弁護士法人ITJ法律事務所

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平成24年3月12日判決言渡
平成23年(行ケ)第10220号審決取消請求事件
口頭弁論終結日平成24年2月27日
判決
原告スカイワークスソリューションズ,
インコーポレイテッド
訴訟代理人弁理士中島司朗
小林国人
被告特許庁長官
指定代理人鈴木重幸
近藤聡
清水稔
樋口信宏
田村正明
主文
原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
この判決に対する上告及び上告受理の申立てのための付加期間を30日
と定める。
事実及び理由
第1原告の求めた判決
特許庁が不服2008-26098号事件について平成23年3月3日にした審
決を取り消す。
第2事案の概要
本件は,特許出願に対する拒絶査定に係る不服の審判請求について,特許庁がし
た請求不成立の審決の取消訴訟である。争点は,容易推考性の存否である。
1特許庁における手続の経緯
コネクサントシステムズインコーポレイテッドは,平成10年(1998年)
2月19日(米国)の優先権を主張して,平成11年2月17日,名称を「位置決
めシステムによって支援されたセルラー無線電話機をハンドオフ及びドロップオフ
する通信システム及び通信方法」とする発明について特許出願(特願平11-39
289号,請求項の数30)をした。原告は,上記出願人から特許を受ける権利を
承継したが(平成16年9月28日付けで出願人名義変更届を提出),平成20年
7月11日付けで拒絶査定を受けた。そこで,原告は,平成20年10月9日,拒
絶査定に対する不服審判請求(不服2008-26098号)をするとともに,同
日付けの本件補正(甲4,請求項の数28)をしたが,特許庁は,平成23年3月
3日,「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決をし,その謄本は平成23
年3月15日,原告に送達された。
2本願発明の要旨
本件補正は,特許請求の範囲の請求項1の記載を補正することなどを内容とする
ものであるが,本件補正前後の請求項1の記載は,次のとおりである(以下,本件
補正前の請求項1に記載された発明を「補正前発明」といい,本件補正後の請求項
1に記載された発明を「補正発明」という。)。
(1)本件補正前の請求項1
複数のセルラー無線電話機と,前記セルラー無線電話機の各々との間で通信信号
を送受信する1つ以上の基地局とを含む通信システムであって,
前記セルラー無線電話機の少なくとも1つに含まれる位置決めシステムは,地球
に信号を送信する少なくとも1つの通信衛星と衛星信号データを用いて通信するこ
とにより当該セルラー無線電話機の正確な位置を決定し,
前記基地局は,前記位置決めシステムを含むセルラー無線電話機の通信信号の品
質レベルが所定の値よりも小さくなると予想されるとき,システム劣化が起こる前
に,前記位置決めシステムを含むセルラー無線電話機の位置に基づいてドロップオ
フまたはハンドオフを決定することを特徴とする通信システム。
(2)本件補正による請求項1(下線部分が補正箇所)
複数のセルラー無線電話機と,前記セルラー無線電話機の各々との間で通信信号
を送受信する1つ以上の基地局とを含む通信システムであって,
前記セルラー無線電話機の少なくとも1つに含まれる位置決めシステムは,地球
に信号を送信する少なくとも1つの通信衛星と衛星信号データを用いて通信するこ
とにより当該セルラー無線電話機の正確な位置を決定し,
前記基地局は,前記位置決めシステムを含むセルラー無線電話機の通信信号の品
質レベルが所定の値よりも小さくなると予想されるとき,システム劣化が起こる前
に,前記位置決めシステムを含むセルラー無線電話機の位置に基づいてドロップオ
フまたはハンドオフを決定し,そして,前記基地局はまた,前記位置決めシステム
を含むセルラー無線電話機と,前記セルラー無線電話機の通信信号の品質レベルが
所定値よりも小さくなると予想される位置との間の距離を計算し,前記計算された
距離からセルラー無線電話機がハンドオフされるべきか否かを決定すること,を特
徴とする通信システム。
3審決の理由の要点
(1)概要
補正発明は,引用例(特開平7-321734号公報,甲5)に記載された引用
発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであっ
て,特許法29条2項の規定により,特許出願の際独立して特許を受けることがで
きず,したがって,本件補正は,平成18年法律第55号による改正前の特許法1
7条の2第5項において準用する特許法126条5項の規定に違反するから,平成
