弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件上告を棄却する。
         理    由
 (上告趣意に対する判断)
 弁護人伊達秋雄、同高木一、同大野正男、同山川洋一郎、同西垣道夫の上告趣意
第一点は、憲法二一条違反をいうが、実質は単なる法令違反、事実誤認の主張であ
り、同第二点は、単なる法令違反の主張であり、同第三点は、憲法二一条違反をい
う点もあるが、実質はすべて単なる法令違反、事実誤認の主張であつて、いずれも
刑訴法四〇五条の上告理由にあたらない。
 (職権による判断)
 一 国家公務員法一〇九条一二号、一〇〇条一項にいう秘密とは、非公知の事実
であつて、実質的にもそれを秘密として保護するに値すると認められるものをいい(
最高裁昭和四八年(あ)第二七一六号同五二年一二月一九日第二小法廷決定)、そ
の判定は司法判断に服するものである。
 原判決が認定したところによれば、本件第一〇三四号電信文案には、昭和四六年
五月二八日に愛知外務大臣とマイヤー駐日米国大使との間でなされた、いわゆる沖
縄返還協定に関する会談の概要が記載され、その内容は非公知の事実であるという
のである。そして、条約や協定の締結を目的とする外交交渉の過程で行われる会談
の具体的内容については、当事国が公開しないという国際的外交慣行が存在するの
であり、これが漏示されると相手国ばかりでなく第三国の不信を招き、当該外交交
渉のみならず、将来における外交交渉の効果的遂行が阻害される危険性があるもの
というべきであるから、本件第一〇三四号電信文案の内容は、実質的にも秘密とし
て保護するに値するものと認められる。右電信文案中に含まれている原判示対米請
求権問題の財源については、日米双方の交渉担当者において、円滑な交渉妥結をは
かるため、それぞれの対内関係の考慮上秘匿することを必要としたもののようであ
るが、わが国においては早晩国会における政府の政治責任として討議批判されるべ
きであつたもので、政府が右のいわゆる密約によつて憲法秩序に抵触するとまでい
えるような行動をしたものではないのであつて、違法秘密といわれるべきものでは
なく、この点も外交交渉の一部をなすものとして実質的に秘密として保護するに値
するものである。したがつて右電信文案に違法秘密に属する事項が含まれていると
主張する所論はその前提を欠き、右電信文案が国家公務員法一〇九条一二号、一〇
〇条一項にいう秘密にあたるとした原判断は相当である。
 二 国家公務員法一一一条にいう同法一〇九条一二号、一〇〇条一項所定の行為
の「そそのかし」とは、右一〇九条一二号、一〇〇条一項所定の秘密漏示行為を実
行させる目的をもつて、公務員に対し、その行為を実行する決意を新に生じさせる
に足りる慫慂行為をすることを意味するものと解するのが相当であるところ(最高
裁昭和二七年(あ)第五七七九号同二九年四月二七日第三小法廷判決・刑集八巻四
号五五五頁、同四一年(あ)第一一二九号同四四年四月二日大法廷判決・刑集二三
巻五号六八五頁、同四三年(あ)第二七八〇号同四八年四月二五日大法廷判決・刑
集二七巻四号五四七頁参照)、原判決が認定したところによると、被告人はA新聞
社東京本社編集局政治部に勤務し、外務省担当記者であつた者であるが、当時外務
事務官として原判示職務を担当していたBと原判示「ホテルC」で肉体関係をもつ
た直後、「取材に困つている、助けると思つて安川審議官のところに来る書類を見
せてくれ。君や外務省には絶対に迷惑をかけない。特に沖縄関係の秘密文書を頼む。」
という趣旨の依頼をして懇願し、一応同女の受諾を得たうえ、さらに、原判示D政
策研究所事務所において、同女に対し「五月二八日愛知外務大臣とマイヤー大使と
が請求権問題で会談するので、その関係書類を持ち出してもらいたい。」旨申し向
けたというのであるから、被告人の右行為は、国家公務員法一一一条、一〇九条一
二号、一〇〇条一項の「そそのかし」にあたるものというべきである。
 ところで、報道機関の国政に関する報道は、民主主義社会において、国民が国政
に関与するにつき、重要な判断の資料を提供し、いわゆる国民の知る権利に奉仕す
るものであるから、報道の自由は、憲法二一条が保障する表現の自由のうちでも特
