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平成24年2月7日判決言渡同日原本領収裁判所書記官
平成20年(ワ)第33536号特許権侵害差止等請求事件
口頭弁論終結日平成23年9月1日
判決
当事者の表示別紙当事者目録記載のとおり
主文
1被告らは,別紙物件目録記載の医療器具を製造し,譲渡し,輸出し,
又は譲渡の申出をしてはならない。
2被告らは,原告に対し,連帯して1億1668万7911円及びうち
1億0994万9362円に対する平成22年9月24日から支払済
みまで年5分の割合による金員を支払え。
3原告のその余の請求を棄却する。
4訴訟費用は,これを10分し,その3を被告らの連帯負担とし,その
余を原告の負担とする。
5この判決は,第2項に限り,仮に執行することができる。
6原告のために,この判決に対する控訴のための付加期間を30日と定
める。
事実及び理由
第1請求
1主文第1項と同旨
2被告らは,原告に対し,連帯して8億1708万円及びこれに対する平成2
0年11月26日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2事案の概要
本件は,医療器具であるカニューレ挿入装置等の安全装置に関する発明につ
き,特許権を有し,あるいは存続期間の満了した特許権につき,これに基づく
権利を譲り受けた原告が,被告らの製造,販売等していた製品が上記各特許権
を侵害するとして,被告らに対し,特許法100条1項に基づき,上記製品の
製造,譲渡等の差止めを求めるとともに,民法719条1項,特許法102条
3項に基づき,実施料相当額の損害賠償を求める事案である。
1前提事実(争いのない事実並びに証拠及び弁論の全趣旨により容易に認めら
れる事実)
(1)当事者
ア原告は,アメリカ合衆国カリフォルニア州の法律に基づいて設立された
法人である(弁論の全趣旨)。
イ被告メディキット株式会社は,医療機器及び医薬品の国内及び海外への
販売等を業とする株式会社である(弁論の全趣旨)。
ウ被告東郷メディキット株式会社は,医療機器の製造,輸出入及び販売等
を業とする株式会社である(弁論の全趣旨)。
(2)本件両特許権
ア本件特許権1
(ア)原告は,平成20年8月30日,Aから,同年4月28日に存続期
間の満了により消滅した別紙特許権目録記載1(1)の特許権(以下「本
件特許権1」という。また,本件特許権1の発明に係る特許を「本件特
許1」といい,本件特許1に係る明細書(別紙特許公報(特許番号第2
647132号)参照)を「本件明細書1」という。)に基づく権利の
すべてを譲り受けた(譲渡日,譲渡人,消滅日につき甲1,3)。
(イ)被告らは,平成21年1月21日,本件特許1の請求項1につき,
特許無効審判請求(無効2009-800013号)をしたところ,同
年10月21日,上記請求は成り立たない旨の審決がされ,同年11月
2日,その謄本の送達があったため,同月26日,上記審決の取消しを
求める訴え(知的財産高等裁判所平成21年(行ケ)第10381号)を
提起した(甲22,45,乙8)。これに対し,Aは,平成22年2月
22日,本件特許1の請求項1につき,別紙特許権目録記載1(2)のとお
り,特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正審判請求(訂正2010-
390017号)をしたところ,同年6月1日,請求を認める旨の審決
がされ,確定した(以下,訂正審決確定後の請求項1の発明を「本件訂
正発明1」という。甲29,30,45)
イ本件特許権2
(ア)原告は,別紙特許権目録記載2の特許権(以下「本件特許権2」と
いい,その特許請求の範囲請求項1等の発明を「本件発明2-1」等と
いい,本件訂正発明1と併せて「本件各発明」という。また,本件発明
2に係る特許を「本件特許2」といい,本件特許2に係る明細書(別紙
特許公報(特許番号第2588375号)参照)を「本件明細書2」と
いう。)を有する。
(イ)被告らは,平成21年9月3日,本件特許2の請求項7・8につき,
特許無効審判請求(無効2009-800190号)をした(乙15)。
これに対し,原告は,平成21年12月24日,前記審判事件におい
て,本件特許2の請求項8につき,別紙特許権目録記載2(5)イのとおり,
特許請求の範囲の減縮及び明りょうでない記載の釈明を目的とする訂正
請求(以下「本件訂正請求」という。)をした(以下,本件訂正請求後
の請求項8の発明を「本件訂正発明2-8」という。甲26)。
(3)構成要件の分説
ア本件訂正発明1を構成要件に分説すると,次のとおりである(以下,分
説した構成要件をそれぞれ「構成要件1-A」等という。)。
1-A近い端及び遠い端を有する中空のハンドルと,
1-B該ハンドル内に配置されたニードルハブと,
1-C鋭い自由端と,前記ニードルハブに連結された固着端とを有し,
カニューレを患者の定位置に案内し運ぶためのニードルと,
1-D前記ニードルハブを前記中空なハンドルの近い端に向かって付
勢する付勢手段と,
1-E前記ニードルハブから独立して移動可能であり,前記ニードルハ
ブを前記付勢手段の力に抗して一時的に前記中空のハンドルの遠い
端に隣接して保持するラッチであって,前記ニードルの長さよりも
短い振幅で手動により駆動され,前記ニードルの移動距離よりも短
い距離のみ移動するラッチと,
1-Fから成ることを特徴とする,カニューレ挿入のための安全装置。
イ本件発明2-1を構成要件に分説すると,次のとおりである(以下,分
説した構成要件をそれぞれ「構成要件2-1-A」等という。)。
2-1-Aカニューレの如き医療器具を患者の体内へ挿入し且つその後
患者の体内にあった該装置の部分に人が接触しないように保護
するための安全装置において,
2-1-B患者を穿刺し,前記医療器具を患者の体内の適所へ案内して
搬送する中空針であって,少なくとも1つの鋭利な端部を有す
る軸を具備する中空針と,
2-1-C人の指が届かないように,少なくとも前記針の鋭利な端部を
包囲するようになされた中空のハンドルと,
2-1-D前記鋭利な端部を前記ハンドルから突出させた状態で前記
軸を前記ハンドルに固定する固定手段と,
2-1-E前記固定手段を解除し,前記針の鋭利な端部を人の指が届か
ないように前記ハンドルの中へ実質的に永続的に後退させる解
除/後退手段であって,前記針の軸よりも実質的に短い距離だ
け簡単且つ単一の動作によって手操作で作動可能な解除/後退
手段と,
2-1-F前記後退のエネルギの一部を吸収するためのエネルギ吸収
手段と
2-1-Gを備えることを特徴とする安全装置。
ウ本件発明2-3を構成要件に分説すると,次のとおりである(以下,分
説した構成要件をそれぞれ「構成要件2-3-A」等という。)。
2-3-A請求項1の安全装置において,前記エネルギ吸収手段が,
2-3-B前記針と前記ハンドルの内部孔とのうちの一方に固定され
た表面と,
2-3-C前記針と前記内部孔とのうちの他方に担持されて前記表面
に圧接し,前記後退の間に摩擦を生ずる要素と
2-3-Dを備えることを特徴とする安全装置。
エ本件発明2-5を構成要件に分説すると,次のとおりである(以下,分
説した構成要件をそれぞれ「構成要件2-5-A」等という。)。
2-5-A請求項1の安全装置において,
2-5-B前記中空のハンドルは,前記針がそれに向かって後退する端
部構造を有し,
2-5-C前記エネルギ吸収手段は,前記針と前記端部構造とうちの一
方に固定されて前記端部構造に対する前記針の衝撃の一部を吸
収する押し潰し可能な要素を有する
2-5-Dことを特徴とする安全装置。
オ本件発明2-7を構成要件に分説すると,次のとおりである(以下,分
説した構成要件をそれぞれ「構成要件2-7-A」等という。)。
2-7-A請求項1の安全装置において,
2-7-B前記中空針の中からの血液を収容する共に,前記後退によっ
て生ずる力に抗して,前記針が後退する間に及び該後退の後に,
前記血液を確実に保持するための収容/保持手段とを更に備え

2-7-Cことを特徴とする安全装置。
カ本件発明2-8を構成要件に分説すると,次のとおりである(以下,分
説した構成要件をそれぞれ「構成要件2-8-A」等という。)。
2-8-A請求項1の安全装置において,
2-8-B前記収容/保持手段が,前記後退によって生ずる力から前記
室の内部を隔離するための隔離手段を更に備える
2-8-Cことを特徴とする安全装置。
(4)被告らによる医療器具の製造・販売
被告らは,平成19年5月1日から平成22年9月23日までの間,共同
して別紙物件目録記載の医療器具(以下「被告製品」という。)を製造し,
販売し,輸出していた(鑑定の結果)。
(5)被告製品の外観及び構成
ア被告製品は,別紙物件説明書記載の外観及び構成を有する。
イ被告製品の構成を本件訂正発明1の構成要件に対比して分説すると,次
の点は当事者間に争いがない。
1-a手元に近い後端と手元から遠い先端を有する中空の外管及び内管
と,
1-b内管内に配置された針基と,
1-c鋭利な端部と,針基に連結された固着端を有し,カニューレを患
者の定位置に案内し運ぶための中空針と,
1-d針基を内管の後端に向かって付勢するばねと,
1-fから成る,カニューレ挿入のための安全装置。
ウ被告製品の構成を本件発明2-1の構成要件に対比して分説すると,次
の点は当事者間に争いがない。
2-1-aカテーテルを患者の体内へ挿入し,かつその後患者の体内に
あった内針の部分に人が接触しないように内針が収納される安
全装置において,
2-1-b患者を穿刺し,カテーテルを患者の体内の適所へ案内して搬
送する中空針であって,鋭利な端部を有する軸を具備する中空
針と,
2-1-c人の指が届かないように,中空針を包囲するようになされた
内管と,
2-1-d中空針の鋭利な端部を外管から突出させた状態で中空針の軸
が針基に連結され,さらに針基が移動レバーにより外管に固定
されるという固定手段と,
2-1-gを備える安全装置。
エ被告製品の構成を本件発明2-3の構成要件に対比して分説すると,次
の点は当事者間に争いがない。
2-3-d安全装置。
オ被告製品の構成を本件発明2-5の構成要件に対比して分説すると,次
の点は当事者間に争いがない。
2-5-b内管は,中空針がそれに向かって後退する後端に担持された
栓を有し,
2-5-d安全装置。
カ被告製品の構成を本件発明2-7の構成要件に対比して分説すると,次
の点は当事者間に争いがない。
2-7-c安全装置。
キ被告製品の構成を本件発明2-8の構成要件に対比して分説すると,次
の点は当事者間に争いがない。
2-8-c安全装置。
(6)被告製品の本件各発明に対する充足性
被告製品は,構成要件1-A・C・D・F,2-1-A~D・G,2-3
-D,2-5-B・D,2-7-C,2-8-Cをいずれも充足する。
(7)先行技術
本件各発明の先行技術として,別紙先行技術目録記載の技術がある(ただ
し,番号89~91を除く。以下,上記技術が記載された公報,明細書又は
文献を上記別紙の略称欄記載のとおり略称する。)。
2争点及び当事者の主張
本件の争点は,①被告製品の構成,②被告製品は本件各発明の技術的範囲に
属するか,③本件特許1の請求項1はいわゆるサポート要件違反により特許無
効審判で無効とされるべきものか,④本件特許1の請求項1は拡大先願発明と
同一であることにより特許無効審判で無効とされるべきものか,⑤本件特許2
の請求項1・3・5は新規性の欠如により特許無効審判で無効とされるべきも
のか,⑥本件特許2の請求項8は特許請求の範囲の記載要件違反により特許無
効審判で無効とされるべきものか,⑦本件特許1の請求項1及び本件特許2の
請求項1・3・5・7・8は進歩性の欠如により特許無効審判で無効とされる
べきものか,⑧被告らの責任及び損害である。
(1)争点①(被告製品の構成)について
(原告の主張)
ア構成要件1-Eに対比した構成(1-e)
被告製品は,針基の移動方向と垂直方向に移動可能であり,針基をばね
の力に抗して一時的に内管の先端に隣接して保持する移動レバーであっ
て,中空針の長さに比べて短い距離のみ指で押し込まれると,内管の後端
までの中空針の移動距離よりも短い距離のみ移動する移動レバーを有す
る。
イ構成要件2-1-Eに対比した構成(2-1-e)
被告製品は,指で移動レバーの天井部にあるボタンを押し込むことによ
って中空針の固定手段が解除され,ばねにより中空針の鋭利な端部に人の
指が届かないように中空針を内管の中へ実質的に永続的に後退させると
いう解除/後退手段であって,中空針の軸の長さに比べて短い距離のみ指
で押し込むことによって手操作で作動可能な解除/後退手段を有する。
ウ構成要件2-1-Fに対比した構成(2-1-f)
被告製品では,中空針に連結する針基の後端に,内管の後端の栓に対す
る中空針の衝撃の一部を吸収する押しつぶし可能なシリコンゴム製の弾
性部品がはめ付けられるとともに,その弾性部品が約3~4㎝後退するま
では外管の内部孔に固定された内管の内周面に圧接し,中空針の後退の間
に摩擦を生じる弾性部品がはめ付けられている。このため,被告製品は,
中空針が後退するエネルギの一部を吸収するためのエネルギ吸収手段を
有する。
エ構成要件2-3-A~Cに対比した構成(2-3-a~c)
被告製品は,2-1-a~gの構成を有する安全装置である(2-3-
a)。また,被告製品は,前記ウのとおり,エネルギ吸収手段として,外
管の内部孔に固定された内管の内周面と(2-3-b),中空針に連結す
る針基に担持されて上記内周面に圧接し,中空針の後退の間に摩擦を生ず
る弾性部品を有する(2-3-c)。
オ構成要件2-5-A・Cに対比した構成(2-5-a・c)
被告製品は,2-1-a~gの構成を有する安全装置である(2-5-
a)。また,被告製品は,前記ウのとおり,エネルギ吸収手段として,中
空針に連結する針基に固定されて栓に対する中空針の衝撃の一部を吸収
する押しつぶし可能な弾性部品を有する(2-5-c)。
カ構成要件2-7-A・Bに対比した構成(2-7-a・b)
被告製品は,2-1-a~gの構成を有する安全装置である(2-7-
a)。また,被告製品では,中空針の中からの血液が,相当の容積がある
針基内に流入した後,針基の後部上面にある穴とこれに向かい合って密着
した内管の穴を通って,内管と外管の間にあるフラッシュバック室に流入
する。そして,被告製品は,中空針の中からの血液を収容するとともに,
中空針の後退の際に生じる血液と中空針との相対的な運動による影響を
受けることを阻止して,中空針が後退する間と中空針が後退した後に,血
液を外管から外へ漏出させないようにするための針基及びフラッシュバ
ック室を有する(2-7-b)。
キ構成要件2-8-A・Bに対比した構成(2-8-a・b)
被告製品は,2-1-a~gの構成を有する安全装置である(2-8-
a)。また,被告製品の針基は,内部が壁で取り囲まれており,後部上面
に穴はあるが,血液の表面張力により,中空針の後退の際に生じる力によ
る影響を受けても,空気が穴から針基の内部へ急速には入らず,血液が針
基の内部から排出されない。このため,被告製品は,針基が,中空針の後
退の際に生じる力による影響を受けて血液を針基の内部から排出させな
い隔離手段を有する(2-8-b)。
(被告らの主張)
ア構成要件1-Eに対比した構成(1-e)について
否認する。
イ構成要件2-1-Eに対比した構成(2-1-e)について
否認する。
ウ構成要件2-1-Fに対比した構成(2-1-f)について
否認する。被告製品の弾性部品は,中空針の後退の間,内管の内周面に
圧接しておらず,中空針の後退の間に摩擦を生じない。このため,被告製
品は,中空針が後退するエネルギの一部を吸収するためのエネルギ吸収手
段を有しない。
エ構成要件2-3-A~Cに対比した構成(2-3-a~c)について
被告製品は,2-1-e・fの構成を有しないから,2-3-aの構成
も有しない。2-3-bの構成は否認する。また,前記ウのとおり,被告
製品は,内管の内周面に圧接して中空針の後退の間に摩擦を生ずる弾性部
品を有さず,2-3-cの構成を有しない。
オ構成要件2-5-A・Cに対比した構成(2-5-a・c)について
被告製品は,2-1-e・fの構成を有しないから,2-5-aの構成
も有しない。2-5-cの構成は否認する。
カ構成要件2-7-A・Bに対比した構成(2-7-a・b)について
被告製品は,2-1-e・fの構成を有しないから,2-7-aの構成
も有しない。
また,被告製品の針基は,約0.01mlの容積しかないため,血液の通
り道にすぎず,中空針の中からの血液を収容しない。さらに,フラッシュ
バック室の奥には血液が流入するのを妨げないように空気を逃がすため
の内管への開口部がある上,移動レバーを押し込むと,針基と中空針が後
退し,密着していた内管と針基が離れ,針基内やフラッシュバック室内の
血液が内管の開口部や穴,針基の穴から流出して外管から外へも漏出し得
るようになる。したがって,2-7-bの構成も有しない。
キ構成要件2-8-A・Bに対比した構成(2-8-a・b)について
被告製品は,2-1-e・fの構成を有しないから,2-8-aの構成
も有しない。
また,前記カのとおり,被告製品の移動レバーを押し込むと,針基内の
血液が針基の穴から流出し得るようになる。したがって,2-8-bの構
成も有しない。
(2)争点②(被告製品は本件各発明の技術的範囲に属するか)について
(原告の主張)
ア構成要件1-Bの充足性
被告製品の「針基」は,中空針に連結し,ばねによって内管の後端に向
かって付勢されるとともに,移動レバーによりばねの力に抗して一時的に
内管の先端に隣接して保持されるから,構成要件1-Bのニードルに連結
し,付勢手段によって中空なハンドルの近い端に向かって付勢されるとと
もに,ラッチにより付勢手段の力に抗して一時的に中空のハンドルの遠い
端に隣接して保持される「ニードルハブ」に当たる。そして,被告製品の
「内管内に配置された針基」は,内管の外側に上記構成要件の「中空のハ
ンドル」に当たる外管があるから,上記構成要件の「該ハンドル内に配置
されたニードルハブ」に当たる。
したがって,被告製品は,構成要件1-Bを充足する。
イ構成要件1-Eの充足性
被告製品の「移動レバー」は,構成要件1-Eの「ラッチ」に当たる。
そして,被告製品の移動レバーは,針基の移動方向と垂直方向に移動可
能であるから,上記構成要件の「前記ニードルハブから独立して移動可能」
といえる。また,被告製品の移動レバーは,針基をばねの力に抗して一時
的に内管の先端に隣接して保持するから,上記構成要件の「前記ニードル
ハブを前記付勢手段の力に抗して一時的に前記中空のハンドルの遠い端
に隣接して保持する」ものといえる。さらに,「前記ニードルの移動距離」
とは,ラッチをニードルの移動距離よりも短い距離のみ移動させることに
より,簡単な操作でニードルをハンドル内へ後退させるという本件訂正発
明1の目的に照らせば,ニードルの後退が完了するまでの移動距離を意味
するところ,被告製品の移動レバーは,中空針の長さに比べて短い距離の
み指で押し込まれると,内管の後端までの中空針の移動距離よりも短い距
離のみ移動するから,上記構成要件の「前記ニードルの長さよりも短い振
幅で手動により駆動され,前記ニードルの移動距離よりも短い距離のみ移
動する」ものといえる。
したがって,被告製品は,構成要件1-Eを充足する。
ウ構成要件2-1-Eの充足性
被告製品の「指で移動レバーの天井部にあるボタンを押し込むことによ
って中空針の固定手段が解除され,ばねにより中空針の鋭利な端部に人の
指が届かないように中空針を内管の中へ実質的に永続的に後退させると
いう解除/後退手段」は,構成要件2-1-Eの「前記固定手段を解除し,
前記針の鋭利な端部を人の指が届かないように前記ハンドルの中へ実質
的に永続的に後退させる解除/後退手段」に当たる。また,被告製品の「中
空針の軸の長さに比べて短い距離のみ指で押し込むことによって手操作
で作動可能な解除/後退手段」は,上記構成要件の「前記針の軸よりも実
質的に短い距離だけ簡単且つ単一の動作によって手操作で作動可能な解
除/後退手段」に当たる。
したがって,被告製品は,構成要件2-1-Eを充足する。
エ構成要件2-1-Fの充足性
被告製品の「中空針が後退するエネルギの一部を吸収するためのエネル
ギ吸収手段」は,構成要件2-1-Fの「前記後退のエネルギの一部を吸
収するためのエネルギ吸収手段」に当たる。
したがって,被告製品は,構成要件2-1-Fを充足する。
オ構成要件2-3-A~Cの充足性
被告製品の「2-1-a~gの構成を有する安全装置」は,構成要件2
-3-Aの「請求項1の安全装置」に当たる。また,被告製品の「エネル
ギ吸収手段として,外管の内部孔に固定された内管の内周面」は,構成要
件2-3-A・Bの「前記エネルギ吸収手段が,…前記ハンドルの内部孔
…に固定された表面」に当たる。さらに,被告製品の「エネルギ吸収手段
として,中空針に連結する針基に担持されて内管の内周面に圧接し,中空
針の後退の間に摩擦を生ずる弾性部品」は,構成要件2-3-A・Cの「前
記エネルギ吸収手段が,…前記針…に担持されて前記表面に圧接し,前記
後退の間に摩擦を生ずる要素」に当たる。
したがって,被告製品は,構成要件2-3-A~Cを充足する。
カ構成要件2-5-A・Cの充足性
被告製品の「2-1-a~gの構成を有する安全装置」は,構成要件2
-5-Aの「請求項1の安全装置」に当たる。また,被告製品の「エネル
ギ吸収手段として,中空針に連結する針基に固定されて栓に対する中空針
の衝撃の一部を吸収する押しつぶし可能な弾性部品」は,構成要件2-5
-Cの「前記エネルギ吸収手段は,前記針…に固定されて前記端部構造に
対する前記針の衝撃の一部を吸収する押し潰し可能な要素」に当たる。
したがって,被告製品は,構成要件2-5-A・Cを充足する。
キ構成要件2-7-A・Bの充足性
被告製品の「2-1-a~gの構成を有する安全装置」は,構成要件2
-7-Aの「請求項1の安全装置」に当たる。
また,構成要件2-7-Bの「前記後退によって生ずる力に抗して,…
前記血液を確実に保持する」とは,本件発明2-7が,使用後に中空針を
後退させると,血液と中空針との相対的な運動により,血液が針の先端や
ハンドルの前方の開口部から漏出するといった課題を解決するものであ
ったことから,「中空針の後退の際に生じる血液と中空針との相対的な運
動による影響を受けることを阻止して,血液を中空のハンドルから外へ漏
出させないようにする」ことを意味する。このため,被告製品の「中空針
の中からの血液を収容するとともに,中空針の後退の際に生じる血液と中
空針との相対的な運動による影響を受けることを阻止して,中空針が後退
する間と中空針が後退した後に,血液を外管から外へ漏出させないように
するための」針基及びフラッシュバック室は,構成要件2-7-Bの「前
記中空針の中からの血液を収容する共に,前記後退によって生ずる力に抗
して,前記針が後退する間に及び該後退の後に,前記血液を確実に保持す
るための収容/保持手段」に当たる。
なお,前記構成要件と整合しない本件明細書2の【0038】「この問
題に対する解決策は,運動可能な針に効果的に固定された点におけるフラ
ッシュ血液を包囲あるいは阻害することとは別の方法に見い出すことが
でき」という記載(9欄38行~41行)は,対応する米国特許第557
5777号明細書にも同旨の記載がなく,誤記である。
したがって,被告製品は,構成要件2-7-A・Bを充足する。
ク構成要件2-8-A・Bの充足性
被告製品の「2-1-a~gの構成を有する安全装置」は,構成要件2
-8-Aの「請求項1の安全装置」に当たる。また,構成要件2-8-B
の「前記室」とは,本件明細書2の【0069】「針と共に運動するよう
に固定された室」という記載(14欄2行・3行)から,キャリアブロッ
クを意味するところ,構成要件2-8-Bの「前記後退によって生ずる力
から前記室の内部を隔離する」とは,本件発明2-8が,中空針とキャリ
アブロックを後退させると,空気がキャリアブロックの内部へ比較的急速
に入ることにより,血液が針の先端から排出されるといった課題を解決す
るものであったことから,「中空針の後退の際に生じる力による影響を受
けて血液をキャリアブロックの内部から排出させないようにする」ことを
意味する。このため,キャリアブロックに当たる被告製品の針基が中空針
の後退の際に生じる力による影響を受けて血液を針基の内部から排出さ
せない隔離手段を有するのは,構成要件2-8-Bの「前記収容/保持手
段が,前記後退によって生ずる力から前記室の内部を隔離するための隔離
手段を更に備える」ものといえる。
したがって,被告製品は,構成要件2-8-A・Bを充足する。
(被告らの主張)
ア構成要件1-Bの充足性について
構成要件1-Bの「ニードルハブ」の意義は,本件明細書1中の発明の
詳細な説明に記載も示唆もなく,不明である。このため,被告製品の「針
基」が上記構成要件の「ニードルハブ」に当たるかどうかも,不明である。
したがって,被告製品は,構成要件1-Bを充足しない。
イ構成要件1-Eの充足性について
ラッチとは,「ドア・門等の掛けがね。留め金。」を意味し,内管と針基
の密着固定を解除する移動レバーと異なるから,被告製品の「移動レバー」
は,構成要件1-Eの「ラッチ」に当たらない。
仮に「ラッチ」に当たるとしても,被告製品の移動レバーの穴の内側に
ある突起部分は,これとかみ合っている針基の溝と共に,移動レバーのボ
タンに向かって21度後方に傾いているから,移動レバーを約1.3㎜押
し込むと,針基と中空針も約0.4㎜後方に移動する。このため,移動レ
バーは,前記構成要件の「ニードルハブから独立して移動可能」といえず,
上記構成要件の「前記ニードルの移動距離よりも短い距離のみ移動する」
ともいえない。
したがって,被告製品は,構成要件1-Eを充足しない。
ウ構成要件2-1-Eの充足性について
否認する。
エ構成要件2-1-Fの充足性について
前記(1)(被告らの主張)ウのとおり,被告製品は,2-1-fの構成を
有しないから,構成要件2-1-Fを充足しない。
オ構成要件2-3-A~Cの充足性について
前記(1)(被告らの主張)エのとおり,被告製品は,2-3-a~cの構
成を有しないから,構成要件2-3-A~Cを充足しない。
カ構成要件2-5-A・Cの充足性について
前記(1)(被告らの主張)オのとおり,被告製品は,2-5-a・cの構
成を有しないから,構成要件2-5-A・Cを充足しない。
キ構成要件2-7-A・Bの充足性について
前記(1)(被告らの主張)カのとおり,被告製品は,2-7-a・bの構
成を有しない。また,次の理由からも,被告製品の針基及びフラッシュバ
ック室は,構成要件2-7-Bを充足しない。
(ア)被告製品の針基について
構成要件2-7-Bの「収容/保持手段」は,本件明細書2の【00
38】「この問題に対する解決策は,運動可能な針に効果的に固定され
た点におけるフラッシュ血液を包囲あるいは阻害することとは別の方法
に見い出すことができ」という記載(9欄38行~41行)から,中空
針に連結した被告製品の針基を含まない。
また,構成要件2-7-Bの「収容/保持手段」は,本件明細書2の
【0069】「例えば,収容/保持手段は,針と共に運動するように固
定された室と,収容され且つ保持された血液を本装置のユーザが観察で
きるようにする何等かの手段とを備えるのが極めて好ましい。」(14
欄2行~5行)等という記載から,カテーテルが実際に血管の中へ挿入
されていることを確認する目的をも有するところ,そのようなフラッシ
ュ室は1つあれば足り,本件明細書2もキャリアブロックとは別個のフ
ラッシュ室を備える実施例(図8参照)について後者のみを「フラッシ
ュ室」と記載しているから(23欄39行),前者のキャリアブロック
に当たると思われる被告製品の針基を含まない。
(イ)被告製品のフラッシュバック室について
構成要件2-7-Bの「前記後退によって生ずる力に抗して,…前記
血液を確実に保持する」とは,「中空針の後退によって生じる力を受け,
これに対抗して,…血液を確実に保持する」ことを意味する。しかるに,
被告製品のフラッシュバック室は,中空針の後退によって生じる力を受
けておらず,これに対抗してもいないから,構成要件2-7-Bの「前
記後退によって生ずる力に抗して,…前記血液を確実に保持する」とは
いえない。
また,構成要件2-7-Bの「収容/保持手段」は,本件明細書2の
【0086】「本発明は,血液をハンドルの中に保持するのではなく,
後退の間に血液を針と共に搬送し,従って,血液と針との間に相対的な
運動を何等生じないようにすることにより,上述の問題を解消する。」
という記載(16欄25行~28行)から,中空針との間で相対的な運
動を行う被告製品のフラッシュバック室も含まない。
ク構成要件2-8-A・Bの充足性について
前記(1)(被告らの主張)キのとおり,被告製品は,2-8-aの構成を
有しない。また,構成要件2-8-Bの「前記室」は,本件特許2の特許
請求の範囲請求項1~7に該当する記載がなく,発明の詳細な説明には
【0072】「上記ハンドルに関連して設けられる室」(14欄23行・
24行)等,複数の該当し得る記載があるから,キャリアブロックを意味
しない。
したがって,被告製品は,構成要件2-8-A・Bを充足しない。
(3)争点③(本件特許1の請求項1はいわゆるサポート要件違反により特許無
効審判で無効とされるべきものか)について
(被告らの主張)
「ニードルハブ」は,構成要件1-B~Eに関わる本件訂正発明1の重要
な構成要素であるにもかかわらず,前記(2)(被告らの主張)アのとおり,本
件明細書1中の発明の詳細な説明に記載も示唆もなく,意味内容の確立した
技術用語でもない。請求項で用いられる用語の意味は,出願ごとにまちまち
であるから,他の出願で用いられたからといって,明らかではない上,他の
特許公報では符号等の説明を付して用いられている。また,本件明細書1中
の発明の詳細な説明には,「キャリヤブロック」という記載があるが,それ
が「ニードルハブ」や「針基」に対応する旨の記載もない。
このように,「ニードルハブ」は,本件明細書1中の発明の詳細な説明に
記載がないから,本件特許1の特許請求の範囲請求項1の記載は,いわゆる
サポート要件(平成2年法律第30号による改正前の特許法36条4項1号)
違反により特許無効審判で無効とされるべきものである。
(原告の主張)
「ニードルハブ」は,注射器やカテーテル等の医療機器の分野において,
針の土台部分である針基を意味する確立した技術用語である。実際,他の特
許公報では意味内容の説明なく用いられている。被告東郷メディキット株式
会社も,自社の特許の明細書や被告製品の添付文書で「内針ハブ」と呼んで
いる。そして,本件明細書1中の発明の詳細な説明には,針基に相当する用
語として,「キャリヤブロック」や「針キャリヤブロック」という記載があ
る。
このように,「ニードルハブ」は,本件明細書1中の発明の詳細な説明に
記載があるから,本件特許1の特許請求の範囲請求項1の記載は,いわゆる
サポート要件に違反せず,特許無効審判で無効とされるべきものではない。
(4)争点④(本件特許1の請求項1は拡大先願発明と同一であることにより特
許無効審判で無効とされるべきものか)について
(被告らの主張)
ア乙9-19公報記載の発明
乙9-19公報記載の発明は,昭和63年4月20日に特許出願され,
同年11月28日に出願公開されたものであり,同公報の発明の詳細な説
明中に記載された「シリンダ」,「針支持および整列部材」,「針」,「ば
ね」,「ロッキングカップ」は,本件訂正発明1の「中空のハンドル」,
「ニードルハブ」,「ニードル」,「付勢手段」,「ラッチ」にそれぞれ
相当する。
そして,乙9-19公報記載の発明が他の適切な型の注射器にも応用可
能であることは,同公報に記載されていた上(10頁右上欄14行~左下
欄2行),カニューレの挿入のためのニードルを含む注射器は,乙9-3
0~40・49公報・明細書・文献に記載のとおり,周知・慣用のものに
すぎなかった。
したがって,乙9-19公報には,次の発明が実質的に記載されている。
(ア)近い端及び遠い端を有する中空のハンドルと,
(イ)該ハンドル内に配置されたニードルハブと,
(ウ)鋭い自由端と,前記ニードルハブに連結された固着端とを有し,カ
ニューレを患者の定位置に案内し運ぶためのニードルと,
(エ)前記ニードルハブを前記中空なハンドルの近い端に向かって付勢
する付勢手段と,
(オ)前記ニードルハブから独立して移動可能であり,前記ニードルハブ
を前記付勢手段の力に抗して一時的に前記中空のハンドルの遠い端に隣
接して保持するラッチであって,前記ニードルの長さよりも短い振幅で
手動により駆動され,前記ニードルの移動距離よりも短い距離のみ移動
するラッチと,
(カ)から成る,カニューレ挿入のための安全装置。
イ小括
以上のとおり,本件訂正発明1は,当該特許出願の日である昭和63年
4月28日以前の特許出願であって,当該特許出願後に出願公開がされた
ものの願書に最初に添付した明細書又は図面に記載された乙9-19公
報記載の発明と同一である。したがって,本件特許1の請求項1は,拡大
先願発明と同一であること(特許法29条の2)により特許無効審判で無
効とされるべきものである。
(原告の主張)
本件訂正発明1は,カニューレの挿入に用いられるものであるのに対し,
乙9-19公報記載の発明は,アンプルを構成要件とした歯科用注射器に
関する発明であって,カニューレの挿入に用いられるものではなく,その
旨の記載も示唆もない。
以上のとおり,乙9-19公報には,本件訂正発明1と同一の発明が記
載されておらず,本件特許1の請求項1は,拡大先願発明と同一であるこ
とにより特許無効審判で無効とされるべきものではない。
(5)争点⑤(本件特許2の請求項1・3・5は新規性の欠如により特許無効審
判で無効とされるべきものか)について
(被告らの主張)
ア乙11-1公報記載の発明
乙11-1公報(平成3年1月23日発行)の記載(特許請求の範囲請
求項1,10頁左下欄7行~9行,11頁左上欄12行~16行,同頁左
下欄16行~右下欄11行,14頁左下欄9行~20行)によれば,乙1
1-1公報には,次の発明が記載されている。
aカニューレを患者の中に挿入しその後で患者内にあった装置部分との
接触から人々を保護するに当たって使用される安全装置であって,
b前記患者に突き刺し前記カニューレを前記患者内の定位置に案内し運
ぶための針であって,少なくとも1つの鋭い端を備えた軸を有する針と,
c前記人々の指が届かないように前記針の少なくとも鋭い端を封包する
ようになされた中空ハンドルと,
d前記鋭い端がハンドルから突出した状態で前記軸をハンドルに固着す
るための手段と,
e前記固着手段を解除し且つ前記人々の指が届かないように前記針の鋭
い端をハンドル内へ実質的に永久的に後退させるための手段とから成