14年法律第24号による改正前の特許法159条1項において準用する同改正前
の特許法53条1項の規定により却下すべきものである。
また,補正発明は補正前発明の構成をすべて含み,さらに限定を加えたものであ
るから,補正前発明についても,補正発明と同様の理由により当業者が容易に発明
をすることができたものであり,特許法29条2項の規定により特許を受けること
ができない。
(2)審決がした引用発明の認定,引用発明と補正発明との一致点及び相違点の
認定
【引用発明】
携帯電話機3は,基地局5とデータ,音声通信を行うものであり,携帯電話機3
内の現在位置検出装置2において,衛星6,7,8からの受信波をアンテナ1から
受け取り,受信波を基に現在位置を推測し,その現在位置情報を通信装置でアンテ
ナ1から基地局アンテナ4へ送り,基地局5が受け取り,その現在位置情報を基に
携帯電話機3が最適な受信を行えるように基地局5が諸操作を行い,基地局5は携
帯電話機3へ送信データを供給し,復調方式を知らせ,最適な基地局にハンドオフ
等を行うことにより,携帯電話機3の受信性能の向上を可能とする移動通信用電話
システム。
【一致点】
複数のセルラー無線電話機と,前記セルラー無線電話機の各々との間で通信信号
を送受信する1つ以上の基地局とを含む通信システムであって,
前記セルラー無線電話機の少なくとも1つに含まれる位置決めシステムは,地球
に信号を送信する少なくとも1つの通信衛星と衛星信号データを用いて通信するこ
とにより当該セルラー無線電話機の正確な位置を決定し,
前記基地局は,前記位置決めシステムを含むセルラー無線電話機の位置に基づい
てドロップオフ又はハンドオフを決定すること,を特徴とする通信システム。
【相違点1】
補正発明では,位置決めシステムを含むセルラー無線電話機の通信信号の品質レ
ベルが所定の値よりも小さくなると予想されるとき,システム劣化が起こる前に,
前記位置決めシステムを含むセルラー無線電話機の位置に基づいてドロップオフ又
はハンドオフを決定するのに対し,引用発明では,基地局5は,携帯電話機3の位
置に基づいてハンドオフを決定しているものの,ハンドオフを携帯電話機3の通信
信号の品質レベルが所定の値よりも小さくなると予想されるとき,システム劣化が
起こる前に,決定しているか明らかではない点。
【相違点2】
補正発明では,基地局は,位置決めシステムを含むセルラー無線電話機と,前記
セルラー無線電話機の通信信号の品質レベルが所定値よりも小さくなると予想され
る位置との間の距離を計算し,前記計算された距離からセルラー無線電話機がハン
ドオフされるべきか否かを決定するのに対し,引用発明では,そのような決定をし
ているかどうか明らかではない点。
(3)相違点等に関する審決の判断
ア相違点1について
移動体通信の技術分野において,一般にハンドオフはセルラー無線電話機で通信
中の基地局からの信号レベルが小さくなり,この基地局との通信が維持できなくな
る前に,別の基地局との通信に切り換えるものであり,引用発明において,セルラ
ー無線電話機の通信信号の品質レベルが所定の値よりも小さくなると予想されると
き,システム劣化が起こる前にハンドオフを行うように構成することは当業者が容
易に想到し得たものである。
イ相違点2について
相違点2に係る補正発明の構成について,本願明細書には,「セルラー無線電話
機の通信信号の品質レベルが所定値よりも小さくなると予想される位置」及び「計
算された距離」がどの値の時にハンドオフが行われるのか,また,「通信信号の品
質レベルが所定値よりも小さくなると予想される位置」における「所定値」がいか
なるものかに関する具体的な記載はないが,段落【0026】及び【0028】の
記載に照らし,上記「位置」とは基地局のセルの距離限界の位置であり,品質レベ
ルの「所定値」とは,セルの距離限界でのセルラー無線電話機の通信信号の品質レ
ベルであると解される。そうすると,セルラー無線電話機の位置から基地局のセル
の距離限界までの「計算された距離」からハンドオフされるべきか否かを決定する
ので,基地局のセルの距離限界より内側でハンドオフが行われると解される。
一方,移動体通信の技術分野において,移動局の位置検出を行って,移動局の位
置が基地局のセルの距離限界より内側のセルの境界付近でハンドオフを行うことは
例えば,特開平2-171039号公報(甲6)の特許請求の範囲,5頁左下欄7
行~右下欄16行や,特開平9-261711号公報(甲7)の段落【0033】
~【0038】,【図8】,【図9】に記載されるように,周知技術である。また,
移動局から境界までの距離を計算することも,例えば,特開平4-290098号
公報(甲8)の特許請求の範囲【請求項1】,発明の詳細な説明段落【0034】
