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平成22年4月14日判決言渡同日原本領収裁判所書記官
平成21年(行ケ)第10354号審決取消請求事件
口頭弁論終結日平成22年3月17日
判決
原告ハウス食品株式会社
同訴訟代理人弁護士辻居幸一
小和田敦子
同弁理士藤倉大作
被告Y
同訴訟代理人弁護士岡崎士朗
鰺坂和浩
尾関孝彰
同弁理士長谷川芳樹
黒川朋也
工藤莞司
上原空也
主文
1特許庁が取消2009−300279号事件につい
て平成21年9月25日にした審決を取り消す。
2訴訟費用は被告の負担とする。
事実及び理由
第1請求
主文同旨
第2事案の概要
本件は,原告が,下記1のとおりの手続において,原告の本件商標の不使用を理
由とする登録の取消しを求める被告の審判請求について,特許庁が同請求を認めた
別紙審決書(写し)の本件審決(その理由の要旨は下記2のとおり)には,下記3
のとおりの取消事由があると主張して,その取消しを求める事案である。
1特許庁における手続の経緯
(1)本件商標(甲188)
登録第2230404号商標(以下「本件商標」という。)は,「CLUBHO
USE」の欧文字と「クラブハウス」の片仮名文字とを上下2段に横書してなり,
昭和62年2月9日に登録出願,第32類「加工食料品,その他本類に属する商
品」を指定商品として,平成2年5月31日に設定登録され,平成12年2月1日,
平成22年2月2日にそれぞれ商標権の存続期間の更新登録がされ,現に有効に存
続しているものである。
(2)審判請求及び本件審決
被告は,平成21年3月2日,継続して3年以上日本国内において商標権者,専
用使用権者又は通常使用権者のいずれも本件商標を使用した事実がないことをもっ
て,不使用による取消審判を請求し,当該請求は同月17日に登録された。
特許庁は,これを取消2009−300279号事件として審理し,平成21年
9月25日,「登録第2230404号商標の商標登録は取り消す。」との本件審
決をし,同年10月7日にその謄本が原告に送達された。
2本件審決の理由の要旨
本件審決の理由は,要するに,原告のメールマガジンにおける「クラブハウス」
標章の表示行為は商標法2条3項8号に該当せず,本件審判の請求の登録前3年以
内に日本国内において,商標権者,専用使用権者又は通常使用権者のいずれかがそ
の請求に係る指定商品についての本件商標の使用をしていることを認めるに足りな
い,というものである。
3取消事由
原告の「クラブハウス」標章の表示行為が商標法2条3項8号に該当しないとし
た認定判断の誤り
第3当事者の主張
〔原告の主張〕
原告の「クラブハウス」標章の表示行為は,商標法2条3項8号に該当するもの
であり,本件審決の認定判断は誤りである。
(1)「商標の使用」について
ア商標法2条3項は標章の使用について定義しているところ,同項1号におい
て「商品又は商品の包装に標章を付する行為」を標章の使用としていることからす
れば,同項8号において標章が直接商品に付される必要のないことは明らかである。
したがって,「クラブハウス」標章が原告商品又は原告商品の包装に付されていな
いことは,同項8号による商標の使用を否定する根拠とはなり得ない。
イ標章の使用は,商品又は役務「について」されることが必要であり,商標は
商品又は役務に関連して使用されていなければならないところ,本件についてみれ
ば,「クラブハウス」と表示されたメールマガジンやWeb版では,加工食料品を
中心とする原告商品に関する宣伝広告が掲載されているだけでなく,その商品写真,
詳細な商品説明及び商品のCM紹介等のページにアクセスできるようになっている。
したがって,「クラブハウス」標章と加工食料品を中心とする原告商品との関連性
は明白であり,上記メールマガジンやWeb版における「クラブハウス」標章の表
示は,「商標の使用」に該当する。
(2)原告のメールマガジンについて
アメールマガジンにおける表示
原告は,登録した会員(平成21年3月16日時点で1万5541人)に対し,
