弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


戻る

         主    文
     原判決を取消す。
     被控訴人の請求を棄却する。
     訴訟費用は第一、二審共被控訴人の負担とする。
         事    実
 控訴代理人は、主文と同旨の判決を求め、被控訴代理人は、控訴棄却の判決を求
めた。
 当事者双方の事実上の陳述は、左記に附加するところの外、原判決の事実摘示と
同一であるから、ここにこれを引用する。
 控訴代理人は、次のように述べた。
 控訴人会社大阪中央支社は、控訴人会社の営業所たる支店ではなく、従つて、同
支社長Aがなした本件約束手形の振出は、同支社の営業行為に属しないものである
から、これにつき、商法第四十二条を準用するのは失当である。控訴人会社は、保
険契約の締結保険料の徴収並びに保険事故ある場合の保険金の支払をその基本的業
務内容とするものであるが、控訴人会社大阪中央支社は、新規保険契約の募集と第
一回保険料徴収の取次がその権限のすべてであるから、控訴人会社の独立の営業所
たる実体を備えていない。生命保険相互会社は、保険業法により主務官庁たる大蔵
省の厳重な監督に服しているのであつて、支社の職務内容、権限等についても、届
出と認可を要することとなつているのであり、全国いずれの保険会社の支社も、保
険業務につき独立の権限のない機構として、大蔵省に届出をなし、その認可を受け
ているものである(保険業法施行規則第十一条)。従つて、保険会社支社の無権限
性は、単なる内部的な取極めではなく、本来的なものであつて、対外的にも明瞭と
なつているのである。なお、保険会社が用いている支社なる名称は、全保険会社と
監督官庁たる大蔵省と協議の上、その使用を決定したものであつて、独り控訴人会
社のみ、これを擅に用いているものではないから、控訴人会社の支社なる名称の使
用をもつて、誇大宣伝的なものと非難するのは当らない。のみならず、控訴人会社
は、保険会社たる特質上より、一般の商事会社と異つて、約束手形を振出す必要も
その機会もなく、又事実約束手形を振出したことは、未だかつてないのである。こ
のことは、ただ控訴人会社のみに限らず、すべての保険会社について一般なのであ
る。従つて、控訴人会社大阪中央支社においては、勿論、一般商事会社の支店その
他の営業所のように、物品を購入したり代金を支払う等の営業行為乃至これに附随
的な行為もないのであるから、約束手形の振出は、同支社もしくは控訴人会社の営
業に関する行為に属しないものであることが明白である。
 仮に、控訴人会社大阪中央支社長Aがなした本件約束手形の振出につき、商法第
四十二条の準用があるとしても、被控訴人は、右Aが本件手形振出につき無権限な
ることを知りながら、これを取得したものである。同支社長Aは、控訴人会社よ
り、同支社名義をもつてする銀行取引や約束手形の振出を承認されていなかつたに
かかわらず、勝手に訴外株式会社三菱銀行B支店と当座預金勘定の取引契約をな
し、知人である訴外Cより、期日には間違いなく落し、迷惑をかけるようなことは
しないからと依頼されて、同人宛に本件約束手形を振出したもののようであるか、
同人は、Aか本件手形振出につき無権限なることを熟知していたのであり、そし
て、被控訴人は、同人より訴外D(同E)を経て、本件約束手形を取得したもので
あるが、これを取得するに際し、控訴人会社につき、その振出権限を確認する手段
を採ることもなく、又これが不渡となつても、控訴人会社もしくは右大阪中央支社
につき、その不渡となつた事情を調査しようともしなかつたことよりすれば、被控
訴人は、本件手形が控訴人会社に責任のないものであることを、その取得のときに
既に知悉していたものとみる外ないのである。なお、右Aは、控訴人会社大阪中央
支社名義をもつて、三菱銀行B支店との間に当座預金勘定契約を締結していること
上述のとおりであるが、元来、銀行は、支店その他の従たる営業所と取引する場
合、貸付等自己に損失の危険が生ずべき取引については、必ず本店の委任状の添附
を求めて、慎重に契約するけれども、預金契約又は当座預金勘定契約のごとく、自
己に損失の危険が生じない取引については、相手方の権限の有無につき、別段考慮
することなく契約するのが実情であるから、右銀行かAと当座預金勘定契約をした
からといつて、同銀行は、同人が控訴人会社を代理して右契約を締結し、約束手形
等を振出す権限を有するものと信じていたとすることはできない。
 被控訴代理人は、次のように述べた。
 控訴人は、控訴人会社大阪中央支社は支店としての実体を備えていないから、同
支社長Aは商法第四十二条にいわゆる支店の営業の主任者たることを示すべき名称
を付した使用人に当らないと主張するが、ここで問題となるのは、同支社が商法上
支店としての実体を備えているか否かではなく、一般取引の見解において、同支社
が商法上の支店と同一もしくは類似の事務を管掌し、同支社長が支店長、即ち支店
支配人もしくは主任者等と同一もしくは類似の職務権限を有するものと認められる
か否かである。けだし、商法第四十二条の定める表見支配人の制度は、取引の安全
