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平成25年3月19日判決言渡
平成24年(行ケ)第10276号審決取消請求事件
口頭弁論終結日平成25年3月5日
判決
原告X
訴訟代理人弁理士熊田和生
被告特許庁長官
指定代理人高岡裕美
秋月美紀子
樋口信宏
田村正明
主文
原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第1原告の求めた判決
特許庁が不服2010-184号事件について平成24年6月11日にした審決
を取り消す。
第2事案の概要
本件は,特許出願に対する拒絶審決の取消訴訟である。争点は容易想到性である。
1特許庁における手続の経緯
原告は,平成12年2月17日,名称を「乳酸菌共棲培養物と薬用植物とからな
る食品及びその製造法」とする発明につき特許出願(特願2000-39893)
をしたが(甲1),平成21年9月8日付けで拒絶査定を受けたので,平成22年
1月6日に不服の審判(不服2010-184号)を請求するとともに(甲8),
同日付けで手続補正をした(甲9)。特許庁は,平成24年2月24日付けで補正
の却下の決定(乙1)をした上で,同年6月11日付けで,「本件審判の請求は,
成り立たない。」との審決をし,その謄本は,同年7月2日,原告に送達された。
2本願発明の要旨
(1)補正前の本願発明(願書(甲1)に最初に添付された明細書の特許請求の
範囲の請求項1)は次のとおりである。
「【請求項1】乳酸菌と酵母菌との共棲培養物と,ウコン,クミスクチン,ハ
イビスカス,グアバ,イチョウ,ビワ,ヨモギ,イチゴ,長命草,ドクダミ,モロ
ヘイヤから選ばれた1種又は数種の薬用植物との混合物からなる食品。」
(2)補正後の本願発明(平成22年1月6日付け手続補正書(甲9)の特許請
求の範囲の請求項1。以下「補正発明」という。)は次のとおりである。
「【請求項1】乳酸菌と酵母菌との共棲培養物とウコンとの混合物からなる食
品。」
3補正却下決定の理由の要点
補正却下決定(乙1)は,「補正発明は,刊行物1に記載された発明及び周知技
術に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法2
9条2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができない」と判断
した。
補正却下決定が上記判断の前提として認定した刊行物1(甲2)に記載された発
明(刊行物1発明),補正発明と刊行物1発明との一致点及び相違点,補正発明と
刊行物1発明との相違点についての補正却下決定の判断は,以下のとおりである。
(1)刊行物1発明
「乳酸菌と酵母菌との混合微生物を共棲培養して得られる培養物を含む食品」の
発明
(2)補正発明と刊行物1発明との一致点及び相違点
ア一致点
乳酸菌と酵母菌との共棲培養物を含む食品
イ相違点
食品が,補正発明では,「共棲培養物」と「ウコンとの混合物からなる」のに対
し,刊行物1発明では「ウコン」との混合物にしていない点。
(3)補正発明と刊行物1発明との相違点についての補正却下決定の判断
(相違点について)
刊行物1には,乳酸菌と酵母との混合微生物を共棲培養して得られる培養物には,肝
機能改善作用等があることが記載されている。
そして,機能性食品の分野では,効能をより増大するために同様の効能を有する食材
を混合させて機能性食品とすることは,例えば,刊行物3(特開平2-276546号
公報),刊行物4(特開平11-189539号公報),刊行物5(特開2002-3
00856号公報)に記載されているとおり,本件出願前の周知技術である。
そして,肝臓機能改善等に効能がある食材として,ウコンは,例えば刊行物2(特開
平8-214825号公報),刊行物3,刊行物4,刊行物6(特開平11-2899
73号公報)に記載されているとおりに,本件出願前に周知の事項である。
そうすると,肝臓の機能改善作用をより増大させた食品を得ることを考えて,刊行物
1発明の食品にさらにウコンを混合させて混合物として,乳酸菌と酵母菌との混合微生