り,前記解除および後退手段は針の軸よりも実質的に短い振幅の単純な
一体運動により手動で作動可能であり,
f針を保持するキャリヤブロックの外面とハンドルの内面とは流体密封
しており,針を保持するキャリヤブロックの後面はデルリン製であり,
完全に後退したときにハンドルの内側ストッパ部分に着座する
g安全装置。
イ本件発明2-1との対比
本件発明2-1と乙11-1公報記載の発明とを対比すると,本件発明
2-1の構成要件A~E・Gは,乙11-1公報記載の発明の構成a~
e・gにそれぞれ相当する。
また,乙11-1公報に記載された発明の構成fにおける流体密封とは,
液体が漏れ出ない程度に密着していることを意味し,ばねの力によりキャ
リヤブロックが後退するときにキャリヤブロックの外面とハンドルの内
面との間に摩擦が生じるものと解される。乙11-1公報には,「トリガ
ーが作動されていない時に」流体密封を与える旨の記載や中空ハンドルの
内径差に関する記載があるが,「この孔はごく一般的には真円筒形である」
という記載(11頁左上欄7行・8行)やそれを示す図1の記載,内径差
も0.0117㎝しかないこと等を考慮すれば,トリガーが作動されてい
る時にも流体密封を与えることが明らかである。なお,乙11-1公報に
記載されたキャリヤブロックの外側に延びるラッチ耳も,ハンドルの内面
との間に摩擦が生じるものと解される。さらに,乙11-1公報に記載さ
れた発明の構成fにおけるデルリン製のキャリヤブロックの後面は,「デ
ルリン」がデュポン社の登録商標であり(乙11の4・5),ポリオキシ
メチレン材からなるその製品は弾性率が高く,柔軟性を有するものであ
り,衝撃吸収体としての機能を有することは周知であったから,着座の際
の衝撃を緩衝するものである。一方,構成要件2-1-Fの「前記後退の
エネルギの一部を吸収するためのエネルギ吸収手段」とは,本件発明2-
3・5の記載から,摩擦を生じる要素や衝撃の一部を吸収する要素を含む
上位概念と解される。そうすると,本件発明2-1の構成要件2-1-F
は,乙11-1公報記載の発明の構成fに相当する。
したがって,本件発明2-1は,乙11-1公報記載の発明と同一の発
明である。
ウ本件発明2-3との対比
本件発明2-3は,本件発明2-1に対し,「前記エネルギ吸収手段が,
前記針と前記ハンドルの内部孔とのうちの一方に固定された表面と,前記
針と前記内部孔とのうちの他方に担持されて前記表面に圧接し,前記後退
の間に摩擦を生ずる要素とを備える」と限定したものである。
乙11-1公報に記載されたハンドルの内面は,後端近くのストッパ表
面を含めて,構成要件2-3-Bの「前記ハンドルの内部孔…に固定され
た表面」に相当する。乙11-1公報に記載された針を保持するキャリヤ
ブロックの外面は,前記イのとおり,後退するときにハンドルの内面との
間に摩擦力が生じると解されるから,構成要件2-3-Cの「前記針…に
担持されて前記表面に圧接し,前記後退の間に摩擦を生ずる要素」に相当
する。
したがって,本件発明2-3は,乙11-1公報記載の発明と同一の発
明である。
エ本件発明2-5との対比
本件発明2-5は,本件発明2-1に対し,「前記中空のハンドルは,
前記針がそれに向かって後退する端部構造を有し,前記エネルギ吸収手段
は,前記針と前記端部構造とうちの一方に固定されて前記端部構造に対す
る前記針の衝撃の一部を吸収する押し潰し可能な要素を有する」と限定し
たものである。
乙11-1公報に記載された針を保持するキャリヤブロックが完全に後
退したときに着座するハンドルの内側ストッパ部分は,構成要件2-5-
Bの「前記針がそれに向かって後退する端部構造」に相当する。乙11-
1公報に記載された針を保持して内側ストッパ部分に着座する後面がデ
ルリン製のキャリヤブロックは,前記イのとおり,デルリンが着座の際の
衝撃を緩衝することから,構成要件2-5-Cの「前記針…に固定されて
前記端部構造に対する前記針の衝撃の一部を吸収する押し潰し可能な要
素」に相当する。
したがって,本件発明2-5は,乙11-1公報記載の発明と同一の発
明である。
オ小括
以上のとおり,本件発明2-1・3・5は,いずれも特許出願前に日本
国内において頒布された刊行物に記載された発明(特許法29条1項3
号)である。したがって,本件特許2の請求項1・3・5は,新規性の欠
如により特許無効審判で無効とされるべきものである。
(原告の主張)
ア本件発明2-1との対比について
乙11-1公報には,「トリガーが作動されていない時に」(14頁左
下欄11行)キャリヤブロックの後端にある円錐台状ストッパ部分の前端
の直径を中空ハンドルの内側孔の表面に対して流体密封を与えるようわ
ずかに増大させる旨の記載があるだけである。これは,そうすることによ
り,円錐台状ストッパ部分の前方にあるばねや内部空洞等の衛生の維持を
最小限に抑えることができ,中空針を介しての効果的な流体連通が容易に
なるからである。乙11-1公報には,トリガーが作動されて中空針が後
退する間も円錐台状ストッパ部分が中空ハンドルの内側孔の表面に圧接
して摩擦を生じる旨の記載はなく,むしろ「この孔はごく一般的には真円
筒形であるが,好ましくは型からのハンドルの除去を容易にするためにハ
ンドルの後端に向けて広がるごく僅かなテーパもしくはドラフトを有す
る。」(11頁左上欄7行~11行),「第1図の好ましい実施例の他の
寸法は大略以下の通りである(㎝)。…トリガー近傍でのハンドル孔の内
径0.4201後端近傍でのハンドル孔の内径0.4318」(13頁
左下欄8行~18行)と逆の記載がある。中空ハンドルの後端近くのスト
ッパ表面は,後退中の円錐台状ストッパ部分との間で摩擦を生じるもので
はなく,そこに円錐台状ストッパ部分がはまるだけである。なお,乙11
-1公報に記載されたキャリヤブロックのラッチ耳が中空ハンドルの内
側孔の表面に圧接し,中空針の後退の間に摩擦を生じる旨の記載もない。
また,デルリンは,ギア等に用いられる剛性を有するプラスチックであ
る上,製品の弾性率にも幅があり,弾性率が高くて柔軟性を有する物質や
衝撃吸収材として用いられる物質とは限らない。乙11-1公報に円錐台
状ストッパ部分の材料としてデルリンが記載されているのは,中空針を通
す鼻部片の材料にデルリンが記載されている理由と同様,精密に成形しや
すいからである。
したがって,乙11-1公報記載の発明の構成fは,構成要件2-1-
Fに相当せず,本件発明2-1は,乙11-1公報記載の発明と同一の発
明ではない。
イ本件発明2-3との対比について
乙11-1公報に記載されたキャリヤブロックの後端にある円錐台状ス
トッパ部分は,前記アのとおり,中空針が後退する間,中空ハンドルの内
側孔の表面に圧接しておらず,摩擦も生じないから,構成要件2-3-C
の「前記針…に担持されて前記表面に圧接し,前記後退の間に摩擦を生ず
る要素」に相当しない。
したがって,本件発明2-3は,乙11-1公報記載の発明と同一の発
明ではない。
ウ本件発明2-5との対比について
乙11-1公報に記載されたキャリヤブロック後面のデルリンは,前記
アのとおり,衝撃吸収剤として用いられる物質とは限らないから,構成要
件2-5-Cの「前記針…に固定されて前記端部構造に対する前記針の衝
撃の一部を吸収する押し潰し可能な要素」に相当しない。
したがって,本件発明2-5は,乙11-1公報記載の発明と同一の発
明ではない。
エ小括
以上のとおり,本件発明2-1・3・5は,いずれも特許出願前に日本
国内において頒布された刊行物に記載された発明ではなく,新規性を有す
る。したがって,本件特許2の請求項1・3・5は,特許無効審判で無効
とされるべきものではない。
(6)争点⑥(本件特許2の請求項8は特許請求の範囲の記載要件違反により特
許無効審判で無効とされるべきものか)について
(被告らの主張)
ア特許請求の範囲の記載要件違反
本件発明2-8の特許出願が行われた当時の平成6年法律第116号に
よる改正前の特許法36条5項2号は,「特許を受けようとする発明の構
成に欠くことができない事項のみを記載した項(以下「請求項」という。)
に区分してあること。」と規定しており,かつ,平成7年通商産業省令第
57号による改正前の特許法施行規則24条の2第3号は,「請求項の記
載における他の請求項の引用は,その請求項に付した番号によりしなけれ
ばならない。」と規定していたから,各請求項は独立しており,他の請求
項の引用はその請求項に付した番号を特定して行う必要がある。このた
め,本件発明2-8の特許請求の範囲に記載された「前記収容/保持手段」
や「前記室」は,これらの前にある「請求項1」にその内容が記載されて
いなければならないにもかかわらず,請求項1には,その記載がないため,
内容が不明である。「前記収容/保持手段」は,本件特許2の請求項7に
同じ記載があるから,その前に「請求項7の安全装置において」と記載さ
れるべきであったが,そのような記載もない。「前記室」は,本件特許2
の請求項1~7のいずれにも記載がない上,発明の詳細な説明には,【0
072】「上記ハンドルに関連して設けられる室」等,複数の同じ記載が
あり,内容を特定することができない。
イ訂正の請求について
明りょうでない記載の釈明を目的とする訂正の請求は,当該記載が理解
可能であることを要する。前記アのとおり,本件発明2-8の「前記収容
/保持手段」や「前記室」は,理解不能であるから,本件訂正請求は,明
りょうでない記載の釈明を目的とするものとはいえない。そして,本件訂
正請求は,前記(2)(被告らの主張)クのとおり,本件発明2-8の技術
的範囲に属しない被告製品を本件訂正発明2-8の技術的範囲に属させ
るものであるから,実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更するもので
ある。このため,本件訂正請求は,適法な訂正の請求でない。
ウ進歩性の欠如
本件訂正発明2-8は,後記(7)(被告らの主張)エ(ウ)のとおり,本件
発明2-8と同様,進歩性の欠如により特許が受けられないものである。
エ小括
以上のとおり,本件特許2の請求項8は,特許請求の範囲の記載要件(平
成6年法律第116号による改正前の特許法36条5項2号)違反により
特許無効審判で無効とされるべきものである。
(原告の主張)
ア特許請求の範囲の記載要件違反について
本件発明2-8の「前記収容/保持手段」は,本件発明2-7の「収容
/保持手段」を意味し,「前記室」は,本件明細書2の【0070】「上
記室」が指し示す【0069】「針と共に運動するように固定された室」
を意味することは明らかである。
イ訂正の請求
本件訂正請求のうち,「請求項1の安全装置」から「請求項7の安全装
置」への訂正は,請求項7が請求項1の従属項であるから,特許請求の範
囲の減縮を目的とする。また,「前記針と共に運動するように固定された
室を備え,」の付加も,「前記収容/保持手段」を限定するから,特許請
求の範囲の減縮を目的とする。さらに,本件訂正請求は,明りょうでなか
った「前記収容/保持手段」や「前記室」の内容を明りょうにするから,
明りょうでない記載の釈明も目的とする。そして,本件訂正請求は,前記
アのとおり,本件明細書2に記載した事項の範囲内においてするものであ
り,実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更するものでもない。このた
め,本件訂正請求は,適法な訂正の請求である。
仮に本件特許2の請求項8が特許請求の範囲の記載要件違反により特許
無効審判で無効とされるべきものであっても,本件訂正請求により,当該
無効理由が解消する。
そして,被告製品は,本件訂正発明2-8の各構成要件も充足し,本件
訂正発明2-8の技術的範囲に属する。
ウ進歩性の欠如について
本件訂正発明2-8は,後記(7)(原告の主張)エ(ウ)のとおり,本件発
明2-8と同様,進歩性を有する。
エ小括
以上のとおり,本件特許2の請求項8は,特許請求の範囲の記載要件(平
成6年法律第116号による改正前の特許法36条5項2号)違反により
特許無効審判で無効とされるべきものではない。
(7)争点⑦(本件特許1の請求項1及び本件特許2の請求項1・3・5・7・
8は進歩性の欠如により特許無効審判で無効とされるべきものか)について
(被告らの主張)
ア乙9-1・2両公報記載の発明と周知技術に基づく本件訂正発明1の想
到容易性
(ア)本件訂正発明1と乙9-1公報記載の発明との対比
a乙9-1公報記載の発明
乙9-1公報の記載(特許請求の範囲(1),(3),(5),(6),2頁右
上欄3行~15行,2頁左下欄7行~15行,3頁左上欄1行~7行,
同頁右上欄13行~19行,同頁左下欄2行~13行)によれば,乙
9-1公報記載の発明は,本件訂正発明1と同じく医療器具における
安全装置に関するものであること,乙9-1公報に記載された「さや」
は,本件訂正発明1の「中空のハンドル」に相当すること(本件訂正
発明1の「中空のハンドル」とは,安全装置の1要素として,ニード
ルハブを安全な位置に移動させる操作のために手で握られる部分を意
味するところ,乙9-1公報記載の発明は,注射器胴部がある皮下注
射針だけでなく,注射器胴部がない静脈カニューレや連結器にも適用
することができ(2頁左下欄7行~15行,3頁左上欄1行~4行),
その場合は「さや」が手で握られる部分となり,「さや」は,ハウジン
グに接着したりクリップで止めたりして固着すれば,安定するし,親
指と人差し指で挟むように握るのが通常であり,少しの長さがあれば
足りるから,握ることもできる。),乙9-1公報に記載された針を支
持する「ハウジング」,「針」は,本件訂正発明1の「ニードルハブ」,
「ニードル」にそれぞれ相当することが認められる。
したがって,乙9-1公報には,次の発明が記載されている。
(a)近い端及び遠い端を有する中空のハンドルと,
(b)該ハンドル内に配置されたニードルハブと,
(c)鋭い自由端と,前記ニードルハブに連結された固着端とを有す
るニードルと,
(d)前記ニードルハブのニードル連結部が前記中空なハンドルの近
い端に接近するように中空なハンドルを手動で移動させるための親
指ガードと,
(e)前記ニードルハブのニードル連結部を一時的に前記中空のハン
ドルの遠い端に保持する固着手段と,
(f)から成る,カニューレ挿入のための安全装置。
b本件訂正発明1と乙9-1公報記載の発明との相違点
本件訂正発明1と乙9-1公報記載の発明とを対比すると,両者は,
構成要件1-A・B・Fにおいて一致し,次の3点で相違する。
(a)本件訂正発明1では,カニューレを患者の定位置に案内し運ぶ
ためのニードルがあるのに対し(構成要件1-C),乙9-1公報記
載の発明では,これがない点
(b)本件訂正発明1では,ニードルハブを中空なハンドルの近い端
に向かって付勢する付勢手段があるのに対し(構成要件1-D),乙
9-1公報記載の発明では,ニードルハブのニードル連結部が中空
なハンドルの近い端に向かって接近するように中空なハンドルを手
動で移動させる親指ガードしかない点
(c)本件訂正発明1では,ニードルハブから独立して移動可能であ
り,ニードルハブを付勢手段の力に抗して一時的に中空のハンドル
の遠い端に隣接して保持するラッチであって,ニードルの長さより
も短い振幅で手動により駆動され,ニードルの移動距離よりも短い
距離のみ移動するラッチがあるのに対し(構成要件1-E),乙9-
1公報記載の発明では,ニードルハブのニードル連結部を一時的に
中空のハンドルの遠い端に保持する固着手段しかない点
(イ)相違点に係る構成の想到容易性
a乙9-2公報記載の発明
乙9-2公報の記載(2頁左上欄9行~12行,同頁右上欄19行
~左下欄4行,同頁左下欄17行~右下欄5行,同頁右下欄8行~1
6行,3頁左上欄1行~5行,同頁右上欄1行・2行,同頁右上欄9
行・10行,同頁左下欄1行~13行)によれば,乙9-2公報記載
の発明は,自動プランジャ復帰式の皮下バイオプシー用注射器に関し,
針の挿入時とサンプルの吸引時のいずれにおいても一方の手のみで安
全に操作することができるようにしたものであるから,医療器具の安
全装置に関するものといえること,乙9-2公報に記載された針状で
注射針の構成要素でもある「可動コア」,「プランジャ」,「外方の円筒
素子」,「圧縮空気」又は「圧縮されていたスプリング」,「突起」及び
「戻り止め」は,本件訂正発明1の「ニードル」,「ニードルハブ」,「中
空なハンドル」,「付勢手段」,「ラッチ」にそれぞれ相当すること,突
起及び戻り止めは,技術常識上,せいぜい数㎜程度移動するだけであ
るのに対し,可動コアは,針より長い上,臓器等から組織や体液を抽
出するため,針より長く移動する必要があるところ,針はこれを臓器
等に到達させるために2㎝以上の長さがあるから,可動コアの長さや
移動距離も,2㎝以上に及ぶことが認められる。
したがって,乙9-2公報には,次の発明が記載されている。
(a)ニードルハブを中空なハンドルの近い端に向かって付勢する付
勢手段と,
(b)前記ニードルハブから独立して移動可能であり,前記ニードル
ハブを前記付勢手段の力に抗して一時的に前記中空のハンドルの遠
い端に隣接して保持するラッチであって,ニードルの長さよりも短
い振幅で手動により駆動され,前記ニードルの移動距離よりも短い
距離のみ移動するラッチと,
(c)から成る安全装置。
b乙9-3・4・13~18・20~25・29~40・43~49
公報・明細書・文献記載の技術・課題
乙9-43~48文献によれば,本件訂正発明1の特許出願当時,
医療従事者の注射器使用業務における針刺し事故が大きな社会問題と
なっており,医療従事者がAIDSを含む様々な病気に感染すること
を防ぐための対策をとることは,周知の課題であった。
そして,乙9-3・4・16~18明細書によれば,カニューレ又
はカテーテルの分野において,カニューレ又はカテーテルを挿入する
ための針を使用した後は,安全のため,針を中空なハンドルの近い端
に向かって引っ込めて収納するという技術は,周知であった。また,
乙9-13~15公報・明細書によれば,注射器の分野において,注
射針を使用した後は,注射針を覆うため,注射針を付勢手段により中
空なハンドルの近い端に向かって引っ込めて収納するという技術も,
周知であった。また,乙9-20・22公報・明細書によれば,注射
器の分野において,付勢手段及びラッチを備え,注射針を付勢手段の
力に抗して突出させた状態に保持しているラッチを手動で操作するこ
とにより,注射針を付勢手段の力により安全位置又は不使用位置に収
納するという技術も,周知であった。また,乙9-21・23~25・
29明細書・文献によれば,先端部を筒や管から突出させ,ラッチを
用いて付勢手段の力に抗して一時的に止めているものを,手動でボタ
ン等をごく短い距離だけ押し込んでラッチを外すことにより,先端部
を付勢手段の力により筒や管に収納するという技術も,周知であった。
さらに,前記(4)(被告らの主張)アのとおり,乙9-30~40・4
9公報・明細書・文献によれば,針を患者の定位置にカニューレを案
内し運ぶためのものとする技術も,周知慣用であった。
c想到容易性
(a)相違点(a)について
前記(ア)b(a)のとおり,乙9-1公報記載の発明には,カニュ
ーレを患者の定位置に案内し運ぶためのニードルがない。しかし,
前記bのとおり,針を患者の定位置にカニューレを案内し運ぶため
のものとすることは,周知慣用技術であった。このため,乙9-1
公報記載の発明に周知慣用技術に係る上記ニードルを有する構成を
組み合わせることは,当業者が容易に想到し得た。
(b)相違点(b)について
前記(ア)b(b)のとおり,乙9-1公報記載の発明には,ニード
ルハブを中空なハンドルの近い端に向かって付勢する付勢手段がな
く,中空なハンドルをニードルハブのニードル連結部が中空なハン
ドルの近い端に向かって接近するように手動で移動させる親指ガー
ドしかない。しかし,前記bのとおり,カニューレ又はカテーテル
の分野において,カニューレ又はカテーテルを挿入するための針を
使用した後は,安全のため,針を中空なハンドルの近い端に向かっ
て引っ込めて収納することは,周知の技術であったから,中空なハ
ンドルに替えてニードルハブを移動させるのは,設計事項にすぎな
い。本件訂正発明1の出願当時,医療従事者の注射器使用業務にお
ける針刺し事故が大きな社会問題となっており,医療従事者がAI
DSを含む様々な病気に感染することを防ぐための対策をとること
は,周知の課題であった。その状況下で,前記a(a)のとおり,乙
9-2公報記載の発明には,上記付勢手段が開示されており,上記
両発明は,同一の技術分野に属する。また,乙9-1公報に記載さ
れた発明に乙9-2公報記載の発明の構成を組み合わせることは,
実現可能であるから,組合せの阻害要因もない。このため,乙9-
1公報記載の発明に乙9-2公報記載の発明の上記付勢手段を有す
る構成を組み合わせることは,前記bの各周知技術も併せれば,当
業者が容易に想到し得た。
(c)相違点(c)について
前記(ア)b(c)のとおり,乙9-1公報記載の発明には,ニード
ルハブから独立して移動可能であり,ニードルハブを付勢手段の力
に抗して一時的に中空のハンドルの遠い端に隣接して保持するラッ
チであって,ニードルの長さよりも短い振幅で手動により駆動され,
ニードルの移動距離よりも短い距離のみ移動するラッチがない。し
かし,前記a(b)のとおり,乙9-2公報記載の発明には,上記ラ
ッチが開示されており,両発明は,同一の技術分野に属する。また,
前記(b)のとおり,乙9-1公報記載の発明と乙9-2公報記載の
発明の構成の組合せには,阻害要因もない。このため,乙9-1公
報記載の発明に乙9-2公報記載の発明の上記ラッチを有する構成
を組み合わせることは,前記bの各周知技術も併せれば,当業者が
容易に想到し得た。
(d)さらに,本件訂正発明1は,乙9-1・2両公報記載の発明や
前記bの周知慣用技術から予測困難で顕著な効果を有しない。
(ウ)小括
以上によれば,本件訂正発明1は,乙9-1公報記載の発明に乙9-
2公報記載の発明で開示された構成や周知技術を組み合わせることによ
り,当業者が容易に想到し得たものである。したがって,本件訂正発明
1は,進歩性の欠如により特許を受けることができないものであるから
(特許法29条2項),本件特許1の請求項1は特許無効審判で無効とさ
れるべきものである。
イ乙9-1公報記載の発明と周知技術に基づく本件訂正発明1の想到容易

(ア)本件訂正発明1と乙9-1公報記載の発明との対比
乙9-1公報記載の発明と本件訂正発明1との相違点は,前記ア(ア)
bのとおりである。
(イ)相違点に係る構成の想到容易性
a乙9-3・4・13~18・20~25・29~40・43~49
公報・明細書・文献記載の技術・課題
乙9-3・4・13~18・20~25・29~40・43~49
公報・明細書・文献記載の技術・課題は,前記ア(イ)bのとおりであ
る。
b乙9-5・6・10公報・明細書・文献記載の技術
乙9-5・6・10公報・明細書・文献によれば,ナイフの分野に
おいて,安全のために,刃元を中空なハンドルの近い端に向かって付
勢する付勢手段と,刃元から独立して移動可能であり,刃を付勢手段
の力に抗して一時的に中空のハンドルの遠い端に隣接して保持するラ
ッチであって,刃の長さよりも短い振幅で手動により駆動され,刃の
移動距離よりも短い距離のみ移動するラッチに関する技術は,周知で
あった。
c想到容易性
(a)相違点(a)について
前記ア(ア)b(a)のとおり,乙9-1公報記載の発明には,カニ
ューレを患者の定位置に案内し運ぶためのニードルがない。しかし,
前記ア(イ)c(a)のとおり,乙9-1公報記載の発明に周知慣用技
術に係る上記ニードルを有する構成を組み合わせることは,当業者
が容易に想到し得た。
(b)相違点(b)・(c)について
前記ア(ア)b(b)のとおり,乙9-1公報記載の発明には,ニー
ドルハブを中空なハンドルの近い端に向かって付勢する付勢手段が
なく,中空なハンドルをニードルハブのニードル連結部が中空なハ
ンドルの近い端に向かって接近するように手動で移動させる親指ガ
ードしかない(相違点(b))。また,前記ア(ア)b(c)のとおり,乙
9-1公報記載の発明には,ニードルハブから独立して移動可能で
あり,ニードルハブを付勢手段の力に抗して一時的に中空のハンド
ルの遠い端に隣接して保持するラッチであって,ニードルの長さよ
りも短い振幅で手動により駆動され,ニードルの移動距離よりも短
い距離のみ移動するラッチがない(相違点(c))。しかし,前記ア(イ)
c(b)のとおり,中空なハンドルに替えてニードルハブを移動させ
るのは,周知技術に基づき当業者が適宜行い得る設計事項にすぎな
い。本件訂正発明1の出願当時,医療従事者の注射器使用業務にお
ける針刺し事故が大きな社会問題となっており,医療従事者がAI
DSを含む様々な病気に感染することを防ぐための対策をとること
は,周知の課題であった。また,前記bのとおり,ナイフの分野に
おいて,安全のために,刃元を中空なハンドル近い端に向かって付
勢する付勢手段と,刃元から独立して移動可能であり,刃を付勢手
段の力に抗して一時的に中空のハンドルの遠い端に隣接して保持す
るラッチであって,刃の長さよりも短い振幅で手動により駆動され,
刃の移動距離よりも短い距離のみ移動するラッチに関する技術は,
周知であった。ニードルも刃も,ハンドルから突出した状態では危
険であり,安全のため,使用後はハンドル内に収納するという技術
的課題においては共通する。また,乙9-1公報記載の発明にナイ
フに関する上記周知技術を組み合わせることは,実現可能であるか
ら,組合せの阻害要因もない。このため,乙9-1公報記載の発明
に上記周知技術である付勢手段を有する構成や上記ラッチを有する
構成を組み合わせることは,当業者が容易に想到し得た。
(c)さらに,本件訂正発明1は,乙9-1公報記載の発明や前記a・
bの周知技術から予測困難で顕著な効果を有しない。
(ウ)小括
以上によれば,本件訂正発明1は,乙9-1公報記載の発明に周知技
術を組み合わせることにより,当業者が容易に想到し得たものである。
したがって,本件訂正発明1は,進歩性の欠如により特許を受けること
ができないものであるから(特許法29条2項),本件特許1の請求項1
は特許無効審判で無効とされるべきものである。
ウ乙11-1公報記載の発明と周知技術に基づく本件発明2-1・3・5
の想到容易性
(ア)本件発明2-1について
a本件発明2-1と乙11-1公報記載の発明との対比
乙11-1公報記載の発明の構成は,前記(5)(被告らの主張)アの
とおりである。本件発明2-1と乙11-1公報記載の発明とを対比
すると,本件発明2-1の構成要件2-1-A~E・Gは,乙11-
1公報記載の発明の構成a~e・gに相当することは明らかであり,
次の点で相違する。
本件発明2-1では,中空針が後退するエネルギの一部を吸収する
ためのエネルギ吸収手段があるのに対し(構成要件2-1-F),乙1
1-1公報記載の発明では,後退の際のエネルギ吸収手段を有してい
るとは明記されていない点
b相違点に係る構成の想到容易性
本件発明2-1の特許出願当時,乙11-2・3公報によれば,注
射後に注射針を付勢手段により急速に後退させると,患者の組織が傷
ついたり,注射針に付着していた物質が使用者の手や目にかかったり,
衝撃により注射器を取り落としたりするなど,様々な危険な状況が生
じ,これを防ぐための対策をとることは,周知の課題であった。そし
て,乙11-2公報には,注射後に針ホルダに連結したプランジャを
自動的に後退させると,患者の組織が傷ついたり,患者の血液が吸引
されたりするため,注射器本体とプランジャとの一方に弾性制動手段
を配置し,プランジャと針の後退速度を遅らせる技術が開示されてい
る。乙11-2公報の弾性制動手段が針の後退のエネルギーの一部を
吸収するためのエネルギ吸収手段に相当することは明らかである。そ
うすると,乙11-1公報記載の発明において,上記周知の課題を解
決するために,乙11-2公報記載の技術を適用して相違点に係る構
成とすることは,当業者が容易に想到し得ることである。したがって,
本件発明2-1は,乙11-1公報記載の発明と乙11-2公報記載
の技術及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明することができた
ものである。
また,乙11-4~11公報によれば,エネルギ吸収手段として,
柔軟性や弾性,粘性を有する部材を用いて衝撃を吸収するという技術
は,周知であった。また,乙11-12~14公報・明細書によれば,
注射器の分野において,ばねとラッチを備え,使用後にはばねにより
針と針ホルダーを注射器本体内に後退させるという技術は,周知であ
った。また,乙11-15~18公報・明細書によれば,注射器の分
野において,ばねとラッチを備え,ばねにより針と針ホルダーを移動
させるという技術も,周知であった。さらに,乙11-19~25公
報・文献によれば,急速な移動による危険を防止するために緩衝器等
のエネルギ吸収手段を用いるという技術は,周知であった。
そうすると,本件発明2-1は,乙11-1公報記載の発明に前記
周知のエネルギ吸収手段を適用して当業者が容易に想到し得たもので
ある。
(イ)本件発明2-3について
本件発明2-3は,本件発明2-1に対して「前記エネルギ吸収手段
が,前記針と前記ハンドルの内部孔とのうちの一方に固定された表面
と,前記針と前記内部孔とのうちの他方に担持されて前記表面に圧接
し,前記後退の間に摩擦を生ずる要素とを備える」と限定したものであ
り,乙11-1公報記載の発明では,それがない点が相違点となる。
そして,本件発明2-3は,本件発明2-1と同様に,乙11-1公
報記載の発明に乙11-2公報記載の技術及び周知技術を組み合わせ
ることにより当業者が容易に想到し得たものである。
(ウ)本件発明2-5について
本件発明2-5は,本件発明2-1に対して「前記中空のハンドルは,
前記針がそれに向かって後退する端部構造を有し,前記エネルギ吸収手
段は,前記針と前記端部構造とうちの一方に固定されて前記端部構造に
対する前記針の衝撃の一部を吸収する押し潰し可能な要素を有する」と
限定したものであり,乙11-1公報記載の発明では,それがない点が
相違点となる。
そして,本件発明2-5は,本件発明2-1と同様に,乙11-1公
報記載の発明に乙11-2公報記載の技術及び周知技術を組み合わせ
ることにより当業者が容易に想到し得たものである。
(エ)小括
以上によれば,本件発明2-1・3・5は,乙11-1公報記載の発
明に乙11-2公報記載の技術及び周知技術を組み合わせることによ
り,当業者が容易に想到し得たものであり,進歩性の欠如により特許を
受けることができないものである。したがって,本件特許2の請求項1・
3・5は,特許無効審判で無効とされるべきものである。
エ乙11-1公報記載の発明と周知技術に基づく本件発明2-7・8の想
到容易性
(ア)本件発明2-7について
a本件発明2-7と乙11-1公報記載の発明との対比
乙11-1公報記載の発明は,前記(5)(被告らの主張)アのとおり
である。本件発明2-7と乙11-1公報記載の発明とを対比すると,
本件発明2-7では,中空針の中からの血液を収容するとともに,中
空針の後退によって生じる力に抗して,中空針が後退する間と中空針
の後退の後に,血液を確実に保持するための収容/保持手段があるの
に対し(構成要件2-7-B),乙11-1公報記載の発明では,それ
がない点で相違する。仮にキャリヤブロックの外面や後面が構成要件
2-7-Aの引用する本件発明2-1の構成要件2-1-Fに相当し
なければ,乙11-1公報記載の発明と本件発明2-7とは,上記相
違点に加え,本件発明2-7では,中空針が後退するエネルギの一部
を吸収するためのエネルギ吸収手段があるのに対し(構成要件2-7
-A),乙11-1公報記載の発明では,それがない点においても相違
する。
b相違点に係る構成の想到容易性
乙16-6~9公報・明細書によれば,カテーテルを体内に挿入す
るための針を使用した後に後退させる方式のカテーテルの分野におい
て,挿入針の中からの血液を収容保持するフラッシュバック室を針の
ハブ内に設けることは周知の技術であり,この周知の技術を構成する
フラッシュバック室が構成要件2-7-Bの「前記中空針の中からの
血液を収容する共に,前記後退によって生ずる力に抗して,前記針が
後退する間に及び該後退の後に,前記血液を確実に保持するための収
容/保持手段」に相当することは明らかである。乙11-1公報記載
の発明においても,針が血管内に適正に穿刺されたことを確認するた
めにフラッシュバック室を設けることは,当然の課題であったから,
乙11-1発明に乙16-6~9公報・明細書に記載された周知技術
を組み合わせることは,当業者が容易に想到し得た。
仮に本件発明2-7が中空針の後退するエネルギの一部を吸収する
ためのエネルギ吸収手段を有する点も乙11-1公報記載の発明との
相違点であるとしても,前記ウ(ア)bのとおり,周知のエネルギ吸収
手段を適用して当業者が容易に想到し得たものである。
(イ)本件発明2-8について
a本件発明2-8と乙11-1公報記載の発明との対比
構成要件2-8-Bの「前記収容/保持手段」の意味が不明である
が,ここでは構成要件2-7-Bの「収容/保持手段」を指すものと
して対比することとする。そうすると,本件発明2-8では,収容/
保持手段が中空針の後退によって生じる力から室の内部を隔離するた
めの隔離手段を備えるのに対し(構成要件2-8-B),乙11-1公
報記載の発明では,それがない点で相違する。仮にキャリヤブロック
の外面や後面が構成要件2-8-Aの引用する本件発明2-1の構成
要件2-1-Fに相当しなければ,乙11-1公報記載の発明と本件
発明2-8とは,上記相違点に加え,本件発明2-8では,中空針が
後退するエネルギの一部を吸収するためのエネルギ吸収手段があるの
に対し(構成要件2-8-A),乙11-1公報記載の発明では,それ
がない点においても相違する。
b相違点に係る構成の想到容易性
本件明細書2の記載によれば,構成要件2-8-Bの「収容/保持
手段」とは,少なくとも針と共に運動するように固定することにより
血液と針との間に相対的な運動を生じさせないようにして血液を保持
するものであり,同構成要件の「隔離手段」は,空気を比較的ゆっく
りと透過させるフィルタの形質,空気を通気するための細かい通路の
形態を含むものと解される。乙11-6~9公報・明細書によれば,
カテーテルを体内に挿入するための挿入針を使用後に後退させる方式
のカテーテルにおいて,フラッシュバック室を針のハブ内部に設け,
フラッシュバック室のプラグとして,空気は透過するが,血液は透過
しない多孔質の材料とすることは周知の技術である。そして,多孔質
のプラグは,空気を通気するための細かい通路の形態であり,空気を
