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平成11年(行ケ)第306号 審決取消請求事件
平成12年6月13日口頭弁論終結
         判      決
    原      告    株式会社ニコン
    代表者代表取締役    【A】
    訴訟代理人弁理士    【B】
    同           【C】
    同           【D】
    被      告    特許庁長官 【E】
    指定代理人       【F】
    同           【G】
    同           【H】
    同           【I】
         主      文
      原告の請求を棄却する。
      訴訟費用は原告の負担とする。
         事実及び理由
第1 当事者の求めた裁判
 1 原告
  特許庁が平成10年審判第12811号事件について平成11年8月6日に
した審決を取り消す。
 訴訟費用は被告の負担とする。
2 被告
  主文と同旨
第2 当事者間に争いのない事実
1 特許庁における手続の経緯
 原告は、昭和61年1月28日にした特許出願(特願昭61-14837
号)の一部を分割し、平成7年3月28日に発明の名称を「記録装置」とする発明
(以下「本願発明」という。)として新たな特許出願(特願平7-93035号)
をしたところ、平成10年7月14日を送達日とする拒絶査定を受けたので、同年
8月13日に拒絶査定不服の審判を請求した。
 特許庁は、同請求を平成10年審判第12811号事件として審理した結
果、平成11年8月6日に「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決をし、
その謄本を同年8月18日に原告に送達した。
2 本願発明の要旨
  アナログ信号発生手段と、前記アナログ信号発生手段からのアナログ信号を
デジタル信号に変換するアナログ・デジタル変換手段と、前記デジタル信号を一時
的に格納する半導体メモリと、前記半導体メモリに格納された前記デジタル信号に
対応する情報を記録媒体に記録する記録手段とを備え、情報記録時における振動や
衝撃などの外乱により前記記録媒体へ情報記録に影響が発生する記録装置におい
て、前記外乱により前記記録媒体に対する前記情報の記録に影響が発生したか否か
を検出する検出手段と、前記影響が前記検出手段により検出された場合、前記半導
体メモリに格納された前記デジタル信号に対応する情報を前記記録手段に再度出力
する制御を行う制御手段とを有することを特徴とする記録装置。
3 審決の理由
  別紙審決書の理由の写しのとおり、本願発明は、特開昭59-86977号
公報(以下「引用例1」という。)及び特開昭59-17772号公報(以下「引
用例3」という。)に基づいて当業者が容易に発明をすることができたと認定判断
した。
第3 原告主張の審決取消事由の要点
  審決の理由1は認める。同2は、引用例3に開示されている技術事項の認定
(6頁1行~7頁15行)を争い、その余は認める。同3は認める。同4は、(3)の
③(13頁13行~14頁7行)を争い、その余は認める。同5は争う。
  審決は、相違点3についての判断に誤りがあり、この誤りが審決の結論に影
響を及ぼすことは明らかであるから、違法として取り消されるべきである。
1 カメラを被写体に向けて撮影するとき、ピンぼけ、露出の不適または手ぶれ
により写真が不鮮明になることがある(撮影失敗)。一方、電子スチルカメラで
は、撮影時にピンぼけ、露出の不適または手ぶれが発生しない場合でも、画像信号
を外部記録媒体(たとえば回転式磁気ディスク)に記録する際の振動などの外乱に
起因して、画像信号が外部記録媒体に正しく記録されないことがある(記録失
敗)。
  引用例3記載の発明は、撮影失敗に対処するものである。引用例3記載の発
明は、画像信号を一時記録するフレームメモリを備えているものの、それは撮影失
敗を確認する表示用に用いるだけである。
  一方、引用例1記載の発明は、記録失敗時には、記録し直す前に再び撮影を
行うものであって、記録のみを正しくしようとするものではない。すなわち、引用
例1記載の発明は、記録失敗に対処するに際して、再記録を行う前に再撮影が必要
な構成となっているのである。
  本願発明は、撮影時に画像信号を半導体メモリに一時記憶しておき、記録失
敗時において、再度撮影することなく半導体メモリに記憶されている画像信号を再
度出力して記録仕直すというものであるから、引用例1、3記載の発明を組み合わ
せたとしても、容易にこれに至り得るものではない。
2 引用例3記載の発明に引用例1記載の発明を応用した電子スチルカメラで
は、外乱による記録の影響が発生するのは、当然のことながら、先に記録命令が出
力され、フレームメモリ29に格納されている画像がディスク13に記録されると
きということになる。
 ところが、引用例3記載の発明では、最初の記録が終了するとスイッチ30
がH側からL側に切り換わり、フレームメモリ29の記憶内容は新たに撮像素子か
ら読み出された画像信号で更新されているので、再試行により記録される画像は書
き込み時に外乱が検出された画像とは異なるものである。すなわち、引用例3記載