保護のためにする商法の外観主義の発現に外ならないのであつて、その趣旨より考
えると、同条の適用上において、支店その他の営業所が商法上厳密な意味における
営業所に当るか否かは、重要ではなく、一般取引の見解において、問題の取引が通
常その営業所の業務に属し、従つて、その営業所の営業の主任者の権限に属するも
のと認められるか否かが、判断の基礎とされなければならないからである。そし
て、支社なる名称は、もともと珍稀な名称ではなく、保険会社その他において、古
くより常に使用されていることは、顕著な事実であつて、一般の世人は、その語感
よりして、支店と同等、むしろそれ以上の営業内容を有する営業所であると考える
のが普通である。従つて、これかしばしば誇大宣伝用的に悪用されていることも多
いわけである。ところで、控訴人会社は、わが国屈指の大保険会社であつて、厖大
な組織と資産とを擁し、その営業活動は全国の隅々にまで及び、全国各地に支社を
設置していることは、世上周知の事実である。
 控訴人会社大阪中央支社なる名称について考えるのに、一般世人は、それは通常
の支社と異つてその上位に位置し、それより遥かに大なる範囲の事務を管掌してい
るものと考え、わが国の経済活動が、東京と大阪を二大中心として分れていること
に対応して、控訴人会社の東京本社に対し、西日本における営業活動の中枢たる営
業所と考えるか、少くとも、大阪市における中枢の営業所と考えるのが普通であ
る。即ち、一般取引の見解において、控訴人会社大阪中央支社なるものは、控訴人
会社の営業に関して、商法上の支店よりも広範囲の、少くとも、これと同一もしく
は類似の事務を管掌しているものと考えられ、従つて、同支社長なるものは、商法
上の支店長よりも広範囲の、少くとも、これと同一もしくは類似の職務権限を有す
るものと考えられるのである。訴外株式会社三菱銀行のような、経済上法律上の専
門的知識を有し、且自ら調査機関を設けて、堅実と信用を誇る大金融機関において
も、右と同様に、控訴人会社大阪支社長は、商法上の支店長と同等もしくはそれ以
上の職務権限を有し、当然控訴人会社を代理して手形行為等をなす権限があるもの
と信じ同支社長Aとの間に、当座預金勘定契約を締結している位であるから、まし
て、銀行より経済上法律上の知識に暗い一般世人が上述のように考えるのは、当然
のことである。この場合、常に支社その他の営業所が支店としての実体を備えてい
ることを調査した上これと取引しなければ、商法第四十二条の保護を受けえないと
することは、一般取引の実情に甚しく反するものというべきである。なお、控訴人
は、右Aの本件約束手形の振出は控訴人会社もしくはその大阪中央支社の営業に関
する行為ではないから、商法第四十二条の適用がないと主張するが、手形行為は、
物品の購入や代金の支払等とは異なり、その性質上、常に営業に関して行われた行
為と認めるべきものである。そうでなければ、いわゆる廻り手形を受取る者は、常
に振出人につき、振出の原因関係を個々に調査しなければ、同条の保護を受けられ
ない結果となつて、同条の趣旨を没却するのみならず、手形の本質にも反すること
になるからである。
 次に、控訴人は、被控訴人は控訴人会社大阪中央支社長Aが本件約束手形振出に
つき無権限なることを知りながら、これを取得したものであると主張するが、被控
訴人か当時善意であつたことは、証拠上明白であつて、殊に、被控訴人が訴外D
(同E)より、代金支払方法として本件手形の交付を受けた後においても、同人と
の取引を継続していた一事によつても、明らかなところである。被控訴人は、本件
手形が不渡りとなつた後、すぐ控訴人に対し本件手形金の支払を請求しなかつた
が、それは、商人間の取引においては、先ず取引の直接の相手方に請求するのが商
人道徳とされ、商慣習となつていたので、これに従つたまでのことであつて、その
ことをもつて、被控訴人の悪意を推認する資料となしえないことはいうまでもな
い。
 当事者双方の証拠は、次のとおりである。
 被控訴代理人は、甲第一号証及び第二号証の一乃至三を提出し、原審における証
人Fの証言及び被控訴人本人尋問の結果(第一、二回)、並びに当審における被控
訴人本人尋問の結果を援用し、乙号証につき、第一号証、第二号証及び第四号証の
一、二の各成立を認め、第三号証の成立は不知と述べた。
 控訴代理人は、乙第一号証乃至第三号証及び第四号証の一、二を提出し、原審に
おける証人G、同A、同H、及び同Iの各証言及び被控訴人本人尋問の結果(第二
回)、並びに当審における証人A、同E及び同Jの各証言を援用し、甲号証につ
き、第一号証及び第二号証の一乃至三中、各印影の成立を認め、その余の部分の各
成立を否認した。
         理    由
 印影の成立に争がなく成立の真正を推認しうる甲第一号証、原審及び当審におけ
る証人Aの証言並びに被控訴人本人の供述によると、控訴人会社大阪中央支社長A
は、昭和二十八年十一月三十日、同支社長K名義をもつて、訴外C宛に、額面金百
万円、支払期日昭和二十九年二月二十八日、支払地及び振出地ともに大阪市、支払
場所株式会社B支店なる約束手形一通を振出したこと、そして、右Cは訴外Eに、
同人は被控訴人に、それぞれ右手形を白地裏書により順次譲渡し、被控訴人は、昭
