弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


戻る

平成15年(行ケ)第303号 審決取消請求事件
口頭弁論終結日 平成16年8月26日
判決
原       告   松下電工株式会社
同訴訟代理人弁理士中川文貴
同安藤淳二
被       告   特許庁長官 小川洋
同指定代理人   藤原直欣
同田中秀夫
同小曳満昭
同 涌井幸一
同宮下正之
主文
     1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
 事実及び理由
第1 当事者の求めた裁判
 1 原告
(1) 特許庁が訂正2002-39260号事件について平成15年6月4日に
した審決を取り消す。
(2) 訴訟費用は被告の負担とする。
 2 被告
 主文と同旨
第2 争いがない事実
1 特許庁における手続の経緯
  (1) 原告は,平成11年9月30日,発明の名称を「ランプソケット及び放電
灯点灯装置」とする発明につき特許出願(特願平11-280154号)をした。
同出願について,特許庁は,特許をすべき旨の査定をし,平成12年7月21日,
特許第3090448号として設定登録がされた(以下,この特許権を「本件特
許」という。)。
  (2) その後,A及び株式会社小糸製作所から本件特許について特許異議の申立
てがされ,同事件は異議2001-70835号として特許庁に係属した。同事件
の審理の過程において,原告は,平成13年10月16日付けで本件特許に係る明
細書の訂正を請求した。
  (3) 特許庁は,上記事件について審理を遂げ,平成14年8月23日,上記訂
正を認めないとした上で,「特許第3090448号の請求項1乃至10に係る特
許を取り消す。」との決定をし,その謄本は同年9月11日に原告に送達された。
(4) 原告は上記決定を不服として,平成14年10月7日,その取消しを求め
 る訴えを東京高等裁判所に提起し,同訴えは平成14年(行ケ)第511号事件
として同裁判所に係属した。
原告は,上記訴訟事件の係属中である同年12月2日,本件特許の願書に
 添付した明細書(以下「本件明細書」という。)について「特許請求の範囲」の
減縮等を含む訂正をすることを求めて特許庁に審判の請求(以下「本件審判請求」
という。)をした。
  (5) 特許庁は,本件審判請求を訂正2002-39260号事件として審理を
し,平成15年6月4日,「本件審判の請求は,成り立たない。」とする審決(以
下「本件審決」という。)をし,その謄本は同月13日に原告に送達された。
2 本件審判請求に係る訂正後の発明の要旨は,本件審判請求に係る訂正明細書
(以下「本件訂正明細書」という。)の「特許請求の範囲」の請求項1ないし10
に記載された次のとおりのものである(下線部分が訂正部分である。以下,請求項
1ないし10に係る発明を,それぞれ「本件訂正発明1」ないし「本件訂正発明1
0」という。)。
【請求項1】放電灯が着脱自在に装着され,放電灯電極に電気的に接続される出
力端子を有するソケット部と,外部との電気的な接続を行うための入力端子を有す
るコネクタ部と,複数の電子部品並びにこれら電子部品の少なくとも一部と接続さ
れて各電子部品間の配線路を形成するリードフレームを具備して放電灯に高電圧を
印加し起動する起動回路部と,起動回路部が納装されるケースとを備え,前記リー
ドフレームにソケット部の出力端子並びにコネクタ部の入力端子の全てが接続さ
れ,前記コネクタ部はケースの一側面に突設されるとともに,前記ソケット部はケ
ースの底面より突設されてソケット部並びにコネクタ部がケースと一体に設けられ
たことを特徴とするランプソケット。
 【請求項2】起動回路部を構成する電子部品としてトランスを含み,トランスの
2次側に発生する高電圧を放電灯に印加して起動することを特徴とする請求項1記
載のランプソケット。
 【請求項3】ソケット部,コネクタ部並びにリードフレームを合成樹脂製のケー
スに一体成形して成ることを特徴とする請求項1又は2記載のランプソケット。
 【請求項4】起動回路部の電子部品とリードフレーム又はリードフレーム同士若
しくは電子部品同士をレーザ溶接,スポット溶接,抵抗溶接又は半田付けにより接
続して成ることを特徴とする請求項1又は2又は3記載のランプソケット。
 【請求項5】ケースと別体に形成されたソケット部並びにコネクタ部を振動又は
超音波を用いた溶着によりケースに溶着して成ることを特徴とする請求項1又は2
又は4記載のランプソケット。
 【請求項6】ソケット部,コネクタ部及びケースの略全体を覆う導電体を設けた
ことを特徴とする請求項1~5の何れかに記載のランプソケット。
 【請求項7】ソケット部は,放電灯が有する口金と嵌合する略円筒状に形成さ
れ,口金の周部から突設された係合突起が挿入される挿入用溝と,挿入用溝に連通
し且つ放電灯を回動させることで係合突起が係合される係合溝部と,係合溝部に並
行するスリットとが周部に設けられて成ることを特徴とする請求項1~6の何れか
に記載のランプソケット。
 【請求項8】電子部品とリードフレームを両者の接続部位を除いて透光性を有す
る樹脂で封止固定して成ることを特徴とする請求項1~7の何れかに記載のランプ
ソケット。
 【請求項9】電子部品のリードが挿通される挿通孔をリードフレームに設け,挿
通孔の周縁で電子部品のリードとリードフレームを接続して成ることを特徴とする
請求項4記載のランプソケット。
 【請求項10】電源からの電源供給を受けて放電灯に電力を供給して点灯する点
灯回路部と,トランスを含む複数の電子部品並びにこれら電子部品の少なくとも一
部と接続されて各電子部品間の配線路を形成するリードフレームを具備してトラン
スの2次側に発生させた高電圧を放電灯に印加して起動する起動回路部,点灯回路
部と起動回路部を接続し,入力端子を有するコネクタ部,放電灯が着脱自在に装着
され,放電灯電極に電気的に接続される出力端子を有するソケット部,起動回路部
が納装されるとともにソケット部並びにコネクタ部と一体に設けられたケースを有
するランプソケットとを備え,前記コネクタ部はケースの一側面に突設されるとと
もに,前記ソケット部はケースの底面より突設され,前記リードフレームにソケッ
ト部の出力端子並びにコネクタ部の入力端子の全てが接続されたことを特徴とする
放電灯点灯装置。
 3 本件審決の理由の要旨は,次のとおりである(甲1)。
  (1) 訂正の目的の適否,新規事項の有無,及び特許請求の範囲の拡張・変更の
存否
   ア 本件明細書の「特許請求の範囲」の請求項1,10に関する訂正事項
は,ソケット部を「放電灯電極に電気的に接続される出力端子を有する」ものと,
コネクタ部を「入力端子を有する」ものとそれぞれ限定し,さらにリードフレーム
とこれら入出力端子の接続として「リードフレームにソケット部の出力端子並びに
コネクタ部の入力端子の全てが接続され」と限定し,またケースに対するコネクタ
部とソケット部の配置として「前記コネクタ部はケースの一側面に突設されるとと
もに,前記ソケット部はケースの底面より突設され」と限定するものであるから,
特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。そして,この訂正事項について
は,本件明細書【0020】~【0022】,【0024】,【0026】,図1
~11に記載されているものである。
   イ その余の訂正事項は,特許請求の範囲を訂正したことによって生じる本
件明細書の記載の不整合を整える訂正であって,明りょうでない記載の釈明を目的
とするものである。
   ウ そして,上記各訂正事項は,いずれも本件明細書又は本件特許の願書に
添付した図面に記載した事項の範囲内のものであって,かつ実質上特許請求の範囲
を拡張し,又は変更するものでもない。
  (2) 独立特許要件の存否
   ア 本件訂正発明1について
    (ア) 本件訂正発明1と特開平11-185504号公報(以下「刊行物
1」という。)に記載された発明(以下「引用発明1」という。)とを対比する
と,両者は「放電灯が着脱自在に装着され,放電灯電極に電気的に接続される出力
端子を有するソケット部と,外部との電気的な接続を行うための入力端子を有する
コネクタ部と,複数の電子部品を具備して放電灯に高電圧を印加し起動する起動回
路部と,起動回路部が納装されるケースとを備え,コネクタ部はケースの一側面に
突設されてソケット部並びにコネクタ部がケースと一体に設けられたランプソケッ
ト」である点(以下「一致点1」という。)で一致し,以下の点で相違する。
     a 本件訂正発明1においては,「(複数の)電子部品の少なくとも一
部と接続されて各電子部品間の配線路を形成するリードフレーム」と,「リードフ
レームにソケット部の出力端子並びにコネクタ部の入力端子の全てが接続され」て
いるのに対し,引用発明1においては,各電子部品がプリント基板に実装されてい
るところから,各電子部品間の配線路をプリント基板を用いて形成し,ソケットの
出力端子(低圧端子)はリード線を介してプリント基板に接続し,ソケットの出力
端子(高圧端子)は導電片からなる導電路を介して2次コイルの高圧端と接続し,
並びにコネクタの入力端子(針状の接続端子)はプリント基板の導電路と接続され
る点(以下「相違点1」という。)。
     b ケースにおけるソケット部の突設位置が,本件訂正発明1において
は,「底面」であるのに対し,引用発明1においては,1つの面である点(以下
「相違点2」という。)。
    (イ) 次に上記相違点について検討する。
     a 相違点1について
       特開平11-260575号公報(以下「刊行物2」という。)に
は,放電ランプの始動装置におけるコンデンサ(C1)と自動開閉器(F1)[本
件訂正発明1の「複数の電子部品」に相当。]を,導電性材料からなる板(1)
[本件訂正発明1の「リードフレーム」に相当。]で接続する構成が記載されてい
る。そして,引用発明1と刊行物2に記載されたものとは,放電灯起動装置という
同一の技術分野に属するものであるから,複数の電子部品,出力端子,及び入力端
子の配線路の形成に際し,引用発明1におけるプリント基板,リード線,及び導電
路などの電気接続手段に替えて刊行物2に開示されたリードフレームを採用して,
相違点1に係る訂正発明1の構成とする程度のことは,当業者が容易に想到し得る
ところであり,それを阻害する格別の事由も何ら見出せない。
    b 相違点2について
       引用発明1においてもケースはコネクタ部が突設される側面以外の
面をソケット突出位置とされており,このソケット突出位置を底面若しくは頂面の
いずれかとするかは当業者が適宜選択する設計的事項にすぎない。
       なお,本件訂正発明1において,ソケット突設位置を底面とするこ
とに格別な技術的意義は認められない。
    c そして,本件訂正発明1により奏される効果は,引用発明1及び刊
行物2に記載の発明(以下「引用発明2」という。)から予測し得る範囲のもので
ある。
       したがって,本件訂正発明1は引用発明1及び2に基いて当業者が
