弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     原判決及び第一審判決を破棄する。
     被告人は無罪。
         理    由
 一 弁護人市来誠次の上告趣意は、単なる法令違反の主張であつて、刑訴法四〇
五条の上告理由にあたらない。
 二 しかし、所論にかんがみ職権をもつて調査すると、原判決及び第一審判決は、
次の理由により破棄を免れないものと認められる。
 (一)原判決が認定した事実の要旨は、「被告人は、昭和四九年七月七日施行の
参議院議員通常選挙の運動期間中に、東京都千代田区の所有・管理する歩道内緑地
帯に立てられていた参議院(全国選出)議員候補者の選挙運動用ポスター(選挙管
理委員会交付の証紙付き)二〇枚貼付のプラカード一一本をつぎつぎに引き抜いて
路端に放棄した。」というのであつて、右事実によれば、被告人の本件行為は、外
形上、街頭に掲示中の選挙運動用ポスター(以下「ポスター」という。)の効用を
毀損したことになるものと認められる。
 (二)公職選挙法(以下「法」という。)一四五条一項及び同法施行規則一八条
によれば、参議院(全国選出)議員の選挙において、国又は地方公共団体の所有・
管理する公道にポスターを掲示することはできないこととされ、右の掲示が例外的
にも許容されるような根拠規定はない。本件ポスターは、参議院(全国選出)議員
候補者の選挙運動者らがプラカードを利用し区道に掲示したもので、ポスター自体
を区道に直接貼付したわけではない。しかし、右のプラカードは、既設の掲示板の
類と異なり、独立した工作物というよりもポスターを路上に掲示するための補助手
段にすぎず、区道利用の実態としてはポスターと一体視すべきものであつて、右の
ようないわゆるプラカード式ポスターの区道上への掲示は、法一四五条一項本文に
違反するものと解すべきである。
 (三)ところで、選挙の自由妨害に関する法二二五条が刑法の特別法として重い
罰則を規定している趣旨は、選挙の自由と公正の確保にあるとされているのである
から、同条の保護の対象となる選挙運動は、原則として適法なものに限られるべき
である。
 (四)そして、本件ポスターの掲示方法の違反は、法二四四条三号によつて処罰
される行為であり、しかもその違法は選挙の自由と公正を甚だしく阻害するものと
認められるのであるから、このようなポスターの掲示そのものを選挙の自由妨害罪
の客体として保護するに値するものと見ることは困難であり、右の違法掲示のポス
ターを撤去したに止まつている被告人の本件行為を法二二五条二号に該当するもの
として処罰することはできないと解すべきである。
 三 以上のとおり、原判決及び第一審判決には法令解釈の誤りがあつて、右の誤
りが判決に影響を及ぼし、これを破棄しなければ著しく正義に反することは明らか
である。
 よつて、刑訴法四一一条一号、四一三条但書、四一四条、四〇四条、三三六条に
より、主文のとおり判決する。
 この判決は、裁判官岡原昌男の補足意見、裁判官栗本一夫の反対意見があるほか、
裁判官全員一致の意見によるものである。
 裁判官岡原昌男の補足意見は、次のとおりである。
 一 本件の選挙運動用ポスター(以下「ポスター」という。)の掲示方法は、多
数意見の説くように、公職選挙法(以下「法」という。)上、例外なしに違法なの
であるから、本件について、ポスターの掲示に関する許可・承諾の有無、あるいは
掲示が適法か違法かが判然しない場合には、一応適法な掲示と推定して保護すべき
であるとの議論の成立つ余地は客観的にないものと思料する。
 検察官は、「法一四五条一項はポスターを道路上に直接貼り付けることを禁じて
いるに止まり、道路に支柱を用いてプラカードを立て、これにポスターを貼付・掲
示するいわゆる間接掲示は同条項に違反しない。」旨の行政解釈を支持しているも
のの如くであるが、そのような見解は常識的ではないし、また、同条項が、衆議院
議員・参議院(地方選出)議員などの候補者の個人演説会用の立札及び看板の類(
これらは、本件のプラカード式ポスターと形体、効用において類似する。)の掲示
について準用されている(法一六四条の二第五項)ことからみても、そのような解
釈の採るべからざるものであることは明らかである。
 二 思うに、法は、選挙運動についてすべての者のひとしく守るべき一定の枠を
設け、候補者をしてその枠内において自由かつ公正に相争わせることとする一方、
その選挙の自由を妨害する者に対しては罰則をもつて臨み、もつて選挙の自由と公
正を担保しているのであるが、このことからみれば、選挙運動が右の枠を外れた場
合、その違反が極めて些細なものであるときは格別、自ら進んで選挙の公正を紊し
選挙運動の基本理念に著しく背馳するような行為をする者は、選挙の自由妨害罪を
もつて保護されるに値しないといわざるをえないものであることは、公務執行妨害
罪が成立するためには公務の適法性が要件とされるのとあたかも似たような関係に