月2回のペースでメールマガジンを配信し,このメールマガジンに,「クラブハウ
ス」標章を表示している(甲4∼100)。「クラブハウス」標章は,原告のウェ
ブサイトのトップページ(http://housefoods.jp/)に必ず表示されており,トップ
ページから会員登録のページに入ることができる。
イメールマガジンの目的及び機能
原告のメールマガジンは,他の多くの企業と同様,原告商品を宣伝する目的で配
信しており,これにより,顧客における原告商品の認知を促進し理解を深め,より
多くの商品に着目し購入してもらうことを目的としており,実際にそのような効果
を果たしている。
ウメールマガジンの内容
原告のメールマガジンは,原告商品に関するプレゼントキャンペーンの告知,新
商品の情報,原告商品のテレビCM情報,原告商品を用いた料理のレシピ,原告商
品の関連情報,その他料理に関する豆知識等から構成されており,これらはいずれ
も原告商品に直接関連する情報である。原告商品の中心は,本件商標の指定商品で
あるカレールウ,レトルトカレー,シチュールウ,レトルトシチュー,即席菓子の
もと,即席スープのもと,調理済みスープ,即席麺,リゾット及び健康食品等の加
工食料品であり,原告のメールマガジンにおいても,これらの加工食料品の宣伝広
告が極めて多く掲載されている。
そして,原告のメールマガジンには,原告のウェブサイトをすぐに閲覧すること
ができるようにする多数のリンク(ウェブサイトのURL)が掲載されている。会
員は,そのウェブサイトのURL部分をマウスでクリックすると,直接,加工食料
品等の原告商品を詳しく紹介する原告ウェブサイトのページに飛ぶことができ,直
ちに商品写真や説明を見ることができる。
このように,原告のメールマガジンには,加工食料品を中心とした原告商品に直
接関係し,原告商品の宣伝となる情報が掲載されている。原告のメールマガジンは,
顧客に原告商品を認知させ理解を深め,より多くの商品を購入してもらうために,
原告商品の宣伝媒体としての役割を果たしているのである。
(3)原告のWeb版について
アWeb版(甲101∼173)は,原告のメールマガジンに記載されたUR
L(http://housefoods.jp/mailmagazine/latest)をクリックするとアクセスでき
るウェブサイトであり,全会員がアクセスできるようになっている。メールマガジ
ンによりカラー映像を送信することには技術的及びセキュリティ上の制約があるた
め,ウェブサイトを設けることにより,会員が原告商品の写真や商品テレビCMを
実際に見ることができる。
イWeb版は,メールマガジンよりも文字の情報量は少ないが,画像等が掲載
されているため,より見やすくなっており,特に,新商品情報やTVCM情報につ
いては,商品の写真が直接掲載されている。また,Web版にも,メールマガジン
と同様,原告ウェブサイトにおける商品紹介等のページをすぐに閲覧することがで
きるようにする多数のリンクが掲載されている。
ウ以上のように,Web版でも,加工食料品を中心とした原告商品に直接関係
している情報を閲覧することができるのであり,Web版は,顧客に原告商品を認
知させ理解を深め,より多くの商品を購入してもらうための,まさに原告商品の宣
伝媒体としての役割を果たしている。
(4)本件商標について
ア原告の略称である「ハウス」ないし「HOUSE」は,加工食料品の分野で
著名な商標である。本件商標は,この原告の著名な商標である「ハウス」に由来し
ている。すなわち,原告の略称であり著名商標である「ハウス」に,「クラブ」と
いう「〔親睦・趣味・研究など〕共通の目的を持った人びとの組織する団体」を付
加したものであり,原告商品の愛好者の集まり(仲間)を意味する。
したがって,「クラブハウス」標章の表示は,一般需要者に対し,原告「ハウ
ス」ないし「ハウス」の商品に関するコミュニティの一員であるという印象を与え
るとともに,「クラブハウス」標章の表示がなされたメールマガジン及びWeb版
に掲載される加工食料品は,原告「ハウス」の商品であるということを強く想起さ
