弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     原告等の請求を棄却する。
     訴訟費用は原告等の負担とする。
         事    実
 原告等訴訟代理人は、『昭和二十六年四月二十三日執行された山形県東村山郡a
村の議会議員及び長の選挙に関する訴願についてなした被告委員会の裁決を取消
す。右議員及び長の各選挙を無効とする。訴訟費用は被告の負担とする』との判決
を求め、その請求原因として、原告等は右選挙においていづれも選挙人であつたと
ころ同選挙の投票は、同村字bに第一、字c町に第二、字dに第三、字eに第四、
字fに第五、字gに第六、字hに第七、字iに第八の各投票所を設けて行はれたが
開票は一ケ所で行はれた。
 そして同日午前十一時頃第七投票所においては投票事務従事者であつたAが、投
票用紙残数に誤差があるから投票函の中の投票紙を数えて見る必要があると言ひだ
し、不法にも該投票函を開函し附近にあつた林檎の空箱に既に投票函に投入されて
いた右議員及び長の各二百五十五の票紙な移して、これを投票所以外の場所である
同所二階に持つて行き、もてあそんだ上同日午後三時過ぎまで放置し夕刻これを投
票函に戻して何事もなかつたごとく、これを開票所に運搬し他投票所の分に混入し
て開票したのである。
 右開函に際してAが投票の入替等不正行為を為したことは左記事実に徴して明白
である。
 1、 Aは村長候補者Bがa村長在任中同役場吏員として同人の下に勤務し、同
候補者の当選を希つていたことは周知の事実である。
 2、 Aは投票用紙の数に誤差があつたことを理由として開函したのであるか
ら、投票用紙が余つても他人にかくす必要がない筈であるのに、本件選挙の直後何
枚かの投票用紙を他人に秘して焼却している。
 なほ、第七投票所では十数名の代理投票が行はれたが、その際Aは、投票管理者
が正式に命じた以外に、選挙人の氏名、補助者の氏名等を投票録に記載することも
なく勝手に代理投票を行つたのであるからその間不正行為が介在していることは明
かである。
 元来本件選挙において、村長候補者は前村長B及びCの二名で、村議会議員(定
員十六名)の候補者は二十二名であつたのであるが、投票の総数はいづれも二千六
百七票で、そのうち無効投票は、村長選挙の分が三十五票、議員選挙の分が二十七
票で各候補者の得票総数は村長選挙においてBが千二百九十一票、Cが千二百八十
一票で十票の差でBが当選確定し、議員選挙において、十六位のDが百六票で当選
確定し、Eが九十六票で次点となり、いづれも僅少の差であつた。しかるに第七投
票所の投票総数は、村長及び議員とも各五百六票であつたので、前記各不正事実
は、いづれも本選挙の結果に異動を及ぼす虞れあるものであるから、原告等は本件
選挙につき昭和二十六年五月六日a村選挙委員会に選挙の効力に関する異議の申立
を為したが同月十五日却下されたので、同年六月三日被告委員会に訴願したところ
棄却され、その裁決書が同年八月八日原告等に交付されたが不服であるから右訴願
裁決の取消並に前記選挙の無効宣言を求めるため本訴請求に及んだ次第であると述
べ、
 立証として甲第一乃至七号証、同第八号証の一乃至八、同第九号証、同第十号証
の一乃至八、同第十一号証を各提出し、証人F1、F2、F3、F4、F5、F
6、F7、F8、F9、F10F11、F12、F13、F14、F15、F1
6、F17、F18、F18、F20、F21F22、Aの各証言及び検証の結果
を援用し、乙第一、三号証の各成立を認め、同第二号証の一乃至十、乙第四、五号
証の各成立は不知、乙第六号証の一、二中「416交付」「19交付」と記載しあ
る部分の成立は否認する、その他の部分の成立は認める、と述べた。
 被告代表者は、原告等の請求を棄却するとの判決を求め、答弁として、原告等訴
訟代理人の主張事実中、昭和二十六年四月二十三日山形県東村山郡a村で村議会議
員及び長の選挙が執行されたこと右選挙において、原告等がいづれも選挙人であつ
たこと、同選挙の投票が原告主張のように八箇所で行はれたが、その開票は一箇所
で行はれたこと、同日午前十一時頃Aが投票函を開函し、在中の議員及び長の投票
