弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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主文
1原告らの請求をいずれも棄却する。
(。),。2訴訟費用補助参加によって生じた費用を含むは原告らの負担とする
事実及び理由
第1請求
1被告は,株式会社A,B及びCそれぞれに対し,3000万円及びこれに対
する平成17年9月28日から支払済みまで年5分の割合による金員を請求せ
よ。
2被告は,Dに対し,3000万円及びこれに対する平成17年9月28日か
ら支払済みまで年5分の割合による金員の賠償命令をせよ。
第2事案の概要
1事案の要旨
本件は,E町に合併前のF村が,補助参加人株式会社A(参加人)に対し,
3000万円の産業振興事業補助金(本件補助金)を交付したことについて,
,,E町の住民である原告らが同補助金の支出は公益性のない違法なものであり
これによりF村と合併後のE町は,上記同額の損害を被ったなどと主張して,
当時の村長,助役及び収入役に本件補助金支出相当額の損害賠償請求ないし賠
償命令をすること,ならびに参加人に本件補助金支出額相当額の不当利得返還
請求をすることを,被告に対して求め,参加人が被告に補助参加した住民訴訟
である。
2争いのない事実等(証拠により容易に認定できる事実については,括弧内に
証拠を示す)。
(1)当事者等
ア原告らは,埼玉県秩父郡E町の住民である。
イ被告は,E町の町長である。
ウ参加人は,F村議会議員らが発起人となって設立した株式会社である。
エBは,本件補助金交付当時,F村の村長の職にあった者である。
オCは,本件補助金交付当時,F村の助役の職にあった者である。
カDは,本件補助金交付当時,F村の収入役の職にあった者である。
キG株式会社(G)は,平成5年10月1日,こんにゃく芋の仕入,加工
及び販売等を目的として設立された会社であり,発行株式数260株のう
,()(,,,ち200株をH農業協同組合H農協が有していた甲4910
丙15。)
(2)参加人の設立等
平成17年9月12日,F村議会議員6名(I,J,K,L,M,N。以
下「I議員ら6名」という)を含む9名が発起人となって,参加人を設立。
した。
設立に際して発行された株式の総数200株のうち,155株は,I議員
ら6名によって引き受けられた(甲7,8。)
設立時取締役には,7名の取締役が選任されたが,そのうち5名は発起人
となっているI議員ら6名のうちの5名(I,J,L,M,N。以下「I議
員ら5名」という)であった。また,設立時監査役には,O及び上記議員。
であるK(K議員)の2名が就任した(甲2,乙2)。
(3)補助金交付決議
平成17年9月13日及び同14日,F村議会が開催されて平成17年度
F村一般会計補正予算の審議がなされ,参加人に対して3000万円の補助
金を交付するための予算として,農業振興費にかかる補助金3000万円を
計上した補正予算が議決された(本件予算決議,甲45。)
上記決議には,参加人の発起人であり,設立時取締役に就任したI議員ら
5名が,決議に参加し,賛成票を投じた。
(4)本件補助金の交付申請
同年9月16日,参加人は,B村長に対し,平成17年度産業振興事業補
助金交付申請書を提出して,本件補助金の交付の申請を行った(甲13。)
(5)本件補助金の交付
上記申請に対し,B村長は,平成17年9月21日,平成17年度産業振
興事業補助金として,参加人に3000万円を交付することを決定し(甲1
5,同月27日,F村は,本件補助金を参加人に交付した。同補助金交付)
を執行したのは,C及びDであった。
(6)市町村合併
平成17年10月1日,F村は,E町に合併された。
(7)本件補助金の使用
平成18年1月31日,参加人は,Gの株式をH農協から買い受ける代金
6466万2485円の一部として,本件補助金を全額使用した。
(8)監査請求
原告らは,平成18年2月24日,本件補助金支出につき,E町監査委員
に対し,監査請求を行った。同年4月24日,E町監査委員は,原告らに対
し,原告らの上記監査請求を棄却する旨の通知を行った。
(9)本件訴え提起
平成18年5月20日,原告らは,本件訴えを提起した。
3争点
(1)本件補助金支出の違法性
ア地方自治法117条違反(争点(1))
イF村産業振興事業補助金交付要綱違反(争点(2))
ウ交付決定手続の瑕疵(争点(3))
エ本件補助金交付の公益上の必要性(争点(4))
(2)支出関与者の責任の有無
アB村長の責任の有無(争点(5))
イCの責任の有無(争点(6))
ウDの責任の有無(争点(7))
(3)参加人の責任の有無(争点(8))
4争点に対する当事者の主張
(1)争点(1)(地方自治法117条違反)について
(原告らの主張)
地方自治法117条は,普通地方公共団体の議会の議員は,自己の従事す
る業務に直接の利害関係のある事件については,その議事に参与できない旨
定めている。
本件予算決議には,参加人の発起人であり,設立時取締役に就任したI議
員ら5名が参与し,賛成票を投じているところ,I議員ら5名にとって,参
加人に本件補助金を交付する件は,自己の従事する業務に直接利害関係のあ
る事件に該当することは明らかであるから,本件予算決議は同法117条に
反する違法な決議である。
,,したがって違法な本件予算決議に基づいてなされた本件補助金の支出も
予算として適法に決議されないままになされた,違法な支出である。
被告は,本件予算決議は,他の予算案も含めた補正予算案全体に関する一
,,括採決であり部分的に関係議員を除斥することは事実上不可能であるから
同関係議員を除斥する必要はないと主張するが,予算案の一括採決という形
式をとれば,どのような補助金交付も議決しうるとすると,本条の趣旨が没
却されてしまう。予算案の一括採決という形式をとったとしても,本件のよ
うに,その予算案の中に,議員の従事する企業への補助金交付に関する議事
が含まれる場合は,当該議員を除斥すべきであり,これをしないで行った決
議は同法117条違反になると解すべきである。
(被告の主張)
予算は,一体として不可分のものであって,分割して議決されるものでは
なく,かつ議会の本来の権限であり,取扱い上も,部分的に関係議員を除斥
して審議することは事実上不可能であるから,予算について除斥の問題はな
いものとされている。
したがって,本件予算決議は地方自治法117条に反することはなく,本
件補助金の支出も違法とならない。
(2)争点(2)(F村産業振興事業補助金交付要綱違反)について
(原告らの主張)
本件補助金は,F村産業振興事業補助金として交付されたものであるとこ
ろ,その具体的な運用方法について規定したF村産業振興事業補助金交付要
綱(本件要綱)は,補助対象事業及び産業団体の範囲を,同要綱別表に列挙
された団体に限定している。そして,同別表には,私企業は補助金交付の対
象として挙げられていない。これは,補助金の交付の対象を,公益上の必要
性が認められる事業や団体に限定し,その対象から私企業などを排除する趣
旨によるものである。
したがって,私企業である参加人に対してなされた本件補助金の交付は本
件要綱に違反する違法なものである。
(被告の主張)
要綱は,自治体が行政の指針として制定する内部規則であって,それ自体
法規としての性質を持つものではないから,本件要綱に違反していたとして
も,これにより本件補助金の交付が違法になるわけではない。
なお,本件要綱の別表は,補助金対象団体を限定列挙したものではなく,
産業振興という本件要綱の趣旨に合致する場合であれば,列挙されていない
団体等への補助金交付も認める趣旨で,例示列挙したものである。
(3)争点(3)(交付決定手続の瑕疵の有無)について
(原告らの主張)
,,,,本件要綱4条は補助金の申請者は申請書を提出する際に事業計画書
