弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件上告を棄却する。
     上告費用は上告人の負担とする。
         理    由
 上告代理人山崎保一の上告理由第一点について。
 原判決の判示するところによると、被上告会社の代表取締役Dは、被上告会社の
解散前すでに取締役としての任期を満了していたが、後任の選任が行われなかつた
から、右解散当時商法二五八条により依然取締役の権利義務を有していたというの
である。したがつて、同人は、その解散と同時に当然被上告会社の清算人としての
権利義務を有するに至つたものというべきであつて(商法四三〇条二項、二五八条、
四一七条一項本文参照)、同法四一七条二項の規定が適用されないと解するのが相
当であり、これと同旨の原判決の判断は、正当である(論旨引用の判例は本件に適
切でない)。
 原判決には、右部分について、所論の違法はない。そして、その余の論旨は、前
記部分の違法を前提とするものであるから、前提を欠くことになり、結局、論旨は、
すべて、失当として、排斥を免れない。
 同第二点の一について。
 原判決挙示の証拠によれば、所論の点についての原判決の事実判断は、当審も正
当として、これを肯認することができる。
 原判決には、所論のような違法はなく、所論は、結局、原審の専権に属する証拠
の取捨・判断、事実の認定を非難するに帰し、採用しがたい。
 同第二点の二(イ)について。
 所論は、原審で認定されていない事実を前提として原判決を非難するものであり、
採用しがたい。
 同第二点の二(ロ)について。
 代表取締役の解任に関する取締役会の決議については、当該代表取締役は、商法
二六〇条ノ二第二項により準用される同法二三九条五項にいう特別の利害関係を有
する者にあたると解すべきである。
 けだし、代表取締役は、会社の業務を執行・主宰し、かつ会社を代表する権限を
有するものであつて(商法二六一条三項・七八条)、会社の経営、支配に大きな権
限と影響力を有し、したがつて、本人の意志に反してこれを代表取締役の地位から
排除することの当否が論ぜられる場合においては、当該代表取締役に対し、一切の
私心を去つて、会社に対して負担する忠実義務(商法二五四条三項・二五四条ノ二
参照)に従い公正に議決権を行使することは必ずしも期待しがたく、かえつて、自
己個人の利益を図つて行動することすらあり得るのである。それゆえ、かゝる忠実
義務違反を予防し、取締役会の決議の公正を担保するため、個人として重大な利害
関係を有する者として、当該取締役の議決権の行使を禁止するのが相当だからであ
る。
 それゆえ、原判決が、被上告会社の代表取締役Eの解任に関する取締役会の決議
について、同人をいわゆる特別利害関係人にあたるとして、その議決権の行使を排
除したのは、正当である(論旨引用の判例は、株主総会の決議に関するものであつ
て本件に適切でない)。
 原判決には所論のような違法はない。
同第二点の三について。
 原判決が、その挙示の証拠のもとに、適法に確定した事実によると、所説の取締
役会は、招集権のない平取締役であつたEが招集し、しかも、取締役の一人であつ
たDに対し招集通知をせず、また、同人の出席もなかつたというのであるから、そ
の招集手続にかしがあることは明らかであつて、結局、右取締役会は有効に成立し
たものということはできず、これと同旨にでた原判決の判断は、正当である。
 原判決には、所論のような違法はなく、所論は、結局、原審の適法にした証拠の
取捨・判断、事実の認定を非難するに帰し、採用しがたい。
 同第三点について。
 所論の失当なことは、上告理由第二点の一ないし三について判断したとおりであ
り、所論は、採用しがたい。
 よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文の
とおり判決する。
     最高裁判所第二小法廷
         裁判長裁判官    草   鹿   浅 之 介
            裁判官    城   戸   芳   彦
            裁判官    色   川   幸 太 郎
            裁判官    村   上   朝   一

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