物を共棲培養して得られる培養物とウコンからなる食品とすることも,周知技術を適用
して当業者が容易に想到し得たことである。
(補正発明の効果について)
乳酸菌共棲培養物とウコンを組み合わせることによって,乳酸菌共棲培養物のみによ
る効果及び薬草による効果が摂取できるばかりでなく,それらの組み合わせによる相乗
効果と保健維持効果を発揮する健康食品を得ることができるとの補正発明の効果は,刊
行物1~6の記載事項及び周知技術から予測し得たものであり,格別顕著なものとはい
えない。
したがって,補正発明は,刊行物1に記載された発明及び周知技術に基づいて,当業
者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により特
許出願の際独立して特許を受けることができないものである。
4審決の理由の要点
審決は,上記補正却下決定に基づき,補正前発明をもって本願発明の要旨とした
上,刊行物1(甲2)に記載された発明及び周知技術に基づいて,補正前発明を容
易想到と判断した。
審決が上記判断の前提として認定した刊行物1発明,補正前発明と刊行物1発明
との一致点及び相違点,補正前発明と刊行物1発明との相違点についての審決の判
断は,以下のとおりである。審決が上記判断において用いた刊行物1~6は,補正
却下決定が用いた刊行物1~6と同一である。
(1)刊行物1発明
「乳酸菌と酵母菌との混合微生物を共棲培養して得られる培養物を含む食品」の
発明(判決注:本件補正却下決定と同一)
(2)補正前発明と刊行物1発明との一致点及び相違点
ア一致点
乳酸菌と酵母菌との共棲培養物を含む食品(判決注:本件補正却下決定と同一)
イ相違点
食品が,本願発明では,「共棲培養物」と「ウコン,クミスクチン,ハイビスカ
ス,グアバ,イチョウ,ビワ,ヨモギ,イチゴ,長命草,ドクダミ,モロヘイヤか
ら選ばれた1種又は数種の薬用植物との混合物からなる」のに対し,刊行物1発明
では1種又は数種の薬用植物との混合物にしていない点。
(3)補正前発明と刊行物1発明との相違点についての審決の判断
(相違点について)
刊行物1には,乳酸菌と酵母との混合微生物を共棲培養して得られる培養物には,肝
機能改善作用等があることが記載されている。
そして,機能性食品の分野では,効能をより増大するために同様の効能を有する食材
を混合させて機能性食品とすることは,例えば,刊行物3,刊行物4,刊行物5に記載
されているとおり,本件出願前の周知の技術である。
また,肝臓機能改善等に効能がある食材として,ウコンは,例えば刊行物2,刊行物
3,刊行物4,刊行物6に記載されているとおりに,本件出願前に周知の事項である。
そうすると,刊行物1に記載された,乳酸菌と酵母との混合微生物を共棲培養して得
られる培養物が有する作用のうち,特に肝臓機能改善作用に着目し,当該作用をより増
大させた食品を得ることを考えて,乳酸菌と酵母菌との混合微生物を共棲培養して得ら
れる培養物とウコンからなる食品とすることは,周知技術を適用して当業者が容易に想
到し得たことである。
(補正前発明の効果について)
乳酸菌共棲培養物とウコンを組み合わせることによって,乳酸菌共棲培養物のみによ
る効果及び薬草による効果が摂取できるばかりでなく,それらの組み合わせによる相乗
効果と保健維持効果を発揮する健康食品を得ることができるとの補正前発明の効果は,
刊行物1~6の記載事項及び周知技術から予測し得たものであり,格別顕著なものとは
いえない。
したがって,補正前発明は,刊行物1に記載された発明及び周知技術に基づいて,当
業者が容易に発明をすることができたものである。
第3原告主張の審決取消事由
1取消事由1(本願発明の認定及び刊行物1発明との対比の誤り)
審決が認定した本願発明については争う。
補正発明は独立して特許を受けることができ,これに反する補正却下の決定は誤
りであり,審決は誤った却下決定に基づいたものであるので,審決がした本願発明
の認定及び対比判断には誤りがある。
2取消事由2(相違点についての判断の誤り)
(1)刊行物1(甲2)には,肝機能改善作用だけが記載されているのではなく,
【0015】に肝臓以外の腎機能改善作用,抗変異原性作用,腫瘍細胞増殖抑制作