比較的ゆっくりと透過させるフィルタといえることは明らかである。
さらに,乙11-7~9公報によれば,これらの技術は,カテーテル
からの血液の漏洩のために,医療従事者が患者の血液と接触すること
を防止するための技術であることは自明である。
そうすると,乙11-1公報記載の発明において,針が血管内に適
正に穿刺されたことを確認するためのフラッシュバック室を設けよう
とする当然の課題を解決し,また,医療従事者が患者の血液と接触す
ることを防止するために,乙11-6~9公報・明細書に記載された
周知のフラッシュバック室を採用することは当業者が容易に想到し得
るものである。そして,当該フラッシュバック室は,空気は透過する
が,血液は透過しない多孔型のプラグを有するものであるから,隔離
手段を有するものである。
仮に本件発明2-8が中空針の後退するエネルギの一部を吸収する
ためのエネルギ吸収手段を有する点も乙11-1公報記載の発明との
相違点であるとしても,前記ウ(ア)bのとおり,周知のエネルギ吸収
手段を適用して当業者が容易に想到し得たものである。
cなお,本件訂正発明2-8についても,当業者が容易に想到し得た
ものであることは,上に述べたところと同じである。
(ウ)小括
以上によれば,本件発明2-7・8は,乙11-1公報記載の発明に
周知技術を組み合わせることにより,当業者が容易に想到し得たもので
あり,進歩性の欠如により特許を受けることができないものである。し
たがって,本件特許2の請求項7・8は,特許無効審判で無効とされる
べきものである。
(原告の主張)
ア乙9-1・2両公報記載の発明と周知技術に基づく本件訂正発明1の想
到容易性について
(ア)本件訂正発明1と乙9-1公報記載の発明との対比について
a乙9-1公報記載の発明について
本件訂正発明1の「中空のハンドル」とは,カニューレ挿入や皮下
注射等における一連の操作を行う際に手で握られる部分を意味し,移
動しない。これに対し,乙9-1公報記載の発明は,これに対応する
米国出願の継続出願に基づく米国再発行特許第36398号明細書の
とおり,注射器胴部がある皮下注射針に適用され,注射器胴部又はこ
れに取り付けられたハウジングが手で握られる部分となり,「さや」は
指で滑動させられる部分となる。「さや」は,これと合体した自動ばね
栓がハウジングに当接して止まっているだけで,安定しないし,手で
握られるほどの長さもないから,握ることもできない。このため,乙
9-1公報に記載された「さや」は,本件訂正発明1の「中空のハン
ドル」に相当しない。注射器胴部又は「ハウジング」が「中空のハン
ドル」及び「ニードルハブ」に相当する。
また,親指ガードや自動ばね栓も,「付勢手段」や「ラッチ」に相当
しない。
したがって,乙9-1公報記載の発明は,次のとおりとなる。
(a)近い端及び遠い端を有するさやと,
(b)該さやが外側に取り付けられたハウジングと,
(c)鋭い自由端と,前記ハウジングに連結された固着端とを有する
針と,
(d)から成る,カニューレ挿入のための安全装置。
b本件訂正発明1と乙9-1公報記載の発明との相違点について
本件訂正発明1と乙9-1公報記載の発明とは,次の5点で相違す
る。なお,(e)につき,乙9-1公報記載の発明に,ハウジングの針
連結部を一時的にさやの遠い端に保持する固着手段はない。
(a)本件訂正発明1では,中空のハンドルがあるのに対し(構成要
件1-A),乙9-1公報記載の発明では,さやである点
(b)本件訂正発明1では,中空のハンドル内に配置されたニードル
ハブがあるのに対し(構成要件1-B),乙9-1公報記載の発明で
は,中空のハンドルを兼ねたハウジングがあるだけで,中空のハン
ドル内に配置されたハウジングがない点
(c)本件訂正発明1では,鋭い自由端と,ニードルハブに連結され
た固着端とを有し,カニューレを患者の定位置に案内し運ぶための
ニードルがあるのに対し(構成要件1-C),乙9-1公報記載の発
明では,鋭い自由端と,前記ハウジングに連結された固着端とを有
する針しかない点
(d)本件訂正発明1では,ニードルハブを中空なハンドルの近い端
に向かって付勢する付勢手段があるのに対し(構成要件1-D),乙
9-1公報記載の発明では,それがない点
(e)本件訂正発明1では,ニードルハブから独立して移動可能であ
り,ニードルハブを付勢手段の力に抗して一時的に中空のハンドル
の遠い端に隣接して保持するラッチであって,ニードルの長さより
も短い振幅で手動により駆動され,ニードルの移動距離よりも短い
距離のみ移動するラッチがあるのに対し(構成要件1-E),乙9-
1公報記載の発明では,それがない点
(イ)相違点に係る構成の想到容易性について
a乙9-2公報記載の発明について
乙9-2公報記載の発明は,一方の手のみで患者の組織のサンプル
を吸引し得るよう,可動コアとプランジャが後退するだけであって,
皮下注射針は後退しないから,安全装置に関するものとはいえない。
乙9-2公報記載の発明は,患者内にあった針との接触を防ぐという
本件訂正発明1の課題を有しないから,乙9-2公報に記載された「可
動コア」,「プランジャ」,「圧縮空気」又は「圧縮されていたスプリン
グ」,「突起」及び「戻り止め」は,本件訂正発明1の「ニードル」,「ニ
ードルハブ」,「付勢手段」,「ラッチ」にいずれも相当しない。仮に「可
動コア」,「突起」及び「戻り止め」が「ニードル」,「ラッチ」にそれ
ぞれ相当するとしても,可動コアは,組織のサンプルを抽出するのに
必要な程度移動するだけであって,具体的な記載もないから,突起及
び戻り止めが可動コアの移動距離よりも短い距離のみ移動するとはい
えない。
b乙9-3・4・13~18・20~25・29~40・43~49
公報・明細書・文献記載の技術・課題について
乙9-3明細書は,カテーテルを傷つけないよう,後退させた針先
を固定する技術を開示しているにすぎない。乙9-4明細書は,カテ
ーテルに静脈注入セットを接続する際に血液が漏れないよう,カテー
テルと静脈注入セットをあらかじめ接続し,静脈穿刺針はハウジング
内に後退させる技術を開示しているにすぎない。乙9-13明細書は,
針を損傷や汚染から保護するとともに,患者が針を見ることによる不
安等を取り除くことを,乙9-14明細書と乙9-15公報は,糖尿
病等の患者が自分で注射や採血を行えるようにすることを,それぞれ
課題とした技術を開示しているにすぎない。いずれも本件訂正発明1
や乙9-1公報記載の発明のような医療関係者による注射針への誤接
触による感染からの保護を課題とした技術を開示するものではない。
特に,乙9-14明細書や乙9-15公報は,レバーを倒したり制御
ラッチを動かしたりすると,一連の動作として,針が出て穿刺した後
に針が戻る技術を開示するものであるから,独立した動作によって針
を後退させるという本件訂正発明1に対応した構成を有するものでも
ない。
乙9-16~18明細書は,カニューレや針を後退させる技術を開
示しているにすぎず,カニューレ又はカテーテルを挿入するための針
を後退させる技術を開示するものではない。乙9-20公報は,針の
移動距離よりも針を後退させる翼の移動距離の方が長いから,翼が針
の移動距離よりも短い距離のみ移動するという本件訂正発明1に対応
した構成を有するものではない。乙9-21明細書も,スライド部材
を移動させるものであって,固定部材を移動させるという本件訂正発
明1に対応した構成を有するものではない。
乙9-22~25・29明細書・文献は,ペレットを動物の皮下に
埋め込む装置や筆記具に関するものであって,技術分野が異なる。
c想到容易性について
(a)相違点(a)について
前記(ア)b(a)のとおり,本件訂正発明1では中空のハンドルが
あるのに対し,乙9-1公報記載の発明ではさやである。乙9-1
公報記載の発明の「さや」は,針にかぶせるキャップの代わりにあ
らかじめ備え付けられたものであり,これを「①取っ手。把手。②
手で機械を操作するための握り。特に,自動車・自転車等の方向操
縦用のもの。」を意味する「ハンドル」に変更する動機付けとなり得
るものはなかった。このため,乙9-1公報記載の発明のさやの構
成を中空のハンドルの構成(構成要件1-A)に変更することは,
当業者が容易に想到し得なかった。
(b)相違点(b)について
前記(ア)b(b)のとおり,乙9-1公報記載の発明には,中空の
ハンドル内に配置されたハウジングがない。乙9-1公報記載の発
明の「ハウジング」は,針基の機能を有するとともに,握りという
ハンドルの機能も有しているため,これをさや内に配置する動機付
けとなり得るものはなかった。このため,乙9-1公報記載の発明
に中空のハンドル内に配置されたハウジングを有する構成(構成要
件1-B)を組み合わせることは,当業者が容易に想到し得なかっ
た。
(c)相違点(c)について
前記(ア)b(c)のとおり,乙9-1公報記載の発明には,カニュ
ーレを患者の定位置に案内し運ぶためのニードルがない。このため,
乙9-1公報記載の発明に上記ニードルを有する構成(構成要件1
-C)を組み合わせることは,当業者が容易に想到し得なかった。
(d)相違点(d)について
前記(ア)b(d)のとおり,乙9-1公報記載の発明には,ニード
ルハブを中空なハンドルの近い端に向かって付勢する付勢手段がな
い。そもそも乙9-1公報記載の発明は,さやを移動させるもので
あって,ハウジングを移動させるものでなく,移動対象の選択が設
計事項とはいえない。前記aのとおり,乙9-2公報記載の発明は,
安全装置に関するものとはいえず,技術分野が異なるから,「圧縮空
気」又は「圧縮されていたスプリング」も本件訂正発明1の「付勢
手段」に相当しない。また,注射器等に取り付けられる乙9-1公
報記載の発明に注射器である乙9-2公報記載の発明の構成を組み
合わせると,さやが注射器等に対して大きくなりすぎてしまう上,
圧縮空気又は圧縮されていたスプリングがハウジングとこれに取り
付けられた注射器胴部を付勢することになって,非現実的かつ危険
であり,組合せの阻害要因がある。乙9-13~15・20~25・
29公報・明細書・文献記載の技術も,技術分野・課題・構成が異
なる。このため,乙9-1公報記載の発明に上記付勢手段を有する
構成(構成要件1-D)を組み合わせることは,当業者が容易に想
到し得なかった。
(e)相違点(e)について
前記(ア)b(e)のとおり,乙9-1公報記載の発明には,ニード
ルハブから独立して移動可能であり,ニードルハブを付勢手段の力
に抗して一時的に中空のハンドルの遠い端に隣接して保持するラッ
チであって,ニードルの長さよりも短い振幅で手動により駆動され,
ニードルの移動距離よりも短い距離のみ移動するラッチがない。前
記aのとおり,乙9-2公報記載の発明は,安全装置に関するもの
とはいえず,技術分野が異なる上,「突起」及び「戻り止め」も本件
訂正発明1の「ラッチ」に相当しない。また,前記(d)のとおり,
乙9-1公報記載の発明と乙9-2公報記載の発明の構成の組合せ
には,阻害要因がある。乙9-13~15・20~25・29公報・
明細書・文献記載の技術も,技術分野・課題・構成が異なる。この
ため,乙9-1公報記載の発明に上記ラッチを有する構成(構成要
件1-E)を組み合わせることは,当業者が容易に想到し得なかっ
た。
(ウ)小括
以上によれば,本件訂正発明1は,当業者が乙9-1公報記載の発明,
乙9-2公報記載の発明及び周知技術から容易に想到し得なかったもの
であり,進歩性を有する。したがって,本件特許1の請求項1は,特許
無効審判で無効とされるべきものではない。
イ乙9-1公報記載の発明と周知技術に基づく本件訂正発明1の想到容易
性について
(ア)本件訂正発明1と乙9-1公報記載の発明との対比について
乙9-1公報記載の発明と本件訂正発明1との相違点は,前記ア(ア)
bのとおりである。
(イ)相違点に係る構成の想到容易性について
a乙9-5・6・10公報・明細書・文献記載の技術について
乙9-5・6・10公報・明細書・文献は,いずれも操作部の操作
により刃等の出し入れを行う技術を開示するものであるから,技術分
野が異なる上,刃等をケース等に収納した後はこれを再度出すことは
せず,刃等との接触を防ぐという本件訂正発明1に対応した課題や構
成を有するものではない。
b想到容易性について
前記ア(イ)c(a)・(b)のとおり,乙9-1公報記載の発明のさや
の構成を中空のハンドルの構成(構成要件1-A)に,中空のハンド
ル内に配置されたハウジングがない構成をある構成(構成要件1-B)
に,それぞれ変更することは,いずれも当業者が容易に想到し得なか
った。
また,前記ア(ア)b(d)・(e)のとおり,乙9-1公報記載の発明
には,ニードルハブを中空なハンドルの近い端に向かって付勢する付
勢手段や,ニードルハブから独立して移動可能であり,ニードルハブ
を付勢手段の力に抗して一時的に中空のハンドルの遠い端に隣接して
保持するラッチであって,ニードルの長さよりも短い振幅で手動によ
り駆動され,ニードルの移動距離よりも短い距離のみ移動するラッチ
がない。前記ア(イ)b・前記aのとおり,乙9-5・6・10・13
~15・20~25・29公報・明細書・文献記載の技術は,技術分
野・課題・構成が異なる。このため,乙9-1公報記載の発明に上記
付勢手段を有する構成(構成要件1-D)や上記ラッチを有する構成
(構成要件1-E)を組み合わせることは,当業者が容易に想到し得
なかった。
(ウ)小括
以上によれば,本件訂正発明1は,当業者が乙9-1公報記載の発明
及び周知技術から容易に想到し得なかったものであり,進歩性を有する。
したがって,本件特許1の請求項1は,特許無効審判で無効とされるべ
きものでない。
ウ乙11-1公報記載の発明と周知技術に基づく本件発明2-1・3・5
の想到容易性について
(ア)本件発明2-1・3・5と乙11-1公報記載の発明との対比につ
いて
本件発明2-1では,中空針の軸よりも実質的に短い距離だけ簡単か
つ単一の動作による手操作で中空針の鋭利な端部を人の指が届かない
ように中空のハンドルの中へ実質的に永続的に後退させるエネルギの
一部を吸収するためのエネルギ吸収手段があるのに対し(構成要件2-
1-F),乙11-1公報記載の発明では,それがない点で相違する。
乙11-1公報記載の発明と本件発明2-3・5との相違点は,被告ら
が主張する前記(被告らの主張)ウ(イ)・(ウ)のとおりである。
(イ)相違点に係る構成の想到容易性について
a乙11-2~25公報・明細書・文献記載の技術・課題について
乙11-2公報は,初期状態から針が本体内に入るまでの間にプラ
ンジャを2往復させるという複雑な複数の動作を要する技術を開示し
たものであり,簡単な単一の動作で中空針の鋭利な端部を後退させる
本件発明2-1・3・5に対応した構成を有するものではない。
乙11-4~11公報は,技術分野が異なる。
乙11-12公報は,テーパー付き部材が中空針の後退するエネル
ギーの全部を吸収して停止させる技術を開示しているものであって,
中空針の後退するエネルギーの一部を吸収して遅らせる本件発明2-
1・3・5に対応した構成を有するものではない。
乙11-13明細書記載の技術では,保持フィンガーが搬送部の後
退するエネルギーをほとんど吸収せず,搬送部の引込みバレルへの衝
突によって望ましくない騒音が発生するから,中空針の後退するエネ
ルギーの一部を吸収して遅らせる本件発明2-1・3・5に対応した
構成を有するものではない。
乙11-15公報記載の技術は,針がない。
乙11-16・17公報・明細書は,針が伸張したりピストンが前
方に移動したりする際のエネルギーを吸収する技術を開示するもので
あって,針の後退するエネルギーを吸収する本件発明2-1・3・5
に対応した構成を有するものではない。
乙11-18明細書は,ピストン又はプランジャに形成された溝に
シリンダの内壁に圧接するリングを設ける技術を開示するものであっ
て,針に人が接触しないように保護するための安全装置に関するもの
ではない。
乙11-19~25公報・文献は,技術分野が異なる。
b想到容易性について
前記(ア)のとおり,乙11-1公報記載の発明には,中空針の軸よ
りも実質的に短い距離だけ簡単かつ単一の動作による手操作で中空針
の鋭利な端部を人の指が届かないように中空のハンドルの中へ実質的
に永続的に後退させるエネルギの一部を吸収するためのエネルギ吸収
手段がない。また,乙11-1公報記載の発明には,中空針と中空の
ハンドルの内部孔とのうちの一方に固定された表面と,中空針と上記
内部孔とのうちの他方に担持されて上記表面に圧接し,中空針が後退
する間に摩擦を生じる要素を有するエネルギ吸収手段がない。さらに,
乙11-1公報記載の発明には,中空針と端部構造とのうちの一方に
固定されて上記端部構造に対する中空針の衝撃の一部を吸収する押し
潰し可能な要素を有するエネルギ吸収手段もない。前記aのとおり,
乙11-2~25公報・明細書・文献記載の技術は,技術分野・課題・
構成が異なる。このため,乙11-1発明に,上記各エネルギ吸収手
段を有する構成(構成要件2-1-F,2-3-B・C,2-5-C)
を組み合わせることは,当業者が容易に想到し得なかった。
加えて,本件発明2-1の実施品としてエネルギ吸収手段に粘性物
質のジェルを用いた「オートガード」は,ジェルを用いない比較品に
比べて,針基の後退する速度や音,振動が著しく小さくなったところ,
これは,乙11-1~25公報・明細書・文献から予測困難で顕著な
効果である。
(ウ)小括
以上によれば,本件発明2-1・3・5は,当業者が乙11-1公報
記載の発明,乙11-2公報記載の発明及び周知技術から容易に想到し
得なかったものであり,進歩性を有する。したがって,本件特許2の請
求項1・3・5は,特許無効審判で無効とされるべきものではない。
エ乙11-1公報記載の発明と周知技術に基づく本件発明2-7・8の想
到容易性について
(ア)本件発明2-7・8と乙11-1公報記載の発明との対比について
本件発明2-7・8と乙11-1公報記載の発明との相違点は,被告
らが主張する前記(被告らの主張)エ(ア)a・(イ)aに加えて,前記ウ(ア)
のとおり,本件発明2-7・8では,中空針の軸よりも実質的に短い距
離だけ簡単かつ単一の動作による手操作で中空針の鋭利な端部を人の指
が届かないように中空のハンドルの中へ実質的に永続的に後退させるエ
ネルギの一部を吸収するためのエネルギ吸収手段があるのに対し(構成
要件2-7・8-各A),乙11-1公報記載の発明では,それがない
点である。
(イ)相違点に係る構成の想到容易性について
a乙16-6~9公報・明細書記載の技術について
乙16-6明細書は,血液がフラッシュ漏洩するという本件発明2
-7・8に対応した課題を有するものでなく,仮にフラッシュ漏洩す
るとしても,上記課題を解決する構成を開示していない。
乙16-7・8公報は,針をハンドルの中へ後退させる技術を開示
するものでない上,血液がフラッシュ漏洩するという本件発明2-
7・8に対応した課題やこれを解決する構成を有するものではない。
乙16-9公報は,針先を人の指が届かないようにハウジングの中
へ実質的に永続的に後退させるという本件発明2-7・8に対応した
構成を有するものではない。
b想到容易性について
前記(ア)のとおり,乙11-1公報記載の発明には,中空針の中か
らの血液を収容するとともに,中空針の後退によって生じる力に抗し
て,中空針が後退する間と中空針の後退の後に,血液を確実に保持す
るための収容/保持手段がない。また,乙11-1公報記載の発明に
は,仮に収容/保持手段があったとしても,これが中空針の後退によ
って生じる力から室の内部を隔離するための隔離手段がない。前記a
のとおり,乙16-6~9公報・明細書記載の技術は,課題・構成が
異なる。このため,乙11-1公報記載の発明に,上記収容/保持手
段や上記隔離手段を組み合わせることは,当業者が容易に想到し得な
かった。
また,乙11-1公報記載の発明には,中空針の軸よりも実質的に
短い距離だけ簡単かつ単一の動作による手操作で中空針の鋭利な端部
を人の指が届かないように中空のハンドルの中へ実質的に永続的に後
退させるエネルギの一部を吸収するためのエネルギ吸収手段がない。
しかし,前記ウ(イ)bのとおり,乙11-1公報記載の発明に,上記
エネルギ吸収手段を有する構成を組み合わせることも,当業者が容易
に想到し得なかった。
cなお,本件訂正発明2-8についても,当業者が容易に想到し得な
かったものであることは,上に述べたところと同じである。
(ウ)小括
以上によれば,本件発明2-7・8は,当業者が乙11-1公報記載
の発明及び周知技術から容易に想到し得なかったものであり,進歩性を
有する。したがって,本件特許2の請求項7・8は,特許無効審判で無
効とされるべきものではない。
(8)争点⑧(被告らの責任及び損害)
(原告の主張)
被告らは,前記第2の1(4)のとおり,平成19年5月以降,共同して本件
特許権1・2を侵害する被告製品を製造し,販売し,輸出してきたから,共
同不法行為により,次の損害につき,原告に対する損害賠償責任を負う。
ア特許法102条3項による損害額7億4280万円
被告製品の売上高は,少なくとも49億5200万円を下らない。
本件各発明の実施料率は,本件各発明がいずれも針刺し事故を防止する
安全装置の提供を目的とする発明群を構成しているため,一括して定めら
れるべきである。そして,医療器具に関する実施料率の相場は高いこと,
針刺し防止機構のある留置針の方が針刺し防止機構のない留置針よりも
需要が著しく伸びていること,被告製品の利益率は約51.7%もあると
推定されるところ,一般に実施料率は利益率の3分の1ないし4分の1を
参考値として定められること等から,15%を下らない。
なお,被告製品には,止血弁が付いているが,被告らの製造・販売して
いた留置針に元から付いていたものであり,被告らは,被告製品の販売開
始後,被告製品への切替えを急激に進めてきたことからすると,本件各発
明の寄与度は少なくない。
したがって,特許法102条3項による損害額は,49億5200万円
に0.15を乗じた7億4280万円を下らないというべきである。
イ弁護士費用7428万円
ウよって,原告は,被告らに対し,特許法100条1項に基づき,被告製
品の製造,譲渡,輸出及び譲渡申出の差止めを求めるとともに,連帯して
特許権侵害の共同不法行為に基づく損害賠償金として,上記ア・イの合計
8億1708万円及びこれに対する不法行為の後の日である平成20年
11月26日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害
金の支払を求める。
(被告らの主張)
争う。なお,被告製品の売上高は,本件特許権1が消滅した平成20年4
月28日までが「●(省略)●」,同月29日から平成22年7月29日まで
が「●(省略)●」の「●(省略)●」である。
本件各発明の実施料率は,発明ごとに定められるべきである。本件訂正発
明1は,従来の静脈留置針にボールペン等に用いられる安全装置を付けただ
けであるから,2%を超えることはない。本件発明2-1・3・5・7・8
も,本件発明1の改良発明にすぎず,仮に進歩性があっても著しく低いから,
0.5%を超えることはない。むしろ被告製品の売上げは,被告製品が手の
平に収まるちょうど良い大きさであることやカテーテルに逆流防止弁が付い
ていることによるものである。
第3当裁判所の判断
1争点①(被告製品の構成)について
(1)構成要件1-Eに対比した構成(1-e)について
別紙物件説明書記載2(2)エ・カ~クのとおり,被告製品は,針基の移動方
向と垂直方向に移動可能であり,針基をばねの力に抗して一時的に内管の先
端に隣接して保持する移動レバーであって,中空針の長さに比べて短い距離
のみ指で押し込まれると,内管の後端までの中空針の移動距離よりも短い距
離のみ移動する移動レバーを有する。
(2)構成要件2-1-Eに対比した構成(2-1-e)について
別紙物件説明書記載2(2)カ・キのとおり,被告製品は,指で移動レバーの
天井部にあるボタンを押し込むことによって中空針の固定手段が解除され,
ばねにより中空針の鋭利な端部に人の指が届かないように中空針を内管の中
へ実質的に永続的に後退させるという解除/後退手段であって,中空針の軸
の長さに比べて短い距離のみ指で押し込むことによって手操作で作動可能な
解除/後退手段を有する。
(3)構成要件2-1-Fに対比した構成(2-1-f)について
別紙物件説明書記載2(2)クのとおり,被告製品では,中空針に連結する針
基の後端に,内管の後端の栓に対する中空針の衝撃の一部を吸収する弾性部
品がはめ付けられるとともに,その弾性部品が内管の内部孔に固定された内
周面に圧接する弾性部品がはめ付けられている。また,証拠(甲7)によれ
ば,上記弾性部品は,押しつぶし可能なシリコンゴム製であるとともに,少
なくとも3㎝後退するまでは内管の内周面に圧接し,中空針の後退の間に摩
擦を生じることが認められる。
したがって,被告製品の内管の内周面及び弾性部品は,中空針が後退する
エネルギの一部を吸収するためのエネルギ吸収手段に当たるといえる。
(4)構成要件2-3-A~Cに対比した構成(2-3-a~c)について
被告製品は,前記第2の1(5)ウのとおり,2-1-a~d・gの構成を有
する安全装置であるとともに,前記(2)・(3)のとおり,2-1-e・fの構
成を有するから,2-1-a~gの構成を有する安全装置であり,2-3-
aの構成を有する。
また,前記(3)のとおり,被告製品は,エネルギ吸収手段として,内管の内
部孔に固定された内周面を有するから,2-3-bの構成を有するとともに,
中空針に連結する針基に担持されて上記内周面に圧接し,中空針の後退の間
に摩擦を生ずる弾性部品を有するから,2-3-cの構成も有する。
(5)構成要件2-5-A・Cに対比した構成(2-5-a・c)について
被告製品は,前記(4)のとおり,2-1-a~gの構成を有する安全装置で
あり,2-5-aの構成を有する。
また,前記(3)のとおり,被告製品は,エネルギ吸収手段として,中空針に
連結する針基に固定されて栓に対する中空針の衝撃の一部を吸収する押しつ
ぶし可能な弾性部品を有するから,2-5-cの構成を有する。
(6)構成要件2-7-A・Bに対比した構成(2-7-a・b)について
被告製品は,前記(4)のとおり,2-1-a~gの構成を有する安全装置で
あり,2-7-aの構成を有する。
また,別紙物件説明書記載2(2)ア・エのとおり,被告製品では,中空針の
中からの血液が,針基内に流入した後,針基にある穴とこれに向かい合って
密着した内管の穴を通って,内管と外管の間にあるフラッシュバック室に流
入する。そして,弁論の全趣旨によれば,針基は,相当の容積があり,フラ
ッシュバック室と共に,中空針の中からの血液を収容し得ること,針基から
フラッシュバック室に通じる穴が針基の後部上面の位置にあることが認めら
れる。そして,証拠(甲16・25の各1・2)によれば,針基とフラッシ
ュバック室は,中空針の後退の際に生じる血液と中空針との相対的な運動に
よる影響を受けることを阻止して,中空針が後退する間と中空針が後退した
後に,血液を外管から外へ漏出させないことが認められ,この認定を覆すに
足りる証拠はない。このため,被告製品は,2-7-bの構成を有する。
(7)構成要件2-8-A・Bに対比した構成(2-8-a・b)について
被告製品は,前記(4)のとおり,2-1-a~gの構成を有する安全装置で
あり,2-8-aの構成を有する。
また,被告製品の針基は,別紙物件説明書記載2(2)ウのとおり,内部が壁
で取り囲まれているものの,前記(6)のとおり,後部上面に穴があるところ,
同記載2(2)エ・カのとおり,内管が後端部に近づくほど内径が大きくなって
いるため,中空針と共に後退した後は内管に密着固定していない。また,同
記載2(2)のとおり,被告製品の針基が移動する外管と内管で構成された空間
は,針基が後退した後,先端が開放される。にもかかわらず,前記(6)のとお
り,被告製品は,中空針の後退後も,血液を外管から外へ漏出させない。こ
れらの事実を総合すれば,被告製品の針基は,中空針の後退の際に生じる力
による影響を受けても,空気が穴から針基の内部へ急速には入らず,血液が
針基の内部から排出されないことを推認することができる。このため,被告
製品は,針基が,中空針の後退の際に生じる力による影響を受けても,血液
を針基の内部から排出させない隔離手段を有するものといえるから,2-8
-bの構成も有する。
2争点②(被告製品は本件各発明の技術的範囲に属するか)について
(1)構成要件1-Bの充足性について
「ハブ」とは,①(活動等の)中心,中枢,②車輪等の中心部の軸とスポ
ークの間の部材を意味することは,当裁判所に顕著である。また,証拠(甲
8~10,38,乙9の9,13)によれば,「ニードル」とは,針又は針
状の部材を意味すること,複数の特許文献や穿刺針の添付文書において,「ニ
ードルハブ」が針の土台を指す部材として特段の解説もなく用いられている
ことが認められる。これらのことに,前記第2の1(3)アのとおり,構成要件
1-Cにおいても,ニードルハブがニードルを連結するものとされているこ
とを考慮すれば,構成要件1-Bの「ニードルハブ」は,針の土台部を意味
するものと解される。被告製品の針基は,別紙物件説明書記載2(2)イ・ウの
とおり,中空針の土台部に当たるから,構成要件1-Cの「ニードルハブ」
に当たるというべきである。
また,被告製品の内管内に配置された針基は(1-b),前記第2の1(6)
のとおり,被告製品の内管が構成要件1-Aの「中空のハンドル」に当たる
から,構成要件1-Bの「該ハンドル内に配置されたニードルハブ」に当た
るというべきである。
したがって,被告製品は,構成要件1-Bを充足する。
(2)構成要件1-Eの充足性について
ア「ラッチ」の充足性について
証拠(甲2)及び弁論の全趣旨によれば,「ラッチ」とは,一般的に,
ドア・門等の掛けがね,留めがねを意味すること,もっとも,本件明細書
1には,「ラッチ」に対応するものとして,「鋭い端がハンドルから突出
した状態で針の軸をハンドルに固着させるための幾つかの手段…(中略)
…「固着手段」と称することにする。」(11欄8行~11行)及び「固
着手段を解除し且つ針の鋭い端をハンドル内に後退させるための幾つか
の手段…(中略)…「解除および後退手段」と呼ぶことにする。」(同欄
12行~15行)と記載されていることが認められる。前者の事実に後者
の事実を併せて考慮すれば,構成要件1-Eの「ラッチ」は,ニードルを
中空のハンドルに固着させるとともに,これを解除し,かつ当該ハンドル
内に後退させるための部材を意味するものと解される。
被告製品の移動レバーは,別紙物件説明書記載2(2)エ・オのとおり,中
空針を内管の先端付近で保持するとともに,押し込みによってこれを解除
し,内管内に後退させる部材である。前記第2の1(6)のとおり,被告製
品の中空針が構成要件1-Cの「ニードル」に,被告製品の内管が構成要
件1-Aの「中空のハンドル」に,それぞれ当たるから,被告製品の移動
レバーは,構成要件1-Eの「ラッチ」に当たるというべきである。
イ「前記ニードルハブから独立して移動可能」の充足性について
「独立」とは,①それだけの力で立っていること,②個人が一家を構え,
生計を立て,私権行使の能力を有すること,③単独で存在すること,他に
束縛又は支配されないこと,独り立ち,特に一国又は団体がその権限行使
の能力を完全に有することを意味することは,当裁判所に顕著である。ま
た,証拠(甲2)によれば,本件明細書1には,「独立」に対応するもの
として,「かくして上述したジャガー発明の2つの形態は使用者がハンド
ルの穴を介して実際に針をずっと引戻すことを必要とすることになる。そ
して針がハンドル空洞内に完全に収まるまでこの運動を続けねばならな
い。」(8欄25行~28行)という本件訂正発明1の課題と「本発明の
解除および後退手段は簡単な一体的運動により手動で作動可能である。
「簡単な一体的」運動により,本発明者は複合的でない運動,即ち,ただ
1つの方向での単一段階の行程または移動を必然的に伴う運動を意味す
る。」(11欄17行~21行)という本件訂正発明1が解決した手段が
記載されていることが認められる。前者の事実に後者の事実を併せて考慮
すれば,構成要件1-Eの「前記ニードルハブから独立して移動可能」は,
前記ニードルハブの移動とは別に移動可能なことを意味するものと解さ
れる。
被告製品の移動レバーは,別紙物件説明書記載2(2)カのとおり,針基の
密着固定を解除した後は押し込み続ける必要がないから,針基の移動とは
別に移動が可能であるといえる。前記(1)のとおり,被告製品の針基が構
成要件1-Bの「ニードルハブ」に当たるから,被告製品の移動レバーは,
構成要件1-Eの「前記ニードルハブから独立して移動可能」というべき
である。
この点につき,被告らは,移動レバーを約1.3㎜押し込むと,針基も
約0.4㎜後方に移動するから,「前記ニードルハブから独立して移動可
能」といえない旨主張する。しかしながら,上記移動レバーの移動すら,
針基の移動とは異なる動きである上,別紙物件説明書記載2(2)カのとお
り,針基は,この後更に内管の後端部に向かって移動するから,移動レバ
ーの移動が針基の移動と異なることは明らかであって,被告の主張する事
実は,前示の判断を左右するものではない。したがって,被告らの上記主
張は,採用することができない。
ウ「前記ニードルの移動距離よりも短い距離のみ移動する」の充足性につ
いて
証拠(甲2)によれば,本件明細書1には,「ニードルの移動距離」に
対応するものとして,「大抵の場合,必要な手動操作は次々と幾つかの運
動を含まねばならない。必要とされるのは複雑な運動であり,その各段階
は典型的には針の長さおよび使用者の手の大きさを比して比較的大きな
振幅のものである。」(8欄34行~37行)という本件訂正発明1の解
決すべき課題と「この運動の振幅は針の長さよりも実質的に短い。あるい
は,それは一般に使用者の指または手の大きさに比較して小さいと言って
もよい。」(11欄22行~24行)という,上記課題の解決のために本
件訂正発明1が採用した手段が記載されていることが認められる。これを
考慮すれば,構成要件1-Eの「前記ニードルの移動距離よりも短い距離
のみ移動する」は,ラッチを駆動した後の前記ニードルの全移動距離より
も短い距離のみ移動することを意味するものと解される。
被告製品の移動レバーは,前記1(1)のとおり,内管の後端までの中空針
の移動距離よりも短い距離のみ移動するから,移動レバーを駆動した後の
中空針の全移動距離よりも短い距離のみ移動するものといえる。前記アの
とおり,被告製品の移動レバーが構成要件1-Eの「ラッチ」に,前記第
2の1(6)のとおり,被告製品の中空針が構成要件1-Cの「ニードル」
に,それぞれ当たるから,被告製品の移動レバーは,構成要件1-Eの「前