容易に発明をすることができたものと認められる。
   イ 本件訂正発明2について
     本件訂正発明2は,本件訂正発明1において,さらに「起動回路部を構
成する電子部品としてトランスを含み,トランスの2次側に発生する高電圧を放電
灯に印加して起動する」構成を加えて限定するものであるが,この構成は,「点灯
トランス」を起動回路部に有する引用発明1に実質的に包含されているものであ
る。
     したがって,本件訂正発明2は,上記アでの検討内容を加味すれば,引
用発明1及び2に基いて当業者が容易に発明をすることができたものと認められ
る。
   ウ 本件訂正発明3について
    本件訂正発明3は,本件訂正発明1又は2において,さらに「ソケット
部,コネクタ部並びにリードフレームを合成樹脂製のケースに一体成型して成る」
構成を加えて限定するものである。
     しかしながら,「ソケット部,コネクタ部を合成樹脂製のケースに一体
成型して成る」構成は,引用発明1において「ソケット並びにコネクタが合成樹脂
製本体ケースと一体に設けられた」構成として具備されているところである。ま
た,特開平11-111352号公報(以下「刊行物3」という。)には,電子部
品が接続されるバスバー(「リードフレーム」に相当。)をインサートモールド
(「一体成型」に相当。)で合成樹脂製の部材に固定する技術が開示されていると
ころから,リードフレームを合成樹脂製の部材に一体成型することは周知・慣用の
技術であると言える。
     そうすると,「ソケット部,コネクタ部を合成樹脂製のケースに一体成
型して成る」引用発明1に,リードフレームを採用する際に,該リードフレームを
も一体成型することにより,本件訂正発明3の上記限定した構成とすることは,当
業者が容易になし得る程度の事項である。
     したがって,本件訂正発明3は,上記ア及びイでの検討内容を加味すれ
ば,引用発明1及び2並びに刊行物3に記載の発明に基いて当業者が容易に発明を
することができたものと認める。
   エ 本件訂正発明4について
     本件訂正発明4は,本件訂正発明1,2又は3において,さらに「起動
回路部の電子部品とリードフレーム又はリードフレーム同士若しくは電子部品同士
をレーザ溶接,スポット溶接,抵抗溶接又は半田付けにより接続して成る」構成を
加えて限定するものであるが,この接続構成については,「金属板1(「リードフ
レーム」に相当。)上に配置された構造要素(「電子部品」に相当。)は種々の結
合技術,例えばろう付け,高周波ろう付け,高周波溶接,レーザー溶接,超音波溶
接,点溶接によって・・・金属板1に固定することができる。」として刊行物2に
開示されているところである。
     したがって,本件訂正発明4は,上記アないしウでの検討内容を加味す
れば,引用発明1及び2並びに刊行物3に記載の発明に基いて当業者が容易に発明
をすることができたものと認められる。
   オ 本件訂正発明5について
     本件訂正発明5は,本件訂正発明1,2又は4において,さらに「ケー
スと別体に形成されたソケット部並びにコネクタ部を振動又は超音波を用いた溶着
によりケースに溶着して成る」構成を加えて限定するものであるが,例えば刊行物
3にも「2枚の閉塞盤22,23とケース30とは,樹脂ロックや,熱溶着あるい
は超音波溶着のような樹脂カシメによって固定される。」と記載されているよう
に,別体の樹脂部材を溶着するにあたって,超音波溶着等を用いることは周知技術
であり,かかる周知技術を引用発明1に施して,本件訂正発明5の上記限定された
構成とすることも任意である。
     したがって,本件訂正発明5は,上記ア,イ又はエでの検討内容を加味
すれば,引用発明1及び2並びに刊行物3に記載の発明に基いて当業者が容易に発
明をすることができたものと認められる。
   カ 本件訂正発明6について
     本件訂正発明6は,本件訂正発明1ないし5のいずれかにおいて,さら
に「ソケット部,コネクタ部及びケースの略全体を覆う導電体を設けた」構成を加
えて限定するものであるが,特開平10-3816号公報(以下「刊行物4」とい
う。)には,放電ランプの点弧装置(起動回路部)において,「誘導形の構成エレ
メント22はポット状のケーシング部分34によって取り囲まれている。・・・ケ
ーシング部分34は,有利には電磁放射線をシールドする材料,有利には金
属・・・から成っている。」及び「コネクタ部分56は,導電性材料,例えば金属
から成るポット状のケーシング部分58を有している。」として,導電性材料で上
記点弧装置を遮蔽する技術が開示されており,起動回路部や放電灯からのノイズを
抑制するために上記技術を引用発明1に付加することにより,本件訂正発明6の上
記限定された構成とすることは,当業者が必要に応じて適宜なし得るところであ
る。
     したがって,本件訂正発明6は,上記アないしオでの検討内容を加味す
れば,引用発明1及び2並びに刊行物3及び4に記載の発明に基いて当業者が容易
に発明をすることができたものと認められる。
   キ 本件訂正発明7について
     本件訂正発明7は,本件訂正発明1ないし6のいずれかにおいて,さら
に「ソケット部は,放電灯が有する口金と嵌合する略円筒状に形成され,口金の周
部から突設された係合突起が挿入される挿入用溝と,挿入用溝に連通し且つ放電灯
を回動させることで係合突起が係合される係合溝部と,係合溝部に並行するスリッ
トとが周部に設けられて成る」構成を加えて限定するものであるが,かかる限定さ
れた構成は,ランプソケットの構造として周知のものにすぎない(例えば,特開昭
62-237684号公報参照。)。
     したがって,本件訂正発明7は,上記アないしカでの検討内容を加味す
れば,引用発明1及び2,刊行物3及び4に記載の発明並びに上記周知技術に基い
て当業者が容易に発明をすることができたものと認められる。
   ク 本件訂正発明8について
     本件訂正発明8は,本件訂正発明1ないし7のいずれかにおいて,さら
に「電子部品とリードフレームを両者の接続部位を除いて透光性を有する樹脂で封
止固定して成る」構成を加えて限定するものであるが,車両等において,耐振性か
つ耐候性が要求される状態で使用する電子部品やリードフレーム等を樹脂で封止固
定することは熟知されていることであり,また,樹脂封止後に被封止部品の存在を
確認し得るように透光性の樹脂を用いることは各種分野で採用されている周知・慣
用手段にすぎない。
     したがって,本件訂正発明8は,上記アないしキでの検討内容を加味す
れば,引用発明1及び2,刊行物3及び4に記載の発明並びに上記周知技術に基い
て当業者が容易に発明をすることができたものと認められる。
   ケ 本件訂正発明9について
     本件訂正発明9は,本件訂正発明4において,さらに「電子部品のリー
ドが挿通される挿通孔をリードフレームに設け,挿通孔の周縁で電子部品のリード
とリードフレームを接続して成る」構成を加えて限定するものであるが,刊行物3
には,バスバー11,12(リードフレーム)に設けられたスリット15a,16
a,17aの周縁で電子部品4のリード線4b,4bを接続する態様として,上記
の限定された構成が開示されている。
     したがって,本件訂正発明9は,上記アないしエでの検討内容を加味す
れば,引用発明1及び2並びに刊行物3に記載の発明に基いて当業者が容易に発明
をすることができたものと認められる。
   コ 本件訂正発明10について
   (ア) 本件訂正発明10と引用発明1とを対比すると,両者は「トランス
を含む複数の電子部品を具備してトランスの2次側に発生させた高電圧を放電灯に
印加して起動する起動回路部,入力端子を有するコネクタ部,放電灯が着脱自在に
装着され,放電灯電極に電気的に接続される出力端子を有するソケット部,起動回
路部が納装されるとともにソケット部並びにコネクタ部と一体に設けられたケース
を有し,コネクタ部はケースの一側面に突設されるランプソケット」である点(以
下「一致点2」という。)で一致し,以下の点で相違する。
     a 本件訂正発明10においては「電源からの電源供給を受けて放電灯
に電力を供給して点灯する点灯回路部」を設け,「ランプソケット」と共に「放電
灯点灯装置」を構成しているのに対し,引用発明1においては点灯回路部が構成と
して明確にされていない点(以下「相違点3」という。)。
     b 本件訂正発明10においては,「(複数の)電子部品の少なくとも
一部と接続されて各電子部品間の配線路を形成するリードフレーム」と,「リード
フレームにソケット部の出力端子並びにコネクタ部の入力端子の全てが接続され」
ているのに対し,引用発明1においては,各電子部品がプリント基板に実装されて
いるところから,各電子部品間の配線路をプリント基板を用いて形成し,ソケット
の出力端子(低圧端子)はリード線を介してプリント基板に接続し,ソケットの出
力端子(高圧端子)は導電片からなる導電路を介して2次コイルの高圧端と接続
し,並びにコネクタの入力端子(針状の接続端子)はプリント基板の導電路と接続
される点(以下「相違点4」という。)。
     c コネクタ部に関して,本件訂正発明10においては「点灯回路部と
起動回路部を接続する」ものであるのに対し,引用発明1においては該接続態様が
明確にされていない点(以下「相違点5」という。)。
     d ケースにおけるソケット部の突設位置が,本件訂正発明10におい
ては,「底面」であるのに対し,引用発明1においては,1つの面である点(以下
「相違点6」という。)。
    (イ) 次に上記相違点について検討する。
     a 相違点3及び5について
       特開平8-298190号公報(以下「刊行物5」という。)に見
られるように,電源からの電源供給を受けて放電灯に電力を供給して点灯する安定
化回路(「点灯回路部」に相当。)がランプソケットと共に放電灯点灯装置を構成
すること,及び,ケースの電源側の接続部位で該安定化回路(点灯回路部)が始動
回路(「起動回路部」に相当。)に接続される構成とすることは周知の事項である
から,ランプソケットである引用発明1において,点灯回路部を設けて放電灯点灯
装置となすこと,及び,ケースの電源側の接続部位であるコネクタを介して該点灯
回路部を起動回路部と接続することは,当業者であれば容易に想到し得る程度のも
のである。
     b 相違点4について
       相違点4は,上記アの項における相違点1と実質的に同一であり,
該相違点についての判断は上記アの項で既に検討したとおりである。
   c 相違点6について
       相違点6は,上記アの項における相違点2と実質的に同一であり,
該相違点についての判断は上記アの項で既に検討したとおりである。
    (ウ) そして,本件訂正発明10により奏される効果は,引用発明1及び
2並びに刊行物5に記載の発明から予測し得る範囲のものである。
      したがって,本件訂正発明10は引用発明1及び2,刊行物5に記載
の発明並びに上記周知の技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたもの
と認められる。
   サ まとめ
     以上のとおり,本件訂正発明1ないし10は,引用発明1及び2,刊行
物3ないし5に記載された発明並びに上記周知技術に基いて,当業者が容易に発明
をすることができたものであって,特許法29条2項の規定により特許出願の際独
立して特許を受けることができないものである。
第3 当事者の主張
 (原告の主張する本件審決の取消事由)
1 取消事由1(本件訂正発明1の独立特許要件に関する判断の誤り)
(1) 引用発明2の「導電性材料からなる板(1)」が本件訂正発明1の「リー
ドフレーム」に相当するとした本件審決の認定の誤りについて
   ア(ア)本件訂正明細書の「特許請求の範囲」の請求項1には,①「複数の
電子部品並びにこれら電子部品の少なくとも一部と接続されて各電子部品間の配線
路を形成するリードフレーム」,②「リードフレームにソケット部の出力端子並び
にコネクタ部の入力端子の全てが接続され」ていると規定されている。
    (イ) 本件訂正明細書の「発明の詳細な説明」には,次のとおりの記載が
ある。
a「コネクタ部12は略角筒状であってケース14のメイン回路収納部
14aの一側面より外側へ突設されている。ここで,各々異なるリードフレーム1
31~133の端部に接続された3本の入力端子16a, 16b,16cが,その
長手方向をコネクタ部12の軸方向に一致させ且つコネクタ部12の内部に突出す
るようにしてケース14の側面に植設されている。」(段落【0020】)
     b 「ソケット部11は円筒形の有底筒状であって・・・ケース14の
トランス収納部14bの底面より外側へ突設されている。ソケット部11では主電
極として,放電灯LAの口金105の中央電極106に接触する中央電極17と,
放電灯LAの口金105の外周電極107に接触する外周電極18とを有し,さら
に中央電極17を間にして外周電極18と対向する位置に外周電極18と同構成の
補助電極19を設けている。」(段落【0021】)
     c 「ケース14内部の周縁近傍に3本のリードフレーム131~133
            が配置されており,これら3本のリードフレーム131
~133の一端 部にそれぞれ入力端子16a~16cが・・・適宜の手段で接続
されている。また,ケース14内部の中心部には一端部が中央電極17と接続され
たリードフレーム134が配置され,その周囲には一端部がそれぞれ外周電極18
及び補助電極19に接続されたリードフレーム135,136が配置されている。」
(段落【0024】)
     d 「ケース14のトランス収納部14bにパルストランスPTを収納
し,その上から複数のリードフレーム131・・・をケース14内に 収納配置し
てリードフレーム131・・・とパルストランスPTの1 次巻線15a及び2次
巻線15bとを接続した後,端子10cをリードフレーム131・・・の凹溝13
aに載置するようにしてケース1 4内に電子部品10bを収納するとともに,リ
ード131・・・と端子10cを・・・適宜の手段で接続することで起動回路部1
0が形成できる。」(段落【0025】)などとの記載がある。
     e また,図6~8には,本件の発明の実施形態におけるリードフレー
ムの構成が示されている
(ウ) 本件訂正発明1における「リードフレーム」については,上記(ア)
に規 定の要件を具備するものと認定すべきであり,また,本件訂正明細書の「発
明の詳細な説明」等の記載と,本件訂正発明1が,「小型化が可能なランプソケッ
ト及び放電灯点灯装置を提供すること」(本件訂正明細書の段落【0005】)と
いう課題を解決するためになされたものであり,また,「従来例においてはプリン
ト基板に電子部品を実装することで起動回路が構成されていたが,本発明では起動
回路部10の電子部品10bをリードフレーム131・・・電気的に接続している
ためにプリント基板を使用する必要が無(い)」(同段落【0026】)という作
用を奏するものであることを合わせて考慮すると,上記「リードフレーム」の具体
的態様としては,「複数の電子部品並びにソケット部及びコネクタ部の一端子に合
わせて水平,垂直に折り曲げられて配線路を形成する立体的な形状を有するもの」
と解すべきである。
 イ刊行物2の「導電性材料からなる板(1)」
   刊行物2には,放電ランプの始動装置に関する発明が記載されている。
この発明における「導電性材料からなる板(1)」は,コンデンサ(C1)の電気
接続端子及び自動開閉器(F1)の電気接続端子が導電的に接続されるものであ
る。
刊行物2には,上記ア(イ)の規定にされたような「リードフレーム」は
記載されていない。また,上記「導電性材料から成る板(1)」も上記規定の要件
を全く具有していない。
     刊行物2には,「板(1)が金属板あるいは帯状板金であること」
(【請求項2】),「この板が1つあるいは複数の折り曲げあるいは湾曲部分を有
していると有利である。これによって板およびこの上に固定された電子部品から成
る始動装置の構造ユニットを種々に形成された中空室に合わせることができる。」
(段落【0008】)との記載があり,「導電性材料からなる板(1)」を折り曲
げたり湾曲させたりしてもよいことが開示されている。しかし,刊行物2には,前
記段落【0008】の上記引用箇所の続きとして,「本発明の有利な実施態様にお
いて,板はこれをその上に固定されたコンデンサおよび自動開閉器と一緒にランプ
口金の円筒状中空室の中に収納するために例えばリングセグメントの形に成形され
ている。」と記載されており,この記載からすれば,前記段落【0008】の記載
は,構造ユニットの形状を,例えばランプ口金で構成される中空室の形状に合わせ
た上で,このランプ口金内に組み込むことができる(段落【0007】参照)とい
う意味を有するにすぎないと解される。すなわち,刊行物2では,始動装置をラン
プ口金内に組み込むことができるように,「導電性材料からなる板(1)」を折り
曲げあるいは湾曲することによって,「始動装置の形状」をランプ口金で構成され
る「中空室の形状」に合わせても良いことが示唆されているに止まるものである。
実際,刊行物2の【図1】における板(1)の湾曲状部分(1a)を見
 ても,垂直方向に板が折り曲げられたり,湾曲させられたりはしていない。刊行
物2には,3次元的に配置された電子部品に合わせて導電性材料から成る板(1)
を立体的に形成させることは全く開示されていない。すなわち,刊行物2に記載の
発明においては,導電性材料から成る板(1)の形状を垂直方向に折り曲げたり,
湾曲させたりすることは想定されていないものである。
   ウ 上記アで述べたとおり,本件訂正発明1における「リードフレーム」
は,複数の電子部品並びにソケット部及びコネクタ部の一端子に合わせて水平,垂
直に折り曲げられて配線路を形成する立体的な形状を有するもの」であると解すべ
きころ,上記イで見たように,引用発明2における「導電性材料からなる板
(1)」はこれとは異なるものであるから,本件審決が,引用発明2における「導
電性材料からなる板(1)」が本件訂正発明1における「リードフレーム」に相当
すると認定したことは誤りである。
  (2) 本件訂正発明1に関する進歩性の判断の誤りについて
ア 判断の誤り(その1)
    前記(1)に述べたとおり,引用発明2における「導電性材料からなる板
(1)」は本件訂正発明1における「リードフレーム」に相当するものではないか
ら,これと異なる認定を前提として,本件訂正発明1は引用発明1及び2から容易
に想到することができるとした本件審決の判断は誤りである。
 イ 判断の誤り(その2)
     また,引用発明2における「導電性材料から成る板(1)」が本件訂正
発明1における「リードフレーム」に相当するか否かの認定を議論の外に置くとし
ても,刊行物2に開示された「導電性材料から成る板(1)」を採用して,相違点
1に係る本件訂正発明1の構成とすることは当業者にとって容易に想到し得ること
ではない。その理由は次に述べるとおりである。
 (ア) 本件訂正発明1は,引用発明1と同様に,「ランプソケットと起動
回 路部一体型」の技術分野に属しているのに対し,引用発明2は,「放電灯(ラ
ンプ)と起動回路部一体型」の技術分野に属している。両技術分野は本質的に別異
の史的展開を示し,全く異なる放電灯起動装置に係る構成と解決すべき課題とを有
し,同一の技術分野に属するとは認められない。
      前者の「ランプソケットと起動回路部一体型」においては,ランプソ
ケットに放電灯を着脱自在としており,このランプソケット部は高電圧部となるた
め,耐電圧性,放射ノイズの低減という技術課題を解決することが不可避となる。
一方,後者の「放電灯(ランプ)と起動回路部一体型」の場合には,ランプソケッ
ト部を設けることなく,ランプは予め起動回路部と一体化されて着脱することので
きない構成となっており,前者の場合のように,ランプソケットを介して放電灯を
着脱自在に装着することは全く想定されていない。このため,刊行物2の記載から
も明らかなように,その放電始動装置の構成においては,放電灯(ランプ)に接続
するリード線(15)(16)のようなふらつくことの多い電気接続手段の配設を
欠かせないものとし,これを前提に,ランプ口金(10)の内部に直接,導電性材
料から成る板(1)を備えた始動装置を組み込んでいるのである。したがって,後
者の「放電灯(ランプ)と起動回路部一体型」の技術分野に属する引用発明2にあ
っては,ランプソケットの存在に伴う耐電圧性,放射ノイズの低減という極めて重
大な問題は認識されていないのである。
(イ)引用発明1に引用発明2を適用することについては,次に述べると
おり,阻害要因があるというべきである。
     a 自動車の放電灯点灯装置の分野で部品点数やスペースの問題を解消
するために開発された公知の「ランプソケットと起動回路部一体型」の装置におい
ては,これを小型化,薄型化し,しかもランプソケット部で発生する高電圧の影響
を抑えるために,ランプソケット部と電子部品との距離をできるだけ離して,ケー
ス下方に安定して配置することのできる実装手段としてプリント基板を使用するこ
とが当業界における技術常識であった。
       引用発明1は,この技術常識に基づく発明の1つであり,該発明が
解決しようとする課題は,本件訂正発明1とは本質的に相違している。
       すなわち,引用発明1においては,刊行物1の記載からも理解され
るように,「ランプソケットと起動回路部一体型」の放電灯点灯装置として小型,
薄型化を図るものではあっても,本件訂正発明1のように,①平面的なプリント基
板を一切用いることなく,②ケースの底面より突設されたソケット部の出力端子
と,ケースの一側面に突設されたコネクタ部の入力端子の全てが接続されるという
3次元の立体的構成をもつリードフレームを採用し,③しかも,このリードフレー
ムの採用によってソケット部で発生する高電圧の影響を回避するとのことは,全く
想定されていないことであって,示唆されてもいない。また,その実現の可能性も
考えられていないといわねばならない。
       プリント基板の使用を必然とした公知技術とこれに基づく技術的常
