弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
  原判決を破棄する。
    被告人Dを懲役4年に,被告人Eを懲役3年に,被告人F,被告人G及び
被告人H
をそれぞれ懲役2年6月に処する。
原審における未決勾留日数中320日を被告人らのそれぞれの刑に算
入する。
         理    由
1本件控訴の趣意は,検察官加藤修司作成名義の控訴趣意書記載のとおり
であり,これに対する答弁は,被告人Dについては弁護人大熊裕起作成名義
の,被告人F,同G,同E及び同Hについては弁護人佐藤謙一作成名義の各答
弁書記載のとおりであるから,これらを引用する。
2 控訴趣意中,事実誤認の主張について
(一) 論旨は,要するに,次のようなものである。すなわち,原判決は,「被告人
5名は,Aと共謀の上,平成12年8月25日午後11時50分ころから翌日午前2
時ころまでの間,長野県茅野市内の公園内駐車場及び公衆便所内(以下合わ
せて「第1現場」という。)において,I(当時22年)に対し,こもごも多数回にわた
り,その顔面,腹部等を手拳で殴打し,その胸部,腹部等を足蹴にするなどの
暴行を加え,さらに,同日午前3時ころから午前3時45分ころまでの間,同県諏
訪市内のマンションの一室(以下「第2現場」という。)において,こもごも多数回
にわたり,同人の頭部,顔面等を手拳で殴打するなどの暴行を加え,この一連
の暴行により,同人に顔面打撲等の傷害を負わせた上,同時刻ころ,この暴行
から逃れるために同室から逃走した同人を追跡し,同人をして,同日午前3時5
5分ころ,同市内の中央自動車道西宮線下りの路上(以下通称に従い「本件高
速道路」という。)に進入することを余儀なくさせ,折から時速約90キロメートル
で進行してきた自動車を同人に衝突させるなどして,同人を外傷性ショックによ
り死亡するに至らせた」との傷害致死の公訴事実に対し,被告人らが被害者に
公訴事実のとおりの暴行を加えたこと,被害者が本件高速道路に立ち入り,進
行してきた自動車に衝突,轢過されて死亡したことを認めた上で,被告人らの
暴行と,被害者の本件高速道路への立入り及び死亡との因果関係を否定し,
傷害罪の限度で被告人らを有罪としているが,原判決には,被告人らの暴行と
被害者の死亡との因果関係を認めなかった点において事実誤認があり,これ
が判決に影響を及ぼすことが明らかであるというのである。
(二) そこで,原審記録を調査して検討することとする。
 関係証拠によると,本件は,被告人ら及び被害者が人材派遣会社から派遣さ
れて長野県茅野市内の同じ会社で勤務していたが,被告人Dは被害者の上司
に対する告げ口があったなどとして被害者に対する害意を形成させ,同じく被
害者に悪感情を抱いていたその余の被告人らを糾合して敢行したいわゆる集
団リンチの事案であって,第1現場における暴行態様は被告人らそれぞれによ
る殴打,足蹴りが2時間余りにわたって間断なく繰り返された極めて激しいもの
であったと認められる。そして,さらに,被告人らはこの暴行では不足であるとし
て,被害者を自動車に乗せて被告人Hの居室である第2現場に連行した上,被
害者を監禁状態にしてその逃走を阻むため監視をしつつ時に椅子を用いるな
どもしながら被告人D,同Eらが前同様の暴行を約45分間にわたり断続的に加
えたことも優に認められる。その後被害者は第2現場の隣人が物音に抗議に来
た際,被告人Eがこれに応対している隙に被告人Dによる阻止を振り切って,靴
下履きのまま同現場から逃走したことが認められる。
 【要旨】 これらの事実関係に照らすと,被害者の逃走行為は被告人らの執よ
うにして激しい暴行から逃れるための必死のものであったと認められ,このこと
はもとより被告人らにおいて暴行時つとに了解できていたものと解される上,被
害者をして逃走するに任せてはおけないとの心理状態にあったと認められるの
であって,現にその直後に被告人らが手分けをして被害者を捕捉するための行
動(以下「追跡」という。)に出たことからも明らかである。
 ところで,被害者は逃走後本件高速道路上で自動車に衝突,轢過されている
