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平成13年(ネ)第2382号 損害賠償請求控訴事件(原審・大阪地方裁判所平成
11年(ワ)第10596号 損害賠償請求事件)
判決
控訴人(第1審原告)   X
訴訟代理人弁護士   山元眞士
被控訴人(第1審被告)   松下電工株式会社
訴訟代理人弁護士   小松陽一郎
同              平野和宏
補佐人弁理士   川瀬幹夫
同              中川文貴
同              荒川伸夫
主文
1 本件控訴を棄却する。
2 控訴費用は控訴人の負担とする。
事実及び理由
第1 控訴の趣旨
1 原判決を取り消す。
2 被控訴人は,控訴人に対し,金1億3500万円及びこれに対する平成11
年10月14日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
3 仮執行宣言
第2 事案の概要
 本件は,合計4つの特許権の各特許権者である控訴人他1名が被控訴人に対
し,被控訴人が地震ロック装置付きの家具,吊り戸棚等を販売する行為は控訴人ら
の特許権を侵害(方法の発明に係るものは間接侵害)すると主張して,補償金及び
損害賠償を請求した事案である。
 原判決は,原告らの請求をいずれも棄却したため,控訴人が原判決別添特許
公報A,B記載の特許権侵害を理由とする請求につき,控訴を提起した。そして,
控訴人は,原判決別添特許公報B記載の特許権侵害を理由とする請求につき控訴を
取り下げ,さらに,同特許公報Aの記載のうち,請求項7ないし9を除く請求項に
基づく請求について被控訴人の同意を得て訴えを取り下げたため,上記請求項7な
いし9に関する特許権(以下,原判決別添特許公報A記載の特許権を「本件特許
権」というが,上記請求項7ないし9に関するものを「本件特許権」ということも
ある。)侵害を理由とする請求のみが,当審の審理,判断の対象となった。
1 争いのない事実等
(1) 被控訴人は,電気機械器具及び各種機械器具の製造並びに販売,建築材料
の製造及び販売等を目的とする株式会社である。
(2) 控訴人は,本件特許権を有している(以下,本件特許権に係る発明を「本
件発明」といい,本件特許権に係る明細書(補正後のもの)を「本件明細書」とい
う。)。
ア 発明の名称 地震時ロック装置及びその解除方法
イ 特許番号 第2926114号
ウ 出 願 日 平成7年7月16日(特願平7-210921号)
エ 公 開 日 平成8年8月6日(特開平8-199886号)
(ただし,平成9年3月6日付,平成10年4月15日付及び同年10月1
9日付で手続補正がされた。)
オ 登 録 日 平成11年5月14日
カ 特許請求の範囲は,原判決別添特許公報A該当欄記載のとおりである。
キ 本件発明の構成要件は,次のとおり分説できる。
【請求項7】
(ア) 閉じる方向の動きで係止解除される際に
(イ) 弾性手段の抵抗が存在する解除方法を用いた
(ウ) 地震時に開き停止される開き戸において
(エ) 解除を達成するに十分な距離を確保した隙間を有して地震時に開き
停止される開き戸
【請求項8】
(オ) 請求項7を用いた
(カ) 吊り戸棚
【請求項9】
(キ) 請求項7を用いた
(ク) 家具
(3) 警告
 控訴人は,被控訴人に対し,本件特許権につき平成9年3月10日到達の
書面で,特許法65条1項に基づく警告をした。
(4) 被控訴人は,原判決添付別紙イ号物件目録(以下「イ号物件目録」とい
う。)及び同別紙ロ号物件目録(以下「ロ号物件目録」という。)各記載の吊り戸
棚等を販売している(以下,各物件目録記載の吊り戸棚等を「イ号物件」,「ロ号
物件」,各吊り戸棚等に用いられる地震ロック装置を「イ号装置」,「ロ号装置」
という。)。
2 争点
(1) イ号物件及びロ号物件の構成
(2) 明白な特許無効理由の存在
(3) 構成要件充足性
(4) 均等の成否(当審における追加主張)
(5) 補償金及び損害の発生と額
第3 争点に関する当事者の主張
 次に当審における主張を付加するほか,原判決の「第3 争点に関する当事
者の主張」中,当事者双方の本件発明(前記請求項7ないし9についてのもの)に
関する部分をここに引用する。
1 控訴人の主張
(1) 争点(2),(3)について
 本件発明の「弾性手段」とは,出願当初の明細書の特許請求の範囲に記載
されていた「停止部」を含む構成や「開き戸を押しその背面の係止手段に動きを伝
えて解除」との構成を,当業者にとって一義的に明確な表現に改めたものであっ
て,開き戸の解除の際に「弾性手段の抵抗」が作用する構成に書き換えるために用
いられた表現であり,このような限定によって,本件発明の特許請求の範囲の記載
は,技術概念として外延の明瞭なものとなっている。
 一般に係止状態又は停止状態にあるものを解除する際に「弾性状態の抵