収支予算書,各産業団体等の定款,規約,会則等及び構成員名簿,並びに各
産業団体等で設立後,総会等を開催しているものにあっては,前事業年度に
おける事業報告書及び決算書を添付することと定めている。
しかし,本件補助金交付申請において添付された資料は,参加人の定款の
みであり,この点にも本件要綱に反する違法がある。
その上,申請書に記載すべき事業の目的や内容については「別紙定款の,
とおり」と記載されただけで,全く具体性のないものであった。
このような申請書により本件補助金交付が決定されていることからする
と,B村長が,本件補助金の交付申請の適否に関し,補助事業の内容を実質
的に審査,調査することなくその交付を決定したことは明らかである。
したがって,本件補助金交付は,その手続に瑕疵があり,違法である。
(被告の主張)
本件補助金交付申請において,本件要綱に規定されている事業計画書や収
支予算書の添付はなかったが,上記のとおり,そもそも,要綱は内部規則で
あるから,本件要綱に違反していたとしても,本件補助金交付が違法になる
わけではない。
(4)争点(4)(本件補助金交付に公益上の必要性があったか)について
(原告らの主張)
補助金の交付は,地方自治法232条の2により公益上の必要がある場合
。,に限ってなしうるものであるこの公益上の必要性に関する判断については
地方公共団体の長に一定の裁量権があるが,その裁量権の範囲には限界があ
り,公益上の必要性の判断に裁量の逸脱又は濫用があったと認められる場合
には,補助金の交付は違法となる。
また,本件で補助金の交付先となった参加人は株式会社であるところ,営
利企業に対する補助金交付は,特別の理由がない限り認められないと解すべ
。,,きであるなぜなら株式会社は株主のために営利活動をする法人であって
公益活動をするには限界があり,また,株式会社への補助金は,会社の資産
を高めることにより,株主の資産価値を増加させ,株主に利益を取得させる
ことになるからである。
そこで,本件の場合には,上記のとおり,原則として公益性を認め得ない
ことを踏まえて,本件補助金交付の公益上の必要性に関する判断に,裁量の
逸脱又は濫用があったか否かをみると,本件補助金の交付についてのB村長
の判断には,以下の事情から明らかなように,裁量を逸脱又は濫用した違法
がある。
ア本件補助金交付の目的
以下の事情によれば,本件補助金の支出は,一部のF村議会議員が,そ
の私益を図るために行ったものといわざるを得ない。
(ア)F村議会議員らによって設立された参加人に,同議員らの決議によ
って本件補助金の交付がなされたこと
参加人は,その発起人9名のうち6名がF村議会議員であり,設立に
際して発行された株式の総数200株のうち155株は,上記議員らに
よって引き受けられた。また,設立時取締役に選任された7名のうち5
名が上記議員であった。しかも,その5名は,F村議会の議長や副議長
経験者であった。これらの事情からすると,参加人は,一部の有力議員
らにより実質的に支配されており,またその利益が,株主である同議員
らに配当されることになる営利法人であったということになる。
そして,その参加人に対する3000万円の本件予算決議には,I議
員ら5名も参加し,賛成票を投じたが,このとき同議員らは,本件補助
金交付により,参加人の資産が増加することで,その所有株式の価値の
増大という利益を得られる地位にあり,さらに,参加人から役員報酬を
得られる地位にあった。
このように,議員らが,自ら設立し,株主及び取締役になっている会
社に,自ら,自己に利益をもたらす補助金交付を決議したことからする
と,同議員らが,自己の利益を図ることを目的として,本件予算決議を
したものとみざるを得ない。
この点,I議員ら5名のうち,非常勤の役員に就任した者は,役員報
酬を結果的には受け取っていないが,これは,F村議会で報酬の点につ
いて問題として指摘されたことを受けて,報酬をもらわない旨の決議を
したことによるものであって,本件予算決議時に,同議員らが報酬を受
け得る状況にあり,本件補助金交付の公益性に疑義のある事情が存在し
たことに変わりはない。
,,(),(),(),また被告及び参加人はII議員JJ議員LL議員
N(N議員)は,平成18年3月8日までに株式を取得時と同価格で手
放したと主張するが,そもそも,上記議員らがその所有する株式を売却
したことの裏付けとして参加人が提出した株主名簿には,客観的事実に
照らして明らかに不合理な記載が多く,信用できない。さらに,上記株
主名簿からも分かるとおり,参加人において,その出資の管理は極めて
ずさんであったから,上記議員らの出資の存在自体も疑わしい。仮に,
上記議員らが,問題があるとの指摘を受けて後に株式を手放したとして
も,本件予算決議時に,議員らが株主としての利益を受け得る状況にあ
り,本件補助金交付の公益性に疑義のある事情が存在したことに変わり
はない。
さらに,上記議員らの株式は,参加人が買い取っており,これは自己
株式の取得に該当するところ,参加人において,自己株式の取得に際し
て必要とされる会社法上の手続を踏んでいないから,違法な自己株式の
取得となる。上記議員らが,このような違法な方法をとってまで,株式
を手放そうとしたところに,上記議員らの後ろめたさが表れている。
(イ)参加人の設立,Gの買収等は,一部の議員のみにより,村民に公表
されることなく進められたこと
参加人の設立は,一部の議員によって発起設立の方法で秘密裏に行わ
れた。また,Gの買収についても,一部の議員のみにより,Gの株主で
あったH農協に対する株式譲渡の申し入れがなされていた。
これらの事項については,本件予算決議がなされた平成17年9月1
3日及び翌14日の定例会において,初めてF村議会で議論がなされ,
上記事項を進めていた議員らの賛成により,議論の余地なく議決された
のである。
このように,上記事項が,村議会で事前に議論されることなく,一部
の議員のみにより進められていたことは,当該議員らが私利を図るため
に,参加人の設立及びGの買収等を進めていたことの表れである。
なお,上記議員らは,H農協に対して株式譲渡を申し入れる際に提出
した申入書に,その作成名義人としてF村議会と記載している。同申入
れ時点では,F村議会でいまだ同申入れについて議論がなされていなか
ったのは前述のとおりであるところ,上記議員らが真実に反する記載を
したことも,上記議員らの私利を図る目的の表れであるといえる。
(ウ)本件補助金交付は,E町との合併直前の時期に拙速に進められたこ

F村とE町は,平成17年2月2日に,合併協定に調印し,同年2月
16日,F村議会とE町議会で承認され,合併は同年10月1日と定め
られた。そして,その合併日に存在するF村の会計は,すべてE町に引
き継がれることになっていた。つまり,F村として補助金支出の裁量が
あるのは,平成17年9月30日までという状況にあったのである。
このような状況下で,同年4月6日に,議員らからH農協へ,Gの譲
渡申し入れがなされ,同年9月12日に参加人が設立され,翌13日及
び14日にはF村議会において,本件補助金交付について審議,決議が
なされ,同月16日に参加人からF村へ補助金交付申請がなされ,同月
21日に本件補助金の交付決定があり,同月27日に本件補助金が交付
された。
本件予算決議がなされたのは,上記のとおり,参加人の設立の翌々日
であり,決議時点で,参加人には何らの具体的な事業実態がなく,従業
員などの会社組織も存在せず,不動産や営業などの有形,無形の会社財
産もなかった。そして,本件補助金交付申請において,参加人は,本件
要綱において要求されている事業計画書等を添付することなく申請した
が,当時のB村長は,同申請の適否について,実質的な審査及び調査を
することなく,交付決定をした。なお,本件予算決議がなされた同年9
月14日の時点で,H農協では,株式譲渡について具体的な認識を有し