記ニードルの移動距離よりも短い距離のみ移動する」ものということがで
きる。
エその余の充足性について
前記1(1)のとおり,被告製品の移動レバーは,針基をばねの力に抗して
一時的に内管の先端に隣接して保持するとともに,中空針の長さに比べて
短い距離のみ指で押し込まれる。前記(1)のとおり,被告製品の針基が構
成要件1-Bの「ニードルハブ」に,前記第2の1(6)のとおり,被告製
品のばねが構成要件1-Dの「付勢手段」に,被告製品の内管の先端が構
成要件1-Aの「中空のハンドル」の「遠い端」に,被告製品の中空針が
構成要件1-Cの「ニードル」に,それぞれ当たるから,被告製品の移動
レバーは,構成要件1-Eの「前記ニードルハブを前記付勢手段の力に抗
して一時的に前記中空のハンドルの遠い端に隣接して保持する」ととも
に,「前記ニードルの長さよりも短い振幅で手動により駆動され」るもの
ということができる。
オ小括
以上によれば,被告製品は,構成要件1-Eを充足する。
(3)構成要件2-1-Eの充足性について
前記1(2)のとおり,被告製品は,指で移動レバーの天井部にあるボタンを
押し込むことによって中空針の固定手段が解除され,ばねにより中空針の鋭
利な端部に人の指が届かないように中空針を内管の中へ実質的に永続的に後
退させるという解除/後退手段であって,中空針の軸の長さに比べて短い距
離のみ指で押し込むことによって手操作で作動可能な解除/後退手段を有す
る。前記第2の1(6)のとおり,被告製品の内管が構成要件2-1-Cの「中
空のハンドル」に当たるから,被告製品は,構成要件2-1-Eの「前記固
定手段を解除し,前記針の鋭利な端部を人の指が届かないように前記ハンド
ルの中へ実質的に永続的に後退させる解除/後退手段であって,前記針の軸
よりも実質的に短い距離だけ簡単且つ単一の動作によって手操作で作動可能
な解除/後退手段」を有するものというべきである。
したがって,被告製品は,構成要件2-1-Eを充足する。
(4)構成要件2-1-Fの充足性について
前記1(3)のとおり,被告製品は,中空針が後退するエネルギの一部を吸収
するためのエネルギ吸収手段を有する。このため,被告製品は,構成要件2
-1-Fの「前記後退のエネルギの一部を吸収するためのエネルギ吸収手段」
を有するものというべきである。
したがって,被告製品は,構成要件2-1-Fを充足する。
(5)構成要件2-3-A~Cの充足性について
前記1(4)のとおり,被告製品は,2-3-aの構成を有するとともに,エ
ネルギ吸収手段として,内管の内部孔に固定された内周面と,中空針に連結
する針基に担持されて上記内周面に圧接し,中空針の後退の間に摩擦を生ず
る弾性部品を有する。前記第2の1(6)のとおり,被告製品の内管が構成要件
2-1-Cの「中空のハンドル」に当たるから,被告製品は,構成要件2-
3-A~Cの「請求項1の安全装置において,前記エネルギ吸収手段が,…
前記ハンドルの内部孔…に固定された表面と,前記針…に担持されて前記表
面に圧接し,前記後退の間に摩擦を生ずる要素」を有するものというべきで
ある。
したがって,被告製品は,構成要件2-3-A~Cを充足する。
(6)構成要件2-5-A・Cの充足性について
前記1(5)のとおり,被告製品は,2-5-aの構成を有するとともに,エ
ネルギ吸収手段として,中空針に連結する針基に固定されて栓に対する中空
針の衝撃の一部を吸収する押しつぶし可能な弾性部品を有する。前記第2の
1(6)のとおり,被告製品の栓が構成要件2-5-Bの「端部構造」に当たる
から,被告製品は,構成要件2-5-A・Cの「請求項1の安全装置におい
て,…前記エネルギ吸収手段は,前記針…に固定されて前記端部構造に対す
る前記針の衝撃の一部を吸収する押し潰し可能な要素」を有するものという
べきである。
したがって,被告製品は,構成要件2-5-A・Cを充足する。
(7)構成要件2-7-A・Bの充足性について
ア前記1(6)のとおり,被告製品は,2-7-aの構成を有するから,構成
要件2-7-Aの「請求項1の安全装置」を有し,構成要件2-7-Aを
充足する。
イ「前記血液を確実に保持するための収容/保持手段」の充足性について
構成要件2-7-Bの「前記血液を確実に保持するための収容/保持手
段」とは,文言どおり,前記血液を確実に保持するための収容/保持手段
を意味し,血液は収容/保持手段の中に保持されるものと解される。
(ア)この点につき,原告は,本件発明2-7が,使用後に中空針を後退
させると,血液が針の先端やハンドルの前方の開口部から漏出するとい
った課題を解決するものであったことから,血液は中空のハンドルの中
に保持されれば足りる旨主張する。
確かに,証拠(甲5)によれば,本件明細書2には,「収容/保持手
段」に対応するものとして,【0025】「フラッシュ漏洩:クーリー
特許の開示に従って構成された装置を更に研究することにより,例え
ば,患者からの血液が装置のハンドルから後方又は前方へ,あるいは,
針から前方へ漏洩するように,上記装置が取り扱われることがあること
が判明した。」(7欄21行~25行)等という本件発明2-7の課題
が記載されていることが認められ,この記載だけを考慮すれば,血液が
中空のハンドルの中に保持されれば足りるようにもうかがわれる。
しかしながら,証拠(甲5)によれば,本件明細書2には,【002
9】「クーリーの針,あるいは,針及びブロックを中空のハンドルの中
へ後退させると,ある量のフラッシュ血液が押し出されてハンドルの中
に溜まる傾向があるからである。この押し出しは,何等かの経路を介し
て血液をケーシングの外方へ急激に排除する傾向がある。」(8欄9行
~14行),【0030】「1つの漏洩通路は,針及びそのキャリアブ
ロックを通って前方へ向かう通路である。換言すれば,そのような装置
においては,後退ボタンが作動されると,血液が,針の前方端から外方
へ噴出する。」(8欄15行~18行),【0031】「針キャリアブ
ロックが,極めて小さな半径方向の空隙を有するその最初の位置すなわ
ち前方でロックされた休止位置から後退した後の他の通路は,針及びブ
ロックの周囲で前方へ向かう通路である。この場合には,血液は,クー
リーのハンドル又はハウジングの前方の開口を通って出ることにより,
アセンブリから漏洩する。」(8欄25行~31行)と記載されている
ことが認められる。これらの記載も併せて考慮すれば,血液が,収容/
保持手段の中に保持されなければ,中空のハンドルの中にたまる結果,
中空針とブロックを後退させると,ハンドルから漏出し,前記課題を解
決することができないことは明らかである。
したがって,原告の前記主張は,採用することができない。
もっとも,前記1(7)のとおり,被告製品の針基は,血液がその内部か
ら排出されず,血液を確実に保持するための収容/保持手段ともいえる
から,構成要件2-7-Bの「前記血液を確実に保持するための収容/
保持手段」に当たるというべきである。
また,前記1(6)・(7)のとおり,被告製品のフラッシュバック室も,
針基に通じる穴があり,針基が中空針と共に後退した後は,針基に密着
固定しておらず,針基が移動する外管と内管で構成された空間の先端が
開放されるにもかかわらず,血液を外管から外へ漏出させない。これら
の事実を総合すれば,被告製品のフラッシュバック室は,血液がその内
部から排出されないことを推認することができ,血液を確実に保持する
ための収容/保持手段ともいえるから,構成要件2-7-Bの「前記血
液を確実に保持するための収容/保持手段」に当たるというべきであ
る。
(イ)これに対し,被告らは,構成要件2-7-Bの「収容/保持手段」
につき,本件明細書2の【0038】の記載から,中空針に連結した被
告製品の針基を含まない旨主張する。
確かに,証拠(甲5)によれば,本件明細書2には,【0038】「こ
の問題に対する解決策は,運動可能な針に効果的に固定された点におけ
るフラッシュ血液を包囲あるいは阻害することとは別の方法に見い出
すことができ」という血液を中空針と共に搬送しない旨の記載(9欄3
8行~41行)が認められる。
しかしながら,証拠(甲5)によれば,前記記載に続けて「これによ
り,血液と運動する針ブロックとの間の効果的な相対運動を排除するこ
とができる。」という血液を中空針と共に搬送する旨の相反する記載(9
欄41行~43行)があること,他には,後者の記載と同旨の【006
9】「例えば,収容/保持手段は,針と共に運動するように固定された
室…を備えるのが極めて好ましい。」(14欄2行~5行),【008
6】「…後退の間に血液を針と共に搬送し,従って,血液と針との間に
相対的な運動を何等生じないようにすることにより,上述の問題を解消
する。」(16欄26行~28行)等という記載しかないことが認めら
れる。これらの事実を総合すれば,本件明細書2の【0038】の前段
の記載は,誤記と認めることができる。
したがって,被告らの前記主張は,採用することができない。
(ウ)また,被告らは,構成要件2-7-Bの「収容/保持手段」につき,
本件明細書2の【0069】等の記載から,フラッシュ確認の目的をも
有するところ,フラッシュ室は1つあれば足り,本件明細書2もキャリ
アブロックとは別個のフラッシュ室を備える実施例について後者のみ
を「フラッシュ室」と記載しているから(23欄39行),前者のキャ
リアブロックに当たると思われる被告製品の針基を含まない旨主張す
る。
しかしながら,証拠(甲5)によれば,本件明細書2には,【006
9】「例えば,収容/保持手段は,針と共に運動するように固定された
室と,収容され且つ保持された血液を本装置のユーザが観察できるよう
にする何等かの手段とを備えるのが極めて好ましい。」(14欄2行~
5行)と記載されていることが認められる。このため,収容/保持手段
は,フラッシュ確認の機能も備えることが好ましいだけであって,フラ
ッシュ室が1つあれば足りるからといって,収容/保持手段が1つに限
られることにはならない。
したがって,被告らの前記主張は,採用することができない。
(エ)また,被告らは,構成要件2-7-Bの「収容/保持手段」につき,
本件明細書2の【0086】の記載から,中空針との間で相対的な運動
を行う被告製品のフラッシュバック室を含まない旨主張する。
証拠(甲5)によれば,本件明細書2には,【0086】「本発明は,
血液をハンドルの中に保持するのではなく,後退の間に血液を針と共に
搬送し,従って,血液と針との間に相対的な運動を何等生じないように
することにより,上述の問題を解消する。」(16欄25行~28行)
と記載されていることが認められる。
しかしながら,証拠(甲5)によれば,本件明細書2には,【003
7】「非常に広範な実験,並びに,試行錯誤の後にのみ,この関心事が,
ハンドルに対して固定された点におけるフラッシュ血液の包囲又は阻
止を行うための明白な初期の選択であるということを実現される。一
方,この選択は,ハンドルの中の血液と移動する針ブロックによって形
成されるピストンとの間の相対的な運動を意味する。」(9欄28行~
34行),【0072】「また,上記収容/保持手段は,上記ハンドル
に関連して設けられる室と,後退の間に生ずる力を上記室の中へ実質的
に伝達することなく,血液を上記中空針の中から上記室の中へ搬送する
ための何等かの手段とを備えるのが好ましい。」(14欄23行~27
行)と記載されていることが認められる。これに前記(ア)~(ウ)のとお
り,本件明細書2の【0025】・【0029】~【0031】・【0
038】・【0069】の各記載を総合すれば,本件発明2-7は,使
用後に中空針とキャリアブロックを血液の中で後退させると,血液が針
の先端やハンドルの前後から漏出するといった本件発明1における課
題を,血液を入れた室を中空針と共に後退させたり中空のハンドルに設
けたりし,中空針とキャリアブロックを血液の中で後退させないことに
よって解決した発明であるといえる。このため,【0086】の「相対
的な運動」とは,中空針とキャリアブロックを血液の中で後退させるこ
とを意味するものと解されるところ,血液の中で後退しない被告製品の
フラッシュバック室は,中空針との間で「相対的な運動」を行うもので
はない。
したがって,被告らの前記主張は,採用することができない。
ウ「前記後退によって生ずる力に抗して」の充足性について
「抗する」とは,抗す,逆らう,抵抗する,争うことを意味することは,
当裁判所に顕著である。もっとも,証拠(甲5)によれば,「前記後退
によって生ずる力に抗して」に対応するものとして,【0086】「従
って,後退の間に生ずる圧縮力を処理し,そのような圧縮力が血液と共
に搬送される針に与えられるのを阻止するだけで良く,そのような力の
処理は,本明細書の随所に述べる種々の手段によって行うことができ
る。」(16欄28行~32行)と記載されていることが認められる。
前者の事実に後者の事実を併せて考慮すれば,構成要件2-7-Bの「前
記後退によって生ずる力に抗して」とは,中空針の後退により生じる圧
縮力を阻止して,ということを意味するものと解される。
被告製品の針基とフラッシュバック室は,前記1(6)のとおり,中空針
の後退により生じる圧縮力を阻止して血液を収容・保持するから,いず
れも構成要件2-7-Bの「前記後退によって生ずる力に抗して」血液
を収容・保持するものというべきである。
エその余の充足性について
前記1(6)・2(7)イ(ア)のとおり,被告製品の針基とフラッシュバック
室は,中空針が後退する間と中空針が後退した後に,血液を確実に保持す
るための収容/保持手段である。このため,被告製品の針基とフラッシュ
バック室は,構成要件2-7-Bの「前記針が後退する間に及び該後退の
後に,」前記血液を確実に保持するための収容/保持手段に当たるという
べきである。
したがって,被告製品の針基とフラッシュバック室は,いずれも構成要
件2-7-Bに当たる。
オ小括
以上より,被告製品は,構成要件2-7-A・Bを充足する。
(8)構成要件2-8-A・Bの充足性について
ア前記1(7)のとおり,被告製品は,2-8-aの構成を有するから,構成
要件2-8-Aの「請求項1の安全装置」を有し,構成要件2-8-Aを
充足する。
イ「前記室」の充足性について
前記(7)イ(イ)のとおり,本件明細書2には,【0069】「例えば,収
容/保持手段は,針と共に運動するように固定された室…を備えるのが極
めて好ましい。」(14欄2行~5行)と記載されている。そして,証拠
(甲5)によれば,本件明細書2には,「前記室」に対応するものとして,
【0070】「また,上記収容/保持手段は更に,上記室を上記後退によ
って生ずる力から隔離するための何等かの手段を備えるのが好ましい。」
(14欄8行~10行)と記載されていることが認められる。これを考慮
すれば,構成要件2-8-Bの「前記室」は,中空針と共に運動するよう
に固定された室を意味するものと解される。
この点につき,被告らは,本件明細書2の【0072】「上記ハンドル
に関連して設けられる室」等,他にも「前記室」に対応する記載がある旨
主張する。しかしながら,前記(7)イ(エ)のとおり,「上記ハンドルに関
連して設けられる室」は,収容/保持手段の1例であるし,他の記載も「前
記室」に対応するものではないことが明らかである。したがって,被告ら
の上記主張は,採用することができない。
被告製品の針基は,別紙物件説明書記載2(2)イのとおり,中空針と共に
運動するように固定された室である。このため,被告製品の針基は,構成
要件2-8-Bの「前記室」に当たるというべきである。
ウその余の充足性について
前記1(7)のとおり,被告製品は,針基が,中空針の後退の際に生じる力
による影響を受けて血液を針基の内部から排出させない隔離手段を有す
るから,構成要件2-8-Bの「前記収容/保持手段が,前記後退によっ
て生ずる力から前記室の内部を隔離するための隔離手段を有する」ものと
いうべきである。
エ小括
以上より,被告製品は,構成要件2-8-A・Bを充足する。
(9)結論
以上によれば,被告製品は,本件各発明の技術的範囲に属する。
3争点③(本件特許1の請求項1はいわゆるサポート要件違反により特許無効
審判で無効とされるべきものか)について
(1)被告らは,本件特許1の特許請求の範囲請求項1に記載された「ニードル
ハブ」が本件明細書1中の発明の詳細な説明に記載がないから,いわゆるサ
ポート要件(特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したもの
であること。平成2年法律第30号による改正前の特許法36条4項1号)
に違反すると主張する。
(2)証拠(甲2)によれば,次の事実が認められる。
ア本件明細書1には,「ニードルハブ」という語が特許請求の範囲におい
てのみ用いられ,発明の詳細な説明においては用いられていない。これに
対し,本件明細書1には,「キャリヤブロック」又は「ブロック」という
語が発明の詳細な説明においてのみ用いられ,特許請求の範囲においては
用いられていない。
イ本件明細書1の発明の詳細な説明には,次の記載がある。
(ア)「第1図および第2図に示すように,本発明の好ましい一実施例は
成形された中空ハンドル10を含む。この実施例はまたハンドル10の
前端にしっかり固定された鼻部片20と,ハンドル10内に摺動自在に
配置されたキャリヤブロック30とを含む。
第1図および第2図の実施例はまた鼻部片20に近接してキャリヤブ
ロック30をハンドルの前端近くに固着するラッチ40と,ブロック3
0により担持されたハンドル10から鼻部片20を貫通して延びる針5
0とを含む。」(12欄18行~26行)
(イ)「第11図および第12図は本発明のキャリヤブロックおよびばね
実施例が一般的性格のいかなる機械的配置をも一般的に含みうることを
概略的に示すために含まれているものである。これらの図面において,
解除自在なラッチ要素544はキャリヤブロック530をハンドル・シ
リンダ511の前端に一時的に固着させる。
図示の一般的配置において,針の鋭い端552は前方穴523を貫通
してハンドルの前端521から突起している。ばね561がキャリヤブ
ロック530を後方に付勢している。」(20欄16行~24行)
ウ前記イの事実によれば,前記2(1)のとおり,複数の特許文献や穿刺針の
添付文書において「ニードルハブ」が針の土台を指す部材として特段の解
説もなく用いられていることを併せ考慮するなら,前記アのとおり,本件
明細書1の発明の詳細な説明には,「ニードルハブ」という語は用いられ
ていないものの,これに対応するものとして,「キャリヤブロック」とい
う語が用いられていることは明らかである上,「ニードルハブ」という語
は,針の土台部を意味する技術用語であるといえる。そうすると,本件明
細書1の発明の詳細な説明に「ニードルハブ」の語の記載がなくても,本
件特許1の請求項1に記載された発明は,発明の詳細な説明に記載された
発明であるということができる。
したがって,本件特許1の請求項1は,いわゆるサポート要件違反によ
り特許無効審判で無効とされるべきものではない。
4争点④(本件特許1の請求項1は拡大先願発明と同一であることにより特許
無効審判で無効とされるべきものか)について
(1)本件訂正発明1と乙9-19公報記載の発明との対比について
ア乙9-19公報の記載等
証拠(乙9の19)によれば,昭和63年4月20日に特許出願され,
同年11月28日に出願公開された乙9-19公報には,次の記載(別紙
乙9-19公報添付図面参照)があることが認められる。
(ア)「開いた基部と実質的に閉じた末端部とを有する中空のシリンダ(2
4,62)と,その基部を介して前記シリンダ内に入れられる予め満た
されたアンプル(14)とを含み,前記アンプルはその一方端部で封止
キャップ(18)を有し,前記アンプルの前方に前記シリンダ内に位置
決めされかつ前記アンプルと間隔を置かれた軸方向の整列で配置された
両端皮下針(40)とを含む注射器(1,60)であって,前記注射器
は前記針の基部が前記アンプルの端部キャップを貫通しかつ前記針の末
端部は前記シリンダの末端を通って外方向に突出するように前記シリン
ダを介して前記アンプルを軸方向にかつ末端方向に進めるための手段
(8)と,前記シリンダ内の末端に進められた位置で前記アンプルを解
放可能に保持してロックされた位置に可動であるかまたは末端部に進め
られた位置から前記アンプルを離してロックされていない位置に可動で
あるロッキング手段(32,67)とを含み,そのため前記アンプルは
前記シリンダを介して基部方向に変位されかつ前記針の末端部は前記シ
リンダ内に引込められ得ることを特徴とする,注射器。」(特許請求の
範囲請求項1)
(イ)「前記両端針(40)が保持される針カートリッジ(21)をさら
に特徴とし,前記針カートリッジは前記針を取囲む中空のスリーブ(2
2,66)と,前記針を前記アンプル(14)と軸方向に整列するよう
に支持するための両端の基部(36)および末端(38)壁とを有する,
請求項1ないし6記載の注射器。」(特許請求の範囲請求項7)
(ウ)「前記針保持カートリッジ(21)はまた前記中空スリーブ(22,
66)内に置かれかつ前記カートリッジの前記両端の壁(36,38)
の間を延びる圧縮可能ばね手段(34)を含む,請求項7または8記載
の注射器。」(特許請求の範囲請求項9)
(エ)「前記壁(38)の一方がその反対の壁(36)に関連して前記ば
ね手段(34)の偏倚力に対して前記針保持カートリッジ(21)の中
空のスリーブ(22,66)を介して可動であり,その結果前記ばね手
段が前記両端の壁の間で圧縮されるようになり,前記アンプル(14)
は前記シリンダ(24,62)を介して軸方向にかつ末端方向に進めら
れ,その結果前記可動壁が前記中空のスリーブを介して動かされかつ前
記ばね手段が圧縮されるようにされ,それによって前記針(40)の末
端部は前記スリーブから外方向に力が加えられ前記針シリンダの末端
部を通過して注射が行なわれ,前記ばね手段は緩められた位置に戻って
前記反対の壁から前記カートリッジの可動の壁を離して駆動し,それに
よって前記針の末端部は前記ロッキング手段が前記アンプルを末端方
向に進められた位置から開放すると前記カートリッジスリーブ内に引
込められる,請求項7ないし9記載の注射器。」(特許請求の範囲請求
項10)
(オ)「[技術分野]この発明は液体の薬品の入った予め満たされたアン
プルと,取外し可能針カートリッジ内に保持されかつ液体の薬品を目標
とされる組織区域に注射する位置である末端方向に延ばされた位置か
ら,針が注射器のシリンダ内に引き込まれかつそれによって保護される
位置である基部方向に引込められた位置に,自動的に位置を代えるよう
に適合される両端部皮下針とを有する歯科用注射器に関するものであ
る。」(3頁左上欄18行~右上欄7行)
(カ)「注射が終わると針は典型的には注射器シリンダを介して形成され
た末端の孔から外方向に突出している軸方向に延びた位置にロックさ
れている。
場合によっては,注射器は伝染病を保持している患者の処置をするた
めに用いられるかもしれない。注射器を処分する前に皮下針は再利用を
防ぐためにしばしば折られたりまたは破壊されたりする。歯医者で働い
ている人達は特に使用後の不注意な取扱いやまたは針を折ったり注射
器を処分したりすることによって偶発的に感染の可能性を持った針に
当たることが起こりやすい。たまたま針に当たっただけの小さな出来事
が結果としてエイズや肝炎のような病気のための血液検査が典型的に
は必要とされるようになる。」(3頁右上欄16行~左下欄10行)
(キ)「図面の第9図では,注射器60は注射している状態である。特に
歯科医が人差指と中指をフランジ28の耳状部分32に置きかつ親指
を保持カラー8のフランジ10上に置いている。フランジ28の角度を
つけられた耳状部分30のおかげで歯科医の人差指と中指は自動的に
注射器シリンダ62のロッキングアーム67に対して同等でかつ反対
の圧縮力(参照矢印80で示される方向)を与えるように位置決めされ
る。したがって,ロッキングアーム67はその通常のばねの偏倚力に対
して回動が引き起こされ,その結果そのそれぞれのロッキングカップ6
8は注射器シリンダ62内に形成されるスロット70を介して回転さ
れる。」(8頁右下欄10行~9頁左上欄2行)
(ク)「歯科医は次に親指を使って保持カラー8の基部のフランジ10を
押してシリンダ62を介して保持カラーを軸方向にかつ末端方向に進
める。保持カラー8はそのロッキングスカート12がロッキングアーム
67の内部に延びているロッキングカップ68の下にパチンと受取ら
れるとシリンダ62内の軸方向に進められた位置にロックされる。」(9
頁左上欄12行~18行)
(ケ)「フランジ28の角度をつけられた耳状部分30の下に指を残した
ままで,歯科医は親指を保持カラー8のフランジ10からピストンステ
ム2の基部の指ループ4に動かす。保持カラー8のロッキングスカート
12をロッキングアーム67の保持カップ68内にロックして(保持カ
ラー8の基部方向の変位を防ぐために),歯科医はピストンステム2に
対して保持カラー8を介して末端方向に力を加え,その結果軸方向の力
が指ループ4からアンプル14の基部のプランジャ16に伝わる。プラ
ンジャ16はそれによってアンプル14を介して軸方向および末端方
向に動かされ,その結果アンプルの中の液体が延在した針40によって
患者の目標とされた組織区域内に注入され得る。
第10図は皮下針40がシリンダ62内に戻された注射器60を示
す。特に,アンプル14の中身が患者の中へ放出された後に歯科医は指
をフランジ28の角度をつけられた耳状部分30の下から取りかつ親
指を指ループ4から取る。針40は即座にかつ自動的にシリンダ62内
に完全に戻る。歯科医の指をフランジ28の耳状部分30の下でロッキ
ングアーム67のロッキングカップ68と係合をはずすようにすれば,
ロッキングカップ68は保持カラー8の円錐ロッキングスカート12
から係合が外される。すなわち,ロッキングフィンガ67の通常のばね
の偏倚力によってそのようなフィンガはロッキングスカート12より
外にかつ離れて回動させられる。
ロッキングカップ68をロッキングスカート12から離してかつアン
プル14のカップ18を針支持および整列部材38のレセプタクル内
にロックしたままにすると,以前に圧縮されたばね34はその開放され
た状態に自由に戻る。しかしながら,ばね34内に蓄えられた位置エネ
ルギは針40と,針支持部材38と,アンプル1と,ピストンステム2
と,指ループ4の相互接続を含むピストンアセンブリを針カートリッジ
21のスリーブ66を介して軸方向にかつ基部方向に十分駆動し得る。
したがって,針40は針カートリッジスリーブ66内に完全に引込めら
れるように注射器シリンダ62の末端部壁64を介して引張られる。こ
うして,注射器60が歯科用のトレイ内に置かれるときまでには針40
は注射器シリンダ62に関した延ばされた末端位置から前記シリンダ
内の引込められた基部の位置に位置が変えられており,注射器の安全な
処分を可能とする。」(9頁左下欄7行~10頁左上欄12行)
イ乙9-19公報記載の発明
前記ア認定の事実によれば,乙9-19公報には,次の発明(以下「乙
9-19発明」という。)が記載されているものといえる。
(ア)基部及び末端部を有する中空のシリンダと,
(イ)該シリンダ内に配置された針支持部材と,
(ウ)鋭い末端部と,前記針支持部材に支持された固着端とを有し,アン
プル内の薬液を患者の目標とされた組織区域内に注入するための針と,
(エ)前記針支持部材を前記中空なシリンダの基部方向に向かって付勢す
るばねと,
(オ)前記針支持部材から独立して移動可能であり,指で圧縮されること
によって保持カラー及び前記アンプルを介し前記針支持部材を前記ばね
の力に抗して一時的に前記中空のシリンダの末端部に隣接して固定する
ロッキング手段であって,前記針の長さよりも短い振幅でばねの偏倚力
により駆動され,前記針の移動距離よりも短い距離のみ移動するロッキ
ング手段と,
(カ)から成る,薬液注射のための安全装置。
ウ本件訂正発明1と乙9-19発明との対比
乙9-19発明の「シリンダ」は,操作者がつかむものであるから,本
件訂正発明1の「ハンドル」に相当する(甲12)。また,乙9-19発
明の「基部」,「末端部」,「針支持部材」,「鋭い自由端」,「ばね」
は,本件訂正発明1の「近い端」,「遠い端」,「ニードルハブ」,「鋭
い末端部」,「付勢手段」にそれぞれ相当する。さらに,乙9-19発明
の「ロッキング手段」は,針を中空のシリンダに固着させるとともに,こ
れを解除し,かつ当該シリンダ内に後退させるための部材であるから,前
記2(2)アのとおり,ニードルを中空のハンドルに固着させるとともに,
これを解除し,かつ当該ハンドル内に後退させるための部材を意味する本
件訂正発明1の「ラッチ」に相当する。そして,乙9-19発明のロッキ
ング手段が「指で圧縮されることによって保持カラー及び前記アンプルを
介し前記針支持部材を固定する」こと及び「針」は,本件訂正発明1のラ
ッチが「前記ニードルハブを保持する」こと及び「ニードル」に相当する。
そうすると,本件訂正発明1と乙9-19発明とは,次の点で相違する。
(ア)本件訂正発明1では,ニードルがカニューレを患者の定位置に案内
し運ぶためのものであるのに対し(構成要件1-C),乙9-19発明
では,針がアンプル内の薬液を患者の目標とされた組織区域内に注入す
るためのものである点
(イ)本件訂正発明1では,ラッチが手動により駆動されるのに対し(構
成要件1-E),乙9-19発明では,ロッキング手段がばねの偏倚力
により駆動される点
(ウ)本件訂正発明1では,安全装置がカニューレ挿入のためのものであ
るのに対し(構成要件1-F),乙9-19発明では,安全装置が薬液
注射のためのものである点
(2)本件訂正発明1と乙9-19発明との実質的同一性の有無
前記(1)ウのとおり,本件訂正発明1と乙9-19発明は発明の構成におい
て一致しないところ,ばねの偏倚力により駆動されるラッチにつき,手動に
より駆動されるものとすることや(相違点(イ)),薬液注射のための安全装
置につき,カニューレ挿入のためのものとすることが(相違点(ウ)),本件
訂正発明1の出願当時,カニューレ挿入装置の技術分野における当業者にお
いて,広く認識されていたことを認めるに足りる証拠はない。
したがって,本件訂正発明1と乙9-19発明が同一であるとはいえない。
(3)小括
以上より,本件特許1の請求項1は拡大先願発明と同一であることにより
特許無効審判で無効とされるべきものではない。
5争点⑤(本件特許2の請求項1・3・5は新規性の欠如により特許無効審判
で無効とされるべきものか)について
(1)本件発明2-1の新規性について
ア本件発明2-1と乙11-1公報記載の発明との対比について
(ア)乙11-1公報の記載
証拠(乙11の1)によれば,乙11-1公報には,次の記載がある
ことが認められる(別紙乙11-1公報添付図面参照)。
a「カニューレを患者の中に挿入しその後で患者内にあった装置部分
との接触から人々を保護するに当たって使用される安全装置であっ
て,
前記患者に突き刺し前記カニューレを前記患者内の定位置に案内し
運ぶための針であって,少なくとも1つの鋭い端を備えた軸を有する
針と,
前記人々の指が届かないように前記針の少なくとも鋭い端を封包す
るようになされた中空ハンドルと,
前記鋭い端がハンドルから突出した状態で前記軸をハンドルに固着
するための手段と,
前記固着手段を解除し且つ前記人々の指が届かないように前記針の
鋭い端をハンドル内へ実質的に永久的に後退させるための手段とから
成り,
前記解除および後退手段は針の軸よりも実質的に短い振幅の単純な
一体運動により手動で作動可能であることを特徴とする安全装置。」
(特許請求の範囲請求項1)
b「本発明は一般に医療器具に関し,更に詳細には静脈カニューレ等
のカニューレを患者の身体に挿入するための装置に関する。」(3頁
左下欄2行~4行)
c「ハンドル10は好ましくはポリカーボネート等のプラスチックか
ら射出形成されたものだが,必ずしもそうでなくてもよい。」(10
頁左下欄7行~9行)
d「ハンドル10内には,ラッチ案内スロット16,18の底面で露
出して縦方向中心孔12が形成されている。この孔はごく一般的には
真円筒形であるが,好ましくは型からのハンドルの除去を容易にする
ためにハンドルの後端に向けて広がるごく僅かなテーパもしくはドラ
フトを有する。
しかし,孔12の後端の近くには,内方に円錐台状のストッパ表面
14が形成されて孔12を僅かに狭めている。孔12の極端には,ハ
ンドル10の後端にて開口する短い端部13がある。」(11頁左上
欄5行~16行)
e「鼻部片は商品名「デルリン」の下に市販されているプラスチック
で作ることができる。その材料は主としてそれが形成し易いから選択
されるものである。
キャリヤブロック30はきわめて狭い中心穴を有し,この穴の中に
針50がきっちりと把持されている。同じくデルリン製のブロック3
0は針上に圧嵌,縮嵌および/または接合するか,あるいは定位置に
成形してよい。
キャリヤブロック30の外側は円形的に対称である。それは真円筒
形でもよい突出筒31を有する。この筒31の後端には前端が筒31
に対して半径方向に拡大された円錐台状のストッパ部分32がある。
このストッパ部分はブロック30の後端に向けて内方にテーパしてい
る。ストッパ部分の円錐台状の後面は針を完全に後退させた時にハン
ドル10の前述した内側円錐台状ストッパ部分13に対して着座する
ようになされている。」(11頁左下欄12行~右下欄11行)
f「第1図の好ましい実施例の他の寸法は大略以下の通りである(㎝)。

トリガー近傍でのハンドル孔の内径0.4201
後端付近でのハンドル孔の内径0.4318

キャリヤブロック・ストッパ部分の外径0.4191」
(13頁左下欄8行~21行)
g「多分明瞭には図示されていないこの好ましい実施例のもう1つの
望ましい特徴を次に挙げておく。トリガーが作動されていない時にハ
ンドル10の内側孔12に対して流体密封を与えるように,キャリヤ
ブロックの円錐台状ストッパ部分32の大きな端の直径を僅かに増大
させることが好ましい。
この配置は,ストッパ部分32の前方にあるばね,内部空洞等の多
くの複雑な表面における衛生の維持への信頼を最小限に抑えることに
より中空針を介しての効果的な流体連通を容易にする。」(14頁左
下欄9行~20行)
h「第9図および第10図に更に他の実施例を示す。第1図ないし第
6図の可動ラッチ要素は図示の装置のそれぞれのハンドルに装着さ
れ,そして第7図および第8図ではかくのごときラッチはないが,第
9図および第10図の可動ラッチ要素はキャリヤブロックに装着され
ている。
更に詳細には,キャリヤブロックの外側の案内穴内には半径方向に
延びるラッチ耳435(第10図)が係止されているが,ばね436
により半径方向外方に付勢されている。これらのラッチ耳435はハ