抗」が作用する構造は,コンセントに差し込まれる電源用プラグ,携帯電話やラジ
カセの引伸しアンテナ,差込口に挿入されるイヤホンやヘッドホンのプラグ,ゴム
ひもによってずれが防止される衣類,万年筆のキャップ,金属又はプラスティック
製のホック,書類を係止するゼムグリップ,各種リモコンや電卓等に内蔵される電
池のホルダー,家屋の戸口やキャビネット等各種開き扉と固定部との間に設けられ
る係止具など枚挙にいとまがない。
 「弾性手段の抵抗」を作用させることは,ある一つの技術概念を具体化す
る慣用技術手段の適用に他ならず,無数に存在し得る具体的構成を,発明の構成要
素として明瞭な範囲内に包括するものであるから,控訴人が単に「弾性手段」との
み記載し,より具体的な構成に限定しなかったからといって構成要件が不明瞭にな
るわけではない。
 また,実施例の記載において,「弾性手段の抵抗」によって係止手段ない
し解除具の初期状態に戻ることが抑えられ,開き戸を閉じる際に,その「弾性手段
の抵抗」を超える力が加えられることによって地震時のロックが解除されるという
機構が,任意の態様で実現可能であることが示されている。
 本発明は,地震時にロックされる開き戸に関するものであるから,地震の
揺れに反応すべく,「動き可能に」設けられた「係止手段」を内在するものである
ことは,当業者にとって自明のものといわざるを得ない。同様に,例えば本発明は
「開き戸」に関するものであるので,蝶番その他の回転軸を含む取り付け具と,お
そらくは取っ手も構成要件としているが,それは「開き戸」という用語に内在する
概念であって,これらを特許請求の範囲に記載していないからといって,特許法3
6条5項に違反するとは考えられない。「開き戸」の係止が解除される際に,「弾
性手段の抵抗」が直接的,間接的に「係止手段」に作用するものであることは当業
者にとって明らかであり,ここで「間接的に」とは,弾性手段と係止手段との間に
他の可動部材が介在するような場合をいうことも容易に理解される。そうすると,
「弾性手段の抵抗」が作用する方向と「係止手段」の移動方向とにおのずと関連性
が生じることに,何ら不自然な点はない。
 したがって,本件発明の構成要件の明確性は満たされているというべきで
ある。そして,本件特許発明の技術的範囲を判断するに当たっては,特許請求の範
囲に記載されたことを基準とすべきである。
 すなわち,「弾性手段」という外延の明瞭な用語が本来意味するところを
超えて,実施例に開示された構造にまでその定義を限定解釈すべきではなく,本件
発明の「弾性手段」はイ号物件及びロ号物件における弾性手段である舌片(5C)
を技術概念上含むものである。
 「弾性手段」ないし「弾性手段の抵抗」という技術用語は,明細書から一
義的な定義が可能なもので,出願経過に照らしてみても,地震時には「わずかに開
かれた位置でロック状態」(当初の請求項1参照)とし,地震終了時には「開き戸
を押しロックを解除」(当初の請求項3参照)するという発明を構成するためのも
のであるとの定義は一貫しており,かつ,乙1,3等の公知技術文献を参酌して
も,その本来の意味に限定を加えて解釈をしなければならない必要性は一切見い出
せず,また,「弾性手段」が出願後の補正によって加えられたことをもって,限定
解釈し得るものでない。
(2) 争点(4)について
 仮に「弾性手段」を本件発明の実施例の項の具体的な開示に限定して解釈
したとしても,イ号物件及びロ号物件は,本件特許と均等なものと認められる。
ア 係止手段を所定の位置にとどめておくように弾性手段の抵抗を作用させ
るとした時点で,技術概念上の構成要件は確立しており,弾性手段の抵抗を作用さ
せることそのものは,慣用技術手段の適用であるから,その具体的な形状,位置等
は,当業者が任意に選択できる。すなわち,弾性手段が設けられる位置は本件特許
の本質的部分でない。
イ 本件特許の実施例において弾性手段の位置を開き戸側に置き換えても本
件特許発明の目的を達することができ,同一の作用効果を奏する。
ウ そのような弾性手段の位置の置き換えは,当業者がイ号物件及びロ号物
件の製造の時点において容易に想到することができたものである。
エ イ号物件及びロ号物件は,本件特許出願時における公知技術と同一又は
当業者が容易に推考できたものではない。
オ イ号物件及びロ号物件は,本件特許発明の特許出願手続において特許請
求の範囲から意識的に除外されたものに当たるなどの特段の事情もない。
2 被控訴人の主張
(1) 争点(2),(3)について
ア 弾性手段の抵抗が作用する構造が慣用技術でないことについて 
 慣用技術とは,周知技術であって,かつ,よく用いられている技術のこ
とをいう。また,周知技術とは,その技術分野において一般的に知られている技術
であって,例えば,これに関し相当多数の公知文献が存在し,又は業界に知れ渡
り,あるいは例示する必要がないほどよく知られている技術をいう。
 ところが,控訴人が「弾性手段の抵抗」が作用する構造として挙示する