せる。著名な商標である「ハウス」の「クラブ」という意味を有する「クラブハウ
ス」標章の表示の下に宣伝広告されるからこそ,一般需要者は,これらの商品の出
所が原告「ハウス」の商品であることを容易に識別できるのである。
イ実際に,原告のメールマガジン及びWeb版のリンク部分をクリックすると,
原告のウェブサイトの商品紹介ページにリンクするようになっている。「クラブハ
ウス」標章は,メールマガジン及びWeb版に表示されることにより,これら掲載
商品のラインナップが原告商品であることが一目で分かるように明示する機能を果
たしているものであり,「クラブハウス」標章は,いわば,加工食料品を中心とす
る原告商品のラインナップを統括する,出所表示機能を有する標識として用いられ
ているものである。
(5)小括
ア以上のとおり,「クラブハウス」標章は,加工食料品を中心とする原告商品
の宣伝媒体であるメールマガジン及びWeb版に表示されることによって,これら
に掲載された原告商品のラインナップを統括し,掲載商品の出所を示すものであり,
加工食料品等の原告商品の出所表示機能を有している。
イ原告のメールマガジンの内容は,複数の原告商品を掲載し宣伝広告するチラ
シとしての役割を果たしており,またその内容は毎回異なるものであって,「クラ
ブハウス」標章は,メールマガジンの内容を表示するものでないことは明らかであ
る。さらに,「クラブハウス」は,メールマガジン及びWeb版に掲載された原告
商品の出所を表示する機能を有するものである。
ウしたがって,原告のメールマガジンやWeb版における「クラブハウス」標
章の使用行為は,商標法2条3項8号に該当する。
〔被告の主張〕
原告は,本件商標を指定商品に使用していない。本件審決の判断に違法性はなく,
原告の請求は棄却されるべきである。
(1)商標の使用について
商標法2条3項は,商標の広告的な使い方にも信用の蓄積作用があるという見地
から「広告」を使用の一態様に加えている。しかしながら,商標は,商品の自他識
別標識で,商品の出所を表示するものであるから,商品と関係なく広告にその標章
を付したとしても,商品の識別標識として機能せず,商品の出所を表示するもので
はないから,「商品に関する広告」に商標を付したとはいえない。また,指定商品
とは別個の商品・役務などの識別標識としてその標章を使用したとしても,「商品
に関する広告」に商標を付したとはいえない。
原告は,「クラブハウス」標章の使用が商標の使用に該当すると主張するが,
「クラブハウス」標章は,原告のメールマガジンに掲載された商品とは別個の商品
又は役務であるメールマガジン自体のタイトル・名称として使用されているにすぎ
ず,原告の主観的意図や目的も,メールマガジンのタイトル・名称としての使用に
とどまるものであって,そこに掲載されている商品と関係なく,その商品とは別個
の商品又は役務の識別標識として使用されているから,「商品に関する広告」に商
標を付したとはいえない。
(2)原告のメールマガジンについて
アメールマガジンの目的及び機能
メールマガジンは,受信者に商品情報のみならずその他の様々な有益な情報を提
供するものであるから雑誌であり,受信者の目的も,雑誌同様に有益な情報を受け
取ることにある。そして,メールマガジンや雑誌は,宣伝広告と異なり,それ自体
が独立した1個の価値ある商品又は役務であるから,需要者が他のメールマガジン
や雑誌と識別できるように,雑誌自体にタイトル・名称が付されている。このよう
な理由でタイトル・名称が付されているから,メールマガジンの名称の使用が,特
別の事情もないのに,そこに掲載された商品についての商標の使用であるというこ
とはできない。
したがって,メールマガジン自体の名称である「クラブハウス」標章が,原告の
メールマガジンに表示されているからといって,特に掲載商品の商標として使用し
ている具体的事実もないのに,それを掲載商品についての商標の使用とみることは
できない。
イメールマガジンでの使用の態様
原告の提出したメールマガジン(甲101∼173)は,電子メールソフトの印
