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平成17年(行ケ)第10710号審決取消請求事件
平成18年5月17日口頭弁論終結
判決
原告株式会社シーエスデー
訴訟代理人弁理士丹羽宏之,野口忠夫,吉澤大輔
被告特許庁長官中嶋誠
指定代理人廣岡浩平,衣鳩文彦,立川功,青木博文
主文
特許庁が不服2003-11597号事件について平成17年8月18日にした
審決を取り消す。
訴訟費用は被告の負担とする。
事実及び理由
本判決においては,審決や書証等を引用する場合に,公用文の表記法に従い,あるいは,本
文中に指定した略称を用いた箇所がある。
第1原告の求めた裁判
主文と同旨の判決。
第2事案の概要
本件は,原告が,名称を「携帯電話を通じた広告方法」とする発明につき特許出
願をして拒絶査定を受け,これを不服として審判請求をしたところ,発明の容易想
到性(特許法29条2項)を理由に,審判請求は成り立たないとの審決がされたた
め,同審決の取消しを求めた事案である。
明細書(甲2の1,2の2)の記載によれば「従来の携帯電話は,電話機本体,
に通常液晶表示画面が付いているが,そこには通信者の電話番号など予め決まった
情報しか表示されず,また使用者が検索した情報しか表示され」ず「例えば特定,
地域の不特定多数(1:N)対象の広告情報あるいは緊急警告情報など多種類の情
報を得ることができない」ものであった(段落【0003【0004。本願】,】)
,,「,発明はこのような点に着目し既存の機能及びソフトを大きく変えることなく
緊急警告情報など多種類の情報が容易に得られる携帯電話を通じた広告方法を提供
することを目的としている(段落【0005,とされている。」】)
1特許庁における手続の経緯
(1)本件出願
発明の名称:携帯電話を通じた広告方法」「
出願番号:特願2000-290290号
出願日:平成12年9月25日(優先権主張:平成12年8月4日)
(2)本件手続
拒絶理由通知:平成14年10月17日(甲3)
拒絶査定日:平成15年5月20日(甲4)
審判請求日:平成15年6月23日(不服2003-11597号)
審決日:平成17年8月18日
審決の結論:本件審判の請求は,成り立たない」「。
審決謄本送達日:平成17年8月30日
2本願発明の要旨(平成14年12月26日付け手続補正書(甲2の2)による
。,「」。)補正後のもの請求項1ないし6のうち請求項1の発明を本願発明という
【請求項1】受信側の携帯電話機の表示画面を広告媒体とし,該表示画面に受信
側に対し不特定多数(1:N)又は通話時(1:1)に予め依頼された広告を表示
するようにするとともに,該広告情報の受信が許可されているかを判断するように
したことを特徴とする携帯電話を通じた広告方法。
3審決の理由の要点
審決の理由は,以下のとおりであるが,要するに,本願発明は,刊行物(特開平
11-88521号公報,甲7)に記載された発明(以下「引用発明」という)。
及び周知の技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるか
ら,特許法29条2項の規定により特許を受けることができない,というものであ
る。
「・・・刊行物には,
『受信側の携帯電話機の表示画面を広告媒体とし,該表示画面に受信側に対し通話時に予め
依頼された広告を表示するようにする携帯電話機を通じた広告方法』の発明・・・が開示さ。
れているものと認められる」。
「そこで,本願発明と引用発明とを対比すると,本願発明と引用発明とは以下の点で一致な
いし相違する。
(1)一致点
受信側の携帯電話機の表示画面を広告媒体とし,該表示画面に受信側に対し通話時に予め依
頼された広告を表示するようにする携帯電話機を通じた広告方法。
(2)相違点
ア.本願発明は,表示画面に受信側に対し不特定多数(1:N)又は通話時(1:1)に予
め依頼された広告を表示するのに対して,引用発明は,表示画面に通話時(1:1)に予め依
頼された広告を表示するものである点。
イ.本願発明は,広告情報の受信が許可されているかを判断するようにしているの対して,
引用発明ではそのようにしているか否か明確でない点」。
「1)相違点アについて(
本願の特許請求の範囲の記載によれば表示画面に予め依頼された広告を表示するのは受,,『
信側に対し不特定多数(1:N』又は『通話時(1:1』であるところ,引用発明は,表示))
画面に『通話時に予め依頼された広告を表示するよう』に構成され,上記『受信側に対し不特
定多数(1:N』又は『通話時(1:1』の後者の場合を充足しているから,相違点アは実))
質的に相違するものではない。
もっとも,受信側の携帯電話機の表示画面を広告媒体とし,該表示画面に受信側に対し不特
定多数(1:N)に予め依頼された広告を表示するようにすることは,特開平5-26018