ものは,家屋の戸口やキャビネット等各種開き扉と固定部との間に設けられる係止
具,オーディオ・カセット用等各種プラスティックのケース開閉部を除き,開閉扉
のロック解除とは関係のない技術分野に属するものであり,そもそも本件発明の技
術分野に属するものではないから,これらが慣用技術でないことは明らかである。
イ 弾性手段について具体的な構成を限定しなければならないことについて
 本件発明における「弾性手段の抵抗」は,無数に存在する「弾性手段」
のうち,開閉扉のロック解除のための特定の構成を有する「弾性手段」が奏する
「抵抗」に限定されるものである。しかも,本件発明における「弾性手段」がいか
なる具体的な構成を有するものかは一義的に明確ではなく,少なくとも当該特定の
構成が当業者に理解し得る程度に具体的な構成として,明細書に記載されていなけ
ればならない。したがって,弾性手段とのみ記載し,本件明細書においてそれ以上
具体的構成を明らかにしない本件発明の「弾性手段」なる構成は不明瞭である。
 さらに,仮に控訴人が主張するように,一般に係止状態又は停止状態に
あるものを解除する際に「弾性手段の抵抗」が作用する構造が慣用技術手段であ
り,明細書において「弾性手段」の具体的な構成を限定しなくても,当業者であれ
ば任意の形態で実施することが可能なのであれば,そのことだけで,本件発明の請
求項7に係る発明は,その技術分野において一般的に知られている技術であって,
かつ,よく用いられている技術を発明の本質的部分とするものにすぎないことにな
り,いずれも進歩性のない発明であるといわざるを得ない。
 そこで,本件発明が慣用技術との関係で進歩性があるものと解釈するた
めには,本件発明における「弾性手段」は,無数に存在する「弾性手段」のうち,
ある特定の構成を有する「弾性手段」が奏する「抵抗」に限定されなければならな
いことになる。
ウ 「弾性手段の抵抗」が作用する対象及び方向について
 本件発明の請求項7は,そもそも「係止手段」を構成要件とするもので
はなく,「弾性手段の抵抗」が「係止手段」に作用すること自体が技術的範囲に含
まれておらず,「弾性手段の抵抗」が作用する方向と「係止手段」の移動方向との
間に関連があることは発明の内容とされていないから,「弾性手段の抵抗」は,発
明の構成要件として一義的に明確とはいえない。
 そして,当初明細書にも「弾性手段の抵抗」なる構成が記載されておら
ず,補正により「弾性手段の抵抗」なる構成が付加されたものであることからすれ
ば,本件発明における「弾性手段」及び「弾性手段の抵抗」なる構成は,実施例と
して記載されているものに限定される。
(2) 争点(4)について
 本件において,均等論の適用を認めれば,特許法17条の2第3項に反す
る補正を認めたと同じ結論になり,均等論を適用することが相当でないことは明ら
かであり,最高裁判決が均等論適用の阻害事由として挙げる「特段の事情」が存す
るというべきである。
 また,補正の経緯からすれば,本件発明における「弾性手段」の位置は,
本件発明の本質的部分であるともいえ,このことからしても本件において均等論は
適用されるべきではない。
 また,仮に控訴人主張のように,本件発明における「弾性手段の抵抗」が
慣用的技術手段であり,具体的な構成は当業者が任意に選択でき,弾性手段の位置
の置き換えが容易であるならば,イ号物件及びロ号物件は,少なくとも本件発明出
願時における公知技術から当業者が容易に推考できたものである。
第4 争点に対する判断
1 争点(1)(イ号物件及びロ号物件の構成)について
 原判決の「第4 争点に対する判断」中の上記争点についての判断記載のと
おりであるから,ここに引用する。
2 争点(3)(構成要件充足性)について
(1) 「弾性手段」(請求項7の構成要件(イ))について
ア 本件発明の特許請求の範囲は,「係止解除される際に弾性手段の抵抗が
存在する解除方法を用いた地震時に開き停止される開き戸において解除を達成する
に十分な距離を確保した隙間を有して地震時に開き停止される開き戸」とされてい
るところ,これらの表現と請求項2,6,7全体の特許請求の範囲の記載によれ
ば,本件発明においては,地震時に「開き停止」する開き戸の「開き停止」を解除
する際に,「弾性手段の抵抗」が作用するものである。
  そして,「弾性」とは,一般的に,「物体に外から力を加えれば変形
し,その力を取り除けば元の状態に戻ろうとする性質」(大辞林)をいうから,本
件発明の「弾性手段」は,ばねからなる構成のものが含まれることは容易に想到で
きるが,特許請求の範囲の記載のみから,その機構等の全部を正確に把握すること
はできない。
イ そこで,本件明細書の発明の詳細な説明及び図面を検討する(甲1)。
  まず,【従来の技術】,【発明が解決しようとする課題】及び【課題を
解決するための手段】の項には,従来,解除が容易な開き戸の地震時ロック装置は
