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言渡平成26年4月10日
交付平成26年4月10日
裁判所書記官
平成24年(ワ)第4028号特許権に基づく損害賠償請求事件
口頭弁論の終結の日平成26年1月21日
判決
当事者の表示別紙当事者目録記載のとおり
主文
原告らの請求をいずれも棄却する。
訴訟費用は原告らの負担とする。
事実及び理由
第1請求
被告は,原告ら各自に対し,それぞれ1500万円及びこれに対する訴状送
達の日の翌日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2事案の概要
本件は,車両用監視装置に関する特許権を共有する原告らが,被告によるカ
ーナビゲーション・システムの一部の製造,販売又は販売の申出がその特許
権を侵害したものとみなされるとして,被告に対し,不法行為による損害賠
償請求権基づき,それぞれ損害金1500万円及びこれに対する不法行為の
後の日である訴状送達の日の翌日から支払済みまで民法所定の年5分の割合
による遅延損害金の支払を求める事案である。
1前提事実(当事者間に争いのない事実並びに各項末尾掲記の証拠及び弁論の
全趣旨により容易に認められる事実)
(1)本件特許権
ア原告らは,発明の名称を「車両用監視装置」とする特許権(特許番号第
4094831号。以下「本件特許権」といい,この特許を「本件特許」
という。)を共有している。
イ被告は,平成24年2月14日,本件特許に対し特許無効審判(無効2
012-800010号)を請求し,特許庁は,同年7月20日,本件特
許を無効とするとの審決をした。原告らは,同年8月22日,これを不服
として,知的財産高等裁判所に上記審決の取消しを求める訴え(同裁判所
同年(行ケ)第10301号)を提起して,同年10月26日,特許請求
の範囲の減縮を目的として,本件特許出願の願書に添付した明細書(以下
「本件明細書」という。)の特許請求の範囲の訂正審判(訂正2012-
390139号)を請求し,これを受けて,同裁判所は,同年11月9日,
事件を審判官に差し戻すため,上記審決を取り消すとの決定をした。原告
らは,上記特許無効審判請求事件の係属中の平成25年2月1日,特許請
求の範囲の減縮又は明りょうでない記載の釈明を目的として,本件明細書
の特許請求の範囲等の訂正(以下,この訂正を「本件第1訂正」とい
う。)の請求をした。本件第1訂正は,本判決添付の特許公報(以下「本
件公報」という。)の該当項のとおり記載されていた請求項1,3及び4
を別紙「特許請求の範囲の記載」1のとおり訂正するという内容を含むも
のである。
ウ特許庁は,平成25年7月18日,本件第1訂正を認めるとした上,本
件特許を無効とするとの審決をした。原告らは,同年8月26日,これを
不服として,知的財産高等裁判所に上記審決の取消しを求める訴え(同裁
判所同年(行ケ)第10241号)を提起して,同年9月2日,特許請求
の範囲の減縮又は明りょうでない記載の釈明を目的として,本件明細書の
特許請求の範囲等の訂正審判(訂正2013-390128号。以下,こ
の訂正を「本件第2訂正」という。)の請求をした。本件第2訂正は,本
件公報の該当項のとおり記載されていた請求項1を別紙「特許請求の範囲
の記載」2の該当項のとおり訂正するという内容を含むものである。
(甲8ないし12,乙1,23,24)
(2)本件各発明
本件明細書の特許請求の範囲の請求項1,3及び4の記載は,本件公報の
該当項記載のとおりである(以下,この請求項1に係る発明を「本件発明
1」,請求項3に係る発明を「本件発明2」,請求項4に係る発明を「本件
第1訂正発明3」といい,これらを併せて「本件各発明」という。)。
本件第1訂正後の特許請求の範囲の請求項1,3及び4の記載は,別紙
「特許請求の範囲の記載」1のとおりであり(以下,この請求項1に係る発
明を「本件第1訂正発明1」,請求項3に係る発明を「本件第1訂正発明
2」,本件請求項4に係る発明を「本件第1訂正発明3」といい,これらを
併せて「本件各第1訂正発明」という。),本件第2訂正後の特許請求の範
囲の請求項1,3及び4の記載は,別紙「特許請求の範囲の記載」2のとお
りである(以下,この請求項1に係る発明を「本件第2訂正発明1」,請求
項3に係る発明を「本件第2訂正発明2」,請求項4に係る発明を「本件第
2訂正発明3」といい,これらを併せて「本件各第2訂正発明」という。)。
(3)被告によるカーナビゲーション・システムの製造等
被告は,業として,別紙物件説明書記載のカーナビゲーション・システム
(以下「本件カーナビ」という。)からカメラを除いたものの全部又は一部
(以下「被告製品」という。)を製造し,日産自動車株式会社(以下「日
産」という。)に対してこれを販売し,又は販売の申出をした。
(4)構成要件の分説
本件各発明,本件各第1訂正発明及び本件各第2訂正発明を構成要件に分
説すると,次のとおりである(以下,分説した構成要件をそれぞれの符号に
従い「構成要件1A」のようにいう。)。
ア本件各発明
(ア)本件発明1
1Aドアミラーに配設されており前輪近傍を撮像する撮像手段と,
1B前記撮像手段で撮像した第一の画像を画面に表示する表示手段と,
を備えた車両用監視装置であって,
1C前輪近傍の路面の画像を含む前記第一の画像と,車両の幅方向の
距離を示す第一の指標及び長さ方向の距離を示す第二の指標を有す
る第二の画像と,を合成して前記表示手段に表示させる画像合成手
段と,
1D前記第二の画像を上下左右に移動させ,前記画面における前記第
二の画像の位置を調整する表示位置調整手段と,
1Eを設けたことを特徴とする車両用監視装置。
(イ)本件発明2
1F前記第二の画像を表示するための画像データを記憶した記憶手段
1Gを有することを特徴とする請求項1に記載の車両用監視装置。
(ウ)本件発明3
1H前記表示位置調整手段は,前記第二の画像を上下左右に移動させ
る操作スイッチを有する
1Iことを特徴とする請求項1に記載の車両用監視装置。
イ本件第1訂正発明
(ア)本件第1訂正発明1
2Aドアミラーに配設されており,前記ドアミラーよりも前にある前
輪近傍を撮像する撮像手段と,
2B前記撮像手段で撮像した第一の画像を画面に表示する表示手段と,
を備えた車両用監視装置であって,
2C前輪近傍の路面及び車両の画像を含むが,車両先端が写っていな
い前記第一の画像と,車両の幅方向の距離を示す第一の指標及び車
両先端からの長さ方向の距離を前記幅方向に沿って延びる直線で示
す第二の指標を有する第二の画像と,を合成して前記表示手段に表
示させる画像合成手段と,
2D前記第二の画像を上下左右に移動させ,前記画面における前記第
二の画像の位置を調整する表示位置調整手段と,
2Eを設けたことを特徴とする車両用監視装置。
(イ)本件第1訂正発明2
2Fドアミラーに配設されており前輪近傍を撮像する撮像手段と,
2G前記撮像手段で撮像した第一の画像を画面に表示する表示手段と,
を備えた車両用監視装置であって,
2H前輪近傍の路面の画像を含む前記第一の画像と,車両の幅方向の
距離を示す第一の指標及び車両先端からの長さ方向の距離を直線で
示す第二の指標を有する第二の画像と,を合成して前記表示手段に
表示させる画像合成手段と,
2I前記第二の画像を上下左右に移動させ,前記画面における前記第
二の画像の位置を調整する表示位置調整手段と,を設け,
2J前記直線は,前記幅方向に沿って延び,
2K前記第二の画像を表示するための画像データを記憶した記憶手段
2Lを有することを特徴とする車両用監視装置。
(ウ)本件第1訂正発明3
2M前記第一の指標及び前記第二の指標は,前記路面上に位置するよ
うに前記表示手段に表示され,
2N前記車両の画像は,前記ドアミラーよりも前にある前輪の画像を
含み,
2O前記第二の指標は,車両先端からの長さ方向の距離が特定の長さ
となる位置に配置されており,
2P前記表示位置調整手段は,前記第二の画像を上下左右に移動させ
る操作スイッチを有する
2Qことを特徴とする請求項1に記載の車両用監視装置。
ウ本件各第2訂正発明
(ア)本件第2訂正発明1
3Aドアミラーに配設されており,前記ドアミラーよりも前にある前
輪近傍を撮像する撮像手段と,
3B前記撮像手段で撮像した第一の画像を画面に表示する表示手段と,
を備えた車両用監視装置であって,
3C前輪近傍の路面の画像及び車両の画像を含む前記第一の画像と,
車両の幅方向の距離を示す第一の指標及び車両先端からの車両の長
さ方向の距離を前記幅方向に沿って延びる直線によって示す第二の
指標を有する第二の画像と,を合成して前記表示手段に表示させる
画像合成手段と,
3D前記第二の画像を上下左右に移動させ,前記画面における前記第
二の画像の位置を調整する表示位置調整手段と,を設け,
3E前記第二の指標は,前記幅方向を横方向とした場合の前記第一の
画像における車両の画像の横の位置であって前記第一の画像におけ
る路面上の位置に配置された前記幅方向に沿って延びる直線の前記