識といってよいものが,本件訂正発明1を容易に想到することのできない,大きな
阻害事由であったといわねばならない。
     b 一方,引用発明2は,前記のとおり,「放電灯(ランプ)と起動回
路部一体型」のものであって,高電圧発生が大きな問題となるランプソケット部を
有しておらず,放電灯(ランプ)は着脱自在ではなく組込み一体化されており,こ
れに伴って,放電灯に接続するリード線(15)(16)の配設という特有の構成
を有している。このような引用発明2によれば,ランプソケット部を配設すること
に伴う前記のとおりの問題の認識は全くない。しかも,ランプソケット部を配設し
て,このソケット部での高電圧発生の問題を解決しようとする動機もない。
       引用発明1において刊行物2記載の「導電性材料から成る板
(1)」を採用するための技術課題の認識の共通性は引用発明1及び2の間には全
くなく,また,上記「導電性材料から成る板(1)」の引用発明1への適用を示唆
する記載も刊行物2には認められないのである。つまり,刊行物2の記載は,「放
電灯(ランプ)と起動回路部一体型」の装置に特有の課題と構成を開示するものと
して,まさに,本件訂正発明1を容易に想到し得ない格別の阻害事由であるといわ
ねばならない。
(ウ) 本件訂正発明1により奏される作用効果が引用発明1及び2から予
測し得る範囲のものであるとした本件審決の判断は誤りである。
      本件訂正発明1においては,ランプソケット部を一体とした放電灯点
灯装置の小型化を可能とし,しかも,「電子部品の少なくとも一部と接続されて各
電子部品間の配線路を形成するリードフレーム」に,「ケースの底面より突設され
たソケット部の出力端子と,ケースの一側面に突設されたコネクタ部の入力端子の
全てが接続された」構成とすることで,ソケット部で発生する高電圧の影響を回避
することのできるという優れた作用効果が実現されるとのことは,引用発明1及び
2からは予測も,予期もできないのである。
上記の高電圧の影響の回避の作用効果について具体的にいえば,ま
ず,①リードフレームに高電圧部のソケットの出力端子とコネクタ部の入力端子の
全てを接続し,電子部品間の配線をすべてリードフレームで形成していることか
ら,導電部のふらつきをなくし,耐電圧性が大きく向上する,特にこのことは高電
圧発生部としてのソケット部において全ての出力端子をリードフレームに接続する
ことで顕著な効果をもたらす,また,②3次元の立体的なリードフレームへの端
子,電子部品の接続によって,配線が短くなり,ノイズ発生を効果的に抑えること
ができる,ということである。
2 取消事由2(本件訂正発明2ないし9の独立特許要件に関する判断の誤り)
本件訂正発明1の進歩性に関する本件審決の判断は誤りであるから,同判断
を前提として本件訂正発明2ない9の進歩性を否定した本件審決の判断は誤りであ
る。
3 取消事由3(本件訂正発明10の独立特許要件に関する判断の誤り)
(1)前記1(1)で述べたのと同様の理由により,引用発明2における「導電性
材料からなる板(1)」は本件訂正発明10における「リードフレーム」に相当す
るものではないというべきであり,したがって,これと異なる認定を前提として,
引用発明2に開示された発明から本件訂正発明10の相違点4に係る構成を想到す
ることは容易であるとし,本件訂正発明10の進歩性を否定した本件審決の判断は
誤りである。
(2) 引用発明2における「導電性材料から成る板(1)」が本件訂正発明10
における「リードフレーム」に相当するか否かの認定を議論の外に置くとしても,
前記1(2)イで述べたとおり,本件訂正発明1の進歩性に関する本件審決の判断は誤
りであるから,本件訂正発明1の構成を含む本件訂正発明10の進歩性に関する本
件審決の判断も誤りである。
(被告の反論)
1 取消事由1(本件訂正発明1の独立特許要件に関する判断の誤り)について
(1)引用発明2の「導電性材料からなる板(1)」が本件訂正発明1の「リー
ドフレーム」に相当するとした本件審決の認定について
   ア原告は,本件訂正明細書の請求項1には「リードフレーム」について,
「複数の電子部品並びにこれら電子部品の少なくとも一部と接続されて各電子部品
間の配線路を形成するリードフレーム」,「リードフレームにソケット部の出力端
子並びにコネクタ部の入力端子の全てが接続され」と規定されており,引用発明2
における「導電性材料から成る板(1)」はこれらの要件を満たすものではない旨
主張している。
     しかしながら,本件審決は,引用発明2における「導電性材料から成る
板(1)」が本件訂正発明1でいう「リードフレーム」に相当するとは説示してい
るが,それ以上に,本件訂正明細書の請求項1の要件までを具備しているとは認定
してはいないのであり,該請求項の要件については,引用発明2から当業者が容易
に想到し得るとしているのである。
     引用発明1は,複数の電子部品,ソケット部の出力端子,コネクタ部の
入力端子を有しており,それらは相互に電気的に接続されるものであるから,引用
発明1のプリント基板,リード線,導電路などの電気的接続手段を引用発明2のリ
ードフレームに替える際には,それらをリードフレームを介して電気接続するのが
自然であり,引用発明1に引用発明2を適用する際に,「複数の電子部品並びにこ
れら電子部品の少なくとも一部と接続されて各電子部品間の配線路を形成するリー
ドフレーム」,「リードフレームにソケット部の出力端子並びにコネクタ部の入力
端子の全てが接続され」なる要件を満たすような構成とすることは,当業者が何の
困難もなく想到し得ることである。
 原告の上記主張は本件審決を正解しないものであり,失当である。
   イ 原告は,本件訂正発明1における「リードフレーム」は「複数の電子部
品並びにソケット部及びコネクタ部の端子に合わせて水平,垂直に折り曲げられて
配線路を形成する立体的な形状を有するもの」と解すべきである」旨主張している
が,本件訂正明細書の「特許請求の範囲」の記載に基づくものではないから,失当
である。本件訂正発明1における「リードフレーム」を,原告主張のように限定的
に解釈すべき理由はない。
ウ 上記ア,イで述べたとおり,本件訂正発明1における「リードフレー
ム」を原告主張のように限定的に解すべき根拠はなく,それは文字どおりのものと
解すべきである。そして,引用発明2には,放電ランプの始動装置における複数の
電子部品を本件訂正発明1の「リードフレーム」と同様に電気を導く機能を有する
部材である「導電性材料からなる板(1)」で接続することが開示されており,引
用発明2の「導電性材料からなる板(1)」が本件訂正発明1の「リードフレー
ム」に相当するとした本件審決の認定に誤りはない。
なお,刊行物2の「金属板および帯状板金は一方では良導電性を有し他
    方ではコンデンサおよび自動開閉器を固定するために十分な強度を有し任
意の形状に成形できるからである。この板がその上に配置された電気構造要素に給
電するために少なくとも1つの電気接続端子を備えていると有利である。更にこの
板が1つあるいは複数の折り曲げあるいは湾曲部分を有していると有利である。こ
れによって板およびこの上に固定された電子部品から成る始動装置の構造ユニット
を種々に形成された中空室に合わせることができる。」(段落【0008】)との
記載からみて,電子部品に合わせて「導電性材料から成る板」を立体的に水平,垂
直等に折り曲げたり湾曲させたりするということは刊行物2のものにおいても十分
に想定される事項であるから,「リードフレーム」を原告主張のように解釈したと
しても,刊行物2においてその開示があるものとして引用することに何ら誤りはな
い。
     「リードフレーム」に関してさらにいえば,本件訂正明細書には「図5
~8に示すようにリードフレーム13は帯板状に形成されており」(段落【002
4】)と記載されており,このことからも,引用発明2における「導電性材料から
成る板(1)」を本件訂正発明1における「リードフレーム」に相当するとした本
件審決の認定に誤りはないものといえる。
(2) 本件訂正発明1の進歩性に関する判断について
ア判断の誤り(その1)について
    前記(1)ウで述べたとおり,引用発明2における「導電性材料からなる板
(1)」が本件訂正発明1における「リードフレーム」に相当するとした本件審決
の認定に誤りはなく,同認定が誤っていることを前提に,本件訂正発明1の進歩性
を否定した本件審決の判断の誤りをいう原告の主張は失当である。
イ判断の誤り(その2)について
    (ア) 引用発明1と引用発明2とが技術分野を異にする旨の主張について
 本件審決は,引用発明1及び2が共に放電灯起動装置に係るものであ
ることが技術的にみて明らかであることから,両者共に同一の技術分野に属するも
のであるとしているのであり,ここに何ら誤りはない。さらに,両者は共に,放電
灯起動装置であるとともに車両用の前照灯であることでもその技術分野を同じくす
るものであるから,その意味においても本件審決の認定判断に誤りはない。
      原告は,引用発明1と引用発明2の両方の技術分野が本質的に別異の
史的展開を示し,全く異なる放電灯起動装置に係る構成と解決すべき課題とを有す
る旨主張するが失当である。両発明が別異の史的展開を示している面はあるにして
も,両発明は,全く異なる放電灯起動装置に係る構成と解決すべき課題とを有する
わけではない。両発明は,放電灯点灯装置の「(a)放電灯」,「(b)ランプソ
ケット」,「(c)起動回路部」,「(d)点灯回路部」という4つの構成要素に
関し,引用発明1は(b)及び(c)をケース等により一体化するのに対し,引用
発明2は(a)及び(c)をケース等により一体化するという一体化の対象となる
ものがそれぞれ相違するという違いを有するにすぎないものである。両発明が共に
放電灯起動装置として同一技術分野に属するものであることについては前記したと
おりであるし,小型化・省スペース化・省資源化といった技術課題が,当該技術分
野に止まらず広く技術者において普通に考慮されるものであり,引用発明2のみな
らず,引用発明1においても当然考慮されるべき技術課題であることを合わせ鑑み
れば,上記一体化の対象となるものがそれぞれ相違するといった程度の別異の史的
展開は,両発明を組み合わせることに対する動機付けを何ら失わせるものではな
い。
      原告は,引用発明1においては,ランプソケット部が高電圧部となる
ことにより耐電圧性及び放射ノイズの低減が問題になるとも主張するが,失当であ
る。原告が主張する耐電圧性及び放射ノイズの低減がどのような問題を指している
のかが必ずしも明瞭ではなく,果たしてそれが引用発明2と無関係の問題なのかど
うかも不明瞭であるが,仮に,そのような問題が引用発明2には存在せず,引用発
明1に存在するとしても,そのことをもって,両発明が放電灯起動装置という同一
の技術分野に属するという事実が否定されることはない。
(イ)引用発明1に引用発明2を適用することに阻害要因が存在するとの
主張について
 原告の上記主張を善解すれば,①引用発明1のような「ランプソケッ
トと起動回路部一体型」のものは,ランプソケット部で発生する高電圧の影響を抑