刷ボタンを押したときに印刷されるものであり,受信者が実際に画面上で見るメー
ルマガジン(乙3)とは異なる。
ウメールマガジンの名称としての使用
原告が,「クラブハウス」をメールマガジンの名称・識別標識としてのみ使用し
ていることは,メールマガジンの冒頭に大きく表示されていることから明らかであ
る(乙2,3)。
個々の商品にはそれぞれ個々の商標が表示され,メールマガジンでは不特定の原
告の商品を紹介しているから,原告が,個々の商品の商標として「クラブハウス」
標章を使用しているわけではない。
原告のメールマガジンに紹介されている商品には「ハウス食品」商標が表示され
ているところ,「クラブハウス」が出所表示機能を有するのであれば,このような
表示をするはずがない。したがって,原告のメールマガジンに「クラブハウス」標
章が表示されているからといって,原告の商品であることを示す出所表示機能を果
たしているとみることはできない。
以上のとおり,「クラブハウス」標章はメールマガジンの名称として使用されて
おり,メールマガジンに掲載されている商品の商標として使用しているとはいえな
い。また,個別商品の名称としては,個別の商標が使用されているほか,全体の商
品の識別標識としては,「ハウス食品」商標が使用されている。このように明確に
名称の仕切りがされている以上,その仕切りを越えて「クラブハウス」がメールマ
ガジンに掲載された商品の商標として使用されているとはいえない。
エメールマガジンでの具体的使用の態様
原告のメールマガジンを客観的に見ても,どこにも原告の商品との関連性を示す
ものはない。それだけでなく,メールマガジンの受信者は,何度も「クラブハウ
ス」がメールマガジンの名称であることを確認する手続を経て会員となる。したが
って,受信者は,自分が原告のメールマガジン「クラブハウス」の会員であって,
「クラブハウス」標章がメールマガジンの名称であることを明確に認識し,商品の
名称とメールマガジンの名称とを明確に識別できる者である。このような具体的な
受信者を前提とすれば,なおさら,「クラブハウス」標章とそこに掲載された商品
との関係は希薄である。
(3)原告のWeb版について
ア原告のWeb版の形態
クラブハウス会員が実際に閲覧できる原告のWeb版は,原告提出の証拠(甲1
01∼173)とは異なり,上段の左上に「ハウス食品」商標が付され,「商品・
レシピ・CM」「知る・楽しむ」「会社情報」「ショッピング」「お問い合わせ」
などのメニューが付されたものである(乙6)。
イ使用商標と登録商標との同一性
(ア)図形付きの標章
原告のWeb版に表示された図形付きの標章は,赤字で「クラブハウス」の文字
が表示され,その文字の上には灰色の取っ手の付いた鍋・フライパンの蓋が赤色で
表示され,その文字の下には蓋と一対となる本体が赤色で表示され,そこには白抜
きで「Web版」の文字が表示されている。一対の鍋・フライパンの蓋と本体の間
に「クラブハウス」の文字が挟まれ,同じく赤色で,全体としてまとまりよく表示
されている。したがって,「クラブハウス」の文字,「Web版」の文字及び鍋・
フライパンの形状は一体となって認識すべきものである。
その称呼は,原告が称呼しているように「ウェブバンクラブハウス」であり,本
件商標の称呼である「クラブハウス」と明らかに相違している。その外観も,「ク
ラブハウス」の文字の他に「Web版」の文字及び鍋・フライパンの形状があり,
図形付きの標章の外観は本件商標の外観と明らかに異なる。さらに,観念について
も,「ウェブページの様式によるもの」であること,すなわちウェブページである
ことの観念が生じるから,単なるクラブハウスの観念と同一でない。
よって,図形付きの標章が本件商標と異なる称呼,外観,観念を有する以上,本
件商標と社会通念上同一でない。
(イ)文字標章
原告のWeb版には,文字のみからなる「Web版クラブハウス」の文字標章も
表示されている。上記文字標章は,同書・同大・等間隔に1段で一連に表示されて
おり,全体を無理なく一連称呼もできる。また,「版」は対象や様式を特定した出