長さ方向における配置位置によって前記長さ方向の距離を示す,
3Fことを特徴とする車両用監視装置。
(イ)本件第2訂正発明2
3G前記第二の画像を表示するための画像データを記憶した記憶手段
を有する
3Hことを特徴とする請求項1に記載の車両用監視装置。
(ウ)本件第2訂正発明3
3I前記表示位置調整手段は,前記第二の画像を上下左右に移動させ
る操作スイッチを有する
3Jことを特徴とする請求項1に記載の車両用監視装置。
(5)本件カーナビの構成要件充足性
ア本件各発明
(ア)本件発明1
本件カーナビは,ドアミラーに取り付けられており前輪近傍を撮像
するカメラと(1a),カメラで撮像した画像を画面に表示するデ
ィスプレイとを備えたサイドブラインドモニター付きカーナビゲー
ション・システムであって(1b),カメラで撮像した前輪近傍の
路面の画像を含む画像と,車両側面から幅方向にドアミラー先端よ
り約15㎝外側の所までの隔たりを示す側方目安ライン,及び車両
先端から長さ方向に約30㎝先の所までの隔たりを示す前端目安ラ
インとを合成してディスプレイに表示させる電子制御ユニットと
(1c),操作手段からの入力に基づき,側方目安ラインと前端目
安ラインを上下左右に移動させ,画面における上記両目安ラインの
位置を調整する電子制御ユニットと(1d),を設けたサイドブラ
インドモニター付きカーナビゲーション・システム(1e)である。
本件カーナビは,本件発明1の構成要件1A,1B及び1Eを充足
する。
(イ)本件発明2
本件カーナビは,側方目安ラインと前端目安ラインを表示するため
の画像データを記憶したメモリを有する(1f)サイドブラインド
モニター付きカーナビゲーション・システムである。
本件カーナビは,本件発明2の構成要件1Fを充足する。
(ウ)本件発明3
本件カーナビは,側方目安ラインと前端目安ラインの位置を調整す
る電子制御ユニットが,上記両目安ラインを上下左右に移動させる
インパネ等に設けられた操作スイッチ又はタッチパネル機能付きデ
ィスプレイに表示される操作ボタンを有する(1h)サイドブライ
ンドモニター付きカーナビゲーション・システムである。
イ本件各第1訂正発明
(ア)本件第1訂正発明1
本件カーナビは,ドアミラーに取り付けられており,ドアミラーより
も前にある前輪近傍を撮像するカメラと(2a),カメラで撮像した
画像を画面に表示するディスプレイとを備えたサイドブラインドモニ
ター付きカーナビゲーション・システムであって(2b),カメラで
撮像した前輪近傍の路面及び車両の画像を含むが,車両先端が写って
いない画像と,車幅の目安を示す側方目安ライン及び車両先端からの
長さ方向の距離を車両の幅方向に沿って延びる直線で示す前端目安ラ
インとを合成してディスプレイに表示させる電子制御ユニットと(2
c),操作手段からの入力に基づき,側方目安ラインと前端目安ライ
ンを上下左右に移動させ,画面における当該両目安ラインの位置を調
整する電子制御ユニットと(2d),を設けたサイドブラインドモニ
ター付きカーナビゲーション・システム(2e)である。
本件カーナビは,本件第1訂正発明1の構成要件2A,2B及び2E
を充足する。
(イ)本件第1訂正発明2
本件カーナビは,ドアミラーに取り付けられており前輪近傍を撮像す
るカメラと(2f),カメラで撮像した画像を画面に表示するディス
プレイとを備えたサイドブラインドモニター付きカーナビゲーショ
ン・システムであって(2g),カメラで撮像した前輪近傍の路面の
画像を含む画像と,車幅の目安を示す側方目安ライン及び車両先端か
らの長さ方向の距離を直線で示す前端目安ラインとを合成してディス
プレイに表示させる電子制御ユニットと(2h),操作手段からの入
力に基づき,側方目安ラインと直線で示す前端目安ラインを上下左右
に移動させ,画面における上記両目安ラインの位置を調整する電子制
御ユニットとを設け(2i),上記直線は,車両の幅方向に沿って延
び(2j),上記両目安ラインを表示するための画像データを記憶し
たメモリ(2k)を有するサイドブラインドモニター付きカーナビゲ
ーション・システム(2l)である。
本件カーナビは,本件第1訂正発明2の構成要件2F,2G及び2J
ないし2Lを充足する。
(ウ)本件第1訂正発明3
本件カーナビは,側方目安ラインと前端目安ラインが,前輪近傍の路
面上に位置するようにディスプレイに表示され(2m),車両の画像
は,ドアミラーよりも前にある前輪の画像を含み(2n),上記両目
安ラインの位置を調整する電子制御ユニットは,上記両目安ラインを
上下左右に移動させるインパネ等に設けられた操作スイッチ又はタッ
チパネル機能付きディスプレイに表示される操作ボタンを有する(2
p)サイドブラインドモニター付きカーナビゲーション・システムで
ある。
本件カーナビは,本件第1訂正発明3の構成要件2M及び2Nを充足
する。
ウ本件各第2訂正発明
(ア)本件第2訂正発明1
本件カーナビは,ドアミラーに取り付けられており,ドアミラーより
も前にある前輪近傍を撮像するカメラと(3a),カメラで撮像した
画像を画面に表示するディスプレイとを備えたサイドブラインドモニ
ター付きカーナビゲーション・システムであって(3b),カメラで
撮像した前輪近傍の路面の画像及び車両の画像を含む画像と,車幅の
目安を示す側方目安ライン及び車両先端からの車両の長さ方向の距離
を車両の幅方向に沿って延びる直線によって示す前端目安ラインとを
合成してディスプレイに表示させる電子制御ユニットと(3c),操
作手段からの入力に基づき,側方目安ラインと前端目安ラインを上下
左右に移動させ,画面における当該両目安ラインの位置を調整する電
子制御ユニットと,を設け(3d),前端目安ラインが,車両の幅方
向を横方向とした場合のカメラで撮像した画像における車両の画像の
横の位置であって,カメラで撮像した画像における路面上の位置に配
置された車両の幅方向に沿って延びる直線の車両の長さ方向における
配置位置によって車両先端からの車両の長さ方向の距離を示す(3
e),サイドブラインドモニター付きカーナビゲーション・システム
(3f)である。
本件カーナビは,本件第2訂正発明1の構成要件3A,3B及び3F
を充足する。
(イ)本件第2訂正発明2
本件カーナビは,側方目安ラインと前端目安ラインを表示するための
画像データを記憶したメモリを有する(3g)サイドブラインドモニ
ター付きカーナビゲーション・システムである。
本件カーナビは,本件第2訂正発明2の構成要件3Gを充足する。
(ウ)本件第2訂正発明3
本件カーナビは,側方目安ラインと前端目安ラインの位置を調整する
電子制御ユニットが,上記両目安ラインを上下左右に移動させるイン
パネ等に設けられた操作スイッチ又はタッチパネル機能付きディスプ
レイに表示される操作ボタンを有する(3i)サイドブラインドモニ
ター付きカーナビゲーション・システムである。
(甲3の3,17)
(6)先行技術
ア本件特許出願前に頒布された実願昭60-30262号(実開昭61-
146450号)のマイクロフィルム(以下「引用例1」という。)に
は,ドアミラーに設置されており前輪近傍を撮像するテレビカメラと,テ
レビカメラで撮像した映像を画面に表示するテレビ受像機と,を備えた自
動車の側方監視装置に係る発明(以下「引用発明1」という。)が記載さ
れている。
イ本件特許出願前に頒布された特開2001-180401号公報(以下
「引用例2」という。)には,車両前方の左前端及び右前端に配設されて
おり前輪近傍を撮影するカメラ(CFL,CFR)と,前記カメラで撮影
した画像を画面に表示するディスプレイと,を備えた運転支援装置であっ
て,前輪近傍の路面の画像を含む撮像手段で撮像した第一の画像と,車両
の幅方向の距離を示す第一の指標及び長さ方向の距離を示す第二の指標を
有する第二の画像と,を合成して表示手段に表示させる画像合成手段と,
前記第二の画像を表示するための画像データを記憶した記憶手段を有する
運転支援装置に係る発明(以下「引用発明2」という。)が記載されてい
る。
2争点
争点は,(1)本件各発明の技術的範囲の属否,(2)間接侵害の成否,(3)本件
特許権行使の可否であり,これに関する当事者の主張は,次のとおりであ
る。
(1)争点(1)(技術的範囲の属否,すなわち,本件カーナビが本件各発明の技
術的範囲に属するか)について
(原告らの主張)
ア構成要件1Cについて
本件カーナビの構成1cの「車幅の目安」,「側方目安ライン」,「車
両前方の位置の目安」,「前端目安ライン」及び「側方目安ライン及び…
前端目安ライン」は,本件発明1の構成要件1C「車両の幅方向の距
離」,「第一の指標」,「長さ方向の距離」,「第二の指標」及び「第一
の指標及び…第二の指標を有する第二の画像」にそれぞれ当たる。そうで
あるから,本件カーナビは,構成要件1Cを充足する。
イ構成要件1D及び1Hについて
本件カーナビの構成1d及び1hにおける「側方目安ラインと前端目安
ライン」は,本件発明1の構成要件1D及び本件発明3の構成要件1Hの