が,被害者が同道路に立ち入った逃走経路は証拠上明らかではないところ,確
かに,原判決認定のとおり,本件高速道路への立入りには同道路と側道との間
の金網フェンスや上り線と下り線とを分かつガードレール及び遮光ネットで構成
された中央分離帯等の障害物を越えなければならず,かつ,その頃における高
速走行車の通行量も5分間で,上り線,下り線とも37台というのであるから,被
害者のこの立入りは一見無謀な感がすることは否めない。
 しかしながら,第2現場から轢過現場までの距離は経路のいかんにより約76
3メートルないし約810メートルであること,逃走開始から轢過されるまでの間
が約10分という短時間であることに加え,被害者は被告人らに対し極度の恐
怖感を抱いていたものと認められることにもかんがみると,被害者は被告人ら
の追跡を逃れる最も安全な方法として本件高速道路への立入りを即座に選択
したと認めるのが相当である。そして,追跡する者が6名と複数人である上,2
台の自動車を用いた徹底した追跡がなされるであろうことは被害者にとって自
明であることはもとより被告人らにとっても必然のものとして観念されていたと
認められることに照らせば,このような選択が被害者の現に置かれた状況から
みて,やむにやまれないものとして通常人の目からも異常なものと評することは
できず,したがって,被告人らにとってみても予見可能なものと認めるのが相当
である。
 この点,原判決は,被告人らは第2現場から逃走した被害者を追跡したもの
のすぐに見失い,引き続き付近を探索した事実は認められるが,それ以上に被
害者を追跡したことは認められず,被害者がどのような経緯で本件高速道路に
進入したか及びその時の被告人らとの位置関係はどのようなものであったか本
件では不明であるとした上,被害者が第2現場から逃走した後の行き先につい
ては,現場の地理的な条件や被害者が逃走して探索されている状況下にある
という心理状態を考えても,選択の余地は多々あり,そういう中で被害者が本
件高速道路へ進入するしかないあるいはその蓋然性が高いといえるような事情
は見出せず,被告人らの暴行から逃れる目的があったとしても,被害者が本件
高速道路に進入するということは,通常の予想の範囲外といえる行動であると
して,本件因果関係を否定している。
 しかし,本件因果関係の存否は,必然のものとしての被告人らの追跡を前提
とした場合における被害者の行動がどのようなものとなるのかの予見の問題に
係るのであるから,現実になされた追跡状態を問題とする点において,この見
解には賛同できず,のみならず,選択の余地が多々あるとする点も被害者に冷
静な判断を求めることが期待できることを前提とする見解と解さざるを得ず,こ
のような見解は前記認定の被害者の置かれた状況を等閑視するもので,これ
また賛同することができない。
 以上のとおりであって,被告人らの暴行と被害者Iの死亡との間の因果関係は
これを肯認することができるのであって,論旨は理由がある。
3 そうすると,検察官のその余の控訴趣意に対する判断を省略して,刑訴法3
97条1項,382条により原判決を破棄した上,同法400条ただし書により更に
被告事件について次のとおり判決する。
(罪となるべき事実)
 被告人5名は,Aと共謀の上,平成12年8月25日午後11時50分ころから同
月26日午前2時ころまでの間,長野県茅野市ab番地c所在のJ公園駐車場及
び公衆便所内において,I(当時22歳)の職場での態度が悪いと言い掛かりを
付け,同人に対し,こもごも多数回にわたり,その顔面,腹部等を手拳で殴打す
るとともに,その胸部,腹部等を足蹴にするなどの暴行を加え,さらに,同日午
前3時ころから午前3時45分ころまでの間,同県諏訪市d町e丁目f番地所在の
マンションKg号室において,被告人D,同E及びAにおいて,Iの頭部,顔面等を
手拳で殴打するなどの暴行を加え,この一連の暴行により,同人に顔面打撲傷
等の傷害を負わせた上,同時刻ころ,機を見て同室から逃走した同人をして,
同日午前3時55分ころ,追跡から逃れるために同市大字中洲地籍中央自動車
