弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件上告を棄却する。
     上告費用は上告人の負担とする。
         理    由
 上告指定代理人青木義人、同藤堂裕、同宮嶋剛の上告理由第一点について。
 論旨は、要するに、健康保険制度は、いわゆる公的扶助とは異なり、保険方式を
採用した社会保障制度であるから、一般の被保険者及び事業者の負担において被保
険者資格を喪失した者に対し従来の保険給付を継続するいわゆる継続給付の制度は、
例外的、附加的性格を有するものであつて、その給付を施すべき場合は限定的に解
釈すべきものであるとし、健康保険法五五条(昭和三二年法律第四二号による改正
前のもの。以下同じ。)にいう「被保険者ノ資格ヲ喪失シタル際……保険給付ヲ受
クル者」とは、資格喪失当時現実に保険給付を受けている者をいい、右にいう現実
に保険給付を受けているとは、療養の給付についていえば、具体的な現実の療養の
給付を受けていることをいうもの、少なくとも、全体として医師の支配下にあるも
のでなければならないものと解すべく、また、同条による保険給付を受けるために
は、資格喪失後も上記の受給が継続していることを要するものと解すべきであると
し、そうである以上、原判決認定の事実関係からすれば、被上告人は、被保険者資
格喪失当時及びその後継続して療養の給付を受けていた者とはいいえないにもかか
わらず、原判決が、これと異なる見地に立つて、現実に療養の給付を受けている者
と認めるべき場合を広く解し、被上告人に対し療養の継続的給付を受ける資格を認
めたのは、右法条の解釈適用を誤つたものである、というのである。
 案ずるに、健康保険事業における費用の主たる財源は保険料収入に求められてい
るものではあるが、右保険料の負担は、保険事故の危険度に応じて定められている
ものではなく、各被保険者の標準報酬月額に比例して機械的に定められ(健康保険
法七一条)、かつ、保険の利益を享受しない事業主もまた右保険料の二分の一を負
担する(同法七二条)こととなつており、また、保険給付の内容も、必ずしも保険
料の負担と比例するものではない(同法第四章)のであつて、ここに、社会保険と
しての健康保険の特殊な相互扶助的性格をうかがうことができるものというべきで
ある。また、同法七〇条は、健康保険事業の事務の執行に要する費用は国庫がこれ
を負担すべき旨を規定し、更に、昭和三二年法律第四二号による改正で追加された
同法七〇条ノ三は、政府の管掌する健康保険につき、その事業の執行に要する費用
の一部を国庫が補助すべき旨を規定しているのであるが、これらの規定は、健康保
険制度がわが国の社会保障制度において果たす役割にかんがみ、いわゆる保険方式
を建前とするものではあるが、同制度の充実発展を、国家財政を通して図ることを
国の責務とする法の態度を示すものといわなければならない。
 ところで、同法五五条の定める継続的保険給付の制度は、現に被保険者資格を有
しない者に対して保険給付を継続するものである点において、所論のとおり、保険
制度としては例外的・附加的なものであるから、これを一般の被保険者に対する保
険給付の場合と同断に論ずることのできない面があることは否定しえないところで
あろう。しかしながら、同制度は、過去において一定期間、被保険者として保険料
を負担した事実のあることを契機として、当該被保険者に対し、その資格喪失後も、
保険給付による救済を与えようとするものであり、上記のような健康保険の特殊な
相互扶助的性格とその充実発展を国の責務とする法の態度とをあわせ考えるときは、
所論のように、現時点においてその保険給付に対応する保険料の・出をしていない
とか、保険給付が一般の被保険者や事業主の負担においてされるものであるとかい
うことを理由として、その適用範囲を限定的にのみ解すべきものではないといわな
ければならない。しかして、健康保険法が療養の継続的給付を認めた理由は、一般
に疾病等の治療については相当長期間の療養を要する場合が少なくなく、このよう
な疾病等について被保険者資格の喪失と同時に療養の給付が打ち切られるときは、
実質上、当該資格喪失者において以後の療養を継続することが著しく困難となり、
かくては経済的能力に乏しい労働者に安心して疾病等に関する治療を受けさせよう
とする同法の目的にも反する結果となるので、その弊を救済しようとするところに
あるものと解されるのである。このような見地からすれば、たとえ被保険者資格喪
失当時たまたま一時的に具体的な医療行為を現実に受けていなかつたとしても、こ
のことを理由に直ちに当然に同法五五条一項にいう療養の「給付ヲ受クル者」に該
当しないものと解すべきではなく、同条の適用にあたつては、当該疾病等の性質、
その治癒に必要な療養の性質及び内容、具体的な医療行為を受けていない理由等に
照らし、依然として療養を継続する意思と必要性を有し、全体としてみれば、療養
の状態が継続していると認められるかぎりは、なお現実に療養の給付を受けている
ものと認めるのが相当であるとした原判決(その引用する第一審判決を含む。以下
同じ。)の判断は、相当であるといわなければならない。そして、原判決は、右の
ような見解のもとに、被上告人の本件疾病である肺結核症に関していえば、その性
質上、間けつ的に医師の診察、指導を受けながら、過激な労働を避け、適当な安静
をとり、努めて栄養のある食物を摂取する等の方法によつて療養を行ない、その傍
ら軽微な勤労に服するというような状態もまた療養の一種であり、その間にされる
医師の診察や指導も療養の給付たることを失わないものとする一方、被上告人の本
件疾病に関する療養の経過に関する認定事実の要旨として所論が引用する諸事実の
ほか、被上告人を診断したG医師が当分は適当な安静、食餌療法によつて病状の推