ていなかった。
これらの事実経緯からすると,一部の議員が,合併を見越して,F村
の資産を自ら設立した株式会社に移すため,H農協からGの株式の譲渡
を受ける話を一方的に進めたうえ,慌てて合併前にAを設立し,その直
後に,いまだ実態のない参加人への補助金交付の議決をし,さらに,B
村長が,交付申請に対して実質的な審査をしないまま,無批判に補助金
を交付したということが明らかである。
公益にかなう補助金支出であるのであれば,合併前に焦って実行する
必要はないのであり,上記のように焦って実行した事実は,本件補助金
の交付が,E町議会では議決され得ない公益性のないものであったこと
を自認するものである。
さらに,上記経緯をみると,参加人から補助金交付の申請がなされる
より前に,村議会で本件予算決議がなされている。
(エ)私企業がGの株式を取得する方法を選択したこと
本件補助金の支出は,参加人という私企業に対してなされているが,
真に公益を図るのであれば,F村あるいはF村が出資する第三セクター
にGを買収させる方法によるべきであった。そうすれば,会社の支配も
利益もF村に帰属することになるのである。
しかしながら,上記の方法によっては,議員らの利益にならないこと
から,議員らは,参加人を設立し,同社がGの株式を取得するという方
法を選択したのである。
仮に,上記方法によるとしても,参加人の設立を募集設立として,広
く住民から株主を募る方法によるべきであったが,先述のとおり,参加
人の設立は,発起設立の方法により,住民に公表されないままに行われ
た。
ここにも,本件補助金の交付が,議員らの私益を図る目的で行われた
ことが表れている。
なお,被告は,参加人は農業法人であり,一般の株式会社とは異なる
と主張するが,設立目的や利益の分配に関して一般の株式会社と異なる
法律上の規制等があるわけではないのであるから,この主張には意味が
ない。
イ本件補助金交付の効果等
被告は,本件補助金の交付は,農業振興目的で行われたものであると主
張するが,アに記載した事情のほか,以下の事情によれば,本件補助金の
交付は農業振興目的で行われたとはいえず,またこれにより農業振興の効
果も生じない。
(ア)補助金交付の直接の目的は,企業買収であること
本件補助金交付の対象となった事業は,企業買収事業である。したが
って,企業買収をすること自体に公益性があるかを検討しなければなら
ない。参加人の事業目的や,Gの事業目的における公益性の有無は別問
題である。
しかるところ,Gは,F村地域のこんにゃく産業振興のために設立さ
れた,H農協の子会社であり,H農協自体が,その運営目的に農業振興
策を包含しているのであるから,Gの親会社を,参加人に変更する必要
性はなかった。また,その事業は毎年の経常利益が1000万円台の黒
字経営であったのであって,経営支援が必要な状態ではなかった。
とすれば,本件で,参加人が,Gを買収すること自体に公益上の必要
性があるとはいえない。
(イ)Gを買収してもF村の農業を振興する効果はないことGは,こん
にゃく製造業者であるから,これを買収しても,直接F村のこんにゃく
玉の生産を支援することにはならない。
被告や参加人は,地域の農産物としてのこんにゃく玉を,高い価格で
買い上げることで,農業としてのこんにゃく玉生産を維持することにな
るから公益性があるという趣旨の主張をする。しかしそれは,こんにゃ
く製造業に必要な原材料としてこんにゃく玉を購入することから生じる
間接的な効果にすぎず,さらに,GはH農協からこんにゃく玉を購入し
ていたのであり,H農協から高い価格で買い上げてもその代金は直接生
産者の手に渡らない。農業としてのこんにゃく玉生産を維持増進させる
のであれば,生産者に直接補助を出せばよいのである。
,,またF村でのこんにゃく芋の栽培面積は減少の一途をたどっており
F村でのこんにゃく玉の生産量や栽培面積が減少することは,押しとど
めようのない傾向であった。
さらに,F村での農業産出額の上位3品目は,平成16年度生産農業
所得統計によれば,キュウリ,生乳,切り枝であり,こんにゃく玉では
ないのであるから,こんにゃく玉を奨励するより,これら産出額の高い
品目を奨励の対象とすべきであった。
加えて,Gは,多くのこんにゃく玉をF村以外から買い付けていたの
であるから,Gを存続させたとしても,F村内のこんにゃく玉生産の振
興にはならない。
,,,このようにG買収の理由は農業振興では説明がつかないのであり
議員らが,参加人を設立して,Gを買収したのは,農業振興を補助金交
付の大義名分として,自ら設立した受け皿会社に買収資金として補助金
を取得することをもくろんだものと考えざるを得ないのである。
(ウ)本件予算決議当時,参加人には何ら事業実態がなかったこと
前述のとおり,本件予算決議がなされたのは,参加人の設立の翌々日
であり,同決議時点で,参加人には何らの具体的な事業実態がなく,従
業員などの会社組織も存在せず,不動産や営業などの有形,無形の会社
財産もなかった。
このような会社に対する補助金の支出が農業振興の効果を持つことは
ない。
ウ営利企業への補助
参加人は,本件要綱の別表に限定列挙されている補助金交付対象団体に
該当せず,また,営利法人たる参加人への補助金交付は,公益の必要性が
認められる団体等に対してのみ補助金を交付することとしている本件要綱
の趣旨にも合致しない。
したがって,そもそも,本件要綱により参加人への補助金交付は認めら
れておらず,この点からも,本件補助金の交付は公益の必要性を欠いてい
るといえる。
エ本件補助金の額等
,,F村の一般会計予算歳入額を見ると平成13年度から減り続けており
平成17年度は,前年度より7700万円減額した,19億8000万円
となっている。そのうち,自主財源(村税,繰入金,施設使用料及び手数
料,その他)の金額は,6億0524万6000円にすぎない。
このように,F村の財政は逼迫しており,3000万円もの補助金を支
出する余裕はなかったといえる。
また,平成17年度一般会計予算における,農業振興のための補助金の
,,,うちこんにゃく生産についてのものはこんにゃく生産組合に32万円
こんにゃく生産安定化対策事業に5万円の37万円のみであり,農業振興
費中の補助金を全て合わせても,161万6000円にしかならない。さ
,,,らに商工振興費の補助金を見るとこんにゃく事業に関するものはなく
他の商工振興費補助金は,F村振興公社に36万円,F観光協会に93万
6000円,ふるさとまつりに200万円となっている。
そうすると,本件補助金の3000万円という額が,いかに多額であっ
たかが分かる。
なお,本件の産業振興事業補助金については従来予算化されておらず,
私企業に対する補助金の実績もなかった。そして,本件補助金は,平成1
7年度予算では予定されておらず,予算編成後に急遽支出が認められたも
のであった。
さらに,本件補助金を補正予算案に計上するにあたり,本件補助金の額
が多額であることが目立たないように操作がなされている。
すなわち,平成17年9月13日にB村長が提出した平成17年度F村
一般会計補正予算案によると「財政調整基金繰入金」として8510万,
1000円「前年度繰越金」として7836万6000円の歳入増があ,
ったので「財政調整基金積立金」に1億0146万7000円「国民,,
宿舎事業特別会計繰出金」に2000万円「老人保健特別会計繰出金」,
に1200万円「農業振興費その他補助金」に3000万円を加えた,
歳出とするというものであった。しかし,財政調整基金は,いわば内部的
な預金であるところ,上記のように,繰入金としていったん計上したうえ
で改めて積立金として計上することには意味がなく,前年度繰越金から,
追加積立分をそのまま積立金として計上すれば足りるものであった。
F村議会議員らは,合併を前に引き継ぐべき金額を精査中に,当初予算
では予定されていなかった7836万円余りの繰越金が発見されたことか
