弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件控訴を棄却する。
         理    由
 弁護人佐藤達夫、同袴田重司の各控訴趣意は記録に編綴の同弁護人等の各控訴趣
意書の記載と同一であるから茲に引用する。
 各控訴趣意第一点について、
 しかし原判決挙示の原判示(二)(三)事実に関する証拠を綜合すれば優に同事
実を認定しうべく記録を精査するにこの点に関する原判決には事実誤認を窺うべき
事由や理由不備ないし採証上の経験則違反等の違法は存しない。各所論は原審の専
権に属する採証を批難し或は独自の見解に基き原判決の認定を攻撃するものであつ
て採るをえない。論旨は理由がない。
 同第二点について
 原判決挙示の原判示(一)事実に関する証拠を綜合すれば優に同事実を認定しう
べく記録を精査するにこの点に関する原判決には事実誤認を窺うべき事由や理由の
くいちがい等の違法は存しない。なお記録によれば原審検察官は原審第八回公判に
おいて「被告人は昭和二十五年二月二十日午後四時頃仙台市A農業協同組合自動車
置場よりB所有の自転車一台を窃取した」との訴因が認定されない場合「被告人は
昭和二十五年三月五、六日頃仙台市ab番地の被告人の自宅前において氏名不詳の
者より盗品であることの情を知りながら中古自転車一台(Bが仙台市A農業協同組
合自転車置場において盗まれたもの)を買受けた」事実を認定されたいと予備的に
追加請求し、罪名罰条を窃盗罪、刑法第二百三十五条として処断しえない時は贓物
故買罪、刑法第二百五十六条第二項(記録には刑法第二百五十六条第一項と記載さ
れているが同条第二項の誤記と認める)として処断すべきであるとした。これに対
し主任弁護人は訴因罰条の予備的追加には異議なしと述べ裁判官は右訴因罰条の予
備的追加を許可したことが明認しうるのであつて原判決はこの予備的に追加された
事実即ち贓物故買の事実を認定したのである。しかして其の証拠中に掲げている被
告人の司法警察員Cに対する第二回供述調書は原審第二回公判において検察官より
「被告人の弁解、特に昭和二十五年六月二十日、同月二十一日の行動、繩について
の弁解、及び六月二十日盗難にあつた自転車を同月十八日買受けたものである旨の
弁解等の状況」を立証するため同第一、三回の各供述調書と共に取調を請求し、之
に対し弁護人は取調に異議なしと述べ裁判官は同意のあつた右各供述調書につき証
拠調をする旨を告げて適法な証拠調を施行したことが記録により確認しうるのであ
るから右各供述調書の被告人の弁解等の状況換言すれば前記予備的追加請求に係る
事実の本位的訴因たる窃盗事実を含む合計三個の窃盗被告事件(予備的追加請求の
あつた昭和二十五年(わ)第四一七号及び同(わ)第四六二号の公訴事実)につい
ての弁解状況等を立証する証拠として取調を請求し弁護人は其の取調請求につき異
議を述べなかつたものであつて単に昭和二十五年(わ)第四六二号事件の公訴事実
について弁解状況の証拠として取り調べられたものでないことは明らかである。よ
つて前記第二回供述調書を基本的事実において同一な一罪の一部である叙上贓物故
買事実の証拠として採用したからといつても被告人<要旨>側の防禦に何等の消長を
来すものでないから毫も違法の点は存しないというべきである。斯くの如き本位的
因についての証拠は予備的に追加された訴因についての証拠に当然なると
解することこそ蓋し予備的追加訴因の制度を認めた立法の精神に合致するものであ
る。又これら供述調書は警察官より前記三個の窃盗被疑者として尋問すること、終
始沈黙し又は個々の質問に対し陳述を拒むことが出来る旨を告げられた上なされた
供述記載である以上基本的事実において異らない前記予備的追加事実について改め
て同一の告知をする要なく直ちに採つて之を予備的追加事実である贓物故買事実認
定の資料とすることは毫も妨げないところであると解すべきである。なお原判決
は、自白のみによつて犯罪成立要件の一部である「贓物知情」の点を認定したこと
を窺知しうるが犯罪事実の一部について被告人の自白以外に証拠がない場合にそれ
と他の証拠を綜合して犯罪事実全体を認定することは刑事訴訟法第三百十九条第二
項の趣旨に反するものではなく之をもつて違法とすることは出来ない。本件におい
て原判決は判示(一)の事実について被告人の自白の外幾多の証拠を掲げているの
であるから「贓物知情」という贓物故買罪成立要件の一部に過ぎない点について被
告人の自白の外に他に証拠を挙げていないからといつて前記法律の規定に違背し採
証の法則を誤つて事実を不法に認定したということは出来ない。次に原判決は右判
示(一)事実認定の証拠にDの検察事務官に対する第一回供述調書中の供述を掲げ
其の一部である「右自転車はEが窃んだものだということを警察の方から聞いた」
との部分をも採用していることは記録上明らかであるが右括弧内の事項は伝聞事項
であるから直ちに之をもつて被告人の窃盗事実認定の証拠となしえないことは洵に
明瞭であるが原判決は他の証拠と綜合して之を被告人の贓物故買事実認定の一資料
としたのであるから採証上何等の違法も存しない。各所論は孰れも独自の見解に基
いて原審の認定を批難攻撃するものであつて到底採用することは出来ない。従つて
論旨は理由がない。
 同第三点について、
 記録を仔細に調査し、被告人の経歴、家族、前科等の関係、犯行の動機態様、犯
行後の情況、其の他諸般の情状を斟酌考量して原審の量刑を検討するに重きに失す
る不当があると認めることは出来ないから各論旨は採用しない。
 よつて刑事訴訟法第三百九十六条に則り本件控訴を棄却すべきものとして主文の
とおり判決する。
 (裁判長裁判官 大野正太郎 裁判官 松村美佐男 裁判官 蓮見重治)

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