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平成20年12月3日判決言渡同日原本領収裁判所書記官
平成19年(ワ)第26898号特許権侵害差止等請求事件
平成20年10月3日口頭弁論終結
判決
東京都世田谷区<以下略>
原告A
東京都目黒区<以下略>
原告B
東京都世田谷区<以下略>
原告有限会社アーテム
(以下「原告会社」という。)
上記3名訴訟代理人弁護士谷眞人
同牛久保美香
同補佐人弁理士蔵合正博
東京都目黒区<以下略>
被告テトラジャパン株式会社
同訴訟代理人弁護士細谷義徳
同大久保宏昭
同原田芳衣
同加藤一真
同河本秀介
同訴訟代理人弁理士津国肇
同柳橋泰雄
同生川芳徳
主文
1原告らの請求をいずれも棄却する。
2訴訟費用は原告らの負担とする。
事実及び理由
第1請求
1被告は,別紙被告製品目録1ないし4記載のエアーポンプを製造し,使用
し,譲渡し,貸し渡し,輸入し,又は譲渡若しくは貸渡しのために展示してはなら
ない。
2被告は,前項記載のエアーポンプの製品,半製品(前項記載の物件の構造を
具備しているが,エアーポンプとして完成するに至っていないもの)及び製造のた
めの金型を廃棄せよ。
3被告は,原告会社に対し,2700万円及びこれに対する平成19年10月
20日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2事案の概要
1訴訟の概要
本件は,水槽に泡立て用の空気を送り込むことなどに使用されるエアー・ポンプ
に関する特許権を共有する原告A及びBが,エアー・ポンプを販売等している被告
に対し,同特許権に基づいて,同エアー・ポンプの譲渡等の差止め(特許法101
条1項)及び同エアー・ポンプ等の廃棄(特許法101条2項)を求めるととも
に,上記特許権につき独占的通常実施権の許諾を受けたと主張する原告会社が,被
告に対し,損害賠償金2700万円(民法709条,特許法102条2項)及び遅
延損害金の支払を求めた事案である。
2技術的背景の要点
鑑賞魚類を飼育する水槽内の泡発生器具に空気を送り込むエアー・ポンプには,
ゴムなどの弾性材料などで形成されたダイヤフラムの収縮,膨張により空気をホー
スを通して泡発生器具に送るタイプのものがある。しかし,このタイプでは,ダイ
ヤフラムが空気を吸入,吐出を行う時に生じた空気の挙動により発生した音がホー
スを伝って水槽へと伝わり,水槽又はその周縁から低いうなり音が発生してしま
う。そこで,この騒音を低減させるためには,上記空気の流出位置又は空気の挙動
などを制御して水槽へ静かな空気供給を行うような構成を採用する必要性が生じ
る。
(甲2,乙1,弁論の全趣旨)
3前提事実
(1)当事者
ア原告ら
原告会社は,家庭用電気機械器具の製造販売等を業とする有限会社である。
原告Aは原告会社の取締役,原告Bは原告会社の代表取締役である。
(争いのない事実)
イ被告
被告は,観賞魚飼育関連製品(器具関連製品,水質調剤,水質測定用製品等)の
製造,輸入,販売等を業とする株式会社である。
(争いのない事実)
(2)本件特許権等
原告A及び原告Bは,次の特許権を共有している。以下,この特許権を「本件
特許権」といい,本件特許権に係る特許を「本件特許」,本件特許の特許請求の範
囲の請求項1記載の発明を「本件特許発明1」,請求項2記載の発明を「本件特許
発明2」といい,本件特許発明1及び2を併せて「本件特許発明」といい,本件特
許発明に係る明細書及び図面を「本件明細書」といい,その特許公報(甲2)を別
紙として添付する。
ア登録番号特許第3400515号
イ発明の名称エアー・ポンプ
ウ出願日平成6年1月17日
エ登録日平成15年2月21日
オ請求項1及び2別紙特許公報の各該当欄に記載のとおり。
(争いのない事実,甲2)
(3)構成要件の分説
ア本件特許発明1
本件特許発明1を分説すると,次のとおりである(以下,各構成要件を「構成要
件A」「構成要件A1」のようにいう。)。
A(A1)筐体であるハウジングと,
(A2)電磁駆動機構と,
(A3)この電磁駆動機構の電磁作用によって往復運動するマグネットを有す
るアームと,
(A4)このアームによって作動せしめられ空気を吸入するダイヤフラムと,
(A5)ダイヤフラムに接続され空気を一時的に蓄え,吐出するタンク部材と
を備え,
B(B)タンク部材は,
(B1)土台となるボックス構造のベース部と,
(B2)ベース部から立ち上げられて,ダイヤフラムの空気排出部に対接する
ダイヤフラム接合部と,
(B3)ベース部からダイヤフラム接合部に隣り合わせて立ち上げられたボッ
クス構造の柱状部と,
(B4)この柱状部に形成され,アームの根元部分が固定される係止部とを有
し,
(B5)全体が一体のブロック体構造で,
C(C1)かつベース部及び柱状部の内部にこの両者間に略L字形に連続する空
気滞留室が形成され,
(C2)ダイヤフラム接合部にダイヤフラムから送り出された空気を受け入れ
る空気取込口からベース部に向けて延び,空気滞留室に連通する空気通路を形成さ
れて,
D(D1)空気滞留室の空気流入口がベース部側に設けられるとともに,
(D2)空気滞留室の空気出口が柱状部の上部に設けられ,
E(E1)ダイヤフラムおよびアームの支持台としての機能と
(E2)ダイヤフラムによる空気の吸入,吐出動作に際して発生する音を軽減
する機能とを合わせ持って,
F(F1)ベース部をハウジングの底面に当接して固定取り付けされ,
(F2)タンク部材の空気出口に空気供給用のホースが接続される
(F3)ことを特徴とするエアー・ポンプ。
(争いのない事実)
イ本件特許発明2
本件特許発明2を分説すると,次のとおりである(以下,各構成要件を「構成要
件G」「構成要件G1」のようにいう。)。
G(G1)空気滞留室に空気流入口と空気出口とは互いに離れた位置に設けら
れ,
(G2)空気流入口からの空気の流入方向に対して空気出口からの空気の流出
方向が直角に向けられている
(G3)ことを特徴とする請求項1記載のエアー・ポンプ。
(争いのない事実)
(4)被告の行為
ア旧OX−45,OX−60及びOX−75
被告は,遅くとも平成17年5月23日以降,業として,旧OX−45,OX−
60及びOX−75を輸入,販売している。ただし,旧OX−45の販売は,平成
18年9月26日までである。
(争いのない事実,弁論の全趣旨)
イ新OX−45
被告は,平成18年9月ころ以降,新OX−45を輸入,販売している。
(争いのない事実,弁論の全趣旨)
(5)被告製品の構成
ア旧OX−45
(ア)形状及び構造
旧OX−45の形状及び構造は,別紙説明書(旧OX−45)のとおりである。
(争いのない事実)
(イ)構成
旧OX−45は,少なくとも次の構成を有する。
a筐体であるハウジング12と,電磁駆動機構14と,この電磁駆動機構の電
磁作用によって往復運動するマグネット17を有するアーム16と,このアームに
よって作動せしめられ空気を吸入するダイヤフラム18と,ダイヤフラム18に接
続され空気を一時的に蓄え,吐出するタンク部材19とを備えている。
eタンク部材19は,ダイヤフラム18及びアーム16の支持台としての機能
とダイヤフラム18による空気の吸入,吐出動作に際して発生する音を軽減する機
能とを有する。
fタンク部材19は,そのベース部20をハウジング12の底面に当接して固
定取り付けされ,その空気出口25に空気供給用のホースが接続されている。
(争いのない事実)
イOX−60及びOX−75
(ア)形状及び構造
OX−60の形状及び構造は,別紙説明書(OX−60)のとおりであり,OX
−75の形状及び構造は,別紙説明書(OX−75)のとおりである。
(争いのない事実)
(イ)構成
OX−60及びOX−75は,少なくとも次の構成を有する。
a筐体であるハウジング12と,電磁駆動機構14と,この電磁駆動機構の電
磁作用によって往復運動するマグネット17を有するアーム16と,アーム16に
よって作動せしめられ空気を吸入するダイヤフラム18と,ダイヤフラム18に接
続され空気を一時的に蓄え,吐出するタンク部材19とを備えている。
eタンク部材19は,ダイヤフラム18及びアーム16の支持台としての機能
とダイヤフラム18による空気の吸入,吐出動作に際して発生する音を軽減する機
能とを有する。
fタンク部材19は,そのベース部20をハウジング12の底面に当接して固
定取り付けされ,その空気出口25に空気供給用のホースが接続されている。
(争いのない事実)
ウ新OX−45
(ア)形状及び構造
新OX−45の形状及び構造は,別紙説明書(新OX−45)のとおりである。
(争いのない事実)
(イ)構成
新OX−45は,少なくとも次の構成を有する(図1及び図2も参照)。
a筐体であるハウジング12と,電磁駆動機構14と,この電磁駆動機構の電磁
作用によって往復運動するマグネット17を有するアーム16と,アーム16によっ
て作動せしめられ空気を吸入するダイヤフラム18と,ダイヤフラム18に接続され
空気を一時的に蓄え,吐出するタンク部材19とを備えている。
eタンク部材19は,ダイヤフラム18及びアーム16の支持台としての機能と
ダイヤフラム18による空気の吸入,吐出動作に際して発生する音を軽減する機能と
を有する。
fタンク部材19は,そのベース部20をハウジング12の底面に当接して固定
取り付けされ,その空気出口25に空気供給用のホースが接続されている。
(争いのない事実)
(6)構成要件の充足
ア本件特許発明1
(ア)旧OX−45
旧OX−45の構成a,e,fは,それぞれ構成要件A,E,Fを充足する。
(争いのない事実)
(イ)OX−60及びOX−75
OX−60及びOX−75の構成a,e,fは,それぞれ構成要件A,E,Fを
充足する。
(争いのない事実)
(ウ)新OX−45
新OX−45の構成a,e,fは,それぞれ構成要件A,E,Fを充足する。
(争いのない事実)
イ本件特許発明2
(ア)旧OX−45
旧OX−45の構成a,e,fは,それぞれ構成要件G3中の構成要件A,E,
Fを充足する。
(争いのない事実)
(イ)OX−60及びOX−75
OX−60及びOX−75の構成a,e,fは,それぞれ構成要件G3中の構成
要件A,E,Fを充足する。
(争いのない事実)
(ウ)新OX−45
新OX−45の構成a,e,fは,それぞれ構成要件G3中の構成要件A,E,
Fを充足する。
(争いのない事実)
(7)特許無効の主張
ア主引用例
乙1の1によれば,乙1の1のコピーの元とされた台湾登録願第7720472
5号新型専利説明書の公告本(図面2葉(第一図,第二図)を含む。以下「乙1公
告本」という。)には,次の記載があることが認められる(ここに開示された発明
を「乙1考案」という。訳は,乙1の3による。)。
①「〔6頁1行∼7行〕クレーム
1空気取込室と空気排出室とを備える消音空気ポンプ構造であって,上記空気
排出室と排気管との間にさらに緩衝室が設けられ,当該緩衝室と排気室との底部に
連通するためのチャンネルが設けられ,緩衝室の容積は,空気取込室と空気排出室
のいずれの容積より大きく,且つ,緩衝室における排気管口周辺に綿製空気透過パ
ッドが設置され,上記緩衝室,チャンネル及び空気排出室の底部にゴムパッドが設
けられることを特徴とする消音空気ポンプ構造。」
②「〔2頁8行,14行∼3頁4行〕5考案の説明

従来の魚の飼育用水槽に用いられる空気ポンプとしては,添付書類1公告第59
102,添付書類2公告第53223,添付書類3公告第74050,添付書類4
公告第83200,添付書類5公告第087333に開示されたものが挙げられ
る。開示されたあらゆるポンプ構造については,いずれも空気輸送機能を持ってい
るが,ノイズが大き過ぎるという一つの共通の欠点もあることが現状である。その