用並びに腸内細菌叢改善作用等が記載されているので,それらの多くの作用の中か
ら,肝機能改善作用に着目するにはその根拠が必要であるが,審決には肝機能改善
作用に着目した根拠についての記載はない。
したがって,審決の「乳酸菌と酵母との混合微生物を共棲培養して得られる培養
物が有する作用のうち,特に肝臓機能改善作用に着目し,」との判断には誤りがあ
る。
(2)刊行物1の【0016】には,乳酸菌と酵母菌との共棲培養物をそのまま
食するか,あるいは食品に加えて食することが記載されているが,乳酸菌と酵母菌
との共棲培養物に他の医薬成分を組み合わせることについての記載はないので,刊
行物1の乳酸菌と酵母菌との共棲培養物と,刊行物2(甲3),3(甲4),4(甲
5),6(甲7)のウコンを組み合わせることは予測できない。
したがって,審決の「そうすると,刊行物1に記載された,乳酸菌と酵母との混
合微生物を共棲培養して得られる培養物が有する作用のうち,特に肝臓機能改善作
用に着目し,当該作用をより増大させた食品を得ることを考えて,乳酸菌と酵母菌
との混合微生物を共棲培養して得られる培養物とウコンからなる食品とすること
は,周知技術を適用して当業者が容易に想到し得たことである。」との判断には誤
りがある。
(3)本願発明は,これまで単独で摂取されていた乳酸菌と酵母菌との共棲培養
物に初めて医薬成分であるウコンを組み合わせたものである。
したがって,刊行物1の乳酸菌と酵母菌との共棲培養物に,医薬成分を組み合わ
せることは動機づけがない限り困難であるので,審決の「そうすると,刊行物1に
記載された,乳酸菌と酵母との混合微生物を共棲培養して得られる培養物が有する
作用のうち,特に肝臓機能改善作用に着目し,当該作用をより増大させた食品を得
ることを考えて,乳酸菌と酵母菌との混合微生物を共棲培養して得られる培養物と
ウコンからなる食品とすることは,周知技術を適用して当業者が容易に想到し得た
ことである。」との判断には誤りがある。
(4)仮に,「乳酸菌と酵母との混合微生物を共棲培養して得られる培養物が有
する作用のうち,特に肝臓機能改善作用に着目し」に根拠があるとしても,肝機能
改善作用を有する医薬成分はウコンに限られるものではない。
肝機能の作用を有する医薬成分に関する発明は,特許庁のテキスト検索によれば,
2575件ある(甲13)。
また,実際に使用されている肝臓に関する医薬は,たとえば,チオクト酸製剤,
グルクロン酸製剤,動物製剤,アスパラギン酸製剤など(甲14),茵陳蒿湯,茵
陳五苓散(肝機能の作用を有する医薬成分はヨモギの一種である茵陳蒿)など(甲
15),あるいは,グルクロノラクトンなど(甲16)数多くある。
したがって,公知の多くの肝機能改善作用を有する医薬成分の中から刊行物2,
3,4,6に記載されているウコンを選択して刊行物1の,乳酸菌と酵母菌との共
棲培養物の発明に組み合わせるには,動機づけが必要であるが,審決にはその記載
はないので,刊行物1に刊行物2,3,4,6を組み合わせることは困難である。
したがって,審決の「そうすると,刊行物1に記載された,乳酸菌と酵母との混
合微生物を共棲培養して得られる培養物が有する作用のうち,特に肝臓機能改善作
用に着目し,当該作用をより増大させた食品を得ることを考えて,乳酸菌と酵母菌
との混合微生物を共棲培養して得られる培養物とウコンからなる食品とすること
は,周知技術を適用して当業者が容易に想到し得たことである。」との判断には誤
りがある。
3取消事由3(効果についての判断の誤り)
(1)審決には,公知技術に関しては刊行物1~6が記載されているが,周知技
術に関する記載はないので,審決の「刊行物1~6の記載事項及び周知技術から予
測し得たものであり,格別顕著なものとはいえない。」との判断は,妥当でない。
(2)医薬効果については,二つ以上の成分を組み合わせる場合に,たとえば,
「2種以上の薬物が配合された場合,その配合が薬理学的にみて不合理であったり,
あるいは物理的性状に変化を起こしたり,または化学変化を起こして,その薬効に
変化を生ずることがある。」(甲17)と記載されているように,二つ以上の成分