えるためにプリント基板を必須とするものであるから,これをプリント基板の代わ
りにリードフレームを使用する本件訂正発明1のようなものに改変することには阻
害要因があるということと,②引用発明2は,ランプソケット部を有さず,ランプ
ソケット部における高電圧の影響が問題とならないから,ランプソケット部におけ
る高電圧の影響を考慮する必要のある引用発明1に適用しようとの動機付けを欠く
ということをいうものと解される。しかしながら,原告のこの点の主張は以下のと
おり,失当である。
a 上記①の主張について
       原告が主張する「ランプソケット部で発生する高電圧の影響」が具
体的にどのような影響を指しているのか必ずしも明瞭ではないが,仮に,原告主張
のように,引用発明1のような「ランプソケットと起動回路部一体型」のものがラ
ンプソケット部で発生する高電圧の影響を抑えるためにプリント基板を必須とする
ものであるとすると,そもそもプリント基板を使用することなく,「ランプソケッ
トと起動回路部一体型」とした本件訂正発明1自体が成立し得ないはずであるの
に,本件訂正発明1は成立しているのであるから,原告のこの点の主張が失当であ
ることは明らかである。
       原告の上記主張の趣旨が,引用発明1のプリント基板等をリードフ
レームに替えても「ソケット部で発生する高電圧の影響」を抑制することは可能で
はあるが,当業者はそのような発想に至らないということであれば,それは阻害要
因があるということではなく,動機付けがないということである。引用発明1のプ
リント基板等をリードフレームに替えることについての動機付けがあること(技術
分野の共通性,小型化,省スペース化といった課題の共通性があること)は,本件
審決が説示するとおりである。
b 上記②の主張について
       本件審決は,刊行物2からランプソケット部を有しない構成を引用
しているわけではなく,複数の電子部品をリードフレームで接続する構成を引用し
ているのである。引用発明2においてソケット部における高電圧の影響が問題とな
らないことは,これを引用発明1に適用することが容易かどうかの判断には何ら影
響しないことである。
       引用発明1に刊行物2に開示される複数の電子部品をリードフレー
ムで接続する構成を適用することについての動機付けがあること(技術分野の共通
性,小型化,省スペース化といった課題の共通性があること)は,上述したとおり
である。
  また,引用発明1が全く想定していないとする「リードフレーム」
の「3次元の立体的構成」については,本件訂正明細書の「特許請求の範囲」に記
載された事項ではないから,その意味においても失当である。
(ウ) 本件訂正発明1による奏される顕著な作用効果の主張について
原告は,本件訂正発明1の構成とすることによる,ソケット部で発生
する高電圧の影響を回避することのできるという優れた作用効果としての,①リー
ドフレームに高電圧部のソケットの出力端子とコネクタ部の入力端子のすべててを
接続し,電子部品間の配線を全てリードフレームで形成していることから,導電部
のふらつきをなくし,耐電圧性が大きく向上すること,②3次元の立体的なりード
フレームへの端子,電子部品の接続によって,配線が短くなり,ノイズ発生を効果
的に抑えることができることは,引用発明1及び2からは予測も予期もできない旨
主張している。
      しかしながら,上記①の作用効果は,本件訂正明細書の記載に基づく
ものではないが,その点をさておくとしても,引用発明1に引用発明2を適用する
ことにより容易に得ることができるものが当然に有する作用効果にすぎず,予測で
きないようなものではない。また,上記②の作用効果は,本件訂正明細書の「特許
請求の範囲」に記載の構成から得られる効果ではない。
2 取消事由2(本件訂正発明2ないし9の独立特許要件に関する判断の誤り)
  について
前記1で述べたとおり,本件訂正発明1の進歩性を否定した本件審決の判断
に誤りはないから,同判断に誤りがあることを前提に本件訂正発明2ないし9の進
歩性を否定した本件審決の判断の誤りをいう原告の主張は失当である。
3 取消事由3(本件訂正発明10の独立特許要件に関する判断の誤り)につい
  て
(1)前記1で述べたのと同様,引用発明2の「導電性材料からなる板(1)」
が本件訂正発明1の「リードフレーム」に相当するとした本件審決の認定に誤りは
なく,同認定が誤っていることを前提に,本件訂正発明10の進歩性を否定した本
件審決の判断の誤りをいう原告の主張はその前提を欠き失当である。
(2) また,原告は,引用発明2における「導電性材料から成る板(1)」が本
件訂正発明1における「リードフレーム」に相当するか否かの認定を議論の外に置
くとしても,本件訂正発明1の進歩性を否定した本件審決の判断は誤りであるとし
て,そのことを前提に,本件訂正発明10の進歩性に関する本件審決の判断も誤り
である旨主張するが,本件訂正発明1の進歩性を否定した本件審決の判断に誤りは
ないから,原告の上記主張は前提を欠き失当である。
第4 当裁判所の判断
1 取消事由1(本件訂正発明1の進歩性に関する判断の誤り)について
 (1)引用発明2の「導電性材料からなる板(1)」が本件訂正発明1の「リー
ドフレーム」に相当するとした本件審決の認定について
   ア 本件訂正発明1における「リードフレーム」について
     原告は,本件訂正発明1における「リードフレーム」については,本件
明細書の「特許請求の範囲」の請求項1に規定の要件を具備するものとして認定す
べきであり,その具体的態様としては,本件明細書の「発明の詳細な説明」及び本
件特許の願書に添付した図面を参照して,「複数の電子部品並びにソケット部及び
コネクタ部の一端子に合わせて水平,垂直に折り曲げられて配線路を形成する立体
的な形状を有するもの」と解すべきである旨主張する。
 しかしながら,本件訂正明細書(甲3)の「特許請求の範囲」の請求項
1では,リードフレームについては,「これら電子部品の少なくとも一部と接続さ
れて各電子部品間の配線路を形成するリードフレームを具備して放電灯に高電圧を
印加し起動する起動回路部」,「リードフレームにソケット部の出力端子並びにコ
ネクタ部の入力端子の全てが接続され」と記載されているにすぎない。そして,
「リードフレーム」とは一般に導電性の板状のものを意味するものであるところ,
上記の記載によれば,「リードフレーム」は,その文言どおりのものとして,①複
数の電子部品の少なくとも一部と接続すること,②各電子部品間の配線路を形成し
ていること及び③起動回路部に具備されているものであることが規定されていると
いうことができる。
     これに対し,上記請求項1には,「リードフレーム」の形状についてこ
れを特定する何らの記載もない。上記請求項1には,リードフレームにはソケット
部の出力端子及びコネクタ部の入力端子のすべてが接続されることが記載されてい
るが,それはソケット部とコネクタ部との接続関係を規定したものにすぎず,これ
をもって「リードフレーム」が原告主張のような形状を有するものとして本件訂正
発明1の構成要件とされていると認めることはできない。
     また,上記請求項1に記載のない「リードフレーム」の形状について,
本件訂正発明1の構成要件として解釈しなければならない特段の事情は認められな
い。
イ 引用発明2における「導電性材料からなる板(1)」について
    (ア)刊行物2(甲5)には,「放電ランプの始動装置及び放電ランプ」
に関して,以下の事項が記載されている。
     a 「始動装置の給電用の電圧入力端(J1,J2,J3),始動電圧
出力端(J4,J5),少なくとも1つの第1の電気接続端子と少なくとも1つの
第2の電気接続端子とを備えたコンデンサ(C1),少なくとも1つの第1の電気
接続端子と少なくとも1つの第2の電気接続端子とを備えた自動開閉器(F1),
および少なくとも1つの1次巻線(N1)と少なくとも1つの2次巻線(N3)と
を有する変成器(TR)を備えた放電ランプの始動装置において,この始動装置が
導電性材料から成る板(1)を有し,この板(1)に少なくともコンデンサ(C
1)および自動開閉器(F1)が固定され,コンデンサ(C1)の少なくとも1つ
の第1の電気接続端子および自動開閉器(F1)の少なくとも第1の電気接続端子
が板(1)に導電的に接続されていることを特徴とする放電ランプの始動装置」
(【請求項1】)
     b 「板(1)が金属板あるいは帯状板金であることを特徴とする請求
項1記載の始動装置」(【請求項2】)
c 「【発明が解決しようとする課題】本発明の課題は,特に放電ラン
 プのランプ口金の中に簡単に組み込むことができるような放電ランプの始動装置
を提供することにある。
 【問題を解決する手段】この課題は,本発明に基づいて,始動装置が
導電性材料から成る板を有し,この板に少なくともコンデンサおよび自動開閉器が
固定され,コンデンサの少なくとも1つの第1の電気接続端子および自動開閉器の
少なくとも第1の電気接続端子が板に導電的に接続されているに(注:「に」は
「ことに」の誤記と認める。)よって解決される。本発明の特に有利な実施態様は
各従属請求項に記載されている。」(段落【0005】,【0006】)
d「導電性材料から成る板を利用することによって,始動装置のコン
デンサおよび自動開閉器を予め製造された構造ユニットとして形成すること,およ
び例えばランプ口金の中に組み込むことができる。板が導電性材料から成っている
ので,この板はコンデンサおよび自動開閉器を保持するために使用できるだけでな
く,補助的にこれらの構造要素間の電気接触片をも作り上げる。」(段落【000
7】)
     e 「板が金属板あるいは帯状板金として形成されていると有利であ
る。というのは,金属板および帯状板金は一方では良導電性を有し他方ではコンデ
ンサおよび自動開閉器を固定するために十分な強度を有し任意の形状に成形できる
からである。この板がその上に配置された電気構造要素に給電するために少なくと
も1つの電気接続端子を備えていると有利である。更にこの板が1つあるいは複数
の折り曲げあるいは湾曲部分を有していると有利である。これによって板およびこ
の上に固定された電子部品から成る始動装置の構造ユニットを種々に形成された中
空室に合わせることができる。」(段落【0008】)
     f 「始動装置の構成要素はランプ口金10の内部空間内に収納されて
いる。変成器TRは環状鉄心変成器として形成され,ランプ口金10の内部に両ラ
ンプ管11,12に対して同軸的に配置されている。始動コンデンサC1および火
花ギャップF1がそれぞれその上に固定されたリングセグメント状の湾曲金属板1
は,ランプ口金10の内部におけるそれに合わせて形成された収容装置の中に配置
されている。」(段落【0013】)
     g 「金属板1上に配置された構造要素は種々の結合技術,例えばろう
付け,高周波ろう付け,高周波溶接,レーザー溶接,超音波溶接,点溶接によって
あるいは例えばクランプや差込みのような機械的接続技術によって金属板1に固定
することができる。」(段落【0016】)