「第二の画像」に当たる。そうであるから,本件カーナビは,構成要件1
D及び1Hを充足する。
ウしたがって,本件カーナビは,本件各発明の技術的範囲に属する。
(被告の主張)
ア構成要件1Cについて
本件明細書の発明の詳細な説明には,構成要件1Cの「第二の画像」に
当たる距離指標画像32が「第一の指標」に当たる距離ライン32aと
「第二の指標」に当たる距離ライン32b,数字32cから構成されるこ
とが記載されている(段落【0015】等)。また,原告らは,平成17
年9月30日に提出した拒絶査定不服審判請求書において,本件各発明が
引用例と異なり,車両から障害物までの正確な距離を把握することができ
ることを強調していた。そうすると,構成要件1Cの「第一の指標」及び
「第二の指標」は,距離を数値で示す必要がある。本件カーナビの側方目
安ラインや前端目安ラインは,車両の外周の位置を示すにすぎず,距離を
数値で示すものではない。そうであるから,本件カーナビは,構成要件1
Cを充足しない。
イ構成要件1D及び1Hについて
本件明細書の発明の詳細な説明には,表示位置調整手段が距離指標画像
と車両指標画像を上下左右に移動させ,画面における当該両画像の位置を
調整する旨の記載しかない(段落【0017】,【0018】,【002
0】,【図6】)。そうすると,構成要件1D及び1Hの「表示位置調整
手段」は,距離指標画像と車両指標画像の位置を調整する必要がある。本
件カーナビは,電子制御ユニットが距離指標画像に当たる側方目安ライン
と前端目安ラインの位置を調整するだけで,車両指標画像がない。そうで
あるから,本件カーナビは,構成要件1D及び1Hを充足しない。
ウしたがって,本件カーナビは,本件各発明の技術的範囲に属しない。
(2)争点(2)(間接侵害の成否,すなわち,被告製品が本件カーナビの生産に
のみ用いる物に当たるか,又は,被告製品が本件カーナビの生産に用いる物
であって本件各発明による課題の解決に不可欠なものに当たり,かつ,被告
において被告製品の製造等の際に本件各発明が特許発明であること及び被告
製品が本件各発明の実施に用いられることを知っていたか)について
(原告らの主張)
被告製品は,本件カーナビの生産にのみ用いる物に当たる。
仮にこれが認められないとしても,被告製品は,本件カーナビの生産に用
いる物であり,カメラで撮像した画像と側方目安ライン及び前端目安ライン
とを合成してディスプレイに表示させたり画面における上記両目安ラインの
位置を調整したりする電子制御ユニットを有するから,本件各発明による課
題の解決に不可欠なものに当たる。そして,被告は,平成21年9月7日か
ら同月16日までの間に,原告日本精機株式会社から本件特許権の侵害を指
摘された日産との間で対応を協議したから,遅くとも同月16日以降は,被
告製品の製造等の際に本件各発明が特許発明であること及び被告製品が本件
各発明の実施に用いられることを知っていた。
(被告の主張)
原告らの主張は否認する。
(3)争点(3)(本件特許権行使の可否,すなわち,原告が本件特許権を行使す
ることができないか)について
ア争点(3)-1(本件各発明に係る特許が特許無効審判により無効にされ
るべきものと認められるか)
(被告の主張)
(ア)進歩性の欠如
a引用発明1に基づく本件各発明の容易想到性
(a)引用発明1は,本件各発明と構成要件1A,1B及び1Eにお
いて一致し,構成要件1C,1D及び1FないしIに相当する構成
がない点で相違する。
(b)引用例2の「車両61と車両11との間の間隔の目安となる距
離線64~66」(段落【0066】,【図16】)は本件発明1
の構成要件1Cの「車両の幅方向の距離を示す第一の指標及び長さ
方向の距離を示す第二の指標を有する第二の画像」に,引用例2の
「車両11の最外側の縁を表す表示ライン54」(段落【004
3】,【図8】)は上記構成要件の「車両の幅方向の距離を示す第
一の指標」にそれぞれ相当する。そうであるから,引用発明2は,
引用例2の段落【0014】,【0018】,【0043】,【0
066】,【図8】,【図16】等の記載を参酌すれば,前輪近傍
の路面の画像を含む撮像手段で撮像した第一の画像と,車両の幅方
向の距離を示す第一の指標及び長さ方向の距離を示す第二の指標を
有する第二の画像と,を合成して表示手段に表示させる画像合成手
段と,前記第二の画像を表示するための画像データを記憶した記憶
手段に係る構成をも含む。
また,本件特許出願前に頒布された特開平4-103444号公
報(以下「公報1」という。)の「距離スケール」,同特開平11
-11210号公報(以下「公報2」という。)4の「カメラスケ
ール」及び同特開平8-80791号公報(以下「公報3」とい
う。)の「距離目盛りパターン画像」は,本件発明1の構成要件1
Dの「第二の画像」に,公報3の「入力手段」は同構成要件の「表
示位置調整手段」にそれぞれ相当するから,第二の画像を上下左
右に移動させ,画面における前記第二の画像の位置を調整する表示
位置調整手段,及び,当該手段として前記第二の画像を上下左右に
移動させる操作スイッチに係る技術は,本件特許出願当時,周知慣
用のものであった。
(c)引用発明1及び引用発明2は,いずれも前輪近傍を撮像して画
面に表示する車の監視装置という同じ技術分野に属し,安全運転を
支援するという共通の作用効果を奏する。そして,撮像した画像に
距離を示す指標を合成して画面に表示させる技術は,周知慣用であ
って,引用発明2もその1つである。また,引用発明2において
は,撮像した画像と指標がずれる場合があるから,指標の位置を調
整するのは当然であるし,仮に当然でなくても,公報3ないし5に
記載された周知慣用の技術を適用する動機付けがある。
そうすると,本件各発明は,引用発明1に対し,構成要件1C及
び1Fに相当した構成を有する引用発明2を組み合わせ,構成要件
1D及び1Hに相当する構成を有する公報3ないし5に記載された
周知慣用技術を適用することにより,当業者が容易に想到すること
ができた。
b引用発明2に基づく本件各発明の容易想到性
(a)引用発明2は,本件各発明と構成要件1Aのうち車両「に配設
されており前輪近傍を撮像する撮像手段」,1B及び1Fにおいて
一致し,構成要件1Aのうち撮像手段がドアミラーに配設されてい
ること,1D及び1GないしIに相当する構成がない点で相違す
る。
(b)ドアミラーは,車両前方からやや後退した位置にある上,ミラ
ーの幅だけ車両から突出しているから,撮像手段を配設する場所と
して適している。また,本件特許出願前に頒布された特開平9-1
93710号公報(以下「公報4」という。)の段落【002
3】,【0025】の記載,同特開2001-180375号公報
(以下「公報5」という。)の段落【0003】の記載や同特開2
000-272418号公報(以下「公報6」という。)の記載に
よれば,撮像手段をドアミラーに配設する技術は,周知慣用のもの
であって,引用発明1もその1つである。
そうすると,本件各発明は,引用発明2に対し,構成要件1Aの
うち撮像手段がドアミラーに配設された構成を有する引用発明1を
組み合わせ,構成要件1D及び1Hに相当する構成を有する公報1
ないし3に記載された周知慣用技術を適用することにより,当業者
が容易に想到することができた。
(イ)サポート要件違反
仮に本件各発明に係る表示位置調整手段が第二の画像に当たる距離指
標画像のみを上下左右に移動させ,画面における当該画像の位置を調
整するものを含むのであれ,本件明細書の発明の詳細な説明には,表
示位置調整手段が距離指標画像と車両指標画像を上下左右に移動さ
せ,画面における当該両画像の位置を調整する旨の記載しかないか
ら,本件各発明は,発明の詳細な説明に記載されていないことにな
る。
(原告らの主張)
(ア)進歩性の欠如
a引用発明1に基づく本件各発明の容易想到性
(a)引用例2の「距離線64~66」は,車両11の左斜め前方に
ある車両61との距離を示す上,車両11から離れるほど両端が短
くなっていて,車両の左斜め前方向の距離を示す指標にすぎないか
ら,引用発明2は,車両の幅方向の距離を示す第一の指標及び長さ
方向の距離を示す第二の指標に係る構成を含むものではない。
また,公報1ないし3には,車両後方を撮像した画像において,
距離を示す指標をカメラの可動範囲に合わせて上下又は斜めに移動
させる技術しか開示されていないから,第二の画像を左右に移動さ
せる技術は,本件特許出願当時周知慣用でなかった。
(b)引用発明1に対して,引用発明2を組み合わせたり,公報1な
いし3記載された技術を適用したりしても,本件各発明に到達しな
い。
また,引用発明2において,指標の位置を調整するのが当然であ
るとはいえない。そして,引用発明2は,車両の左側面近傍を撮影
するから,車両の前方を撮影する引用発明2の課題を有しないし,
これとの組合せを阻害する要因がある。引用発明1は,カメラが動
かないから,車両後方を撮像するとともにカメラが動く公報1ない