,,,らこれをE町に引き継がず本件補助金として使用することを思いつき
他の歳出項目とともに補正予算案に計上しようとしたが,本件補助金の額
が3000万円と一番多額になり,目立ってしまうので,財政調整基金か
らいったん8510万1000円を繰り入れたうえで,すぐに同基金に戻
すという操作を行い「財政調整基金積立金」に1億0146万7000,
円を計上することで本件補助金の額が目立たないようにしたものと考えら
れる。
このように,3000万円という補助金の額が,当時のF村の財政状況
から見ても,従前の補助金の額から見ても,高額なものであり,さらに,
補正予算案において,本件補助金の額が高額であることが目立たないよう
に操作が行われていたという事情からも,本件補助金の支出が,議員らの
私益を図るために行われたもので,公益性がないことが明らかである。
オ本件補助金の使途等
(ア)本件補助金の使途が不合理であること
参加人は,Gの株式を取得後,同日に同社を解散させている。
会社を解散させると,包括的に権利義務が移転することなく,清算手
続の中で一切の権利義務関係を処理し,残余財産を株主に分配すること
になる。そこでは,会社が解散する以上,解散会社の営業の価値は評価
され得ない。また,債権債務関係を処理して,差し引きでプラス分とし
て残った資産のみが解散会社の価値となり,一般にはその会社の価値は
格段に下がることになる。そのため,解散させる株式会社の株式を取得
することは無意味であり,仮に買収対象会社の具体的資産を取得したい
のであれば,具体的資産の売買契約を締結すれば足りるものである。
したがって,参加人の株式買収の方法は著しく合理性を欠くものであ
るといえ,このような不合理な企業買収のために支出された補助金は,
不当な公金支出であるというべきである。
(イ)G株式の取得価格が不適正であること
参加人は,Gの全株式の価格を6466万2485円と評価し,その
支払の際に対価の一部として本件補助金を使用している。
ここで,会社の価値を算出するとき,将来の利益見込みも含めた営業
の価値や不動産,構築物,装置類などの有形資産を含めて算出するのが
当然であるところ,参加人がGの株式を買収するに当たって,その価格
を6466万2485円と算定する際にも上記営業の価値や有形資産を
考慮しているものといえる。
しかしながら,参加人は,上記のとおり,Gの全株式を取得後,同社
を解散させており,同社の暖簾や営業的信用を含めた営業を承継してい
ない。また,Gの不動産,構築物,装置類などの有形資産は,Gの株式
売買契約とは別の土地建物等売買契約により取得されている。
そうであれば,H農協からGの全株式を取得したことで,参加人が得
たものは,商品,原材料,現金及び売掛債権等の債権から,買掛債務や
借入等の諸債務を差し引いた残余資産にすぎず,この価格は,6466
万2485円に遠く及ばないものということになる。
さらに,F村では,G株式の取得に当たり,同社の企業診断はおこな
っているものの,過大な棚卸資産の内容についての検討等,H農協が提
示したGの会社価値の相当性の検討は何ら行っていない。
,,以上よりGの全株式取得価格6466万2485円は不適正であり
全株式をより安く取得できたのであるから,本件補助金の支出は必要な
かったといえる。
(ウ)H農協に対する二重払いがあったこと
被告及び参加人は,Gの全資産を取得するために,全株式を6466
万2485円で取得したとする。
しかし,土地建物等売買契約書(丙1)を精査すると,売買対象資産
の中にG所有資産(2209万5154円分)が含まれており,その分
も含めた代金を参加人はH農協に支払ったことになる。
すなわち,G所有資産について,参加人は,H農協に対して二重に支
払をしたのである。
そうすると,参加人は,不適正に高い売買代金を支払ったことになる
から,この企業買収について補助金の支出は必要なく,本件補助金の支
出は不当な公金支出となる。
(被告及び補助参加人の主張)
本件補助金交付は,以下に述べるとおり,公益上の必要性に欠けるもので
はない。
ア本件補助金交付に至る経緯は以下のようなものであった。
すなわち,F村では,平成3年頃から,H農協の子会社であるGに対し
て建物や機械設備などを貸与してきたが,同村のこんにゃく生産者は減少
し,H農協も経営合理化のためにF村から撤退するおそれがあるとの不安
,,,のなかで農業の衰退と地域の過疎化の進行に対する危機感を抱きGを
何らかの形で施設ごと残し,E町との合併後もこれを拠点として農業の振
興を図り,地域の活性化を図ることが公益上必要と考えられていた。
F村議会においても,農業の衰退と過疎化に歯止めをかけるために協議
がなされ,先進の町村の視察も検討されていたところであった。
そこで,F村議会のI議員(当時の議長,M議員(当時の副議長,))
L議員(当時の土木産業常任委員長)は,平成17年3月31日,H農協
の地元の理事宅を訪問し,GのF村への譲渡について,H農協で協議して
ほしい旨要請し,その後の同年4月6日には書面で譲渡の要請をした。こ
れに対して,H農協では,同月20日,理事会を開催し,Gの譲渡の具体
的方法などについて協議が行われた。そして,同年6月16日,H農協は
総代会でGの株式譲渡を決定した。同月23日には,F村とH農協は,G
の工場の譲渡などについても話し合いを行った。
また,H農協では,埼玉県農業協同組合中央会に対し,Gの財務調査を
依頼し,Gの1株あたりの公正な譲渡価格を算出させた。さらに,B村長
は,税理士事務所に対して,Gの経営状況を調査するべく,同社の企業診
断を依頼した。
同年7月8日には,F村議会の土木産業常任委員会は,Gの代表取締役
から経営状況などについて説明を受け,Sセンターから2名を招いて勉強
会を開催し,パンフレットなどにより農業法人などについての説明を受け
た。
その後,F村と,H農協は,平成17年7月上旬から下旬にかけて,G
の譲渡先をF村にするか,第三セクターにするか,農業法人にするかなど
について,協議を重ねた。その結果,F村は,同年8月9日,地域の農業
生産団体が中心となって農業法人を設立し,F村はこれを支援するという
方法が,農業振興のために最善と判断し,その方向でGの譲渡の準備をす
ることとした。そして,F村は,同月11日,農業法人を設立し,これを
拠点として農業の振興を図り,地域の活性化を図ることが公益上必要と考
え,補助金を交付する方針を打ち出した。
これを受けて,地域の農業生産団体の代表者らが中心となり,発起人と
なって,同月17日から,農業法人を設立するための準備を開始し,同月
,,,21日には発起人会を開催して定款の内容などを検討し社名を決定し
同月29日には,株主の募集を開始し,同年9月4日には株式の申し込み
や払い込みを開始するなど,設立手続を進めた。
その結果,発起人は,平成17年9月7日,それまでに払い込みのあっ
た460万円を資本金としてAを設立しようとしたが,当時既に商法が改
正されて株式会社は資本金が1円でも設立できるようになったと誤解して
いたことが判明したため,急遽,発起人の内,I議員が300万円,N議
員が240万円を借金をして工面した。
そして,同年9月13日,14日にF村議会で本件補助金3000万円
を含む補正予算案が可決され,これを受けた参加人からの本件補助金交付
申請に対し,B村長が補助金交付の決定をし,本件補助金が交付された。
上記経緯を見れば明らかなとおり,本件補助金は,農業振興及び地域の
活性化を目的として,参加人に交付されたものである。
イ原告らは,本件補助金交付が,一部の議員がその私利を図るためになさ
れたものであると主張するが,誤りである。
(ア)参加人の設立経緯,その株式のほとんどを議員らが取得することに
なった経緯は,上記に記載したとおりであって,議員らが,参加人を支
配したり,利益配当を受けようとしたことによるのではない。