のそれぞれが有する医薬効果が発揮されないことがあり,二つの医薬成分を組み合
わせたときに,二つの成分がもつそれぞれの医薬効果が必ず発揮されるという根拠
はないので,刊行物1の,乳酸菌と酵母菌との共棲培養物と,刊行物2,3,4,
6のウコンを組み合わせたときに,それぞれ有する医薬効果が必ず発揮されるかど
うかは,実際に使用して初めて確認できるのである。
したがって,審決の「刊行物1~6の記載事項及び周知技術から予測し得たもの
であり,格別顕著なものとはいえない。」との判断には誤りがある。
(3)本願発明は,肝機能に関する効果だけではなく,刊行物1~4,6に記載
されていない,体調がよくなり,便の臭いが消え,便秘が解消し,貧血が治り,肌
の状態が良くなり,疲労が回復し,安眠により早起きができ,また,元気になり,
集中力が増し,さらには,アトピーが治り,立ち眩みが解消し,胃ガンに関与して
いるピロリ菌の除去などに優れた効果を発揮するものであり(甲18),ウコン特
有の臭いが全くしないという,ウコンの持つ大きな欠点も解消することができたも
のであり,ウコンを利用する上で大きな効果である。
なお,本願発明が実際に利用されて優れた効果を発揮することは,本願発明が出
願時だけではなく,出願から10年以上が経過した現在においても実施されていて
多くの人が使用していることからも明らかである(甲8の添付資料)。
したがって,本願発明は,刊行物1~6から予測できない顕著な効果が得られた
ものであるので,審決の「乳酸菌共棲培養物とウコンを組み合わせることによって,
乳酸菌共棲培養物のみによる効果及び薬草による効果が摂取できるばかりでなく,
それらの組み合わせによる相乗効果と保健維持効果を発揮する健康食品を得ること
ができるとの本願発明の効果は,刊行物1~6の記載事項及び周知技術から予測し
得たものであり,格別顕著なものとはいえない。」との判断には誤りがある。
第4被告の反論
1取消事由1(本願発明の認定及び刊行物1発明との対比の誤り)に対して
補正却下の決定に誤りはないので,審決の本願発明の認定に誤りはなく,取消事
由1に理由はない。
2取消事由2(相違点についての判断の誤り)に対して
(1)①刊行物1には,乳酸菌と酵母との混合微生物を共棲培養して得られる培
養物に,肝機能改善作用等があることが記載されている。②そして,機能性食品の
分野では,効能をより増大するために同様の効能を有する食材を混合させて機能性
食品とすることは,本件出願前の周知の技術である。③また,肝臓機能改善等に効
能がある食材として,ウコンは,本件出願前に周知の事項である。当業者ならば,
②及び③の周知技術を知っているはずであり,そのような当業者が①の事実に接し
たとき,特に肝機能改善作用に着目することは当然である。
刊行物1の段落【0015】には,乳酸菌と酵母との混合微生物を共棲培養して
得られる培養物に,「例えば肝及び腎機能改善作用,抗変異原性作用,腫瘍細胞増
殖抑制作用並びに腸内細菌叢改善作用等」の作用があることが開示されている。次
に,刊行物1の段落【0017】ないし【0042】に記載された実施例では,実
施例1で「組成物の調製」の後,実施例2「肝機能改善作用試験(胆汁酸負荷肝障
害ラットに対する影響)」,実施例3「ガラクトサミン肝障害ラットに対する影響」,
実施例4「DMH大腸発癌マウスに対する影響」,実施例5「乳酸菌生産物質の抗
変異原性試験」及び実施例6「腸内細菌叢改善作用」を確認したことが,試験デー
タ等とともに具体的に開示されている。
したがって,当業者であれば,刊行物1の段落【0015】に開示された各作用,
特に,実施例2ないし6で具体的に確認された各作用それぞれに着目するはずであ
る。また,その中でも肝機能改善作用については,実施例2及び3という複数の生
体試験によって対象群と比較した有意な効果を確認したことが開示されている。そ
して,当業者は上記②及び③の周知技術を知っているから,当業者ならば,真っ先
に肝機能改善作用に着目するはずである。
以上のとおりであるから,審決が,刊行物1に記載された,乳酸菌と酵母との混
合微生物を共棲培養して得られる培養物が有する作用のうち,特に肝機能改善作用
に当業者が着目すると判断したことに誤りはない。