し3に記載された技術を適用する動機付けがないし,上記技術を適
用すると距離感が分かりにくくなるから,上記技術の適用を阻害す
る要因がある。
そうすると,本件各発明は,引用発明1に対して,引用発明2を
組み合わせたり,公報1ないし3に記載された技術を適用したりし
ても,当業者が容易に想到することができたとはいえない。
b引用発明2に基づく本件各発明の容易想到性
(a)引用発明2は,車両の幅方向の距離を示す第一の指標及び長さ
方向の距離を示す第二の指標に係る構成を含むものではないから,
本件各発明の構成要件1C及び1Fに相当する構成がない点も,本
件各発明と引用発明2との相違点になる。
(b)引用発明2に対して,引用発明1を組み合わせたり,公報1な
いし3に記載された技術を適用したりしても,本件各発明の構成に
到達しない。
また,引用発明2は,車両前方を撮影するから,車両の左側面近
傍を撮影する引用発明1の課題を有しないし,引用発明1との組合
せを阻害する要因がある。引用発明2は,車両前方を撮影するか
ら,車両後方を撮像する公報1ないし3に記載された技術を適用す
る動機付けがないし,上記技術を適用すると距離感が分かりにくく
なるから,上記技術の適用を阻害する要因がある。
そうすると,本件各発明は,引用発明2に対して,引用発明1を
組み合わせたり,公報1ないし3に記載された技術を適用したりし
ても,当業者が容易に想到することができたとはいえない。
(イ)サポート要件違反
本件明細書の発明の詳細な説明の段落【0017】や【0018】,
【0020】は,表示位置調整手段が距離指標画像のみを上下左右に
移動させ,画面における当該画像の位置を調整する旨の記載を含むも
のと理解することができるから,本件各発明は,発明の詳細な説明に
記載されている。
イ争点(3)-2(本件第1訂正又は本件第2訂正が適法であり,これによ
り無効理由が解消され,かつ,本件カーナビが本件各第1訂正発明又は本
件各第2訂正発明の技術的範囲に属するか)
(原告らの主張)
(ア)本件第1訂正
a本件明細書の発明の詳細な説明において第二の指標を示す「距離ラ
イン32b」(段落【0015】【図1】)の「ライン」は,直線
を含むから,本件明細書には,第二の指標を直線で示すことが記載
されており,本件第1訂正は,本件明細書に記載した事項の範囲内
である。
b本件第1訂正は,本件各発明に対して,第二の指標が示す距離を車
両先端からのものにするとともに,第二の指標を車両の幅方向に沿
って延びる直線で示す構成等を加えるものであり,当該構成を加え
る動機付けがない上に,仮に動機付けがあるとしても,死角となる
前輪近傍を撮像しつつ,車両先端から障害物までの距離を推測する
ことができ,車両を前方の壁等にできるだけ近づけられるなどとい
った顕著な作用効果を奏する。そうであるから,当業者は,引用発
明1又は2に基づいて容易に本件各発明を想到することができたと
しても,容易に本件各第1訂正発明を想到することができたとはい
えない。
c本件カーナビは,次のとおり,本件各第1訂正発明の技術的範囲に
属する。
(a)構成要件2C及び2Hについて
本件カーナビの構成2cの「車幅の目安」,「側方目安ライン」,
「前端目安ライン」及び「側方目安ライン及び…前端目安ライン」
は,本件第1訂正発明1の構成要件1C「車両の幅方向の距離」,
「第一の指標」,「第二の指標」及び「第一の指標及び…第二の指
標を有する第二の画像」にそれぞれ当たる。また,本件カーナビの
構成2hの「側方目安ライン」,「前端目安ライン」及び「側方目
安ライン及び…前端目安ライン」は,本件第1訂正発明2の構成要
件2Hの「第一の指標」,「第二の指標」及び「第一の指標及び…
第二の指標を有する第二の画像」にそれぞれ当たる。そうであるか
ら,本件カーナビは,構成要件2C及び2Hを充足する。
(b)構成要件2D及び2Iについて
本件カーナビの構成2d及び2iの「側方目安ラインと前端目安
ライン」は,本件第1訂正発明1の構成要件2D及び本件第1訂正
発明2の構成要件2Iの「第二の画像」に当たる。そうであるか
ら,本件カーナビは,構成要件2D及び2Hを充足する。
(c)構成要件2Oについて
本件カーナビは,前端目安ラインが車両先端からの長さ方向の距
離が特定の長さとなる位置に配置されているから,構成要件2Oを
充足する。
(イ)本件第2訂正
a本件第2訂正は,前記(ア)aと同様に,本件明細書に記載した事項
の範囲内である。
b本件第2訂正は,本件各発明に対して,第二の指標が車両の画像の
横の位置にあるとともに,第二の指標が示す距離を車両の長さ方向
における直線の配置位置によるものとする構成等を加えるものであ
り,当該構成を加える動機付けがない上に,仮に動機付けがあると
しても,死角となる前輪近傍を撮像しつつ,車両先端から障害物ま
での距離を推測することができ,車両を前方の壁等にできるだけ近
づけられるなどといった顕著な作用効果を奏する。そうであるか
ら,当業者は,引用発明1又は2に基づいて容易に本件各発明を想
到することができたとしても,容易に本件各第1訂正発明を想到す
ることができたとはいえない。
c本件カーナビは,次のとおり,本件各第2訂正発明の技術的範囲に
属する。
(a)構成要件3C及び3Eについて
本件カーナビの構成2cの「車幅の目安」,「側方目安ライン」,
「前端目安ライン」及び「側方目安ライン及び…前端目安ライン」
は,本件第2訂正発明3の構成要件3Cの「車両の幅方向の距
離」,「第一の指標」,「第二の指標」及び「第一の指標及び…第
二の指標を有する第二の画像」にそれぞれ当たる。また,本件カー
ナビの構成3eの「前端目安ライン」は,本件第2訂正発明3の構
成要件3Eの「第二の指標」に当たる。そうであるから,本件カー
ナビは,構成要件3C及び3Eを充足する。
(b)構成要件3D
本件カーナビの構成3dの「側方目安ラインと前端目安ライン」
は,本件第2訂正発明3の構成要件3Dの「第二の画像」に当た
る。そうであるから,本件カーナビは,構成要件3Dを充足する。
(被告の主張)
(ア)本件第1訂正について
a本件明細書には,第二の指標を直線で示すことが記載されていない
から,本件第1訂正は,本件明細書に記載した事項の範囲内でな
い。【図1】は,第二の指標が直線で示されているが,図面にすぎ
ない上,それは車両の前方が直線状だからである(段落【002
2】参照)。
b本件第1訂正が本件各発明に対して加えた構成は,いずれも公報1
又は2に記載されている事項か設計事項にすぎない上,第二の指標
が示す距離を車両先端からのものにしたり第二の指標を直線で示し
たりする技術は,公報2の【図4】,公報3の【図3】,【図
5】,【図6】及び【図7】),本件特許出願前に頒布された特開
平7-2021号公報の【図12】,同実開昭63-153681
号のマイクロフィルムの第1図,同特開平7-117561号公報
の【図3】並びに同実開平3-8941号のマイクロフィルムの補
正後の第3図によれば,周知慣用であった。そうであるから,当業
者は,引用発明1又は2に基づいて容易に本件各第1訂正発明を想
到することができた。
c本件カーナビは,次のとおり,本件各第1訂正発明の技術的範囲に
属しない。
(a)構成要件2C及び2Hについて
構成要件2C及び2Hの「第一の指標」及び「第二の指標」は,
距離を数値で示す必要があるが,本件カーナビの側方目安ラインや
前端目安ラインは,車両の外周の位置を示すにすぎず,距離を数値
で示さないから,本件カーナビは,構成要件2C及び2Hを充足し
ない。
(b)構成要件2D及び2Iについて
構成要件2D及び2Iの「表示位置調整手段」は,距離指標画像
と車両指標画像の位置を調整する必要があるが,本件カーナビは,
電子制御ユニットが距離指標画像に当たる側方目安ラインと前端目
安ラインの位置を調整するだけで,車両指標画像がないから,本件
カーナビは,構成要件1D及び1Hを充足しない。
(c)構成要件2Oについて
本件カーナビは,前端目安ラインが車両先端からの長さ方向の距
離が特定の長さとなる位置に配置されているものではないから,構
成要件2Oを充足しない。
(イ)本件第2訂正について
a本件第2訂正は,前記(ア)aと同様に,本件明細書に記載した事項
の範囲内でない。
b本件第2訂正が本件各発明に対して加えた構成は,前記(ア)と同
様,いずれも引用例1又は2に記載されている事項か設計事項にす
ぎない上,周知慣用技術であった。そうであるから,当業者は,引
用発明1又は2に基づいて容易に本件各第2訂正発明を想到するこ
とができた。
c本件カーナビは,次のとおり,本件各第2訂正発明の技術的範囲に
属しない。
(a)構成要件3C及び3Eについて
構成要件3C及び3Eの「第一の指標」及び「第二の指標」は,
距離を数値で示す必要があるが,本件カーナビの側方目安ラインや
前端目安ラインは,車両の外周の位置を示すにすぎず,距離を数値
で示さないから,本件カーナビは,構成要件3C及び3Eを充足し
ない。
(b)構成要件3Dについて