また,本件では,地域の農業生産団体が中心となって,F村がこれを
支援するという形で設立手続が進められたという経緯があったため,地
域の農業生産団体の代表者的地位にある議員ら(取締役のJ議員はFた
らの芽研究会会長,L議員はF梨りんご組合会長,N議員はE園芸部会
F支部支部長,監査役のK議員はF村直売所組合組合長)が,発起人と
なり,また取締役への就任を承認したのであって,参加人を支配する意
図などはなかった。
現に,参加人は,平成17年9月26日の役員会で,I議員ら5名を
含む非常勤役員は報酬を受け取らない旨の決定をしているし,M議員を
除いて,いずれも取締役を辞任している(I議員は平成17年11月7
日,J議員,L議員,N議員は平成18年3月7日。M議員が辞任し)
ていないのは,辞任してしまうと旧商法及び会社法が規定する取締役の
員数に不足が生じてしまうため,取締役間の話し合いにより留任したも
のである。なお,議員らが参加人の取締役を辞任したのは,議員活動に
専念したり,身の潔白をはらすためであって,取締役の就任に問題があ
ったためではない。
また,株式についても,I議員,J議員,L議員,N議員は平成18
年3月8日までにいずれも引受価額と同じ1株5万円で株式を全て譲渡
しており,全く利益を得ていない。
この点,原告らは,株主名簿による株式取得の時期が平成18年6月
30日となっている者があり,この株式取得の時期と出資金支払いの時
期がずれていることから,株主名簿が不正確であるなど主張するが,こ
れは,新株を発行し,その新株を引き受けた者についての株式名簿への
記載が,出資金支払日より後の,新株発行日になったことによるものに
すぎない。また,議員らの株式を第三者に譲渡するに当たり,参加人が
いったん買い取るなど,法的な手続に問題がなかったとはいえないが,
これをもって,譲渡を仮装したなどということにはならない。
上記議員らは,参加人設立準備の段階で,出資金が1000万円必要
だと判明した際,その不足分として,Iが300万円,Nが240万円
をそれぞれ借金までして工面しているのであって,むしろ地域のために
無償で奉仕したといえる。
(イ)原告らは,参加人の設立やG株式の取得が一部議員のみにより秘密
裏に進められたと主張する。
しかし,参加人が発起設立により設立され,事前に公表されなかった
との主張については,参加人の設立方法は,募集設立によるものであっ
たのであるから,誤っている。また,村議会で議論が事前になされてい
ないとの原告らの主張については,定例会より前に,本件の窓口となっ
ていた土木産業常任委員会が,合併に関する全員協議会の場を借りて,
他の議員に報告し説明していたのであって,その際に議論はなされてい
るのであるから,原告らの主張は事実を誤認している。
,,申入書についてH農協にG買収の申し入れを村議会名義でしたのは
村あるいは村長名義で申し入れた場合の合併への影響を懸念したことに
よるものである。
(ウ)また,原告らは,参加人の設立及び本件補助金交付等が,合併直前
の近接した時期になされ,H農協からの株式買収も一方的に進められた
と主張する。
しかし,上記事実経緯にあるとおり,Gの株式譲渡について,H農協
の側でも具体的に検討が重ねられているのであって,一方的に株式買収
の話を進めてはいない。
また,原告らは,本件補助金の支出に公益性があれば,E町でも補助
金交付決議がなされるから,合併前に急いで交付決議をする必要はない
旨主張するが,補助金の交付決議がなされるかどうかは,政策判断の問
題であるから,公益性があれば交付されるという簡単な問題ではない。
補助金交付申請書がF村議会で決議された後に提出されたとの指摘に
ついては,そもそも補助金が予算として決議されて初めて補助金の交付
申請が可能となるものであるから,かかる指摘自体,原告らの誤解に基
づくものである。
(エ)原告らは,参加人という私企業がGの株式を取得するという方法を
選択したことも,議員らが私利を図る目的でしたことの根拠である旨主
張する。
しかし,当初から株式会社の設立が企図されておらず,最善の方法を
模索した結果として,最終的に株式会社を設立することになったという
上記経緯からすれば,議員らが私利を図る意図で株式会社を設立したも
のではないことが明らかである。
また,参加人に補助金が交付されても,同補助金はGの買収のために
使用されてしまうのであるから,議員らが個人的な利益を取得すること
はない。
ウ原告らは,本件補助金支出に農業振興等の効果はないと主張するが,誤
りである。
(ア)原告らは,本件補助金交付は企業買収事業に対してなされたもので
あり,買収自体に農業振興の効果がないと主張するが,参加人によるG
,,の買収は農業振興と地域の活性化を図る手段にすぎないのであるから
買収自体に公益性があるかどうかを検討する必要はない。
(イ)原告らは,参加人がこんにゃく製造業者にすぎないと主張するが,
参加人は,こんにゃく関連商品の加工製造にとどまらず,幅広い事業を
行っており,様々な農産物の生産も行っている。
また,原告らは,こんにゃくの生産量が減少していることなどから,
Gの買収が,農業振興と因果関係を持たないと指摘するが,こんにゃく
の生産量が減少しているからこそ,Gを拠点として,農業の振興と地域
の活性化を図ろうとしたのであり,原告らの主張には理由がない。実際
に,参加人は着実に業績を伸ばし,農業の振興と地域の活性化に大いに
貢献している。
さらに,Gが主としてF村以外からこんにゃく玉を買い付けていたと
の原告らの主張は,原告らが,原材料費の全てをこんにゃく玉の購入代
金であると誤解したことによるものである。
なお,原告らはこんにゃくのみを捉えて主張を展開しているが,F村
は,参加人を拠点とし,遊休農地を利用してこんにゃく以外にも様々な
特産品を栽培したり,工場を利用して農産物の付加価値を高めた様々な
加工品を開発したりし,これら商品の販路を拡大することによって農業
経営者を支援し,高齢者の雇用を拡大することを考えていたのであるか
ら,この点でも,原告らの主張は誤っている。
(ウ)原告らは,本件補助金交付が営利企業に対するものであることを,
公益性を欠く根拠として指摘するが,参加人は,農業振興と地域の活性
,,化という公益のために設立され事業活動を行っているものであるから
一般の株式会社と同一に論ずるのは妥当でない。
(エ)原告らは,3000万円の補助金額が多額であると主張するが,な
ぜ原告らのいうようにF村の財政が逼迫しているとか,3000万円の
補助金を支出する余裕がなかったといえるのか,不明である。
さらに,原告らは,本件補助金が捻出された経緯が不自然であると主
,,,張するが財政調整基金の積立額についてはF村の条例に規定があり
本件では同規定に基づく処理をしたものであって,原告らの主張は理由
がない。
(オ)原告らは補助金の使途が不合理であると主張するが,Gの株式を取
得して,Gを解散させるという方法は,何ら不合理ではない。
また,原告らは,Gの株式取得価格が不適正であると主張するが,株
式の譲渡とは別に,Gの不動産・構築物,装置類などの有形資産が土地
建物売買契約により取得されているとの指摘については,同契約は平成
18年1月31日に締結されており,F村は本件補助金を交付した平成
17年9月27日当時,H農協と参加人との間でこのような売買契約が
締結されることを全く知らなかった。
さらに,原告らが二重払いだと指摘する点については原告らの誤認に
基づく主張である。すなわち,原告らが,Gの所有資産であると主張す
,,る土地建物等はGがH農協から貸与を受けて使用している資産であり
H農協の所有資産である。
(5)争点(5)(B村長の責任の有無)について
(原告らの主張)
B村長は,本件補助金交付決定当時,予算執行の権限を有するF村の村長
として,上記のとおり違法な公金支出を決定したのであるから,これにより