原因を調べたところ,いずれの製品においても,空気排出室中の空気が,振動ダイ
ヤフラムを介して外部から空気取込室の後に設置された回気室に吸入され,ワンウ
エーバルブにより気流の回流を防ぎ,回気室のすぐ後に接続された細長排気管を通
って排出されるということが分かる。このような設計においては,空気がワンウエ
ーで高速に流れ,管壁面との摩擦が大きくなってノイズが生じている(従来製品の
ノイズを測定した結果,いずれも約20∼30dbである)。静かな居室におい
て,うるさい感じがすると言える。夜になると,最も顕著であろう。これは,従来
製品の大きな欠点と言える。」
③「〔3頁19行∼4頁6行〕図面1は,本考案のポンプ体の立体分解図であ
る。
図面2は,本考案のポンプ体の実施例の断面図である。
図面1のように,ポンプ体10の一側に緩衝室13が設置され,当該緩衝室13
の一側にさらに排気管14が設置されている。上記ポンプ体10の中に空気排出室
と空気取込室を備える。上記空気排出室と空気取込室のそれぞれ中央部に,通気孔
101が設けられている。各通気孔101にバルブ15が設置されている。ポンプ
体10に,ポンプ体10の上周縁の凸縁により形成された凹部である空気迂回区1
11がある。当該迂回区111の上端にダイヤフラム20が設置されている。当該
ダイヤフラム20の一側に設けれられたマグネットは,電磁コイルの電磁駆動によ
り振動され,それにより,ダイヤフラム20を上下方向に振動させることができ
る。ダイヤフラム20の振動作用により空気を空気取込室からバルブ15を介して
上記迂回区111に吸入させる。続いて,吸入された空気を,上記迂回区111か
ら空気排出室におけるバルブ15を介して排出させる。このように,単方向に排気
動作ができる。」
④「〔4頁7行∼14行〕図2のように,ポンプ体10における空気取込室の空
間と空気排出室の空間は同じであり,上端は,上周縁の凸縁とダイヤフラム20と
からなる迂回区111である。2つのバルブ15の1つは,迂回区111の通気孔
101に嵌め込まれ,それにより,空気を空気取込室11から迂回区111に吸入
させることができる。もう1つのバルブ15は,空気排出室12における通気孔1
01に嵌め込まれ,それにより,迂回区111における空気を空気排出室12に排
出させることができる。このようにして,空気は逆の方向に流れられなくなる。」
⑤「〔4頁15行∼5頁3行〕空気排出室12の底部と緩衝室13の間に設置さ
れた空気チャンネル131により,空気排出室12中の空気を緩衝室13に進入さ
せる。緩衝室13の容積は,空気取込室11と空気排出室12の容積より大きい。
緩衝室13の一側に空気を排出するための排気管14が設置される。また,他のホ
ースを介して水槽に送る。緩衝室13と排気管14との間に綿製空気透過パッド1
7が設けられる。この綿製空気透過パッド17により,緩衝室13に進入且つ排気
管14から排出しようとする空気が排気口周辺の緩衝室壁に直接にぶつかることを
避け,音を消すことができる。
また,緩衝室13,チャンネル131および空気排出室12の底部に柔軟且つ弾
性のゴムパッド16が設置される。それにより,空気排出室12中の空気がチャン
ネル131から緩衝室13に流れる時,空気の衝突を緩和し,当該衝突によるノイ
ズを軽減することができる。」
⑥「〔5頁4行∼13行〕したがって,本考案は以下の効果を有する。
1,緩衝室,チャンネルおよび空気排出室の底部に設けられたゴムパッド,及び
排気口周辺に設けられた綿製空気透過パッドなどにより,空気がそれらに衝突する
際の緩和効果により,空気がポンプ体壁面に衝突する際のノイズよりも低いノイズ
の静音効果が得られる。
2,緩衝室の容積を空気取込室および空気排出室の容積より大きくすることによ
り,空気取込室中の空気の圧力と同じな空気排出室中の空気が緩衝室に流れると
き,圧力が小さくなり,流動速度が緩和される。また,排気口周辺に設けられた綿
製空気透過パッドの緩衝作用により,従来のように空気が排気管を流れる時に生じ
る『口笛作用』によるノイズを除去できるので,静音効果が得られる。」
イ一致
(ア)本件特許発明1
乙1考案は,構成要件A1∼4,B1,B4,E1及びF1∼3を備えている点
で,本件特許発明1と一致する。
(争いのない事実)
(イ)本件特許発明2
乙1考案は,構成要件G3中の構成要件A1∼4,B1,B4,E1及びF1∼
3を備えている点で,本件特許発明2と一致する。
(争いのない事実)
4争点
(1)独占的通常実施権の許諾の有無(原告適格)
(2)構成要件の充足
ア旧OX−45(文言侵害)
(ア)構成要件B
(イ)構成要件C
(ウ)構成要件D
(エ)構成要件G
イOX−60及びOX−75(文言侵害)
(ア)構成要件B
(イ)構成要件C
(ウ)構成要件D
(エ)構成要件G
ウ新OX−45(文言侵害)
(ア)構成要件B
(イ)構成要件C
(ウ)構成要件D
(エ)構成要件G
エ均等侵害(各製品共通)
(3)本件特許の無効(新規性又は進歩性)
ア外国で頒布された刊行物該当性
イ構成要件A5(空気を一時的に蓄え吐出するタンク部材)の開示
ウ構成要件B2(立設されたダイヤフラム接合部)の開示又は容易相当性
エ構成要件B3(ボックス構造の柱状部)の開示
オ構成要件B(タンク部材)及びB5(全体が一体のブロック構造)の開示
カ構成要件C1(略L字形に連続する空気滞留室)の開示
キ構成要件C2(空気取込口から空気滞留室への空気通路)の開示
ク構成要件D1(ベース部側の空気流入口)の開示
ケ構成要件D2(柱状部上部の空気出口)の開示
コ構成要件E2(音を軽減する機能)の開示
サ構成要件G1(空気流入口と空気出口の離隔)の開示
シ構成要件G2(直角に向けられた流出方向)の開示
ス構成要件G3(請求項1記載のエアー・ポンプ)の開示又は容易想到性
(4)損害
5争点に関する当事者の主張
(1)争点(1)(独占的通常実施権の許諾の有無(原告適格))
ア原告会社
(ア)a原告会社は,原告A及び原告Bから,黙示的に,独占的通常実施権の許
諾を受けた。
b後記被告の主張(ア)bは否認し,cは認める。
株式会社冨永樹脂工業所(以下「冨永樹脂工業所」という。)に対して通常実施
権を許諾したのは,実質的に原告会社である。原告A及び原告Bが許諾する形式を
採ったのは,原告会社を実施権者とする登録がされていなかったため,便宜上,原
告A及び原告Bから冨永樹脂工業所に直接通常実施権を許諾し,その旨の登録をす
ることとしたためである。
(イ)したがって,原告会社は,実質的に独占的通常実施権を侵害された者とし
て,侵害者に対して損害賠償を請求することができる。
(ウ)仮に,原告会社が独占的通常実施権者でないとしても,原告会社は,特許
権者の承諾を得て他人に通常実施権を許諾した専用実施権者と同様の地位にあるも
のであり,通常実施権を侵害された者として,侵害者に対して損害賠償を請求するこ
とができると解すべきである。
イ被告
(ア)a原告会社の主張(ア)aは否認する。
b原告A及び原告Bは,冨永樹脂工業所に対し,本件特許権について,通常
実施権を許諾した。
cそして,その旨の登録も経由されている(甲1)。
(イ)同(イ)は争う。かえって,原告会社の訴えは,原告適格を欠くものとし
て,却下されるべきである。
(ウ)同(ウ)は争う。
(2)争点(2)(構成要件の充足)
ア旧OX−45(文言侵害)
(ア)構成要件B
a原告ら
(a)旧OX−45の構成b
タンク部材19は,土台となるベース部20と,ベース部20から立ち上げられ
て,ダイヤフラムの空気排出部に対接するダイヤフラム接合部21と,ベース部2
0からダイヤフラム接合部21に隣り合わせて立ち上げられた柱状部22と,柱状
部22に形成され,アーム16の根元部分が固定される係止部33とを有し,全体
が一体のブロック体構造であって,ベース部20と柱状部22とが中空のボックス
構造となっており,その中空部分に一時的に空気を蓄えるようになっている。
(b)充足
上記(a)の構成は,構成要件Bを充足する。
(c)後記被告の主張に対する反論
ⅰ後記被告の主張(c)ⅰは否認する。
ベース部20は,底面の周辺部に立ち上がり部分を有し,かかる部分が上蓋部分と
咬み合うことによって,内部に空間を構成するようになっているのであり,平板状で
はない。
また,用語の普通の意味に照らして,「土台となる」とは,下部に位置することに
よりその上部を支えるものという程度の意味にとらえるのが相当であるところ,ベー
ス部20が下部に位置することによりその上部を支えるものであり,「土台となる」
「ベース部」に該当する。
ⅱ同(c)ⅱは否認する。
ある構成部材を設計するに際して,一部材として構成するか,複数の部材を組み合
わせたものとして構成するかは,設計事項に属するものであるところ,ダイヤフラム
接合部21はベース部20の上部にベース部20に対し垂直に立ち上がるように構成
されているから,「ベース部から立ち上げられて」いるものである。
ⅲ同(c)ⅲは否認する。
ある構成部材を設計するに際して,一部材として構成するか,複数の部材を組み合
わせたものとして構成するかは,設計事項に属するものであるところ,柱状部22は
ベース部20の上部にベース部20に対し垂直に立ち上がるように構成されているか
ら,「ベース部から」「立ち上げられて」いるものである。
ⅳ同(c)ⅳは否認する。
ベース部20は,底面の周辺部に立ち上がり部分を有し,かかる部分が上蓋部分と
咬み合うことによって,内部に空間を構成するようになっているから,平板状ではな
いし,ベース部20と柱状部22とで中空のボックス構造の一部を成している。
b被告
(a)旧OX−45の構成b
原告らの主張(a)は,後記(c)の点を除いて認める。
(b)充足
同(b)は否認する。
(c)被告の主張
ⅰベース部20は,柱状部22及びダイヤフラム接合部21の裏側開口を
塞ぐ平板状の蓋であり,柱状部22及びダイヤフラム接合部21を構造的に支える
土台ではない。
ⅱダイヤフラム接合部21は,蓋であるベース部20とは別個独立の部材
であり,「ベース部から」立ち上げられて設けられたものではない。
ⅲ柱状部22は,蓋であるベース部20と別個独立の部材であり,「ベー
ス部から」立ち上げられて設けられたものではない。
ⅳベース部20は,平板状の蓋であり,ボックス構造ではない。
(イ)構成要件C
a原告ら
(a)旧OX−45の構成c
タンク部材19においては,ボックス構造のベース部20及びボックス構造の柱
状部22の内部に略L字型に連続する空気滞留室23が形成され,ダイヤフラム接
合部21にダイヤフラム18から送り出された空気を受け入れる空気取込口27か
らベース部20に向けて延び,空気滞留室23に連通する空気通路28が形成され
ている。
(b)充足
上記(a)の構成は,構成要件Cを充足する。
(c)後記被告の主張に対する反論
ⅰ上記(ア)(構成要件B)a(c)ⅳのとおり。
ⅱ後記被告の主張(c)ⅱは否認する。
ベース部20は平板状の蓋ではない。仮にこれを平板状の蓋であるとしても,ベー
ス部20と柱状部22とにより,その内部に空間を構成している。
b被告
(a)旧OX−45の構成c
原告らの主張(a)は,後記(c)の点を除いて認める。
(b)充足
同(b)は否認する。
(c)被告の主張
ⅰ上記(ア)(構成要件B)b(c)ⅳのとおり。
ⅱベース部20は,平板状の蓋であり,その内部に,「略L字形に連続す
る空気滞留室」といった空間の一部が形成されているものではない。
(ウ)構成要件D
a原告ら
(a)旧OX−45の構成d
空気滞留室23において,空気流入口36はベース部20側に設けられ,空気出
口25は柱状部22の上部に設けられている。
(b)充足
上記(a)の構成は,構成要件Dを充足する。