構成要件3Dの「表示位置調整手段」は,距離指標画像と車両指
標画像の位置を調整する必要があるが,本件カーナビは,電子制御
ユニットが距離指標画像に当たる側方目安ラインと前端目安ライン
の位置を調整するだけで,車両指標画像がないから,本件カーナビ
は,構成要件3D及び1Hを充足しない。
第3当裁判所の判断
1争点(1)(技術的範囲の属否)について,判断する。
(1)構成要件1Cについて
ア距離とは「①隔たり。間。②2点を結ぶ線分の長さ。」を意味し,指標
とは「物事の見当を付けるための目印。」を意味する(広辞苑(第6
版))。そして,証拠(甲2)によれば,本件明細書の発明の詳細な説明
には,「図1は,表示器28の画面28aに表示された画像の一例を示す
ものである。…32は車両からの距離を示す指標である距離指標画像(第
二の画像)であり,この距離指標画像32は,車両側面からの距離を示す
距離ライン32a(第一の指標)と,車両先端からの距離を示す距離ライ
ン32b(第二の指標)と,距離ライン32aの傍らに表示される数字3
2cとからなるものである。」(段落【0015】)と記載されているこ
とが認められるから,構成要件1Cの「車両の幅方向の距離を示す第一の
指標及び長さ方向の距離を示す第二の指標」は,車両側面から幅方向の隔
たりを示す目印及び車両先端からの長さ方向の隔たりを示す別の目印を意
味するものと解される。
本件カーナビの構成1cの側方目安ライン及び前端目安ラインは,車両
側面から幅方向の隔たりを示す目印と車両先端から長さ方向の隔たりを示
す別の目印であるから,構成要件1Cの「車両の幅方向の距離を示す第一
の指標及び長さ方向の距離を示す第二の指標を有する第二の画像」に該当
する。
イ被告は,距離指標画像が数字からも構成される上,原告らが拒絶査定不
服審判請求書において本件各発明が正確な距離を把握することができる旨
を強調していたから,構成要件1Cの「第一の指標」及び「第二の指標」
は距離を数値で示す必要があると主張する。しかしながら,本件明細書の
発明の詳細な説明の段落【0015】には,「第一の指標」や「第二の指
標」に当たる距離ラインだけでも距離を示すことが明記されているから,
「距離」が数値でなくて隔たりの意味で用いられていることは明らかであ
る。被告の上記主張は,採用することができない。
ウそうであるから,本件カーナビは,構成要件1Cを充足する。
(2)構成要件1D及び1Hについて
ア本件カーナビの構成1dの画面における側方目安ラインと前端目安ライ
ンの位置を調整する操作手段と電子制御ユニットは,構成要件1Dの「表
示位置調整手段」に該当し,構成1hのインパネ等に設けられた操作スイ
ッチ又はタッチパネル機能付きディスプレイに表示される操作ボタンは,
構成要件1Hの「操作スイッチ」に該当する。
イ被告は,本件明細書の発明の詳細な説明には,表示位置調整手段が距離
指標画像と車両指標画像を上下左右に移動させ,画面における当該両画像
の位置を調整する旨の記載しかないから,構成要件1D及び1Hの「表示
位置調整手段」が距離指標画像と車両指標画像の位置を調整する必要があ
ると主張する。しかしながら,請求項1は,「表示位置調整手段」が距離
指標画像に当たる「第二の画像」の位置を調整することを規定するにとど
まり,車両指標画像の位置を調整することまでは規定していない。被告の
上記主張は,採用することができない。
ウそうであるから,本件カーナビは,構成要件1D及び1Hを充足する。
(3)したがって,本件カーナビは,本件各発明の技術的範囲に属する。
2そこで,争点(3)(本件特許権行使の可否)について、判断することとす
る。
(1)争点(3)-1(本件各発明に係る特許が特許無効審判により無効にされる
べきものと認められるか)について
ア証拠(乙2ないし6)によれば,引用例1,2及び公報1ないし3に
は,次の記載があることが認められる。
(ア)引用例1
「〔産業上の利用分野〕本考案は自動車の側方監視装置に係り,特に自
動車の側方の死角部分を運転者が運転席に居ながらにして十分に確認
できるようにした監視装置に関するものである。
〔従来の技術及び考案が解決しようとする問題点〕最近,自動車のフ
ロントボンネット形状が従来の箱型からウェッジ型へと変化し,また
リアビューミラーの取付位置もフロントフェンダ部分からドア部分へ
と変わってきた。その結果,運転席(運転席は車体中央より右側寄り
にあるものとして説明する)からは車体の左端の位置を確認するため
の基準となるべきものが何も見えず,従って,車体の左端がどこまで
あるのかがよく解らない状態となっている。またこのようなデザイン
の自動車はもちろんのこと,従来の箱型等のものであっても,運転席
から見ると車体左側面近傍は所謂死角となり,安全運転上問題となっ
ていた。特に狭い道路における離合や車庫入れ等に際しては,車7左
側面近傍の死角部分についての安全が確認できず,そのために車体左
側面を電柱や塀等に接触させたり,溝の中へ左車輪を脱落させたり,
また極端な場合には通行人に接触することなどがあった。」(1頁1
3行ないし2頁16行)
「〔考案の効果〕本考案は以上の如くであるから,テレビカメラによっ
てフロントフェンダ部近傍を運転席から十分に監視できるようにな
り,脱輪や障害者との衝突を未然に防ぐなど,安全確認効果は極めて
著しい。」(7頁10行ないし15行)
(イ)引用例2
「【0001】【発明の属する技術分野】本発明は,運転支援装置及び
運転支援方法に関するものである。
【0002】【従来の技術】従来,自動車等の車両においては,一般
に大きな車体を有するので,運転者が運転席に座って車外を見ると,
車両の外部周縁の近傍に死角が形成される。」
「【0004】そこで,運転者にとって死角の部分のうち,車両の後方
の左右両側を撮影するために第1,第2のカメラを,車両の前方の左
右両側を撮影するために第3,第4のカメラをそれぞれ配設した運転
支援装置が提供されている(特開平5-310078号公報参
照)。」
「【0005】【発明が解決しようとする課題】しかしながら,前記従
来の運転支援装置においては,第1~第4の画像が並行に,かつ,同
時に運転者に提供されるので,運転者にとって各第1~第4の画像か
ら必要な情報を得るための作業が煩わしい。また,所定の選択キー等
を操作することによって,第1~第4の画像のうちの必要な一つの画
像を選択し,表示画面の全体にわたって形成することができるが,前
記選択キー等を操作する必要があるので,画像を形成するための作業
が煩わしい。さらに,最適な画像を選択するために運転者による思考
が要求されるので,画像上の有用な情報が見過ごされてしまうことが
ある。しかも,緊急性を要する情報である場合,即座に画像を選択す
ることが困難であり,作業が一層煩わしくなってしまう。
【0006】本発明は,前記従来の運転支援装置の問題点を解決し
て,運転者にとって死角の部分の画像のうち,運転者の意図に合う最
適な画像を形成することができ,しかも,画像を形成するための作業
を簡素化することができる運転支援装置及び運転支援方法を提供する
ことを目的とする。」
「【0013】図1は本発明の実施の形態における運転支援装置の機能
ブロック図である。
【0014】図において,CFL,CFR,CRL,CRRは,車両に搭載さ
れ,所定の被撮影体を撮影する撮像装置としてのカメラ,22は表示
画面を備えた表示部としてのディスプレイ…91は,撮影によって得
られた画像を前記表示画面に形成する画像形成処理手段…である。」
「【0018】前記カメラCFL,CFR,CML,CMR,CRL,CRRは,CCD
カメラから成り,被撮影体としての車外の道路,溝,壁,車両11の
一部等を撮影する撮像装置を構成する。」
「【0025】カメラCFL,CFR,CRL,CRRは,車両11の前端,後
端,左端及び右端の延長線上を推測するために必要な範囲を撮影する
ことができるように,しかも,運転者が運転席に座って車外を見ると
きの視線の方向とほぼ一致する方向に向けて配設される。」
「【0043】なお,画像PFL,PFR,PRL,PRRには,車両11の一
部,溝52,壁53等が表示されるとともに,車両11の最外側の縁
を表す表示ライン54が表示される。該表示ライン54は,車両11
の最外側のラインを地面に垂直に下ろし,前記ラインを車両11の前
後方向に延長させることによって設定され,車両11の前方又は後方
に向けて突出させられる。」
「【0063】次に,障害物を回避する場合の画像PFLの例について説
明する。
【0064】図15は本発明の実施の形態における障害物回避表示処
理によって形成される画像の第1の例を示す図,図16は本発明の実
施の形態における障害物回避表示処理によって形成される画像の第2
の例を示す図である。
【0065】図において,11は車両,61は障害物としての他の車
両である。」
「【0066】また,画像PFLの第2の例においては,車両61と車両
11との間の間隔の目安となる距離線64~66を車両11からの距