の発明に引用例1記載の発明を応用したものは、意図する画像と同一のものを記録
媒体へ記録できない点で、依然として、引用例1と同様である。
第4 被告の反論の要点
1 元来、発明者は、発明を試みるに当たって、自由に発想し、技術文献を読む
に当たっても、広い見地から読むことを含め様々な観点から読解するものである。
撮影者が「希望する撮影画像を記録したい」という一般的要望を持つものであるこ
とを勘案しつつ、引用例1を解釈すれば、そこからは、正しく記録されなかった場
合に再び繰り返し記録し、記録したい映像を正しく記録するという技術的思想を読
み取ることは、容易になし得るところである。
  引用例1記載の発明が、記録失敗時には再び撮影を行うものであることは確
かである。しかし、再び撮影を行うものとされている理由は、そこでは、撮影され
た画像が保持保存されない構成になっている(内部にフレームメモリを有していな
い。)ため、希望する撮影画像を捨てて、別に撮影をせざるを得ないからである。
これと異なり、引用例3におけるように、希望する撮影画像が保存されていると
き、それを捨ててわざわざ別の撮影をすることは一般常識として極めて不自然なこ
とである。
 原告は、引用例1記載の発明について、記録失敗時には、記録し直す前に再
び撮影を行うものであって、正しく記録するものではないと主張するけれども、引
用例1記載の発明をそのように限定して解釈しなければならない特段の技術的条
件・事情はない。
2 原告の主張するとおり、引用例3記載の発明では、最初の記録が終了すると
スイッチ30がH側からL側に切り換わり、フレームメモリ29の記憶内容は新た
に撮像素子から読み出された画像信号で更新されている。しかし、引用例3記載の
発明に他の技術的思想を応用する際には、応用に関連する引用例3記載の発明の部
分が影響を受け、変更を受けることは当然である。
  すなわち、引用例3記載の発明では、フレームメモリにある記録したい映像
を記録するときは、スイッチ30がH側にある。この記録時に外乱が検出されると
不正な映像を記録することになるのであるから、これに引用例1の技術的思想を適
用すると、再度繰り返し記録し、記録したい映像を正しく記録することが必要にな
る。
  このときフレームメモリには記録したい映像の信号が蓄積されているのであ
るから、蓄積された映像を捨て新たな映像を取り込むことはせず、フレームメモリ
に蓄積された映像を再度記録することは、引用例3の技術的課題(望む映像を記録
できるようにする)と引用例1の技術的課題(外乱があるとき再度記録動作を行う
ようにする)を勘案すれば技術の論理上当然であり、フレームメモリの使用目的に
も合致するものである。引用例3記載の発明に引用例1記載の技術思想を応用する
に当たっては、正しく記録されてから記録動作を終え、スイッチ30がH側からL
側に切り換えられることになると考えるのが合理的である。
第5 当裁判所の判断
1 甲第4号証(引用例1)によれば、引用例1には、審決の理由3頁14行~
5頁3行認定の記載のほか、「更に具体的には、記録手段に磁気シートメモリを用
いた第1図に示す装置において、回転サーボ回路7は、同期信号発生回路8から供
給される一定の基準周波数と、回転駆動モータに連結された回転速度や位相検出手
段PGの出力とが位相的にロックするように動作しているが、何んらかの原因(例
えば走行車上での撮影の際の振動等)でロックがはずれた場合、磁気シートメモリ
6は、記録不可能な回転状態におちいる。この場合、その撮影記録は、単に失敗で
あったという表示警告を行なう程度にとどまり、再撮影しようとしても、せっかく
のシャッターチャンスを逃がしてしまうという重大な問題点があった。本発明は、
このような振動等の外乱に弱い記録手段を有するスチルカメラにおける前記したよ
うな問題点を解決し、その構成に起因する撮影の失敗を少なくした電子スチルカメ
ラを提供しようとするものである。本発明に係る装置は、記録装置に対する記録が
正しくなされたか否かを検出する手段を設け、記録が正しく行なわれなかった場合
に再び撮影、記録を所定回数を限度として記録が正しくなされるまで繰り返し行な
えるようにした点に特徴がある。」(2頁右上欄1行~左下欄3行)、「ここで
は、シャッタータイムが1/60秒を含み、それより短い高速側についてこの動作
が実現されるよう実施例について説明したが・・・予備の動作の繰り返し回数とし
ては、時間遅れに対する人間の検知限を0.2秒程度と考えても、12回は可能と
なり、この間に撮影が成功する確率は極めて高くなる。・・・記録が不成功である
ことを検出装置が検出した場合に限って固体撮像素子が信号電荷蓄積を開始する様
にしてもよい。但しこの場合・・・1/30秒周期で再撮影、記録が可能となり
0.2秒間に6回の繰り返しが可能となる。」(4頁右上欄13行~左下欄13
行)との記載があることが認められ、以上の記載によれば、引用例1においては、
「シャッターチャンスを逃がしてしま」わないということは、希望する撮影画像を
記録するということを意味し、時間遅れに対する人間の検知限である0.2秒以内
に撮影された画像を記録すれば、シャッターチャンスを逃さず、希望する撮影画像
を記録できると考えているものと認められる。
  以上の事実によれば、引用例1には、外乱に弱い記録手段を有する電子スチ
ルカメラにおいて、記録手段に記録する際に外乱があったときでも、シャッターチ