(2)審決に記載したとおり,刊行物1には,刊行物1発明の培養物に肝機能改
善作用があることが記載されている。そして,効能をより増大するために同様の効
能を有する食材を混合させて機能性食品とすることは周知技術であるところ,肝機
能改善に効能がある食材としてウコンは周知である。したがって,刊行物1発明の
培養物とウコンを組み合わせることには動機付けがあるから,審決の判断に誤りは
ない。
刊行物1の段落【0015】及び【0016】の記載から理解できるとおり,刊
行物1発明の培養物は,肝機能改善作用等が期待できる食材である。また,培養物
を含む食品の種類は,特に限定されるものではない。
刊行物3の2頁左下欄16行ないし右下欄13行の記載,刊行物4の特許請求の
範囲,段落【0004】,【0005】,【0008】及び【0012】の記載,
並びに,刊行物5の特許請求の範囲及び段落【0040】ないし【0042】の記
載から理解できるとおり,効能をより増大するために同様の効能を有する食材を混
合させて機能性食品とすることは,周知技術である(そもそも,刊行物1発明自体
が乳酸菌と酵母とを混合して培養することによる効果を狙ったものであり,しかも,
その培養物を含む食品には,栄養ドリンクのように,体に良いものを混合すること
が当然であるものが含まれている。)。
そして,刊行物2の段落【0001】及び【0002】の記載,刊行物3及び刊
行物4の上記記載,並びに,刊行物6の段落【0001】ないし【0004】の記
載から理解できるとおり,ウコンは,肝機能改善等に効能がある食材として周知で
あった。
以上のとおりであるから,審決が,刊行物1発明とウコンを組み合わせることが
できる(動機付けがある)と判断したことに誤りはない。
3取消事由3(効果についての判断の誤り)に対して
周知技術については,審決の10頁3ないし9行に記載がある。
原告の主張は,刊行物1発明の培養物及びウコンが,ともに医薬成分であること
を前提としたものである。しかし,審決は,刊行物1発明の培養物及びウコンがと
もに食材であることを考慮し,それらの組み合わせによる相乗効果と保健維持効果
を発揮する健康食品を得ることができるという効果が予測可能であると判断したも
のである。
原告は配合禁忌について主張しているが,上述のとおり,審決は,刊行物1発明
の培養物(食材)と,食材としてのウコンを組み合わせて食品とすることが容易で
あると判断したものである。食材を組み合わせても,「配合禁忌」と称されるほど
の強い弊害が生じることは,通常あり得ない。機能性食品の分野において,効能を
より増大するために同様の効能を有する食材を混合させて機能性食品とすること
は,本件出願前の周知の技術である。一度に単一の食材をたくさん食べるよりも多
種多様な食材を一緒に食べた方が栄養の吸収や体調改善等において相乗効果が期待
できてよいことは,日常の生活習慣からも容易に理解できる顕著な事実である。し
たがって,当業者ならば,両者の配合禁忌により効果が損なわれることを懸念する
よりも,両者の組合せによる相乗効果を積極的に期待したはずである。
原告が主張する効果は,刊行物1ないし6の記載事項及び周知技術から当業者が
予測し得たものか,本件出願の開示範囲を超えるものであるから,審決の判断に誤
りはない。
第5当裁判所の判断
1取消事由1(本願発明の認定及び刊行物1発明との対比の誤り)について
原告は,補正却下決定が誤りとする具体的な事由を主張しないが,補正発明は,
補正前発明の「乳酸菌と酵母菌との共棲培養物」と混合する薬用植物を「ウコン,
クミスクチン,ハイビスカス,グアバ,イチョウ,ビワ,ヨモギ,イチゴ,長命草,
ドクダミ,モロヘイヤから選ばれた1種又は数種の薬用植物」から「ウコン」に限
定するものであり,補正却下決定の理由は審決の理由と同趣旨であるから,原告は
取消事由2,3と同趣旨の理由で補正却下決定の誤りをいうものと解される。よっ
て,取消事由2,3について判断する際に,補正発明が独立して特許を受けること
ができるものであるか否かも判断する。
2取消事由2(相違点についての判断の誤り)について
刊行物1(甲2)には,乳酸菌と酵母との共棲培養物を含み(段落【0012】),