(イ)上記(ア)の刊行物2の記載によれば,刊行物2には,放電ランプの
始動装置において,複数の電子部品の一部,少なくともコンデンサ(C1)及び自
動開閉器(F1)を「導電性の材料から成る板(1)」で接続する構成が開示され
ていることが認められ,この「導電性の材料から成る板(1)」は,始動装置(起
動装置)に備わる導電性の板であり,始動装置の複数の電子部品の一部を接続し,
その各部品間の配線路の一部を形成するものであることが明らかである。
   ウ 以上によれば,引用発明2における「導電性の材料から成る板」は本件
訂正発明1における「リードフレーム」に相当するというべきであり,この点に関
する本件審決の認定判断に誤りはない。
原告の上記主張は,「リードフレーム」の意義について本件訂正明細書
の「特許請求の範囲」に基づかない解釈により本件審決の認定を論難するものであ
り,失当である。
 (2) 本件訂正発明1の進歩性について
ア本件訂正発明1と引用発明1とが一致点1で一致し,相違点1(本件訂
正発明1においては,「(複数の)電子部品の少なくとも一部と接続され て各電
子部品間の配線路を形成するリードフレーム」と,「リードフレームにソケット部
の出力端子並びにコネクタ部の入力端子の全てが接続され」ているのに対し,引用
発明1においては,各電子部品がプリント基板に実装されているところから,各電
子部品間の配線路をプリント基板を用いて形成し,ソケットの出力端子(低圧端
子)はリード線を介してプリント基板に接続し,ソケットの出力端子(高圧端子)
は導電片からなる導電路を介して2次コイルの高圧端と接続し,並びにコネクタの
入力端子(針状の接続端子)はプリント基板の導電路と接続される点)等で相違す
ることは当事者間に争いがない。
イ相違点1についてみるに,前記(1)イに認定したとおり,刊行物2には,
 放電ランプの始動装置における複数の電子部品の一部,すなわち「コンデンサ
(C1)」と「自動開閉器(F1)」を,「導電性材料からなる板(1)」で接続
する構成が開示されており,この「導電性材料からなる板(1)」が本件訂正発明
1の「リードフレーム」に相当するものであることは前記(1)で説示したとおりであ
る。
     しかして,引用発明1と引用発明2とは放電灯起動装置という同一の技
術分野に属するものと認められるから,複数の電子部品、出力端子及び入力端子の
配線路の形成に当たり、引用発明1におけるプリント基板、リード線及び導電路等
の電気接続手段に代えて刊行物2に開示されたリードフレームを採用した上、相違
点1に係る本件訂正発明1の構成とすることは,引用発明1及び2に接した当業者
において容易に想到し得ることというべきであり,また,本件訂正発明1により奏
される効果も,引用発明1及び2から予測し得る範囲を出るものとはいえない。こ
の点に関する本件審決の判断に誤りはない。
(3) 本件訂正発明1の進歩性に関する判断についての原告の主張(判断の誤り
(その1))について
 原告は,引用発明2の「導電性材料からなる板(1)」が本件訂正発明1
の「リードフレーム」に相当するとの本件審決の認定が誤りであるとし,本件訂正
発明1の進歩性を否定した本件審決の判断を論難するが,前記(1)で説示したとお
り,引用発明2の「導電性材料からなる板(1)」が本件訂正発明1の「リードフレー
ム」に相当するとした本件審決の認定に誤りはなから,原告の上記主張はその前提
を欠き失当である。
(4)本件訂正発明1の進歩性に関する判断についての原告の主張(判断の誤り
(その2))について
 原告は,引用発明2における「導電性材料から成る板(1)」が本件訂正
発明1における「リードフレーム」に相当するか否かの認定を議論の外に置くとし
ても,刊行物2に開示された「導電性材料から成る板(1)」を採用して,相違点
1に係る本件訂正発明1の構成とすることは当業者にとって容易に想到し得ること
ではないとして縷々主張するが,以下に説示するとおり,いずれも採用することが
できない。
ア原告は,引用発明1は,「ランプソケットと起動回路部一体型」の技術
分野に属しているのに対し,引用発明2は,「放電灯(ランプ)と起動回路部一体
型」の技術分野に属し,両発明の技術分野は本質的に別異の史的展開を示し,全く
異なる放電灯起動装置に係る構成と解決すべき課題とを有しており,同一の技術分
野に属するとは認められないと主張する。
     しかしながら,刊行物1及び2の記載から明らかなとおり,引用発明1
と引用発明2は,いずれも主として自動車用の前照灯に用いられる放電灯起動装置
に係るものである。放電灯点灯装置が「放電灯」,「ランプソケット」,「起動回
路部」,「点灯回路部」という4つの構成要素から成ることは技術常識に属すると
いうべきところ,引用発明1においては上記各構成要素のうち「ランプソケット」
と「起動回路部」とをケース等により一体化するのに対し,引用発明2においては
上記各構成要素のうち「放電灯」と「起動回路部」をケース等により一体化するも
のであって,上記各構成要素のうちで一体化の対象となるものが相違するにすぎな
い。そして,放電灯点灯装置の技術分野における通常の知識を有する当業者におい
て,上記一体化の対象を異にする両発明の技術についての知見を共通に持っていな
いことは通常あり得ないことであり,小型化・省スペース化・省資源化といった技
術課題は,引用発明2のみならず,引用発明1においても当然考慮されるべき技術
課題であると考えられるから,両発明に係る各技術は,いずれも上位概念としての
放電灯起動装置に係る技術に属するものとして,同一の技術分野に属するというこ
とができる。そして,この技術分野の同一性は,両発明の組み合わの十分な動機付
けになるというべきである。
     なお,同一の技術分野に属する発明であっても,個々の技術課題が異な
ることは往々にしてあることであって,仮に,原告が主張する耐電圧性及び放射ノ
イズの低減という技術課題が引用発明2には存在せず,引用発明1に存在するとし
ても,そのことは,両発明が同一の技術分野に属さないことの論拠となるものでは
ない。
     この点に関する本件審決の認定判断に誤りはなく,上記したところと異
なる見解に立つ原告の主張は採用することができない。
イ 原告は,引用発明1のような「ランプソケットと起動回路部一体型」の
ものについては,ランプソケット部で発生する高電圧の影響を抑えるためにプリン
ト基板を必須とすることが当業者の技術常識となっており,そのことが,これに引
用発明2を適用し,プリント基板の代わりにリードフレームを使用する本件訂正発
明1のようなものに改変することの阻害要因であった旨主張する。
確かに,甲12ないし甲14の記載からすると,放電灯点灯装置につい
て,これを「ランプソケットと起動回路部一体型」として小型,薄型化し,その場
合に,ソケット部で発生する高電圧の影響を抑えるために,ソケット部を電子部品
からできるだけ離して,ケース下方に安定して配置することのできる実装手段とし
てプリント基板を使用するということが,当業者の間で技術常識であったことがう
かがわれるが,このことは,単に,上記の課題を解決する手段としてプリント基板
を使用する技術が知られていたことを示すものにすぎず,そのこと自体は,引用発
明1に引用発明2を適用することの阻害要因となるものとはいえない。そして,プ
リント基板の変わりに「リードフレーム」を使用すると何らかの支障が生じるた
め,当業者において,その使用を回避する事情が存在したことをうかがわせる証拠
は何ら存在しないのであって,原告の上記主張は採用できない。
 原告は,引用発明2は,引用発明1と異なり,「放電灯と起動回路部一
体型」の装置を開示するものであって,ランプソケット部を有せず,したがって,
起動回路部にランプソケット部を一体的に配設することに伴う前記のとおりの問題
の認識は全くなく,しかも,ランプソケット部を配設して,このソケット部での高
電圧発生の問題を解決しようとする動機もないとし,両発明の間には引用発明1に
引用発明2における「導電性材料から成る板(1)」を採用するための技術課題の
認識の共通性はない旨主張する。
確かに,引用発明2が「放電灯と起動回路部一体型」の装置を開示する
ものであって,「ランプソケットと起動回路部一体型」の引用発明1と異なり,ソ
ケット部における高電圧の各種電子部品への影響が問題とならないことは原告の主
張するとおりであるが,本件審決は,引用発明2からランプソケット部を有しない
構成の引用発明1への適用の容易想到性を問題にしているわけではなく,複数の電
子部品を「リードフレーム」で接続する構成の引用発明1への適用の容易想到性を
問題にしているものであり,引用発明2が引用発明1における上記技術課題を抱え
ていないことは,リードフレームに関する上記構成を引用発明1に適用することが
容易かどうかの判断には何ら影響しないことというべきである。原告の上記主張は
採用できない。
なお,引用発明1に刊行物2に開示された複数の電子部品を「リードフ
レーム」で接続する構成を適用することについての動機付けがあるというべきこと
は,上記アで説示したとおりである。
ウ 原告は,本件訂正発明1は,①ランプソケット部を一体とした放電灯点
灯装置の小型化を可能とし,しかも,②リードフレームに高電圧部のランプソケッ
トの出力端子とコネクタ部の入力端子のすべてを接続し,電子部品間の配線をすべ
てリードフレームで形成していることから,導電部のふらつきをなくし,耐電圧性
が大きく向上する,特にこのことは高電圧発生部としてのランプソケット部におい
て全ての出力端子をリードフレームに接続することで顕著な効果をもたらす,ま
た,③3次元の立体的な「リードフレーム」への端子,電子部品の接続によって,
配線が短くなり,ノイズ発生を効果的に抑えることができる,という顕著な作用効
果を奏するものである旨主張する。
しかしながら,上記①の作用効果は,引用発明1に引用発明2を適用し
た場合に当然に予測される範囲の作用効果にすぎない。また,上記②の作用効果
は,本件訂正明細書(甲3)の記載に基づくものではないし,また,その点をおく
としても,引用発明1に引用発明2を適用することにより当然に予測される範囲の
作用効果にすぎない。さらに,上記③の作用効果についていえば,3次元の立体的
な「リードフレーム」なる構成は本件訂正明細書(甲3)の「特許請求の範囲」に
は記載のないものであって,そのような構成により得られる作用効果をもって,本
件訂正発明1の作用効果ということはできない。
     本件訂正発明1により奏される効果は,引用発明1及び2から予測し得
る範囲内のものであるとした本件審決の判断に誤りはなく,原告の上記主張は採用
できない。
2 取消事由2(本件訂正発明2ないし9の独立特許要件に関する判断の誤り)
について
本件訂正発明1の進歩性に関する本件審決の判断に誤りがないことは,前記
1(2)ないし(4)に説示したとおりである。
本件訂正発明1の進歩性に関する本件審決の判断が誤りであることを前提
に,本件訂正発明2ないし9の進歩性に関する本件審決の判断の誤りをいう原告の
主張は,その前提を欠き理由がないというべきである。
3 取消事由3(本件訂正発明10の独立特許要件に関する判断の誤り)につい