ンドル壁411,412の厚い部分412cと係合してキャリヤブロ
ック431および針の後方への運動を防止する。」(16頁左上欄2
0行~右上欄14行)
(イ)乙11-1公報記載の発明
前記認定の事実によれば,乙11-1公報には,次の発明(以下「乙
11-1発明①」という。)が記載されているものといえる。
aカニューレを患者の中に挿入しその後で患者内にあった装置部分と
の接触から人々を保護するに当たって使用される安全装置であって,
b前記患者に突き刺し前記カニューレを前記患者内の定位置に案内し
運ぶための針であって,少なくとも1つの鋭い端を備えた軸を有する
針と,
c前記人々の指が届かないように前記針の少なくとも鋭い端を封包す
るようにされた中空ハンドルと,
d前記鋭い端がハンドルから突出した状態で前記軸をハンドルに固着
するための手段と,
e前記固着手段を解除し且つ前記人々の指が届かないように前記針の
鋭い端をハンドル内へ実質的に永久的に後退させるための手段とから
成り,前記解除および後退手段は針の軸よりも実質的に短い振幅の単
純な一体運動により手動で作動可能である
f針を把持するキャリヤブロックの大きな端とハンドルの内側孔とは
流体密封しており,針を把持するキャリヤブロックの後面はデルリン
製であり,完全に後退したときにハンドルの内側ストッパ部分に着座
する
g安全装置。
(ウ)本件発明2-1と乙11-1発明①との対比
a乙11-1発明①の「カニューレを患者の中に挿入しその後で患者
内にあった装置部分との接触から人々を保護するに当たって使用され
る安全装置」,「前記患者に突き刺し前記カニューレを前記患者内の
定位置に案内し運ぶための針であって,少なくとも1つの鋭い端を備
えた軸を有する針」,「前記人々の指が届かないように前記針の少な
くとも鋭い端を封包するようにされた中空ハンドル」,「前記鋭い端
がハンドルから突出した状態で前記軸をハンドルに固着するための手
段」,「前記固着手段を解除し且つ前記人々の指が届かないように前
記針の鋭い端をハンドル内へ実質的に永久的に後退させるための手段
とから成り,前記解除および後退手段は針の軸よりも実質的に短い振
幅の単純な一体運動により手動で作動可能」は,本件発明2-1の「カ
ニューレの如き医療器具を患者の体内へ挿入し且つその後患者の体内
にあった該装置の部分に人が接触しないように保護するための安全装
置」,「患者を穿刺し,前記医療器具を患者の体内の適所へ案内して
搬送する中空針であって,少なくとも1つの鋭利な端部を有する軸を
具備する中空針」,「人の指が届かないように,少なくとも前記針の
鋭利な端部を包囲するようになされた中空のハンドル」,「前記鋭利
な端部を前記ハンドルから突出させた状態で前記軸を前記ハンドルに
固定する固定手段」,「前記固定手段を解除し,前記針の鋭利な端部
を人の指が届かないように前記ハンドルの中へ実質的に永続的に後退
させる解除/後退手段であって,前記針の軸よりも実質的に短い距離
だけ簡単且つ単一の動作によって手操作で作動可能」にそれぞれ相当
する。
そうすると,本件発明2-1と乙11-1発明①とは,本件発明2
-1では,中空針が後退するエネルギの一部を吸収するためのエネル
ギ吸収手段があるのに対し(構成要件2-1-F),乙11-1発明
①では,これがない点で相違する。
b被告らは,乙11-1発明①の構成f「針を把持するキャリヤブロ
ックの大きな端とハンドルの内側孔とは流体密封しており,針を把持
するキャリヤブロックの後面はデルリン製であり,完全に後退したと
きにハンドルの内側ストッパ部分に着座する」は,構成要件2-1-
Fの「前記後退のエネルギの一部を吸収するためのエネルギ吸収手段」
に相当する旨主張する。
(a)流体密封について
キャリヤブロックとハンドルが流体密封していることについて
は,前記(ア)gのとおり,乙11-1公報に,キャリヤブロックの
ストッパ部分の前方にあるばねや内部空洞等,多くの複雑な表面に
おける衛生の維持への信頼を得るため,トリガーが作動されず中空
針が後退していないときには,キャリヤブロックの円錐台状ストッ
パ部分の大きな端がハンドルの内側孔に対して流体密封を与えるの
が好ましい旨記載されているにすぎず,中空針が後退するエネルギ
を吸収するために流体密封を与える旨の記載や中空針が後退してい
るときにも流体密封を与える旨の記載はない。かえって,前記(ア)
d・fのとおり,乙11-1公報では,型からのハンドルの除去を
容易にするため,ハンドルの内側孔の内径を後端に向けて広げてい
くことを勧めている。
したがって,乙11-1発明①の構成fのうち,キャリヤブロッ
クの大きな端とハンドルの内側孔とが流体密封していることが構成
要件2-1-Fの「エネルギ吸収手段」に相当する旨の被告らの主
張は採用することができない。
なお,被告らは,「この孔はごく一般的には真円筒形である」と
いう記載やそれを示す図1の記載,内径差も0.0117㎝しかな
いこと,キャリヤブロックの外側に延びるラッチ耳等を考慮すれば,
トリガーが作動されている時にも流体密封を与えることが明らかで
ある旨も主張する。しかしながら,前記(ア)fのとおり,乙11-
1公報には,好ましい実施例として,トリガー近傍でのハンドル孔
の内径を0.4201㎝とするのに対し,キャリヤブロックのスト
ッパ部分の外径を0.4191㎝とすることが記載されており,狭
い方のハンドル孔の内径ですらキャリヤブロックの外径よりも大き
くすることを勧めている。また,前記(ア)hのとおり,キャリヤブ
ロックの外側に延びるラッチ耳は,ハンドルの内部孔との間で摩擦
を生じ,中空針が後退するエネルギを吸収する可能性はあるものの,
構成要件2-1-Fの「エネルギ吸収手段」とは,本件発明2-1
の課題であったばね等によるキャリヤブロックの不当に速い後退や
異常に強い後退,うるさいかちっという音等を解消する手段である
から(甲5,10欄43行~11欄8行),上記の課題を解消する
に足りる程度に中空針の後退するエネルギを吸収する必要があるも
のと解されるところ,ラッチ耳が上記の程度に中空針が後退するエ
ネルギを吸収することを認めるに足りる証拠はない。したがって,
被告らの上記主張も採用することができない。
(b)デルリンについて
証拠(乙11の4・5)によれば,乙11-4公報には「この楔
状部材(26)の内面は夫々突起部(20)と係合する楔状の形をしてい
て,例えばデルリン(DELRIN)という商品名で市販されてい
るプラスチック物質のような適当な物質でモールドするのが好まし
い。」(2頁左下欄11行~15行)や「装置が過度の衝撃を受け
ると,プラスチックの楔状部材(26)が衝撃吸収体として作用する。」
(2頁右下欄15行・16行)との記載があること,乙11-5公
報には「材料としてはいかなるプラスチック材料も使用できるが,
…(中略)…弾性率が高いものであることが好ましい。好ましいプ
ラスチック材料としてはポリオキシメチレン(PDM)…(中略)
…等がある。特に好ましい材料はポリオキシメチレンで,例えば,
融点約175℃のデュポン社製の登録商標「デルリン」がある。こ
の製品は,この発明に必要な温度安定性と柔軟性という非常に優れ
た特性を有しているものであって好ましい。」(2頁左下欄13行
~右下欄6行)との記載があることが認められる。
しかしながら,キャリヤブロックの後面がデルリン製であること
については,前記(ア)eのとおり,乙11-1公報に,形成しやす
いから選択された旨記載されているにとどまり,中空針が後退する
エネルギを吸収するためにデルリンを選択した旨の記載はない。ま
た,証拠(甲13)によれば,デルリンは,デュポン社の販売する
アセタール樹脂の製品群を指し,主な特性として,引っ張りや衝撃
に対する強さ,剛性等を有し,高耐久ギヤ等に用いる高粘度タイプ
から家電部品等に用いる低粘度タイプまで複数のグレードのものが
販売されていることが認められる。
したがって,乙11-1発明①の構成fのうち,キャリヤブロッ
クの後面がデルリン製であることが構成要件2-1-Fの「エネル
ギ吸収手段」に相当する旨の被告らの主張は採用することができな
い。
(c)内側ストッパ部分への着座について
キャリヤブロックの後面がハンドルの内側ストッパ部分に着座す
ることについては,前記(a)のとおり,構成要件2-1-Fの「エ
ネルギ吸収手段」は,不当に速い後退や異常に強い後退,うるさい
かちっという音等を解消するに足りる程度に中空針の後退するエネ
ルギを吸収するものである必要があるところ,キャリヤブロックの
後面がハンドルの内側ストッパ部分に着座することにより,上記の
程度に中空針が後退するエネルギを吸収することを認めるに足りる
証拠はない。
したがって,乙11-1発明①の構成fのうち,キャリヤブロッ
クの後面がハンドルの内側ストッパ部分に着座することが構成要件
2-1-Fの「エネルギ吸収手段」に相当する旨の被告らの主張は
採用することができない。
(d)小括
以上より,被告らの乙11-1発明①の構成fが構成要件2-1
-Fに相当する旨の主張は,いずれも採用することができない。
イ以上のとおり,本件発明2-1と乙11-1発明①とが同一であるとは
いえないから,本件特許2の請求項1は新規性を欠如せず,特許無効審判
で無効とされるべきものではない。
(2)本件発明2-3・5の新規性について
本件発明2-3・5は,本件発明2-1に係る請求項の従属項であるから,
前記(1)イのとおり,本件発明2-1と乙11-1発明①が同一でない以上,
本件発明2-3・5が乙11-1発明①と同一でないことも明らかである。
したがって,本件特許2の請求項3・5は新規性を欠如せず,特許無効審
判で無効とされるべきものではない。
6争点⑥(本件特許2の請求項8は特許請求の範囲の記載要件違反により特許
無効審判で無効とされるべきものか)について
(1)特許請求の範囲の記載要件違反について
被告らは,本件発明2-8の特許請求の範囲は,そこに記載された「前記
収容/保持手段」や「前記室」につき,これらの前にある請求項1にその内
容が記載されていなければならないにもかかわらず,請求項1にはその記載
がないため,内容が不明であるから,記載要件違反(平成6年法律第116
号による改正前の特許法36条5項2号)により特許無効審判で無効とされ
るべきものであると主張する。
しかしながら,原告は,前記第2の1(2)イ(イ)のとおり,特許無効審判請
求手続において,本件発明2-8の特許請求の範囲につき,前記の点を訂正
する訂正請求を行っており,後記のとおり,同訂正請求は適法であり,被告
製品は訂正後の本件訂正発明2-8の技術的範囲に属し,かつ,本件訂正発
明2-8は,特許無効審判で無効とされるべきものとは認められない。した
がって,仮に,本件発明2-8に記載要件違反の無効事由があったとしても,
同無効事由は上記訂正により解消されるものであるから,被告らの前記無効
の主張は理由がない。
(2)訂正の請求について
前記第2の1(2)イ(イ)のとおり,本件訂正請求のうち,「請求項1の安全
装置」から「請求項7の安全装置」への訂正は,請求項7が請求項1の従属
項であるから,特許請求の範囲の減縮を目的とするものといえる。また,「前
記針と共に運動するように固定された室を備え,」の付加も,「前記収容/
保持手段」を限定するから,特許請求の範囲の減縮を目的とするものといえ
る。また,これらの訂正は,願書に添付した明細書又は図面に記載された事
項の範囲内のものであり,かつ,実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更
するものでないことは明らかである。したがって,本件訂正請求は,適法な
訂正の請求というべきである。
また,前記第2の1(6)・第3の2(7)オのとおり,被告製品は,構成要件
2-7-A~Cを充足するから,本件訂正発明2-8の「請求項7の安全装
置」を充足する。そして,前記2(8)イのとおり,被告製品の針基は,中空針
と共に運動するように固定された室であるから,被告製品は,「前記針と共
に運動するように固定された室を備え」る。したがって,被告製品は,本件
訂正発明2-8の技術的範囲に属する。
したがって,仮に,本件発明2-8に記載要件違反の無効事由があったと
しても,同無効事由は上記訂正により解消されたものといえる。
(3)進歩性について
後記7(4)ウのとおり,本件発明2-7が当業者において容易に想到し得な
かったものであり,進歩性を有するから,本件発明2-7の従属項である本
件訂正発明2-8も,進歩性を有する。
7争点⑦(本件特許1の請求項1及び本件特許2の請求項1・3・5・7・8
は進歩性の欠如により特許無効審判で無効とされるべきものか)について
(1)乙9-1・2両公報記載の発明と周知技術に基づく本件訂正発明1の想到
容易性
ア本件訂正発明1と乙9-1公報記載の発明との対比について
(ア)乙9-1公報の記載
証拠(乙9の1)によれば,乙9-1公報には,次の記載(別紙乙9
-1公報添付図面参照)が認められる。
a「皮下注射針またはその他の器具に関連した動きによるか,あるい
はそのものの上に折り重ねることによって,前記の針またはその他の
器具が正常に使用される第1の位置で,前記の針またはその他の器具,
あるいはその支持体に接続させ,据えておくことができるようになっ
ている1個のさやから成り,第2の位置では,さやが,針またはその
他の器具を包み,かつその第2の位置に,さやを保持するようになっ
ていることを特徴とする皮下注射針等の安全装置。」(特許請求の範
囲請求項1)
b「さやが,針または針の支持体に接着されているか,あるいは針ま
たは支持体にクリップ止めされていることを特徴とする特許請求の範
囲第(2)項に記載の皮下注射針等の安全装置。」(特許請求の範囲請求
項3)
c「針が,ハウジングによって支持されており,かつさやが,ハウジ
ングに固着されていることを特徴とする特許請求の範囲第(1)項乃至
第(3)項のいずれかに記載の皮下注射針等の安全装置。」(特許請求の
範囲請求項5)
d「さやが,針の長さ方向に平行に,ハウジングに対して動くことが
でき,それにより,さやが,針を包むように移動できることを特徴と
する特許請求の範囲第(5)項に記載の皮下注射針等の安全装置。」(特
許請求の範囲請求項6)
e「本発明は,皮膚の臨床的穿刺に用いられる皮下注射針またはその
類似器具の安全装置に関する。
(従来の技術)
病院,健康センター,あるいはその他の臨床分野での人間の血液試
料採取は,薬物製剤や生化学物質の注射と同じように,常習的な医療
処理である。
しかし,臨床オペレータが,処理後,誤って,針で自分自身あるい
は他の人を傷つけ,そのために病気が媒介されたり,あるいは化学的
または生物学的中毒を引き起すという偶発事故が,新聞や医療雑誌に
数多く報告されている。
(発明が解決しようとする問題点)
臨床オペレータ,臨床処理の監視者,および一般の人々を含むその
他すべての関係者が,誤って傷つくことのないような方法で,皮下注
射針またはそうした器具を処理することのできる装置が明らかに必要
である。
本発明の目的は,そうした装置を提供することにある。
(問題点を解決するための手段)
皮下注射針または類似器具のための本発明による安全装置は,針ま
たはその他の器具との相対的な動きによるか,あるいはそのものの上
に折り重ねることによって,前記の針またはその他の器具が,正常に
使用される第1の位置で前記針,またはその他の器具,あるいはその
支持体に接続させ,据えておくことができるようにした1個のさやか
ら成り,第2の位置では,さやが,針またはその他の器具を包み,か
つその第2の位置に,さやを保持するものである。
指摘した通り,本発明の安全装置は,皮下注射針に代表される穿刺
器具の保護に,一般的に適用できるものであるが,そうした器具の中
でも,皮下注射針は,最も広範に使用されている。
例えば,この装置は,生検針,傷針,すなわち,接着テープによる
ような皮膚表面に針を固定することのできる側面付属装置の付いた針
の保護や,静脈カニューレや腰椎穿刺針の保護に適用することができ
る。」(2頁左上欄16行~左下欄15行)
f「一方,針を,注射器胴部または連結器に取り付けられるように設
計したハウジング上に固定する場合,さやをハウジングに固定するの
が有利である。その際,さやは,針の長さに平行な構成要素を有する
方向に,ハウジングに対して動くことができる。それにより,さやは,
針が十分に含まれるまで針の長さに沿って動くことができる。」(3
頁左上欄1行~7行)
g「本発明を,添付図面について,さらに説明する。
第1A図および第1B図に示した本発明の実施態様は,針(5)を支持
しているプラスチック成形物の針ハウジング(4)と,ハウジング(4)の
上を滑ることができるように支持された,さやと共に要素を構成する
親指ガード(7)と合体したプラスチックさや(6)から成っている。
溝(8)も,ハウジング(4)に合体して縦に伸びている。
さや(6)は,拡大図により詳細に示してあるように,溝(8)に沿って
滑る自動ばね栓(9)と合体している。さやが溝(8)の端までいくと,自
動ばね栓(9)が,小さな「くぼみ」(10)に落ちて,滑動するさやを所定
の位置に固定する。
さやの長さは,第1B図に示すように,それが所定の位置に固定さ
れた際,針の鋭利な先端がさやに完全に含まれるような長さである。
ハウジング(4)は,どの標準的注射器胴部または連結器にも合うよう
に設計されている。
使用後,保護さやを固定位置まで伸ばし,安全な方法で針を含む。」
(3頁右上欄13行~左下欄13行)
(イ)乙9-1公報記載の発明
前記(ア)認定の事実によれば,乙9-1公報には,次の発明(以下「乙
9-1発明」という。)が記載されているものといえる。
a近い端及び遠い端を有する中空のさやと,
b該さや内に配置されたハウジングと,
c鋭い自由端と,前記ハウジングに支持された固定端とを有し,静脈
カニューレを運ぶための針と,
d前記ハウジングを一時的に前記中空のさやの遠い端に隣接して支持
する固着手段と,
eから成る,静脈カニューレ挿入のための安全装置。
(ウ)本件訂正発明1と乙9-1発明との対比
乙9-1発明の「さや」は,静脈カニューレ装置に適用される場合,
操作者がつかむものであるから,本件訂正発明1の「ハンドル」に相当
する(甲12)。また,乙9-1発明の「針」,「固定端」,「静脈カ
ニューレ」は,本件訂正発明1の「ニードル」,「固着端」,「カニュ
ーレ」にそれぞれ相当する。また,乙9-1発明の「ハウジング」は,
さや内に配置されるとともに,針を支持するから,ハンドル内に配置さ
れるとともに,ニードルを連結する本件訂正発明1の「ニードルハブ」
に相当する。
この点につき,原告は,乙9-1発明が注射器胴部のある皮下注射針
に適用され,注射器胴部又はハウジングが握られる上,さやはハウジン
グに当接しているだけであって,不安定で握ることができないから,乙
9-1発明の「さや」は本件訂正発明1の「ハンドル」に相当しない旨
主張する。しかしながら,前記(ア)b~eのとおり,乙9-1公報には
乙9-1発明を静脈カニューレ挿入装置にも適用し得ることが記載さ
れ,その場合には,注射器胴部に取り付けられていないから,さやが握
られることになる上,乙9-1公報にはさやがハウジングに接着された
りクリップ止めされたりすることも記載されているから,そうすること
により,さやを握ることができる。したがって,原告の上記主張は採用
することができない。
また,被告らは,乙9-1発明がニードルハブのニードル連結部が中
空なハンドルの近い端に接近するように中空なハンドルを手動で移動さ
せるための親指ガードを有し,これは本件訂正発明1における付勢手段
の機能に相当する旨主張する。しかしながら,親指ガードの移動対象は,
さやであって,本件訂正発明1の「ニードルハブ」に相当するハウジン
グではない。このため,親指ガードの機能は,ニードルハブを移動対象
とした付勢手段の機能にも相当せず,被告らの上記主張は採用すること
ができない。
したがって,本件訂正発明1と乙9-1発明とは,
「近い端及び遠い端を有する中空のハンドルと,
該ハンドル内に配置されたニードルハブと,
鋭い自由端と,前記ニードルハブに支持された固着端とを有し,カニ
ューレを運ぶためのニードルと,
前記ニードルハブを一時的に前記中空のハンドルの遠い端に隣接して
支持する固着手段と,
から成ることを特徴とする,カニューレ挿入のための安全装置。」
である点で一致し,次の3点で相違する。
a本件訂正発明1では,ニードルがカニューレを患者の定位置に案内
し運ぶのに対し(構成要件1-C),乙9-1発明では,ニードルが
カニューレを運ぶだけである点
b本件訂正発明1では,ニードルハブを中空なハンドルの近い端に向
かって付勢する付勢手段があるのに対し(構成要件1-D),乙9-
1発明では,これがない点
c本件訂正発明1では,ニードルハブから独立して移動可能であり,
前記ニードルハブを付勢手段の力に抗して一時的に中空のハンドルの
遠い端に隣接して保持するラッチであって,ニードルの長さよりも短
い振幅で手動により駆動され,前記ニードルの移動距離よりも短い距
離のみ移動するラッチがあるのに対し(構成要件1-E),乙9-1
発明では,前記ニードルハブを一時的に前記中空のハンドルの遠い端
に隣接して支持する固着手段しかない点
イ相違点に係る本件訂正発明1の構成の想到容易性について
証拠(乙9の2~4・13~18・20~25・29)によれば,次の
記載が認められる。
(ア)乙9-2公報の記載(別紙乙9-2公報添付図面参照)
a「可動コアを具えるか具えない皮下注射針を使用する,自動プラン
ジャ復帰式の注射器にして,注射器本体(1)を,注射器前端(4)で一体
化された2個の同軸的な円筒素子(2,3)で構成するとともに,該本
体(1)を上記前端(4)から,上記円筒素子(2,3)の前方に同軸線に設
けられた中空の円錐台状の座部(5)まで延設し,両円筒素子(2,3)
間の環状室(8)の一端を前記前端(4)で閉鎖し他端は開放し,円筒素子
(3)の中心部に,両端が開放され前端が前記座部(5)に連通する円錐台
部分(10)を終端とする円筒状空洞(9)を形成し,前記注射器本体(1)の
内部に,2個の同軸的な円筒(14,15)からなる軸線方向に移動可能な
プランジャ(13)を収納し,これら円筒(14,15)のうちの外方円筒(14)
を前端で開放し,後端で環状部(17)により閉鎖し,内方円筒(15)を前
端で閉鎖し,後端で上記環状部(17)を経て円板部即ちボタン(18)まで
延設し,これら外筒(14)と内筒(15)の間の第2環状室(16)の後端を前
記環状部(17)で閉鎖し,更に,上記内筒(15)の前端で,皮下注射針(7)
の可動コア(6)のための固定点を画定し,上記可動コア(6)の基部を,
外側面がアンダカット状で,前記円筒状空間(9)内を,それと協働して
気密,液密のシールを構成しつつ摺動するパッキン(20)内に収納した
ことを特徴とする注射器。」(特許請求の範囲請求項1)
b「プランジャ(13)の外方円筒(14)の前端の前方にスプリング(21)を
配設し,プランジャ(13)が注射器本体(1)内に押込まれると,上記スプ
リングが環状室(8)内で圧縮されるように構成したことを特徴とする
特許請求の範囲第1項に記載の注射器。」(特許請求の範囲請求項3)
c「本発明は,自動プランジャ復帰式のバイオプシー用の注射器,即
ち,後の分析のために,患者の身体から組織や体液のサンプルを抽出
する皮下注射器に関する。
従来,通常の皮下注射針を装着してバイオプシーに使用される通常
の皮下注射器,或は移動コア等の装置を設けられた皮下注射器が知ら
れている。
バイオプシーは,X線ビューアーが同時に使用されるか否かに拘ら
ず,2段階で行なわれる。即ち,皮下注射器に適切に装着された針を,
分析のためのサンプルを必要とする組織に刺す第1段階と,この組織
から微細な粒子或は液滴を吸込む第2段階の2段階である。この操作
には,一方の手で針及び注射器を確実に保持し,他方の手で注射器の
可動部品,つまりプランジャを引出すことにより,分析用の前記組織
または体液が針から吸込まれるための負圧を生じさせることが要求さ
れる。」(2頁左上欄9行~右上欄5行)
d「以上のことから理解されるように,針の挿入時のみならず,分析
用の組織のサンプルを吸引する際にも一方の手のみで安全に操作で
き,可動コアの存在の如何に拘らず,通常の皮下注射針を利用できる
ような皮下注射器に対する技術的な問題の解決が待たれている。
本発明は,上記した技術的問題を解決するために,可動コアの存在
に拘らず,通常の皮下注射針を装着できる,適宜のプラスチック,ガ
ラス,或は金属からなる注射器を採用し,この注射器の本体を,環状
空洞部に包囲された円筒形の中心空洞部を設けられた円筒形とし,こ
の中心空洞部にプランジャを気密,液密に設けて摺動可能とし,該プ
ランジャを,2個の同軸的な円筒体で構成するとともに,プランジャ
の一端にシールを設け,これら両円筒体の内部に,針内に異物が侵入
するのを防止する皮下注射針の可動コアを収納したものである。
本発明によれば,以下の利点が得られる。
①針の挿入時,及び分析用の組織のサンプルの吸入時のいずれに
おいても,一方の手のみで注射器を操作できる。
②吸入段階では,注射器・プランジャが自動的に動作する。
③針の挿入部近傍の組織を安定な姿勢に維持することを必要とす
るようなバイオプシーにおいても,他人の手を借りる必要がない。
以下,本発明の実施例を図面を参照して説明する。
図面において,1は注射器本体を示し,この注射器本体1は,2個
の同軸的な円筒素子2,3で構成されている。これら円筒素子2,3
は,注射器本体1の前端4で結合されて一体的な肩部となり,この肩
部が前方に延ばされ,両素子2,3と同軸的な円錐台状の座部5とさ
れている。6は,この座部5内を摺動させられる皮下注射針の可動コ
アを示す。7は通常の皮下注射針で,上記座部5に装着される。」(2
頁右上欄19行~右下欄16行)
e「外方の円筒素子2の前記前端4から最も遠い端部は,2個の弾性
変形が可能な,つまり可撓性を有する突起11に接続し,これら各突
起11には戻り止め12が設けられている。
13は,同軸的な外筒14と内筒15からなるプランジャで,上記
外筒14は,前端を開放されるとともに後端を環状部17で閉鎖され,
この環状部17により,内筒15の外壁と一体化されている。」(3
頁左上欄1行~10行)
f「皮下注射針7の可動コア6は,プランジャ13の内筒15の前端
に取付けられている。同コア6の基部は,外側面がアンダカット状の
パッキン20に被覆されている。これは,注射器本体1の中心空洞9
内で上記パッキン20を摺動させ,気密,液密のシールを構成させる
ためである。」(3頁右上欄1行~6行)
g「第4図は本発明の他の実施例を示し,本実施例では前記実施例の
円錐台状リップシール19にかえて,プランジャ13の外筒14の前
端にスプリング21を設けている。」(3頁右上欄7行~10行)
h「次に,本発明による皮下注射器の作用を説明すると,皮下注射針
7をバイオプシーのための患者の部位に挿入する前に,まずプランジ
ャ13のボタン18に親指を当て,突起11で構成された戻り止め1
2に環状部が係合して弾性的に位置決めされるまで前方に押込む。こ
の状態で,注射針7を,分析のために抽出すべき組織のサンプルの深
さまで刺し込む。その後,上記突起11を横方向に押圧すると,環状
部17が戻り止めから解放されてプランジャ13が戻される。この動
作は,注射器本体1の環状室8内の圧縮空気により自動的に行なわれ
るか,或はその時点まで圧縮されていたスプリング21を介して行な
われる。
このようにプランジャ13が戻る間に,注射器本体1の中心空洞9
及び円錐台部分10には適当な負圧が発生し,少量の組織または流体
が針7から吸込まれる。」(3頁左下欄1行~17行)
(イ)乙9-3明細書の記載(別紙乙9-3明細書添付図面参照)
a「本発明は,輸液用カテーテル配置装置に関し,特にそのような装
置であって,カテーテルが鋭利な針を内部的に通過し,使用の間,針
はその装置に正常に残るものに関する。」(抄訳1頁24行~26行)
b「すべての先行技術の装置は,除去可能な部材を必要としており,
保護がなお可能な場合には,針先が鋭い刃からカテーテルを保護する
ために何らかの種類の付加的な装置の使用を必須とする。事実,現在
利用されているすべてのこのような装置は,使用のためにカテーテル
を完全に挿入した後において,カテーテル上に針を露出させたままで
ある。さらには,これらの装置の多くは,相当に複雑であって,操作
が困難である。
私は,装置を包装するために使用されるものを除き,いかなる除去
可能な部材も有せず,針の完全な引込みと,針先の鋭い刃による損傷
からカテーテルを完全に保護することと並んで,挿入されたカテーテ
ルを殺菌保護することを提供し,また,極めて簡素な2ないし3段階
操作のために設計された輸液用カテーテル配置装置を発明したのであ
る。」(抄訳2頁12行~22行)
c「図9は,前述の図面の輸液用カテーテル配置装置の透視の図であ
って,針制御手段から伸びたフラッグ様の指グリップによる制御の下,
伸ばされた位置にあって針と共に皮膚を通して血管に挿入される針を
示している。
図10は,図9と類似の透視の図であって,針の先が血管中に位置
させられ,カテーテル制御手段がカテーテルを針を通って更に血管中
に前進させるべくハウジング中に前進させられた後の装置を示してい
る。
図11は,上述の図面と類似の透視の図であって,カテーテルが針
を通って完全に前進させられ,針が引き込まれる前にカテーテルコネ
クタがハウジングの後端にロックされた時の装置を示している。
図12は,同装置の透視の図であって,ハウジング中に完全に引き
込まれた針を,カテーテルの先端を正しい位置に保持するために血管
上の皮膚に置かれた指と共に示している。」(抄訳3頁19行~4頁
1行)
d「図11及び12に示すように,カテーテルコネクタ44がハウジ
ングの後ろの正しい位置にロックされた後,図12に示すように,操
作者は,患者の皮膚を通してカテーテル33の先端を押し下げ,図1
2に示すように,フラッグないし指グリップ42を後方に移動させる
だけで,針30はハウジング内に引き込まれる。」(抄訳5頁15行
~18行)
(ウ)乙9-4明細書の記載(別紙乙9-4明細書添付図面参照)
a「本発明は,針外カテーテル型のカテーテル装置の分野にあり,静
脈内に液体を供給するために利用される。」(抄訳2頁6行・7行)
b「本来の構成によれば,血管中へのカテーテルの配置の直後に静脈
穿刺針をカテーテルないしカニューレから引き抜く際であって,カテ
ーテルに静脈注入セットを接続する前には,針外カテーテル装置は汚
染された血液の流出と汚染を被る。これは様々な理由により極めて望
ましくないことである。非衛生的であることおよび不都合であること
に加えて,このことは患者に恐怖を与えがちである。」(抄訳2頁1
3行~17行)
c「図1は,静脈注入セットの供給チューブに接続されて静脈穿刺の
準備ができた装置を示す一実施形態の絵画的図であり;
図2は,図1の2-2線から取られ,静脈注入チューブを立面で示
す垂直軸断面であり;
図3は,図2のそれと対応し,静脈穿刺の後に停止位置まで引き込
まれたスタイレット針を示す図であり;」(抄訳2頁24行~29行)
d「接続チューブ14の把持端14bを一方の手でしっかりと保持し
ながら,更に血管中へとカテーテル10を針軸13aに対して相対的
に前進させるよう,他方の手でハウジング11を前方へ押しやる。す
ると,ハウジング11が静止したままである一方で,図3に示すよう
に,針ハブ13cがストッパとして爪リング11bの後ろで壁11a
にしっかりと着座するまで,部分14aが後方へ引かれる。好適な実
施形態において,針軸13aと鋭利な端13bとは,カテーテル10
から完全に引き抜かれてハウジング11により保護的に包まれる。」
(抄訳3頁19行~25行)
(エ)乙9-13明細書の記載(別紙乙9-13明細書添付図面参照)
a「本発明は,歯科医師及び医師が薬剤及びその他の液体を体組織に
注射するために利用する種類の皮下注射器ないしその種のものに関す
る。特に,本発明は,歯科専門職において,局所麻酔薬を注射するた
めに利用される使い捨てカプールに関する。
皮下注射に現在利用されている皮下注射器は,体組織へと液体が通
る細い管状針を携行したプランジャ動作装置を特徴としている。視界
にさらされる管状針は,偶然の損傷や,滅菌の間ないしある場所から
ある場所への移動の間における汚染を被りやすく,さらに,患者が針
を見ることによる不安の原因となる。
したがって,使用しないときに針を保護し,もって費用のかかる損
傷した針の交換を省き,また,汚染を無くす,自動的に引き込まれる
針を有する注射器,及び,露出した針を見ることによる予測と心配と
興奮とを除くことにより,患者の改善された心理的傾向を提供するこ
とが目的である。
本発明の他の目的は,簡便で安価であり,実用的な構成であり,良
好な動作と無菌の状態を容易に維持する,使い捨てカプールを使用し
た型の改良された歯科注射針を提供することである。
更に他の目的は,歯科用途に便利であって,患者の組織への挿入の
直前まで針を隠ぺいし保護することができ,もって針を患者の視界の
外に置ける,新規で改良された皮下針注射器を提供することである。
本発明の更に他の目的は,非常に効果的で,特段に実用的で,低コ
ストで容易に製造できる上述のごとき性質の新規で改良された注射器
を提供することである。」(抄訳1頁10行~2頁1行)
b「図1は,我が改良された皮下注射器の典型的な好適な形態の断片
的な立面図であり,
図2は,針が引き込まれた位置を示している,図1の注射器の断片
的な垂直断面図であり,
図3は,図2と同様だが,針が突出した位置を示している,断片的
な垂直断面図であり,」(抄訳2頁5行~10行)
c「いずれにせよ,圧を解放すると,伸びようとする前方に配置され
たばねの偏倚により,自動的に針が引き込まれ,カプールが復帰する。
液体を注入するため,わずかな圧を親指掛けに与えて針をハブの外に
完全に繰り出し,追加的な圧によって,カプールの後ピストン型スト
ッパがプランジャによりカプールの壁に対して前進し,その中の液体
が針から追い出される。注射の場所から針を取り除き,親指掛けから
圧を解放すると,ハブ中に針が自動的に引き込まれる。」(抄訳4頁
7行~12行)
(オ)乙9-14明細書の記載(別紙乙9-14明細書添付図面参照)
a「本発明は,皮下注射器ないし針に関し,特に人及び動物の体に自
動的に注射を行うための自動作動装置に関係する。」(抄訳1頁14
行・15行)
b「本発明の目的の一つは,大きく増加した数からくる注射を行う医
療問題を解決することである。一定の病気の罹患者が毎日ないし数日
の間隔をおいて,また数年の間隔をおいて,恐らくは残りの半生の間
ずっと,注射を受け続けねばならないような,いずれの場合において