(c)後記被告の主張に対する反論
後記被告の主張(c)は否認する。
本件明細書の記載から,空気出口とは空気滞留室からポンプ外部へ空気を排出する
部分を意味することは明らかである。
b被告
(a)旧OX−45の構成d
原告らの主張(a)は,後記(c)の点を除いて認める。
(b)充足
同(b)は否認する。
(c)被告の主張
空気出口25と空気滞留室23との間には空間があるから,空気出口25は,空
気滞留室23に設けられていない。
(エ)構成要件G
a原告ら
(a)旧OX−45の構成g
空気滞留室23に,空気流入口36と空気出口25とは互いに離れた位置に設け
られ,空気流入口36からの空気流入方向に対して空気出口25からの空気の流出
方向が直角に設けられている。
(b)充足
上記(a)の構成は,構成要件Gを充足する。
(c)後記被告の主張に対する反論
上記(ウ)(構成要件D)a(c)のとおり。
b被告
(a)旧OX−45の構成g
原告らの主張(a)は,後記(c)の点を除いて認める。
(b)充足
同(b)は否認する。
(c)被告の主張
上記(ウ)(構成要件D)b(c)のとおり。
イOX−60及びOX−75(文言侵害)
(ア)構成要件B
a原告ら
(a)OX−60及びOX−75の構成b
タンク部材19は,土台となるベース部20と,ベース部20から立ち上げられ
て,ダイヤフラム18の空気排出部に対接するダイヤフラム接合部21と,ベース
部20からダイヤフラム接合部21に隣り合わせて立ち上げられた柱状部22と,
柱状部22に形成され,アーム16の根元部分が固定される係止部33とを有し,
全体が一体のブロック体構造であって,ベース部20と柱状部22とが中空のボッ
クス構造となっており,その中空部分に一時的に空気を蓄えるようになっている。
(b)充足
上記(a)の構成は,構成要件Bを充足する。
(c)後記被告の主張に対する反論
上記ア(旧OX−45)(ア)(構成要件B)a(c)のとおり。
b被告
(a)OX−60及びOX−75の構成b
原告らの主張(a)は,後記(c)の点を除いて認める。
(b)充足
同(b)は否認する。
(c)被告の主張
上記ア(旧OX−45)(ア)(構成要件B)b(c)のとおり。
(イ)構成要件C
a原告ら
(a)OX−60及びOX−75の構成c
タンク部材19においては,ボックス構造のベース部20及びボックス構造の柱
状部22の内部に略L字型に連続する空気滞留室23が形成され,ダイヤフラム接
合部21にダイヤフラム18から送り出された空気を受け入れる空気取込口27か
らベース部20に向けて延び,空気滞留室23に連通する空気通路28が形成され
ている。
(b)充足
上記(a)の構成は,構成要件Cを充足する。
(c)後記被告の主張に対する反論
ⅰ上記ア(旧OX−45)(ア)(構成要件B)a(c)ⅳのとおり。
ⅱ上記ア(旧OX−45)(イ)(構成要件C)a(c)ⅱのとおり。
ⅲ後記被告の主張(c)ⅲは否認する。
空気滞留室23において空気流入口36がベース部20側に設けられ,空気出口2
5が空気流入口36より上部に設けられれば,必然的に,少なくとも略L字形に連続
する空気滞留室が構成されることになる。
ⅳ同(c)ⅳは否認する。
第2空間は,空気出口25に連なる曲折空気導管の下端部を,ベース部20から立
ち上げた大径管の上端部に挿入したことにより生じた閉空間であり,空気が滞留する
空間ではない。
仮に,これを空気滞留室の中の第2空間と位置付けるとしても,被告の主張する第
1空間が略L字形の空気滞留室であること自体が否定されるものではない。
b被告
(a)OX−60及びOX−75の構成c
原告らの主張(a)は,後記(c)の点を除いて認める。
(b)充足
同(b)は否認する。
(c)被告の主張
ⅰ上記ア(旧OX−45)(ア)(構成要件B)b(c)ⅳのとおり。
ⅱ上記ア(旧OX−45)(イ)(構成要件C)b(c)ⅱのとおり。
ⅲ空気滞留室23は,ダイヤフラム接合部21,柱状部22及びベース部
20の内面により画定された略凸形の第1空間を有しているから,「略L字形に連
続する」ものではない。
ⅳ上記第1空間には,空気出口25に連なる曲折空気導管の下端部を,ベ
ース部20から立ち上げた大径管の上端部に挿入した二重管構造が設けてあって,
この二重管構造の内部に略円柱形の第2空間が形成されており,空気滞留室23
は,略凸形の第1空間に略円柱形の第2空間を内在させた形状となっているから,
「略L字形に連続する」ものではない。
(ウ)構成要件D
a原告ら
(a)OX−60及びOX−75の構成d
空気滞留室23において,空気流入口36はベース部20側に設けられ,空気出
口25は柱状部の上部に設けられている。
(b)充足
上記(a)の構成は,構成要件Dを充足する。
(c)後記被告の主張に対する反論
上記ア(旧OX−45)(ウ)(構成要件D)a(c)のとおり。
b被告
(a)OX−60及びOX−75の構成d
原告らの主張(a)は,後記(c)の点を除いて認める。
(b)充足
同(b)は否認する。
(c)被告の主張
上記ア(旧OX−45)(ウ)(構成要件D)b(c)のとおり。
(エ)構成要件G
a原告ら
(a)OX−60及びOX−75の構成g
空気滞留室23に,空気流入口36と空気出口25とは互いに離れた位置に設け
られ,空気流入口36からの空気流入方向に対して空気出口25からの空気の流出
方向が直角に設けられている。
(b)充足
上記(a)の構成は,構成要件Gを充足する。
(c)後記被告の主張に対する反論
上記ア(旧OX−45)(ウ)(構成要件D)a(c)のとおり。
b被告
(a)OX−60及びOX−75の構成g
原告らの主張(a)は,後記(c)の点を除いて認める。
(b)充足
同(b)は否認する。
(c)被告の主張
上記ア(旧OX−45)(ウ)(構成要件D)b(c)のとおり。
ウ新OX−45(文言侵害)
(ア)構成要件B
a原告ら
(a)新OX−45の構成b(図7及び8による。)
消音器19は本件特許発明1のタンク部材に対応するところ,消音器19は土台と
なる裏蓋20と,ベース部から立ち上げられて,ダイヤフラムの空気排出部に対接す
るダイヤフラム接合部21と,ベース部からダイヤフラム接合部21に隣り合わせて
立ち上げられた柱状部22と,柱状部22に形成され,アームの根元部分が固定され
る係止部33とを有し,全体が一体のブロック体構造であって,ベース部と柱状部2
2とが中空のボックス構造となっており,その中空部分に一時的に空気を蓄えるよう
になっている。
(b)充足
上記(a)の構成は,構成要件Bを充足する。
(c)後記被告の主張に対する反論
ⅰ後記被告の主張(c)ⅰは否認する。
ある構成部材を設計するに際して,一部材として構成するか,複数の部材を組み合
わせたものとして構成するかは,設計事項に属するものであるところ,ダイヤフラム
接合部21は裏蓋20の上部に裏蓋20に対し垂直に立ち上がるように構成されてい
るから,「ベース部から立ち上げられ」ているものである。
ⅱ同(c)ⅱは否認する。
ある構成部材を設計するに際して,一部材として構成するか,複数の部材を組み合
わせたものとして構成するかは,設計事項に属するものであるところ,柱状部22は
裏蓋20の上部に裏蓋20に対し垂直に立ち上がるように構成されているから,「ベ
ース部から立ち上げられ」ているものである。
ⅲ同(c)ⅲは否認する。
裏蓋20は,底面の周辺部に立ち上がり部分を有し,かかる部分が上蓋部分と咬み
合うことによって,内部に空間を構成するようになっているから,平板状ではない
し,裏蓋20と柱状部22とで中空のボックス構造の一部を成している。
b被告
(a)新OX−45の構成b
原告らの主張(a)は,後記(c)の点を除いて認める。
(b)充足
同(b)は否認する。
(c)被告の主張
ⅰダイヤフラム接合部21は,裏蓋20とは別個独立の部材であり,「ベ
ース部から」立ち上げられて設けられたものではない。
ⅱ柱状部22は,裏蓋20と別個独立の部材であり,「ベース部から」立
ち上げられて設けられたものではない。
ⅲ裏蓋20は,平板状の蓋であり,ボックス構造ではない。
(イ)構成要件C
a原告ら
(a)新OX−45の構成c(図7及び8による。)
消音器19においては,ボックス構造の裏蓋20及びボックス構造の柱状部22の
内部に略L字形に連続する排気側消音室23が形成され,ダイヤフラム接合部21に
ダイヤフラムから送り出された空気を受け入れる空気取込口からベース部に向けて延
び,排気側消音室23に連通する排気路28が形成されている。
(b)充足
上記(a)の構成は,構成要件Cを充足する。
(c)後記被告の主張に対する反論
ⅰ上記(ア)(構成要件B)a(c)ⅲのとおり。
ⅱ後記被告の主張(c)ⅱは否認する。
本件特許発明1においては,吸気側は何ら問題としていないから,消音器19の柱
状部22の内部に形成された排気側消音室23のみが本件特許発明の「空気滞留室」
に対応するものである。
ⅲ後記被告の主張(c)ⅲは否認する。
段差状邪魔板29及びストレート邪魔板30は,消音室を完全に仕切るものでない
のは明らかであり,たとえ段差状邪魔板29及びストレート邪魔板30が存在しよう
とも,排気側消音室23の内部に形成される空間の内縁は,略L字形に連続するもの
である。
また,段差状邪魔板29及びストレート邪魔板30により生じる空気の上下方向の
転換は,「空気通路」を通って垂直方向下方へ流れて「空気滞留室」の「ベース部」
側部分へと流れこむ本件特許発明1においても生じているのであり,もともと本件特
許発明1でも行われていた作用を技術常識を適用してわずかな改変を施したにすぎな
いものであり,本質的な相違はない。
また,段差状邪魔板29及びストレート邪魔板30を設けた構成は,それら邪魔板
で構成される各内部空間において連続する略L字形を形成しているものであり,全体
としての大きな略L字形空間の内部においてさらに小さな略L字形空間が繰り返され
ているにすぎない。
b被告
(a)新OX−45の構成c
原告らの主張(a)は,後記(c)の点を除いて認める。
(b)充足
同(b)は否認する。
(c)被告の主張
ⅰ上記(ア)(構成要件B)b(c)ⅲのとおり。
ⅱ消音室26は,吸気側消音室24と排気側消音室23とに区画されてお
り,全体が「略L字形に連続する」ものではない。
ⅲ仮に排気側消音室23のみが「空気滞留室」に対応するとしても,排気
側消音室23は,段差状邪魔板29及びストレート邪魔板30によって仕切られて
おり,その内部形状は「略L字形に連続する」ものではない。
(ウ)構成要件D
a原告ら
(a)新OX−45の構成d(図7及び8による。)
排気側消音室23において,空気流入口(排気路28の下端)はベース部側に設け
られ,空気出口25は柱状部22の上部に設けられている。
(b)充足
上記(a)の構成は,構成要件Dを充足する。
(c)後記被告の主張に対する反論
後記被告の主張(c)は否認する。
本件明細書の記載から,空気出口とは空気滞留室からポンプ外部へ空気を排出する
部分を意味することは明らかである。
b被告
(a)新OX−45の構成d
原告らの主張(a)は,後記(c)の点を除いて認める。
(b)充足
原告らの主張(b)は否認する。
(c)被告の主張
空気出口25は,排気側消音室23とは別の場所に設けられている。
(エ)構成要件G
a原告ら
(a)新OX−45の構成g(図7及び8による。)
排気側消音室23に,空気流入口(排気路28の下端)と空気出口25とは互いに
離れた位置に設けられ,空気流入口(排気路28の下端)からの空気の流入方向に対
して空気出口25からの空気の流出方向が直角に設けられている。
(b)充足
上記(a)の構成は,構成要件Gを充足する。
(c)後記被告の主張に対する反論
