弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     原判決を破棄する。
     被告人を懲役弐年六月に処する。
     原審における未決勾留日数中四拾五日を右本刑に算入する。
     本件公訴事実中昭和三十八年一月十九日付起訴状記載の公訴事実一別紙
犯罪一覧表(一)の11、13、19、25、2729、56の各業務上横領の点
につき被告人は無罪。
         理    由
 本件控訴の趣意は、弁護人成富安信提出の控訴趣意書に記載されたとおりである
から、ここにこれを引用し、これに対し次のように判断する。
 弁護人の控訴趣意第一点の審理不尽、理由不備及び事実誤認の主張について。
 原判決の挙示する証拠中Aの司法警察員に対する昭和三十七年九月二十七日付及
び同年十二月十二日付各供述調書、Bの司法警察員に対する同年九月二十九日付、
同年十一月二十八日付及び同年十二月十日付各供述調書、Cの司法警察員に対する
同年九月二十七日付供述調書、被告人の司法警察員に対する同年十一月十五日付、
同月二十三日付及び同年十二月一日付各供述調書によると、町田市(市制施行前町
田町)は、昭和三十四年頃同市にガスを誘致する計画を立て、その頃議会の議決を
経て組織されたD市ガス誘致委員会においてガス利用組合設立の準備を進め、E株
式会社との間にガス利用に関する取りきめをなし、昭和三十五年五月頃から事実上
市民の組合加入の申込を受け付け、同市が右委員会の委嘱を受け、同市水道課をし
て右加入の受付、これに伴う加入金及び工事金の徴収、保管等の事務を取り扱わせ
ていたが、昭和三十六年二月十三日D市ガス利用組合の設立を見るに及んで、右事
務を同組合に移管したこと、被告人は、昭和三十四年十月頃町田市水道課のFに雇
われ、昭和三十五年四月頃同市準職員に、昭和三十七年一月頃同市主事補に順次登
用されたが、昭和三十五年五月頃同市長より前記ガス誘致委員会からの委託事務い
つさいの担当を命ぜられ、右組合設立と同時に同組合主事に任命され、昭和三十七
年九月下旬頃無断欠勤してその職場を放棄するまで引き続いて組合加入金及び工事
金の徴収、保管、加入金変更(加入金は当初五千円と定められていたが、後に二千
五百円に変更された)による過徴加入金の還付、該還付金の保管等の業務に専従し
ていたものであることが認められる。すなわち、被告人は、昭和三十六年二月十三
日のD市ガス利用組合発足前は同市水道課の職員として、同組合発足後は同組合の
主事として、前掲ガス施設誘致に関する事務を担当していたのであるから、原判決
が昭和三十五年七月一日頃から昭和三十七年八月三十一日頃までの間の加入金及び
工事金横領の事実(昭和三十八年一月十九日付起訴状記載の公訴事実)において、
「被告人は、東京都町田市ab番地所在町田市ガス利用組合の主事として、同組合
加入者より組合加入金及び工事金を徴収し、これを保管するなどの業務に従事して
いた」と判示したのは、所論のごとく審理不尽、理由不備の違法があるものといえ
ないにしても、昭和三十六年二月十三日前においてすでに同組合が設立され、かつ
被告人が同組合主事の身分を有していたとの趣旨を含むものと解されるかぎりにお
いては事実を誤認したものといわなければならない。しかし、原判決の判示する、
被告人が右の犯行の全期間を通じて担当していた事務の内容自体には誤はな<要旨第
一>いのであるから、右の誤は、判決に影響はないものというべきである。しかし
て、刑法第二百五十三条にいわゆる業務とは、一定の事務を常業として
行うことをいい、その事務は、法令によると慣例によると契約によるとを問わず、
本務、兼務、委託事務等のすべてを含むものと解するのを相当とするから、市の水
道課職員が市長の命により市にガスを誘致する目的をもつて組織された他の団体か
ら市に委嘱された加入金及び工事金の徴収及び保管の事務を継続的に担当する場
合、その担当事務は、同条にいわゆる業務に当るものといわなければならない。し
たがつて、原判決が被告人の昭和三十六年二月十三日前の加入金若しくは工事金横
領の所為を業務上横領の罪に問擬したのは正当である。論旨は理由がない。
 弁護人の控訴趣意第三点の事実誤認及び法令適用の誤の主張並びに被告人控訴趣
意中同旨の事実誤認の主張について。
 Cの司法警察員に対する昭和三十七年十二月三日付供述調書、被告人の司法警察
員に対する同年十一月二十三日付及び同年十二月四日付各供述調書、被告人の検察
官に対する同年十一月二十四日付供述調書によると、被告人は、昭和三十五年十月
三日Gほか十七名から工事金合計十万七千百四十円を徴収しながら、これに七千七
百二十五円を加算した十一万四千八百六十五円の現金につき徴収手続をし、同月二
十四日Hほか九名からの工事金合計十一万千四十五円を徴収しながら、これに千円
を加算した十一万二千四十五円の現金につき徴収手続をし、昭和三十六年三月九日
Iほか八名から工事金合計九万四千七百七十円を徴収しながら、これに三万八千九
十六円を加算した十三万二千八百六十六円の現金につき徴収手続をし、同年五月十
六日Jほか十五名から工事金合計十二万千八百五十五円を徴収しながら、これに四
万五千六百九十五円を加算した十六万七千五百五十円の現金につき徴収手続をし、
総計して実際に徴収した工事金の額を九万二千五百十六円超過する額の現金につき
徴収手続をしたこと、右各超過分の現金をそれぞれその頃加入者から受領した加入
金の中から捻出したことが認められる。次に、前掲各証拠によると、被告人は、右
各手続の当時加入金の一部のみならず工事金の一部をも着服して使い込んでいたの
であるが、工事金の使い込みだけでも穴埋めしておこうと考え、叙上のとおり四回
にわたり加入者より受け取つた加入金の中から合計九万二千五百十六円を割いてこ
れを工事金にまわし、これを実際に受領した工事金に加え、その全部を工事金とし
て<要旨第二>受領したもののごとく手続上作為したものであることが明らかであ
る。ところで、横領罪の成立に必要な不法領得の意思とは、他人の物の
占有者が、委託の任務に背いて、その物につき権限がないのに所有者でなければで
きないような処分をする意思をいい、必ずしも占有者が自己の利益取得を意図する
ことを必要としないものと解すべきである。工事金を着服して使い込んだ被告人
が、その使い込みの穴埋をするため保管する加入金の中からまわした合計九万二千
五百十六円の現金につき右の意味の不法領得の意思を有しなかつたものということ
はできないから、右穴埋めにまわした加入金についても横領罪は成立するものとい
わなければならない。
 又、工事金の着服により一たび成立した横領の罪責が後日の穴埋により消滅する
いわれはないものというべきである。したがつて、原判決が右穴埋めにまわされた
加入金を加入金横領から除外せず、又、工事金横領の額から右穴埋めされた額を控
除しなかつたのは正当である。論旨は理由がない。
 (その余の判決理由は省略する。)
 (裁判長判事 坂間孝司 判事 栗田正 判事 有路不二男)

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