肝及び腎機能改善作用,抗変異原性作用,腫瘍細胞増殖抑制作用並びに腸内細菌叢
改善作用等を有する機能性食品用組成物(段落【0015】)が記載されているこ
とが認められる。
また,審決が認定したように,刊行物3(甲4)の2頁左下欄16行~右下欄1
3行,刊行物4(甲5)の段落【0002】,刊行物5(甲6)の段落【0040】
~【0043】の記載から,機能性食品用組成物を他の食品に添加したり,効能増
大のために同様の効能を有する他の機能性食材と混合することは,本件出願日前か
ら広く行われてきた周知技術であることが認められる。
そうすると,乳酸菌と酵母との共棲培養物を含み,肝及び腎機能改善作用,抗変
異原性作用,腫瘍細胞増殖抑制作用並びに腸内細菌叢改善作用等を有する機能性食
品用組成物が記載された刊行物1に接した当業者にとって,共棲培養物を同様の効
能を有する他の機能性食材と組み合わせて使用しようとすることは,ごく自然な発
想である。
その際,上記のとおり,刊行物1には,肝機能,大腸癌,抗変異原性及び腸内細
菌に関して具体的データを伴う実施例の開示がなされているところ,肝機能に関し
ては,DCA(実施例2)及びRS-1(実施例3)という2つの異なる作用機作による
肝障害に対する効果が確認されているのであるから,肝機能改善作用は,共棲培養
物の効能の中で特に着目すべきものといえる。したがって,審決の「乳酸菌と酵母
との混合微生物を共棲培養して得られる培養物が有する作用のうち,特に肝臓機能
改善作用に着目し,」との判断に誤りはない。
そして,刊行物2~4(甲3~5),6(甲7)の記載から,肝機能改善作用を
有する健康食品として,ウコンは広く普及し注目されていたことは明らかであるか
ら,肝機能改善の観点からウコンを刊行物1記載の共棲培養物に組み合わせること
に困難性は見いだせない。
したがって,補正却下決定の容易想到性の判断に誤りはなく,補正前発明につい
てした審決の判断にも誤りはない。
3取消事由3(効果についての判断の誤り)について
本願明細書(甲1)には,補正発明の効果に関して,共棲培養物による効果と薬
草による効果だけでなく,それらの組合せによる相乗効果と保健維持効果が発揮さ
れることの記載はあるものの(段落【0031】),組合せによる相乗効果や保健
維持効果とは具体的にどのようなものであるのかについての記載はない。組合せに
よる特有の効果は,組み合わせて摂取して初めて確認できるものであって予測でき
るものではないから,本願明細書から把握することができる補正発明の効果は,結
局,共棲培養物及びウコンそれぞれの効能を併せ持つ点にとどまる。
健康食品や機能性食品といわれる食材を複数組み合わせることは,ごく普通に行
われており,それぞれの効能が発揮されることは自明の理である。そして,刊行物
1(甲2)には共棲培養物の,刊行物2~4(甲3~5),6(甲7)にはウコン
の効能がそれぞれ記載され,しかも,それらは,本願明細書に共棲培養物及びウコ
ンそれぞれの従来から知られていた効能として記載されたものと重複ないし一致す
るから,補正発明の効果は,刊行物1及び周知技術から当業者が予測し得る範囲内
のものである。原告主張に係る効果も,この範囲を超えるものとは認められない。
以上のとおりであるから,補正却下決定における補正発明の効果についての判断
に誤りはなく,補正前発明についてした審決の判断にも誤りはない。
4小括
結局,取消事由で原告が主張する点は,補正発明,補正前発明の両者に関して理
由がない。
第6結論
以上によれば,原告主張の取消事由にはいずれも理由がない。よって,主文のと
おり判決する。
知的財産高等裁判所第2部
裁判長裁判官
塩月秀平
裁判官
池下朗
裁判官
古谷健二郎

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71期修習生 72期修習生 求人
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職種 事務職
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