上記(ウ)(構成要件D)a(c)のとおり。
b被告
(a)新OX−45の構成g
原告らの主張(a)は,後記(c)の点を除いて認める。
(b)充足
同(b)は否認する。
(c)被告の主張
上記(ウ)(構成要件D)b(c)のとおり。
エ均等侵害(各製品共通)
(ア)原告ら
a本質的部分ではないこと
(a)本質的部分
本件特許発明の本質的部分は,「ベース部及び柱状部の内部にこの両者間に略L字
形に連続する空気滞留室が形成され,ダイヤフラム接合部にダイヤフラムから送り出
された空気を受け入れる空気取込口からベース部に向けて延び,空気滞留室に連通す
る空気通路を形成されて,空気滞留室の空気出口が柱状部の上部に設けられているこ
と」である。
(b)被告の主張する相違部分
ⅰ構成要件B
①本件特許発明において,ベース部及び柱状部はボックス構造とあるが,被告製品
においては,ベース部は平板状の蓋でありボックス構造ではない。
②本件特許発明において,ダイヤフラム接合部及び柱状部はベース部から立ち上げ
られてとあるが,被告製品においては,ダイヤフラム接合部及び柱状部はベース部と
は別個独立の部材であり,ベース部から立ち上げられていない。
ⅱ構成要件C
本件特許発明において,ダイヤフラム接合部及び柱状部の内部に略L字形に連続す
る空気滞留室が形成されるとあるが,
OX−60及びOX−75においては,ダイヤフラム接合部及び柱状部の内部には
略凸形の第1空間と略円形の第2空間が形成されているが,略L字形の空気滞留室は
形成されておらず,
新OX−45においては,消音室26は吸気側消音室24と排気側消音室23とに
区画されており,
新OX―45においては,排気側消音室23は,段差状邪魔板29及びストレート
邪魔板30によって仕切られており,内部形状は略L字形に連続するものではない。
ⅲ構成要件D
本件特許発明において,空気滞留室の空気出口は柱状部の上部に設けられていると
あるが,被告製品においては,空気出口は空気滞留室に設けられておらず,別の場所
に設けられている。
ⅳ構成要件G
本件特許発明において,空気滞留室に空気流入口と空気出口とは互いに離れた位置
に設けられとあるが,被告製品においては,空気出口は空気滞留室に設けられておら
ず,別の場所に設けられている。
(c)まとめ
被告が主張する上記(b)の相違部分は,いずれも本件特許発明の本質的部分ではな
い。
b置換可能性
(a)構成要件B,D及びG
これら構成要件についての相違部分は,単なる設計事項であり,被告製品の構成に
置き換えても同一の作用効果を奏する。
(b)構成要件C
二重管構造(OX−60及びOX−75)及び邪魔板及び区画分け(新OX−4
5)との構成は,消音という本件特許発明と同一の目的を達成するために,本件特許
発明の過程の中間に更に別個の構成を設けた迂回であり,本件特許発明と同一の作用
効果を奏する。
c置換容易性
(a)構成要件B,D及びG
これら構成要件についての相違部分は,いずれも設計事項,常套手段,慣用手段と
いい得る範囲の差異であり,当業者であれば容易に置換することができる。
(b)構成要件C
この構成要件についての相違部分は,公知技術の適用であり,当業者であれば容易
に置換することができる。
(イ)被告
a本質的部分でないこと
(a)本質的部分
原告らの主張a(a)は否認する。
少なくとも,「土台となるボックス構造のベース部」との部分(構成要件B1)及
び「ベース部から・・・立ち上げられたボックス構造の柱状部」との部分(構成要件
B3)も,本件特許発明の本質的部分である。
(b)被告の主張する相違部分
同a(b)は認める。
(c)まとめ
同a(c)は否認する。
b置換可能性
原告らの主張bはいずれも否認する。
これらの相違点は,いずれも「土台となるボックス構造のベース部」「ベース部か
ら・・・立ち上げられたボックス構造の柱状部」「ベース部及び柱状部の内部にこの
両者間に略L字形に連続する空気滞留室」「空気滞留室の空気出口」という本件特許
発明の本質的部分における相違であり,同一の作用効果を奏しない。
c置換容易性
原告らの主張cはいずれも否認する。
(3)争点(3)(本件特許の無効)
ア外国で頒布された刊行物該当性
(ア)被告
aまとめ
乙1公告本は,本件特許出願前に外国で頒布された刊行物(特許法29条1項3
号)である。
b乙1公告本
(a)関連法規
本件特許の出願日である平成6年(1994年)1月17日時点で,乙1考案に係
る出願につき適用されていた台湾法は,次のとおりである。
ⅰ1986年改正台湾専利法(甲15。以下「1986年法」という。),
ⅱ1981年改正専利法施行細則(甲16。以下「1981年施行細則」と
いう。),
ⅲ1990年専利規費収費準則(乙15の1(2枚目)。以下「1990年
準則」という。)
(b)「頒布された刊行物」
以下の記述においては,理解の便宜のために,〔〕内に対応する日本法の用語を
記載する。
ⅰ1986年法39条(新型〔実用新案〕に準用)は,「公告した専利〔特
許〕案件は,審定書,説明書〔明細書〕又は模型若しくは見本等を専利局若しくはそ
の他適切な場所に6ヶ月間陳列して公開閲覧に供さなければならない。」と規定して
いるが,新型〔実用新案〕において説明書〔明細書〕は公開されてはいない(乙1の
2参照)。
ⅱしかし,1986年法39条の公告は,同法32条の異議申立てと同法4
4条の仮の専利〔特許〕の効力を生じさせるためのものであって,その目的からみ
れば,公告されたものの書写や機械複写が認められることは当然である。
ⅲ台湾経済部知的財産局(台湾特許庁)の局長王美花の回答書(乙15の
1。以下「本件回答書」という。)によれば,公告がされた後,公告期間中である
か公告期間満了後であるかに関わらず,説明書及び図面等の公告本資料が閲覧可能
であるほか,実務上その謄写も可能であったとされており,これに関する規定とし
て1990年準則が存していた。
c後記原告らの主張について
後記原告らの主張cはいずれも争う。
(イ)原告ら
aまとめ
被告の主張aは否認する。
b乙1公告本
(a)関連法規
被告の主張b(a)は認める。
(b)「頒布された刊行物」
被告の主張b(b)のうち,ⅰは認め,ⅱ及びⅲは争う。
c原告らの主張
(a)1986年法39条は,公開の規定であり,公告期間中又は公告期間満了後
の閲覧についてまでは規定していないから,本件回答書から,乙1公告本が閲覧可能
であり,その謄写も可能であったということはできない。
(b)仮に乙1公告本が閲覧提供されていたとしても,本件回答書では,閲覧謄写
等の実務上の具体的な申請手続,閲覧対象物,閲覧方法及び態様,謄写方法等の具体
的取扱状況は全く不明であるばかりではなく,かかる実務上の取扱いがいつころから
実施されているのかも不明である。また,1990年準則には,書写又は閲覧の対象
物は明記されておらず,当該規定における費用が明細書の閲覧謄写費用を含むもので
あるのか否かは不明であり,仮に明細書等の閲覧謄写費用を含むものであったとして
も,それは台湾特許庁に対して案件調査を依頼し,同特許庁が文字通り資料を書き写
す態様のものである。
(c)1981年施行細則8条は,出願書類の閲覧謄写を出願人が必要がある場合
に限り請求ができるとしており,一方,一般的に記録の閲覧謄写を認める規定がない
ことから,出願書類の閲覧謄写は,出願人以外の者すなわち公衆には認められていな
いものと解される。
イ構成要件A5(空気を一時的に蓄え吐出するタンク部材)の開示
(ア)被告
a構成
乙1公告本の第二図において,空気取込室11と,迂回区111と,空気排出室
12と,チャンネル131と,緩衝室13とが連続する空間が形成され,迂回区1
11の上部には,ダイヤフラム20が接続されており,ダイヤフラム20によって
空気取込室11に吸入された空気は,迂回区111を通って空気排出室12内に排
出され,チャンネル131を通って大容積の緩衝室13に一時的に蓄えられた後,
排気管14から外部に吐出されるとの構成が記載されている。
b一致
乙1考案の上記aの構成と本件特許発明1の構成要件A5とは一致する。
(イ)原告ら
a構成
被告の主張aは認める。
b一致
同bは否認する。
ウ構成要件B2(立設されたダイヤフラム接合部)の開示又は容易相当性
(ア)被告
a特許請求の範囲の解釈
構成要件B2における「ベース部から立ち上げられて」とは,円筒形のダイヤフ
ラム接合部を,その直径方向がベース部との関係において垂直(本件明細書の図
3,図4参照)となるように設ける構成に限定されたものではなく,文字どおり
「ベース部から上方に向かって立ち上がるように設けられて」いればよく,円筒物
の直径方向が土台との関係で平行であるように設ける場合,垂直となるように設け
る場合のいずれも含むと解釈される。
b構成
乙1公告本の第一図において,円筒状のポンプ体10は,直径方向が土台との関
係で平行になるよう土台から上方に向かって立ち上がるように設けられ,その上端
部にダイヤフラム20の空気排出部が対接しているとの構成が記載されている。
c一致
(a)乙1考案の上記bの構成と本件特許発明1の構成要件B2とは一致す
る。
(b)後記原告らの主張c(b)は否認する。
構成要件B2の「ベース部から立ち上げられて,ダイヤフラムの空気排出部に対接
するダイヤフラム接合部」との記載には,「ダイヤフラム接合部」が,「ダイヤフラ
ムの空気排出部に対接する部分」のみに限定され,これ以外の部分を含んではならな
いとする積極的な記載がない。そして,構成要件C2の「ダイヤフラム接合部にダイ
ヤフラムから送り出された空気を受け入れる空気取込口からベース部に向けて延び,
空気滞留室に連通する空気通路を形成されて」との記載によれば,「ダイヤフラム接
合部」には,「ダイヤフラムの空気排出部に対接する部分」以外に,「空気通路」を
形成する部分が含まれている。
一方,乙1考案のポンプ体10も,ダイヤフラム20の空気排出部に対接する頂部
と,「空気通路」に相当する空気排出室12が形成された胴部とを有している。
したがって,乙1考案のポンプ体10は,構成要件B2の「ダイヤフラム接合部」
に相当する。
d容易相当性
(a)仮に構成要件B2が円形のダイヤフラム接合部を,その直径が垂直とな
るようにベース部に設けるとの構成に限定したものであり,この点において乙1考
案と本件特許発明1とが相違するとしても,このような構成は,次の刊行物に記載
されている技術の具体的適用に伴う設計事項にすぎない。
乙2(特開昭56−77582号公報),乙3(実願昭50−59600(実開
昭51−138710号)のマイクロフィルム),乙4(米国特許第5,232,
353号明細書),乙5(米国特許第5,137,432号明細書),乙6(米国
特許第4,610,608号明細書)
(b)本件特許の出願過程で出願人である原告A及び原告Bが特許庁に提出し
た平成14年11月18日付け意見書(乙9)には,次の記載がある。
「〔8頁7行∼18行〕審査官殿は『・・・『ダイヤフラム接合部』を『ベース
部』に対して如何なる方向に形成するか,『ベース部』を『ベース』内で如何なる
方向に配置するかは,収容するベースの形状に応じて当業者が適宜決定可能な設計
事項である。』と御指摘されていますが,この点につきまして,特に本願出願人に
異論はなく,・・・」
(c)したがって,乙1考案につき,上記(a)の相違点を構成要件B2の構成と
することは,当業者において容易に想到することができたものである。
(イ)原告ら
a特許請求の範囲の解釈
被告の主張aは否認する。
構成要件B2における「ベース部から立ち上げられて」とは,ダイヤフラム接合
部がベース部からベース部に対して垂直に立ち上げられることを意味する。
b構成
同bは否認する。
c一致
(a)同c(a)は否認する。