も,本発明は適用し得る。」(抄訳1頁20行~23行)
c「実務は,患者に自ら注射を行うことを教えることは可能であろう
ということを示しているものの,そうした患者への教唆の試みの多く
は,心理的障害及び必要な技能の欠如のために,成功しているとは証
明されていない。このような場合において,注射による継続的治療は,
罹患者に,時間及び費用のロスを含め,多大な不便を引き起こしてい
る。これらの不便は,本発明による完全に自動的に作動する皮下注射
器により対処することができる。」(抄訳2頁4行~10行)
d「本発明の自動注射器の特徴の一つは,その中で可動なピストンが
あり,その先端に皮下針を有した注射シリンダであって,そのシリン
ダが円筒バレル中に嵌入するように構成され,前記バレルの後部がこ
れを囲むケーシングを有し,このケーシングがばねに駆動されたとき
には,バレルに対して回転可能なものを含むことである。ピストンは,
このピストンに装着されたプランジャによってケーシングに接続され
ており,もってケーシングの回転の間,シリンダ及びピストンに対し
て前後への往復運動を与える。」(抄訳2頁14行~20行)
e「そして,レバーハンドルを今一度操作することができて,ピスト
ンを解除して巻きばねによりピストン及びシリンダを前方に駆動して
針を皮膚に入って行かせ,液を注射し,液の注射の完了に応じて引き
出すことができる。」(抄訳3頁6行~9行)
f「図3は,針が前進した位置にあり,ピストンが液を針に向けて押
し出し終えた時の装置の横断面図である。
図4は,断面での不透性キャップと共に引き込まれた位置における
針を示す立面図である。」(抄訳3頁22行~25行)
(カ)乙9-15公報の記載(別紙乙9-15公報添付図面参照)
a「本発明はランセツト注射器,いつそう詳しくは,検査の目的で血
液サンプルを採取するための一回使用,すなわち使い捨てランセツト
と共に用いるようになつている注射器に関する。」(3頁右上欄20
行~左下欄3行)
b「たとえば,侵入深さ,切開部を作るのに用いられる力,挿入,抜
き出し角度が操作している人によつて異なるのである。また,操作者
あるいは患者がランセツトまたは行なわれている作業を見ることがで
き,これはある場合には望ましくない。
これらの問題,すなわち欠陥のうちの1つまたはそれ以上のものを
解決するために,がね作動式のランセツト注射器が提案されているが,
満足できるものがまつたくない。たとえば,あるものは構造が比較的
複雑であり,高価である。また,ある構造では,ランセツトを駆動,
錠止,引込めるという機能を果すために複数のばねと比較的数の多い
要素を必要とする。また,ある場合には,ランセツトが見えるので,
特に糖尿病患者が自宅で血糖検査を行うときなどに切開を自分でする
場合,患者に不安感を与える可能性がある。
したがつて,本発明の目的は,比較的安価であり,使用が簡単かつ
効果的であり,前記問題の1つまたはそれ以上のものをほぼ解決する
改良血液ランセツト注射器を提供することにある。」(3頁左下欄1
1行~右下欄12行)
c「ホルダ16,ランセツト60は迅速に直線状に中立位置に引込む。
すなわち,針64の先端が切開部から第5図に示すようにハウジング
12内に引込められる。ばね34のハウジング12に対する寸法は,
ホルダ16および制御部材48がこの中立位置にあるときに,ばね3
4がその自由長位置すなわち中立位置にある,すなわち,ばね34が
ほぼ引張り,圧縮のいずれの状態にもないように選ばれる。第1図の
引込位置から第5図に仮想線で示す皮膚穿刺位置まで移動するとき
に,ランセツトをホルダの中立位置すなわちばね34の遠位端の自由
長位置(第5図に実線で示す位置)を通して遠位方向に移動させるの
は,主としてホルダ16の慣性またはモーメントである。ばねの遠位
端がこのばね34が主として移動中のホルダ16の慣性によりその中
立,すなわち自由長状態にあるときにとる位置を越えて遠位方向に延
びているので,ばねは引張状態になり,したがつて,針の先端を穿刺
位置から中立位置まで迅速に引込める。」(5頁左下欄12行~右下
欄12行)
d「第1図は本発明の好ましい実施例であるランセツト注射器の正面
図,
第2図は第1図の注射器の横断面図」(7頁右上欄13行~15行)
e「第5図は第1図の注射器の上部を示す断片正面図で,ランセツト
をその皮膚穿刺位置で示し,ランセツト,ホルダを中立位置で示す図」
(7頁右上欄19行~左下欄1行)
(キ)乙9-16明細書の記載(別紙乙9-16明細書添付図面参照)
a「本発明は,使用後に注射器のバレル部分の内部に引き込むことの
可能なカニューレを有する,改善された引込み可能な注射器に関し,
より具体的には,薬物及び他の医薬製剤を皮下注射投与するための注
射器であって,使用後に破棄することの可能な注射器に関する。これ
により,汚染された器具に人が触れてしまうという問題が回避され
る。」(抄訳1頁5行~8行)
b「後天性免疫不全症候群(AIDS)及び肝炎を管理する医療保険
団体における従前からの問題の出現と共に,注射器技術の改善が求め
られている。従来技術は,引込み式のカニューレ構造を示しているも
のの,幾つかの技術的な問題は,まだ残されたままである。注射器を
使用する医療関係者にとっては,引き込むことの可能な構成は,必然
的に,単純で,操作しやすく,信頼性の高いものでなければならない。
さらに,現在の技術は,注射器における円筒形の本体内に引き込める
ように取り付けられたカニューレ及びハブアセンブリを開示していな
い。」(抄訳1頁10行~16行)
c「本発明の目的は,改善された使い捨ての注射器を提供することに
ある。この注射器は,注射物質が排出された後に,その汚染されてい
る可能性のある部品を安全に保存するような装備を有している。
本発明における別の目的は,内部的なハブ及びカニューレを有する
上記のような注射器を提供すること,及び,注射器のバレル内にこれ
らの部品を引っ込めるための組込みツールを提供することにある。
本発明における更に別の目的は,引っ込められた部品を廃棄のため
の位置に固定するためのロックメカニズムを提供することにある。
本発明の特徴点は,注射後の汚染された注射器に対する医療従事者
による接触を減少することにある。
本発明における別の特徴点は,単純かつ経済的な方法で,使用済み
の注射器の廃棄を促進することにある。
概要
本発明は,注射物質の流体を投与するための使い捨ての注射器を開
示している。この注射器は,内部に取り付けられたハブ及びカニュー
レを有している。これらは,その内部に引き込まれた注射器の円筒形
の本体から切り離して,廃棄のための位置に固定することの可能なも
のである。
この注射器は,ハブ及びカニューレを円筒形の本体から切り離すた
めの連結器,及び,カニューレに隣接するピストン面に取り付けられ
ている引込みツールを有している。この引込みツールは,前記円筒形
の本体内にハブ及びカニューレを引き込む際に,前記連結器に結合す
ることの可能なものである。円筒体の後方には,引込み位置に対して
カニューレを確実に固定するための引込みカニューレロックが設けら
れている。これにより,流体チャンバから注射物質の流体が排出され
た後,引込みツールがハブ手段及びカニューレに結合され,そして,
これらが円筒形の本体内に引き込まれ,その内部において確実にロッ
クされる。」(抄訳1頁24行~2頁19行)
d「図1は,本発明の注射器を示す断面図である。この図の注射器は,
注射のための適切な位置にあるバレルから,プランジャーが引き出さ
れた状態にある。
図2は,図1に示した注射器の断面図である。この図の注射器は,
注射物質を注射器から排出した後に,プランジャーがバレルに挿入さ
れている状態にある。
図3は,図1に示したプランジャーの端部における詳細な断面図で
ある。この図のプランジャーは,カニューレアセンブリにおける引込
み可能なハブ内にロックされている。すなわち,この図は,バレル内
に引き込まれるプロセスにあるハブを示すための部分的な断面図であ
る。
図4は,図1に示した注射器の断面図である。この図の注射器は,
カニューレアセンブリがバレル内に完全に引き込まれているととも
に,プランジャーがバレルのグリップエンドにねじ込まれている状態
にある。」(抄訳2頁23行~3頁3行)
(ク)乙9-17明細書の記載(別紙乙9-17明細書添付図面参照)
a「この発明は,概略的にいえば,使い捨ての注射器に関する。具体
的には,本発明は,使い捨ての皮下注射器に関する。この注射器は,
血清,抗生物質等の投与において使用することの可能なものであり,
さらに,汚染及び負傷を避けるために,その鋭利な先端を有するカニ
ューレを注射の後で引き込むことが可能となっている。」(抄訳1頁
6行~9行)
b「従来技術における多くの注射器が抱えている深刻な問題は,使用
後に,とがっているカニューレがむき出しになっていることから生じ
ている。注射を施す者は,うっかりして,汚染されたカニューレで皮
膚を刺してしまう可能性がある。この少なくない汚染の発生は,様々
な病気(肝炎及び後天性免疫不全症候群(AIDS)を含む)を引き
起こす可能性がある。」(抄訳1頁19行~23行)
c「したがって,本発明の目的は,注射の後の負傷及び汚染を実質的
に防ぐ,改善された皮下注射器を提供することにある。
本発明における他の目的は,流体を排出した後に注射器バレル内に
完全に引き込むことの可能なカニューレを有する改善された皮下注射
器を提供することにある。
本発明における更に他の目的は,ピストンにおける前側の端部をカ
ニューレにおける後側の端部に係合することの可能な改善された皮下
注射器を提供することにある。ピストンの係合手段は,グリップ手段
あるいはねじ手段のいずれかである。
本発明における更に他の目的は,改善された皮下注射器であって,
そこからピストンが完全に引っ込んでしまうことを防止する皮下注射
器を提供することにある。
本発明における更に他の目的は,注射器バレルにおける前側の端部
と後側の端部との間の位置に配された変形可能な部分によって,ピス
トンが完全に引っ込んでしまうことを防止する改善された皮下注射器
を提供することにある。これにより,引っ込めた後のカニューレの先
端が突き出ることを防止するために,バレルを湾曲させることが可能
となる。
本発明における更に別の目的は,負傷及び汚染を実質的に防止する
ための手段を有する採血のための装置を提供することにある。
本発明における他の目的は,注射器バレル内に完全に引き込むこと
の可能なカニューレを有する採血のための皮下注射器アセンブリを提
供することにある。」(抄訳2頁15行~3頁1行)
d「本発明の一実施形態では,ほぼチューブ状の中空のバレルを有す
る改善された皮下注射器が提供される。このバレルは,前側の端部に
おいて実質的に閉じている一方,後側の端部において開放されている。
このバレルの内部には,往復可能なチューブ状のピストン手段が設け
られている。このピストン手段は,前側の端部に,ほぼ環状の弾性的
なゴム部材を有している。このピストンの前側の端部には,注射中に
前記バレル構造から突き出ているカニューレを引き込むための手段が
設けられている。この引込み手段は,カニューレのベースに対して接
合することの可能な係合手段を,ピストンにおける前側の端部に有し
ている。したがって,注射の後,カニューレを容易かつ安全にバレル
の内部に回収することが可能となっている。」(抄訳3頁7行~15
行)
e「図1Aは,内部に保持された流体を注射する前の本発明の注射器
の正面断面図を示す図である。
図1Bは,流体の注射を完了した後であって,カニューレを引っ込
めた後の本発明の注射器を示す図である。」(抄訳3頁24行~27
行)
(ケ)乙9-18明細書の記載(別紙乙9-18明細書添付図面参照)
「針を適切に廃棄することによって,針刺し受傷を避けることが意図
されている。
通常,使用済みの針は,廃棄する前に,使用前に元々針を覆っていた
カバーと同じカバーか,類似のカバーないし管をかぶせている。この方
法は,針に向かって手を動かすことが必要であり,かぶせる過程で針刺
し受傷を促してしまう。
静脈投与システムは,引込み可能な安全針を有する。鋼針静脈投与装
置は,汚染された静脈針を安全に再度覆って,健康管理従事者への不意
の針刺し受傷の危険を減ずる方法を提供する。
使用の際には,ウイング50をつかみ,ニプル16から管状カバー3
8を取り除く。ウイング50をつかみ,針を所定の場所へスライドさせ
る。針を使用した後,ウイング50及びタブ52を図2に示すように
別々につかみ,タブ52及び管20をウイング50から遠ざけるように
軸方向に引っ張り,図3に示すように外管10から管20を繰り出し,
針30及び鋭利な先端34を外管中へ引き込む。」(抄訳2頁3行~1
4行)
(コ)乙9-20公報の記載(別紙乙9-20公報添付図面参照)
a「本発明は,患者の静脈あるいは他の組織内に薬剤を注入するため
の注入装置に関する。
(従来の技術及び発明が解決しようとする問題点)
病院において患者に静脈用溶液を投与する際,とりわけ長期にわた
る投与の際に生じる大きな問題として,静脈用液を注入した静脈から
静脈用液が漏洩することがある。一般にこの漏れは,先端が鋭利な留
置カテーテルすなわちバタフライ針によって静脈が内部裂傷するため
に生じる。その結果,溶液が漏れたり,軟組織の損傷が生じるが,静
脈内に導入された薬剤が,局所刺激を与えるもの或いは軟組織に糜爛
を生じさせるものである場合は重大な問題となる。」(2頁左上欄7
行~20行)
b「本発明は,患者の静脈あるいは他の組織内に挿入する時に限って
針の鋭利な先が露出すなわち覆いが取られた状態とし,挿入が完了す
ると直ぐに自動的に覆いがなされるか引き込まれるアセンブリーを提
供することによって,既知の静脈注入および皮下注入装置の欠点を解
消するものである。
本発明の装置は,先が鋭利な針の中に入れ子式に収納された先が鈍
いカテーテルを含み,カテーテルと針は,バネで互いに附勢するよう
になっている各々の関連するハブに接続されている。受動的な状態に
ある時は,ハブは互いに実質的に接続し,カテーテルの鈍い先が針の
鋭利な先から突き出る。この装置を静脈あるいは他の組織に挿入する
場合は,楔手段を操作して,ハブと,ハブに取りつけられたカテーテ
ルならびに針を楔で留め,適切な間隔を開けることによって,針の鋭
利な先がカテーテルの鈍い先よりも突き出すようにする。挿入後は,
楔手段を解除すると,バネによってハブが受動的な状態に戻り,カテ
ーテルの鈍い先が針の鋭利な先よりも突き出す。したがって,留置期
間中は,針の鋭利な先は実質的に覆われて,針を挿入した静脈あるい
は他の組織を損傷することはない。」(2頁右上欄10行~左下欄1
4行)
c「第1図は,静脈内への挿入前あるいは挿入後の本発明の装置のの
(判決注:「装置の」の誤記と認める。)受動的な状態を示す斜視図,
第2図は,挿入に際して針の鋭利な先を露出させるために,装置の柔
軟な翼を畳んだ状態あるいは挟んだ状態を示す第1図と同様の斜視
図,…(中略)…第6図は,装置の部分を附勢するために別のバネを
用いた第1図のものと同様な装置の斜視図である。
第1図に全体を10で示す本発明の望ましい一実施態様は,前部ハ
ブすなわち針付ハブ11と,後部ハブすなわちカテーテル付ハブ12
とから成り,これらのハブは,開いた一般に三角形のバネ13によっ
て相互に連結され,バネの開いた端部をハブ11と12に取りつけて
ハブを互いに近接した位置に附勢する。」(2頁右下欄1行~20行)
d「さらに,故意に針の鋭利な先を露出させようとしない限り,本装
置には鋭利な先が存在しないので,装置の使用中あるいは装置を廃棄
する際に,作業に携わっている要員が誤って怪我をしたり汚染された
りする可能性が低減する。」(3頁右下欄19行~4頁左上欄4行)
(サ)乙9-21明細書の記載(別紙乙9-21明細書添付図面参照)
a「この発明は,医学及び科学の分野に関する。具体的には,この発
明は,汚染された注射針による不注意による刺し傷から,皮下注射針
のユーザを保護するための安全装置である。」(抄訳1頁5行~7行)
b「汚染された注射針が露出されている期間では,ユーザは,この針
によって,負傷及び可能性のある感染の危険にさらされている。した
がって,注射が実行されるたび,あるいは血液が採取されるたびに,
ユーザは,偶発的な刺し傷を介した,汚染された皮下注射針からの病
原体の局所的な侵入の可能性にさらされている。この発明は,上記の
ような不注意による偶発事故の発生を防止するという目的を考慮し
て,設計されている。」(抄訳1頁16行~21行)
c「この固定メカニズムは,対象者から針が引き抜かれたときに,こ
の針を完全に封入する位置に,安全シース(さや)を自動的に固定す
るものである。発明者は,皮下注射針が引き抜かれているときに,安
全シースが同調して突き出されていることを主張する。このために,
針が対象者の表面との接触を失うのとほぼ同時に,汚染された注射針
の先端が安全シースの内部に封入されることを確実にすることが可能
となる。」(抄訳2頁5行~9行)
d「図2は,この発明のツールにおける観察に基づく斜視図である。
この図では,スライド部材16が針の先端をカバーするポイントまで
完全に突き出されている。
図3aは,図2に示した本発明を,側面から臨む断面図である。こ
の図では,針の端部を露出させるために,スライド部材(16)の本体が
わずかに後寄りの位置にセットされている。図3bは,図2に示した
本発明を,側面から臨む断面図である。この図では,スライド部材(1
6)の本体が固定部材(28)の本体の内部に完全に引っ込められている。
図3cは,図2に示した本発明を,側面から臨む断面図である。こ
の図では,スライド部材(16)の本体が,針の先端を越えて,完全に突
き出されている。」(抄訳3頁3行~11行)
e「図2のツールは,2つのほぼ円筒形の形状を有する部材,すなわ
ち,固定部材(28)及びスライド部材(16)を備えている。図2のツール
を使用するために,ユーザは,まず,24左及び24右を同時に圧迫
して,これによって24の幅を狭めることによって,36から16を
解放する。次に,ユーザは,図6に示されているように,スプリング
30に対抗して,チャネル26内に24を引っ込める。この動作は,
図3aに示されているように,チューブ42の先端41を16分の3
インチほど露出させるという目的を果たす。16をチャネル26内に
保持するために,ユーザは,ばね板18を押し下げて,スプリング3
0がばね板18を突き出すことを可能とする。これにより,ばね板1
8の傾斜している端部17がグルーブ19内に係合し,そして,24
が26内に保持されて,図3aに示されているように,41を露出さ
せる。先端41を露出させた状態で,ユーザは,対象者の表面層を介
して41を突き刺すことに取り掛かることが可能である。ユーザは,
針を更に深く進めたときに,スプリング30によって与えられている
テンションに対抗して,16が28内に押し込まれることを見いだす
はずである。さらに,ユーザは,図3bに示されているように,弾力
性のあるばね板18がその自由位置に跳ね戻ることに気付くはずであ
る。針を除去する際,ユーザは,彼あるいは彼女が針を引き抜くとき
に,スプリング30によって16が前方に突き出されていることに気
付くはずである。」(抄訳3頁24行~4頁9行)
(シ)乙9-22明細書の記載(別紙乙9-22明細書添付図面参照)
a「本発明は,生物学的に許容されるペレットを動物の皮下に埋め
込むために有用である装置及び方法に関係する。より詳細には,本
発明は,ペレットを格納する針が動物に皮下挿入され,次に,ペレ
ットの周りから引き戻されることを可能にさせ,このようにしてペ
レットを埋め込む装置に関する。」(抄訳1頁4行~7行)
b「これまでは,ペレットは,ある種のプランジャーを使用してペ
レットが針から押し出される機器を使用して埋め込まれていた。…
(中略)…かなり大きい圧力がペレットに加えられ,ペレットは,
大きな注意が払われない限り,分解するか,ひびが入るか,または,
さもなければ,堆積時に破損し,デリバリー特性を変える。複数個
のペレットが1本の針から埋め込まれる場合,すべてのペレットが
1箇所に堆積しないということもあり得る。」(抄訳1頁11行~1
9行)
c「図5は,図1の装置の垂直断面の側面図である。」(抄訳3頁5
行)
d「キャリッジは,キャリッジをトラックの前方部分から後方部分
へ移動させる図1に示されていない手段によって,トラックに沿っ
て推進される。推進の手段は,キャリッジを後方へ押すら旋状コイ
ルばねでもよく,キャリッジを後方へ引き寄せるため一端がキャリ
ッジ10の後方に取り付けられているコイル状の渦巻きばねでもよ
く,または,キャリッジを後ろに押すための圧縮ガスの円筒体でも
よい。好ましい手段は,キャリッジを後方へ押すら旋状コイルばね
である。」(抄訳4頁9行~14行)
e「本装置は,針50の鋭利な斜端を,少なくともロッド28の前
方先端まで,動物の皮下に挿入し,引き金32の先端40を下向き
に移動させる引き金32を引き,これによって,キャリッジを放出
し,ばね22が伸び,キャリッジをトラック4の後背部24へ後方
に押し付けることを可能にすることによって利用される。ペレット
53は,針50がペレットの周りから回収される間に静止したまま
であり,ペレットは,次に動物の皮膚の下にとどまる。」(抄訳8頁
6行~11行)
(ス)乙9-23明細書の記載(別紙乙9-23明細書添付図面参照)
a「ポケットクリップ16を単純に中に押し込むことにより,ラッ
チが外され,また,ライティング・ポイントが引込みのために自由
になる。これにより,プランジャと共に,ボール・カートリッジの
ピン19は,スプリング22により,後方に移動する。」(抄訳3行
~6行)
b「ユニット6を引き込むためにラッチ留めを外すバー18に,例
えばセパレイト・ボタンのような適した方法を採用することもでき
る。」(抄訳8行・9行)
(セ)乙9-24明細書の記載(別紙乙9-24明細書添付図面参照)
「例えば,ガイド106を用いて組み立てると,作動部材110は,
横の開放部111に対して配置されており,それを通して内側のくぼ
みに接触できる,また,作動部材110は,できれば,横の胴の開放
部111を通ってポケットクリップ部材112と一体化して,オペレ
イティング・ポジションの位置にある。ライティング・ユニットが引
き込まれた場合が図1にある。ライティング・ユニット103が突出
した場合が図2である。」(抄訳3行~8行)
(ソ)乙9-25明細書の記載(別紙乙9-25明細書添付図面参照)
「万年筆の引込み機構の操作レバーは,クリップ44内部の43を
支点としているヒンジレバー42から構成される。同部材のフィンガ
ーピース47は,圧縮ばね46に押され,プッシュボタン37に差し
込まれたチェックリング47に抗している(図2)。」(抄訳3行~6行)
(タ)乙9-29文献の記載内容(別紙乙9-29文献写真参照)
昭和51年にグッドデザイン賞を受賞した,クリップの横にあるボ
タンを押すことにより,ケースの内部にペン先が収納される,ボール
ペンである「ボクシーBX-100」の写真。
(チ)想到容易性について
a乙9-2公報記載の発明
前記(ア)認定の事実によれば,乙9-2公報には,次の発明(以
下「乙9-2発明」という。)が記載されているものといえる。
「バイオプシー用注射器において,プランジャを中空な注射器本体
の後端に向かって付勢するスプリングと,プランジャから独立して
移動可能であり,プランジャをスプリングの力に抗して一時的に注
射器本体の前端に隣接して保持する戻り止めが形成された可撓性を
有する突起であって,手動により駆動され,可動コアを具えるプラ
ンジャの移動距離よりも短い距離のみ移動する突起とを設け,突起
を手動で押圧して,戻り止めによるプランジャの保持を解除するこ
とで,組織のサンプルを吸引するためのプランジャの後退による負
圧の発生を,片手のみで行えるようにした注射器。」
b想到容易性の検討
(a)乙9-2発明について
乙9-2発明には,次の技術が開示されているものといえる。
ⅰプランジャを中空な注射器本体の後端に向かって付勢するス
プリングと,
ⅱ前記プランジャから独立して移動可能であり,前記プランジ
ャを前記スプリングの力に抗して一時的に前記中空の注射器本
体の前端に隣接して保持する戻り止めが設けられた突起であっ
て,可動コアの長さよりも短い振幅で手動により駆動され,前
記可動コアの移動距離よりも短い距離のみ移動する突起。
乙9-2発明の「注射器」は,操作者がつかむものであるから,
本件訂正発明1の「ハンドル」に相当する(甲12)。また,乙9
-2発明の「後端」,「スプリング」は,本件訂正発明1の「近い
端」,「付勢手段」にそれぞれ相当する。さらに,乙9-2発明の
「突起」は,一体となった戻り止めにより,可動コアを中空の注
射器本体に固着させるとともに,これを解除し,かつ当該注射器
本体内に後退させるための部材であるといえるから,前記2(2)
アのとおり,本件訂正発明1の「ラッチ」に相当する。
この点につき,被告らは,乙9-2発明の可動コアが針状で針
の構成要素でもあるから,本件訂正発明1のニードルに相当し,
可動コアを連結する乙9-2発明のプランジャが本件訂正発明1
のニードルハブに相当する旨主張する。しかしながら,前記(ア)
a・d・fのとおり,乙9-2公報には,可動コアとは別に注射
針が存在する旨の記載がある。また,本件訂正発明1の「ニード
ル」は,カニューレを患者の定位置に案内し運ぶためのものであ
って(構成要件1-C),医療従事者の針刺し事故を防ぐために後
退させられるものであるのに対し(甲2。10欄45行~50行),
乙9-2発明の「可動コア」は,針状の部材ではあるものの,前
記(ア)c・dのとおり,針内に異物が侵入するのを防ぐためのも
のであって,組織や体液を針から吸い込むための負圧を生じさせ
るために後退させられるものであり,両者は目的・機能を全く異
にする。したがって,被告らの上記主張は,採用することができ
ない。
以上より,乙9-2発明には,相違点bに係る構成要件1-D
に対応した「ニードルハブを中空なハンドルの近い端に向かって
付勢する付勢手段」という構成がないため,乙9-1発明に乙9
-2発明を組み合わせても,本件訂正発明1の構成には到達しな
い。
(b)周知技術の主張について
前記(エ)~(カ),(コ)~(ソ)のとおり,乙9-13~15・2
0~25公報・明細書には,「付勢手段」に相当する技術が記載さ
れている。しかしながら,乙9-20公報記載の技術には「中空
なハンドル」がなく,同記載の付勢手段は「中空なハンドルの近
い端に向かって付勢する」ものではない。また,乙9-21公報
記載の付勢手段は,スライド部材(さや)を固定部材の遠い端に
向かって付勢するだけで,「ニードルハブを中空なハンドルの近い
端に向かって付勢する」ものではない。また,乙9-22明細書
記載の付勢手段は,ニードルハブが後退する「中空なハンドル」
がなく,同記載の付勢手段は「中空なハンドルの近い端に向かっ
て付勢する」ものではない。さらに,乙9-23~25明細書記
載の技術は,筆記具の技術分野に属するものであって,「ニードル
ハブ」がなく,同記載の付勢手段は「中空なハンドルの近い端に
向かって付勢する」ものではない。このため,乙9-1発明に乙
9-20~25公報・明細書記載の各技術を組み合わせても,本
件訂正発明1の構成には到達しない。
これに対し,乙9-13~15公報・明細書には,付勢手段が
「ニードルハブを中空なハンドルの近い端に向かって付勢する」
技術に相当する技術がうかがわれる。また,乙9-13~15公
報・明細書記載の技術は,注射器の分野であって,針とハンドル
を有する医療器具という意味においてカニューレ挿入装置の技術
分野と類似する。しかしながら,証拠(甲2)によれば,本件明
細書1には,「本発明者は明確と簡単のために注射を与えるために
注射器と併用される針を「皮下針」と称することにする。血液を
抜く場合に用いられる針を「刺胳針」と呼ぶことにする。この用
語法により,本発明者はすべてのかかる針をカニューレ挿入,即
ち,本発明の分野に用いられる針と明瞭に区別するつもりであ
る。」(3欄34行~42行)と記載されていることが認められる
から,本件訂正発明1は,注射器を意識的に除外したカニューレ
挿入装置の技術分野について行われたものである。そして,乙9
-13明細書記載の技術は,針を損傷や汚染から保護したり針を
見た患者が抱く不安等を緩和したりすることを課題とするもので
ある。また,乙9-14明細書記載の技術は,患者でも行える自
動注射を課題とするものである。さらに,乙9-15公報記載の
技術は,比較的安価で使用方法が簡単な上に効果的なランセット
注射器の提供を課題とするものである。これらの課題は,簡単な
一体的運動で針をハンドル内に後退させることによってカニュー
レ挿入装置における医療従事者の針刺し事故を防ぐという本件訂
正発明1の課題や(甲2。10欄45行~50行,11欄17行
~21行),前記ア(ア)eのとおり,皮下注射針において操作者の
針刺し事故を防ぐという乙9-1発明の課題とは全く異なる。特
に,前記(オ)・(カ)のとおり,乙9-14明細書記載の技術は,
巻きばねを注射器の後端部に配置し,乙9-15公報記載の技術
も,ばねをホルダよりも後端側に配置するものであって,乙9-
1発明と組み合わせることがいずれも困難である。このため,乙
9-13~15公報・明細書記載の技術は,本件訂正発明1や乙
9-1発明と課題を全く異にする上,特に乙9-14・15公報・
明細書記載の技術については,乙9-1発明との組合せも困難で
あるから,乙9-1発明に乙9-13~15公報・明細書記載の
各技術を組み合わせて本件訂正発明1を容易に想到する論理付け
ができるとはいえない。
他に相違点bに係る構成要件1-Dの「ニードルハブを中空な
ハンドルの近い端に向かって付勢する付勢手段」に相当する先行
技術を認めるに足りる証拠はない。
ウ小括
以上によれば,その余の点について検討するまでもなく,本件訂正発明
1は,当業者が乙9-1発明,乙9-2発明及び周知技術から容易に想到
し得なかったものであり,進歩性を有する。したがって,本件特許1の請
求項1は,特許無効審判で無効とされるべきものではない。
(2)乙9-1公報記載の発明と周知技術に基づく本件訂正発明1の想到容易

ア本件訂正発明1と乙9-1発明との対比について
本件訂正発明1と乙9-1発明との一致点及び相違点は,前記(1)ア(ウ)
のとおりである。
イ相違点に係る本件訂正発明1の構成の容易想到性について
証拠(乙9の5・6・10)によれば,次の事実が認められる。
(ア)乙9-5公報の記載(別紙乙9-5公報添付図面参照)
a「本発明はナイフ,くし等のとび出し機構に係り,その目的はナイ
フの刀身部やくし等をそのケースよりワンタッチで出し入れし得るよ
うにした機構を提供するにある。」(1頁右下欄3行~6行)
b「さて,第6図(a)は刀身部12がケース1からとび出した状態を
示し,この状態において板バネ24は操作レバー10の軸支位置より
先端側を押圧しているので,同操作レバー10は支持軸6を中心とし
てP矢印方向へ回動されその先端は刀身部12の基端面に係合する
とゝもに,第一係止爪20は同じく刀身部12の係合突起14に係合
している。
そこで,この状態から操作ボタン18を上部カバー25のガイド溝
26に沿つて,反Q矢印方向(後方)へ移動させると,第一係止爪2
0は前記のように刀身部12の係合突起14に係合したままの状態を
保持しながらバネホルダー15が同第一係止爪20より離間してコイ
ルバネ16を引伸し蓄勢させながら同じく反Q矢印方向へ移動する。
この時,前記第一係止爪20はコイルバネ16の引張力により刀身
部12を反Q矢印方向へ引張ろうとするが,前記のように操作レバー
10先端が刀身部12の基端面に係合しているので同刀身部12はそ
のまゝの状態を維持する。(第6図(b)参照)
しかし,操作レバー10の上面10aを摺接する板バネ24が操作
レバー10の軸6支位置を後方へと過ぎてその基端側に至ると,操作
レバー10は支持軸6を中心として反P矢印方向に回動され,操作レ
バー10先端の刀身部12基端面に対する係合が解除されて,刀身部
12は一気にコイルバネ16の引張力により第一係止爪20に引張ら
れて後動しケース1内に収納される。」(2頁右下欄11行~3頁右上
欄7行)
(イ)乙9-6文献の記載(別紙乙9-6文献添付図面参照)
a「本考案はとび出しナイフに係り,特にナイフの刃先をスプリング
の力によつてとび出し時及び収納時に於いて極めて急速に動作させる
ことができるように構成したとび出しナイフに関するものである。
従来よりスプリングの力を利用して,ナイフの刃先をとび出させる
ように構成したとび出しナイフが知られているが,従来のこの種のと
び出しナイフは,刃先をとび出させる時においてのみ,スプリングの
力を利用していたが,刃先の収納時においては直線的に収納する場合
にはその自重を利用し,折り畳み式の場合には手を利用して強制的に
折り畳むという構造が採用されていた。
従つて一方の手のみによつて刃先のとび出し及び収納を行うこと
は,自重を利用した場合以外には実現することができなかつた。
本考案の目的は刃先のとび出し及び収納をも片手のみによつて自由
に行うことができるように構成したとび出しナイフを提供するにあ
る。」(3頁8行~4頁7行)
b「この状態でナイフを使用し,刃先8を収納したい場合には,操作
片5を後方に引けばよい。すると,作動板24が後退し,突起26は
板ばね21の幅広部21cの下側から脱し,幅狭部21eの下側に入
る。この結果板ばね21はその先端の折曲部23が開口部18中に嵌
入し,枠体7の内側にその先端を臨ませる。
また,作動板24の後退に伴なつて突起30は板ばね22の幅広部
22cの下側へ入ろうとするが最初の間は幅狭部22eの下側を移動
する。この間,板ばね22はたわまず,その折曲部23の先端は枠体
7の内側に突出した状態にあり,刃先8の後端部を係止している為,
刃先8の後退は生じない。ところが作動板24の後退に伴なつて,コ
イルばね32の後端に固定された係止板34は作動板24の後端の支
持部25によつて押され,コイルばね32の先端側の係止板34は突
起35によつて係止された状態にある為,コイルばね32は伸び弾性
エネルギーが蓄積される。
作動板24の後退が続くとその突起30は板ばね22の幅広部22
cの内側に位置した状態となる。この結果,板ばね22はたわみ,そ
の折曲部23は開口部19中に引き込まれる。従つて,刃先8の後端
を係止しなくなり,コイルばね32の弾性エネルギーが開放され,係
止板34が内側に引かれ,突起35を介して刃先8は勢いよくケース
内に引き込まれる。」(16頁9行~17頁15行)
(ウ)乙9-10明細書の記載(別紙乙9-10明細書添付図面参照)
a「本発明は,通常的には,ブレード引込み式ペンシル形ナイフに関
