弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     原判決及び第一審判決を破棄する。
     被告人を懲役五年に処する。
     第一審における未決勾留日数中一八二日を本刑に算入する。
     押収してあるレミントンスポーツマン散弾銃一挺(一二番口径NO.三
一〇六一八五。最高裁昭和五一年押第一六号の符合1)、散弾空薬莢一個(東京高
裁昭和四九年押第五五七号の符号9)及び鉛弾若干(前回号の符合4)を没収する。
     第一審における訴訟費用は被告人の負担とする。
         理    由
 弁護人齋藤悠輔の上告趣意は、事実誤認、単なる法令違反の主張であつて、刑訴
法四〇五条の上告理由にあたらない。なお、記録を精査するに、被告人は、本件犯
行直後自殺をはかり、ガス中毒等による意識障害のため、本件犯行の昭和四八年一
二月二一日から入院治療を受けていたが、同月二三日には意識が完全に回復し、日
常生活に支障のない退院可能の状態にあつたものであり(医師A作成の診断書参照)、
翌二四日に逮捕状が執行されて司法警察員の取調を受けた際の被告人の意識がもう
ろう状態にあつたとは認められず、したがつて、他の諸事情をも勘案して同日付の
司法警察員作成の弁解録取書及び供述調書の信用性を肯認した原判断は、正当であ
る。また、本件猟銃の引金の強度は、約二キログラムであり、この種の猟銃は、銃
の床尾に相当程度の衝撃が加えられても機械的暴発を起こすものではないことが認
められるところ(原審鑑定人Bの供述参照)、原判決がその他の関係各証拠をも総
合考察して、本件猟銃の発射が被告人の意識的な行為によるものであると判断した
ことは正当として是認することができる。更に、被告人の本件犯行は、被害者の当
夜の被告人に対する挑発的な言動に起因するところが多い激情的なものと認められ
るのではあるが、医師C作成の精神衛生診断書及び記録上認められる本件犯行前後
の被告人の言動に徴すれば、本件犯行時における被告人の責任能力を認めた原判断
も正当である。
 しかし、職権をもつて調査するに、本件犯罪の情状として次のような諸事情が認
められる。
 被告人は、二〇歳のころ結婚し翌年男児(双生児)に恵まれながら、婚家・実家
間の確執に禍され四年有余で離婚の憂き目にあい、子どもを夫方に引きとられ、以
来二〇有余年の間、バーホステス、マダム、広告デザイナー及びマージヤン荘経営
により自活の途を歩んできたが、昭和四七年春ころからマージヤン客の商社員D某
(昭和一九年三月二七日生。独身)に慕われ、母性的感情をもつて同人を遇するう
ち、自然に男女の情に発展して同年八月ころ都内のホテルの一室を借り受け同棲類
似の生活をはじめたが、両者の年齢差や生活環境の違いなどを考慮し翌四八年五月
ころ右の不安定な生活を解消し、以後、同人とは親しい友人関係にとどめるよう気
持の整理を図つていた。
 被害者(昭和一四年一〇月六日生)は、Dの職場の先輩で、同人と被告人とのい
きさつを知つていたが、たまたま当夜同人と飲酒した際、同人と被告人との関係に
決着をつけてやると自から言いだし、同人が極力引きとめるのも聞かず午前二時こ
ろ酒気を帯び被告人の営むマージヤン荘に赴き話がある旨申し入れ、同午前三時四
〇分ころDを伴い被告人の居住するマンシヨンを訪れた。被害者は、被告人の用意
した洋酒を飲みながら、かつてDと他の女性との結婚話がもちあがつた折に被告人
とDとの関係を清算させようとしたDの上役の課長に対し、被告人が取り乱して実
弾をこめてない猟銃を手にして脅かし右の結婚をとり止めさせた出来事にことよせ
て被告人に対し、鉄砲を向けてみないかと申したり、Dには結婚相手の女性がいる
とつくり話をしたりなどし、更に、被告人のような年寄でも生理がまだあるのかな
どその他卑わいな質問を浴びせたが、被告人がそれに対して受け答えしているうち、