(b)本件特許発明1においては,ダイヤフラム接合部はタンク部材の一部で
あるのに対し,乙1考案では,ダイヤフラムに接合する部材はポンプ体10という構
造物とされている。そうすると,ベース部から立ち上げられたダイヤフラム接合部は
存在せず,あえていうならば,ダイヤフラム接合部がポンプ体10の頂部に設けられ
ているというほかない。したがって,両者は,構成要件B2の点で相違する。
d容易想到性
同dのうち,(b)は認め,その余は否認する。
エ構成要件B3(ボックス構造の柱状部)の開示
(ア)被告
a構成
乙1公告本の第一図及び第二図には,四角柱部分(乙1の4で緑色に着色された
部分)が緩衝室13を形成するボックス構造であるとともに,ポンプ体10と隣り
合わせで,土台部分から上方に向かって立つように設けられている構成が記載され
ている。
b一致
乙1考案の上記aの構成と本件特許発明1の構成要件B3とは一致する。
c後記原告らの主張に対する反論
後記オ(ア)c(b)のとおり。
(イ)原告ら
a構成
被告の主張aは否認する。
b一致
同bは否認する。
c原告らの主張
後記オ(イ)c(b)のとおり。
オ構成要件B(タンク部材)及びB5(全体が一体のブロック構造)の開示
(ア)被告
a構成
乙1公告本の第一図において,ポンプ体10と,緩衝室13を形成するボックス
構造の四角柱部分と,これらポンプ体10及び四角柱部分が立ち上げられたボック
ス構造の土台部分(乙1の4で黄色に着色された部分)と,四角柱部分の上部に設
けられたアームの係止部とを,一体のブロック体構造とする構成が記載されてい
る。
b一致
乙1考案の上記aの構成と本件特許発明1の構成要件B及びB5とは一致する。
c後記原告らの主張に対する反論
(a)本件特許発明1には,ダイヤフラム接合部が「垂直に」立ち上げられている
との限定はないから,原告らの主張は,特許請求の範囲の記載に基づかない主張であ
る。
(b)「全体が一体のブロック体構造」の「一体」とは,各構成要素が全体として
一まとまりの状態になっていることを意味しており,各構成要素のいずれかが構造的
に切り離されていたとしても,「一体」に該当する。
乙1考案のポンプ体10と四角柱部分は,共に土台部分に一体的に設けられてお
り,四角柱部分にはアームの係止部が一体的に設けられているから,ポンプ体10
と,四角柱部分と,土台部分と,アームの係止部とからなる全体は,「全体として一
体のブロック体構造」に該当する。
(イ)原告ら
a構成
被告の主張aは否認する。
b一致
同bは否認する。
c原告らの主張
(a)本件特許発明1においては,ダイヤフラム接合部はベース部からベース部
に対して垂直に立ち上げられるものであるところ,乙1考案においては,ポンプ体1
0は土台部分に対して水平に設置されているから,両者は,構成要件Bの点で相違す
る。
(b)乙1考案は,ポンプ体10と緩衝室13を構成する四角柱部分とが構造的
に切り離され,その間をボックス構造の土台部分に形成されたチャンネル131によ
り連通されたものであって,四角柱部分はダイヤフラム接合部に隣り合わせて立ち上
げられた構造になっておらず,全体が一体のブッロク体構造ではない。
カ構成要件C1(略L字形に連続する空気滞留室)の開示
(ア)被告
a構成
乙1公告本の第二図には,四角柱部分の内部に縦方向の緩衝室13が,土台部
分の内部に緩衝室13に連続する横方向のチャンネル131がそれぞれ形成されて
おり,これら緩衝室13とチャンネル131とによって,略L字形に連続する空間
を形成するとの構成が記載されている。
b一致
乙1考案の上記aの構成と本件特許発明1の構成要件C1とは一致する。
c後記原告らの主張に対する反論
(a)後記原告らの主張c(a)は否認する。
構成要件C1は「空気滞留室」の容積について何ら限定をしていないところ,乙1
考案のポンプ体10の空気排出室12の容積よりも,緩衝室13及びチャンネル13
1の総容積の方が大きい構造が,乙1公告本の第一図及び第二図に明記されており,
乙7刊行物(特開平5−141756号公報)の技術常識を参酌すれば,空気滞留室
の容積により大幅に軽減されるという消音効果を容易に読み取ることができる。
(b)同c(b)は否認する。
乙1考案では,空気の流入位置は,略L字形の空気の流路を形成するチャンネル1
31の始端であり,空気の流出位置は,空気の流路を形成する排気管14の端部開口
であるが,上記端部開口はチャンネル131の始端よりも上方の位置になっている。
そして,緩衝室13とチャンネル131とが略L字形に連続する空気の流路を形成し
ているから,空気の流れも略L字形になる。
(イ)原告ら
a構成
被告の主張aは否認する。
b一致
同bは否認する。
c原告らの主張
(a)乙1公告本には,緩衝室13に連続するチャンネル131により「略L字形
に連続する空間」が形成されるとの記載は全くなく,乙1公告本から緩衝室13に連
続するチャンネル131により略L字形に連続する空間が形成されこれにより消音効
果を生じさせるという技術内容は看取し得ない。
(b)四角柱部分の内部には,緩衝室13と排気管14との間に綿製空気透過パッ
ド17が設けられており,空気チャンネル131から空気出口14に至るまでの空間
は略L字形ではなく,緩衝室内の空気も略L字形に流れるよう構成されているもので
はない。
キ構成要件C2(空気取込口から空気滞留室への空気通路)の開示
(ア)被告
a構成
乙1公告本には,ポンプ体10の中に空気排出室と空気取込室を備え,上記空気
排出室12と空気取込室11のそれぞれの上端中央部に,通気孔101を設け,各
通気孔にバルブ15を設置し,空気排出室12が上記通気孔(第二図で,符号15
が指し示す部分)から土台部分に向かって延び,略L字形空間に連通するとの構成
が記載されている。
b一致
乙1考案の空気排出室12の通気孔は,構成要件C2の「空気取込口」に相当
し,乙1考案の空気排出室12は構成要件C2の「空気通路」に相当するから,乙
1考案の上記aの構成と本件特許発明1の構成要件C2とは一致する。
c後記原告らの主張に対する反論
上記ウ(ア)aのとおり,構成要件B2には,ダイヤフラム接合部が「垂直に」立ち上
げられているとの限定はないから,原告らの主張は,特許請求の範囲の記載に基づく
主張ではない。
(イ)原告ら
a構成
被告の主張aは,空気排出室12が「略L字形空間」に連通することを否認し,
その余は認める。
b一致
同bは否認する。
c原告らの主張
本件特許発明1においては,ダイヤフラム接合部がベース部から垂直に立ち上げら
れているため,ダイヤフラムと空気通路とは平行に位置することになっているが,乙
1考案においては,ダイヤフラムがベース部と平行になるよう位置しているから,ポ
ンプ体10と空気排出室12とは直角に位置しており,両者は,構成要件C2の点で
相違する。
ク構成要件D1(ベース部側の空気流入口)の開示
(ア)被告
a構成
乙1公告本の第二図には,空気排出室12の下端開口(乙1の4の鎖線で囲われ
た部分)は,土台部分の側に設けられ,略L字形空間に空気を流入させる構成が記
載されている。
b一致
乙1考案の上記aの構成と本件特許発明1の構成要件D1とは一致する。
c後記原告らの主張に対する反論
上記ウ(ア)aのとおり,構成要件B2には,ダイヤフラム接合部が「垂直に」立ち上
げられているとの限定はなく,原告らの主張は,特許請求の範囲の記載に基づく主張
ではない。
(イ)原告ら
a構成
被告の主張aのうち,空気排出室12が「略L字形空間」に空気を流入させるこ
とは否認し,その余は認める。
b一致
同bは否認する。
c原告らの主張
本件特許発明1においては,ダイヤフラム接合部がベース部から垂直に立ち上げら
れているため,ダイヤフラムと空気滞留室における空気流入口下側開口とは,直角に
位置することになるが,乙1考案においては,ダイヤフラムがベース部と平行になる
よう位置しているから,ポンプ体10と空気排出室12の下端開口とは平行に位置し
ており,両者は,構成要件D1の点で相違する。
ケ構成要件D2(柱状部上部の空気出口)の開示
(ア)被告
a特許請求の範囲の解釈
(a)本件特許の出願経過における原告A及び原告Bの平成14年7月12日
付け(乙8)及び同年11月18日付け(乙9)各意見書には,空気滞留室の空気
流入口と空気出口と位置関係に基づく作用効果について,次の記載がある。
「〔乙8の2頁17行∼25行,乙9の2頁24行∼3頁3行〕ダイヤフラムに
よる空気の吸入,吐出動作に際して発生した音は,空気通路及び空気滞留室の容積
により大幅に軽減され,さらに空気滞留室における空気の流入位置及び流出位置
(すなわち,空気の流入位置は略L字形の空気の流路を形成する始端,空気の流出
位置は該空気の流路を形成する終端で,空気の流出位置は空気の流入位置よりも上
方の位置になる),空気滞留室における空気の流れる方向(すなわち,空気滞留室
における略L字形の空気の流れ)の相乗効果によって音の軽減効果はより一層促進
されて,当該音は消されるかまたは大幅に低下せしめられて,水槽へ静かな空気供
給を行なうことができる。」
(b)上記(a)の記載によれば,構成要件D2の「空気滞留室の空気出口が柱状
部の上部に設けられ」の技術的意義は,空気滞留室の空気流入口と空気出口との間
に高低差を持たせ,略L字形の空気の流れを形成するためであるから,構成要件D
2の「上部」とは,空気滞留室の空気出口が空気流入口よりも相対的に上側に設け
られていればよいものと解釈される。
b構成
乙1公告本の第二図には,四角柱部分の途中に排気管14が設けられており,こ
の排気管14の緩衝室13側の端部開口(乙1の1の第二図で四角柱部分左側にあ
る開口部分)が空気出口となり,この端部開口が空気排出室12の下端開口よりも
上部に設けられている構成が記載されている。
c一致
乙1考案の端部開口は,本件特許発明1の「空気出口」に相当するから,乙1考
案の上記bの構成と本件特許発明1の構成要件D2とは一致する。
(イ)原告ら
a特許請求の範囲の解釈
被告の主張a(a)は認め,同(b)は否認する。
b構成
同bは否認する。
排気管14の緩衝室13側の端部開口は,緩衝室13のいかなる位置にあるのかは
乙1公告本の第一図からは不明であり,必ずしも空気排出室12よりも上部に設けら
れているとは限らない。また,乙1公告本(明細書)にも,排気管14が空気排出室
12との関係において上部に位置することを要するとの記載はない。
c一致
同cは否認する。
コ構成要件E2(音を軽減する機能)の開示
(ア)被告
a構成
乙1公告本には,空気排出室12と排気管14との間に,空間が空気排出室12
より大きい緩衝室13が設けられ,その排気速度と排気圧力を緩和することによ
り,空気と当該壁面との摩擦力を降下させ,それにより,音を減少することができ
る構成が記載されている。
b一致
乙1考案の上記aの消音機能と本件特許発明1の構成要件E2とは一致する。
c後記原告らの主張に対する反論
乙1考案のエアーポンプは,構成要件A1ないしD2のすべてが一致しており,上
記カ(ア)cのとおり,本件特許発明1と同様の消音効果を生じさせる技術内容も一致す
る。したがって,構成要件E2の点でも当然に一致する。
(イ)原告ら
a構成
被告の主張aは否認する。
b一致
同bは否認する。
c原告らの主張
乙1公告本の「〔乙1の3の4頁8行∼15行〕緩衝室13と排気管14との間に
綿製空気透過パッド17が設けられる。この綿製空気透過パッド17により,緩衝室
13に進入且つ排気管14から排出しようとする空気が排気口周辺の緩衝室壁に直接
にぶつかることを避け,音を消すことができる。また,緩衝室13,チャンネル13
1および空気排出室12の底部に柔軟且つ弾性のゴムパッド16が設置される。それ