和二十九年二月三日訴外株式会社東海銀行に右手形の取立委任をなし、同銀行は、
該手形の白地の被裏書人欄を補充の上、満期の翌日たる同年三月一日支払場所に右
手形を呈示して支払を求めたが、その支払を拒絶されたことを認めることができ
(右認定を動かすべき証拠はない)、そして、被控訴人が現に右手形の所持人であ
ることは、当事者間に争ないところである。
 そこで、右約束手形につき、控訴人会社かその支払の責任を負うべきか否かにつ
いて考えるに、被控訴人は、控訴人会社は右Aに対し、控訴人会社に代つて手形を
振出す権限を附与していたものであると主張するが、そのような事実を認めるべき
何等の証拠もない。ただ、印影の成立に争がなく各成立の真正を認めうる甲第二号
証の一乃至三、並びに原審における証人F及び同Aの各証言によれば、控訴人会社
大阪中央支社は、昭和二十八年十一月二十八日同支社長K名義をもつて、訴外株式
会社三菱銀行B支店との間に、当座預金勘定の取引契約をなし(昭和二十九年一月
七日解約)、その間手形や小切手を振出していたことを認めうるが、右は、同支社
長Aが個人的目的のため、控訴人会社の承認をえることなく、壇に同支社長名義を
冒用してなしたものであることは、右証人Aの証言により明らかであるから、これ
をもつて、控訴人会社が同人に対し手形振出の権限を附与していたことの証左とな
すことはできない。
 次に、被控訴人は、仮に右Aが手形振出の権限を有しなかつたとしても、同人
は、控訴人会社大阪中央支社長であつたのであるから、同支社支配人と同一の権限
を有するものと看做され、本件手形は、同人が同支社長名義をもつて振出したもの
であるから、控訴人会社は、商法第四十二条により、本件手形につきその責を負う
べきものであると主張するので、以下この点につき考えてみる。
 控訴人会社が、訴外Aを昭和二十七年四月から昭和二十九年一月まで控訴人会社
大阪中央支社長に任命していたことは、当事者間に争がなく、そして、支社なる名
称は、その語感からして、支店と甚だ類似しているので、一般世人は、支社を支店
と同一又は類似の業務を取扱うものと考え、従つて、支社長を支店長(即ち支店支
配人)と同一又は類似の職務権限を有するものと考えるであろうことは、容易に推
測しうるところで<要旨>ある。しかしながら、保険業法第四十二条の準用する商法
第四十二条は、本店又は支店の支配人が法律上当然に営業主の代理人たる地
位を有することに対応して、営業主が使用人に本店又は支店の営業の主任者たるこ
とを示すべき名称を附した場合には、その者が一見支配人と同様に、営業所におけ
る一切の取引につき代理権限を有するものと考えられ易いから、たとえその者が現
実に右のごとき権限を有しなくても、これを支配人と同一の権限を有するものと看
做し、もつて、取引の相手方を保護し、取引の動的安全を図ろうとした趣旨の規定
であることはいうまでもないが、同条は、その立言の形式及び法意から考えて明か
なように、本店又は支店等独立の営業所の使用人に、営業の主任者たることを示す
べき名称を附した場合に適用されるのであつて、独立の営業所と見ることのできな
い事業所(その名称は如何ともあれ)の使用人に、右のごとき名称を附した場合に
まで、その適用があるとは解し得ない。けだし、商法がいかに外観主義の法理に立
脚するものとはいいながら、右に述べたところ以上に同条の適用範囲を拡張し、一
般に独立の営業所の看做しえない事業所の使用人についてまで、右のような効果を
認め、これと取引関係に立つた相手方を保護すべき理由も必要もないからである。
ところで、原審証人G、同H、同I並びに前掲証人Aの各証言によると、控訴人会
社は、保険契約の締結、保険料の徴収並びに保険事故ある場合の保険金の支払をそ
の基本的業務内容とするものであるが、控訴人会社大阪中央支社は、新規保険契約
の募集と第一回保険料徴収の取次がその権限のすべてであつて、控訴人会社の基本
的営業行為たる保険業務を独立してなす権限を有しないものであることを認めるこ
とができ、右認定を左右にすべき証拠はない。そうとすれば、同支社(その名称が
支店と類似し、世人の誤解を招くおそれのあることは否定できないが)は、控訴人
会社の本店と離れて、一定の範囲において対外的に独自の営業活動をなすべき組織
を有する営業所たる実体を備えないものであることが明白であるから、商法第四十
二条にいう支店には該当しないし、又同支社長Aも、同条にいわゆる支店の営業の
主任者には該当しないと解しなければならない。従つて、同人のなした本件約束手
形の振出については、商法第四十二条の準用がないものとしなければならないか
ら、被控訴人の同条の準用を前提とする前記主張は、その理由がなく、とうてい採
用するに由ない。
 右のようなわけで、被控訴人に対し、本件約束手形の振出人として、右手形金百
万円の支払を求める被控訴人の本訴請求は、その余の点を判断するまでもなく失当
であるから、これを棄却すべきである。
 よつて、右と見解を異にし、被控訴人の請求を認容した原判決は相当でないか
ら、これを取消すべきものとし、訴訟費用の負担につき、民事訴訟法第九十六条、
第八十九条を適用して、主文のように判決する。
 (裁判長裁判官 浜田従六 裁判官 山口正夫 裁判官 吉田誠吾)