5号公報,特開平9-261169号公報に開示されるように周知の技術であるから,引用発
明において,表示画面に受信側に対し不特定多数(1:N)又は通話時(1:1)に予め依頼
された広告を表示するようにすることは当業者であれば容易に想到し得ることである。
(2)相違点イについて
刊行物・・・の記載によれば,引用発明は,広告情報の提供を受けるか否かを携帯端末の使
用者が選択することができるものと認められるから,引用発明において,広告情報の受信が許
可されているかを判断するようにすることは当業者であれば容易に想到し得るものである」。
第3原告の主張(審決取消事由)の要点
審決は,拒絶査定と異なる拒絶理由によるものであるのに,新たに拒絶の理由を
通知せずになされたものであるから,特許法159条2項の準用する同法50条本
文の規定に違反する手続によるものであり(取消事由1,また,本願発明の容易)
,(),想到性の判断において本願発明と引用発明との一致点の認定を誤り取消事由2
相違点の判断を誤った(取消事由3)ものである。
1取消事由1(手続違背)
拒絶査定の理由は,平成14年10月17日付け拒絶理由通知書(甲3。以下,
同通知書による拒絶理由通知を,単に「拒絶理由通知」という)に記載された理。
由によって拒絶をすべきものである,というものである(甲4。そして,前記通)
知書には,本願発明は,引用文献1(特開平11-069024号公報,甲6)に
記載の発明から容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項
の規定により特許を受けることができない旨記載されている。これに対して,審決
は,前記引用文献1とは異なる文献を刊行物とし,本願発明は,引用発明及び周知
,。の技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとしている
このように,審決は,拒絶査定の理由とされた引用文献1とは異なる文献を刊行
物として引用し,本願発明の容易想到性を肯定したものであり,特許法159条2
項にいう「拒絶査定不服審判において査定の理由と異なる拒絶の理由を発見した場
合」に当たり,同項の準用する同法50条本文により,新たな拒絶理由を通知しな
ければならないものであった。ところが,審判手続においては,新たな拒絶理由を
通知することなく,拒絶査定とは異なる理由によって本願発明の容易想到性を肯定
したのであるから,特許法の前記規定に違反したものである。
なお,審決で引用された刊行物は,拒絶理由通知中でも引用されているものの,
,(),,そこでは本願発明請求項1に関してではなく本願の請求項2及び3に関し
「広告情報として,複数のものを表示し,ユーザが選択可能にすることは,周知の
事項である」ことを示す文献として引用されたものにすぎず,審決にいう「受信側
の携帯電話機の表示画面を広告媒体とし,該表示画面に受信側に対し通話時に予め
依頼された広告を表示するようにする携帯電話機を通じた広告方法」を示す文献と
して引用されたものではない。
2取消事由2(一致点の認定の誤り)
審決は,刊行物には「受信側の携帯電話機の表示画面を広告媒体とし,該表示画
面に受信側に対し通話時に予め依頼された広告を表示するようにする携帯電話機を
通じた広告方法」が記載されているとするが,同認定は誤りである。
上記「携帯電話機」に相当する刊行物の「携帯無線通信端末1」は,電話モード
とデータ通信モードとを有するところ,同端末に広告が表示されるのは「データ,
通信モード時」であって「通話時」ではない。また,引用発明における広告は,,
同端末からの接続要求に応じて共通サーバから送信されるものであるから,同端末
が送信側,共通サーバ装置が受信側となるものである。したがって,引用発明は,
「送信側」の携帯電話機の表示画面を広告媒体とするものであって「受信側」の,
表示画面を広告媒体とするものではない。
以上のとおり,刊行物には,審決の認定するような「受信側の携帯電話機の表示
画面を広告媒体とし「通話時に予め依頼された広告を表示する」ことは記載され」,
ていないから,審決における一致点の認定は,誤りである。
3取消事由3(相違点の判断の誤り)
(1)相違点アに関する判断の誤り
ア審決は「引用発明は・・・『受信側に対し不特定多数(1:N』又は,,)
『通話時(1:1』の後者の場合を充足している」とするが,引用発明が「通話)
時に予め依頼された広告を表示する」ものでないことは,前記2に主張したとおり
であるから,審決の前記判断は誤りである。
イ審決は「受信側の携帯電話機の表示画面を広告媒体とし,該表示画面に,
受信側に対し不特定多数(1:N)に予め依頼された広告を表示するようにするこ
とは・・・周知の技術である」とする。,
しかし,前記周知技術の認定の根拠とされた特開平5-260185号公報(甲