F村,これを承継したE町に与えた損害を賠償する責任を負う。
(被告の主張)
争う。
(6)争点(6)(Cの責任の有無)について
(原告らの主張)
Cは,本件補助金交付当時,F村の助役として,上記のとおり違法な本件
補助金交付を執行し,この点につき過失ないし重過失があると認められるか
ら,これによりF村,これを承継したE町に与えた損害を賠償する責任を負
う。
(被告の主張)
争う。
(7)争点(7)(Dの責任の有無)について
(原告らの主張)
Dは,本件補助金交付当時,F村の収入役として,上記のとおり違法な本
件補助金交付の支出命令を行い,この点につき過失ないし重過失があると認
められるから,これによりF村,これを承継したE町に与えた損害を賠償す
る責任を負う。
(被告の主張)
争う。
(8)争点(8)(参加人の責任の有無)について
(原告らの主張)
参加人は,上記のとおり違法な公金支出にかかる本件補助金を受領したの
であるから,E町に対し,その不当利得を返還する責任がある。
(被告の主張)
争う。
第3当裁判所の判断
1争点(1)(地方自治法117条違反)について
地方自治法117条は,普通地方公共団体の議会の議長及び議員が,その従
事する業務に直接の利害関係のある事件について,その議事に参与することが
できない旨を定めている。
ところで,予算にかかる議事については,項目ごとに分割して議決されるも
,,のではなく不可分一体のものとして全体について議決されるものであるから
予算の審議において,その一部に利害関係のある議員がいる場合であっても,
当該部分について当該議員を除斥することは予算審議の性質上できない。他方
で,予算の一部に利害関係を有する議員は予算全体につき議決権を失うとする
のも相当でない。そうすると予算審議においては,予算にかかる議事の一部に
ついて利害関係のある議員であっても除斥されないと解すべきである。
したがって,I議員ら5名が本件予算決議に参加していたとしても,この決
議が地方自治法117条に違反するとはいえず,この点に関する原告らの主張
には理由がない。
2争点(2)(F村産業振興事業補助金交付要綱違反)について
本件要綱は,補助金の交付に関して,内部的な基準となるべき具体的運用指
針を定めたものに過ぎず,仮に,これに反して補助金を交付したとしても,直
ちにその補助金交付が違法なものとなるわけではない。
したがって,この点についての原告らの主張には理由がない。
3争点(3)(交付決定手続の瑕疵)について
(1)原告らは,本件補助金の交付申請に際して,参加人が本件要綱に規定さ
れている添付資料を提出していなかったことから,本件補助金の支出が本件
要綱に反する違法なものであると主張するが,本件要綱に沿わない手続をと
ったことをもって,直ちに本件補助金の支出が違法であるとはいえないこと
は前述のとおりである。
(2)また,原告らは,本件補助金は,補助金交付の適否について何ら実質的
に審査されることなく支出されており,同交付手続には瑕疵があると主張す
る。
アそこで,この点につき検討するに,証拠によれば,以下の事実が認めら
れる。
(ア)補助金が交付されるまでの手続は,通常,以下のとおりである。
まず,産業観光課の職員が補助金交付を希望する団体から意見聴取等
を行い,要望書や事業計画書等の書類の提出を受けたうえ,それらを精
査し,交付が適当と判断した場合には,文書で村長の決裁を受ける。
村長は,同補助金支出について予算に反映させ,同予算について,議
会で承認を受ける。
その後,補助金交付を受けようとする団体は,産業観光課に対して,
補助金交付申請書を添付書類とともに提出し,これを受けた同課の担当
者及び課長が,同申請内容について,主に予算編成前の審査時の状況か
ら変更がないかを審査し,村長の決裁を受ける。この申請に対する審査
において,書類に不備があった場合には,当該団体に書類の提出を請求
する。
(証人T)
(イ)本件要綱4条には,補助金交付申請の際に提出すべき添付書類とし
て,次のように定められている。
「第4条申請書の添付書類は,次のとおりとする。
1事業計画書,収支予算書
2各産業団体等の定款・規約・会則等及び構成員名簿
,,3各産業団体等で設立後総会等を開催しているものにあっては
前事業年度における事業報告書,決算書」
(甲39)
(ウ)本件補助金交付申請において申請書に添付されたのは,参加人の定
款のみであり,申請書には,補助金の交付を受ける事業の目的及び事業
の内容として「別紙定款の通り」と記載されただけで,事業の完了予定
年月日についても「別紙定款の通り(第28条」と記載されただけ,)
であった(甲13,証人T。)
(エ)参加人の定款では次のように規定されている。
「目的)(
第2条当会社は,次の事業を営むことを目的とする。
1農産物の加工並びに販売。
2草木類,観賞用植物の販売。
3きのこ類の加工並びに販売。
4農業。
5こんにゃく芋の仕入,製造,加工及び販売。
6農産物,畜産物等の食品の輸入,加工及び販売。
7清涼飲料水の製造及び販売。
8食品のカタログによる通信販売。
9米,麦を原料とする食品の加工,製造及び販売。
10キトサンコーラルカルシウムの製造及び販売。
11豆腐こんにゃくの製造及び販売。
12その他上記各号に付帯関連する一切の業務。
(最初の営業年度)
第28条当会社の第1期の営業年度は,当会社設立の日から平成1
8年3月31日までとする」。
(甲8)
イ以上によると,参加人が提出した申請書のみでは,補助金交付の適否を
判断するには資料が不足していたといわざるを得ない。しかし,本件にお
いては,後記認定のとおり,参加人はGの株式を取得するために設立され
た会社であり,本件補助金は,参加人がGの株式取得の資金に充当するた
めに交付されたものであって,このGの株式取得の目的,必要性等の事情
についてはB村長は充分承知していたのであるから,本件補助金が補助金
交付の適否について何ら実質的に審査されることなく支出されたものとは
いえない。
(3)以上より,この点についての原告らの主張にも理由がない。
4争点(4)(本件補助金交付の公益上の必要性)について
(1)地方自治法232条の2は,普通地方公共団体は,その公益上必要があ
る場合においては,寄附又は補助をすることができると規定している。地方
公共団体の長は,上記公益上の必要性を判断するにあたり,当該地方公共団
体の多様な行政目的を考慮した上で,政策的な判断を行う必要があることか
ら,その判断については,一定の裁量が認められる。しかし,補助金交付の
適正の観点から,上記裁量の範囲には限界があり,当該補助金交付の目的,
効果,当該地方公共団体の財政に与えた影響及び当該補助金交付の経緯等,
諸般の事情を考慮して,当該補助金交付に公益上の必要があるとの長の判断
が社会通念上著しく妥当性を欠くものといえる場合には,その判断には裁量
権の逸脱,濫用の違法があるというべきである。そこで,本件補助金の交付
に公益上の必要があるとのB村長の判断が,裁量権を逸脱,濫用したもので
あるといえるかにつき検討する。
(2)前記争いのない事実等及び証拠を総合すると,次の事実が認められる。
アGの株式を取得することになるまでの経緯
(ア)Gは,本店所在地をF村内とする,こんにゃく芋の仕入れ,加工及
び販売等を目的として平成5年10月1日に設立された会社である。
()()Gの資本金1300万円260株のうち1000万円200株
はH農協が出資しており,H農協の子会社であった。
(甲4,9,10,丙15)
(イ)F村では,Gに対し,F村内の工場の建物や機械設備などを無償で
貸与したり,売店を作るのに多額の補助金を出すなど,その運営に協力
。,。していたこうしたことからGはF地域に密着した存在となっていた
(乙9,55,証人B,証人I)
(ウ)F村では,平成17年2月,平成17年10月1日付けでE町と合
併することが決定されていた(甲43。)