未だ開発されていなかったところ,本発明はこの従来の課題を解決し解除が容易な
開き戸の地震時ロック装置の提供を目的とし,「家具,吊り戸棚等の本体内に固定
された装置本体の動き可能な係止手段が開き戸の係止具に地震時に振動を経て係止
する開き戸の地震時ロック装置等」を提案するものであると記載されているが,
「弾性手段」については何ら触れるところがない。また,【発明の効果】の項に
は,本発明の効果として,「本発明の地震時ロック装置及びその解除方法は特に開
き戸がわずかに開かれた位置で開き停止するため開き戸を押したり手で操作するだ
けで容易にロックが解除される」ことなどが記載されているが,「弾性手段」に直
接触れた記述はない。
  次に,【実施例】の項を見ると,「弾性手段」に関して具体的な開示が
あるのは,図1~13に示された4種類の実施例である(図1~9の弾性手段(6),図
10~13の弾性手段(9)。なお,このうち図5の弾性手段はコイルばねと明記されてい
る(4欄4~5行)。)が,いずれの実施例も「弾性手段」は,ドア側ではなく吊
り戸棚等の本体側に係止手段や停止具又は解除具と共に設けられ,係止手段ないし
解除具が初期状態に戻る経路に位置したものになっていて,実施例の説明中には,
「弾性手段」が,係止手段の戻り路に設けられ,ゆれの力より大きく設定された押
さえ力を有し,開き戸を閉じる方向に作用するゆれに抗して係止手段を押さえ,開
き戸がわずかに開いた位置で係止手段の係止部が係止具に係止した状態で開き戸を
ロックするとともに,地震が終わった後に使用者が開き戸を強く押すことにより,
弾性手段による押さえが解除され初期状態に戻る機能を有するものであることや解
除具の一側端を装置本体より突出させる作用を有することが記載されている(3欄
22~23行,34~43行,4欄4~7行,17~25行,5欄7~20行。なお,3欄30行の「図
3」は「図4」の,同41行の「図4」は「図3」の誤り。)。
  弾性手段が上記以外の構成・作用を有することに言及した部分はなく,
特に扉側に配置される構成につき,これを指摘したり,示唆するような記載はな
い。
ウ 本件発明の出願時の公知技術をみると,
 (ア) 本件発明の出願前に頒布された刊行物であると認められる米国特許
第5035451号明細書(乙1の1。乙1の2はその訳文。本件公報に記載され
た参考文献の一つ。)は,外乱応答性磁性ラッチに関する発明であり,同発明の目
的は「垂直および水平の震動あるいは揺動の動きに応答して食器棚のドア等を固定
する外乱応答性ラッチ機構を提供することで」あり,その概要は,「本ラッチ装置
は通常ドアの内側に取り付けられる。二つの取付プレートはドアが閉位置にあると
きラッチアームが最も後立すなわち非ラッチ位置にあるように動作可能に離間され
ている。突然の運動や外乱が生じると,ドアはわずかに開位置側へ移動し,ラッチ
アームは磁石の近傍に移動してその磁界内に入る。従って,ラッチアームは磁石に
しっかりと固定されるようになり,ドアがさらに開位置側に移動すると,ラッチア
ームは保持手段内に滑り込みドアがそれ以上開かないようにする。本ラッチ装置は
震動,揺動あるいは振動運動による垂直運動に敏感であるだけでなく,たとえば地
震時のドアの動きの重要な方向である水平方向の運動に対しても敏感に応答する。
このラッチ装置を解除するにはドアを完全な閉位置まで閉めるだけでよい。そうす
ればラッチアームが保持手段からはずれ磁界の外に移動しその通常位置つまり開位
置に戻る」というもので,「動作状態および使用時において,ベースプレート16
はキャビネットドアあるいは他のヒンジされた部材に取り付けられている。キャビ
ネットを揺動させるような地震や地震性の事象のような外乱が生じると,バネ脚1
4は強勢された震動で上下に動く」,そして,「地震や他の外乱による小さな振動
がラッチアーム12のバネ脚14により強勢されるのである。第2の取り付け面2
2上の対応する保持体26はキャビネットに固定されており,ラッチアーム12が
強勢振動で上方に移動してくると,磁石24がそれを引き付け係合直前の位置に保
持する。ドアがさらに外方に移動すると,ラッチアーム12は保持体26と係合し
ドアを所定位置に保持し,これによりキャビネットの内容物がこぼれでるのを防止
する。磁石24はまた,ラッチアーム12が保持体26と係合する以前のラッチア
ームの移動を許しつつラッチアームを保持体26との係合のための位置に保持す
る。それにより,ドアやキャビネットが振動してラッチアーム12を保持体26と
の係合準備位置から離隔する方へ移動させるのを防止している。ラッチを解除する
にはドアを全閉位置へ閉めるだけでよい。そうすることによりラッチアーム12が
磁石の磁力域から出て保持体26と磁石24から外れ通常位置つまり開位置に戻
る」という作用を有する。
 そうすると,上記発明は,少なくとも明示的記載として,ラッチ装置
がドア側に取り付けられていてキャビネット本体側に取り付けられていないこと,