に重要なものであり、また、このような報道が正しい内容をもつためには、報道の
ための取材の自由もまた、憲法二一条の精神に照らし、十分尊重に値するものとい
わなければならない(最高裁昭和四四年(し)第六八号同年一一月二六日大法廷決
定・刑集二三巻一一号一四九〇頁)。そして、報道機関の国政に関する取材行為は、
国家秘密の探知という点で公務員の守秘義務と対立拮抗するものであり、時として
は誘導・唆誘的性質を伴うものであるから、報道機関が取材の目的で公務員に対し
秘密を漏示するようにそそのかしたからといつて、そのことだけで、直ちに当該行
為の違法性が推定されるものと解するのは相当ではなく、報道機関が公務員に対し
根気強く執拗に説得ないし要請を続けることは、それが真に報道の目的からでたも
のであり、その手段・方法が法秩序全体の精神に照らし相当なものとして社会観念
上是認されるものである限りは、実質的に違法性を欠き正当な業務行為というべき
である。しかしながら、報道機関といえども、取材に関し他人の権利・自由を不当
に侵害することのできる特権を有するものでないことはいうまでもなく、取材の手
段・方法が贈賄、脅迫、強要等の一般の刑罰法令に触れる行為を伴う場合は勿論、
その手段・方法が一般の刑罰法令に触れないものであつても、取材対象者の個人と
しての人格の尊厳を著しく蹂躙する等法秩序全体の精神に照らし社会観念上是認す
ることのできない態様のものである場合にも、正当な取材活動の範囲を逸脱し違法
性を帯びるものといわなければならない。これを本件についてみると原判決及び記
録によれば、被告人は、昭和四六年五月一八日頃、従前それほど親交のあつたわけ
でもなく、また愛情を寄せていたものでもない前記Bをはじめて誘つて一夕の酒食
を共にしたうえ、かなり強引に同女と肉体関係をもち、さらに、同月二二日原判示
「ホテルC」に誘つて再び肉体関係をもつた直後に、前記のように秘密文書の持出
しを依頼して懇願し、同女の一応の受諾を得、さらに、電話でその決断を促し、そ
の後も同女との関係を継続して、同女が被告人との右関係のため、その依頼を拒み
難い心理状態になつたのに乗じ、以後十数回にわたり秘密文書の持出しをさせてい
たもので、本件そそのかし行為もその一環としてなされたものであるところ、同年
六月一七日いわゆる沖縄返還協定が締結され、もはや取材の必要がなくなり、同月
二八日被告人が渡米して八月上旬帰国した後は、同女に対する態度を急変して他人
行儀となり、同女との関係も立消えとなり、加えて、被告人は、本件第一〇三四号
電信文案については、その情報源が外務省内部の特定の者にあることが容易に判明
するようなその写を国会議員に交付していることなどが認められる。そのような被
告人の一連の行為を通じてみるに、被告人は、当初から秘密文書を入手するための
手段として利用する意図で右Bと肉体関係を持ち、同女が右関係のため被告人の依
頼を拒み難い心理状態に陥つたことに乗じて秘密文書を持ち出させたが、同女を利
用する必要がなくなるや、同女との右関係を消滅させその後は同女を顧みなくなつ
たものであつて、取材対象者であるBの個人としての人格の尊厳を著しく蹂躙した
ものといわざるをえず、このような被告人の取材行為は、その手段・方法において
法秩序全体の精神に照らし社会観念上、到底是認することのできない不相当なもの
であるから、正当な取材活動の範囲を逸脱しているものというべきである。
 三 以上の次第であるから、被告人の行為は、国家公務員法一一一条(一〇九条
一二号、一〇〇条一項)の罪を構成するものというべきであり、原判決はその結論
において正当である。
 よつて、刑訴法四一四条、三八六条一項三号により、裁判官全員一致の意見で、
主文のとおり決定する。
  昭和五三年五月三一日
     最高裁判所第一小法廷
         裁判長裁判官    岸       盛   一
            裁判官    岸   上   康   夫
            裁判官    団   藤   重   光
            裁判官    藤   崎   萬   里
            裁判官    本   山       亨

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