により,空気排出室12中の空気がチャンネル131から緩衝室13に流れる時,空
気の衝突を緩和し,当該衝突によるノイズを軽減することができる。」との記載によ
れば,消音機能は,緩衝室13と排気管14との間に設けられた「綿製空気透過パッ
ド17」と緩衝室13,チャンネル131及び空気排出室12の底部に設けられた柔
軟且つ弾性の「ゴムパッド16」の2つにより得られるものである。
したがって,両者は,構成要件E2の点で相違する。
サ構成要件G1(空気流入口と空気出口の離隔)の開示
(ア)被告
a構成
乙1公告本の第二図には,緩衝室13とチャンネル131とから成る略L字形空
間,空気排出室12の下端開口及び排気管14の緩衝室13側の端部開口,並びに
下端開口と端部開口とが互いに間隔を置いて離れた位置に設けられている構成が記
載されている。
b一致
乙1考案の略L字形空間は本件特許発明2の「空気滞留室」に,乙1考案の下端
開口は本件特許発明2の「空気流入口」に,乙1考案の端部開口は本件特許発明2
の「空気出口」にそれぞれ相当するから,乙1考案の上記aの構成と本件特許発明
2の構成要件G1とは一致する。
c後記原告らの主張に対する反論
上記カ(ア)c(a)のとおり。
(イ)原告ら
a構成
被告の主張aは,「略L字形空間」との構成が記載されていることは否認し,そ
の余は認める。
b一致
同bは否認する。
c原告らの主張
上記カ(イ)c(a)のとおり。
シ構成要件G2(直角に向けられた流出方向)の開示
(ア)被告
a構成
乙1公告本の第二図には,下端開口からの空気の流入方向は下向きであり,端部
開口からの空気の流出方向は横向きであり,互いの空気の流れ方向が直角に向けら
れた構成が記載されている。
b一致
乙1考案の下端開口は本件特許発明2の「空気流入口」に,乙1考案の端部開口
は本件特許発明2の「空気出口」にそれぞれ相当するから,乙1考案の上記aの構
成と本件特許発明2の構成要件G2とは一致する。
c後記原告らの主張に対する反論
乙1公告本の第一図及び第二図において,空気排出室12から下向きに押し出され
た大半の空気は,そのまま下向きに流れてチャンネル131内に流入し,その後,チ
ャンネル131底部のゴムパッド16に衝突して横向きに方向転換する。このよう
に,大半の空気が,チャンネル131底部のゴムパッド16に衝突するまで下向きに
流れるので,「空気流入口」に相当する下端開口からチャンネル131への空気の流
入方向は下向きである。
(イ)原告ら
a構成
被告の主張aのうち,端部開口からの流入方向が横向きであることは認め,その
余は否認する。
b一致
被告の主張bのうち,下端開口が本件特許発明2の「空気流入口」に,端部開口
が本件特許発明2の「空気出口」にそれぞれ相当することを認め,その余は否認す
る。
c原告らの主張
「空気流入口」とは略L字形空間にとっての空気流入口であり,下端開口からの空
気の流入方向は横向きである。したがって,下端開口も端部開口も,空気の流れは
横方向であるから,両者は,構成要件G2の点で相違する。
ス構成要件G3(請求項1記載のエアー・ポンプ)の開示又は容易想到性
(ア)被告
上記イないしシの各(ア)に記載のとおり。
(イ)原告ら
上記イないしシの各(イ)に記載のとおり。
(4)争点(4)(損害)
ア原告会社
(ア)損害の発生
原告会社は,本件特許権の実施製品として,商品名「ノンノイズ」(型式番号S
−100,S−200,W−300,S−500,W−600,W−1000)の
エアーポンプを製造及び販売している。
(イ)売上高
被告は,平成16年6月ころから平成19年6月ころまでに,被告製品を少なく
とも合計14万個販売し,その売上高は合計2億7000万円を下らない。
(ウ)侵害利益
被告製品の販売による利益率は,販売額の10%であるから,被告が上記(イ)の
販売により受けた利益は,2700万円である。
(エ)損害額
上記(ウ)の侵害利益は,本件特許権の独占的通常実施権者である原告会社の損害
と推定される(特許法102条2項の適用又は準用)。
イ被告
(ア)原告会社の主張(ア)は知らない。
(イ)同(イ)及び(ウ)は否認する。
(ウ)同(エ)は争う。
第3当裁判所の判断
1争点(1)(独占的通常実施権の許諾の有無(原告適格))について
被告は,原告会社が独占的通常実施権者でないならば独占的通常実施権に基づく
損害賠償請求をしている原告会社には原告適格がない旨の本案前の抗弁を提出する
が,原告会社が独占的通常実施権者であるか否かは,原告会社が独占的通常実施権
という権利,すなわち不法行為法により保護される権利を有していたか否かという
本案における問題であり,本案前の問題ではない。
よって,被告の本案前の主張は,その余の点について判断するまでもなく採用す
ることができない。
2争点(3)(本件特許の無効−新規性又は進歩性−)について
(1)争点(3)ア(外国で頒布された刊行物該当性)について
ア台湾専利法等について
甲15,甲16及び乙15の1並びに弁論の全趣旨によれば,本件特許の出願日で
ある平成6年(1994年)1月17日時点で,乙1考案に係る出願につき適用され
ていた台湾法は1986年法,1981年施行細則及び1990年準則であり,それ
らの内容は次のとおりであることが認められる。
(ア)1986年法
110条「第7条から第20条まで,第23条から第31条まで,第33条から4
1条まで,第43条,第44条,・・・,第72条から第75条まで・・・の規定
は,新型〔実用新案〕に準用する。」
12条「専利〔特許〕の出願には,発明者,又はその譲受人,或は相続人が,願
書,説明書〔明細書〕,図面,模型又は見本及び宣誓書を専利局に提出しなければな
らない。
・・・」
27条「専利局局長は,審査委員を指定して,専利の出願を審査させなければなら
ない。」
30条「審査の結果,専利を与えるべきと認めた発明は,審定書と説明書〔明細
書〕及び図面を公告し,且つ出願人に通知しなければならない。・・・」
38条「公告決定と査定された発明について公告期間内に異議の申立がないと
き,又は異議の申立が成立しないときは,審査は確定したものとする。・・・」
39条「専利事件の公告は,6か月間審定書,説明書〔明細書〕及び模型,又は見
本を専利局又はその他の適当な場所に陳列して公開閲覧に供する。」
44条「専利の出願は,公告されたときより仮の特許権の効力を生ずる。
前項の効力は,出願が手続に合わないため無効になったとき,又は異議により専利
を与えないものと確定したときは,初めから存在しなかったものとみなす。」
75条「専利に関する申請について申請人は申請の時に料金を納付しなければなら
ない。
・・・
申請料金,証書料,及び専利料の金額は,行政院が定める。」
101条「公告中の新型〔実用新案〕について,何人も第95条から第97条まで
の規定に違反すると認めたとき,又は利害関係者が第12条の規定に違反すると認め
たときは,公告の日から3か月以内に,異議申立書に証拠を添附して,専利局に異議
を申立て,再審査を請求することができる。」
130条「この法律の施行細則は経済部が定める。」
(イ)1981年施行細則
1条「本細則は,専利法(以下本法と云う)第130条の規定による。
8条「出願人は,専利出願においてファイルすべき書類の返還を請求できない。
必要の場合は,閲覧,抄録又はコピーを請求できる。」
10条「本法第12条に規定する説明書〔明細書〕及び図面は,国家標準甲4号
紙(210×297mm)を縦に使用し,横書きで,一式三部提出しなければならな
い。説明書には左の事項を記載する。
一,発明又は考案の名称。
二,発明者又は考案者の姓名,戸籍(又は国籍),住所。
三,出願人姓名,戸籍(又は国籍),住所。法人の場合はその代表者姓名を加
える。
四,発明又は考案のアブストラクト。
五,発明又は考案の詳細な説明。
六,請求の範囲。
・・・」
52条「本法第30条,・・・の規定による公告事項は,専利公報に掲載しなけ
ればならない。」
(ウ)1990年費用準則
1条「本法は,専利法(以下,本法と称する)第75条の規定により制定され
る。
2条「本法が定める規定費用には,申請費,証書費及び年間費が含まれる。
・・・」
3条「専利の各申請費は,次の通りである。
一,専利出願は,・・・,新型,・・・出願は,・・・。
二,再審査,異議の申請につき,・・・。
・・・
一五,書類の書き写しの申請は,100字につき120元とし,100字未満
の場合もまた同様とする。(原文・申請抄録書件毎百字一百二十元,不満百字者亦
同)
一六,図面描写の申請は,一件あたり300元から900元とする。
・・・
一八,閲覧調査は,一件あたり300元とする。(原文・査閲案件毎件三百
元)
イ本件回答書等
(ア)本件回答書
平成20年8月12日発送の経済部知的財産局(台湾特許庁)の局長C作成に係
る台湾国際専利法律事務所弁護士D及び同Eあての書簡(本件回答書)の内容は,
次のとおりである(乙15の1,弁論の全趣旨)。
「一,・・・
二,1986年12月24日に修正,公布された専利法第39条,第110条
にて準用される第39条,及び第129条にて準用される第39条規定に基づき,
公告の専利案は,審定書,説明書(或いは図説),模型或いはサンプル等,専利局
或いはその他適切な場所で6か月間陳列し,公開閲覧しなければならない。これら
の公告がすでになされた案件は,公告がなされた後,公告期間中であるか,公告期
間満了後かに関わらず,専利説明書(或いは図説)及び図面等の公告本資料は,前
述の専利法規定により閲覧提供がされる他,実務上,これらの公告本資料を書き写
し〔原文・抄録〕或いはコピー〔原文・影印〕できる。書き写し書類,図式の描写
及び案件調査〔原文・査閲案件〕についての費用につき,1990年6月29日に
修正,公布された専利規費収費準則第3条第15号,第16号及び第18号規定が
あるので,ご参照頂きたい(添付)。」
(イ)乙12の3陳述書
平成20年5月23日付け台湾国際専利法律事務所弁護士E作成の「台湾実用新
案登録願77204725号について」と題する陳述書(乙12の3)の内容は,
次のとおりである。
「1991年5月21日当時の台湾特許法第110条の定めにより準用される同
法第30,39条に基づき,台湾実用新案登録願77204725号の査定書,明
細書,図面を含む出願書類の全体は,これを公告し,且つその公告日である199
1年5月21日から6ヶ月間これを陳列して公開閲覧に供さなければならないと認
められます。公開閲覧に供された出願書類の全体は,特許局でコピーすることが可
能です。」
ウ検討
(ア)「頒布された刊行物」の意義
特許法29条1項3号にいう「頒布された刊行物」とは,公衆に対し頒布により
公開することを目的として複製された文書,図画その他これに類する情報伝達媒体
であって,頒布されたものを意味するところ(最高裁昭和53年(行ツ)第69号
同55年7月4日第二小法廷判決・民集34巻4号570頁参照),それ自体公衆
に交付されるものではなく,一般公衆による閲覧,複写の可能な状態におかれた外
国特許庁備え付けのマイクロフィルムのごときものであっても頒布された刊行物と
いうことができる(最高裁昭和61年(行ツ)第18号同年7月17日第一小法廷
判決・民集40巻5号961頁参照)。
(イ)「頒布された刊行物」該当性
a上記アで認定の台湾専利法等の規定及び上記イの本件回答書等の内容によ
れば,乙1考案の出願時,台湾においては,新型〔実用新案〕の出願審査の結果,
新型を付与すべきと認めた考案については,審定書,説明書及び図面を公開閲覧す
る方法で6か月間公告をするとともに,それら事項を掲載した公報が発行されること
(ただし,新型の審定書及び説明書〔明細書〕は公報に掲載しない実務であったと考