各二百五十五票を林檎空箱に移し、これを投票所でない同所二階に持ち運び、暫く
して(同日午後三時頃であること後段認定のとおり)これをもとの投票函に戻した
こと(但し戻した時刻は同日午後三時頃である。)Aが当時a村役場吏員であつた
こと、同選挙における議員の定数及び候補者数並に長の候補者がB、Cの二人であ
つて、その投票総数、無効投票数、第七投票所の投票数、各当選者及び次点者の投
票数がいづれも原告主張のとおりであること、Aが本件選挙後投票用紙一枚を焼却
したこと、異議訴願に関する経過が原告主張のとおりであることは、いづれも認め
るが、Aが村長選挙の立候補者Bの当選を希つていたことは不知、その他の事実は
争う。
 Aが投票函を開函するに至つたのは、投票用紙交付係から、投票用紙の使用残枚
数が議員の分と長の分と一致しないこと、即ち議員の投票用紙が村長の投票用紙よ
り一枚多く残つていることが連絡されたので、選挙法規に通じない同人が、この侭
投票函を選挙長に送致すれば、投票数が符合しないため選挙会において、第七投票
所事務担当者等の事務粗漏なことを問責されるであろうことをおそれ、投票数を確
め投票用紙の使用残枚数の正確を期するためであつて、何等不正行為を行う意図が
あつたわけではない。しかも投票を移した林檎箱を階上に持ち運んだ際には投票立
会人F12とともに計算し飛散しないように措置したもので、これを投票函に復納
したのは、同日午後三時頃であつた。またAが投票用紙一枚を焼却したのは、投票
点検の結果、議員の投票用紙が村長の投票用紙より一枚余分に受領したことに気付
いたためで、焼却した投票用紙は、議員の投票用紙である。
 以上のように本選挙において投票函が不法に開函された事実はあるが、それによ
つて投票そのものには不正が行はれず、選挙の公正は維持され、選挙の結果に異動
を及ぼすおそれはなかつたのであると述べ、
 立証として、乙第一号証、同第二号証の一乃至十、同第三乃至五号証、同第六号
証の一、二を各提出し、証人F20、F22、F21、A、F23、F24、F2
5、F26、F27、F28、F29、F30F31、F32、F33、F34、
F35、F36、F2、F12、F3、F4、F5、F6、F7、F13、F1、
材形のゑ、F19の各証言及び証人F11の証言の一部並に検証の結果を各援用
し、甲第六、七号証、同第八号証の一乃至八、同第九号証、同第十号証の一乃至八
の各成立を認め、その余の甲号各証の成立は不知と述べ、同第八号証の一乃至八を
利益に援用した。
         理    由
 昭和二十六年四月二十三日山形県東村山郡a村で村議会議員及び長の選挙が行は
れ、原告等はいづれもその選挙人であつたこと、同選挙の投票が、同村字bに第
一、字c町に第二、字dに第三、字eに第四、字fに第五、字gに第六、字hに第
七、字iに第八、の各投票所を設けて行われたがその開票は一箇所で行われたこ
と、同日午前十一時頃第七投票所で同村役場吏員で投票事務に従事したAが投票函
を開函し、そのときまでに投入された議員及び長の投票各二百五十五票を附近にあ
つた林檎の空箱に移してこれを投票所でない同所二階に持ち運び、暫くしてから同
投票をもとの投票函に戻して投票終了後、これを開票所に運搬し他投票所の分全部
に混入して開票したこと、本件選挙における議員及び村長の投票数が第七投票所の
分は各五百六票であつたが、総投票数は、各二千六百七票で、そのうち無効投票は
議員の分が二十七票で、長の分が三十五票であつたこと、議員の定数が十六名で立
候補者は二十二名、村長の立候補者はB、Cの二名であつたこと、選挙の結果議員
の最下位当選者Dの得票が百六票、次点者Eの得票が九十六票で、村長当選者Bの
得票が千二百九十一票、次点者Cの得票が千二百八十一票であつたこと、原告等昭
和二十六年五月六日a村選挙管理委員会に右選挙の効力に関する異議を申立てた
が、同月十五日却下せられたので、同年六月三日被告委員会に訴願したがこれまた
棄却せられ、その裁決書が同年八月八日原告等に交付されたこと、以上の事実関係
は、いずれも当事者間に争いがない。
 よつて先ずAが右投票函を開けた点に関して考察する。
