応募の結果について,同年4月1日以降は原告を任用することはできない旨
を通知した(甲6)。
3争点及び争点に関する当事者の主張
本件の争点は,本件再任用拒否の国家賠償法上の違法性の有無(争点1)並
びに損害(慰謝料及び弁護士費用)の発生の有無及び額(争点2)であるとこ
ろ,争点1に関する当事者の主張は,次のとおりである。
原告の主張
任期付公務員については,再任用を求める法的権利までは認められないも
のの,被任用者である当該公務員において,任用期間満了後も任用が継続さ
れると期待することが無理からぬものとみられる行為をしたというような特
別の事情が認められる場合には,当該再任用拒否行為が国家賠償法上の違法
性を帯びる(最高裁判所平成6年7月14日第一小法廷判決・裁判集民事1
72号819頁参照。)。
そして,本件においては,以下の事情を総合すると,上記特別の事情が存
在することが明らかである。
ア多数回かつ長期間にわたって再任用が繰り返されていたこと
原告は平成4年6月に札幌保護観察所に採用されて以降,合計13回再
任用され,通算23年間もの長期にわたり同観察所において同内容の業務
に従事してきた。一般的に,再任用回数が多数回になればなるほど,また,
勤務期間が長期になればなるほど,被任用者は,当該任用が実質的に期限
の定めのない任用(労働契約法18条の趣旨参照)であると信頼し,今後
も再任用されるとの認識を有するのが通常である。
イ雇用契約書に再任用を前提とした記載が存在すること
原告に交付された雇用契約書(甲4)には,継続勤務期間が6か月以上
であれば所定の年次有給休暇を取得することができ,また,雇用期間が1
年間増えるごとに取得可能な日数も増加すること,さらには,年次有給休
暇は翌年まで繰越しが可能なこと等が記載されている。
これらの記載によれば,任用が繰り返されることが契約書上前提とされ
ているものと解するほかない。
ウ再任用手続が形骸化していたこと
期間業務職員の採用については,公募によらず同一人物を任用すること
は連続2回を限度とするように努めるべき旨の通達の定めがある(平成2
2年8月10日人企-972〔乙15〕)にもかかわらず,札幌保護観察
所においては,平成22年度から平成25年度までの間,一度も公募をす
ることなく原告の任用を継続し,平成26年度については公募を実施した
上で原告を再任用している。
原告としては,上記通達に反してまで原告の任用が継続されており,今
後も自身が再任用されるものと信頼することがやむを得ないといえる。ま
して,北海道内に10ある保護観察所のいずれにおいても,再任用を希望
した職員の任用を拒絶した例はなかったのであるから,原告が再任用を拒
絶されることを予見することは困難であった。
エ原告の再任用を拒絶する合理的理由が存在しないこと
札幌保護観察所は,原告が再任用を拒否された年に新たに2名の職員を
任用しており,人員を削減する必要性は乏しかったばかりか,原告は,こ
れまで懲戒処分はおろか,上司から注意ないし指導を受けたことが一度も
なかったのであるから,原告の再任用を拒否する合理的理由は存在しない。
オ当時の保護観察所長等が,原告に再任用の期待を生じさせる言動をした
こと
平成4年6月1日頃
原告が,札幌保護観察所において初めて任用される際,当時のA所長
及びB課長は,原告に対し,「65歳を目標に,できるだけ長く勤めて
欲しい。」と述べた。
平成10年6月頃
原告は,1か月ほど入院することになったことから,当時のC所長及
びD課長(後記のとおり,後に札幌保護観察所長となった。)に対し
て辞意を伝えたところ,D課長は「早く戻って来られることをお待ちし
ています。」と書かれた手紙(甲7)を原告に交付した。
平成15年3月頃
原告は,自身の家族が不祥事に関与したことから,当時のE所長及び
F課長に対して辞意を伝えたところ,両名は,「安心してください。」
と述べて原告を慰留した。
平成22年1月頃
札幌保護観察所において勤務していた原告を含む5名の内勤保護司が
所長室に呼び出され,当時のD所長(上記のとおり課長の地位にあっ
た。)及びG課長から,平成22年3月31日をもって内勤保護制度が
廃止され,内勤保護司の身分が事務補佐員に変更されることに関する説
明を受けた。
その説明の中で,D所長は,「2年間は5名体制で行きます。」,
「内勤さんは何も気にしないで,ずーっと居ていいんだよ。ただ,制度
が変わって,一年更新になるだけで,仕事の内容も変わらないし,勤務
時間が短い分だけ今までどおりの仕事をこなせばいい,それだけだか
ら。」などと発言した。
平成24年1月ないし同年2月頃
札幌保護観察所において勤務していた原告を含む計5名の事務補佐員
が所長室に呼び出され,当時のH所長が次年度は4名体制とすることを
