弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     原判決を取消す。
     被控訴人は控訴人が被控訴人の子であることを認知せよ。
     訴訟費用は第一、二審共被控訴人の負担とする。
         事    実
 控訴代理人は主文同旨の判決を求め、被控訴人は控訴棄却の判決を求めた。
 当事者双方の事実上の主張は、原判決事実摘示と同一であるので、ここにこれを
引用する。
 証拠として、控訴代理人は、甲第一ないし第四号証を提出し、原審証人A(第
一、二回)B、C、当審証人D、E、F及びGの証言、原審並びに当番における控
訴人(原告)法定代理人親権者母Hの本人訊問の結果及び当番における鑑定人Iの
鑑定の結果を援用し、乙第一号証は添附の出生証明書中出生の年月日欄の記載の抹
消部分(2、12という数字)の成立を否認する外その他の成立を認める。乙第五
号証は控訴人の母H外五名の写真であることを認める。その余の乙号各証の成立は
全部知らないとのべ、被控訴人は、乙第一ないし第七号証を提出し、原審証人A
(第一回)、J、K(第一、二回)、L、M及び当番証人Nの証言、原審における
検証並びに鑑定人Oの鑑定の結果及び当番における被控訴人本人の訊問の結果を援
用し、甲第一号証の成立は認める。その余の甲号各証の成立は知らないとのべた。
         理    由
 長野県から交付の姙産婦手帳であつて原審証人Aの証言(第二回)によリその内
容の記載の真正に成立したことを認めうる甲第一号証(P名義の姙産婦手帳)、添
附の出生証明書中、出生の年月日欄の記載の抹消部分(2、12という数字)を除
きその他の成立につき争なく当裁判所もまた右争ないことにより真正に成立したと
認める乙第一号証(届出人H名義の控訴人出生届並びにA作成の出生証明書)、並
びに、原審証人Aの証言(第一、二回)原審並びに当番における控訴人(原告)法
定代理人Hの本人訊問の結果を綜合すれば、控訴人は、Hのうんだ子であつて昭和
二十三年一月十六日生れたことが明かである。被控訴人は、右出生の日時を争い、
控訴人は真実は昭和二十二年十二月下旬生れたのであるが、届出に当り昭和二十三
年一月十六日生れたように作為したものであると主張しているが、なる程前記乙第
一号証添附の出生証明書の出生の年月日欄の記載には、昭和二十三年一月十六日と
ある下にうすく2、12の数字が見え、これを生かして見るときは、一旦出生の年
月日昭和二十二年十二月十六日と記載したものを後日2、12の数字を消し3、1
の数字を加え現在のようにしたとも疑われ、又、原審証人K(第二回)Mの証言に
よれば、控訴人の出生届受理後、西条村長が作成して松代保健所におくつた控訴人
の出生票には助産婦Aと記載されながら、人口動態調査表には助産婦Jと記載され
ていて、その間助産婦の記載に食いちがいのあつた事実が認められるが、当番にお
ける被控訴人の供述によるも、控訴人の母Hは、少くとも昭和二十二年十二月十八
日にはまだ控訴人をうんでおらず懐胎のまま同日の調停期日に出頭した事実が明か
であるので、その前昭和二十二年十二月十六日既に控訴人をうんでいたとは到底い
うことができず、又原番証人Mの証言によれば、前記出生票と人口動態調査表との
助産婦の記載の食いちがいは松代保健所の係員Mから西条役場戸籍係Lに照会した
結果出生票の記載の方が正しいと判つたので調査表のJをAと訂正したことが明か
であるので、何が故に前記出生証明書の出生の年月日欄の記載にうすく2、12の
数字が見えているのか、又、出生票と人口動態調査票の助産婦の記載にどうしてこ
んな食いちがいが生じたのか、その理由原因は証拠上これを詳らかにするをえない
が、これだけのことで控訴人は昭和二十二年十二月下旬Jの助産によりうまれたの
であると認めることができず、その他被控訴人の提出援用にかかるすべての証拠に