 <要旨第一>前記の如く投票実施中に投票所の係員が投票函を開けてその中の投票
を取り出して一時的にもせよ投票所外に置いたことが、選挙の規定に違
反することはいうまでもないことである。しかし右のような選挙法規違反の行為が
あつたからといつて、そのこと自体直ちに選挙の結果に異動を及ぼす虞があるもの
とすることは行過ぎであつて右の虞があるかどうかはその前後の具体的事情の如何
によつて判定すべきものと解すべきものである。けだし右のような違反行為があつ
たからといつて、当然に投票の改さん、入替等の不正行為により投票に変動をきた
す虞があるものとは限らないからである。そこで当時の具体的事情について審究す
るに、成立に争いのない乙第三号証、甲第八号証の七、証人F1、F3、F2、
A、F34、佐藤政次郎、F11、F20、F22、F21の各証言及び証人F1
2の供述の一部並に検証の結果を綜合すると、次の事実が認められる。即ち、
 一、 第七投票所はa村大字j所在の同村小学校旧j分教所に設けられたもの
で、投票所に当てられた場所は木造二階建旧校舎の一室(広さ約十八坪の元教室)
で、本件選挙当時には既に新分教場に移転後で、右旧分教場は空家になつており、
二階に通ずる階段は右投票所にあてられた室に接する廊下の一隅に存するだけであ
ること、
 二、 第七投票所の関係係員は、投票管理者F2、投票立会人F11、佐藤政次
郎、F12の三名、庶務係A、受付係G、名簿対照係F34、投票用紙交付係(村
長の分)F13、同上(議員の分)Hであつたこと、
 三、 同投票所に割当てられた投票用紙の数は議員の分も長の分も五百四枚づつ
で、この用紙は庶務係のAが投票の前日同村選挙管理委員会の係書記から受取り、
投票日の朝投票所に持参し、これを投票用紙交付係に手渡したこと、
 四、 かくて同投票所では所定の時刻に投票所を開いて投票を始めたが、議員投
票用紙交付係のHと村長投票用紙交付係のF13とが同日午前十一時頃投票用紙の
枚数を打合せたところ議員投票用紙の枚数が村長投票用紙より一枚多いことが判明
したので、これを庶務係のAに連絡し、同人から投票管理者、投票立会人等に諮つ
たが何人もその処置に窮し発言するものがなかつたので、選挙事務に全然経験をも
たなかつた同人は、このままに放置しておいては選挙会におい第七投票所の投票全
部な無効とされ関係係員の責任を追求されるであろうことをおそれ、投票函の投票
数を確めるべく同所階段下にあつた林檎の空箱を持ち出し、投票管理者や投票立会
人等の面前で投票函を開いて在中の投票を右空箱に移してこれを二階に持ち運び、
続いて来た投票立会人F12と二人で赤(赤字で印刷した議員の投票)と黒(黒字
で印刷した村長の投票)とに分類して計算していたが、間もなくAは、投票管理者
F2から呼ばれたので階下に降り、F12独りで計算し、赤黒ともに二百五十五票
宛あることを確め、これを再び右林檎箱に入れてその飛散を防ぐため「タバラシ」
(米俵の上下に蓋をする丸い藁製品)を乗せて自席に戻りAは、同日午後三時頃再
び二階に上り林檎箱内の投票を数へ各二百五十五票あることを確めた上、これを階
下に運び管理者及び立会人等の面前でもとの投票函に戻したこと、
 五、 Aが右のように投票函を開けて投票を取り出したのは、本来同数であるべ
き議員の投票用紙の残りと長の投票用紙の残りが合致しないため、狼狽のあまり、
一図に投票された票数を確めたいといふ気持に出たものであつて、その以外に何等
他意があつたわけではなく、投票を林檎の空箱に入れたまま二階に置いた時間は相
当長かつたけれども、その間A又はF12の二階にいたのは、議員及び長の各投票
二百五十五票を分類し、これを数えるだけの僅少の時間で、そのほかの大部分の時
間は右両名とも投票所で各自の職場についており(前記投票函を開けて投票を取出
してからも、投票は滞りなく続けられていた)、且右両名とも林檎箱にあけた投票
を折疊みのまま赤、黒に分けその数を計算しただけであつて、投票の内容までも見
たわけではなく、もとより投票の入替、改さん等の不正行為をしようなどとは毛頭
考えもしなかつたこと、
 六、 二階に置かれた林檎箱は、階下の投票所からは見えないけれども、二階に