9,特開平9-261169号公報(甲10)は,いずれも「受信側の携帯電話),
機の表示画面を広告媒体」とするものではなく「受信側に対し不特定多数(1:,
N)に予め依頼された広告を表示する」ものでもないから,審決の上記認定は誤り
である。
(2)相違点イに関する判断の誤り
審決は「引用発明は,広告情報の提供を受けるか否かを携帯端末の使用者が選,
択することができるものと認められるから,引用発明において,広告情報の受信が
許可されているかを判断するようにすることは当業者であれば容易に想到し得るも
のである」とする。。
しかし,前記2に主張するとおり,引用発明における携帯無線通信端末は送信側
であるから,本願発明のように「受信側の携帯電話機の表示画面に広告を表示する
際に,該広告情報の受信が許可されているか判断する」ことはない。また,そもそ
も,引用発明においては,接続要求の際に,広告情報の提供を受けるか否かを決め
るのであるから,広告を表示する際に,広告情報の受信が許可されているか否かを
判断する必要もない。したがって,審決の前記判断は,誤りである。
第4被告の反論の要点
審判手続に瑕疵はなく,また,本願発明の容易想到性の判断において,一致点の
認定や相違点の判断に誤りはない。
1取消事由1(手続違背)に対して
審決の引用する刊行物は,拒絶理由通知書に引用文献2として引用されたもので
あり,拒絶査定における拒絶理由は「請求項1~6にかかる発明は,引用文献1,
~3に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであ
る」というものである。したがって,審決は,拒絶査定と異なる理由に基づいて。
されたものではない。
原告は,審決の引用する刊行物は,本願の請求項2及び3にかかる発明に対して
引用されたものであり,本願発明(請求項1)に対して引用されたものではない,
と主張する。しかし,拒絶理由通知時における特許請求の範囲の記載は「請求項,【
1】受信側の携帯電話機の表示画面を広告媒体とし,該表示画面に送信側の電話番
号と共に予め依頼された広告を表示するようにしたことを特徴とする携帯電話を通
じた広告方法【請求項2】広告項目は各ジャンル別に分類して各々複数種類用意。
し,それらの中から受信側で選択許可されたものを表示するようにしたことを特徴
とする請求項1記載の携帯電話を通じた広告方法」というものであり,拒絶理由。
通知後の補正により,請求項1に「該広告情報の受信が許可されているかを判断す
るようにした」点が追加されたのであるが,これは,補正前の請求項2に記載され
ていた「受信側で選択許可されたものを表示する」という点を表現を変えて追加し
たものである。このように,本願発明は,補正前の請求項2に記載されていた事項
を取り込んだものであり,補正前の請求項2に対しては,拒絶理由通知において,
審決の引用する刊行物と同じ文献が引用されていたのであるから,本願発明に対し
ても,同文献が引用されていたというべきである。
したがって,審決における説示は,拒絶査定における判断を補足したものにすぎ
ず,新たな拒絶理由を示すものではないから,特許法159条2項にいう「拒絶査
定不服審判において査定の理由と異なる拒絶の理由を発見した場合」には当たらな
い。
2取消事由2(一致点の認定の誤り)に対して
刊行物には「受信側の携帯電話機の表示画面を広告媒体とし「通話時に予め,」,
依頼された広告を表示する」ことが記載されているから,本願発明と引用発明との
一致点に関する審決の認定に,誤りはない。
すなわち,刊行物には「共通サーバ装置2は,広告情報の提供を受けることを,
選択した使用者の会員端末1に対しては・・・提供可能な情報提供サービスの一,
覧リストと広告情報とを接続を要求してきた会員端末1に提供し,広告情報の提供
を受けないことを選択した使用者の会員端末1に対しては・・・一覧リストを会,
員端末1の表示画面の全面に表示するようにして提供する。このように,この実施
の形態の会員端末1は,広告情報の提供を受けるか否かを会員端末1の使用者が選
択することができるものである(段落【0121「・・・自分宛てのファク。」】),
シミリデータや電子メールデータを会員端末1を介して受信する場合に,ファクシ
ミリデータや電子メールデータを主情報表示領域MFに表示し,広告情報を広告表
示領域CFに表示するというように,主情報と広告情報を別々の表示領域に表示す
るように会員端末1に送信する情報をHTMLで形成することができる段落0。」(【
195)と記載されており「受信側の携帯電話機の表示画面」に広告が表示され】,
ることが開示されている。また,引用発明は,情報提供サービスの一覧リストの受
信時や,ファクシミリデータ,電子メールデータの受信時に,広告情報の提供を受
けて表示するものであり,このようなデータの通信は,通話チャネルを用いて行わ