版である意を表す語であるから,「クラブハウスをウェブページにしたもの」「ウ
ェブページであること」という,「クラブハウス」とは別個の観念も生じる。した
がって,「Web版クラブハウス」全体を一体として認識すべきである。
よって,文字標章は,図形付きの標章同様に,本件商標と異なる称呼,外観,観
念を有しており,本件商標と社会通念上同一でない。
(ウ)以上から,称呼,外観,観念のいずれをとっても,「Web版クラブハウ
ス」において使用されている標章は,本件商標と異なる。
ウ原告のWeb版での使用の態様
(ア)ウェブページの名称としての使用(乙8の赤線部分)
1ページ左上には,大きく目立つように,図形付きのWeb版クラブハウスの標
章が表示されており,ウェブページの名称ないしシンボルマークが「Web版クラ
ブハウス」であることが表示されている。このウェブページの名称が「Web版ク
ラブハウス」であることが明確に表示されている。
(イ)個々の商品の商標としての不使用(乙8の青線部分)
個々の商品には,商品名が表示されており,「Web版クラブハウス」が個々の
商品の商標として使用されていないことは明らかである。
(ウ)出所表示としての不使用(乙8の緑線部分及び乙6)
「ハウス食品」商標はこのウェブページにおいても随所に使用されているが,実
際には「ハウス食品」商標が赤字で大きく表示されて,「ハウス食品|Web版ク
ラブハウス」などと表示されている。原告は「ハウス食品」商標を掲載商品の出所
表示するものとして使用しており,仮に,「クラブハウス」が出所表示機能を有す
るのなら,このような表示をするはずがない。
よって,「Web版クラブハウス」に原告の商品であることを示す出所表示機能
はない。
(エ)以上のとおり,「Web版クラブハウス」はWeb版ないしウェブページ
の名称として明確に使用されており,そこに掲載されている商品の商標とみること
はできない。また,個別商品の名称としては個別の商標が使用されているほか,全
体の商品の識別標識としては,「ハウス食品」商標が使用されている。このように
明確に標章の仕切りがされている以上,その仕切りを越えて「Web版クラブハウ
ス」が掲載商品の商標として使用されているとみることはできない。
エWeb版での具体的使用の態様
原告のウェブページは,メールマガジンに記載されたURLをクリックして初め
て閲覧できるのであり,これを見る者は,自分がメールマガジン「クラブハウス」
の会員であることを認識し,「クラブハウス」の名称がメールマガジンの名称であ
ることを認識し,商品の名称とメールマガジンの名称を識別できる者である。この
ような具体的な閲覧者を前提とすれば,なおさら,「クラブハウス」の名称と商品
との関係が希薄な使用態様である。
(4)本件商標について
原告の商品であることは,「ハウス食品」商標によって表示され,「クラブハウ
ス」が,メールマガジンやWeb版の読者に対して,商品出所機能を生じることは
ない。
(5)小括
以上のとおり,原告は,「クラブハウス」標章をメールマガジンやWeb版のタ
イトル・名称として使用しているにすぎず,原告商品のラインナップを統括する標
識ないし商標としては使用していない。よって,原告が本件商標を指定商品に使用
している事実はない。
第4当裁判所の判断
1認定事実
証拠及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。
(1)原告について
ア原告は,食品の製造加工並びに販売等を目的とする株式会社である。原告は,
多数の種類のカレールウ,レトルトカレー,シチュールウ,レトルトシチュー,即
席菓子のもと,即席スープのもと,調理済みスープ,即席麺,リゾット及び健康食
品等の加工食料品を製造販売している(甲3,弁論の全趣旨)。
イ原告は,「ハウス/HOUSE」や,図形付きの「ハウス」の商標を防護商
標として登録しており,「ハウス」「HOUSE」は,原告を表すものとして周知
著名である(甲174∼176,弁論の全趣旨)。
(2)メールマガジンについて
ア原告は,平成17年4月17日以降,登録した会員に対し,「ハウス食品メ