告げた。その際,原告が自身の任用期限について尋ねると,H所長は
「働きたかったらずーっと働いていいさ。」と発言した。
カ小括
上記アないしオの各事情に照らすと,札幌保護観察所長は,多数回かつ
長期間の再任用を続け,平成22年度以降,選考手続を実施することなく
更新を前提として漫然と原告の形骸的な再任用手続を繰り返し,平成27
年度の公募にあっても,原告に対して再任用を拒絶する可能性を認識させ
る措置を講じることなく,原告の再任用を黙示的に保障し,法的保護に値
する期間満了後も任用が継続されるという期待を原告に抱かせていたもの
であって,保護観察所長等の上記言動等を併せて考慮すると,上記特別の
事情が存在するというべきである。
被告の主張
ア判断の基準
国家公務員の任用は,国家公務員法及び人事院規則に基づいて行われ
る公法上の行為であり,任期付きの国家公務員においては,任期が更新
されない限り任期満了により当然に退職したものと扱われ,新たな任用
行為として退職した職員を再び採用するか否かは,任命権者の裁量に委
ねられている。
したがって,再度任用しなかったこと自体が国家賠償法上違法となる
余地はない。
確かに,原告が指摘する判例は,任命権者等が「期間満了後も任用が
継続されると期待することが無理からぬものとみられる行為をしたと
いうような特別の事情」がある場合に,当該行為について国家賠償法
上の違法性が認められる余地を肯定しているが,上記判例が国家賠償
法に基づく損害賠償を認める余地を肯定するのは,飽くまで,被任用
者が「期間満了後も任用が継続されると期待することが無理からぬも
のとみられる」公務員の行為についてである。
したがって,上記判例を前提とする限り,原告が主張するような,職
務の性質,再任用の回数及び期間,再任用拒絶の例,再任用手続の形骸
化,再任用を拒絶すべき合理的理由の有無等の事情(上記⑴アないしエ)
が公務員の上記行為とは別個に,再任用を拒絶したことに関する国家賠
償法上の違法性を基礎づける事情とはならないものというべきである。
したがって,本件において,上記⑴アないしエの事情は,上記判例に
いう「特別の事情」を基礎づける事情には該当しない。
イ保護観察所長等の言動が再任用に対する合理的期待を生じさせる行為に
当たらないこと
平成22年3月31日以前に採用されていた保護司は,労務の提供に
対する対価としての給与の支払のない,飽くまでボランティアを本質と
する職制であるから,同日以前の原告の任用が今後も継続するであろう
との法的期待は生じない。
したがって,同日以前の保護観察所長等の言動が平成27年4月以降
の原告の再任用に係る期待を生じさせるものとはいえない。
平成22年3月31日以前の保護観察所長等の言動について
原告が主張するD課長及びE所長の言動は,原告がもちかけた相談に
対して退職の要否につき回答したものにすぎず,原告の辞任の申入れに
対して積極的に慰留した事実は存在しない。
また,平成22年1月頃,同年3月末をもって内勤保護司制度が廃止
されることを原告らに説明する際,D所長が,原告の主張するような趣
旨の発言をしたという事実は存在しない。
平成24年1月ないし2月のH所長の言動について
原告は,平成24年1月ないし2月頃に,H所長から「働きたかった
らずーっと働いていいさ」などと言われた旨主張しているが,そもそも
そのような事実は訴状において主張されておらず,審理が終盤に至り突
如として主張されるに至ったものである。また,予算の制約がある非常
勤職員の任用に関し,期間の定めなく原告が希望する期間の任用を継続
するという,およそ実現不可能な発言を所長の立場にある者がするとは
考え難い。
したがって,H所長の発言に関する原告の主張は不合理であり,その
供述経緯も不自然であるから,これを信用することはできない。
ウ小括
以上より,原告が主張する事情は,そもそもそのような事情に該当する
事実自体が存在しないか,又は法的保護に値する再任用に対する合理的期
待を生じさせるに足る事情には当たらないから,いずれにせよ,本件再任
用拒否が国家賠償法上の違法性を有するとは認められない。
第3当裁判所の判断
1認定事実
前記前提事実に加え,各項掲記の証拠(なお,書証番号については,特に付
記しない限り,全ての枝番を含む。)及び弁論の全趣旨を総合すれば,以下の
事実を認定することができる。
平成10年6月頃のD課長による見舞文の交付
平成10年6月頃に原告が約1か月の入院をすることになった際,当時の
D課長は,原告に対し,同月25日付けで「役所の方はなんとかやっていま
すので,ご心配なく,リハビリに専念してください。早く戻って来られるこ
とをお待ちしています。」と記載した見舞いの手紙を書いた(甲7)。