昇る唯一の階段の上り口までは、投票立会人席から五尺乃至一間半位の距離で投票
所から容易に見えるのに前記二人以外の者が昇つた形跡はなく、また二階には当時
他に誰も居らなかつたこと、
 七、 Aは前記投票函を開けた時までの投票数が、議員及び長の分とも同数の二
百五十五票であることを確めた結果、投票用紙の残枚数に一枚の喰違いがあるの
は、第七投票所に配布された投票用紙が長の分は指示のとおり五百四枚であつたけ
れども、議員の分は誤つてそれよりも一枚多く配布されていたことを知つたので、
林檎箱の投票を投票函に戻してから、議員の投票用紙係から議員の投票用紙一枚を
受取り、これを自分の筆箱に入れ、投票終了後自宅に持帰り焼却したこと、
 八、 第七投票所関係の本件選挙当時の有権者数は五百十三名で、そのうち投票
した者が五百六名であつて、どの五百六名中には不在者投票をした者十五名を含む
ので投票日に右投票所で投票した者は四百九十一名であり各五百四枚の投票用紙中
使用した四百九十一名を除いた残りの十三枚を投票終了と同時に同投票所管現者か
ら選挙長に返戻されたのであるが、Aは右投票所に配布された投票用紙以外に余分
の投票用紙を持つていたような事実は全く存しないこと、
 以上の事実が認められ、なほ成立に争ひのない甲第六、七号証、同第八及び第十
号証の各一乃至八、交付日時の記載部分を除き、成立に争ひのない乙第六、号証の
一、二、証人F19、F4、F20、F6の各証言を綜合すると、
 九、 a村においては、本選挙のために議員及び長の各選挙投票用紙二千七百枚
づつの印刷を注文したのであつたが、実際に納入された投票用紙は議員選挙の分が
二、三枚多かつたこと、
 十、 本選挙終了後の同年五月一日頃右投票函開函について警察官が刑事被疑事
件として投票全部を調査した際に、帳簿上(選挙会の公表したもの)は、村長選挙
の有効投票は二千五百七十二票、無効投票は三十五票合計二千六百七票で、有効投
票中Bの得票千二百九十一票、Cの得票千二百八十一票、村議会議員の選挙の有効
投要は二千五百八十票で、無効投票は二十七票合計二千六百七票となつていたが、
票数を数えてみた結果、村長選挙の有効投票とされた分は一票多く二千五百七十三
票、無効投票とされた分は三十五票で、有効投票中Bの得票とされた票数には変り
はなかつたが、Cの得票とされた分は一票多く千二百八十二票あり、村議会議員の
有効投票とされた分は一票少く二千五百七十九票、無効投票とされた分は二十七票
であり、右の外に使用しなかつた投票用紙が議員の分は九十二枚、長の分は九十枚
あり、他に書損じの分が双方とも一枚づつ、不在投票をするため投票用紙の交付を
請求し、その交付を受けた者のうち投票しなかつた者が各二名あるので、これにA
の焼却した議員の投票用紙一枚を加えて計算すると、投票用紙の枚数には投票の前
後により変りがないこと、
 十一、 また村長候補者Bの得票とされたものの中に「a村」印のないものが一
票あり、無効とされた投票中に白紙で折目のないもの一票(議員か長か不明)、村
長の無効投票中に知事選挙の投票用紙を使用したもの一票あつたが、投票の入替、
改さん又は鉛筆書のものを消した等不正行為が行われた形跡は全然見られなかつた
こと
 が認められる。成立に争いのない甲第九号証の記載内容及び証人F12の証言中
以上の認定に反する部分は採用しがたく、その他の証拠によつては右認定を動かす
に足りない。
 以上の認定に徴すると、前示Aの行為は軽卒極まるものでその非常識は大いに責
めらるべきであり、また同人の行為を黙過した投票管理者、立会人等の怠慢も批難
に値するけれども、投票函を開けてから投票を函に戻すまでの間に投票の結果を左
右すべき不正行為が介在したものとは認められないから、右の違法は選挙の結果に
異動を及ぼす虞あるものとはいえない。無効投票中に折目のない白紙投票一票があ
つたことは前認定の通りであるが投票の結果を左右するような不正行為を企てる者
が折目のない投票用紙を白紙のまま投票中に差込むといふようなことは常識を以つ
て考え難いことであるのみならず、本件の場合は前示のように村長候補者Cの得票