えられる。),公告により新型の効力が仮に発生すること,これに対して公衆は3か
月以内に異議申立てをすることができること,公告期間内に異議の申立てがないと
き又は異議の申立不成立の場合には審査が確定すること,一般公衆は,公告に付さ
れた説明書,図面等を,公告がされた後,公告期間中であるか公告期間満了後であ
るかにかかわらず,いつでも閲覧謄写できるという制度であったことが認められ
る。
b弁論の全趣旨によれば,台湾登録願第77204725号についての公告
後,専利局又はその他適切な場所に陳列され,一般公衆の閲覧及びコピーの元とさ
れ,乙1の1のコピーの元ともされた台湾登録願第77204725号新型専利説
明書の公告本(図面を含む。)は,同出願に添付された説明書〔明細書〕及び図面
の原本そのものではなく,それをコピーしたものであったものと認められる。
cしたがって,乙1公告本は,特許法29条1項3号の外国において「頒布
された刊行物」に該当する。
dそして,乙1の2によれば,台湾登録願第77204725号について
は,1981年施行細則52条に従い,平成3年5月21日に請求の範囲及び図面
を記載して公告がされていることが認められるから,乙1公告本についても,その
ころに一般公衆の閲覧,コピーの用に供されたものと推認することができる。
(ウ)原告の主張に対する判断
a原告は,1986年法には閲覧の規定がないから,本件回答書のみでは乙1
公告本が閲覧に供されていたかどうかは分からない旨を主張する。
しかしながら,出願公告,付与前異議申立てに類する制度を採りながら閲覧を許さ
ないという法制度は極めて不合理であるし,本件回答書が根拠として添付した199
0年準則にも,「書き写し」と技術の進展に合わせた改訂はされていないが,その根
拠となる記載があるから,本件回答書の内容を特に疑うべき理由はないものというべ
きであり,原告の上記主張は採用することができない。
bまた,原告は,本件回答書では,閲覧複写等の具体的な手続等やその実施時
期が不明である旨を主張する。
しかしながら,本件回答書は,平成3年(1991年)5月21日時点の新型の説
明書,図面等の閲覧複写の取扱いを照会する書簡(乙14の1)を受けて作成された
ものであるから(乙15の1の説明一),閲覧コピーの手続の細かな点まで答えてい
るものではないが,本件の解決に必要な限度での具体的な手続については十分回答し
ているものであり,原告らの上記主張は採用することができない。
cさらに,原告は,1981年施行細則8条によれば,出願書類の閲覧謄写は
出願人以外の者には認めていない旨主張するが,同条は,出願人が出願書類原本の返
却を求めることはできず,その代りにその閲覧複写ができることを規定しているにす
ぎず,一般公衆の閲覧コピーの点について規定した条文ではないと認められるから,
原告らの上記主張は採用することができない。
(2)争点(3)イないしスについて
ア乙1公告本の記載及び争いのない一致点について
(ア)構成
乙1公告本の記載は,前提事実(7)アのとおりである。
(イ)乙1考案と本件特許発明1との一致点
乙1考案が,構成要件A1∼4,B1,B4,E1及びF1∼3を備えている点
で本件特許発明1と一致することは,前提事実(7)イ(ア)のとおりである。
(ウ)乙1考案と本件特許発明2との一致点
乙1考案が,構成要件G3中の構成要件A1∼4,B1,B4,E1及びF1∼
3を備えている点で本件特許発明2と一致することは,前提事実(7)イ(イ)のとおり
である。
イ争点(3)イ(構成要件A5−空気を一時的に蓄え吐出するタンク部材−の開
示)について
(ア)構成
乙1考案において,空気が,ポンプ体10と対接するダイヤフラム20によって
空気取込室11に吸入され,迂回区111を通って空気排出室12内に排出され,
チャンネル131を通って緩衝室13に一時的に蓄えられた後,排気管14から外
部に吐出される構成が開示されていることは,当事者間に争いがない。
(イ)一致
上記(ア)によれば,乙1考案は,「ダイヤフラムに接続され空気を一時的に蓄
え,吐出するタンク部材とを備え」との構成を有するから,乙1考案と本件特許発
明1とは,構成要件A5の点で一致する。
ウ争点(3)ウ(構成要件B2−立設されたダイヤフラム接合部−の開示又は容
易相当性)について
(ア)特許請求の範囲の解釈
構成要件B2は,「ダイヤフラム接合部」が「ベース部から立ち上げられて」と
規定しているが,ダイヤフラム接合部の形状自体をそれ以上に限定していない以
上,ダイヤフラム接合部のダイヤフラムの空気排出部との対接面が,①土台である
ベース部に平行である場合,②土台であるベース部に対して垂直である場合,③そ
れ以外である場合(斜めにすることも考え得る。)もすべて含むものと解される。
これに反する原告の主張は採用することができない。
(イ)構成
乙1公告本には,ポンプ体10がその上部でダイヤフラム20に対接し,ダイヤ
フラム20との対接面が土台と平行で,ダイヤフラム20との対接面を上部に有す
るポンプ体10が土台から上方に向かって立ち上がった状態で設置され,ポンプ体
10の上部は,ダイヤフラム20によって取り込まれた空気が空気取込室11の通
気孔から空気排出室12の通気孔へ流れる迂回区111となっている構成が開示さ
れている(乙1の1∼4)。
(ウ)一致
a上記(イ)によれば,乙1考案のポンプ体10の上面は,ダイヤフラム20
による空気の吸入及び吐出の機能の一部を担い,かつ,ダイヤフラム20との接合
面を形成しているものであるから,乙1考案のポンプ体10が本件特許発明1の
「ダイヤフラム接合部」に相当するとともに,その空気排出室12の通気孔は,本
件特許発明1の「ダイヤフラムの空気排出部」に相当するといえる。したがって,
乙1考案は,「ベース部から立ち上げられて,ダイヤフラムの空気排出部に対接す
るダイヤフラム接合部」との構成を有するから,乙1考案と本件特許発明1とは構
成要件B2の点で一致する。
b原告らは,乙1考案のポンプ体10はタンク部材とは異なる構造物であるか
ら,そのようなポンプ体10がダイヤフラムに接合していても,乙1考案が「ベース
部から立ち上げられ」たダイヤフラム接合部との構成を有するものとはいえない旨を
主張する。しかしながら,構成要件C2が「ダイヤフラム接合部にダイヤフラムか
ら送り出された空気を受け入れる空気取込口からベース部に向けて延び,空気滞留
室に連通する空気通路を形成されて」となっていることからすれば,本件特許発明
1は,「空気通路」を「ダイヤフラム接合部」に形成する構成を採用しているものと
いえる。そして,ポンプ体10に備えられた空気排出室12は構成要件C2の「空気
通路」に相当するから(後記カ),これを含むポンプ体10は,「ダイヤフラム接合
部」を構成していることになる。そうすると,上記(イ)のとおり,「ダイヤフラム接合
部」に相当するポンプ体10が土台部分から立ち上げられていることが認められるか
ら,原告らの主張は,その前提を欠くものであり,採用することができない。
(エ)容易想到性
a仮に,構成要件B2が,ダイヤフラム接合部のダイヤフラムの空気排出部
との対接面がベース部に対して垂直になる構成に限定したものであると解したとし
ても,このように構成することは,当業者が適宜なし得る設計事項にすぎないもの
と認められる。
bすなわち,①昭和56年6月25日に公開された乙2刊行物には,ダイヤ
フラムがハウジングの底面に垂直に取り付けられ,その空気吐出口が下方に向かう
構成を有する空気圧縮機(4頁左下欄6行∼16行,第10図)が,②昭和51年
に公開された乙3刊行物には,ダイヤフラムが中空箱状のベースブロックに垂直に
取り付けられ,その両側の吸入側と吐出側に消音室を設けた構成を有するダイヤフ
ラムポンプが,③本件特許出願前に米国で頒布された刊行物である乙4刊行物に
は,ダイヤフラムがベースに垂直に取り付けられ,その流体吸入口がベース側から
上に向かう構成を有するポンプチャンバーが,④本件特許出願前に米国で頒布され
た刊行物である乙5刊行物には,ダイヤフラムがベース部に対して垂直に取り付け
られ,その消音器及び空気排出管をその横方向に設けた構成を有する水槽ポンプ
が,⑤本件特許出願前に米国で頒布された刊行物である乙6刊行物には,ハウジン
グの底面に対して垂直に取り付けられ,空気の排出部をその横方向に設けた構成を
有するエアーポンプが,それぞれ開示されている(乙2ないし6)。
cまた,本件特許の出願過程で出願人である原告A及び原告Bが特許庁に提
出した平成14年11月18日付け意見書(乙9)には,「〔8頁7行∼18行〕
審査官殿は『・・・『ダイヤフラム接合部』を『ベース部』に対して如何なる方向
に形成するか,『ベース部』を『ベース』内で如何なる方向に配置するかは,収容
するベースの形状に応じて当業者が適宜決定可能な設計事項である。』と御指摘さ
れていますが,この点につきまして,特に本願出願人に異論はなく,・・・」と記
載されていたことは当事者間に争いのないところ,この事実は,特許権者である上
記原告ら自身,ダイヤフラム接合部のダイヤフラムの空気排出部との対接面がベー
ス部に対して垂直となる構成が単なる設計事項にすぎないと考えていたことを示す
ものである。
d上記刊行物の記載及び上記意見書によれば,ダイヤフラム接合部のダイヤ
フラムの空気排出部との対接面をベース部に対して垂直とすることは周知技術と認
めるのが相当である。
よって,仮に構成要件B2の点で相違するとしても,乙1考案において構成要件
B2の構成を採用することは,当業者において容易に想到することができたことで
あると認められる。
エ争点(3)オ(構成要件B−タンク部材−の開示,B5−全体が一体のブロッ
ク構造−の開示)及び同エ(構成要件B3−ボックス構造の柱状部−の開示)につ
いて
(ア)構成
乙1公告本には,①ポンプ体10,②緩衝室13を形成している四角柱部分,③
ボックス構造の土台部分,④四角柱部分の上部に設けられた係止部とを一体化して
ブロック体構造とする構成が開示されているものと認められる(争いのない事実,
乙1の1)。
(イ)一致
上記(ア)によれば,乙1考案は,「ベース部からダイヤフラム接合部に隣り合わ
せて立ち上げられたボックス構造の柱状部」(構成要件B3)を有し,「ボックス
構造のベース部」と「ダイヤフラム接合部」と「柱状部」と「係止部」の「全体が
一体のブロック体構造」(構成要件B5)である「タンク部材」(構成要件B)と
の構成を有するから,乙1考案と本件特許発明1とは構成要件B,B3及びB5の
点で一致する。
(ウ)原告らの主張に対する判断
a原告らは,乙1考案は,ポンプ体10のダイヤフラムの空気排出部との対接
面が土台部分に平行であるから構成要件Bの点は相違する旨を主張するが,本件特許
発明1にそのような限定がないことは前記ウ(ア)にて判断したとおりであり,原告らの
上記主張は採用することができない。
b原告らは,乙1考案は,ポンプ体10と緩衝室13を構成する四角柱部分と
が構造的に切り離され,四角柱部分はダイヤフラム接合部に隣り合わせて立ち上げら
れた構造になっておらず,全体が一体のブッロク体構造ではないから,構成要件B3
及びB5の点で相違する旨主張する。
確かに,ポンプ体10と緩衝室13を構成する四角柱部分との間には一定の距離が
あり,本件特許発明の実施例(第1図)ほどにはこれらが近接して設置されていない
が,「隣り合わせて」(構成要件B3)も,「全体が一体のブロック体構造」(構
成要件B5)も,一定の幅のある概念であるから,乙1考案の実施例(第一図,第
二図)にある程度のものも,「隣り合わせて」(構成要件B3)で,「全体が一体
のブロック体構造」(構成要件B5)であると認めることができる。
よって,原告らの上記主張は,採用することができない。