し,より具体的には,切削操作時の好まれざる左右及び上方へのぶれ
を防止するような手段を備えたナイフに関する。」(抄訳1頁6行~8
行)
b「これら従来の装置では,バレル部材とブレードアセンブリとを十
分細かな公差で形成して,バレル部材中でのブレードアセンブリの左
右及び上下へのぶれをほぼすべてなくすようにすることは,経済的見
地から現実味を欠いていたが,ユーザの立場からは,ブレードアセン
ブリのぶれを実質的になくすことがとても望まれていた。
本発明のナイフは,ブレードアセンブリをこのブレードアセンブリ
の切削操作時の左右及び上方へのぶれが実質的になくなるように形成
することにより,従来の装置における上記欠点を克服する。」(抄訳1
頁17行~23行)
c「図1は,本発明のナイフのブレードアセンブリが引込み若しくは
非作動位置にある状態での側面図;
図2は,図1の2-2線に沿ったナイフの拡大軸方向断面図」(抄訳
2頁12行~14行)
d「このボタン44を押圧し,前記膨大部45を移動させてサポート
部材12との係合から離すと,前記ブレードアセンブリ21は,ばね
36の作用により,その非作動位置への戻りが許容される。したがっ
て,ブレードアセンブリ21の非作動位置からその作動位置への移動
及び復帰が容易に達成される。」(抄訳4頁4行~7行)
(エ)想到容易性について
前記(1)イ(チ)b(b)のとおり,乙9-3・4・13~18・20~2
5・29記載の技術から本件訂正発明1を容易に想到する論理付けがで
きるとはいえない。
また,前記(ア)~(ウ)のとおり,乙9-5・6・10公報・明細書・
文献には,「付勢手段」に相当する技術が記載されている。しかしながら,
乙9-5・6・10公報・明細書・文献記載の技術は,ナイフの技術分
野に属するものであって,「ニードルハブ」がない。このため,乙9-1
発明に乙9-5・6・10公報・明細書・文献記載の各技術から,本件
訂正発明1の構成を容易に想到する論理付けができるとはいえない。
ウ小括
以上によれば,その余の点について検討するまでもなく,本件訂正発明
1は,当業者が乙9-1発明及び周知技術から容易に想到し得なかったも
のであり,進歩性を有する。したがって,本件特許1の請求項1は,特許
無効審判で無効とされるべきものではない。
(3)乙11-1公報記載の発明と周知技術に基づく本件発明2-1・3・5の
想到容易性
ア本件発明2-1・3・5と乙11-1公報記載の発明との対比について
(ア)本件発明2-1について
前記5(1)ア(ウ)aのとおり,本件発明2-1と乙11-1発明①と
は,本件発明2-1では,中空針が後退するエネルギの一部を吸収する
ためのエネルギ吸収手段があるのに対し(構成要件2-1-F),乙1
1-1発明①では,これがない点で相違する。
(イ)本件発明2-3について
a乙11-1公報記載の発明
前記5(1)ア(ア)認定の事実によれば,乙11-1公報には,次の発
明(以下「乙11-1発明②」という。)が記載されているものといえ
る。
(a)乙11-1発明①において,
(b)中空ハンドルに固定された表面と,
(c)針に把持されて前記表面に流体密封を与えるキャリヤブロック

(d)を備える安全装置。
b本件発明2-3と乙11-1発明②との一致点
乙11-1発明②の「中空ハンドルに固定された表面」,「針に把持
されて前記表面に流体密封を与えるキャリヤブロック」は,本件発明
2-3の「前記ハンドルの内部孔…に固定された表面」,「前記針…に
担持されて前記表面に圧接(す)る要素」にそれぞれ相当する。
したがって,本件発明2-3と乙11-1発明②とは,
「乙11-1発明①において,
前記ハンドルに固定された表面と,
前記針に担持されて前記表面に圧接する要素と
を備える安全装置。」
である点で一致する。
c本件発明2-3と乙11-1発明②との相違点
本件発明2-3と乙11-1発明②とは,前記(ア)の相違点に加え,
本件発明2-3では,中空針に担持されてハンドルに固定された表面
に圧接する要素が中空針の後退の間に摩擦を生じるのに対し(構成要
件2-3-C),乙11-1発明②では,上記要素が中空針の後退の間
に摩擦が生じているとは認められない点で相違する。
(ウ)本件発明2-5について
a乙11-1公報記載の発明
前記5(1)ア(ア)認定の事実によれば,乙11-1公報には,次の発
明(以下「乙11-1発明③」という。)が記載されているものといえ
る。
(a)乙11-1発明①において,
(b)前記中空のハンドルは,前記針がそれに向かって後退する内側
円錐台状ストッパ部分を有する
(c)安全装置。
b本件発明2-5と乙11-1発明③との一致点
乙11-1発明③の「内側円錐台状ストッパ部分」は,本件発明2
-5の「端部構造」に相当する。
したがって,本件発明2-5と乙11-1発明③とは,
「乙11-1発明①において,
前記中空のハンドルは,前記針がそれに向かって後退する端部構造
を有する
安全装置。」
である点で一致する。
c本件発明2-5と乙11-1発明③との相違点
本件発明2-5と乙11-1発明③とは,前記(ア)の相違点に加え,
本件発明2-5では,中空針と端部構造のうちの一方に固定されて端
部構造に対する中空針の衝撃の一部を吸収する押し潰し可能な要素が
あるのに対し,乙11-1発明③では,これがない点で相違する。
イ相違点に係る本件発明2-1・3・5の構成の想到容易性について
証拠(乙11の2・4~16,11の17の1・2,11の18~25)
によれば,次の記載が認められる。
(ア)乙11-2公報の記載(別紙乙11-2公報添付図面参照)
a「本体と,この本体内に取付けたプランジヤと,針ホルダと,前記
プランジヤの注射ストロークの後の再後退によって針を前記本体内の
遮蔽位置に引込むよう注射ストロークの終わりに前記針ホルダに前記
プランジヤを連結する手段と,注射ストロークの後に挿入ストローク
によって付勢され前記プランジヤと前記針とを後退させるエネルギ貯
蔵手段とを具え,前記本体と前記プランジヤとの間に画成した空間内
に弾性制動手段を配置し,前記本体と前記プランジヤとの一方に前記
弾性制動手段を配置し,注射ストローク後前記プランジヤと前記針と
の後退を遅らせるのに十分であるが停止させない程度に前記本体と前
記プランジヤとの他方に前記弾性制動手段を圧着することを特徴とす
る注射器。」(特許請求の範囲請求項3)
b「本発明は注射器,また特に使用後の注射針による汚染又は汚染の
恐れを防止し,使用後の注射針を刺して身体が損傷を受けるのを防止
し,更に1度使用した注射器を誤って再び使用するのを防止するよう
にした安全な注射器に関するものである。」(2頁左下欄4行~7行)
c「注射器の使用後,注射針を注射器の本体内に後退させ,或る方法
でそこに注射針を拘束する構造の注射器の設計が非常に多く試みられ
ている。これ等の設計では,いずれも不注意により注射針を刺して損
傷を受けること及びそれに伴う接触感染の危険を防止するため,更に
1度使用した注射器を再度使用することがないよう防止するため,使
用後の注射針を覆うことをその目的としている。」(2頁左下欄16行
~右下欄1行)
d「プランジヤを自動的に後退させる上記の先行技術では,プランジ
ヤを押込んだ状態に保持する手の圧力を除くと,ばねが伸長した状態
になろうとして直ちにプランジヤの復帰を開始し,同時に注射針の注
射器の本体内への後退が開始される欠点がある。このため,注射器が
患者の身体から完全に去るまで,操作者が押込まれたプランジヤを意
識して保持しない限り,患者の組織が傷つき,希望しないのに不随意
に注射器内に患者の血液が吸引される恐れがある。本発明の第2の要
旨では注射針の注射器本体内への後退の少なくとも最初の段階で,そ
の後退早さを遅らせる制動手段を設ける。」(2頁右下欄10行~19
行)
e「第1図は右半分に使用前の状態を示し,左半分に注射ストローク
の終わりの状態と,異なる位置にある注射針とを示す,本発明の好適
な実施例の注射器の線図的縦断面図である。
第2a~2e図は本発明の他の好適な実施例の注射器の5個の縦断
面図で,第2a図は使用のため輸送する時の注射器の状態を示し,第
2b図は注射器内に注射液を吸上げる状態を示し,第2c図は注射器
内に注射液を吸上げ,空気を追出してまさに注射できる状態を示し,
第2d図は注射が終わった直後の状態を示し,第2e図は注射器の本
体内に注射針を自動的に後退させた状態を示す。」(3頁左下欄7行~
16行)
f「プランジヤ4に半径方向に伸びる制動フランジ20を設けて本体
2の内面に摩擦掛合させ,真空室18内に生ずる真空の作用を受けて,
プランジヤ4が不随意に後退するのを防止する。」(4頁左上欄4行~
6行)
(イ)乙11-4公報の記載
a「本発明は陰極線管(以下CRTという。)の目盛照明装置,特にフ
エースプレートの端部から目盛を照明するCRTの目盛照明装置に関
する。」(1頁左下欄13行~15行)
b「この楔状部材(26)の内面は夫々突起部(20)と係合する楔状の形を
していて,例えばデルリン(DELRIN)という商品名で市販され
ているプラスチック物質のような適当な物質でモールドするのが好ま
しい。」(2頁左下欄11行~15行)
c「装置が過度の衝撃を受けると,プラスチツクの楔状部材(26)が衝
撃吸収体として作用する。」(2頁右下欄15行・16行)
(ウ)乙11-5公報の記載
a「この発明はすりガラス連結部分の雌,雄部分を一体に保持するク
リップに関するものである。」(1頁右下欄18行・19行)
b「特に好ましい材料はポリオキシメチレンで,例えば,融点約17
5℃のデュポン社製の登録商標「デルリン」がある。この製品は,こ
の発明に必要な温度安定性と柔軟性という非常に優れた特性を有して
いるものであって好ましい。」(2頁右下欄2行~6行)
(エ)乙11-6公報の記載
「本考案は粘性流体を用いた衝撃エネルギ吸収装置さらに詳しくいえ
ばアキユムレータとして密封手段を兼ねた体積弾性体を用いた衝撃エ
ネルギ吸収装置に関する。」(1頁左下欄25行~28行)
(オ)乙11-7公報の記載
a「内燃機関から自動車の縦方向に突出する付属機器をもつ内燃機関
において,特定値以上の縦方向衝撃荷重により付属機器の保持部の所
で変形する際抵抗に抗する粘性物質の移動によつて衝撃エネルギーを
吸収するように,付属機器が内燃機関に保持されていることを特徴と
する,自動車に設けられて駆動される付属機器をもつ内燃機関。」(特
許請求の範囲請求項11)
b「本発明は,内燃機関から自動車の縦方向に突出する付属機器,す
なわち内燃機関を自動車の前部へ設ける際はこの内燃機関を越えて前
方へ突出しまた内燃機関を後部へ設ける際はこの内燃機関を越えて後
方へ突出しかつ自動車に設けられて場合によつては駆動されたとえば
ベルト車により駆動される付属機器等をもつ内燃機関に関する。」(3
欄21行~27行)
(カ)乙11-8公報の記載
「本発明は,主体と支持体間において衝撃や振動エネルギーの伝達を
低減する振動絶縁装置に関する。
従来このような絶縁装置としては,その挙動がもつぱらその固有の構
造特性による受動絶縁装置例えば,ばね,及びばねとダツシユポツトの
組合せの如きもの…(中略)…があつた。」(2欄11行~21行)
(キ)乙11-9公報の記載
「本考案はプレス機械におけるダイクツシヨン装置のストローク上限
停止装置に関するもので,特にダイクツシヨンストローク上限ストツパ
の衝突時のシヨツクを少なくできるようにしたダイクツシヨン装置の
ストローク上限停止装置に係るものである。
従来よりダイクツシヨンストローク上限ストツパ衝突時のシヨツク防
止のための液圧ダツシユポツトを使用して上限衝突時の速度を遅くし
てストツパに当てることにより衝突力を緩和している。」(1欄16行~
25行)
(ク)乙11-10公報の記載
a「シリンダ内を往復する打撃子と該打撃子により打撃される先端工
具を備え,被削材に衝撃力を与える電気ハンマー等の衝撃工具におい
て,前記シリンダの先端部に配設され,前記打撃子を一時的に保持す
るマウスと,前記先端工具のシヤンク部と係合するシヤンクスリーブ
との間に弾性体より成るダンパーを配設し,該ダンパーの下面側は前
記先端工具の戻り衝撃を前記シヤンクスリーブを介して吸収するよう
構成すると共に,上面側は前記打撃子の空打ち動作による下降衝撃力
を前記マウスと協働して吸収するよう配置して成り,前記ダンパーは
前記先端工具の往復をガイドするフロントカバの固着により挾着固定
して成る衝撃反力緩和装置。」(実用新案登録請求の範囲)
b「本案は電気ハンマー等の先端工具の駆動による本体への衝撃反力
及び打撃子の空打ちによる衝撃力を緩和する装置に関する。」(1欄3
5行~37行)
(ケ)乙11-11公報の記載
a「本発明は,筆記具の前進後退機構に関する。」(1頁右下欄8行)
b「上記筆記具で,弾性体で筆記体を引き戻すときの衝撃を緩和させ
るために,適宜な停止部位に高弾性吸収材等の衝撃緩衝材を設けるこ
とができる。」(4頁左下欄17行~19行)
c「以上では,筆記具について説明したが,口紅やアイシャドウなど
の化粧用具や容器,ナイフ等の刃物,治工具,その他の前進後退が必
要な装置に転用できるものである。」(4頁右下欄9行~12行)
(コ)乙11-12公報の記載(別紙乙11-12公報添付図面参照)
a「本発明は使用済み皮下注射器や医療サンプラー等の針によって,
不用意に針で皮膚が刺されるのを防止する装置に関する。そのような
使用済み針は危険であり,使用後,針の先端を鞘で覆う等の廃棄手順
管理により,その危険を低減するよう相当な注意が払われている。又,
1度使用した後,針を自動的に引き込ませる方法について数多くの提
案が為されている。しかし,今日までのところ,信頼性があって,商
業的に成り立つ実際的な提案は未だなされていない。又,針退却手段
を持たない現存製品のコストにほぼ匹敵するような生産コストで作ら
れるようなものは勿論存在しない。
本発明は実用性が高く製造コストの低い,信頼性の高い自動針退却
装置を提供するものである。」(全訳3頁右上欄4行~14行)
b「本発明のさらに別の特徴として,一体に成形されたプランジャー
の内部部材により,退却した針が簡単にしかも効果的で確実に保持さ
れる。プランジャーの内部に形成した補足部材は,例えばフィン,リ
ブ,又は平坦面等,テーパーをつけた単純な部材として構成できる。
そのようなテーパー付部材は,退却針のハブ又はホルダーの動きをゆ
るめ,停止させ,そして効果的に把持するように,しかも両端を尖ら
せた針がプランジャーの外に突き出ないように配置形成することがで
きる。」(全訳4頁右下欄20行~27行)
c「さらに図2~4にはプランジャー105の内部に内側に傾斜した
テーパー部105Fが示されている。これはバネ133の力で,針ホ
ルダー又はハブ117が強制的に退却させられる時に,針ホルダー又
はハブ117を把持するためのフィン,又はリブ,あるいは平坦部で
構成できる。」(全訳6頁左下欄21行~25行)
(サ)乙11-13明細書の記載(別紙乙11-13明細書添付図面参照)
a「この発明は,一般に,医療器具に関する。より具体的には,この
発明は,患者の体内に対して液体を注入するため,および,患者の体
内から液体を採取するための特別な注射器に関する。」(全訳3頁10
行~12行)
b「周知のように,注射器には,数えきれないほどの非常に重要な医
学的用途がある。また,医学界においては同様に知られていることで
あるが,このようなすべてのデバイスに関連して,重大な問題が発生
してきている。
この問題は,恐ろしい病気,特に生命に関わる現時点においては不
治の病(例えば,後天性免疫不全症候群(「AIDS」)及び肝炎等。
これらは,人々の間における体内物質の交換によって伝染する。)が
継続的に存在していることに起因する。これらの病気のために,医療
機関は,患者に液体を注入するため,及び,患者から液体を採取する
ために,専ら使い捨ての注射針を使用するようになってきている。
しかしながら,医療関係者自身にとっては,感染している患者から
引き抜かれた針の先端に不注意に接触してしまうところに,依然とし
て危険な残存リスクが維持されている。医療用の針は,非常に鋭くな
るように,かつ,ほんのわずかな圧力をかけるだけで,皮膚及び肉に
突き刺さるように,特別に設計され,製造されている。
その結果,普通ならば取るに足らない引っかき傷あるいはピン刺し
となるものが多くの医療関係者や他の者に対して危険な病気を(ある
いは死さえも)引き起こす可能性があるとともに,現に引き起こされ
ている。」(全訳3頁14行~4頁1行)
c「図1は,私の発明における好ましい実施形態(主に長手方向の部
分)を示す側面図である。この図の状態は,針が伸長された位置にお
いて注射器バレルに対して直接的に固定されている。すなわち,この
状態は,開放及び引込み手段が針をバレル内に引き込むために作動さ
れる前の状態である。」(全訳17頁5行~8行)
d「図13は,同じ実施形態における長手方向の正面図であり,完全
に引き込まれている針を示している。」(全訳18頁6行・7行)
e「搬送構造が引込みバレルの後側の近傍において保持フィンガー9
7に到達すると,後側の部分44のテーパーの付けられた表面95が
これら複数の保持フィンガー97をばらすように押圧し,これにより,
搬送部が通過できるようになる。そして,これらのフィンガーは,再
び内側に跳ね戻り,図13に示すように,後側の部分44の前側のエ
ッジを捕獲する。
この捕獲は,余分なことのように思われるかもしれない。しかしな
がら,このことは,有用となる場合もある。それは,ユーザーあるい
は恐らく他の個人(例えばごみ処理係の人等)が,その後に,注射器
バレル10の前側の端部からハブアセンブリ40を取り外すことによ
り,注射器の開放されている前側の端部から針先42が突き出ること
が可能となっているときである。」(全訳28頁5行~14行)
(シ)乙11-14明細書の記載(別紙乙11-14明細書添付図面参照)
「他の困ったことは,本装置の使用後にバレル12の後方から残った
液体が漏れ出す又は飛び散ることである。かかる漏出は,バレル12内
に,テフロン<R>のような生物学的に不活性な材料よりなる殺菌された
吸収繊維パッドないしスポンジ170(図4)を備えることによって最
小化される。」(抄訳2頁25行~28行)
(ス)乙11-15公報の記載(別紙乙11-15公報添付図面参照)
a「この発明は無針皮下注射器,特にスプリング式無針注射器に関す
るものである。」(2頁右上欄10行・11行)
b「一方,この注射器は非常に小型に設計したから,その全重量は約
200g以下であり,注射を行った際許容し難い跳ね返り又は反動が
あることが分かった。この跳ね返り又は反動問題の解決策の模索時,
驚くべきことに,コイルスプリングの一端部に反動又は衝撃緩和部材
を装着すれば,大部分の跳ね返り又は反動を除去出来ることが見出だ
された。」(3頁右上欄3行~10行)
c「コイルスプリング部材は伸張位置で圧縮状態とされかつ緩衝部材
は伸張位置に急速に到達するピストンおよびブッシングにより発生さ
れる反動エネルギーを吸収可能とされる。」(3頁左下欄15行~18
行)
d「第1図は本発明の引込み状態の注射器の縦断面図…(中略)…
第3図は上記動力部包装アッセンブリの一部切欠断面図,
第4図は第3図の動力部包装アッセンブリの平面図,
第5図は上記注射器の部分断面図,
第6図は第5図の注射器の平面図である。」(5頁右下欄10行~1
9行)
(セ)乙11-16公報の記載(別紙乙11-16公報添付図面参照)
a「本発明は心臓病にかかりやすい人を心筋梗塞の激痛のときに心筋
の損傷を最小限に抑えるような処置に関し,ことにそのような処置を
改良して,専門家が直接患者を介抱できるようになる前にでも,でき
るだけ早期に手当を開始できるようにすることに関するものである。」
(4頁左上欄4行~8行)
b「この注射器組立体は公知の構成要素と少なくとも2個の医薬容器
を含み,さらにこの容器の中には少なくとも2個の投薬を含む。その
うち第1の投薬はt-PAのような凝固に選択的な血栓溶解剤を含
み,第2の投薬はリドカインのような心臓の抗不整脈剤を含んでい
る。」(5頁右上欄6行~10行)
c「針が前方に移動するとその尖つた前端が弾性の鞘50を突き抜け,
使用者のふくらはぎの筋肉組織内に貫入する。針48とそれと一しよ
に前方に移動する他の部材の前方への運動は弾性鞘50の圧縮によつ
て抵抗を受けて停止する。」(9頁左下欄19行~23行)
(ソ)乙11-17-1公報の記載(別紙乙11-17-1公報添付図面
参照)
a「本発明は複式投薬注射器,特に自動式複式投薬注射器に関するも
のである。」(2頁右下欄6行・7行)
b「米国特許第3,882,863号に記載の原理によれば注射針6
2の残部の前方に延びる部分はゴム製のさや78中に包まれており,
このさや78は注射器10が保存状態にあるときには針を殺菌状態に
保つことと注射操作中は緩衝効果を果すことの2つの作用を行なう。」
(4頁左下欄17行~21行)
c「付勢スプリング48が解放されると全カートリツジ組立体16が
収容部組立体12中を前方に移動し,その間注射針62の前部尖端が
さや78及び開口28を通つて患者の筋肉組織内に移動する。この移
動中ゴム製のさや78は圧縮され,この圧縮によりカートリツジの最
後の前方への移動が止められ,緩衝効果をもたらす。」(5頁右上欄1
8行~24行)
(タ)乙11-17-2明細書の記載(別紙乙11-17-2明細書添付
図面参照)
「シース250の重要性及びその多くの特徴は,アンプルシリンダ(す
なわち,例えば図示された装置のシリンダ136)の大部分がガラスよ
りなり,それゆえ一定の量及び種類の衝撃により破損しやすいという事
実を考慮に入れるとき,より一層重要なものとなる。本発明のカニュレ
シースの利用により享受される衝撃吸収の特徴は,全体的な質及び信頼
性に実質的に貢献する。」(抄訳10行~14行)
(チ)乙11-18明細書の記載(別紙乙11-18明細書添付図面参照)
a「本発明の主たる目的は,注射器の医薬内容物に不意に空気が混入
すること及びかかる内容物が不意にこぼれ出ることを防止し,更には
シリンダからプランジャが意図せずに外れることを防止することで
ある。」(抄訳8行~10行)
b「3は,プランジャないしピストンの周囲に少なくともその半分以
上伸びることによって抜け落ちないようにそれに付着されたリング
である。前記リングの一部,例えば部分4は,残りの部分に対して,
あるいは外方へ,曲げられていることにより,シリンダ5の内壁に圧
接し,ピストンないしプランジャがシリンダの開放端6の方向へ,あ
るいはその外へ,不意に動いてしまうことを防止しているが,同時に,
シリンダの中へのプランジャの動きは阻害しない。」(抄訳12行~1
8行)
(ツ)乙11-19公報の記載
「本発明はコイル状の計測テープを利用する計測装置に係り,特に自
己調整速度制御機構が組み込まれた新しい且改良された巻尺式計測装
置に係る。」(2欄19行~21行)
(テ)乙11-20公報の記載
「この考案は,公知の定出力スプリング(以下定荷重ばねという)の
復元力で自閉する様にした引戸の後退付勢力を任意に自在調節し得る
装置に関する。」(1欄17行~20行)」
(ト)乙11-21公報の記載
a「本発明は固定部材に対して自動的に相対移動する移動部材の移動
スピードをコントロールする緩動装置に関する。」(1頁右下欄5行~
7行)
b「従来,固定部材に対して相対移動する移動部材としては,例えば
物品の格納容器,作業台の物品載置板,あるいは食卓のスライド天板
等がある。」(1頁右下欄9行~11行)
(ナ)乙11-22公報の記載
「本発明は建造物や自動車などのドアあるいは容器の蓋などに取り付
けられ,これらを開くために操作される把手装置。」(1頁左下欄16
行~18行)
(ニ)乙11-23公報の記載
a「本発明は,被作動部材の作動スピードを制御する緩動装置に関す
る。」(1頁右下欄1行・2行)
b「被作動部材は,容器などの本体に対して回動して開閉する蓋体の
ような回転運動体,あるいはレジスタなどの本体に対して進退して開
閉する金銭収納箱のような直線運動体がある。」(1頁右下欄4行~7
行)
(ヌ)乙11-24文献の記載
「15.4.7流体及びエラストマによる緩衝器の特性
機械設計において,衝撃の効果を軽減するため,又は急速に動く物体
を,それが所定の距離を動いた後に急速に減速するために,緩衝器がし
ばしば必要である。…(中略)…これら重要な作用をもたらすために利
用可能な手段としては,金属のばね,流体ダッシュポット及びエラスト
マを使用することが含まれ,それぞれ長所及び限界がある。」(抄訳1頁
5行~14行)
(ネ)乙11-25公報・文献の各記載
a乙11-25公報①の記載
「本発明は給油装置のホースリールに係り,回転して給油ホースを
巻回し収納するホースリールが該給油ホースを所定量巻き取つた時点
で,該ホースリールの回転を緩衝的に停止せしめる停止手段を設けた
構成とすることにより,簡単な構成でしかも耐久性の優れた給油装置
のホースリールを提供することを目的とする。」(1欄33行~2欄2
行)
b乙11-25公報②の記載
「本発明は底部にパルセータを配した洗濯兼脱水槽を水槽に内装し,
洗濯時にはパルセータを駆動し,脱水時には洗濯兼脱水槽を回転させ
る一槽式脱水洗濯機の排水弁とブレーキの操作手段に好適な脱水洗濯
機に関する。」(1欄29行~33行)
c乙11-25公報③の記載
「この発明はシヤツター膜もしくはシヤツターひもを巻回保持し,
シヤツターレリーズ時に回転されてこれら膜やひもの走行を可能とす
る先軸や後軸のような保持軸の回転を停止するフオーカルプレーンシ
ヤツタのブレーキ機構に関する。」(1欄26行~2欄3行)
d乙11-25公報④の記載
「本発明はロールブラインドのクラツチ装置に関するものである。」
(2欄10行・11行)
e乙11-25公報⑤の記載
「本発明はロールスクリーンの巻取り制動装置に係り,主としてロ
ールスクリーンの巻取りパイプ内に取付けて使用するもので,スプリ
ング等によつて行なうこの巻上げに際し,巻終り真近になるに従つて
速くなるスクリーンの巻上げ速度を適宜制動制御することで該スクリ
ーンをほぼ一定の速度で静粛且つ円滑に巻取ることを可能としたロー
ルスクリーンの巻取り制動装置に関するものである。」(1欄29行~
2欄8行)
f乙11-25公報⑥の記載
「本発明は引出したスクリーンをロールパイプに内蔵したばねの力
で巻取るロールブラインドのスクリーン巻上げ速度を減速させる装置
に関するものである。」(1欄18行~21行)
g乙11-25公報⑦の記載
「この発明は,たとえば,カーテン,ブラインド,軽量シヤツタ,
映写用スクリーン等の各種スクリーンを巻取り軸に巻取り,この巻取
り軸からスクリーンを引出すことによつて,巻取り軸に内蔵されたバ
ネに作用力を蓄積し,巻取り時には上述のバネに蓄積された作用力で
巻取り軸を逆転させてスクリーンを巻取るようなスクリーン巻取り装
置に関する。」(2欄20行~27行)
h乙11-25公報⑧の記載
「この発明はブラインド等の巻きおろしを必要とする装置に装着し,
装着した装置の降下速度を抑制する回転速度抑制装置に関する。」(1
頁右下欄1行~3行)
i乙11-25公報⑨の記載
「この発明は,電気機器のコード巻取装置に関するものである。」(1
欄13行・14行)
j乙11-25公報⑩の記載
「この発明は,例えば家庭用あるいは工業用の各種の電気器具にお
けるコードを巻出したり巻込むための装置に関するものである。」(1
頁左下欄15行~右下欄1行)
k乙11-25公報⑪の記載
「本発明は映写幕を映写幕捲取管筒に捲取終了直前に,其の捲取速
度を自動的に制御できるようにした映写幕捲取制動装置に関するもの
である。」(1頁左下欄18行~右下欄2行)
l乙11-25公報⑫の記載
「本発明は,従来より,スプリング巻上式映写幕を取り付けたボッ
クス,天井面への衝撃が大きい事から要望されていたものである。」(1
頁左下欄11行~14行)
m乙11-25公報⑬の記載
「本発明は,ガラス障子等のサッシ内に内蔵したブラインドのスラ
ットを昇降する装置に関する。」(1欄15行~17行)
n乙11-25公報⑭の記載
「本発明は磁気テープ装置に関し,特に定回転数でリールを駆動し
ても,テープ巻終り近くにおいて,あまりテープ速度が上がらないよ
うにした磁気テープ装置に関するものである。」(1頁左下欄18行~
右下欄1行)
o乙11-25公報⑮の記載
「本発明は,電気コード,ロープ,ひも,帯体,シート等のもの巻
取り巻戻しするための巻取装置に関するものである。」(1頁右下欄1
6行~2頁左上欄1行)
p乙11-25公報⑯の記載
「この発明は,ロールスクリーン装置に関するものである。さらに
詳しくは,この発明は,ねじりコイルバネの弾発力を利用したロール
スクリーン装置において,巻取収納時の巻取速度を緩和することので
きる簡便な減速機構を内蔵した新しいロールスクリーン装置に関する
ものである。」(1頁右下欄7行~12行)
q乙11-25公報⑰の記載
「この発明は,ロールスクリーンの制動装置に関するものである。
さらに詳しくは,この発明は,ねじりコイルバネの弾発力を利用した
ロールスクリーン装置において,回転加速時の制動作用と,停止位置
決め精度に優れたロールスクリーンの制動装置に関するものである。」
(1頁右下欄3行~8行)
r乙11-25公報⑱の記載
「本発明は,オープンショーケースの前面開口を断熱のために遮蔽
するのに用いられたり,窓のカーテン用として用いられるのに好適と
した自動巻取式カバー関する。」(1頁左下欄20行~右下欄3行)
s乙11-25公報⑲の記載
「この発明はロールブラインドのスクリーンを昇降する昇降装置に
関するものである。」(1頁右下欄5行・6行)
t乙11-25公報⑳の記載
「本発明はビデオテープレコーダ(以下VTRと称する)等の磁気
記録再生装置における磁気テープ高速送り装置に関する。」(1欄21
行~23行)
u乙11-25公報<21>の記載
「本発明は,スプリング巻き上げ式スクリーンの制動装置に関する。」
(1欄13行・14行)
v乙11-25公報<22>の記載
「本発明は,家庭用ビデオテープレコーダ(以下VTRと称す)の,
カセットより磁気テープを引出すベース部材を待機位置から係止位置
まで移送し,かつ保持する駆動機構に関する。」(1欄20行~23行)
w乙11-25公報<23>の記載
「本発明はスプリングでスクリーンを巻上げるロールブラインドの
改良に関するものである。」(1欄21行~23行)
x乙11-25公報<24>の記載
「この考案は,たとえば,カーテン,ブラインド,軽量シヤツタ,
映写用スクリーン等の各種スクリーンを巻取軸に巻取り,または引出
して張設するスクリーン巻取り装置に関し,さらに詳しくは巻取軸に
バネを内蔵して,スクリーンの引出しによりバネに作用力を蓄積し,
スクリーンの巻取りは上述の蓄積されたバネの作用力により,巻取軸
を逆転させて行なうスクリーン巻取り装置に関する。」(表紙を除く1
頁19行~2頁7行)
y乙11-25公報<28>の記載
「本発明は,開閉扉や蓋等のヒンジ機構に用いられる回転ダンパに
関し,特に,ピアノの鍵盤蓋,複写機の用紙抑え蓋,洋式便器の便座
や便蓋等,重力方向に対して水平に開閉作動する扉や蓋の緩衝装置に
適する回転ダンパに関する。」(2頁左上欄7行~11行)
z乙11-25公報<29>の記載
「本発明は,請求項1の上位概念に記載の巻取り装置に関する。」(3
頁右上欄4行・5行)
a'乙11-25公報<30>の記載
「本考案は,主としてロールスクリーンの巻上げに際し,巻終わり
間近におけるスクリーン巻取筒の急速な回転を抑制してスクリーンの
静粛且つ円滑な巻上げ操作を可能とし,また,必要に応じて,巻上げ
られるスクリーンを予め設定された定位置にて停止させるべく制動を
行なうようにしたロールスクリーンの巻上げ制動装置に関するもので
ある。」(1欄26行~33行)
b'乙11-25公報<31>の記載
「本考案は,主としてロールスクリーンの巻上げに際し,巻終わり
間近におけるスクリーン巻取筒の加速を抑制し,スクリーンをほぼ一
定の速度で終始一貫して静粛且つ円滑に巻取ることができるようにし
たロールスクリーンの巻上げ制動装置に関するものである。」(1欄3
1行~36行)
c'乙11-25公報<32>の記載
「この考案はロールスクリーン等の巻取制動装置に係り,ロールス
クリーン等の巻き取りに際して,巻き終り間近におけるスクリーン等
の巻き取りの加速を抑制してスクリーン等をほぼ一定した速度で巻き
取ることができ,しかもスクリーン等の巻き取り終了時の衝撃を柔げ
て耐久性の向上を図つたロールスクリーン等の巻取制動装置に関する
ものである。」(2欄7行~14行)
d'乙11-25公報<33>の記載
「本考案はロールブラインドの巻上げ機構に関するものであり,さ
らに詳言すると下降したスクリーンを巻上げるときの巻上げ速度を減
速する装置に係るものである。」(2欄10行~13行)
e'乙11-25公報<34>の記載
「本考案は,映写用スクリーン,シート状ブラインド,鎧戸状のシ
ヤツターや雨戸等のロールスクリーンを,スクリーン巻上用軸に巻上
格納し得ると共に該軸から繰出伸張させて任意の繰出姿勢に固定し得
るロールスクリーン装置に関する。」(3欄10行~14行)
f'乙11-25公報<35>の記載
「本考案は,軽量バランスシヤツターの閉鎖時に作動する制動装置
に関するものである。」(2欄2行・3行)
g'乙11-25公報<36>の記載
「本考案はディスプレー,黒板の代用及びブラインド等に適用され
るスクリーン巻取装置に関するものである。」(2欄2行・3行)
h'乙11-25公報<37>の記載
「本考案は,住宅やビル等の開口部に建付けられる建築用シヤツタ
ーにおける衝撃吸収装置に関するものである。」(2欄6行~8行)
i'乙11-25文献<38>の記載
「本考案は,シャッターや日除けシート等を巻上げる装置に関する。」
(表紙を除く1頁15行・16行)
j'乙11-25文献<39>の記載
「本考案は,ブラインドの支持用の水平ローラであり,該ローラ自
身の軸線の回りに回転するように備え付けられたローラと,ローラに
固定された上端と自由な下端を有するブラインドと,上記ローラをブ
ラインドが巻き上げられた状態に付勢するための弾発手段と,ブライ
ンドの巻き上げ時に上記ローラの回転を遅くするための遠心ブレーキ
とを備えたタイプのローラブラインドに関する。」(表紙を除く3頁1
1行~18行)
k'乙11-25文献<40>の記載
「本考案はシャッタの開扉時における衝撃を緩和するための巻上緩
衝装置に関するものである。」(4頁4行・5行)
l'乙11-25公報<41>の記載
「本発明はドアヒンジに関し,さらに詳しくは液体ダンパを内蔵し
たドアヒンジに関する。」(2頁左上欄1行・2行)
m'乙11-25文献<42>の記載
「本案は電気掃除機等の電気機器の電源コードを全舞でコードリー
ルに巻戻すいわゆる自動巻戻式のコードリール装置に関する。」(表紙