(1)本件訂正発明10と引用発明1とが一致点2で一致し,相違点4(本件訂
   正発明10においては,「(複数の)電子部品の少なくとも一部と接続され
て各電子部品間の配線路を形成するリードフレーム」と,「リードフレームにソケ
ット部の出力端子並びにコネクタ部の入力端子の全てが接続され」ているのに対
し,引用発明1においては,各電子部品がプリント基板に実装されているところか
ら,各電子部品間の配線路をプリント基板を用いて形成し,ソケットの出力端子
(低圧端子)はリード線を介してプリント基板に接続し,ソケットの出力端子(高
圧端子)は導電片からなる導電路を介して2次コイルの高圧端と接続し,並びにコ
ネクタの入力端子(針状の接続端子)はプリント基板の導電路と接続される点)等
で相違することは当事者間に争いがない。
 相違点4は相違点1と同一であるところ,前記1の(1)イに認定したとお
り,刊行物2には放電ランプの始動装置における複数の電子部品の一部を「導電性
材料からなる板(1)」で接続する技術事項が開示されており,また,前記1の(1)
で説示したのと同様の理由により,上記技術事項における「導電性材料からなる板
(1)」は本件訂正発明10の「リードフレーム」に相当するというべきである。
    したがって,前記1の(2)イで説示したとおり、引用発明1において相違点
4に係る本件訂正発明1の構成を採用することは,引用発明2に接した当業者にお
いて容易に想到し得ることというべきである。
  (2) (原告の主張する本件審決の取消事由)3の(1)の主張は,本件訂正発明
10における「リードフレーム」が引用発明2の「導電性材料から成る板(1)」
に相当するとした本件審決の認定が誤りであることを前提に,相違点4に関する本
件審決の判断,ひいては本件訂正発明10の進歩性に関する判断が誤りであるとい
うものであるが,本件審決の上記認定に誤りがないことは上記(1)に説示したとおり
であるから,上記主張は,その前提を欠き失当というべきである。
(3) (原告の主張する本件審決の取消事由)3の(2)の主張は,引用発明2に
おける「導電性材料から成る板(1)」が本件訂正発明1における「リードフレー
ム」に相当するか否かの認定を議論の外に置くとしても,本件訂正発明1の進歩性
に関する本件審決の判断が誤りであるとして,本件訂正発明10の進歩性に関する
本件審決の判断も誤りであるというものであるが,既に前記1の(4)において説示し
たとおり,本件訂正発明1の進歩性に関する本件審決の判断に誤りはないから,上
記主張は,その前提を欠き失当というべきである。
4 以上によれば,原告が取消事由として主張するところはいずれも理由がな
く,その他本件審決にこれを取り消すべき瑕疵は見当たらない。
よって,原告の本件請求は理由がないから,これを棄却することとし,主文の
とおり判決する。
  東京高等裁判所知的財産第1部
    裁判長裁判官    北  山  元  章
   裁判官      青  栁     馨
         裁判官   沖  中  康  人