~【0049】に記載されるように周知技術である。したがって,引用発明に周知
技術を適用して,引用発明において基地局のセルの距離限界より内側のセル境界付
近でハンドオフするように構成することは当業者が容易に想到し得たものであり,
セル境界付近かどうかを補正発明のようにセルラー無線電話機とセルの距離限界
(すなわち,品質レベルが所定値よりも小さくなると予想される位置)との間の距
離を計算することによって判定することは当業者の設計的事項である。
そして,補正発明の効果も引用発明及び周知技術から当業者が容易に予測できる
範囲のものである。
第3原告主張の審決取消事由
1取消事由1(相違点2に関する判断の誤り)
補正発明の通信システムは,「基地局はまた,前記位置決めシステムを含むセル
ラー無線電話機と,前記セルラー無線電話機の通信信号の品質レベルが所定値より
も小さくなると予想される位置との間の距離を計算し,前記計算された距離からセ
ルラー無線電話機がハンドオフされるべきか否かを決定する」という特徴(相違点
2に係る補正発明の構成)を有する。この特徴における「位置」とは基地局のセル
の距離限界の位置であり,品質レベルの「所定値」とは,セルの距離限界でのセル
ラー無線電話機の通信信号の品質レベルである。したがって,上記特徴は,セルラ
ー無線電話機の位置から基地局のセルの距離限界までの距離を計算して,計算され
た距離からハンドオフされるべきか否かを決定する意味を有する。なお,セルラー
無線電話機の正確な位置は通信衛星と衛星信号データを用いて通信することにより
決定される。また,上述の距離の計算は,セルラー無線電話機が距離限界からどれ
だけ離れているかを求めてハンドオフの決定基準となる閾値と比較するために有用
なものである。
上記特徴について,審決は,甲8公報(特開平4-290098号)を例示して,
周知技術であると認定した。
しかしながら,甲8公報には,セルの境界線と移動機との距離を導出することに
関連するような記載(段落【0031】~【0039】)があるものの,セルの境
界線は両基地局の電界強度の実測値が等しくかつ最大となる位置であるから(段落
【0036】),補正発明のセルの距離限界とは全く異なり,また,移動機の位置
を電界強度の実測値に基づいて推定しているにすぎないから(段落【0008】),
補正発明のセルラー無線電話機の位置が衛星信号データに基づく正確な位置である
のとは全く異なり,さらに,距離が電界強度の実測値に基づく強度距離であるから
(段落【0031】),補正発明の距離が地球上の位置間の距離であるのと全く異
なる。すなわち,電界強度は通信環境(遮蔽物の存在等)の影響を受けるため,電
界強度から計算した距離は,比較的大きな誤差を内在するのに対し,衛星信号デー
タの内容は通信環境の影響によって変動するものではないため,衛星信号データを
用いて算定された距離は,そのような大きな誤差を含まない。このように,両者は,
電波を用いる点だけ共通するが,技術的には全く異なる技術である。
以上のとおり,補正発明の技術は,甲8公報に開示された技術とは異なるので,
審決が引用発明と甲8公報に開示された技術から相違点2に係る補正発明の構成を
容易想到と判断したのは誤りである。
2取消事由2(作用効果に関する判断の誤り)
取消事由1で主張したように,補正発明の特徴と,甲8公報に開示された技術と
は全く異なる。このため,「ドロップオフ又はハンドオフを行うか否かの判定が,
電話機の予測位置との距離に基づいて行われるために精度が高い」という補正発明
の効果については,位置の測定を電話機と基地局との通信に基づいて行う技術,す
なわち,電界強度を利用しているため正確な位置に基づかない技術を開示する甲8
公報から当業者が予測できる範囲を超えている。
したがって,審決が,補正発明の作用効果について,引用発明及び周知技術から
当業者が予測できる範囲のものであると判断したのは誤りである。
第4被告の反論
1取消事由1に対し
審決は,甲6公報(特開平2-171039号)及び甲7公報(特開平9-26
1711号)により「移動体通信の技術分野において,移動局の位置検出を行って,
移動局の位置が基地局のセルの距離限界より内側のセルの境界付近でハンドオフを
行うこと」を周知技術として認定し,これに続けて,甲8公報(特開平4-290
098号)により「移動局から境界までの距離を計算すること」を周知技術と認定
し,「セル境界付近かどうかを補正発明のようにセルラー無線電話機とセルの距離
限界との間の距離を計算することによって判定すること」は当業者の設計的事項で
あるとして,これらに基づいて相違点2に係る補正発明の構成は当業者が容易に想
到し得たと判断しているのであって,甲8公報のみから,原告が主張するような,