れるものであるから,引用発明の携帯電話端末は「通話時に予め依頼された広告,
を表示する」ものである。
3取消事由3(相違点の判断の誤り)に対して
(1)相違点アに関する判断について
審決が「受信側の携帯電話機の表示画面を広告媒体とし,該表示画面に受信側,
に対し不特定多数(1:N)に予め依頼された広告を表示するようにすることは,
・・・周知の技術である」と認定したことに,誤りはない。
原告は審決の同認定は誤りであると主張するが特開平8-8859号公報乙,,(
1特開平11-205840号公報乙2特開平9-281918号公報乙),(),(
3)の各記載によれば「受信側の携帯電話機の表示画面を広告媒体とし,該表示,
画面に受信側に対し不特定多数(1:N)に予め依頼された広告を表示する」こと
は,周知である。
(2)相違点イに関する判断について
審決が「引用発明は,広告情報の提供を受けるか否かを携帯端末の使用者が選,
択することができるものと認められるから,引用発明において,広告情報の受信が
許可されているかを判断するようにすることは当業者であれば容易に想到し得るも
のである」と判断したことに,誤りはない。。
原告は,広告情報の受信の許可の有無が判断される時点の相違について主張する
(前記第3・3(2)参照)が,本願発明において,広告情報の受信が許可されてい。
,,るか否かを判断する時点は広告の表示時や受信時に限定されるものではないから
原告の前記主張は失当である。
第5当裁判所の判断
1取消事由1(手続違背)について
(1)拒絶理由通知及び拒絶査定には,次の記載がある。
ア拒絶理由通知の記載(甲3)
「,,この出願の下記の請求項に係る発明は・・・下記の刊行物に記載された発明に基づいて
・・・容易に発明をすることができたものである」
「記(引用文献等については,引用文献等一覧参照」)
「請求項1・・・について引用文献1
引用文献1には,サーバ装置が,通信端末からの情報に広告を付加して,相手端末に送信
することが記載されている・・・。
発側端末から発信者番号が相手端末に伝達されることは,本願出願前に周知である」。
「請求項2,3(請求項2を引用する場合)について引用文献1~3
広告情報として,複数のものを表示し,ユーザが選択可能にすることは,周知の事項であ
る(文献2,3参照」)。
「引用文献等一覧
1.特開平11-069024号公報
2.特開平11-088521号公報」
イ拒絶査定の記載(甲4)
「この出願については,平成14年10月17日付け拒絶理由通知書に記載した理由によっ
て,拒絶をすべきものである」。
「備考
出願人は平成14年12月26日付け意見書において引用文献1特開平11-0690,,(
24号公報)記載の発明が・・・本願発明とは相違し,本願発明が引用文献記載の発明を基,
にしても当業者にとって容易になし得たものではないと主張する・・・。
・・・出願人の主張は妥当でなく,本願の請求項1,4に記載された発明は,当業者であれ
ば容易になし得たものと認められる。
なお,請求項2,3,5,6に係る発明についても,平成14年10月17日付け拒絶理由
通知書で指摘したとおり,当業者であれば容易になし得たものと認められる」。
(2)以上の記載によれば,拒絶査定は,拒絶理由通知における理由を引用した
ものであるところ,拒絶理由通知では,請求項1(本願発明)の関係で「引用文,
献1」として特開平11-069024号公報(甲6)が引用されているにとどま
り,審決で刊行物として引用されている特開平11-088521号公報(甲7)
は「引用文献2」として,請求項2及び3の関係で引用されているにすぎない。,
したがって,本願発明との関係では,審決で引用されている刊行物は,拒絶理由通
知及び拒絶査定においては引用されておらず,審決において初めて引用されたもの
であるから,審決は,本願発明について,拒絶査定とは異なる理由により容易想到
性の判断をしたものであり,特許法159条2項にいう「拒絶査定不服審判におい
て査定の理由と異なる拒絶の理由を発見した場合」に当たるというべきである。
また,実質的にみても,拒絶理由通知において,引用文献2に開示された事項と
して指摘されているのは「広告情報として,複数のものを表示し,ユーザが選択,
可能にすることは,周知の事項である」というものであり,同通知を受けた特許出
願人(原告)が,本願発明に関して,審決が認定したような引用発明(受信側の携
帯電話機の表示画面を広告媒体とし,該表示画面に受信側に対し通話時に予め依頼
された広告を表示するようにする携帯電話機を通じた広告方法)が開示されてい。
ることを想起させる余地のないものであるから,特許出願人は,この点に関して意
見書の提出等の手段を講ずる機会を実質的にも得られなかったものである。した
,,,がって審判手続において上記の点に関する新たな拒絶の理由を通知しない限り