係止解除される際に磁石による吸着という手段の抵抗があるが,弾性手段の抵抗が
存在しないことの2点において,本件明細書の特許請求の範囲並びに発明の詳細及
び図面で開示されたものと構成が異なっているといえる。
 (イ) また,本件発明の出願前に頒布された刊行物であると認められる米
国特許第5312143号明細書(乙3の1。乙3の2はその訳文。本件公報に記
載された参考文献の一つである。)は,地震対策用キャビネットラッチの発明であ
り,同発明は,地震の揺れによりキャビネット内の物がこぼれ落ちないようにキャ
ビネットドアを固定するための機械装置に関するものであって,同発明の特徴は,
キャビネット内の棚板の底にスプリング力に抗して押しつけられたフック付アーム
が頭部の重いピンの胴部くびれに噛み合い止められているが,地震等の揺れを感じ
るとピンの重りが揺れてアームがピンのくびれから外れキャビネットドアに取り付
けられたキャッチの先端のフックに噛み合うのでドアが開かず内容物がこぼれ落ち
ないようにし,ドアと棚板との間の空隙から指又は適当な工具を挿入してアームを
押し下げ,キャッチとの係合を解除し,ドアが自由に開き得るようにした点にあ
る。
 そうすると,上記発明は,作動解除が空隙から指又は適当な工具を入
れフックを外すことによりされる点で,開き戸を強く手で押すことにより容易に解
除することができる本件明細書の特許請求の範囲並びに発明の詳細及び図面で開示
されたものと異なっている。
(ウ) また,同じく本件発明の出願前に頒布された刊行物であると認めら
れる公開特許公報(乙4)は,特許請求の範囲を「扉を全閉位置で係止する扉用ロ
ック装置であって,扉の全閉時に扉に押圧されて移動される移動部材と,移動部材
に揺動可能に設けられ扉に形成される凹部に挿入されて扉を係止する鉤形状の係止
部材と,扉全閉時の移動部材の移動時に移動部材に対して係止部材を揺動させ扉の
全閉位置で係止部材を扉の凹部に挿入させる係止部材揺動手段と,を備えているこ
とを特徴とする扉用ロック装置」であって,「開閉扉12が全閉位置でロックされ
る」状態から,「開閉扉12を開ける場合には,開閉扉12を凹部16の奥方へ押
圧すればよい。開閉扉12が押圧されると,鉤部18に押圧されてフック42が圧
縮コイルばね50の付勢力に抗してロック軸22とともに凹部16の奥方へさらに
押し込まれる」,その後,「開閉扉12を押圧するのをやめると,圧縮コイルばね
50に付勢されてフック42がロック軸22とともに凹部16の開口側へ移動さ
れ」,最終的にロック軸22の移動が停止された状態では「斜面28に沿って傾い
て係止部54が開閉扉12の凹部17から抜き出されて鉤部18から外れた状態と
され,これによって開閉扉12のロック状態が解除されて開閉扉12が開放可能と
される」ものである。
 そうすると,上記公報の発明は,全閉位置でロックされた扉を押圧す
ることにより,扉が閉止状態からキャビネット本体側のばねに付勢されて開くもの
である点で,本件明細書の特許請求の範囲並びに発明の詳細及び図面で開示された
ものと異なっている。
エ 本件発明の出願経過についてみると,証拠(甲1,2,10,40)及
び弁論の全趣旨によれば,次の事実が認められる。
  本件発明の出願当初の明細書には,前記本件明細書の【従来の技術】,
【発明が解決しようとする課題】及び【課題を解決するための手段】の項と同様,
従来,解除が容易な開き戸の地震時ロック装置は未だ開発されていなかったとこ
ろ,本発明は,この従来の課題を解決し解除が容易な開き戸の地震時ロック装置の
提供を目的とするとの記載があるところ,特許請求の範囲【請求項1】に,「地震
のゆれの力で動き可能に支持され開き戸の係止具に係止される係止手段と,閉止状
態から開き戸がわずかに開かれた位置で前記係止手段を停止する装置本体の停止部
とからなる地震時ロック装置」が,【請求項3】に,「請求項1又は2記載の地震
時ロック装置においてわずかに開かれた開き戸を押しその背面の係止手段に動きを
伝えて解除する解除方法」が,同【請求項4】に,「請求項1又は2記載の地震時
ロック装置においてわずかに開かれた開き戸の隙間から手で操作して解除する解除
方法」が示され,平成9年3月6日付手続補正書による補正で,【請求項4】が
「家具,吊り戸棚等の本体内に固定された装置本体の係止手段によりわずかに開か
れて開き停止した開き戸が閉止位置に戻る際にその動きが前記係止手段に伝わり係
止解除される解除方法」と訂正・補正される(【請求項1,3】の訂正・補正は省
略する。)とともに,【請求項7】が「【請求項4】の解除方法を用いた吊り戸
棚」という内容で加えられた後,平成10年4月15日,同年12月19日付手続
補正書を経て,本件明細書にあるように,【請求項6】が「閉じる方向の動きで係
止解除される際に弾性手段の抵抗が存在する解除方法を用いた地震時に開き停止さ
