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平成24年2月16日判決言渡同日原本領収裁判所書記官
平成23年(行ウ)第514号決定処分取消請求事件
口頭弁論終結日平成23年12月15日
判決
当事者の表示別紙当事者目録記載のとおり
主文
1原告の請求をいずれも棄却する。
2訴訟費用は原告の負担とする。
3原告のために,この判決に対する控訴のための付加期間を3
0日と定める。
事実及び理由
第1請求
1特許庁長官が特願2009-546441について平成22年4月6日付け
で原告に対してした平成21年7月14日付け提出の国内書面に係る手続を却
下する旨の処分を取り消す。
2特許庁長官が特願2009-546441について平成22年3月17日付
けで原告に対してした平成21年9月17日付け提出の国際出願翻訳文提出書
に係る手続を却下する旨の処分を取り消す。
第2事案の概要
本件は,工業所有権の保護に関するパリ条約(以下,単に「パリ条約」とい
う。)に基づいた優先権の主張を伴う英語での国際特許出願をした原告が,翻
訳文提出特例期間の経過後に翻訳文を提出したために,国際特許出願を取り下
げたものとみなされ,国内書面及び翻訳文に係る両手続がいずれも却下された
ことから,上記優先権の主張を取り下げ,優先日を国際出願日に繰り下げたこ
とにより,翻訳文提出特例期間の経過前に翻訳文を提出したことになるとして,
両却下処分の取消しを求める事案である。
1前提事実(争いのない事実並びに証拠及び弁論の全趣旨により容易に認めら
れる事実)
(1)原告は,平成19年1月23日に米国特許商標庁に対してした仮出願第6
0/897082号,同第60/897219号,同第60/897220
号,同第60/897225号に基づくパリ条約の優先権(以下「本件優先
権」という。)を主張して,平成20年1月22日,米国特許商標庁に対し,
英語で国際出願(PCT/US2008/000750)をした。当該国際
出願は,所定の国際出願日が認められるとともに,指定国に日本国を含むも
のであったから,特許法184条の3第1項により,上記国際出願日にされ
た特許出願(特願2009-546441。以下「本件出願」という。)と
みなされた。(仮出願につき甲2)
(2)原告は,本件出願につき,特許庁長官に対し,国内書面提出期間の末日で
ある平成21年7月23日の経過前に当たる同月14日付けで国内書面を提
出したものの,明細書等の翻訳文については,翻訳文提出特例期間の末日で
ある同年9月14日の経過後に当たる同月17日付けで提出した。
(3)原告は,平成22年1月22日,本件出願につき,特許庁長官に対し,本
件優先権の主張を取り下げる旨の書面を提出した(提出日につき甲4)。
(4)特許庁長官は,原告が,翻訳文提出特例期間内に翻訳文を提出しなかった
ことにより,本件出願が取り下げられたものとみなされるとして,平成22
年3月17日付けで,平成21年9月17日付け提出の国際出願翻訳文提出
書に係る手続を却下するとともに,平成22年4月6日付けで,平成21年
7月14日付け提出の国内書面に係る手続を却下した(以下,両却下処分を
「本件両処分」という。)。
(5)原告は,平成22年5月31日,特許庁長官に対し,本件両処分について
行政不服審査法に基づく異議申立てをしたところ,同年11月17日付けで
これを棄却する旨の決定を受け,翌18日,決定書謄本の送達を受けた。こ
れを受け,原告は,平成23年5月18日に上記決定の取消しを求める訴え
当庁(同年(行ウ)第319号)を提起し,次いで同年9月2日,本件両処分
の取消しを求める本件訴えを上記決定の取消しを求める訴えに併合して提起
し(行政事件訴訟法20条),その後,上記決定の取消しを求める訴えを取
り下げた。
2争点及び当事者の主張
本件の争点は,本件両処分の違法性である。
(原告の主張)
(1)本件出願の優先日は,原告が本件優先権の主張を取り下げる旨の書面を提
出したことにより,本件優先権の主張が取り下げられ,本件優先権の主張の
基礎となる出願の日である平成19年1月23日から本件出願の日である平
成20年1月22日に繰り下げられた(特許法184条の4第1項,197
0年6月19日にワシントンで作成された特許協力条約2条(xi)(a)・
(c))。このため,原告は,本件出願につき,翻訳文提出特例期間の経過前
に明細書等の翻訳文も提出したことになり,本件出願を取り下げたものとは
みなされないことになる。
(2)パリ条約や特許法には,優先権の主張の取下げを認める規定はないもの
の,これを禁じる規定もない。特許法には,出願審査の請求のように(同法
48条の3第3項),取下げを禁じる場合,明文の規定がある。優先権の主
張を取り下げても,特許出願がなくなるわけではなく,特許要件の判断基準
時が繰り下がるだけであるから,優先権の主張の取下げは認められるべきで
ある。
(3)以上によれば,本件両処分は違法であるから,原告は,被告に対し,本件
両処分の各取消しを求める。
(被告の主張)
(1)本件出願は,原告が翻訳文提出特例期間内に翻訳文を提出しなかったこと
により,取り下げられたものとみなされ(特許法184条の4第3項),出
願の効果が消滅しているから,その後に優先権の主張を取り下げる旨の書面
が提出されても,何らの効果も生じない。
(2)その点をおくとしても,パリ条約の優先権が主張されると,以後は第2国
出願手続に吸収され,その一部となるから,優先権の主張の取下げを認める
には,吸収されて一部となったものを分離する規定や取下げ後の先後願関係,
新規性等の判断基準日を定める規定が必要であるが,そのような規定はない。
また,優先権の主張の取下げは,優先権の主張の効力を失う不利益行為に当
たるから,代理人への特別受権事項とされるべきであるが,そのよう規定も
ない(特許法9条参照)。優先権の主張と出願審査の請求は,法的性格が異
なるから,同様に理解することはできない。したがって,優先権の主張の取
下げは,認められるべきでない。
(3)以上によれば,本件両処分は適法であるから,本件両処分は取り消される
べきでない。
第3当裁判所の判断
1前記第2の1(前提事実)(2)のとおり,本件出願は,原告が翻訳文提出特例
期間内に明細書等の翻訳文を提出しなかったことにより,取り下げられたもの
とみなされ(特許法184条の4第3項),出願の効果が消滅しているから,
その後に優先権の主張を取り下げる旨の書面が提出されても,何らの効果も生
じないことは明らかである。
2以上によれば,原告の請求は,いずれも理由がないからこれを棄却すること
とし,主文のとおり判決する。
東京地方裁判所民事第47部
裁判長裁判官阿部正幸
裁判官志賀勝
裁判官小川卓逸
(別紙)
当事者目録
ドイツ連邦共和国<以下略>
原告ヴァレオ・シャルター・ウント・
ゼンゾーレン・ゲーエムベーハー
同特許管理人弁理士竹沢荘一
同中馬典嗣
同森浩之
東京都千代田区<以下略>
被告国
処分行政庁特許庁長官
同指定代理人秦智子
同進藤晶子
同佐藤一行
同大江摩弥子
同河原研治

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