「基地局はまた,前記位置決めシステムを含むセルラー無線電話機と,前記セルラ
ー無線電話機の通信信号の品質レベルが所定値よりも小さくなると予想される位置
との間の距離を計算し,前記計算された距離からセルラー無線電話機がハンドオフ
されるべきか否かを決定する」ことを周知技術であると認定しているのではないか
ら,原告の主張は審決の相違点2についての判断を誤解するものである。
なお,甲8公報の段落【0001】の記載によれば,補正発明と甲8公報に開示
された技術とは,移動体通信のハンドオフという技術分野で共通している。また,
甲8公報の段落【0004】,【0005】,【0008】の記載によれば,補正
発明と甲8公報に開示された技術とは,移動機の位置に基づくハンドオフの適切な
処理を行うため,電波により移動機の位置を算出する点でも共通している。さらに,
甲8公報の段落【0039】~【0045】の記載によれば,補正発明と甲8公報
に開示された技術とは,ハンドオフを適切に行うために,移動機から境界までの距
離を計算するものである点でも共通している。したがって,甲8公報に開示された
技術は,電波により移動機の位置を算出し,算出された位置に基づいてハンドオフ
の適切な処理のための距離の計算を行っているものである点で,補正発明と類似し
た技術である。
したがって,相違点2に関する審決の判断に誤りはない。
2取消事由2に対し
取消事由1に対して反論したとおり,甲8公報に開示された技術と補正発明の技
術とは類似した技術であって,これらが全く異なるとする原告の主張は失当である。
引用発明の「現在位置検出装置2」は,衛星6,7,8からの受信波をアンテナ
1から受け取り,受信波を基にセルラー無線電話機の現在位置を推測するものであ
るから,補正発明と同様に,セルラー電話機の正確な位置を決定し得るものである。
そして,審決は,補正発明の作用効果を,引用発明及び周知技術から予測できるも
のであるとしたのであって,甲8公報のみから予測したものではない。
したがって,作用効果に関する審決の判断に誤りはない。
第5当裁判所の判断
1補正発明について
本願明細書(甲1,2,4)によれば,補正発明について次のとおり認められる。
補正発明は,セルラー通信システムにおけるハンドオフ(セルラー無線電話機の
接続先をある基地局から他の基地局へと切り替えることなどをいう。)及びドロッ
プオフ(セルラー無線電話機の基地局への接続を削除することをいう。)のための
技術に関するものである(段落【0001】)。従来技術のセルラー通信システム
には,各種の方式があり,それぞれの方式ごとに欠点や問題点があるが(段落【0
002】~【0023】),その中には,ハンドオフやドロップオフを実行するに
当たり,基地局にはセルラー無線電話機の正確な位置がわからないため,セル(基
地局がカバーする範囲をいう。)内のすべての無線電話機からの応答が届くまで待
機しなければならず,この処理に多くの時間がかかるという問題(段落【0006】)
や,弱い信号を有する無線電話機を特定し,ハンドオフやドロップオフを実行する
際に,無線電話機に到達するまで時間がかかるという問題(段落【0013】)が
あった。補正発明は,従来技術の欠点を克服し,セルラー無線電話機の位置の正確
な情報を獲得することによりハンドオフをスムーズに実行することを第1の目的と
し,ドロップオフやハンドオフ操作を速やかに実行するために,速やかに位置情報
を獲得することを第2の目的として,請求項記載の構成を採用したものである(特
許請求の範囲【請求項1】,発明の詳細な説明段落【0024】)。
2引用発明について
引用例(特開平7-321734号公報,甲5)によれば,引用発明について次
のとおり認められる。
引用発明は,移動通信用電話システム,移動通信用データ通信システム等に使用
するデータ通信装置に関するものであって(段落【0001】),審決が認定した
ように,携帯電話機3と基地局5との間でデータ,音声通信が行われ(段落【00
11】),携帯電話機3内の現在位置検出装置(GPS)2において,衛星6,7,
8からの受信波をアンテナ1から受け取り,受信波を基に現在位置の推測が行われ
(段落【0011】,【0012】),その現在位置情報を通信装置でアンテナ1
から基地局アンテナ4へ送り,基地局5が受け取り,その現在位置情報を基に携帯
電話機3が最適な受信を行えるように基地局5が諸操作を行い,基地局5は携帯電
話機3へ送信データを供給し,復調方式を知らせ,最適な基地局にハンドオフ等を
行うことで(段落【0012】),基地局5が携帯電話機3の現在位置を理解でき
るため,電波の不感地帯においても携帯電話機3が最適な受信を行えるという利点
や,他の基地局とのハンドオフを基地局で制御できるという利点があり,携帯電話