(エ)平成17年当時,F村議会では,農業の衰退や地域の過疎化に対す
る対策が協議されており,同年5月18,19日には,村議会議員が,
木の葉や柚の生産等により地域の活性化に成功している町村の視察を行
ったりしていた(乙1,13,55,証人P,証人B。)
(オ)H農協は,1つの町や村に置く支店を1つにするという方針から,
平成15年3月に,E町にあったH農協の3つの支店を閉鎖していた。
そのため,B村長は,E町との合併後は,経営の合理化等によりF村に
あるH農協の支店が閉鎖されるのではないかという危機感をもってお
り,これによりH農協の子会社であるGもF地域に密着したものでなく
なってしまうのではないかという不安を抱いていた。そして,F村内の
こんにゃくの生産者も減少している状況にあって,B村長は,F村でG
を譲り受け,合併後も農業の拠点として同社をF村に残し,こんにゃく
以外の特産品の栽培や,付加価値を高めた加工品の開発,販路の拡大等
により,農業経営者を支援していきたいと考えていた(乙55,丙1。
5,証人B,証人I)
(カ)B村長は,平成17年3月ころ,当時のF村議会の議長であったI
議員,副議長であったM議員,L議員に,GをF村で譲り受けたいとい
う考えを示して協力を求めたところ,同人らもこれに賛同した。
同議員らは,同月31日,H農協に対し,Gの譲り受けについて協議
,,,,を申し入れまたF村議会の名で同年4月6日付けの書面をもって
Gに対し,同社をF村に譲って欲しいとの申し入れを行った。その後,
B村長とH農協の組合長との間で,Gの譲渡について,話合いが進めら
れた。
(甲12,乙55,丙14,15,証人I)
(キ)Gの平成15年度の売上高は3億0518万2000円,当期利益
は1216万円であり,平成16年の売上高は3億3378万1350
円,当期利益は1007万8782円であった。
平成17年5月,H農協が埼玉県農協協同組合中央会(中央会)にG
の財務調査を依頼したところ,1株あたり25万1605円という評価
が出された。そこで,H農協は,少数株主が保有する株式57株を取得
し,従前保有していた株式とあわせて257株全株(なお,発行株式2
60株のうち3株は自己株式である)を総額6466万2485円で。
F村側へ譲渡することとした。
B村長も,個人的に,同年6月10日ころ,株式会社Qに対し,Gの
決算報告書などの客観的資料をもとにGの企業診断を依頼した。これに
よると,Gの経営状況は,当座資産(キャッシュ)の割合が低いこと,
売上げに対し棚卸資産が過大であること,類似業種と比較すると製造原
価が過大になっているなどの問題もあるが,支払能力は長い期間で考え
ると充分安定しており,自己資本回転率は良く,総合的な収益率は高い
と分析されていた。
(甲9,10,11,乙3,10ないし12,18,55)
(ク)B村長とH農協は,Gの譲渡先について,F村,第三セクター,い
わゆる農業法人のいずれかにするということで,検討を行った。またF
村議会の土木産業常任委員会では,同年7月8日,Gから,経営状況な
どについて説明を受けたり,Sセンターから講師を招き,農業法人につ
いての勉強会を開催したりした。
検討の結果,F村で株式を保有することとすると,合併後はE町に引
き継ぐことになってしまうこと,合併までの期間などから,同年8月1
1日までに,農業法人を設立し,同社に補助金として支出することを決
めた。
(甲5,45,乙1,6,55,56,丙14,15,証人I)
イ参加人設立の手続等
(ア)E町と合併する平成17年10月1日までに農業法人を設立させる
ということで,B村長の依頼で,I議員がまとめ役となって,農業生産
団体の代表者に声をかけて発起人を集め,I議員ら6名やGの代表取締
役であるRを含む9名が発起人となることとなった。発起人らは,定款
の作成等の手続を進め,同月29日には株主の募集を開始し,平成17
年9月12日,参加人を設立した(甲4,8,乙55,丙14,証人。
I)
(イ)参加人の設立時発行株式数は200株(1株5万円で合計1000
万円)であるところ,そのうち155株はI議員ら6名によって引き受
けられ,その余の株式の一部は,B村長の妻,N議員の親戚及び知人に
より引き受けられた。なお,参加人設立直前までに集められた出資金は
460万円(92株分)しかなかったため,急遽I議員及びN議員が合
,。(,,,計540万円を借り入れて不足分に充当した甲44乙755
丙11,証人P)
(),,(ウ)参加人の設立時の取締役7名にはI議員ら5名やRが就任し
監査役2名のうち1名にはK議員が就任した。また,代表取締役にはR
が就任した(甲2。)
ウ本件補助金交付までの手続
(ア)F村では,平成16年度の決算で,平成16年度からの繰越金が,
当初の予定を大幅に上回って7836万6000円存在することが判明
した(甲38)。
(イ)B村長は,Gの株式の譲受代金6466万2485円の約2分の1
である3000万円を補助金として参加人に交付することとし,農林振
興費のうちその他補助金として3000万円の歳出を計上して,平成1
,。(,,7年度F村一般会計補正予算を組み議会に提出した甲3845
証人B)
(ウ)平成17年9月13日及び同月14日,F村議会が開催され,平成
17年度F村一般会計補正予算の審議がなされ,参加人の取締役に就任
していたI議員ら5名及び監査役に就任していたK議員も審議に参加し
た。
同月14日の議会において,B村長やCから,参加人の商号,発起人
と代表者が誰であるか,参加人がH農協からGの株式を譲り受け,同社
の事業を引き継ぐことになること,参加人に,Gの株式取得の資金に充
てるため補助金3000万円を交付することについて初めて説明がなさ
れ,これについて討論が行われた。
(甲45,乙56,証人P)
(エ)上記補正予算は,賛成がI議員ら6名を含む9名,反対が2名,欠
席が1名(本件議会において本件補助金について質問をしたが,決議に
は欠席した)であったため,賛成多数で議決された(乙3。。)
(オ)同月16日,参加人から本件補助金交付の申請が出され,同月27
日,F村から参加人に本件補助金が交付された。
エ補助金交付後の参加人の活動等
(ア)参加人は,平成18年1月31日,Gから,その株式257株を6
466万2485円で譲り受け,その事業を引き継ぎ,他方,Gはその
後解散した(乙1。)
参加人は,これまでGがF村が借りていた工場等を,引き続き使用し
て,こんにゃくの製造等を行った(乙9。)
Gは,H農協からも,工場や倉庫の土地,建物及び機械装置等を賃借
していたが,参加人は,引き続きこれらを事業に使用するため,平成1
8年1月31日,H農協から,同農協所有の上記土地,建物等を代金5
728万円で購入した(乙14,17,丙1。)
(イ)平成17年9月26日に行われた参加人の取締役会において,役員
手当は出さないことが決められ,以後,役員報酬は常勤の役員にだけ給
付されている(乙7,15,19。)
I議員は,同年12月8日に,また,N議員,J議員,L議員も,平
,(,,成18年3月6日にいずれも参加人の取締役を退任した甲2乙2
丙4,証人N。)
参加人の株主であったI議員が所有していた株式については平成17
年11月7日の取締役会で,N議員,J議員,L議員,K議員の所有株
式については平成18年3月6日の取締役会で譲渡が承認され,参加人
から上記株主らに対し,1株5万円で代金が支払われ,これらの株式は
その後第三者へ譲渡された(丙12ないし15。)
(ウ)参加人は,現在,事業として,こんにゃくを始めとする,地元の生
産物を利用した食品の開発,生産物量拡大のための研究,講習会,供給
先の拡大等を行っている(乙1,15,19)。
参加人は,平成19年8月には,H農協との間で,こんにゃく生玉を
30キログラム1袋あたり最低5000円で買い取ることを保証する旨
契約した(乙51)。
(エ)参加人の第1期(平成17年9月12日から平成18年3月31日