を除く2頁3行~5行)
n'乙11-25文献<43>の記載
「本考案は,閉鎖作動時にその下降速度に制動を与えて静粛に閉鎖
できるようにした建物用シヤツターの緩衝装置に関するものである。」
(表紙を除く1頁17行~19行)
o'乙11-25公報<44>の記載
「本発明は,オーバードアのに上限緩衝装置に関するものである。」
(1頁左下欄13行・14行)
p'乙11-25公報<45>の記載
「本発明は一般家庭の台所等において特に加熱調理時などに発生す
る油煙や蒸気等を室外へ排気するために使用される排煙装置に関する
ものである。」(1頁左下欄14行~16行)
q'乙11-25公報<46>の記載
「本発明は窓の開閉装置に関する。さらに詳しくは,建物の天窓や
排煙窓,列車や船舶の窓などの開閉装置に関する。」(2頁左上欄4行
~6行)
(ノ)想到容易性について
a本件発明2-1について
前記第2の1(7)及び前記(ア)~(ネ)のとおり,乙11-2・4~1
7・19~25公報・明細書・文献(ただし,乙11-25<25>~<27>
は,本件特許2の優先日である平成5年11月15日以降に出願され
ているため,これらを除く。)には,「エネルギ吸収手段」に相当する
技術が記載されている。しかしながら,乙11-4~11・19~2
5公報・文献記載の技術は,テープや電気コード,ロールブラインド・
スクリーン,シャッターの制動装置等,カニューレ挿入装置等の技術
分野とは全く異なる技術分野に属するものであって,「中空針」がなく,
同記載のエネルギ吸収手段は「中空針が後退するエネルギ」を吸収す
るものではない。また,乙11-15~17公報・明細書記載の技術
は,注射器の技術分野に属するものであるが,乙11-15公報記載
の技術は「針」がなく,乙11-16,11-17-1・2公報・明
細書記載の技術は「中空針」こそあるものの,中空針が「後退」する
ものでなく,いずれも「中空針が後退するエネルギ」を吸収するもの
ではない。
これに対し,乙11-2・12~14公報・明細書には,「中空針が
後退するエネルギの一部を吸収するためのエネルギ吸収手段」に係る
技術に相当する技術の開示が認められる。また,乙11-2・12~
14公報・明細書記載の技術は,注射器の分野であって,針とハンド
ルを有する医療器具という意味においてカニューレ挿入装置等の技術
分野と類似する上,証拠(甲5)によれば,本件明細書2には,「本技
術は,カニューレに直接使用されることに必ずしも限定されるもので
はなく,カテーテル用ガイドワイヤの如き他の医療器具を挿入するた
めにも使用することができる。」(4欄13行~17行)と記載されて
いることが認められるから,本件発明2-1は,注射器を意識的には
除外していない。この点,乙11-2公報記載の弾性制動手段は,不
随意にプランジャが復帰して患者の組織を傷つけたり患者の血液を吸
引したりすることを防ぎ,注射針が後退する少なくとも最初の段階で
の後退速度を遅らせることを課題とするものであり,乙11-13明
細書記載の保持フィンガーは,ごみ処理係の人等が使用済みの注射器
バレルの前方端部からハブアセンブリを取り外した場合において針刺
し事故に遭うことを防ぐことを課題とするものであり,乙11-14
明細書記載の吸収繊維パッドないしスポンジは,バレルの後方から残
った液体が漏れ出したり飛び散ったりするのを防ぐことを課題とする
ものであり,コイルばね等の偏倚手段による中空針の望ましくない高
速度での後退や異常に強い後退,うるさいかちっという音等を解消す
るという本件発明2-1の課題(甲5。10欄34行~11欄8行)
とは異なる。しかしながら,乙11-1・2・12~14公報・明細
書記載の技術及び本件発明2-1は,いずれも針を後退させることに
よって医療従事者の針刺し事故を防ぐという前提の課題において,共
通する(乙11-14明細書も,本件訂正発明1に対応する米国出願
の一部継続出願であり,上記前提の課題を有する(乙9の11,11
の14)。)。乙11-1発明に,乙11-2公報記載の弾性制動手段や
乙11-12公報記載のプランジャー内のテーパー部,乙11-13
明細書記載の保持フィンガー,乙11-14明細書記載の吸収繊維パ
ッドないしスポンジを組み合わせることが困難であるとも認められな
い。このため,乙11-2・12~14公報・明細書記載の上記各技
術は,本件発明2-1や乙11-1発明と技術分野が類似し,前提課
題においても共通し,乙11-1発明との組合せも困難ではないから,
乙11-1発明に乙11-2・12~14公報・明細書記載の上記各
技術を組み合わせて本件発明2-1を容易に想到することができると
いうべきである。
この点につき,原告は,①乙11-2公報記載の技術については,
プランジャを2往復させるという複雑な複数の動作を要するものであ
るから,乙11-1発明に組み合わせることは困難である,②乙11
-12公報記載の技術については,プランジャー内のテーパー部が中
空針後退のエネルギの全部を吸収しており,「中空針が後退するエネル
ギの一部を吸収する」技術を開示するものではない旨主張する。しか
しながら,①被告らの主張は,乙11-2公報記載の発明全部を組み
合わせるのではなく,乙11-2公報記載の弾性制動手段だけを組み
合わせるものであり,このように,乙11-1発明に乙11-2公報
記載の上記技術を組み合わせることは困難であるとはいえない。また,
②乙11-12公報には,針ホルダーやハブが常にプランジャー内の
テーパー部で停止する旨の記載も示唆もないから(乙11の12。請
求項16も参照。),上記テーパー部が中空針後退のエネルギの全部を
吸収しているとはいい難い上,仮に中空針後退のエネルギの全部を吸
収しているとしても,技術的意義を異にしない微差にすぎない。した
がって,原告の上記主張は,前示の判断を左右するものではない。
b本件発明2-3について
前記(ア)・(コ)のとおり,乙11-2・12公報には,「中空針に担
持されてハンドルに固定された表面に圧接する要素が後退の間に摩擦
を生じる」技術に相当する技術の開示が認められる。乙11-2・1
2公報記載の各技術が,本件発明2-3や乙11-1発明と技術分野
が類似し,前提課題において共通し,乙11-1発明との組合せも困
難でないことは,前記aと同様である。
c本件発明2-5について
前記(シ)のとおり,乙11-14明細書には,「端部構造に固定され
て端部構造に対する中空針の衝撃の一部を吸収する押し潰し可能な要
素」に係る技術に相当する技術の開示が認められる。乙11-14明
細書記載の技術が,本件発明2-5や乙11-1発明と技術分野が類
似し,前提課題において共通し,乙11-1発明との組合せも困難で
ないことは,前記aと同様である。
ウ小括
以上によれば,本件発明2-1・3・5は,いずれも当業者が乙11-
1発明及び周知技術から容易に想到し得たものである。したがって,本件
特許2の請求項1・3・5は,進歩性の欠如により特許無効審判で無効と
されるべきものである(一件記録(乙33)によれば,本件特許2の請求
項1・3・5は,平成23年6月27日,無効審決がされ,同審決は,同
年11月4日,確定し,同月30日,登録されたことがうかがわれるが,
弁論終結後に提出された証拠であるため,なお判断したものである。)。
(4)乙11-1発明と周知技術に基づく本件発明2-7・8の想到容易性
ア本件発明2-7・8と乙11-1発明との対比について
(ア)本件発明2-7について
乙11-1公報記載の発明は,乙11-1発明①のとおりであり,本
件発明2-7と乙11-1発明①との相違点は,本件発明2-7では,
①中空針が後退するエネルギの一部を吸収するためのエネルギ吸収手
段があるとともに(構成要件2-7-A),②中空針の中からの血液を
収容するとともに,中空針の後退によって生ずる力に抗して,中空針が
後退する間と中空針が後退した後に,血液を確実に保持するための収容
/保持手段があるのに対し(構成要件2-7-B),乙11-1発明①
では,これらがない点で相違する。
(イ)本件発明2-8について
乙11-1公報記載の発明は,乙11-1発明①のとおりであり,本
件発明2-8と乙11-1発明①との相違点は,前記2(8)イも併せ考
慮して,本件発明2-8では,①中空針が後退するエネルギの一部を吸
収するためのエネルギ吸収手段があるとともに(構成要件2-8-A),
②中空針の中からの血液を収容するとともに,中空針の後退によって生
ずる力に抗して,中空針が後退する間と中空針が後退した後に,血液を
確実に保持するための収容/保持手段が,中空針の後退によって生じる
力から中空針と共に運動するように固定された室の内部を隔離するた
めの隔離手段を備えるのに対し(構成要件2-8-B),乙11-1発
明①では,これらがない点で相違する。
イ相違点に係る本件発明2-7・8の構成の容易想到性について
証拠(乙16の6~9)によれば,次の記載が認められる。
(ア)乙16-6明細書の記載(別紙乙16-6明細書添付図面参照)
a「本発明は,概して静脈療法のためのカテーテル組立体に関し,特
に医療従事者への不注意な受傷を防ぐ役割を果たす選択的に位置で
きる保護シールドを含むカテーテル組立体に関する。」(抄訳1頁11
行~13行)
b「針部材の鋭利な性質に鑑みて,医療従事者への不注意な受傷を避
けるべく取扱いに注意が払われる。このような針の廃棄のために特別
な容器(しばしば針容器と呼ばれる)が次第に利用されるようになっ
てきているが,関連したカテーテルから針を除去する際に手元に適当
な容器があるとは限らない。さらには,針は,廃棄の前には露出して
いる。
本発明は,医療従事者を不注意な受傷から保護するべく構成され
た,別体の特別な廃棄用の入れ物を必要としないカテーテル組立体に
向けられている。」(抄訳1頁23行~29行)
c「前記カテーテル組立体は,さらに,カテーテル部材上に選択的に
除去可能に位置できる,概して細長い,好適には管状のシールド部材
を含む。前記シールド部材は,一般的には使用の前に,第1の位置に
位置でき,ここにおいて前記シールド部材は前記カテーテル部材の前
記管状部を概して囲い込む。前記組立体の使用のために,前記シール
ド部材は,カテーテル部材上の第2の位置へ逆向きに移動でき,ここ
において前記針部材の前記伸張部は,カテーテル部材の中から引き込
まれることができ,前記針部材は,前記シールド部材の中に受容され
る。このようにして,前記カテーテル部材が患者に挿入された後,前
記針部材は,前記シールド部材中に引き込まれることができ,これは,
針部材による不注意な受傷から使用者を遮蔽する役割を果たす。」(抄
訳2頁13行~22行)
d「図1は,本発明の原理を具体化するカテーテル組立体の斜視図で
ある。
図2は,使用の前等に第1の位置にある組立体の保護シールドを示
す本カテーテル組立体の断面図である。
図3は,図1の3-3線に沿って取られた断面図であって,使用の
際等に第2の位置にある組立体の保護シールドが示されている。」(抄
訳3頁13行~17行)
e「カテーテル組立体10は,さらに,当初は概してカテーテル部材
10の中に位置し得る針部材20を含む。特に,針部材20は,ハブ
部22と,ハブ部から伸びた細長い管状部24とを含む。例示される
ように,針部材の管状部24の自由ないし遠位端は,針の管状部が望
遠鏡式に中に位置するときには,カテーテル部材の管状部16の自由
ないし遠位端をちょうど越えている。この取り合わせにより,針の管
状部の自由端は,患者の血管中への外側カテーテル部材の挿入を容易
とするように,適切に構成され鋭利にされている。
典型的には,針部材の細長い筒部24は,ハブ部22により規定さ
れる内部容積と連通している。カテーテル挿入の間,毛管力及び/又
は血圧は,血液を管状部24を通してハブ部22の内部26へと流さ
せ得る。ハブ部は,典型的には透明なポリマー材料より形成され,医
療従事者がこの血液の流れないし「フラッシュバック」を観察できる
ようになっている。空気抜きフィルタ28は,好適にはハブ部22に
固定されて針部材の中からの空気の抜け出しを許容するが,フィルタ
を通した液体の流れは防止する。」(抄訳3頁33行~4頁12行)
(イ)乙16-7公報の記載(別紙乙16-7公報添付図面参照)
a「軸線に沿って且つ軸線の周りにポリマー材料によって形成され針
ハブの流れ込みチャンバと流体連通状態で係合する先端と,針ハブの
流れ込みチャンバから延びるための基端とを有する逆流プラグ本体
と,前記軸線に沿って基端から先端まで前記逆流プラグ本体を貫通し
て延び,その中に流れを許容する通路と,疎水性のフィルタ媒質で作
られ且つ前記通路を横切る通気膜であって,前記逆流本体内にインサ
ート成形され且つ当該逆流本体によって保持された基端方向に延びる
外周部を含み,先端近くの通路内の液体は基端に到達することができ
ないが,通路内の気体は当該通気膜を通過することによって先端と基
端との間を自由に流通することができるようになされた前記通気膜
と,前記通路の内壁内に長手方向に形成され,前記通気膜から基端ま
で延びて前記通路の基端内に嵌合部材が配置された後にそれを通る流
れを許容する溝手段と,からなる静脈オーバー・ザ・ニードル・カテ
ーテル・チューブのための逆流プラグ。」(特許請求の範囲請求項1)
b「本発明は,静脈オーバー・ザ・ニードル・カテーテル(針を挿入
した後カテーテルを挿入し,その後,針を抜く方式のカテーテル)の
針ハブのための血液無漏洩逆流プラグに関する。この逆流プラグは,
該プラグ内に嵌合されたときにプラグ内を貫通する通路の基端から空
気を排気するための溝へ空気は通過させるけれども血液は通過させな
い一体化されたフィルタ材料を含む。」(【0001】,2欄2行~9行)
c「特に,カテーテルがオーバー・ザ・ニードル方法によって挿入さ
れ血液の逆流が確認された後に,カテーテルは血管内へと更に進めら
れ及び/又は針は抜き取られる。カテーテルが所望通りに血管内に挿
入され針が抜き取られ且つ捨てられた後,患者の血液から医者を守る
ことが望まれている。典型的には,流れ込みチャンバには,針とカテ
ーテルとが血管内に正しく位置決めされたときにチャンバから空気を
追い出すために先端に通気装置が設けられている。病原菌,エイズの
伝染,肝炎及びこれらと同様の不治の血液病に関連して,血液の漏れ
を防止する方法及び器具は極めて重要となり切望されている。流れ込
みチャンバ及び早期の観察に対する多くの試みが提案されて来た。こ
れらのいくつかは扱いづらく,高価で且つオーバー・ザ・ニードル・
カテーテルの挿入のための通常の受け入れられた方法に支障を来す。
典型的には,このようなチャンバは針ハブの外部と通気されている。」
(【0003】,2欄23行~39行)
d「米国特許4,193,399は,空気は通過させるが血液の流れ
は空孔が小さいので阻止される多孔質のポリマー材料によって作られ
た流れ込みチャンバを有する。ここで使用される材料は,焼結方法に
よって作られた超高分子ポリエチレンである。このようなプラグは,
流れ込みチャンバ内に圧入され且つ摩擦だけによってチャンバ内に保
持されるように設計されている。焼結成形された材料は本来弾力性が
比較的低く,プラグはそれ自体では流れ込みチャンバ内にしっかりと
保持されず,実際に定位置から落ちる。米国特許4,046,144
は,空気は逃がすが血液は逃がさないために,針ハブのキャップ内の
基端に配置された膜を有する。米国特許4,917,671は,基端
から流れ制御プラグの内側の位置に圧入され且つ摩擦による以外は両
方向において保持されない多孔質を有する。従って,容易に接続する
ことができる改良された流れ込みハブが必要とされている。
本発明は,容易に接続することができる改良された流れ込みハブを
提供することを目的とする。」(【0005】・【0006】,3欄6行~
26行)
e「図1は,軸線Aに沿って且つ軸Aを中心として形成されたフラッ
シュバック本体12を含むIV(静脈注射)カテーテル11のための
フラッシュバックプラグ10の好ましい実施例の分解斜視図である。」
(【0013】,4欄33行~36行)
f「同じく図2に示すように,親水性のフィルタ媒質よりなる通気膜
17は,本体12内に成形された基端方向に延びる外周部材18を有
する。」(【0014】,4欄44行~46行)
(ウ)乙16-8公報の記載(別紙乙16-8公報添付図面参照)
a「本発明は,全体として,静脈内,動脈内又は中央静脈内流体を投
与するためのカテーテル,特に,改良された閉システムの血管カテー
テルに関するが,これにのみ限定されるものではない。」(【0001】,
3欄38行~41行)
b「理解し得るように,細菌及びウィルスは,カテーテルを取り外し
かつ再密封しようとして操作するときに血流内に入ることが多く,そ
の結果,感染の虞れが生じる。更に,血液はカテーテルを通じて漏洩
して医者等に接触し,その医者等が感染する可能性のある血液に触れ
る虞れがある。更に,血液はカテーテルに栓をする前,患者のベッド
に漏れる虞れがある。かかる血液の漏洩は,特に,血液が感染してい
る場合,危険であり,病原菌の感染の可能性がある。更に,カテーテ
ルを通じて血液が漏洩する結果,患者のベッドの交換等という不必要
な作業が必要となる。このため,血液がカテーテルを通じて漏洩する
ことは極めて望ましくなくかつ極めて危険なことである。」(【000
4】,4欄22行~34行)
c「本発明によると,血管内に適正に位置決めされたならば,閉シス
テムカテーテルを提供する改良された静脈カテーテルを実現すること
である。即ち,カテーテルを血管内に挿入したならば,該カテーテル
は効果的に自己密封し,カテーテルが血液の漏洩を防止するのみなら
ず,カテーテルの内側部分を外部の周囲の環境から効果的に遮断し,
細菌及びウィルスが挿入したカテーテルを通じて患者の血流内に入る
のを防止する。」(【0006】,5欄7行~15行)
d「本発明の別の目的は,上述の目的を達成する一方,血液が誤って
漏洩するのを防止しかつ医者等が感染する虞れのある血液に触れるの
を防止する閉システム静脈カテーテルを提供することである。」(【00
12】,6欄25行~28行)
e「スタイレット組立体32の皮膚穿通スタイレット37は,カテー
テル22の流体流路28内に摺動可能に配置され,弾性的なガスケッ
ト部材30に嵌入することが出来る。」(【0020】,7欄28行~3
1行)
f「図2及び図5に図示するように,スタイレット組立体32は,皮
膚穿通スタイレット37に加えて,発火点キャビティ76を画成する
観察チャンバ74を備えている。発火点キャビティ76は皮膚穿通ス
タイレット37の流体流れ穴78と流体連通し,穴78を介して皮膚
貫通スタイレット37を通る血流は,発火点キャビティ76内で観察
することが出来る。」(【0026】,9欄9行~15行)
g「フリット部材82は,通気スタイレット94及びエラストマーカ
バー部材100と協働し,血液は,皮膚穿通スタイレット37及びカ
テーテル22を血管内に適正に位置決めしたとき,皮膚穿通スタイレ
ット37を介して観察チャンバ74の発火点キャビティ76内に流動
することが出来る。」(【0028】,10欄13行~18行)
h「退却可能なシース130の本体部材132には,皮膚穿通スタイ
レット37が伸長位置(図9を参照)にあるとき,皮膚穿通スタイレ
ット37よりも長い長さ寸法を備え,皮膚穿通スタイレット37の穿
刺先端38,及び皮膚穿通スタイレット37が退却可能なシース13
0の本体部材132により完全に囲繞されるようにする。」(【003
6】,12欄25行~31行)
(エ)乙16-9公報の記載(別紙乙16-9公報添付図面参照)
a「本発明は,I.V.カテーテル,特に,このようなカテーテルの
使用中に,偶然に血液との接触を引き起こし得る血液の逆流および滞
留を防止することに関する。」(1頁右下欄17行~20行)
b「医療従事者を偶然の針による突刺しの危険を防止することのみな
らず,患者の血液とのいかなる接触からも防護することである。針ガ
ードを有する上述のカテーテルの一つを使用する場合でさへ,カテー
テルから血液の望ましくない漏れのために,医療従事者が患者の血液
と接触する可能性がある。」(2頁左上欄13行~18行)
c「針の先端がカテーテルの先端部近くの位置に移動するにつれて,
血液は,静脈圧または動脈圧の下にカテーテル内へ,或は中空針内へ
流れ込むことになるが,しかし,血液は,また針の外壁とカテーテル・
カニューレの内壁との間の環状隙間にも入り込み得る。この隙間内の
血液がカテーテルハブへ流れるのを,ここでは,逆流と呼ぶ。」(2頁
右上欄8行~13行)
d「本発明の目的は,挿入針と,カテーテル・カニューレとの間での
血液の逆流を防止するカテーテルを提供することである。」(2頁左下
欄8行~10行)
e「針20の基端は,フラッシュ・チャンバ22の先端開口に接着剤
によって取り付けられ,このチャンバは針のハブ,すなわち,ハウジ
ング30の内部に配置取り付けられている。このフラッシュ・チャン
バのハウジングへの取付手段は,図示されていないけれども,ハウジ
ングの内面からフラッシュ・チャンバの外面に延びる長手方向のレー
ル状体からなっている。フラッシュ・チャンバの基端は,米国特許出
願221,579号(1988年7月20日出願)に記載された多孔
質の栓が施されている。チャンバが血液で満たされつつある時,この
多孔質の栓を通して,空気が外部に追い出されるが,この孔のサイズ
は,血液がそこを通るには不十分なものである。」(2頁右下欄20行
~3頁左上欄7行)
f「第1図は,また,針の先端が血管内の適正な位置に在る時に,カ
テーテル・アセンブリ内へ血液が所要量流れ込むのを図示している。
血液は,動脈圧または静脈圧の下に,40aにて指示される中空の針
を通って,40bにて指示されるフラッシュ・チャンバ22内に流入
する。第2図は,針の先端を血管内に位置させた後の,カテーテル・
アセンブリの各構成部の相対位置を示す。すなわち,ガードのプッシ
ュオフ・タブが臨床医により先端方向に押されると,これによって,
針ガード34が延長される。この操作で,針の先端26は,カテーテ
ル10の先端より内部に,すなわち,第2図に図示する位置に引っ込
む。」(3頁左上欄20行~右上欄7行)
(オ)想到容易性について
a本件発明2-7について
相違点②につき,前記(ア)~(エ)のとおり,乙16-6~9公報・
明細書には,「中空針の中からの血液」の「収容/保持手段」に相当す
る技術が記載されている。しかしながら,乙16-7公報記載の技術
は,中空針が「後退」することを前提としておらず,前記2(7)ウのよ
うに,中空針の後退により生じる圧縮力を阻止するものでもない。ま
た,乙16-9公報記載の技術も,針ガードを先端方向に延ばすこと
によって針の先端を引っ込めるのであって,中空針自体を「後退」さ
せるものでないから,これも中空針の後退により生じる圧縮力を阻止
するものではない。これに対し,乙16-6・8公報・明細書記載の
技術は,中空針が後退するものであるが,いずれも付勢手段等の解除
手段によるものではないから,前記2(7)ウのとおり,中空針の後退に
より生じる圧縮力を前提としておらず,これも中空針の後退により生
じる圧縮力を阻止するものではない。したがって,乙16-6~9公
報・明細書記載の技術は,いずれも収容/保持手段が「中空針の後退
によって生ずる力に抗」するものではない。
b本件発明2-8について
相違点②につき,本件発明2-8の「前記収容/保持手段」は,本
件発明2-7の「前記中空針の中からの血液を収容する共に,前記後
退によって生ずる力に抗して,前記針が後退する間に及び該後退の後
に,前記血液を確実に保持するための収容/保持手段」を指すことが
明らかであるから,乙16-6~9公報・明細書記載の技術は,本件
発明2-8との関係でも,収容/保持手段が「中空針の後退によって
生ずる力に抗」するものではない。
ウ小括
以上によれば,その余の点について検討するまでもなく,本件発明2-
7・8は,当業者が乙11-1発明及び周知技術から容易に想到し得なか
ったものであり,進歩性を有する。したがって,本件特許2の請求項7・
8は,特許無効審判で無効とされるべきものではない。なお,本件訂正発
明2-8が特許無効審判で無効とされるべきものでないことは,前記6
(3)のとおりである。
(5)結論
以上のとおりであるから,本件特許2の請求項1・3・5は進歩性の欠如
により特許無効審判で無効とされるべきものであるが,本件特許1の請求項
1及び本件特許2の請求項7・8は特許無効審判で無効とされるべきもので
はない。
8争点⑧(被告らの責任及び損害)
(1)被告らの責任について
前記第2の1(2)・(4)によれば,被告らは,平成19年5月1日から平成
22年9月23日までの間,共同して被告製品を製造し,販売し,輸出して
いたから,平成19年5月1日から本件特許権1の存続期間満了日である平
成20年4月28日までの間は本件訂正発明1に係る本件特許権1及び本件
発明2-7・8に係る本件特許権2を侵害し,平成20年4月29日から平
成22年9月23日までの間は本件発明2-7・8に係る本件特許権2を侵
害していたものであり,共同不法行為に基づき,上記各特許権の侵害により
原告に生じた損害について,連帯して損害賠償責任を負う。
(2)損害について
ア特許法102条3項による損害額について
鑑定の結果によれば,被告製品の売上高は,平成19年5月1日から平
成20年4月28日までは「●(省略)●」,同月29日から平成22年
9月23日までは「●(省略)●」であることが認められる。
証拠(甲32~34,乙29,30)によれば,本件各発明が属する医
療器具の技術分野における実施料率は,他の技術分野における実施料率と
比べて高いこと,静脈留置針(カニューレ挿入装置)の国内販売実績は,
針刺し防止機構の付いたセーフティタイプが年々増加し,近年は約50%
程度の市場占有率を有すること,中でも,止血弁の付いた被告製品の市場
評価が高く,約30%の市場占有率を有することが認められる。
そして,前記第2の1(2)によれば,本件訂正発明1は,ラッチの駆動に
よる安全後退用針を備えたカニューレ挿入装置全体に関する発明である
のに対し,本件発明2-7・8は,本件訂正発明1に係る装置に血液の収
容・保持・隔離手段に係る構成を付加した発明であることから,本件訂正
発明1に係る特許権の存続期間中と存続期間満了後とで実施料率を区別
し,存続期間満了後の実施料率(本件発明2-7・8を根拠とするもの)
は,存続期間中の実施料率(本件訂正発明1及び本件発明2-7・8を根
拠とするもの)よりも低いものと認めるのが相当である。このことを基本
として,本件全証拠から認められる諸事情を総合考慮すれば,本件訂正発
明1に係る特許権1の存続期間中の実施料率は10%,その存続期間満了
後の実施料率は3.3%と認めるのが相当である。
この実施料率を基に計算すると,特許法102条3項による損害額は,
次の計算式のとおり,9995万3966円となる。
(計算式)「●(省略)●」×0.1+「●(省略)●」×0.033=9995万3966
円(1円未満切捨て)
イ弁護士費用について
本件事案の内容,審理経過,前記認容額その他諸般の事情を総合考慮し
て,前記アの1割に当たる999万5396円とするのが相当である。
ウ確定遅延損害金について
(ア)平成20年11月25日までに生じた損害額
a次の計算式のとおり,平成19年5月1日から平成20年4月28
日までは,1507万5076円,同月29日から同年11月25日
までは,損害が日々均等に発生したものとして,2280万0084
円がそれぞれ生じ,併せて3787万5160円が生じている(弁護
士費用を含む。)。
(計算式)「●(省略)●」×0.1×1.1+「●(省略)●」×0.033
×1.1÷878日(平成20年4月29日~平成22年9月23日)×211日
(平成20年4月29日~同年11月25日)=「●(省略)●」+「●
(省略)●」=3787万5160円(1円未満切捨て)
b平成22年9月23日までに生じた確定遅延損害金額
前記aの損害額につき,平成22年9月23日までに生じた確定遅
延損害金額は,次の計算式のとおり,346万0648円となる。
(計算式)3787万5160円×0.05÷365日×667日(平成20年11月26日~平
成22年9月23日)=346万0648円(1円未満切捨て)
(イ)平成20年11月26日以降に生じた損害額
a平成20年11月26日から平成22年9月23日までは,損害が
日々均等に発生したものとして,1日あたり「●(省略)●」の損害
が生じている(弁護士費用を含む。)。
(計算式)「●(省略)●」×0.033×1.1÷878日(平成20年4月29日~
平成22年9月23日)=「●(省略)●」(1円未満切捨て)
b平成22年9月23日までに生じた確定遅延損害金額
前記aの損害額につき,平成20年11月27日から平成22年9
月23日までの666日間に生じた確定遅延損害金額は,次の計算式
のとおり,327万7901円となる。
(計算式)「●(省略)●」×0.05÷365日×
Σk=1

=「●(省略)●」×0.05÷365日×(1+665)×665÷2
=327万7901円(1円未満切捨て)
9結論
以上によれば,原告の請求は,被告らに対し,被告製品の製造,譲渡,輸出
及び譲渡申出の差止めを求めるとともに,連帯して特許権侵害の共同不法行為
に基づく損害賠償金として,前記8(2)ア,イ,ウ(ア)・(イ)の各bの合計額で
ある1億1668万7911円及びうち前記8(2)ア,イの合計額である1億0
994万9362円に対する不法行為の後の日である平成22年9月24日か
ら支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度
で理由があるからこれを認容し,その余の請求は理由がないからこれを棄却す
ることとする。
東京地方裁判所民事第47部
裁判長裁判官阿部正幸
裁判官山門優
裁判官志賀勝
(別紙特許公報省略)
(別紙)
当事者目録
アメリカ合衆国ユタ州<以下略>
原告フェイズ・メディカル・インコーポレーテッド
同訴訟代理人弁護士片山英二
同本多広和
同中村閑
同訴訟代理人弁理士日野真美
同補佐人弁理士黒川恵
同杉山共永
東京都文京区<以下略>
被告メディキット株式会社
東京都文京区<以下略>
被告東郷メディキット株式会社
被告ら訴訟代理人弁護士田中成志
同平出貴和
同山田徹
同森修一郎
同補佐人弁理士豊岡静男
同櫻井義宏
同高松俊雄
(別紙)
物件目録
「スーパーキャスZ5」という製品名で特定される医療器具
(別紙)
特許権目録
1本件特許権1
特許番号第2647132号
発明の名称安全後退用針を備えたカニューレ挿入装置
出願日昭和63年4月28日
登録日平成9年5月9日
特許請求の範囲請求項1
(1)(訂正前)「近い端及び遠い端を有する中空のハンドルと,該ハンドル内
に配置されたニードルハブと,鋭い自由端と,前記ニードルハブに連結され
た固着端とを有するニードルと,前記ニードルハブを前記中空なハンドルの
近い端に向かって付勢する付勢手段と,前記ニードルハブから独立して移動
可能であり,前記ニードルハブを前記付勢手段の力に抗して一時的に前記中
空のハンドルの遠い端に隣接して保持するラッチであって,前記ニードルの
長さよりも短い振幅で手動により駆動され,前記ニードルの移動距離よりも
短い距離のみ移動するラッチと,から成ることを特徴とする安全装置。」
(2)(訂正後)「近い端及び遠い端を有する中空のハンドルと,該ハンドル内
に配置されたニードルハブと,鋭い自由端と,前記ニードルハブに連結され
た固着端とを有し,カニューレを患者の定位置に案内し運ぶためのニードル
と,前記ニードルハブを前記中空なハンドルの近い端に向かって付勢する付
勢手段と,前記ニードルハブから独立して移動可能であり,前記ニードルハ
ブを前記付勢手段の力に抗して一時的に前記中空のハンドルの遠い端に隣接
して保持するラッチであって,前記ニードルの長さよりも短い振幅で手動に
より駆動され,前記ニードルの移動距離よりも短い距離のみ移動するラッチ
と,から成ることを特徴とするカニューレ挿入のための安全装置。」(下線
部分は,訂正部分を示す。)
2本件特許権2
特許番号第2588375号
発明の名称医療器具を挿入しその後保護する安全装置
優先日平成5年11月15日
出願日平成6年11月15日
登録日平成8年12月5日
(1)特許請求の範囲請求項1
「カニューレの如き医療器具を患者の体内へ挿入し且つその後患者の体内に
あった該装置の部分に人が接触しないように保護するための安全装置におい
て,患者を穿刺し,前記医療器具を患者の体内の適所へ案内して搬送する中空
針であって,少なくとも1つの鋭利な端部を有する軸を具備する中空針と,人
の指が届かないように,少なくとも前記針の鋭利な端部を包囲するようになさ
れた中空のハンドルと,前記鋭利な端部を前記ハンドルから突出させた状態で
前記軸を前記ハンドルに固定する固定手段と,前記固定手段を解除し,前記針
の鋭利な端部を人の指が届かないように前記ハンドルの中へ実質的に永続的に
後退させる解除/後退手段であって,前記針の軸よりも実質的に短い距離だけ
簡単且つ単一の動作によって手操作で作動可能な解除/後退手段と,前記後退
のエネルギの一部を吸収するためのエネルギ吸収手段とを備えることを特徴と
する安全装置。」
(2)特許請求の範囲請求項3
「請求項1の安全装置において,前記エネルギ吸収手段が,前記針と前記ハ
ンドルの内部孔とのうちの一方に固定された表面と,前記針と前記内部孔との
うちの他方に担持されて前記表面に圧接し,前記後退の間に摩擦を生ずる要素
とを備えることを特徴とする安全装置。」
(3)特許請求の範囲請求項5
「請求項1の安全装置において,前記中空のハンドルは,前記針がそれに向
かって後退する端部構造を有し,前記エネルギ吸収手段は,前記針と前記端部
構造とうちの一方に固定されて前記端部構造に対する前記針の衝撃の一部を吸
収する押し潰し可能な要素を有することを特徴とする安全装置。」
(4)特許請求の範囲請求項7
「請求項1の安全装置において,前記中空針の中からの血液を収容する共に,
前記後退によって生ずる力に抗して,前記針が後退する間に及び該後退の後に,
前記血液を確実に保持するための収容/保持手段とを更に備えることを特徴と
する安全装置。」
(5)特許請求の範囲請求項8
ア(訂正請求前)「請求項1の安全装置において,前記収容/保持手段が,
前記後退によって生ずる力から前記室の内部を隔離するための隔離手段を更
に備えることを特徴とする安全装置。」
イ(訂正請求後)「請求項7の安全装置において,前記収容/保持手段が,
前記針と共に運動するように固定された室を備え,前記後退によって生ずる
力から前記室の内部を隔離するための隔離手段を更に備えることを特徴とす
る安全装置。」(下線部分は,訂正請求部分を示す。)

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