れる開き戸」と,【請求項7】が「閉じる方向の動きで係止解除される際に弾性手
段の抵抗が存在する解除方法を用いた地震時に開き停止される開き戸において解除
を達成するに十分な距離を確保した隙間を有して地震時に開き停止される開き戸」
と,【請求項8】が「請求項6又は7を用いた吊り戸棚」と,【請求項9】が「請
求項6又は7を用いた家具」とされ,平成10年4月15日,同年12月19日付
手続補正書による補正で,初めて「弾性手段の抵抗が存在する」という事項が付加
され,この間,出願当初の明細書から本件明細書に至るまで,前記本件明細書の発
明の詳細な説明及び図面の「弾性手段」に関する部分の記載に何らの変更がなかっ
た。
  また,控訴人は,平成9年7月2日,特許庁長官宛に提出した刊行物等
提出書において,前記公知技術の外乱応答性磁性ラッチに関する米国特許第503
5451号発明が係止手段を開き戸側に取り付けて地震時に作動するものであるこ
とを指摘し,実験によって,係止手段を開き戸に設けた場合,開き戸が開閉し家具
等の本体に衝突する衝撃により係止手段が跳ね上がってロック作動し,また,通常
の開閉操作として開き戸を勢い良く引いて開く場合にも開き戸がロックせず正常に
開くことができたとし,当該発明が地震のゆれ自体を検出しているのではないとし
た上,地震のゆれを検出する地震検出方法を用いる本件発明について,その係止手
段を家具等の本体でなく,開き戸に設けた場合,実験の結果,地震のゆれを十分に
検出し作動することができず,通常の開き戸の開閉操作を正常にできなかったとし
て,「この様な相違が『本体に係止手段を設けた』ことと『開き戸に係止手段を設
けた』ことによって必然的に生じたということが重要である。どちらに設ける場合
にもいずれの検出方法を採用するか自由に選択出来るのであればそれらの相違は検
出方法自体の問題となる。しかし,『本体に係止手段を設けた』場合は地震のゆれ
自体を検出して作動する係止手段にせざるを得ない一方『開き戸に係止手段を設け
た』場合は開き戸が地震時に開閉し家具等の本体に衝突する衝撃を検出して作動す
る係止手段に実際上せざるを得ないのであるからロック装置の取り付け位置が質的
に相違する重要な要件ということになる。すなわち,『本体に設ける』か『開き戸
に設ける』かという問題は明らかに質的に重要な問題なのである。言い換えるとロ
ック装置の取り付け位置は重要な構成要件であって一方から他方を容易に考えられ
るとすることは出来ないのである。」との見解を述べ,本件発明が米国特許と上記
の点で異なることを強調していた。
オ 以上の事実から,「弾性手段」の内容を検討する。
(ア) 本件発明は,従来,解除が容易な開き戸の地震時ロック装置は未だ
開発されていなかったところ,この従来の課題を解決し解除が容易な開き戸の地震
時ロック装置の提供を目的とするところ,構成要件(イ)の「弾性手段の抵抗が存在
する解除方法を用いた」の「弾性手段」は,本件明細書の発明の詳細な説明及び図
面に,ドア側ではなく吊り戸棚等の本体側に係止手段や停止具又は解除具と共に設
けられ,係止手段ないし解除具が初期状態に戻る経路に位置し,ゆれの力より大き
く設定された押さえ力を有し,開き戸を閉じる方向に作用するゆれに抗して係止手
段を押さえ,開き戸がわずかに開いた位置で係止手段の係止部が係止具に係止した
状態で開き戸をロックするとともに,地震が終わった後に使用者が開き戸を強く押
すことにより,上記押さえが解除され初期状態に戻る機能を有することや,解除具
の一側端を装置全体より突出させる作用を有することが開示されており,それ以外
の構成・作用への言及がなく,特に,「弾性手段」がドア側に配置される構成につ
いて,何らの開示も示唆もない。
  そして,控訴人が,本件発明に関する特許出願手続において,ロック
装置を「本体に設ける」か「開き戸に設ける」かという問題は明らかに質的に重要
な問題であり,本件発明が「本体に設ける」点で米国特許が「開き戸に設ける」こ
とと異なることを強調した経緯がある。
  また,「弾性手段」は,出願当初の明細書の特許請求の範囲になく,
その後の手続補正により付け加えられたものであるから,特許法17条の2第3項
により,その意味内容は,出願当初の明細書の発明の詳細な説明又は図面に記載し
た事項の範囲内のものでなければならず,同記載事項に一致する上記本件明細書の
発明の詳細な説明及び図面に記載した事項,すなわち,ドア側ではなく吊り戸棚等
の本体側に係止手段や停止具又は解除具と共に設けられ,係止手段ないし解除具が
初期状態に戻る経路に位置し,ゆれの力より大きく設定された押さえ力を有し,開
き戸を閉じる方向に作用するゆれに抗して係止手段を押さえ,開き戸がわずかに開
いた位置で係止手段の係止部が係止具に係止した状態で開き戸をロックするととも
に,地震が終わった後に使用者が開き戸を強く押すことにより,上記押さえが解除
され初期状態に戻る機能を有することや解除具の一側端を装置全体より突出させる