まで)において約1673万円の当期利益を,第2期(同年4月1日か
ら平成19年3月31日まで)において約1315万円の当期純利益を
上げている(乙15,19。)
オF村の財政状況
F村の平成17年度の一般会計予算は19億8000万円であり,歳入
総額に占める自主財源の割合は約30パーセントで,そのうち村税は2億
2006万3000円であり,歳入総額に占める割合は11.1パーセン
トである。そして,村の最大の財源である地方交付税について国の配分見
通しが行われるなど,厳しい財政運営状況となっていた。
同年度の一般会計予算に計上された補助金は,農業振興費についてが1
5費目で合計161万6000円であり,そのうち一番額が大きいもので
も,こんにゃく生産組合に対する補助金の32万円であった。また,商工
振興費についてが4費目で合計283万4000円であり,そのうち一番
額が大きいものでも,Uに対する補助金の143万6000円であった。
(甲27,36)
カこんにゃく芋の生産状況等
こんにゃく芋の生産は,年によってばらつきはあるものの,平成3年以
降,概ね減少方向にあり,こんにゃく芋の栽培面積,収穫面積も昭和63
年以降年々減少している。F村内でも,昭和60年以降,こんにゃく芋の
栽培面積は減少しており,収穫量も概ね減少傾向にある。
(甲17,18,47)
(3)本件補助金交付の目的
ア上記認定のとおり,F村では,同村内でこんにゃくの製造を行っていた
Gに対し,事業の援助,協力を行ってきたところ,E町との合併を控え,
将来的にGがF地域に密着した会社でなくなる可能性があることを危惧
し,こんにゃく芋の生産を始めとするF地域における農業の振興を図るた
め,Gを農業の拠点としてF地域に残そうと考え,そのためGの株式を取
得することとし,その譲渡先として参加人を設立し,株式取得費用の一部
に充てるため,参加人に本件補助金を交付することとしたものである。
以上によると,本件補助金は,F村や同村を含むF地域における農業の
振興を図ることを目的として,Gの株式を取得するために,参加人に交付
されたものと認めることができる。
イこの点につき,参加人が営利企業であり,I議員ら6名がその株主とな
り,I議員ら5名がその取締役に,K議員が監査役に就任していることか
ら,原告らは,本件補助金は同議員らの私的利益を図ることを目的とした
ものであると主張する。
確かに,参加人は株式会社であって営利企業であり,また,I議員ら6
名がその株主となり,I議員ら5名がその取締役に,K議員が監査役に就
任していることから,本件補助金は同議員らの利益を図るために交付され
たのではないかと考えられる余地もないわけではない。また,参加人を設
立して,同社に補助金を交付するということは,平成17年9月14日の
議会までは全議員に知らされていたわけではなく,そのことからも,I議
員ら6名が,自己の利益を図るため,同人らのみで参加人の設立に関与し
たのではないかと疑われるのもやむを得ない点がある。
しかし,Gの株式の譲渡先としては,F村自身や第三セクターも検討さ
れていたが,F村で株式を取得すると,合併後はE町に引き継ぐことにな
ってしまうことなどから,農業法人を設立することとなったものである。
そして,平成17年10月1日の合併後は補助金を交付することができる
か否か分からなかったことから,合併までに農業法人を設立して,補助金
,,を交付しなければならないと考え急遽参加人を設立することとしたため
農業生産団体の代表者でありF村の議員であったI議員ら6名とGの代表
者であったRが中心となって参加人を設立することになったと考えるのが
相当であり,同議員らが自己の利益を図るために参加人の株主や取締役・
監査役になったとは認め難い。
(4)本件補助金交付の効果
ア本件補助金の額は,3000万円であるところ,長がその支出の公益上
の必要性を判断するに当たっては,本件補助金交付により,同額の支出に
見合うだけの効果を見込めるかを検討する必要があり,本件のように額が
大きい場合には,それだけ検討も慎重になされる必要があるというべきで
ある。
イGは,平成5年に設立して以来,F村でこんにゃくの製造等の事業を行
い,F村の農業にも貢献してきたと推測され,また,平成15年度,平成
16年度の営業成績も良く,企業診断によっても,多少問題点はあるもの
の,収益率は高いと診断されており,しかも,Gの代表者が引き続き参加
人の代表者としてこれを運営しているということであるから,参加人がG
を取得することは地元の農業の振興に有益であると考えられる。
また,F村でのこんにゃく芋の生産量等は減少傾向にあるが,F村がG
を取得しようとした理由としては,単にこんにゃくの製造だけではなく,
それ以外の特産品の栽培,加工品の開発や販路拡大等も行っていくという
ことで,農業全体の振興を考えていたのであり,こんにゃく芋の生産量等
が減少していることのみから,Gの取得がF村にとって無益であるという
ことはできない。
なお,参加人はGの事業を引き継ぎ,こんにゃくを始めとする,地元の
生産物を利用した食品の開発,生産物量拡大のための研究,講習会,供給
先の拡大等を行って,それなりの利益を上げていることからすると,本件
補助金の交付は一応の成果を上げているといえる。
以上によると,参加人がGの株式を取得するために,その取得費用に充
てるために補助金を支出することは,F村に一定の効果をもたらすもので
あると考えることができる。
ウそこで,補助金3000万円の支出により,その額に見合うだけの効果
があると見込めるか否かであるが,本件補助金を3000万円とすること
,,になったのはGの株式の購入価格の約2分の1ということだけであって
参加人がGの事業を引き継ぐことにより,それだけの経済的効果をF村に
,。,もたらすか否かにつき明確な見通しがあったとは認め難いしたがって
補助金を支出するとしても,その額をより小額にするというということも
充分あり得たと考えられる。
,,,しかし今回行われたのはGというそれなりの優良会社の買収であり
株式の取得価格だけでも約6466万円もしたことからすると,3000
万円という補助金がその効果からすると過大であるとまではいい難く,こ
の点で,B村長に裁量権の逸脱,濫用があるとも認め難い。
(5)本件補助金のF村の財政に与えた影響
F村の平成17年度の一般会計予算は19億8000万円であり,そのう
ち,農業振興費及び商工振興費の内の補助金として計上されたのは合計でも
445万円に過ぎなかったことからすると,本件補助金3000万円は極め
て高額な補助金ということになる。しかも,本件補助金を3000万円とす
ることになったのは,Gの株式の購入価格の約2分の1ということだけであ
り,この点でも,参加人に交付する補助金の額について,より検討をする余
地があったとはいえる。
しかし,F村では,平成16年度からの繰越金が7836万6000円存
在しており,この補助金の支出により,直ちにF村の財政に何らかの影響を
与えたとまでは認められない。
(6)以上によると,本件補助金がE町との合併の直前に,急遽行われたもの
であり,F村の議員らとの意見交換が十分には行われずになされたものであ
ること,上記のとおり,参加人の株主等に一部の議員がなっていること,そ
の金額が多額であることなどの問題点はあるものの,本件補助金の支出は公
益上の必要性からなされたものであると認められ,その判断が社会通念上著
しく妥当性を欠くものとまではいえず,裁量権を逸脱,濫用したものである
とまではいえない。
第4結論
以上の次第で,原告らの請求は,その他の点を判断するまでもなく,理由が
ないから,棄却することとし,主文のとおり判決する。
さいたま地方裁判所第4民事部
裁判長裁判官遠山廣直
裁判官八木貴美子
裁判官辻山千絵

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