特許出願人は,上記の点に関して反論の機会を与えられないまま審決を受けること
を余儀なくされるものであり,これが特許出願人の防御の機会を不当に奪うものと
なることは明らかである。
本件の審判手続においては,特許出願人に対して新たな拒絶の理由を通知するこ
となく,審判請求は成り立たないとの審決をしたものであるから,特許法159条
2項の準用する同法50条本文の規定に違反するというべきである。
2以上のとおり,審決は違法な手続によりなされたものであるから,原告主張の
審決取消事由1は理由があり,審決は取消しを免れないものである。以下は,再開
される審判の適切かつ円滑な審理判断の参考に資するため,審決取消事由2及び3
について,一応の判断を示すものである。
(1)取消事由2(一致点の認定の誤り)について
原告は,引用発明における広告は,携帯無線通信端末からの接続要求に応じて提
,,。,供されるものであるから同端末は送信側となるものであると主張するしかし
刊行物に「情報通信端末は,携帯無線通信端末の構成とされ,共通サーバ装置か,
らの情報提供サービスなどの提供サービスを受ける機能を備えるほか・・・電話機
能及びファクシミリ,電子メールのデータ通信機能をも備える構成とされる(段。」
落【0025「会員端末1は,共通サーバ装置からの情報提供サービスの一覧】),
表と広告情報を受信し(段落【0124)と記載されていることに照らせば,引」】
用発明における携帯無線通信端末が,共通サーバ装置からの情報提供サービス等を
受信する側であることは明らかである。したがって,審決が,引用発明は「受信側
の携帯電話機の表示画面を広告媒体」とするものであると認定したことに,誤りは
ない。
また原告は引用発明における携帯無線通信端末に広告が表示されるのはデー,,,
,,。,,タ通信モード時であって通話時ではないと主張するしかし通話チャネルは
音声だけでなくデータを送受信するためにも必要なものである(乙4)から「通,
話時に・・・広告を表示する」という場合の「通話時」には,電話モードのほかに
データ通信モードも含まれ得るものである。したがって,審決が,引用発明は「通
話時に予め依頼された広告を表示する」ものであると認定したことに,誤りがある
ということはできない。
(2)取消事由3(相違点の判断の誤り)について
ア相違点アに関する判断について
前記(1)のとおり,引用発明が「通話時に予め依頼された広告を表示する」もの
であるとした審決の認定には誤りがないから,審決が「引用発明は・・・『受信,,
側に対し不特定多数(1:N』又は『通話時(1:1』の後者の場合を充足して))
いる」と判断したことにも誤りはない。
また,原告は,周知技術に関する審決の認定が誤りであると主張するが,特開平
8-8859号公報(乙1)には,携帯端末に対してデータ放送送信手段から放送
されるニュース記事(広告を含む)が送信され,同端末の表示手段に表示される。
こと(段落【0009【0038】~【0041【0052,特開平11-】,】,】)
205840号公報(乙2)には,位置登録を行った複合通信端末機が呼出しを受
けると,商店の広告等の地域情報がサービス情報として提供され,複合通信端末機
の表示部に表示されること(段落【0044【0045【0057【00】,】,】,
58,特開平9-281918号公報(乙3)には,歩行する人が携帯可能な広】)
告装置の通信部が,放送の受信によって広告内容を受け取り,広告実行部の画面上
(【】,【】,【】),に表示すること段落001300160018が記載されており
これらの記載によれば「受信側の携帯電話機の表示画面を広告媒体とし,該表示,
画面に受信側に対し不特定多数(1:N)に予め依頼された広告を表示する」こと
は,周知であるというべきである。したがって,周知技術に関する審決の認定に,
誤りはない。
イ相違点イに関する判断について
原告は,引用発明において,広告情報の提供を受けるか否かを決めるのは,接続
要求の際であり,広告を表示する際ではないことをもって,審決の判断の誤りを主
張する。しかし,本願発明は,広告情報の受信が許可されているか否かの判断がさ
れる時期,方法について何ら限定するものではないから,引用発明において広告情
報の受信の許可の有無を判断する時期が広告を表示する際ではないとしても,本願
発明の容易想到性を否定するものとはならないというべきである。したがって,相
違点イに関する審決の判断に誤りがあるということはできない。
3結論
,,()以上のとおり原告の主張する審決取消事由のうち審決取消事由1手続違背
には理由があるので,主文のとおり判断する。
知的財産高等裁判所第4部
裁判長裁判官
塚原朋一
裁判官
石原直樹
裁判官
清水知恵子

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