離(例えば「15㎝」,「50㎝」,「2m」等)と共に画像PFLに表
示することもできる。」
(ウ)公報1
「特許請求の範囲
車両の後方を確認するカメラと,距離スケールの図形や文字を発生
させる信号発生装置と,カメラからの映像信号と信号発生装置から出
力された画像信号を多重させる多重装置と,多重された画像信号を上
下方向に移動させる入力手段と,前記多重装置から出力された画像信
号を表示するモニタと,これらの装置を制御するコントローラから構
成され,前記モニタ上に映し出される後方の風景の中で,前記距離ス
ケールを上下に任意に動かすことにより,距離スケールと実画面上の
正確な位置合せを容易に実現させることを特徴とする後方確認表示装
置。」
「(産業上の利用分野)本発明は車両後方確認カメラを搭載した後方確
認表示装置に関するものである。
(従来の技術)…カーエレクトロニクスは車の安全性,快適性,娯楽
性の向上を追求するものであるが特に車両後方の安全性確保と死角除
去のために,後方確認カメラを搭載する車が増えている。
以下図面を参照しながら,上述した従来の後方確認表示装置の一例に
ついて説明する。
第4図は従来の後方確認表示装置を示すものである。第4図におい
て,41は後方確認カメラ,42はモニタ,43はモニタ前面カバー
に印刷された距離を示すスケール,44は車両,45は距離の目安に
なるフラッグである。」(1頁左欄17行ないし右欄16行)
「この後方確認カメラ41を車両44へ取付け,表示距離の位置を調整
する場合,距離を示すフラッグ45を車両の後方に一定距離をおいて
立てる。この距離は画面上のスケールがたとえば10mであれば,1
0mに合せる。次にモニタ42を見ながら後方確認カメラ41を矢印
の方向に回転させ,距離スケール43とフラッグ45を合せる。その
位置で後方確認カメラを固定すれば,距離合せは完了する。
(発明が解決しようとする課題)
しかしながら,上記のような構成では,距離合せをする際カメラを回
転する人と,モニタを見ながら回転方向位置を指示する人が必要であ
り,また,固定しても車体の振動,風圧等によりカメラの位置がず
れ,正確な距離が表示できない可能性があった。また回転する空間確
保や,機構上からも取付け位置や方法も困難であった。
本発明の目的は,従来の欠点を解消し,後方確認カメラからの映像信
号に図形文字信号を発生する信号発生器からの距離スケールを多重さ
せ,この距離スケールを任意に上下できる手段を付加し,距離合せの
正確化,容易化を図る後方確認表示装置を提供することである。」
(2頁左上欄5行ないし右上欄6行)
「第1図においてキースイッチ13のアップキー14,ダウンキー15
を押す毎にROM5よりパターンを読み出し,キーの種類と回数によ
り上記演算をし,ビデオRAM6に書き込めば,任意に図形,文字パ
ターンを上下方向に移動させることができる。
第3図は実際に位置合せする方法を図示したものであり,車両16の
屋根に後方確認カメラ1が取り付けられている。車両の後方にたとえ
ば,10mの位置にフラッグ17を立て,その映像を表示したものが
画面21であり,ここで,アップキー14を押すとパターン22,2
5が上方に移動し,パターン23,26はそれぞれ24,27の中間
まで移動する。逆にダウンキー15を押すと22~27は下方に移動
し,任意にフラッグ17の位置に合せ込むことができる。」(3頁左
上欄10行ないし右上欄4行)
(エ)公報2
「【0001】【発明の属する技術分野】本発明は,車両の後方に設置
されたカメラからの映像を表示するとき,同時に車幅や距離等の目安
をモニタ上に表示するカメラスケール表示装置に関するものである。
【0002】【従来の技術】従来のカメラスケール表示装置とし
て,特開平4-103444号公報に記載された構成が知られてい
る。…図4に従来のカメラスケール表示例を示している。」
「【0004】図4(a),(b)は車両とカメラ位置並びに距離関係を
示す側面図,平面図である。図4(c)は図4(a),(b)の内容のカメ
ラ映像とカメラスケールの表示例であり,図中の符号41~48は表
示ポイントのカメラスケールである。」
「【0006】【発明が解決しようとする課題】しかしながら,上述
した従来のカメラスケール表示装置では,カメラスケールを一定条件
下でのパターンとしてROM11に記憶しているため,自由に後方確
認用カメラ1の取付け位置を選択できない。また,車幅が想定してい
たものと異なっていたり,後方確認用カメラ取り付け位置の地上高が
想定していた高さと異なったり,後方確認用カメラ取付け位置が車両
中央から左右にずれていた場合,後方確認用カメラ1の取付け角度を
変更したり,カメラスケール全体パターンの上下移動だけではカメラ
スケールと実際の車幅や距離と合わせることができず,カメラスケー
ルの表示は実際の車幅や距離と合わせることができず。カメラスケー
ルの表示は実際の車幅や距離と大きく異なってしまうという問題点が
あった。」
「【0008】本発明は,上記従来の問題点を解決するもので,基本
カメラスケールを想定した車幅やカメラ取付け位置の地上高や左右位
置に関係なく,後方確認用カメラの取付け位置を自由に選択でき,実
際の車幅,距離に合ったカメラスケールに表示位置を修正可能なカメ
ラスケール表示装置を提供することを目的とするものである。」
「【0015】図2はカメラスケールの表示例を示すものである。後
方確認用カメラ1を車両13に対して図2(a),(b)に示すような位
置関係で取り付けた場合,基本カメラスケールのままで図2(c)に示
すように,カメラスケール21,22,23,24,25,26,2
7,28は実際の距離や車幅を示す線と全く異なってしまう。こそ
で,カメラスケール21~28を図2(d)に示すカメラスケール31
~38の位置に移動させればよい。
【0016】まず,書換可能メモリ9内のカメラスケール21の座
標データ(X21,Y21)をカメラスケール31の座標データ(X
31,Y31)に変更し,書換可能メモリ9に記憶する。例えば,カ
メラスケール21が車両右側後方10mの位置を示す予定であれば,
そのポイントに何か目印を置き,そのポイントにカメラスケール21
が表示されるようにカメラスケール21を移動させ,その座標データ
(X31,Y31)を新たなカメラスケール21の座標データとして
書換可能メモリ9内の座標データを変更する。同様にして,カメラス
ケール22~28のそれぞれの座標データをカメラスケール32~3
8の各座標データに変更する。その新たな座標データにて描画LSI
10がカメラスケールを表示デバイス5に表示させることにより,図
2(d)に示すように実際の車幅や距離に合ったカメラスケールとして
表示が可能となる。」
(オ)公報3
「【0001】【産業上の利用分野】本発明は,目視による後方確認
が困難な,たとえば,バス,トラック,1ボックスカー又はキャンピ
ングカー等の車両に適用する車載用後方確認装置の改良に関する。」
「【0003】…特開平5-213113号公報には,後方画像に,
距離目盛りパターン画像をオーバーラップ表示するものが記載されて
いる。これによれば,ディスプレイ上の距離目盛りを確認することに
よって,距離感を正しくつかむことができ,障害物までの距離を直感
的に把握することができる。
【0004】【発明が解決しようとする課題】しかしながら,かか
る公報記載の従来装置にあっては,距離目盛りパターン画像が固定の
ものであったため,たとえば,カメラの取り付け方が適正でなかった
り,又は,走行中の振動でカメラの取り付け傾斜角がずれたりした場
合には,距離目盛りパターン画像と後方画像との対応関係が不適切と
なり,運転者は,誤った距離認識をしてしまい,かえって安全性を阻
害するという問題点があった。
【0005】【目的】そこで,本発明は,カメラ(撮影手段)の取
り付け状態に応じて距離目盛りパターン画像を補正することにより,
距離目盛りパターン画像と後方画像との対応関係を常に適切化し,以
て,運転者による正確な距離認識を安定的に確保することを目的とす
る。」
「【0011】…図1~図7は請求項1及び請求項2記載の発明に係る
車載用後方確認装置の一実施例を示す図である。まず,構成を説明す
る。図1において,1はCCD(ChargeCoupledDevice)又は撮像管
等を用いたテレビカメラ(以下「カメラ」と略す)であり,このカメ
ラ1は,車両2の所定位置(車両後方を広く見渡すことのできる,た
とえば車両後部の高所)に取り付けられ,その撮影レンズ1aは,車
両2の後方に向いている。すなわち,カメラ1は,車両2に取り付け
られ,該車両2の後方画像Vを撮影する撮影手段として機能する。
【0012】3はカメラ1を車両2に取り付けるための取り付け金
具である。この取り付け金具3は,カメラ1の取り付け傾斜角(カメ
ラアングルθ;以下,単に「アングルθ」と言う)を,所定の範囲内
で自在に調節できるものであり,アングルθは角度センサ4によって
検出される。また,5はカメラ1の取り付け高Hを設定するための設