ールマガジン【クラブハウス】」の配信を開始し,本件審判請求の予告登録前3年
間においても,月2回の割合でこれを配信している。
メールマガジンの配信を受けようとする者は,原告のホームページ等から,「メ
ールマガジン【クラブハウス】会員登録」をクリックするなどして,「メールマガ
ジンクラブハウス」の会員登録画面の「メールマガジン【クラブハウス】の会員
登録をする」をクリックする。そして,「メールマガジン【クラブハウス】登録」
画面で自己のメールアドレスを入力し,「送信内容確認へ」をクリックして「メー
ルマガジン【クラブハウス】登録のご入力内容の確認」画面に入り,「送信する」
をクリックすると,登録が完了し,メールマガジン登録受付のメールが配信される。
会員数は,平成18年4月当時4850名で,徐々に増加し,平成21年3月時点
で1万5541名である(甲186,乙4,5の1∼5)。
イ会員登録画面では,「ハウス食品メールマガジン【クラブハウス】では,皆
様の暮らしに役立つ“食”の情報やハウス食品のプレゼント&キャンペーン,TV
CM・商品情報等を「ハウス食品オフィシャルサイト」の更新情報とともに,いち
早くお届けしていきます(月2回無料〔不定期〕)。」等の案内がされており,実
際に会員に配信されたメールマガジンは,原告商品に関するプレゼントキャンペー
ンの告知,新商品の情報,原告商品のテレビCM情報,原告商品を用いた料理のレ
シピ,原告商品の関連情報,その他料理に関する豆知識等から構成されている。そ
して,原告の商品として,カレールウ,レトルトカレー,シチュールウ,レトルト
シチュー,即席菓子のもと,即席スープのもと,調理済みスープ,即席麺,リゾッ
ト及び健康食品等の加工食料品が紹介されている。原告のメールマガジンには,原
告のウェブサイトをすぐに閲覧することができるようにする多数のリンク(ウェブ
サイトのURL)が掲載され,当該URL部分をクリックすることにより,直接,
加工食料品等の原告商品を詳しく紹介する原告ウェブサイトの商品カタログや,原
告商品を用いた料理のレシピ等のページ(甲178∼185,190の1∼3,甲
191)に飛ぶことができ,そこで商品写真や説明を閲覧することができる(甲2
8∼99,178∼187,190の1∼3,甲191,乙2,3,5の1)。
ウ会員に配信されたメールマガジンには,冒頭に,「ハウス食品メールマガジ
ン」としてその下に「クラブハウス」が1文字ずつ枠に囲まれて目立つように表示
され,ごあいさつの中に「ハウス食品のメールマガジン【クラブハウス】」,目次
の中に「クラブハウス会員限定」「Web版クラブハウス」,本文中に「Web版
クラブハウスはテキスト版メールマガジンの会員の方だけが見ることができるスペ
シャルサイトです。ぜひ一度ご覧になってくださいね!」「Web版クラブハウ
ス」,末尾に「ハウス食品メールマガジン【クラブハウス】運営事務局編集部」等
の記載がある。また,「ハウス食品の新製品」「ハウス食品の商品」等の記載もあ
る(甲28∼99,乙2,3)。
(3)Web版について
ア平成18年3月以降,原告からメールマガジンの配信を受けた会員は,原告
のメールマガジンの「Web版クラブハウス」の箇所の「Web版クラブハウスは
テキスト版メールマガジンの会員の方だけが見ることができるスペシャルサイトで
す。ぜひ一度ご覧になってくださいね!」の下段の「Web版クラブハウス」のU
RL(http://housefoods.jp/mailmagazine/latest)をクリックすることにより,
Web版クラブハウスを閲覧することができるようになった(甲27∼100,1
86,乙3)。
イWeb版は,プレゼント・イベント・キャンペーン,原告からのおしらせ,
簡単&楽しいレシピのご紹介等から構成されている。具体的な内容は,それぞれメ
ールマガジンに対応しており,加工食料品を中心とする原告商品が掲載されている。
Web版においても,カレールウ,レトルトカレー,シチュールウ,レトルトシチ
ュー,即席菓子のもと,即席スープのもと,調理済みスープ等の加工食料品が,商