よるも未だ右事実を認定することができない。なお被控訴人は、出生日時が昭和二
十三年一月十六日でない事情の一としてHは同年一月二十六日被控訴人を背負い乗
合自動車にのつて居村より四、五里もある長野の裁判所まで出頭した事実をあげ、
これはありうベきことでないといつているが、被控訴人の当審における供述による
も右は誤りであつて、当番における控訴人決定代理人Hの供述によれば、同人は当
日産じょくにおつて出頭せず、出頭したのは同年二月二十三日でおつたことが明か
であるから、右についての被控訴人の主張は理由がない。
 ところで、控訴人が果してHと被控訴人との間に生れた被控訴人の子であるかど
うかが本件眼目をなす争であるが、被控訴人の当審における供述によれば、被控訴
人は、昭和二十二年四月二十九日Qの媒酌によりHと結婚の式をあげ、爾来Hが同
年八月二十三日実家に帰るまで、引きつづき内縁の夫婦として被控訴人方に同棲し
ていた事実が認められるので、控訴人が前認定のとおり昭和二十三年一月十六日出
生したものとすれば、控訴人は、その母Hと被控訴人の右内縁関係成立後二百六十
三日目、又、Hが被控訴人との同棲を断絶して後百四十六日目に生れたこととなる
ので、民法第七百七十二条の規定を類推し、控訴人は、右内縁関係成立前既
に懐胎せられていたこと、又は、内縁関係成立後懐胎せられたとしてもその間その
母Hに不貞の行状があつたとの反対の証拠のない限り、被控訴人とHの内縁関係中
にHによつて懐胎せられた子で、従つて被控訴人の子であると推定するのが相当で
ある。
 けだし、法律上の婚姻といい、内縁の夫婦といい、これを法律上すべての点にお
いて同一に取り扱うことは、固より許さるべきことではたいが、内縁の夫婦は少く
とも単たる野合とはちがうのであつて、内縁の夫婦間の性関係と内縁の妻の貞節と
が法律上の婚姻の場合と本質的に同一であるとみられる限りにおいては、婚姻の場
合における父性推定の規定たる民法第七百七十二条は、内縁の場合において内縁の
妻の懐胎した子の父性を認定するため類推適用されて然るべしと思われるからであ
る。
 よつて、右の見地に基き逐次この点に関する被控訴人の反証について吟味してみ
よう。
控訴人の母Hが被控訴人との内縁関係持続中、不貞の所為があつたという事実は、
被控訴人も格別主張していないし、又これを認めるに足る証拠もない。被控訴人の
主として主張するところは、控訴人は右内縁関係成立前既に懐胎せられていたとい
うことで、これを推測すべき事情としていろいろの事実をあげている。
 しかしながら(1)控訴人がうまれたのは昭和二十三年一月十六日でおつて昭和
二十二年十二月下旬でないことは前認定のとおりである。(2)被控訴人は、控訴
人はその発育状況よりみて受胎後十ケ月を経過して出生したものであると主張する
が、当審証人Nの証言並びに当審にあける被控訴人本人の供述によるも、未だにわ
かに右事実を断じがたく、同人等は、当審において、Hが昭和二十二年七月頃Nの
問に答えて胎児が腹の中でうごくといつたこと、又、昭和二十三年二月二十三日の
長野の裁判所における調停期日において調停委員等がHのつれて来た控訴人をみ
て、一月十六日生れとしては大きいといつたこと等を供述しているが、これ等をと
つて直ちに控訴人は出生当時成熟児であつたと断定するのは頗る危険であつて、
又、原審証人小林きくは、出生当時控訴人の体重は六百八十匁であつたといいなが
ら(第一回)後、七百二十匁あつたといい(第二回)控訴(原告)代理人がこれを
だしかめたところ、六百八十匁であつたと訂正した(第二回)ことは、その調書の
記載により明かでおるが、それがため、同証人の証言は全部信用できないというの
はいささか早計であつて、却つて、右証人の証言並びに前記甲第一号証、乙第一号
証の記載によれば控訴人は、受胎後九ケ月を経て出生したものであつて、出生当時