定スイッチであり,この設定スイッチ5には,たとえば,ディップス
イッチやロータリースイッチ等が用いられ,地面からカメラ1までの
高さを計測して,その値を手動で設定するものである。上記の角度セ
ンサ4及び設定スイッチ5は,一体として検出手段を構成する。
【0013】…7は,画像発生手段及び補正手段並びに第二の画像
発生手段としての機能を有するコントロールユニットである。コント
ロールユニット7は,第一受信部7a,第二受信部7b,RAM
(randomaccessmemory)7c,ROM(readonlymemory)7d,C
PU(centralprocessingunit)7e,画像合成部7f及び画像出力
部7gを含み,バックアイシステムの主要な機能をソフト的及びハー
ド的に実現する。すなわち,CPU7eは,ROM7dに格納されて
いる所定の処理プログラムを実行し,所定の時間ごとに,第一受信部
7aを介してアングルθ及び取り付け高Hを取り込むとともに,テー
ブルルックアップ等の手法によって,これらの取り込みデータ(θ,
H)に応じた距離目盛りパターン画像Sを発生するもので,距離目盛
りパターン画像は,θとHの組み合わせの数だけROM7dに格納さ
れている。」
「【0014】画像合成部7fは,CPU7eによって選択された距
離目盛りパターン画像Sとカメラ1で撮影された後方画像Vとを重ね
合わせ,オーバーラップ画像Oを生成するもので,オーバーラップ画
像Oは,画像出力部7gを介し,運転席に設けられたディスプレイ
(表示手段)8に出力される。」
イ前記(1)認定の引用例2の記載によれば,引用発明2は,左右前端付近の
道路の画像を含む車両前方の左前端及び右前端に配設されているカメラ
(CFL,CFR)で撮影した画像と,車両の左前端から左斜め前方向の隔
たりを示す距離線又は車両側面から幅方向の隔たりを示す表示ラインとを
合成してディスプレイに表示させる画像形成処理手段と,前記距離線又は
表示ラインを表示するための画像データを記憶した画像形成処理手段に係
る構成を含むものと認められる。そして,これらのうちの「道路」,「カ
メラ」,「隔たり」,「距離線」及び「表示ライン」,「ディスプレイ」
並びに「画像形成処理手段」は,本件各発明の「路面」,「撮像手段」,
「距離」,「指標」,「表示手段」並びに「画像合成手段」及び「記憶手
段」にそれぞれ相当するから,引用発明2は,前輪近傍の路面の画像を含
む車両前方の左前端及び右前端に配設されている撮像手段で撮像した画像
と,車両の左斜め前方向の距離を示す指標又は車両の幅方向の距離を示す
指標を有する別の画像と,を合成して表示手段に表示させる画像合成手段
と,前記別の画像を表示するための画像データを記憶した記憶手段に係る
構成を含むものである。
被告は,引用例2の「距離線64~66」が構成要件1Cの「車両の幅
方向の距離を示す第一の指標及び長さ方向の距離を示す第二の指標」に相
当すると主張する。しかしながら,カメラは,運転者が運転席に座って車
外を見るときの視線の方向とほぼ一致する方向に向けて配設される(段落
【0025】)上,証拠(乙3)によれば,引用例2の【図16】におけ
る距離線64ないし66は,車両11から離れるほど両端が短くなってい
ることが認められるから,車両前方の左前端に配設されているカメラで撮
影した画像と合成されて表示される距離線は,運転者からの視線の方向で
ある左斜め前方向の距離を示すと考えるのが自然である。被告の上記主張
は,採用することができない。
ウ本件各発明と引用発明2とを対比すると,本件各発明と引用発明2と
は,「車両に配設されており運転者にとって死角となる部分を撮像する撮
像手段と,前記撮像手段で撮像した画像を画面に表示する表示手段と,を
備えた車両用監視装置であって,運転者にとって死角となる部分の路面の
画像を含む前記画像と,車両の幅方向の距離を示す指標を有する別の画像
と,を合成して前記表示手段に表示させる画像合成手段と,前記別の画像
を表示するための画像データを記憶した記憶手段を有する車両用監視装
置。」である点で一致し,次の4点で相違する。
(ア)本件各発明では,撮像手段がドアミラーに配設され前輪近傍を撮像
しているのに対し(構成要件1A及び1Cの一部),引用発明2で
は,撮像手段が車両前方の左前端及び右前端に配設されている点(以
下「相違点1」という。)
(イ)本件各発明では,別の画像が長さ方向の距離を示す指標を有するの
に対し(構成要件1Cの一部),引用発明2では,これがない点(以
下「相違点2」という。)
(ウ)本件各発明では,別の画像を上下左右に移動させ,画面における別
の画像の位置を調整する表示位置調整手段を有するのに対し(構成要
件1D),引用発明2では,これがない点(以下「相違点3」とい
う。)
(エ)本件発明3では,表示位置調整手段として,別の画像を上下左右に
移動させる操作スイッチを有するのに対し(構成要件1H),引用発
明2では,これがない点(以下「相違点4」という。)
エそこで,相違点について検討する。
(ア)相違点1について
引用発明2と引用発明1は,カメラとこれで撮影した画像を画面に表
示する表示手段とを備えた車両用監視装置という同一の技術分野に属
する。そして,前記(1)認定の引用例1の記載に証拠(乙8,9)を総
合すれば,自動車のフロントボンネットの形状は,遅くとも昭和61
年ころには箱形からウェッジ型に変わり,これとともに,リアビュー
ミラーの取付位置もフロントフェンダ部分からドア部分へ変わったこ
と,これにより,運転席とは反対側の側面(通常は左側面)のうちド
アミラーよりも前の前輪近傍が死角になり,接触事故や脱輪の原因に
なることがあったので,本件特許出願当時,ドアミラーよりも前の前
輪近傍を運転席から監視する装置を提供することが周知の課題であっ
たことが認められる。そうすると,死角部分となり得る前輪近傍の撮
像が十分でない引用発明2に接した当業者は,上記課題を容易に認識
することができたものである。引用発明1は,上記課題とその解決手
段を提供しているものであるから,当業者は,引用発明2に引用発明
1を容易に組み合わせ,撮像手段を車両前方の左右各前端からドアミ
ラーに移し,前輪近傍を撮像することができたものと認められる。
(イ)相違点2について
車両に配設されているカメラで撮影した画像に距離を示す指標を合成
して表示手段に表示させる技術が,すれ違いや縦列駐車等,障害物に
接触しやすい場所をこれに接触したりしないように運転する必要があ
る場合に,死角にある障害物との距離を把握するという課題を解決す
るものであることは,自明である。また,証拠(乙4ないし7,1
6,20)によれば,車両に配設されているカメラで撮影した画像に
長さ方向の距離を示す指標を合成して表示手段に表示させる技術は,
本件特許出願当時,周知慣用技術であったことが認められる。引用発
明2は,車両の幅方向の距離を示す指標に加え,車両の左斜め前方向
の距離を示す指標をも開示しているから,当業者は,別の画像に長さ
方向の距離を示す指標を適宜加えることができたものと認められる。
(ウ)相違点3及び4について
a前記(1)認定の公報1ないし3の記載によれば,公報1の「カメ
ラ」,「モニタ」,「距離スケール」,「多重装置」,「ROM」
及び「キースイッチ」,公報2の「カメラ」,「表示デバイス」,
「カメラスケール」,「描画LSI」及び「書換可能メモリ」,公
報3の「カメラ」,「ディスプレイ」,「距離目盛りパターン」,
「画像合成部」,「ROM」及び「設定スイッチ」は,本件各発明
の「撮像手段」「表示手段」,「指標」,「画像合成手段」,「記
憶手段」及び「操作スイッチ」にそれぞれ相当する。
そうすると,本件特許出願当時,車両後部に配設されており車両後
方を撮像する撮像手段と,前記撮像手段で撮像した画像を画面に表
示する表示手段と,を備えた車両用監視装置であって,車両後方の
路面の画像を含む上記画像と,車両後端から長さ方向の隔たりを示
す指標を有する別の画像と,を合成して前記表示手段に表示させる
画像合成手段と,前記別の画像を上下又は左右に移動させ,前記画
面における前記別の画像の位置を調整する表示位置調整手段と,前
記別の画像を表示するための画像データを記憶した記憶手段と,前
記表示位置調整手段は,前記別の画像を上下に移動させる操作スイ
ッチを有する車両用監視装置に係る技術は,本件特許出願当時,周
知慣用であったものと認められる。
b引用発明2と公報1ないし3に記載された周知慣用技術は,カメラ
とこれで撮影した画像を画面に表示する表示手段とを備えた車両用
監視装置であって,上記画像と距離を示す指標を有する別の画像と
を合成して上記表示手段に表示させる画像合成手段と,上記別の画
像を表示するための画像データを記憶した記憶手段を有する車両用
監視装置という同一の技術分野に属する。また,前記(1)認定の事実
に証拠(甲3の3)を総合すれば,カメラをドアミラーに配設して
も,車体の振動や乗車人数等により,距離を示す指標がずれるか