が千二百八十二票であるのに選挙会においてこれを千二百八十一票と計算違いをし
た結果、投票総数が投票者総数よりも一票少い計算となつたため、無効投票中に未
使用の白紙投票用紙一票を加えて辻褄を合せたものと推測する方が合理的である。
また議員の分の有効投票として実在するものが選挙会の公表した票数よりも一票少
いことについては、その原因がどこにあるかこれを確認する資料はないが、前段認
定の事情からみて、それが第七投票所における投票取出中における不正行為による
ものとは到底認められない。なほ村長選挙の投票中に知事選挙の投票用紙を用いた
ものが一票存することも、本件選挙の数日後に山形県知事及び同県議会議員の選挙
が行われた公知の事実と対照して考えると、本件の選挙及び知事選挙について不在
投票をしようとして投票用紙の交付を請求した者が本件村長の選挙について誤つて
知事選挙の投票用紙を使つたものと推測するのが妥当である。また村長候補者Bの
有効得票中に「a村」印のない一票が混入していたことも投票用紙に押印もれのあ
ることは必ずしも稀な事例でないところからみて、前示第七投票所における出来事
に関係あるものとは認められない。
 されば以上いずれもAの不正行為を推定する資料とはならない。Aがa村役場の
吏員であつたことは前記のとおりであるが、同人が村長選挙につきB候補の当選を
希望していたとの原告主張の事実は、これを確認するに足りる資料がないのみなら
ず仮にそうであつたとしても、同人に別段不正行為の認められないことは上来説明
のとおりである。また佐藤が第七投票所に余分に配布された議員選挙の投票用紙一
枚を焼すてたことは、前認定のとおりであるが、これは同人が不正行為をしてこれ
を隠蔽するためではなく、全く事なかれ主義の浅慮に出でたものに過ぎないこと
は、前記認定に係る各般の事情からしてこれを推知するに難くない。
 次に原告等訴訟代理人は、第七投票所においては代理投票についても不正が行わ
れたと主張するので按ずるに、成立に争ひのない乙第三号証の記載、証人A、F1
3、F12、F11、F34、F33、G、F23、F24、F25、F26、F
28、F29、F30、F27、F31、F32、F36、F35の各証言を綜合
するに、本選挙当日第七投票所においては、投票管理者F2が投票立会人の意見を
聞いて代理投票の補助者をAとF13の二人と定め、代理投票の申請の都度、Aが
投票を記載する場所において投票用紙に右申請人が指示する候補者の氏名を記載
し、F13がこれに立会うこととし、代理投票者十数名のうち大部分は右の方法に
より適法に代理投票が実行せられたこと、Aは、代理投票録に申請者十二名の氏名
を記載したが余白がなくなつたので、その後の申請者数名については、代理投票録
に申請人の氏名を記入しなかつたことが認められる。尤も証人F15、F16、F
17、F14、F9、I、Jの各証言によるとF13は投票用紙交付係を担当して
いたため、選挙人の混雑した時などに、F13の立会が必ずしも厳密には行われな
かつた場合も若干あつたことを推測し得ないことはないが、しかしAが代理投票を
申出でた者の意思に反するような不正の記載をした事実はこれを認めるに足りる証
拠がないのみならず、若干の代理投票が適法な方式によつて行われなかつたにして
も、それは当該個々の投票の効力に影響を及ぼすに止まり、選挙の全部又は一部の
無効<要旨第二>を招来するものでないと解すべきである。従つて右の点は当選の効
力を争う訴訟においてこれを主張するなら格別選挙の効力を争う理由と
しては採用し得ない。なお代理投票録に記載漏があつても、このために選挙の効力
に影響を及ぼすものではない。
 以上説示のとおりであるから、被告委員会のした前記裁決は結局正当であつて、
これが取消及び本件各選挙の無効宣言を求める原告等の本訴請求は、失当としてこ
れを棄却すべきである。
 よつて訴訟費用の負担について民事訴訟法第九十五條、第八十九條、第九十三條
を各適用して主文のとおり判決する。
 (裁判長判事 谷本仙一郎 判事 猪瀬一郎 判事 石井義彦)

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