作用を有することの範囲内のものでなければならない。  
  そして,また,本件発明の出願時の前記公知技術を考慮すると,解除
が容易な開き戸として「閉じる方向の動きで係止解除される際に弾性手段の抵抗が
存在する解除方法を用いた地震時に開き停止される開き戸」は,従来にない技術で
あるといえる。
  したがって,「弾性手段」は,本件発明の目的かつ内容である解除が
容易な開き戸の地震時ロック装置を構成するものであり,装置のドア側ではなく吊
り戸棚等の本体側に係止手段や停止具又は解除具と共に設けられ,係止手段ないし
解除具が初期状態に戻る経路に設置され,ゆれの力より大きく設定された押さえ力
を有し,本体側に設けられた係止手段や解除具を支持することのできる機構のもの
と解することができる。そして,そのような構成により,開き戸を閉じる方向に作
用するゆれに抗して係止手段を押さえ,開き戸がわずかに開いた位置で係止手段の
係止部が係止具に係止した状態で開き戸をロックするとともに,地震が終わった後
に使用者が開き戸を強く押すことにより,弾性手段による押さえが解除され初期状
態に戻る作用等を有することになる。
  このように解することにより,同構成を含む本件発明の構成が前記発
明の効果を奏することとなる。
(イ) この点に関し,控訴人は,「弾性手段」に関し,上記のような解釈
は不相当な限定である旨をるる主張するが,いずれも採用できない。
a すなわち,控訴人は,「弾性手段」,「弾性手段の抵抗」が当業者
に自明な慣用手段,慣用技術であり,一義的に定まるかの如き主張をするが,仮
に,当業者に自明な慣用手段,慣用技術の一部が含まれるとしても,前記のとお
り,「弾性手段」,「弾性手段の抵抗」は,本件発明の目的かつ内容である解除が
容易な開き戸の地震時ロック装置を構成するものであり,公知の技術でないのであ
るから,当業者に自明な慣用手段,慣用技術から一義的に定まるということはあり
得ない。
  さらに,控訴人が「弾性手段」を用いた日常品として例示するもの
の中でも,例えばコンセントに差し込まれる電源用プラグやラジカセ等の引伸しア
ンテナなどは弾性を利用したものといえるか疑問といわざるを得ず(これらは摩擦
力を利用したものとも考えられる。),また,家屋の戸口やキャビネット等各種開
き扉と固定部との間に設けられる係止具・オーディオやカセット用等各種プラステ
ィックのケース開閉部を除くものは,開閉扉のロック解除とは関係のない技術分野
に属するものであり,本件発明の技術分野に属するものではない。
b また,控訴人は,実施例の記載において,「弾性手段の抵抗」によ
って係止手段ないし解除具が初期状態に戻るのを抑えられ,開き戸を閉じる際に
は,その「弾性手段の抵抗」を超える力が加えられることによって,地震時のロッ
クが解除されるという機構が,任意の態様で実現可能であることが示されているか
ら,本件発明の構成要件充足性は満たされており,原則として特許請求の範囲に記
載されたことを基準とすべきであって,「弾性手段」という外延の明瞭な用語が本
来意味するところを超えて,実施例に開示された構造にまでその定義を限定解釈す
べきでなく,イ号物件及びロ号物件における舌片(5C)を技術概念上含むと主張
する。
  しかしながら,実施例を含む本件明細書の発明の詳細な説明及び図
面で開示された事項の全部,すなわち,ドア側ではなく吊り戸棚等の本体側に係止
手段や停止具又は解除具と共に設けられ,係止手段ないし解除具が初期状態に戻る
経路に位置し,ゆれの力より大きく設定された押さえ力を有し,開き戸を閉じる方
向に作用するゆれに抗して係止手段を押さえ,開き戸がわずかに開いた位置で係止
手段の係止部が係止具に係止した状態で開き戸をロックするとともに,地震が終わ
った後に使用者が開き戸を強く押すことにより,上記押さえが解除され初期状態に
戻る機能を有することや解除具の一側端を装置全体より突出させる作用を有するこ
と全部を考慮して,「弾性手段」の内容が定められるのであって,同開示事項の内
容と無関係に特許請求の範囲の「弾性手段」という記載だけから,その内容を定め
ることはできない。
c 次に,控訴人は,「弾性手段」ないし「弾性手段の抵抗」という技
術用語は,明細書から一義的な定義が可能なもので,出願経過に照らしてみても,
定義が一貫しており,公知技術を参酌しても,限定解釈すべきでないと主張する
が,本件発明の出願当初の明細書には,特許請求の範囲【請求項1】に,「地震の
ゆれの力で動き可能に支持され開き戸の係止具に係止される係止手段と,閉止状態
から開き戸がわずかに開かれた位置で前記係止手段を停止する装置本体の停止部と
からなる地震時ロック装置」が,【請求項3】に,「請求項1又は2記載の地震時
ロック装置においてわずかに開かれた開き戸を押しその背面の係止手段に動きを伝
えて解除する解除方法」が示されているところ,これにより,「弾性手段」ないし