移をみるという方針をとつていたこと、被上告人自身としても、医師の指導のもと
に療養に専念したい意向をもつていたものの、経済的な事情により、比較的軽微な
労働に服さざるをえなかつたこと、そして、自覚症状に変化があれば直ちに医師の
診療を受ける態勢と心構えをもつていたこと、被上告人が数か月間医師の診療を受
けなかつたのは、さしあたり格別の病状の変化を自覚しなかつたことと健康保険証
を取り上げられたので保険医の診療を受けることができないのではないかと思つて
いたことによるものであること、及び当時被上告人はなお療養を必要とする症状に
あつたこと、等の事実を適法に確定したうえ、これらの事実関係からすれば、被上
告人は、全体として見れば、なお療養を放棄又は断念したものではなく、その被保
険者資格喪失当時(及びその後一一月H病院に入院するまでの間引き続き)、療養
の状態はなお継続していたものと認めるべく、したがつて、現に療養の給付を受け
ていたものと認めるのが相当である、としているのであつて、その判断もまた正当
として首肯しうるところである。
 以上の次第で、所論その余の主張について判断を加えるまでもなく、論旨は採用
することができない。
 同第二点について。
 論旨は、要するに、現行法上の傷病手当金支給の制度は、被保険者が現に通常の
生活費に相当する収入(一般的に標準報酬日額の六割相当額)を得るための労務に
服していないことを受給要件とするものであり、したがつて、被保険者が勤務先の
変更を余儀なくされ、転職先での労働が軽微でその報酬額が減少することとなつた
ような場合であつても、なお同法四五条にいう「療養ノ為労務ニ服スルコト能ハザ
ルトキ」に当たらないと解すべきものであるから、原判決認定の事実関係からすれ
ば、被上告人は被保険者資格喪失当時すでに転職、就労していたものとして傷病手
当金の受給権は否定されるべきであるのに、原判決が、これと異なる見地に立つて、
同条所定の就労不能に当たる場合を広く解し、被上告人が訴外I方において就労し
ていた事実があるにもかかわらず、なお右にいう就労不能に当たるものと認めたの
は、同条の解釈適用を誤り、また、同法五五条の適用を誤つた違法がある、という
のである。
 案ずるに、健康保険法四五条は「被保険者ガ療養ノ為労務ニ服スルコト能ハザル」
ことを要件として傷病手当金を支給することとしているのであるが、それは、療養
のための就労不能により報酬を受けることができない被保険者に、一定の限度でそ
の生活を保障して療養に専念しうる状態を与えようとするものにほかならない。し
たがつて、被保険者がたとえその本来の職場における労務に就くことが不可能な場
合であつても、現に職場転換その他の措置により就労可能な程度の他の比較的軽微
な労務に服し、これによつて相当額の報酬を得ているような場合は、同条所定の受
給要件には該当しないものというべきである。しかしながら、他方、傷病手当金の
支給をえられないために、療養中の被保険者が可能な限度をこえて労務に服するこ
とを余儀なくされるような結果を来たすことは、前記傷病手当金の制度の目的に反
することであり、このような点を考えれば、その受給要件をあまり厳格に解するこ
ともまた相当でないものといわなければならない。このような見地からすれば、上
記のような労務に服することができない以上、たとえ幾分でも生計の補いとするた
めに副業ないし内職のごとき本来の職場における労務に対する代替的性格をもたな
い労務に従事したり、あるいは、なんらかの事情により当然受けうるはずの傷病手
当金を受けることができなかつたため、やむを得ず右手当金の支給があるまでの間
の一時的なつなぎとして軽微な他の労務に服したりして、貸金を得るような事実が
あつたとしても、これによつて傷病手当金の受給権を喪失することはないと解すべ
きものとした原判決の判断は、相当であるといわなければならない。そして、原判
決は、被上告人が肺結核の療養のためその本来の労務である訴外合資会社J製作所
における旋盤工としての労務に服することができない状態にあつたこと、同人が所
諭I方で就労するようになつたのは、傷病手当金が降りないので生活費に窮した結
果、右手当金が降りるまで一時自己の仕事の手伝いをしてはどうかという右Iの申
出に従つたものであること、その他右I方における被上告人の仕事の内容とこれに
対する賃金支払等に関する詳細な事実関係を適法に確定した上、その仕事の実質は
個人的な仕事についての間けつ的な手伝いというべきものであるとし、また、その
賃金には両者の特別な関係に基づく生計扶助的意味をもつた恩恵的給付たる部分も
かなり混入していると認められること等から考えて、所諭I方における被上告人の
就労は、副業に準ずる程度のものと認むべきであるとし、しかも、右就労は傷病手
当金が降りるまでの一時的なつなぎとしてのものであるから、上記の見解からすれ
ば、これによつて被上告人が傷病手当金の受給資格を喪失するような就労と認める
ことは妥当ではないとしているのであつて、その判断もまた正当として首肯しうる
ところである。原判決に所論の違法はなく、論旨は採用することができない。
 よつて、行政事件訴訟法七条、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官
全員の一致で、主文のとおり判決する。
     最高裁判所第一小法廷
         裁判長裁判官    下   田   武   三
            裁判官    大   隅   健 一 郎
            裁判官    藤   林   益   三
            裁判官    岸       盛   一
            裁判官    岸   上   康   夫

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