ャンスを逃さず希望する画像を記録したいという技術的課題と、これを解決する手
段として、外乱により記録媒体に対する情報の記録に影響が発生したか否かを検出
する手段を設け、前記影響が前記検出手段によって検出された場合、希望する撮影
画像の記録に必要な動作を再度行い、希望する映像を正しく記録するという発明が
開示されているものと認められる。
  原告は、引用例1記載の発明は、記録失敗に対処するに際して、再記録を行
う前に再撮影が必要な構成となっていると主張する。確かに、前認定の引用例1の
記載によれば、引用例1に具体例として明示されているものは、記録失敗の場合に
は、例えば1/60秒~1/30秒程度後に再撮影を行った画像を記録するという
発明であるものと認められる。しかし、引用例1に、シャッターチャンスを逃さず
希望する画像を記録したいという技術的課題及び0.2秒以内に撮影された画像で
あればシャッターチャンスを逃さない希望する画像であるということが開示されて
いることを考慮すれば、引用例1に記載された、記録失敗の場合には1/60秒~
1/30秒程度後に再撮影を行った画像を記録するという発明は、記録失敗の場合
には、希望する撮影画像の記録に必要な動作を再度行うという趣旨であることは明
らかである。したがって、当業者は、引用例1から、記録失敗の場合には、希望す
る撮影画像の記録に必要な動作を再度行って、希望する映像を正しく記録するとい
う技術的思想、すなわち発明を把握することができるものというべきである。
2 甲第6号証(引用例3)によれば、引用例3記載の発明は引用例1記載の発
明と同じく、電子スチルカメラに関するものであることが認められるから、これに
引用例1記載の発明を適用することに妨げとなるものはない。
3 引用例3記載の発明においては、フレームメモリに格納された画像信号が記
録媒体に記録されるのであるから、外乱による記録媒体に対する情報の記録の影響
は、画像信号をフレームメモリから画像信号を記録装置に記録しようとしている時
に発生するものである。そうすると、これに引用例1記載の前記技術的思想を適用
したときは、外乱により記録媒体に対する情報の記録に影響が発生したか否かを検
出する手段は、画像信号をフレームメモリから記録装置に記録しようとしている時
の外乱を検出するのであるから、外乱が検出された場合における希望する撮影画像
の記録に必要な動作とは、フレームメモリに格納された画像信号を記録装置に再度
出力することになるものと認められる。そうである以上、相違点3に係る本願発明
の構成は、引用例3記載の発明に引用例1記載の発明を適用して容易に想到するこ
とができたものというべきである。
  引用例1に具体例として明示されている発明が、記録失敗の場合には、再撮
影を行い、これを記録するという発明であることは前認定のとおりである。しか
し、引用例3記載の発明においては、引用例1記載のものの場合とは異なり、希望
する画像がフレームメモリに格納されているのであるから、希望する画像を記録す
るためには、再撮影を行う必要がないことは明らかである。そして、電子スチルカ
メラにおいては、撮影と記録は別の動作であるから、両者を切り離して、希望する
撮影画像の記録に必要のない撮影をせず、これに必要な記録のみを再度行うことと
することに困難があるとは考えられない。したがって、引用例1に具体例として明
示されている発明が前認定のとおりであることが、相違点3に係る本願発明の構成
を容易に想到することの妨げとなるものとは認められない。
4 原告は、引用例3記載の発明では、最初の記録が終了するとスイッチ30が
H側からL側に切り換わり、フレームメモリ29の記憶内容は新たに撮像素子から
読み出された画像信号で更新されているので、再試行により記録される画像は書き
込み時に外乱が検出された画像とは異なるものであるから、引用例3記載の発明に
引用例1記載の発明を応用したものは、依然として、意図する画像と同一のものを
記録媒体へ記録できないと主張する。
 しかし、引用例3記載の発明に引用例1記載の発明を適用した場合、記録時
に外乱が検出されたときには不正な画像が記録されることになり、再試行の必要が
あることは明らかである。そうである以上、引用例3記載の発明に引用例1記載の
発明を適用した発明においては、スイッチ30がH側からL側に切り換わるのは、
最初の記録が終了したときではなく、外乱が検出されることなく記録が終了した時
としなければ、折角外乱を検出することとした意味がなくなってしまうものであっ
て、そのように構成しようとすることは当然であり、またそのように構成すること
に困難があるとは考えられない。原告の主張は、採用することができない。
5 以上のとおりであるから、原告主張の取消事由は理由がなく、その他審決に
はこれを取り消すべき瑕疵は見当たらない。
第6 よって、本訴請求は、理由がないから棄却することとし、訴訟費用の負担に
ついて行政事件訴訟法7条、民事訴訟法61条を適用して、主文のとおり判決す
る。
   東京高等裁判所第6民事部
       裁判長裁判官 山  下  和  明
          裁判官  山  田  知  司
 
          裁判官 阿  部  正  幸

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