「弾性手段の抵抗」という技術用語の定義が一貫しているという結論は出てこな
い。そして,本件明細書から「弾性手段」ないし「弾性手段の抵抗」という技術用
語の一義的な定義が可能であるとしても,問題は,その内容であり,本件明細書の
記載を基本とし,出願経過,公知技術等を参酌して,その内容が定まるという手順
が技術的範囲の確定・解釈の正当なものであって,そのような手順による結論は,
「弾性手段」ないし「弾性手段の抵抗」の本来の意味に限定を加えて解釈をしたこ
とにならない。
(2) 本件発明における「弾性手段」の内容が前記(1)オ(ア)のとおりであるの
に対し,控訴人がイ号物件及びロ号物件における弾性手段と主張する舌片(5c)は開
き戸(92)側に設けられているから,イ号物件及びロ号物件は,請求項7の構成要件
(イ)の「弾性手段」に該当しないというべきである。
 したがって,イ号物件及びロ号物件は,本件発明の請求項7の技術的範囲
に属さず,また,これらの請求項を内容とする請求項8,9の技術的範囲にも属さ
ない。
3 争点(4)(均等の成否)について
 特許権侵害訴訟において,明細書の特許請求の範囲に記載された構成中に,
相手方が製造等をする製品又は用いる方法(以下「対象製品等」という。)と異な
る部分が存する場合であっても,① 同部分が特許発明の本質的部分ではなく,②
 同部分を対象製品等におけるものと置き換えても,特許発明の目的を達すること
ができ,同一の作用効果を奏するものであって,③ そのように置き換えること
に,当該発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が,対象製品等の
製造等の時点において容易に想到することができたものであり,④ 対象製品等
が,特許発明の特許出願時における公知技術と同一又は当業者がこれから同出願時
に容易に推考できたものではなく,かつ,⑤ 対象製品等が特許発明の特許出願手
続において特許請求の範囲から意識的に除外されたものに当たるなどの特段の事情
もないときは,同対象製品等は,特許請求の範囲に記載された構成と均等なものと
して,特許発明の技術的範囲に属するものと解するのが相当である(前掲最高裁平
成10年2月24日判決・民集52巻1号113頁参照)。
 本件発明は,従来,解除の容易な開き戸の地震時ロック装置が未だ開発され
ていなかったところ,この従来の課題を解決し解除が容易な開き戸の地震時ロック
装置の提供を目的とするものであり,構成要件(イ)の「弾性手段の抵抗が存在する
解除方法を用いた」の「弾性手段」は,本件発明の目的かつ内容である解除が容易
な開き戸の地震時ロック装置を構成し,装置のドア側ではなく吊り戸棚等の本体側
に係止手段や停止具又は解除具と共に設けられ,係止手段ないし解除具が初期状態
に戻る経路に設置され,ゆれの力より大きく設定された押さえ力を有し,本体側に
設けられた係止手段や解除具を支持することのできる機構のものであり,前記のよ
うな作用を有し,前記発明の効果を導くものであって,公知技術にない本件発明の
特徴をなし,また,出願当初の明細書になく,その後の手続補正により付け加えら
れたものである。 
 そうすると,本件発明は,係止手段(アーム)(4)が本体(91)側に設けら
れて控訴人が「弾性手段」と主張する舌片(5c)が開き戸(92)側に設けられた係止具
に設置されているイ号物件及びロ号物件と,「弾性手段」が係止手段とともに吊り
戸棚等の本体側に設置されているという部分において異なるところ,同部分は,本
件発明の本質的部分であるというべきであるから,上記要件①の関係で均等と認め
られない。
 また,係止手段(アーム)(4)が本体(91)側に設けられて前記舌片(5c)が
開き戸(92)側に設けられた係止具に設置されているイ号物件及びロ号物件と,「弾
性手段」が係止手段とともに吊り戸棚等の本体側に設置されている本件発明とが均
等とすれば,特許法17条の2第3項に反する補正を認めたと同じ結論になり,相
当でなく,上記要件⑤の均等論適用の阻害事由として挙げる「特段の事情」が存す
るというべきであり,上記要件⑤の関係で均等と認められない。
 したがって,いずれにしても,イ号物件及びロ号物件が本件特許請求の範囲
に記載された構成と均等なものとする控訴人の主張は採用することができない。
4 したがって,控訴人の請求は,その余の争点について判断するまでもなく,
理由がない。
第5 結論
 以上の次第で,控訴人の本件請求を棄却した原判決は相当であって,本件控
訴は理由がないこととなる。
 よって,主文のとおり判決する。
(平成13年10月25日口頭弁論終結)
大阪高等裁判所第8民事部
      裁判長裁判官  若林 諒
              
             裁判官  小野洋一
             裁判官  西井和徒

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