道西宮線下り高井戸起点hキロポスト付近路上に進入することを余儀なくさせ,
折から,同所付近を東京方面から名古屋方面に向かい時速約90キロメートル
で進行してきたB運転に係る普通貨物自動車の右前部をIに衝突させて同人を
路上に転倒させ,同車に引き続き,進行してきたC運転に係る普通乗用自動車
の右前後輪で,路上に転倒していたIを轢過させ,よって,同日午前5時23分こ
ろ,同市ij丁目k番l号所在のL病院において,同人を外傷性ショックにより死亡す
るに至らせたものである。
(証拠の標目)
省略 
(法令の適用)
 被告人らの判示所為はいずれも刑法60条,205条に該当するので,その所
定刑期の範囲内で,被告人Dを懲役4年に,同Eを懲役3年に,同F,同G及び同
Hを懲役2年6月に処し,同法21条を適用して,原審における未決勾留日数中
320日を被告人らのそれぞれの刑に算入し,原審及び当審における訴訟費用
は刑訴法181条1項ただし書を適用して被告人らに負担させないこととする。
(量刑の理由)
本件は,上記のとおり,被告人らが集団で約2時間45分の間にわたり暴行を
加え,その結果,逃走した被害者をして,本件高速道路に進入することを余儀
なくさせ,走行中の車両に衝突,轢過させて,外傷性ショックによって死亡させ
たという事案である。暴行態様は,第1現場では,無抵抗の被害者に被告人5
名を含む7名(うち被告人ら以外の1名は途中離脱)で一方的に所かまわず,殴
る,蹴るの暴行を加えており,さらに,第2現場でも,木製の椅子で殴ったり,ボ
クシングスタイルで,被害者の腹部,顔面を殴打したもので,執ようかつ強烈で
ある。また,部屋から逃げ出した同人に対して阻止の行動にも出ている。その
動機は,被告人Dが,根も葉もない被害者の噂話をでっち上げ,これを吹聴され
た他の被告人も被告人Dに同調し,被害者のリンチを共謀したというのであっ
て,動機において酌量の余地はなく,被害者は当時22歳の春秋に富む男性で
あり,婚約者が懐胎して,将来の結婚,出産してくる子供を楽しみにしていたの
であって,これらの者を残して絶命せざるを得なかった被害者の心情は察する
に余りあり,慰藉の措置は十分とはいえず,遺族は被告人らの厳重な処罰を求
めている。犯行後に,被告人らは証拠隠滅を図った上,口裏合わせをして責任
を回避しようと画策もしている。
 被告人Dは,虚偽の噂を流布させた上,他の被告人を扇動して被害者のリン
チを計画し,第2現場でも執ように暴行を加えていたのであって,中心的人物で
あり,その刑事責任は他の被告人に比して重いといわなければならない。他
方,被告人Dが被害者の家族に宛てて謝罪の手紙を出していることなど同被告
人のために酌むべき事情も存する。
 被告人Eは,被告人Dに煽られた面はあるが,第2現場においても,自己の解
雇の原因は被害者の言動にあるとして積極的に暴行を加えており,その刑事
責任は被告人Dに次いで重いといわなければならない。他方,被告人Eは最も
若年であること,本件犯行を素直に反省していること,被害者の家族に宛てて
謝罪の手紙を出していること,前科がないことなどの事情が存する。
 被告人F,同G,同Hは,これまた,被告人Dに煽られた面はあるが,積極的に
被害者に暴行を加えており,その刑事責任は軽いものではないといわなければ
ならない。一方,第2現場においては,被害者に対して暴行を加えた事跡はな
いこと,本件犯行を素直に反省していること,いずれも被害者の家族に宛てて
謝罪の手紙を出していること,いずれも前科がないことなどの事情が存する。
 そして,被告人Hの親族が300万円,同Gの親族が150万円を慰謝料として
支払っていること,また,原判決後に,被告人Fが3万円を,同Hの親族が5万円
を被害者の遺族に送金していることも認められる。
 以上の諸事情を勘案して被告人らに対し主文掲記の各刑を科するのを相当と
思料し,主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 河辺義正 裁判官 小坂敏幸 裁判官 園原敏彦)

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