戻る



採用情報


弁護士 求人 採用
弁護士募集(経験者 司法修習生)
激動の時代に
今後の弁護士業界はどうなっていくのでしょうか。 もはや、東京では弁護士が過剰であり、すでに仕事がない弁護士が多数います。
ベテランで優秀な弁護士も、営業が苦手な先生は食べていけない、そういう時代が既に到来しています。
「コツコツ真面目に仕事をすれば、お客が来る。」といった考え方は残念ながら通用しません。
仕事がない弁護士は無力です。
弁護士は仕事がなければ経験もできず、能力も発揮できないからです。
ではどうしたらよいのでしょうか。
答えは、弁護士業もサービス業であるという原点に立ち返ることです。
我々は、クライアントの信頼に応えることが最重要と考え、そのために努力していきたいと思います。 弁護士数の増加、市民のニーズの多様化に応えるべく、従来の法律事務所と違ったアプローチを模索しております。
今まで培ったノウハウを共有し、さらなる発展をともに目指したいと思います。
興味がおありの弁護士の方、司法修習生の方、お気軽にご連絡下さい。 事務所を見学頂き、ゆっくりお話ししましょう。

応募資格
司法修習生
すでに経験を有する弁護士
なお、地方での勤務を希望する先生も歓迎します。
また、勤務弁護士ではなく、経費共同も可能です。

学歴、年齢、性別、成績等で評価はしません。
従いまして、司法試験での成績、司法研修所での成績等の書類は不要です。

詳細は、面談の上、決定させてください。

独立支援
独立を考えている弁護士を支援します。
条件は以下のとおりです。
お気軽にお問い合わせ下さい。
◎1年目の経費無料(場所代、コピー代、ファックス代等)
◎秘書等の支援可能
◎事務所の名称は自由に選択可能
◎業務に関する質問等可能
◎事務所事件の共同受任可

応募方法
メールまたはお電話でご連絡ください。
残り応募人数(2019年5月1日現在)
採用は2名
独立支援は3名

連絡先
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所 採用担当宛
email:[email protected]

71期修習生 72期修習生 求人
修習生の事務所訪問歓迎しております。

ITJではアルバイトを募集しております。
職種 事務職
時給 当社規定による
勤務地 〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
その他 明るく楽しい職場です。
シフトは週40時間以上
ロースクール生歓迎
経験不問です。

応募方法
写真付きの履歴書を以下の住所までお送り下さい。
履歴書の返送はいたしませんのであしからずご了承下さい。
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所
[email protected]
採用担当宛