品の写真,レシピ等とともに掲載されている。また,Web版にも,メールマガジ
ンと同様,原告ウェブサイトにおける商品紹介等のページをすぐに閲覧することが
できるようにする多数のリンクが掲載され,当該URL部分をクリックすることに
より,直接,加工食料品等の原告商品を詳しく紹介する原告ウェブサイトの商品カ
タログや,原告商品を用いた料理のレシピ等のページ(甲178∼185,190
の1∼3,甲191)に飛ぶことができ,そこで商品写真や説明を閲覧することが
できる(甲102∼172,178∼187,190の1∼3,甲191,乙6,
8)。
ウ会員が閲覧できるWeb版には,冒頭左上に「Web版クラブハウス|ハウ
ス食品」と記載され,「ハウス食品」がマーク付きで記載されている。その下に,
鍋の蓋と本体の間に大きな文字で「クラブハウス」,鍋部分に「Web版」と記載
された図形が大きく表示され,「Web版クラブハウスはメールマガジンの会員の
皆さまにより楽しく,ステキな情報をお届けするページです」等の記載があり,末
尾に「編集発行・ハウス食品メールマガジン【クラブハウス】運営事務局編集部」
等の記載がある。また,「ハウス食品」の表示も数か所に記載されている(甲10
2∼172,乙6,8)。
2商標の使用の有無
(1)指定商品についての使用の有無
ア商標の使用があるとするためには,当該商標が,必ずしも指定商品に付され
て使用されていることは必要ではないが,その商品との具体的関係において使用さ
れていなければならない(最高裁昭和42年(行ツ)第32号同43年2月9日第
二小法廷判決・民集22巻2号159頁)。
イ前記1認定のとおり,原告は,メールマガジン及びWeb版に「クラブハウ
ス」なる標章を表示している。メールマガジン及びWeb版には,加工食料品を中
心とした原告商品に直接関係し,原告商品を広告宣伝する情報が掲載されているか
ら,メールマガジン及びWeb版は,顧客に原告商品を認知させ理解を深め,いわ
ば,電子情報によるチラシとして,原告商品の宣伝媒体としての役割を果たしてい
るものということができる。このように,メールマガジン及びWeb版が,原告商
品を宣伝する目的で配信され,多数のリンクにより,直接加工食料品等の原告商品
を詳しく紹介する原告ウェブサイトの商品カタログ等のページにおいて商品写真や
説明を閲覧することができる仕組みになっていることに照らすと,メールマガジン
及びWeb版は,原告商品に関する広告又は原告商品を内容とする情報ということ
ができ,そこに表示された「クラブハウス」標章は,原告の加工食料品との具体的
関係において使用されているものということができる。
したがって,「クラブハウス」標章は,加工食料品を中心とする原告商品に関す
る広告又は原告商品を内容とする情報に付されているものということができる。
ウこの点に関して,被告は,原告が「クラブハウス」標章をメールマガジンの
名称・識別標識としてのみ使用しているから,商品についての使用に当たらないと
主張する。なるほど,前記1(2)認定のとおりの使用態様によれば,「クラブハウ
ス」の表示はメールマガジンの名称としても使用されていることは否定することが
できない。しかしながら,商標法2条3項1号所定の使用とは異なり,同項8号所
定の使用においては,指定商品に直接商標が付されていることは必要ではないとこ
ろ,リンクを通じて原告のウェブページの商品カタログに飛び,加工食料品たる原
告商品の広告を閲覧できること,そして,そのような広告はインターネットを利用
した広告として一般的な形態の一つであると解されること(甲189)からすると,
原告のメールマガジン及びWeb版における「クラブハウス」の表示が,原告商品
に関する広告に当たらないということはできない。
また,被告は,原告のメールマガジン及びWeb版には,全体の商品には「ハウ
ス食品」商標が表示され,個々の商品にはそれぞれ個々の商標が表示されているか
ら,「クラブハウス」標章が表示されているとしても,商品についての使用に当た