機3の受信性能を向上させるという作用効果を奏するものである(段落【0021】,
【0022】)。
3取消事由1(相違点2に関する判断の当否)について
(1)相違点2に係る補正発明の構成は,本願明細書の段落【0026】,【0
028】の記載に照らし,「セルラー無線電話機の位置から基地局のセルの距離限
界までの距離を計算して,計算された距離からハンドオフされるべきか否かを決定
する」との技術的意義を有するものと解される(この点については,上記のとおり,
審決の認定と原告の主張も同様である。)。
(2)甲6公報(特開平2-171039号)には,自動車電話等の移動通信に
関して(1頁右下欄5行~7行),自動車に搭載された電話機等(移動機)の位置
をGPSにより特定し(2頁左上欄3行~4行,4頁左下欄8行~12行),複数
の基地局の無線ゾーンがオーバーラップする境界領域に自動車が進入した場合に
は,無線ゾーンの変更(ハンドオフ)を移動機が無線ゾーンの境界線を横切る前に
行う(5頁左上欄5行~12行,左下欄7行~右下欄16行)という技術が開示さ
れ,甲7公報(特開平9-261711号)には,移動通信システムに関して(段
落【0001】),GPSにより移動局の位置検出を行って,これを基地局に送信
し(段落【0011】,【0012】),移動局がハンドオフ先の基地局の無線エ
リア内に十分入ったことを確認すると,通信中の基地局の無線エリアから出る前に
ハンドオフする(【0038】,【0039】,【図8】,【図9】)という技術
が開示されており,移動体通信の技術分野において,「移動局の位置検出を行って,
移動局の位置が基地局のセルの距離限界より内側のセルの境界付近でハンドオフを
行うこと」は,周知技術であると認められる。
また,甲8公報(特開平4-290098号)において,広域コードレス電話に
関し(段落【0001】),各基地局間の電界強度が等しくなる「セル境界線」を
中央局が予め学習しておき(段落【0008】,【0016】~【0020】),
移動機とセル境界線との距離を計算して基地局間のハンドオフの要否を決定する
(段落【0034】~【0045】)という技術が開示されていることからすると,
移動体通信の技術分野において,「移動局から境界線までの距離を計算して,基地
局間のハンドオフの要否を決定すること」も周知技術であると認められる。
(3)上記2で認定したとおり,引用発明は,衛星からの電波に基づいて推測さ
れる携帯電話機の位置情報を基地局が取得することにより,基地局で他の基地局と
のハンドオフを制御できるというものであるところ,引用発明と上記(2)の各周知技
術は,いずれも移動体通信におけるハンドオフという限られた技術分野に関するも
のであるから,当業者が,引用発明に上記(2)の各周知技術を適用して,携帯電話機
からセル境界線までの距離を計算し,計算した距離に基づきハンドオフの要否を決
定する(セル境界線の内側でハンドオフする)ようにすることは,容易になし得る
ものといえる。
ところで,甲8公報に開示された上記周知技術は,移動機の位置について,電界
強度の測定値から推測し(段落【0008】),移動機とセル境界線との距離につ
いても,電界強度の測定値を用いた強度距離という概念に基づく(段落【0031】
~【0041】)点で,補正発明とは異なる。しかしながら,そもそも,引用発明
は,衛星からの電波に基づいて推測される携帯電話機の位置情報を基地局が取得す
ることにより,基地局で他の基地局とのハンドオフを制御するのであるから,携帯
電話機からセル境界線までの距離を計算するに際しては,甲8公報に開示された電
界強度の測定値と同等の概念に基づき,地球上の位置間の距離として上記周知技術
を適用する程度のことは,当業者にとって設計的事項にすぎないというべきである。
したがって,相違点2に関する審決の判断に誤りはなく,取消事由1は理由がな
い。
4取消事由2(作用効果に関する判断の当否)について
取消事由1に関して説示したとおり,甲8公報に開示された周知技術を引用発明
に適用する際に,電界強度や強度距離に代えて,衛星からの電波に基づく地球上の
位置や距離を用いることは,当業者にとって設計的事項にすぎないから,(衛星信
号データを用いて無線電話機の正確な位置を決定することによって)精度が高いと
いう補正発明の効果が格別の効果であるということはできない。
したがって,取消事由2も理由がない。
第6結論
以上のとおりであるから,原告主張の取消事由はいずれも理由がない。
よって,原告の請求を棄却することとして,主文のとおり判決する。
知的財産高等裁判所第2部
裁判長裁判官
塩月秀平
裁判官
真辺朋子
裁判官
古谷健二郎

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