ら,当該指標を上下左右に移動させ,画面における位置を調整する
手段を提供することが自明の課題であったことが認められる。そう
すると,距離を示す指標の位置を調整しない引用発明2に接した当
業者は,上記課題を容易に認識することができたものである。公報
1ないし3に記載された周知慣用技術は,上記課題とその解決手段
を提供しているものであるから,当業者は,引用発明2に公報1な
いし3に記載された周知慣用技術を容易に適用し,別の画像を上下
又は左右に移動させ,画面における別の画像の位置を調整する表示
位置調整手段と,別の画像を上下に移動させる操作スイッチを加え
ることができたものと認められる。
c原告らは,引用発明2が車両前方を撮影するから,車両後方を撮像
する公報1ないし3に記載された技術を適用する動機付けがないと
主張する。しかしながら,ずれた指標の位置を調整する手段を提供
するという課題やその解決手段は,車両の前後で異なるものではな
いから,動機付けはあるといわなければならない。原告らの上記主
張は,採用することができない。
オそうすると,本件各発明は,引用発明2に引用発明1を組み合わせ,公
報1ないし3に記載された周知慣用技術を適用することにより,当業者が
容易に想到することができたものと認められる。
したがって,本件特許は,特許無効審判により無効にされるべきもので
ある。
(2)争点(3)-2(本件第1訂正又は本件第2訂正が適法であり,これにより
無効理由が解消され,かつ,本件カーナビが本件各第1訂正発明又は本件各
第2訂正発明の技術的範囲に属するか)について
ア本件各第1訂正発明について
本件第1訂正による訂正は,別紙「特許請求の範囲の記載」1の下線を
付した箇所であるが,これが特許請求の範囲の減縮に当たるものであると
しても,これらの箇所は,いずれも当業者が適宜選択することができる設
計的事項にすぎない(なお,原告らは,死角となる前輪近傍を撮像しつ
つ,車両先端から障害物までの距離を推測することができ,車両を前方の
壁等にできるだけ近づけられるなどといった顕著な作用効果を奏すると主
張するが,そのような作用効果は,引用発明1と引用発明2の両作用効果
の総和とほとんど変わらないというべきであるから,原告らの上記主張
は,採用することができない。)。
そして,本件各発明は,引用発明2に引用発明1を組み合わせ,公報1
ないし3に記載された周知慣用技術を適用することにより,当業者が容
易に想到することができたものであるところ,さらに構成を適宜加え
て,本件各第1訂正発明の構成とすることは,当業者であれば,容易に
想到することができたものと認められる。
そうすると,本件第1訂正がされたとしても,本件特許は,特許無効審
判により無効にされるべきものである。
イ本件各第2訂正発明について
本件第2訂正による訂正は,別紙「特許請求の範囲の記載」2の下線を
付した箇所であるが,これが特許請求の範囲の減縮に当たるものである
としても,これらの箇所は,いずれも当業者が適宜選択することができ
る設計的事項にすぎない
そして,本件各発明は,引用発明2に引用発明1を組み合わせ,公報1
ないし3に記載された周知慣用技術を適用することにより,当業者が容
易に想到することができたものであるところ,さらに構成を適宜加え
て,本件各第2訂正発明の構成とすることは,当業者であれば,容易に
想到することができたものと認められる。
そうすると,本件第2訂正がされたとしても,本件特許は,特許無効審
判により無効にされるべきものである。
(3)したがって,原告らは,被告に対し本件特許権を行使することができな
い。
3以上に判示したところによれば,原告らの請求は,その余の点について判断
するまでもなく,理由がない。
よって,原告らの請求を棄却することとして,主文のとおり判決する。
東京地方裁判所民事第47部
裁判長裁判官高野輝久
裁判官藤田壮
裁判官志賀勝は,転補のため署名押印することができない。
裁判長裁判官高野輝久
(別添特許公報は省略)
当事者目録
新潟県長岡市<以下略>
原告日本精機株式会社
埼玉県朝霞市<以下略>
原告有限会社ヒューマンリンク
上記両名訴訟代理人弁護士
笠原基広
同訴訟復代理人弁護士中村京子
竹中大樹
同補佐人弁理士木村満
杉本和之
大神田梢
早川牧子
関山健一
白井健朗
さいたま市<以下略>
被告クラリオン株式会社
同訴訟代理人弁護士古城春実
牧野知彦
特許請求の範囲の記載
1本件第1訂正後の請求項1,3及び4(訂正部分に下線を付す。)
【請求項1】ドアミラーに配設されており,前記ドアミラーよりも前にある前輪
近傍を撮像する撮像手段と,前記撮像手段で撮像した第一の画像を画面に表
示する表示手段と,を備えた車両用監視装置であって,
前輪近傍の路面及び車両の画像を含むが,車両先端が写っていない前記第一
の画像と,車両の幅方向の距離を示す第一の指標及び車両先端からの長さ方
向の距離を前記幅方向に沿って延びる直線で示す第二の指標を有する第二の
画像と,を合成して前記表示手段に表示させる画像合成手段と,
前記第二の画像を上下左右に移動させ,前記画面における前記第二の画像の
位置を調整する表示位置調整手段と,を設けたことを特徴とする車両用監視
装置。
【請求項3】ドアミラーに配設されており前輪近傍を撮像する撮像手段と,前記
撮像手段で撮像した第一の画像を画面に表示する表示手段と,を備えた車両
用監視装置であって,
前輪近傍の路面の画像を含む前記第一の画像と,車両の幅方向の距離を示す
第一の指標及び車両先端からの長さ方向の距離を直線で示す第二の指標を有
する第二の画像と,を合成して前記表示手段に表示させる画像合成手段と,
前記第二の画像を上下左右に移動させ,前記画面における前記第二の画像の
位置を調整する表示位置調整手段と,を設け,
前記直線は,前記幅方向に沿って延び,
前記第二の画像を表示するための画像データを記憶した記憶手段を有するこ
とを特徴とする車両用監視装置。
【請求項4】前記第一の指標及び前記第二の指標は,前記路面上に位置するよう
に前記表示手段に表示され,
前記車両の画像は,前記ドアミラーよりも前にある前輪の画像を含み,
前記第二の指標は,車両先端からの長さ方向の距離が特定の長さとなる位置
に配置されており,
前記表示位置調整手段は,前記第二の画像を上下左右に移動させる操作スイ
ッチを有することを特徴とする請求項1に記載の車両用監視装置。
2本件第2訂正後の請求項1,3及び4(訂正部分に下線を付す。)
【請求項1】ドアミラーに配設されており,前記ドアミラーよりも前にある前輪
近傍を撮像する撮像手段と,前記撮像手段で撮像した第一の画像を画面に表
示する表示手段と,を備えた車両用監視装置であって,
前輪近傍の路面の画像及び車両の画像を含む前記第一の画像と,車両の幅方
向の距離を示す第一の指標及び車両先端からの車両の長さ方向の距離を前記
幅方向に沿って延びる直線によって示す第二の指標を有する第二の画像と,
を合成して前記表示手段に表示させる画像合成手段と,
前記第二の画像を上下左右に移動させ,前記画面における前記第二の画像の
位置を調整する表示位置調整手段と,を設け,
前記第二の指標は,前記幅方向を横方向とした場合の前記第一の画像におけ
る車両の画像の横の位置であって前記第一の画像における路面上の位置に配
置された前記幅方向に沿って延びる直線の前記長さ方向における配置位置に
よって前記長さ方向の距離を示す,ことを特徴とする車両用監視装置。
【請求項3】前記第二の画像を表示するための画像データを記憶した記憶手
段を有することを特徴とする請求項1に記載の車両用監視装置。
【請求項4】前記表示位置調整手段は,前記第二の画像を上下左右に移動さ
せる操作スイッチを有することを特徴とする請求項1に記載の車両用監視装
置。

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採用情報


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弁護士募集(経験者 司法修習生)
激動の時代に
今後の弁護士業界はどうなっていくのでしょうか。 もはや、東京では弁護士が過剰であり、すでに仕事がない弁護士が多数います。
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詳細は、面談の上、決定させてください。

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お気軽にお問い合わせ下さい。
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◎秘書等の支援可能
◎事務所の名称は自由に選択可能
◎業務に関する質問等可能
◎事務所事件の共同受任可

応募方法
メールまたはお電話でご連絡ください。
残り応募人数(2019年5月1日現在)
採用は2名
独立支援は3名

連絡先
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