弁護士法人ITJ法律事務所

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         主    文
     原判決中上告人敗訴部分を破棄する。
     右部分につき本件を仙台高等裁判所秋田支部に差し戻す。
         理    由
 上告代理人鈴木七郎の上告理由第一点について。
 原審は、被上告人は上告人に穀用かますを単価六五円で売却することを約したう
え昭和三九年一月二五日かます一二万八一〇〇枚を引き渡したが、上告人が被上告
人に対して有する硫酸銅売掛残債権を自働債権とする相殺により、被上告人が上告
人に対して有するかます売掛代金債権は三一三万四〇一四円であるとし、被上告人
の本訴請求を右金員及びこれに対する昭和三九年四月二六日以降完済まで年六分の
割合による遅延損害金の支払を求める限度で認容したものであつて、受領したかま
すには瑕疵があつたから昭和三九年二月二七日書面により民法五七〇条に基く五七
六万四五〇〇円の損害賠償の請求をしかつ右請求権を自働債権として相殺をしたと
の上告人の主張につき、右請求および相殺をしたとは認められないとして、右主張
を排斥している。
 ところで、乙第五号証は、「精算通知書並びに差額督促書」と題し、上告会社青
森出張所長から被上告人にあてた昭和三九年二月二七日付同日差出にかかる内容証
明郵便であつて、その内容は、要するに、受領したかますには欠陥があることを具
体的に指摘したうえ、したがつて、穀用かますとしての商品価値が認められず、一
枚当り二〇円、数量一二万八一〇〇枚、この代金二五六万二〇〇〇円としての減価
採用で「精算」させていただくというにあることが明らかであり、同号証が真正に
成立したものであることは原審が適法に確定しているところであるから、特別の事
情がないかぎり上告人は被上告人に対し右書面どおりの表示行為をしたものと認定
するのが、相当である。
 そこで、右表示の意味内容を検討すると、右書面は代金減額を請求する趣旨が明
確に表示されているわけではないし、また、目的物に瑕疵があることを理由として
は当然には代金減額の請求をすることができるものでもないのであるから、右書面
による表示を代金減額の請求とみることが表示者の意図した目的に合致するものと
はいいがたい。もとより、右書面には、上告人が代金減額の請求だけをし損害賠償
の請求はしない趣旨が表示されているわけではない。むしろ、右書面においては、
「精算」という文言が用いられ、受領物の瑕疵が具体的に指摘され、結論として約
定代金額より少額の代金債務額を負うにすぎないことが具体的に主張されているの
であつて、右の表示が代金額を知悉している売買当事者間でされたものであること
と考え合わせて右書面の内容を解釈すれば、受領物には瑕疵があつたから、上告人
は約定代金債務額から瑕疵相当の損害額を差引清算した残額についてのみ支払義務
を負うべき趣旨のものと解するのが、相当である。そして、このようにみることが
できる以上、右の表示によつて自働債権と受働債権の特定がされており、かつ、そ
の相対立する債権を対当額で消滅させたいという効果意思をうかがうことができる
から、特別の事情がないかぎり、上告人は右の表示により受領物の瑕疵に基く損害
賠償の請求をするとともに該請求権による相殺をしたものというべきものである。
 したがつて、原審がなんら首肯するに足る理由を示すことなく乙第五号証によつ
ても損害賠償の請求及び相殺をしたものとは認められないとしたのは、理由不備の
違法があることに帰する。それゆえ、その余の上告理由について判断を示すまでも
なく原判決中上告人敗訴部分は破棄を免れず、なお、審理を尽くさせるため右部分
につき本件を原審に差し戻すのが、相当である。
 よつて、民訴法四〇七条一項に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判
決する。
     最高裁判所第三小法廷
         裁判長裁判官    高   辻   正   己
            裁判官    関   根   小   郷
            裁判官    天   野   武   一
            裁判官    坂   本   吉   勝
            裁判官    江 里 口   清   雄

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