オ争点(3)カ(構成要件C1−略L字型に連続する空気滞留室−の開示)につ
いて
(ア)構成
乙1公告本には,四角柱部分の内部にある縦長の長方形状である緩衝室13と,
これに連通し,土台の内部にあって,その幅を緩衝室13と同じくする横長の長方
形状であるチャンネル131とによって形成された略L字形に連続する空間との構
成が開示されているものと認められる(乙1の1)。
(イ)一致
上記(ア)によれば,乙1考案は,「ベース部及び柱状部の内部にこの両者間に略
L字形に連続する空気滞留室が形成され」ているとの構成を有するから,乙1考案
と本件特許発明1とは,構成要件C1の点で一致する。
(ウ)原告らの主張に対する判断
a原告らは,乙1公告本に緩衝室13とチャンネル131により「略L字形に
連続する空間」が形成されるとの記載がない以上,当業者がこの空間により消音効果
を生じさせるとの技術内容を看取することはできない旨主張する。
しかしながら,乙1公告本には,前提事実(7)アのとおり,①「〔6頁1行∼7
行〕クレーム・・・緩衝室と排気室との底部に連通するためのチャンネルが設けら
れ,緩衝室の容積は,空気取込室と空気排出室のいずれの容積より大きく,且つ,
・・・」,⑤「〔4頁15行∼5頁3行〕・・・空気チャンネル131により,空
気排出室12中の空気を緩衝室13に進入させる。緩衝室13の容積は,空気取込
室11と空気排出室12の容積より大きい。・・・」,⑥「〔5頁4行∼13行〕
したがって,本考案は以下の効果を有する。・・・2,緩衝室の容積を空気取込室
および空気排出室の容積より大きくすることにより,空気取込室中の空気の圧力と
同じな空気排出室中の空気が緩衝室に流れるとき,圧力が小さくなり,流動速度が
緩和される。・・・」との記載があり,また,第一図及び第二図をみれば,土台部
分と柱状部分とを合わせればL型になっていることを容易に看取することができ
る。
したがって,乙1公告本に接した当業者は,緩衝室13とチャンネル131で形成
される空間を「略L字形に連続する空間」であると読み取るものであり,構成要件C
1は乙1公告本に開示されているに等しい事項であるというべきである。
よって,原告らの上記主張は採用することができない。
b原告らは,緩衝室13にある綿製空気透過パッド17によって,空気チャン
ネル131から空気出口14に至るまでの空間は略L字形ではなくなっており,ま
た,空気も略L字形に流れるよう構成されているものではない旨主張する。
しかしながら,綿製空気透過パッド17があっても緩衝室13とチャンネル131
とで形成される空間が略L字形であることは,乙1公告本の第二図から明らかであ
る。
また,本件特許発明1は,「略L字形に連続する」空気滞留室に流入した空気が略
L字形に流れた後に,更にどのように流れるかを規定していないから,空気滞留室に
入った空気が略L字形に流れた後に一切の迂回なく空気出口に流れなければならない
とするものではない。そして,乙1考案でも,緩衝室に入った空気は綿製空気透過パ
ッド17の有無にかかわらず,L字形に流れるよう構成されていることは,乙1公告
本の第二図から明らかである。
したがって,原告らの上記主張は採用することができない。
カ争点(3)キ(構成要件C2−空気取込口から空気滞留室への空気通路−の開
示)について
(ア)構成
乙1公告本には,ポンプ体10に備えられた空気排出室12の空気迂回区111
側中央部に,通気孔を設け,空気排出室12が土台部分に延び,緩衝室13とチャ
ンネル131とで形成される略L字形空間に連通する構成が開示されていることが
認められる(争いのない事実,乙1の1)。
(イ)一致
上記(ア)によれば,上記通気孔は構成要件C2の「空気取込口」に相当し,緩衝
室13とチャンネル131とで形成される略L字形空間は構成要件C2の「空気滞
留室」に相当し(上記オ参照),乙1考案の空気排出室12は構成要件C2の「空
気通路」に相当するから,乙1考案は,「ダイヤフラム接合部にダイヤフラムから
送り出された空気を受け入れる空気取込口からベース部に向けて延び,空気滞留室
に連通する空気通路を形成されて」いるとの構成を有する。したがって,乙1考案
と本件特許発明1とは,構成要件C2の点で一致する。
(ウ)原告らの主張に対する判断
原告らは,構成要件C2は,ダイヤフラム接合部のダイヤフラムの空気排出部と
の対接面がベース部に対して垂直になる構成に限定したものであることを前提に,
ダイヤフラムと空気通路とは平行に位置することを意味しているところ,乙1考案に
おいては,ポンプ体10と空気排出室12とは直角に位置しているので,構成要件C
2の点で相違する旨主張するが,この点の主張に理由がないことは,上記ウ(ア)に
説示のとおりである。
キ争点(3)ク(構成要件D1−ベース部側の空気流入口−の開示)について
(ア)構成
乙1公告本には,空気排出室12の下端開口を土台部分の側に設け,緩衝室13
とチャネル131とで形成される略L字形空間に連通する構成が開示されているこ
とが認められる(争いのない事実,乙1の1)。
(イ)一致
上記(ア)によれば,乙1考案の緩衝室13とチャンネル131とで形成される略
L字形空間は構成要件D1の「空気滞留室」に相当し(上記オ参照),乙1考案の
「下端開口」は構成要件D1の「空気流入口」にそれぞれ相当するから,乙1考案
は,「空気滞留室の空気流入口がベース部側に設けられる」との構成を有する。し
たがって,乙1考案と本件特許発明1とは,構成要件D1の点で一致する。
(ウ)原告らの主張に対する判断
原告らは,構成要件D1は,本件特許発明1がダイヤフラム接合部のダイヤフラ
ムの空気排出部との対接面がベース部に対して垂直となる構成に限定したものであ
ることを前提に,ダイヤフラムと空気滞留室における空気流入口下側開口とは,直角
に位置することになるが,乙1考案においては,ダイヤフラムがベース部と平行にな
るよう位置しているから,ポンプ体10と空気排出室12の下端開口とは平行に位置
しているので,構成要件D1の点で相違する旨主張するが,この点の主張に理由が
ないことは,上記ウ(ア)に説示のとおりである。
ク争点(3)ケ(構成要件D2−柱状部上部の空気出口−の開示)について
(ア)特許請求の範囲の解釈
構成要件D2は,「空気滞留室の空気出口が柱状部の上部に設けられ」とのみ規
定し,それ以上の限定をしていないから,構成要件D2にいう「上部」とは,空気
滞留室の空気出口が空気流入口よりも相対的に上側に設けられていればよいものと
解釈される。
(イ)構成及び一致
乙1公告本には,四角柱部分の途中にある排気管14の緩衝室13側の端部開口
が空気排出室12の下端開口よりも上部に設けられている構成が開示されている
(争いのない事実,乙1の1)。そして,乙1考案の下端開口は本件特許発明1の
空気流入口に相当する(上記キ参照)。
したがって,乙1考案は,「空気滞留室の空気出口が柱状部の上部に設けられて
いる」構成を有し,乙1考案と本件特許発明1とは,構成要件D2の点で一致す
る。
これに反する原告らの主張は採用することができない。
ケ争点(3)コ(構成要件E2−音を軽減する機能−の開示)について
(ア)構成及び一致
乙1公告本には,⑥「〔5頁4行∼13行〕・・・1,緩衝室,チャンネルおよ
び空気排出室の底部に設けられたゴムパッド,及び排気口周辺に設けられた綿製空
気透過パッドなどにより,空気がそれらに衝突する際の緩和効果により,空気がポ
ンプ体壁面に衝突する際のノイズよりも低いノイズの静音効果が得られる。・・
・」との記載があることからすると(前提事実(7)ア),乙1考案は,同考案の構
成を採ることでダイヤフラムによる空気の吸入,吐出動作に際して発生する音を軽
減する機能を有することを開示しているのであるから,乙1考案と本件特許発明1
とは,構成要件E2の点で一致する。
(イ)原告らの主張に対する判断
原告らは,消音機能は,緩衝室13と排気管14との間に設けられた「綿製空気透
過パッド17」と緩衝室13,チャンネル131及び空気排出室12の底部に設けら
れた柔軟且つ弾性の「ゴムパッド16」の2つにより得られるものであり,構成要件
E2の点で相違する旨主張する。
しかしながら,乙1公告本の記載(前提事実(7)ア),殊に,効果についての⑥
の記載によれば,乙1考案は,①「綿製空気透過パッド17」と「ゴムパッド16」
により得られる消音効果と,②緩衝室13と空気チャンネル131により形成され
る略L字形に連続する空気滞留室と,空気取込室11又は空気排出室12よりも容
積が大きい緩衝室13という構成から生じる消音効果の2つを開示しているもので
あるから,原告らの上記主張は採用することができない。
コ争点(3)サ(構成要件G1−空気流入口と空気出口の離隔−の開示)につい

(ア)構成
乙1公告本には,空気排出室12の下端開口が緩衝室13とチャンネル131と
から成る略L字形の空間につながり,この略L字形の空間につながる排気管14の
緩衝室13側の端部開口があり,上記下端開口と端部開口とが互いに間隔を置いて
離れた位置に設けられている構成が開示されている(争いのない事実,乙1の
1)。
(イ)一致
乙1考案の下端開口は本件特許発明2の「空気流入口」に(上記キ参照),乙1
考案の略L字形空間は本件特許発明2の「空気滞留室」に(上記オ参照),乙1考
案の端部開口は本件特許発明2の「空気出口」に(上記ク参照),それぞれ相当す
るから,乙1考案は,「空気滞留室に空気流入口と空気出口とは互いに離れた位置
に設けられ」るとの構成を有する。したがって,乙1考案と本件特許発明2とは,
構成要件G1の点で一致する。
サ争点(3)シ(構成要件G2−直角に向けられた流出方向−の開示)について
(ア)構成
乙1公告本には,下端開口からの空気の流入方向を下向きとし,端部開口からの
空気の流出方向は横向きとし,互いの空気の流れ方向が直角に向けられた構成が開
示されている(争いのない事実,乙1の1)。
(イ)一致
乙1考案の下端開口は本件特許発明2の「空気流入口」に(上記キ参照),乙1
考案の端部開口は本件特許発明2の「空気出口」に(上記ク参照),それぞれ相当
するから,乙1考案と本件特許発明2とは構成要件G2の点で一致する。これに反
する原告らの主張は採用することができない。
シ争点(3)ス(構成要件G3−請求項1記載のエアー・ポンプ−の開示又は容
易想到性)
上記イないしサにて認定判断のとおり,乙1考案と本件特許発明2とは,構成
要件G3のうち,構成要件A5,B,B3,B5,C1,C2,D1,D2,E2
に係る部分を備えている点で本件特許発明2と一致し,また,同構成要件B2に係
る部分を備えている点で一致するか又は同構成要件が当業者に容易想到であるもの
と認められる。
(3)まとめ
ア上記(2)アないしシによれば,本件特許発明は,いずれも,乙1考案と同一
か又は乙1考案及びダイヤフラム接合部のダイヤフラムの空気排出部との対接面を
ベース部に対して垂直とするとの周知技術から,当業者が容易に発明することがで
きたものであり,少なくとも進歩性を欠く発明である。
イしたがって,原告A及び原告Bは,被告に対し,本件特許権を行使するこ
とができない(特許法104条の3)。
ウまた,原告会社も,仮に本件特許権の独占的通常実施権者であるとして
も,本件特許権を行使することができない(特許法104条の3)。
3結論
よって,原告らの請求は,その余の点について判断するまでもなくいずれも理由
がないから,棄却することとし,主文のとおり判決する。
東京地方裁判所民事第40部
裁判長裁判官
市川正巳
裁判官
中村恭
裁判官
宮崎雅子

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