らないとも主張する。しかしながら,個々の商品に2つ以上の商標が付されること
もあり得るところ,製造販売の主体である原告を表す「ハウス食品」商標が付され
ているからといって,原告商品を宣伝する目的で配信されるメールマガジン及びW
eb版に原告を表す「クラブハウス」標章を付すことが,商標の使用に当たらない
ということはできない。
さらに,被告は,メールマガジンの受信者は,単なる一般の食品購入者でなく,
メールマガジン「クラブハウス」の会員のみであると主張する。しかし,だれでも
無料で上記会員になることができることに照らし,これが広告に当たらないという
ことはできない。
エよって,「クラブハウス」標章は,加工食料品を中心とする原告商品に関す
る広告に付され,又は原告商品を内容とする情報に付され,原告の製造販売する加
工食料品との具体的関係において使用されているものということができる。
(2)登録商標との同一性
ア商標権者が指定商品について登録商標と社会通念上同一と認められる商標の
使用をしていることを証明した場合には,商標法50条による登録商標の取消しを
免れることができるところ(商標法50条2項),「平仮名,片仮名及びローマ字
の文字の表示を相互に変更するものであって同一の称呼及び観念を生ずる商標」も
「社会通念上同一と認められる商標」とされている(同条1項)。
イ原告のメールマガジンに付された「クラブハウス」標章は,上下2段で表さ
れた本件商標の下段と同一であり,その結果,本件商標と同一の称呼及び観念を生
ずるものということができる。よって,上記「クラブハウス」標章は,本件商標と
社会通念上同一と認められる商標に当たる。
原告のWeb版に付された図形付きの「クラブハウス」の表示は,鍋の図形中に
「クラブハウス」と大きく表示され,鍋の部分に小さく「Web版」と表示されて
いる態様に照らし,「クラブハウス」の部分からも称呼及び観念が生じ,その結果,
本件商標と同一の称呼及び観念が生ずると評価することができる。よって,上記図
形付きの「クラブハウス」の表示は,本件商標と社会通念上同一と認められる商標
に当たる。
ウこの点に関して,被告は,Web版に付された図形付きの「クラブハウス」
の表示は,一体として認識すべきであると主張する。しかし,その外観からみて,
大きな文字で表された「クラブハウス」の部分からも称呼及び観念が生じることは,
明らかである。
また,被告は,Web版の冒頭の文字のみからなる「Web版クラブハウス」の
文字標章も全体を一体として認識すべきであると主張する。しかし,仮に一体とし
て認識した結果,本件商標と異なる称呼,外観,観念を生じる余地があるとしても,
Web版には,それとは別に,上記のとおり本件商標と社会通念上同一と認められ
る図形付きの「クラブハウス」が表示されているのであるから,その主張は失当で
ある。
エしたがって,原告がメールマガジンに付した「クラブハウス」標章及びWe
b版に付した図形付きの「クラブハウス」の表示は,本件商標と社会通念上同一と
認められる商標に当たる。
(3)小括
以上のとおり,原告は,本件審判の請求の登録前3年以内に日本国内において,
加工食料品を中心とする原告商品に関する広告又は原告商品を内容とする情報であ
るメールマガジン及びWeb版に,本件商標と社会通念上同一と認められる商標を
付し,これを電磁的方法により提供したものである。原告の上記行為は,商標法2
条3項8号に該当する。
よって,原告の「クラブハウス」標章の使用行為は商標法2条3項8号に該当せ
ず,本件審判の請求の登録前3年以内に日本国内において,商標権者,専用使用権
者又は通常使用権者のいずれかがその請求に係る指定商品についての本件商標の使
用をしていることを認めるに足りないとした本件審決の認定判断は,誤りである。
3結論
以上の次第であるから,原告主張の取消事由には理由があり,本件審決は取り消
されるべきものである。
知的財産高等裁判所第4部
裁判長裁判官滝澤孝臣
裁判官高部眞規子
裁判官本多知成

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