あるものといえる。
 三 ところで、もしも、多くの候補者・選挙運動者が法一四五条一項の禁止規定
に触れないように文書活動をする中にあつて、一部の者が右禁止に反しあえて公道
にポスターを掲示するということになれば、附近には同種のポスターが掲示されて
いないため一層人目を引くこととなるのであるし、しかも当局からの違法ポスター
撤去命令が多くは無視され、違法掲示のまま選挙終了まで放置され勝ちな実情に徴
すれば、本件のようなポスターの掲示方法の違反は、選挙運動の自由と公正に重大
な悪影響を及ぼすものであつて、その違法な掲示行為は選挙の自由妨害罪をもつて
保護するにはとうてい値しないものであり、被告人の行為は法二二五条二号には該
当しないものと解する外はない。
 四 原判決は、本件のような掲示方法の違法なポスターは、選挙管理委員会が法
一四七条に基づいて、又は区が所有権・管理権に基づいて撤去を求めうるに止まり、
一般私人には撤去する権限はないということを理由に有罪説を組み立てているよう
であるが、問題は権限の有無ではなくて、私人が撤去した場合に選挙の自由を妨害
したものとして処罰されるのかどうかということである。また、本件のような被告
人の行為が処罰されないと解すれば、他派候補者のポスターのみを撤去する者も現
われ不公正を来すことになると案ずる論もあるが、もともと処罰されるような違法
掲示のポスターの減少することは、それだけ選挙の浄化に資するものと考えるべき
であろうし、さらに、掲示方法の適法なポスターを違法なものと誤解して撤去する
者の続出を憂慮する点についても、それらの者は、その掲示を違法と信じ若しくは
撤去が許されるものと信ずるについて、客観的に合理的と認められる理由がない限
り、犯意があるものとして処罰されることになるわけであつて、いささかも支障は
ない。なお、ポスター自体又はプラカードとともにポスターを汚損又は破毀すれば、
別個に器物損壊などの罪の成立する場合がありうることは、もちろんであるが、本
件についていえば、被告人によつて撤去されたプラカード式ポスターは、何等毀損
されることなく、約三〇分後に回収されたものであることを付言する。
 裁判官栗本一夫の反対意見は、次のとおりである。
 本件選挙運動用ポスターは、プラカードと一体をなして東京都千代田区の所有・
管理する歩道内緑地帯を不法占拠する状態で掲示されていたもので、多数意見のい
うように、これが公有財産へのポスターの掲示を禁止している公職選挙法(以下「
法」という。)一四五条一項本文に抵触するものであることは否定できない。
 しかし、ポスターの掲示の適法・違法の判断の前提となる事実関係には微妙な面
があつて、これに伴う法的評価が必ずしも外観上一義的に把握できるとはいえない
場合が多く、現に本件でも、通りがかりの学生は被告人に本件ポスターの撤去が許
されない旨注意をうながし、東京都選挙管理委員会など関係行政機関の担当者は本
件ポスターの掲示が前記法条に違反していないと解釈(本件のようなプラカード式
ポスターは、道路そのものに直接ポスターを掲示するものではなく、道路に工作物
を設置し、それにポスターを掲示しているのであつて、道路に対し、いわば間接掲
示の関係にあるから、前記法条に違反しないとする。)しており、法律上撤去権の
ない第三者の独自の判断による掲示の違法なポスターの撤去を放任するならば、結
果的には、適法に掲示されているポスターをも誤つて撤去されるという混乱を生む
おそれがある。
 したがつて、原判決の判示するように適法な是正措置がとられるまでの間は、掲
示の違法なポスターであつても、一応選挙の自由妨害罪の保護の対象になると解す
るのが相当である。
 してみれば、前記歩道内緑地帯に立てられていた本件ポスター(選挙管理委員会
交付の証紙付き)二〇枚が貼付されているプラカード一一本をつぎつぎに引き抜い
て路上に投げすてた、という被告人の本件行為が掲示中の選挙運動用ポスターを毀
棄したものとして法二二五条二号に該当することは明らかであり、右ポスターの掲
示が法一四五条一項本文に違反するか否かにかかわりなく同条三項等の適法なポス
ター撤去権をもたない被告人の本件行為につき選挙の自由妨害罪の成立を認めた原
判決及び第一審判決は、正当として是認することができるので、本件上告は棄却す
べきものである。
 検察官鎌田好夫 公判出席
  昭和五一年一二月二四日
     最高裁判所第二小法廷
         裁判長裁判官    大   塚   喜 一 郎
            裁判官    岡   原   昌   男
            裁判官    吉   田       豊
            裁判官    本   林       譲
            裁判官    栗   本   一   夫

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