Dとさして年齢のかわらぬ我が子に責任を感じている旨思い詰めたように述懐する
や、被害者は、死ぬほど責任を感じているのなら今死ねと申して嘲弄した。被害者
の右言動に興奮した被告人は、別室から実弾をこめた猟銃を持ち出して被害者及び
Dに対して、二人ともあやまれ、帰れと語気荒く申しむけたが、被害者は態度を改
めることなく、撃つなら撃てとか遺書を書くかなどと被告人を揶揄し刺激するよう
な言葉を重ね、本件が発生するまでの一時間有余の被害者の被告人に対する話掛け
はDと被告人との関係を真面目に解決しようとするようなものではなかつた。
 被告人は、犯行当夜の被害者及びDの訪問はDとの別れ話のためであると察知し、
不快な気分を抱いたものの、同人とは知らぬ仲でもないため不本意ながらも同人ら
を招き入れたのであつたが、被害者の前記のような言動に接し、勝気な性格に仕事
の疲れと当夜口にしたアルコールの影響が重なつて焦燥と怒りに駆られ、時折被害
者らに強い口調で反発するうち、前記のような経緯から猟銃を持ち出すに至つたの
ではあるが、その真意は、被害者を脅かして居室から退散させることにあつたもの
であり、これをも意に介さず、むしろ興趣を感じているかのような被害者の態度に
痛く興奮し、遂に、座つていた被害者が立ちあがりかける動作をとつたことに触発
され、とつさに猟銃の引金をひいたものであつて、全くの瞬間的な殺意に基づく偶
発的犯行とみられるのである(なお、当夜のDとの対話のうちに、それでは三人で
死ぬほかないと被告人が申しているが、被告人のその言葉をとらえて殺意を認める
ことはできない。)。被告人は、右事件直後責任を感じてガス自殺をはかつたが、
医師の早期の手当により一命をとりとめることができた。
 以上のような、被告人の生活歴、本件犯行の経緯及び犯行後の状況など、ことに
知己の間柄にあつたとはいえ被害者の心ない常軌を逸した挑発的言動が被告人の本
件犯行を誘発する主要因になつていること、前記のように本件犯行は興奮の余りの
激情的なものとはいえ気質的に短絡的なものではないことに徴すると、被告人の銃
器に対する安易な心構え、そのため被害者の貴重な生命を奪うに至つた結果の重大
性、遺族らの悲嘆及び本件に関して被害者の遺族らから被告人に対して提起された
民事訴訟が係属中で遺族らへの慰謝がいまだ尽されていないこと等を総合勘案して
も、被告人を懲役八年に処した第一審判決及びこれを維持した原判決の刑の量定は、
一般予防の見地にかたむきすぎた嫌いがあり、前記のような本件の情状を十分考慮
にいれたものとは認めがたく、甚しく不当であつて、これを破棄しなければ著しく
正義に反すると認めざるをえない。
 よつて、刑訴法四一一条二号により原判決及び第一審判決を破棄し、同法四一三
条但書により被告事件について更に判決することにし、第一審判決の認定した事実
に法令を適用すると、被告人の所為は刑法一九九条に該当するので、所定刑中有期
懲役刑を選択し、その刑期範囲内で被告人を懲役五年に処し、同法二一条により第
一審における未決勾留日数中一八二日を本刑に算入し、主文第四項記載の押収物の
没収につき同法一九条一項二号・二項本文を、第一審における訴訟費用の負担につ
き刑訴法一八一条一項本文をそれぞれ適用して、裁判官全員一致の意見で、主文の
とおり判決する。
 検察官 鎌田好夫 公判出席
  昭和五一年一一月一八日
     最高裁判所第一小法廷
         裁判長裁判官    岸       盛   一
            裁判官    下   田   武   三
            裁判官    岸   上   康   夫
            裁判官    団   藤   重   光

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