その体重は六百八十匁にすぎなかつた事実が認められる。(3)被控訴人は、又、
控訴人の母Hは、被控訴人との同棲後四、五日して軟性下疳の症状を呈しあまつさ
えこれを被控訴人に感染せしめたため、被控訴人は昭和二十二年八月頃切開手術を
受けるの止むなきにいたつた。そして、被控訴人は従前他の女と関係したことなく
従つてかかる病気にかかつたこともないから、右事実はHが被控訴人と同棲前他の
男と関係したことを物語るものに外ならないと主張し、Hが被控訴人と同棲後四、
五日にして軟性下疳症状を呈したことは、原審並びに当審における控訴人(原告)
法定代理人Hの供述によつて明かであるが、軟性下疳は、感染後初めは局部発赤し
一両日で小丘疹を生じ数日で潰瘍となることは公知のことであるので、Hが被控訴
人と同棲後四、五日して軟性下疳の症状を呈したからといつて、直ちに同人が控訴
人以外の男によつて感染をうけたと速断することを許さず、この点に関する被控訴
人の当審における供述は当裁判所の信用しないところで、これをおいて他に右事実
を認めるに足る証拠はない。(4)被控訴人は、尚Hの最終月経のあつたのは昭和
二十二年三月であつて、同年四月はついに月経をかなかつたと主張するが、右事実
を認めるに足る証拠なく、却つて甲第一号証の記載及び原審並びに当審における控
訴人(原告)法定代理人Hの供述によれば、同人の最終月経は、昭和二十二年四月
十六日来潮し、六日間つづいたことが明かである。(5)被控訴人は、さらに、H
は昭和二十二年四月初旬まで長野県埴科郡a町綿貫製絲工場に女工として雇われて
いたが、その間男工との間にとかくの噂あり、昭和二十二年四月被控訴人と結婚す
るこどにきまると同工場内二、三の男女工と共に同県下高井郡湯田中温泉佐野北旅
館に二晩泊りで入湯に行つた事実があると主張し、Hが綿貫工場に勤務していた事
実は右H本人の供述により明かであるが、その余の事実殊にHが、被控訴人と同棲
前他の男と情交した事実は被控訴人の提出援用にかかるすべての証拠によるもつい
にこれを認めることができない。
 以上のとおりで、被控訴人の疑惑は、控訴人の母Hが被控訴人同棲後あまりに早
く控訴人を懐胎したこと、並びに控訴人が懐胎後十ケ月を経過せずして九ケ月にし
て出生したことに基因するものであつて、感情上まことに無理からぬところではあ
るが、仔細にその主張並びに証拠を一つ一つ吟味し検討するときは、到底控訴人が
被控訴人の子であるという前記推定を打ち破るだけの力なく、これを要するに、原
審における検証並びに鑑定人Oの鑑定の結果、その他被控訴人の提出援用にかかる
証拠は固より本件にあらわれたあらゆる証拠によるも、未だ前記推定を覆えし控訴
人が被控訴人の子でないという事実を認定することができず、却つて当審における
鑑定人Iの信ずべき鑑定の結果によれば、控訴人、その母H及び被控訴人の各血液
型、指紋、掌紋、手筋を調査し人相等につき人類学的比較をなした結果、固より真
実被控訴人が控訴人の父であるとの断定はできないが、その父であることの可能の
確率は五五、六パーセントであつて、法医学上からはむしろ控訴人は被控訴人の子
であると認定するのが相当である事実が認められるので、前記推定はここに科学的
根拠を得て一層強められたものというべきである。
 以上の次第で、本件において確定せられた叙上の事実関係の下においては、控訴
人は、被控訴人の子であると認めるのが相当であるので、被控訴人は控訴人を認知
すべき義務あり、控訴人の本訴請求は正当であつて認容すべく、これを排斥した原
判決は不当であつて控訴人の控訴は理由があるから、民事訴訟法第三百八十六条、
第九十六条、第八十九条を適用し主文のとおり判決した。
 (裁判長判事 大江保直 判事 梅原松次郎 判事 真野英一)

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