戻る



採用情報


弁護士 求人 採用
弁護士募集(経験者 司法修習生)
激動の時代に
今後の弁護士業界はどうなっていくのでしょうか。 もはや、東京では弁護士が過剰であり、すでに仕事がない弁護士が多数います。
ベテランで優秀な弁護士も、営業が苦手な先生は食べていけない、そういう時代が既に到来しています。
「コツコツ真面目に仕事をすれば、お客が来る。」といった考え方は残念ながら通用しません。
仕事がない弁護士は無力です。
弁護士は仕事がなければ経験もできず、能力も発揮できないからです。
ではどうしたらよいのでしょうか。
答えは、弁護士業もサービス業であるという原点に立ち返ることです。
我々は、クライアントの信頼に応えることが最重要と考え、そのために努力していきたいと思います。 弁護士数の増加、市民のニーズの多様化に応えるべく、従来の法律事務所と違ったアプローチを模索しております。
今まで培ったノウハウを共有し、さらなる発展をともに目指したいと思います。
興味がおありの弁護士の方、司法修習生の方、お気軽にご連絡下さい。 事務所を見学頂き、ゆっくりお話ししましょう。

応募資格
司法修習生
すでに経験を有する弁護士
なお、地方での勤務を希望する先生も歓迎します。
また、勤務弁護士ではなく、経費共同も可能です。

学歴、年齢、性別、成績等で評価はしません。
従いまして、司法試験での成績、司法研修所での成績等の書類は不要です。

詳細は、面談の上、決定させてください。

独立支援
独立を考えている弁護士を支援します。
条件は以下のとおりです。
お気軽にお問い合わせ下さい。
◎1年目の経費無料(場所代、コピー代、ファックス代等)
◎秘書等の支援可能
◎事務所の名称は自由に選択可能
◎業務に関する質問等可能
◎事務所事件の共同受任可

応募方法
メールまたはお電話でご連絡ください。
残り応募人数(2019年5月1日現在)
採用は2名
独立支援は3名

連絡先
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所 採用担当宛
email:[email protected]

71期修習生 72期修習生 求人
修習生の事務所訪問歓迎しております。

ITJではアルバイトを募集しております。
職種 事務職
時給 当社規定による
勤務地 〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
その他 明るく楽しい職場です。
シフトは週40時間以上
ロースクール生歓迎
経験不問です。

応募方法
写真付きの履歴書を以下の住所までお送り下さい。
履歴書の返送はいたしませんのであしからずご了承下さい。
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所
[email protected]
採用担当宛