平成22年1月頃のD所長による説明
平成22年1月頃,D所長及びG課長は,札幌保護観察所所長室において,
当時同観察所に任用されていた原告を含む5名の内勤保護司に対し,同年3
月末をもって内勤保護司制度が廃止され,その後,内勤保護司の身分が事務
補佐員という身分に変更されること,及び,仕事の内容は従前と変更がない
こと,さらに,平成22年度はこれまでどおり5名の職員を任用することが
可能であるが,翌年度以降は任用可能な職員の数が減尐する可能性があるこ
と等を説明した(証人D,原告本人)。
平成24年1月頃のH所長の説明
平成24年1月頃,同年4月以降は札幌保護観察所において任用される事
務補佐員の予算が5名分から4名分に減額されることから,H所長は,札幌
保護観察所に当時勤務していた原告を含む5名の事務補佐員を所長室に呼び
出し,5名の体制を維持した場合には各自の収入が減尐する旨説明し,事務
補佐員らの意見を聴取した。
そうしたところ,5名のうちの1名が自ら同年3月末をもって退任する意
向を示したため,同年4月以降は,同人を除く4名について引き続き任用す
ることができる見込みとなり,実際にも上記4名につき再任用がなされた。
(乙26,原告本人)
平成22年4月1日から平成27年3月31日までの任用手続
札幌保護観察所長は,平成22年4月1日から平成27年3月31日の間
に原告を事務補佐員として再任用する際,原告に対し,再任用の都度,雇用
契約書(甲4,乙3)及び人事異動通知書(甲5)を手交した。
上記各雇用契約書には,「雇用の更新」欄に,次回更新は1年とし(ただ
し,平成25年4月及び平成26年4月の各雇用契約書の同欄には予定期間
終了後は任用を更新しない旨記載されている。),更新しない場合は任用期
間満了の30日前までに通知する旨記載されている。
2事実認定に関する補足
原告は,①平成22年1月頃,D所長が「内勤さんは何も気にしないで,
ずーっと居ていいんだよ。」と,また,②平成24年1月ないし同年2月頃,
H所長が「働きたかったらずーっと働いていいさ。」とそれぞれ発言したと
主張し,原告本人もこれらに沿う供述をする。
しかし,原告が主張するD所長及びH所長の上記各発言については,それ
らの発言の存在を裏付ける客観的証拠は存在しない上,
おり,平成22年1月頃及び平成24年1月頃のいずれの時点においても,
翌年度以降任用できる事務補佐員については減員の可能性が示唆されていた
状況にあったのであるから,そのような状況において,任命権者である札幌
保護観察所長が,その後の任用継続を保障するかのような発言に及ぶとは考
え難く,本件において,両所長が上記各発言に及んだことをうかがわせる事
実も認められない。
これらの事情によれば,D所長及びH所長が当時上記各発言に及んだとは
認められず,結局,原告主張を採用することはできない。
3検討
判断基準
ア国家賠償法1条1項における違法とは,国又は公共団体の公権力の行使
に当たる公務員が個別の国民に対して負担する職務上の法的義務に違背す
ることをいい(最高裁判所平成17年9月14日大法廷判決・民集59巻
7号2087頁参照),公務員が職務上通常尽くすべき注意義務を尽くす
ことなく漫然と当該行為をしたと認められるような事情がある場合に限り,
当該行為が国家賠償法上の違法性を有するとの評価がされることになるも
のと解するのが相当である。
イこれを期限付任用に係る国家公務員の任用についてみると,同任用は,
国家公務法及び人事院規則に基づいて行われる公法上の行為であり,その
任用関係は任用予定期間の満了により当然に終了し,その後の再任用は,
給与等に関する予算上の制約等の下,任命権者たる行政庁が裁量によって
行う新たな行政処分である。したがって,当該職員は,任用予定期間の満
了後に再び任用される権利若しくは任用を要求する権利又は再び任用され
ることを期待する法的利益を有するものではなく,再任用がなされなかっ
たことをもって,これが国家賠償法上違法となる余地はないものというべ
きである。
もっとも,任命権者が,当該職員に対して,任用予定期間満了後も任用
を続けることを確約ないし保障するなど,当該職員において同期間満了後
も任用が継続されると期待することが無理からぬものとみられる行為をし
たというような特別の事情がある場合には,当該職員にそのような誤った
期待を抱かせた行為について,国家賠償法上の違法性が認められるものと
いうべきである(最高裁判所平成6年7月14日第一小法廷判決・裁判集
民事172号819頁参照)。
本件へのあてはめ
アこれを本件についてみると,前記前提事実及び上記認定事実によれば,
札幌保護観察所は,平成22年4月1日以降,原告を事務補佐員として任
用する際,その都度,任用期間を1年とする旨,次回更新は1年とする旨
(平成25年度以降は,期間満了後は原則として任用を更新しない旨の記
載に変更された。),更新しない場合は事前に通知する旨をそれぞれ記載
した雇用契約書を交付していたことが認められ(上記認定事実⑷),この
ような手続に鑑みれば,仮に長期間にわたる任用が事実上反復継続されて
いたとしても,原告としては,当該雇用契約書に定められた任用期間が満
了すれば,改めて再任用が必要であることを当然に認識することができた
というべきである。また,原告は,平成24年1月頃の時点において,そ
の後も任用が更新されるかどうか不安であった旨供述しており(原告本
人),同時点においても,その後の制度変更等によっては自身が再任用を
拒否されるおそれがあることを認識していたというべきである。
この点について,原告は,上記雇用契約書別紙の年次有給休暇の取得
に関する記載が1年を超える任用期間を前提とするものとなっていること
から,当該記載が原告の継続的任用に対する期待を生じさせるものである
旨主張するが,上記任用継続の経緯によれば,当該記載は,再任用されて
任用期間が1年間を超えた場合の取扱いに関するものというべきであり,
次年度以降も必ず任用されることを保障する趣旨のものとみることはでき
ないから,原告の上記主張を採用することはできない。
そして,当時の任命権者であったD所長及びH所長が,原告が主張する
ような発言をしたと認められないことは上記2⑵のとおりである。
これらの事情によれば,本件において,任命権者等が平成27年4月1
日以降も原告が任用継続されると期待することが無理からぬとみられる行
為をしたというような特別の事情があったと評価することはできない。
イそのほかに,原告は,原告が札幌保護観察所において任用された直後の
平成4年6月1日頃に,A所長が「65歳を目標に,できるだけ長く勤め
て欲しい」と発言し,平成15年3月頃には,E所長も原告が札幌保護観
察所に留まるよう述べたとも主張するが,仮にこれらの事実が認定できる
としても,本件再任用拒否の12年以上前のものであり,かつ,内勤保護
司制度廃止前にされた上記各発言が,平成27年4月の事務補佐員として
の再任用について原告に任用が継続されるとの期待を生じさせるものとは
いえない。
また,D課長が原告に宛てた見舞文(甲7)についても,当該文書は同
じ職場に勤務する部下ないし同僚が入院したことに対し儀礼的に交付され
たものと解され,上記各発言と同様,本件再任用拒否から16年以上も前
のものであることからしても,原告に上記期待を生じさせるものとは認め
られない。
なお,原告は,再任用の回数が多数であり,かつ,任用期間が長期間に及
んでいること(第2の3ア),再任用手続が形骸化していたこと(第2の
3ウ),再任用を拒否する合理的理由が存在しないこと(第2の3エ)
等の各事情が存在し,そのいずれもが,原告が平成27年4月1日以降も任
用が継続されると期待することが無理からぬものとみられる行為をしたとい
うような特別の事情を基礎づける事情に当たる旨主張する。
しかし,上記のとおり,国家公務員の任用は国家公務員法及び人事院規則
に基づいて行われる公法上の行為であり,その効力は任用期限の経過により
当然に終了し,その後の再任用は,任命権者たる行政庁が裁量によって行う
新たな行政処分であるから,再任用を拒否することに合理的理由が必要とさ
れるものではなく,再任用が多数回かつ長期間にわたって反復継続して行わ
れたとしても,そのことをもって任用継続を期待することが無理からぬもの
とみられる行為に当たると評価することはできない。
そして,国家公務員の任用は,上記のとおり,国家公務員法及び人事
院規則等の諸規定にのっとり適正に行われるべきものであるが,仮に原告の
従前の任用手続が形骸化していたなど,原告主張のとおり,当該各種規定の
趣旨に反して行われていたとしても,当該任用手続が原告に平成27年4月
1日以降の任用を期待させるものとは認められない。
4小括
以上によれば,本件再任用拒否については,札幌保護観察所長等が,原告に
対し,原告において任用予定期間満了後も任用が継続されると期待することが
無理からぬものとみられる行為をしたというような特別の事情の存在を認める
ことはできないから,国家賠償法上の違法性を認めることはできない。
第4結論
よって,その余の点について判断するまでもなく,原告の請求は理由がないか
ら,これを棄却することとして,主文のとおり判決する。
札幌地方裁判所民事第3部
裁判長裁判官湯川浩昭
裁判官宇田川公輔
裁判官遊間洋行

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