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平成14年(行ケ)第96号 特許取消決定取消請求事件
平成15年5月8日判決言渡,平成15年4月24日口頭弁論終結
     判    決
 原     告     株式会社丸徳基業
 原     告     東洋ロックソイル株式会社
 原告ら訴訟代理人弁理士 久保司
 被     告     特許庁長官 太田信一郎
 指定代理人       鈴木憲子,田中弘満,大野克人,林栄二
     主    文
 原告らの請求を棄却する。
 訴訟費用は原告らの負担とする。
     事実及び理由
第1 原告らの求めた裁判
 「特許庁が異議2000-73352号事件について平成14年1月15日にし
た決定を取り消す。」との判決。
第2 事案の概要
 本件は,後記本件発明の特許権者である原告らが,特許異議の申立てを受けた特
許庁により本件特許を取り消すとの決定がされたため,同決定の取消しを求めた事
案である。
 なお,本件発明の明細書(甲1)では「オーガ」,刊行物1(甲3)及び同2
(甲4)では「オーガー」と記載されているが,本判決では,前者に準じ,刊行物
1及び2などを引用する場合を含め,すべて「オーガ」と統一して表記する。
 1 前提となる事実等
 (1) 特許庁における手続の経緯
 (1-1) 本件特許(特許に係る発明を「本件発明」という。)
 特許権者:原告ら(特許設定登録時の特許権者は原告株式会社丸徳基業であった
が,平成12年4月10付け登録により,特許権の一部が原告東洋ロックソイル株
式会社に移転された。)
 発明の名称:「掘削工法」
 特許出願日:平成4年9月1日(特願平4-259144号)
 特許権設定登録日:平成11年12月24日
 特許番号:第3015842号
 (1-2) 本件手続
 特許異議事件番号:異議2000-73352号
 異議の決定日:平成14年1月15日
 決定の結論:「特許第3015842号の請求項1に係る特許を取り消す。」
 決定謄本送達日:平成14年2月4日(原告らに対し)
 (2) 本件発明の要旨
「【請求項1】 先端に掘削刃を設けたケーシングを回転させながら切り込み,こ
のケーシング内にオーガスクリューを該ケーシングと反対向きに回転させて掘削す
る掘削工法において,ケーシングは本体管の先端に掘削刃を有するケーシングヘッ
ドを嵌着するものであり,オーガヘッドの長さはこのケーシングヘッドの長さより
数十センチメートル短いものとし,オーガスクリューのオーガヘッドの掘削刃は前
記ケーシング先端の掘削刃より数センチメートル~十数センチメートル引っ込むよ
うにケーシングをわずかに先行させて切り込むことを特徴とする掘削工法。」
 (3) 決定の理由
 決定の理由は,【別紙】の「異議の決定の理由」に記載のとおりである。要する
に,本件発明は,刊行物1(特公昭63-25130号公報,本訴甲3)及び刊行
物2(特開昭60-133189号公報,本訴甲4)に記載された周知発明,刊行
物2に記載された発明並びに審判甲1-1(本訴甲7-1-1)及び審判甲2-1
(本訴甲7-2-1)の取合図に基づいて製作され本件特許の出願前に販売された
掘削機に係る公知の発明に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたもの
であるから,本件発明の特許は,特許法29条2項の規定に違反してなされたもの
である,というものである。
 2 原告らの主張(決定取消事由)の要点
 (1) 取消事由1(周知発明の認定の誤り)
 本件発明は,オーガヘッドの掘削刃の先端をもってケーシング先端の掘削刃との
相対的位置を図るものと具体化されているが,刊行物2記載のものは,オーガ等の
掘削手段先端部とケーシング先端により相対的位置関係が記載されており,本件発
明のように掘削刃をもって比較するか否か不明である。また,本件発明では,オー
ガスクリューのオーガヘッドの掘削刃は,ケーシング先端の掘削刃より数センチメ
ートル~十数センチメール引っ込むようにケーシングをわずかに先行させて切り込
むものであるが,刊行物2では,従来技術に関し,ケーシング内のオーガ等の掘削
手段先端部を,ケーシング先端から10~20cm程度ケーシング内に挿入した状態で掘
削が行われていることが記載されているものの,十センチメール以下の数センチメ
ートルの部分については示されていない。
 よって,決定は,周知発明として,「刊行物1,2には,『先端に掘削刃を設け
たケーシングを回転させながら切り込み,このケーシング内にオーガスクリユーを
該ケーシングと反対向きに回転させて掘削し,ケーシングは本体管の先端に掘削刃
を有するケーシングヘッドを嵌着するものであり,オーガスクリューのオーガヘッ
ドの掘削刃は前記ケーシング先端の掘削刃より引っ込むようにケーシングをわずか
に先行させて切り込む掘削工法』という周知の技術(以下,「周知発明」とい
う。)が記載されている。」と認定しているが,誤っており,「先端に掘削刃を設
けたケーシングを回転させながら切り込み,このケーシング内にオーガスクリユー
を該ケーシングと反対向きに回転させて掘削し,ケーシングは本体管の先端に掘削
刃を有するケーシングヘッドを嵌着するものであり,オーガスクリューのオーガヘ
ッドの先端は前記ケーシング先端より引っ込むようにケーシングをわずかに先行さ
せて切り込む掘削工法」というように認定されるべきである。
 (2) 取消事由2(公知発明との認定の誤り)
 決定は,甲7-1-1(審判甲1-1)及び甲7-2-1(審判甲2-1)の取
合図に基づいて製作された掘削機が,本件特許の出願前に販売され公知の発明とな
ったと認められるとするが,確たる証拠に基づいた認定ではなく,誤っている。
 (3) 取消事由3(進歩性の判断の誤り)
 (3-1) 本件発明の特徴は,「ケーシングは本体管の先端に掘削刃を有するケーシ
ングヘッドを嵌着するものであり,オーガヘッドの長さはこのケーシングヘッドの
長さより数十センチメートル短いものとし,」という構成(第1構成要素)と,
「オーガスクリューのオーガヘッドの掘削刃は,前記ケーシング先端の掘削刃より
数センチメートル~十数センチメートル引っ込むようにケーシングをわずかに先行
させて切り込む」という構成(第2構成要素)の両方を取り入れたことにある。
 本件発明の工法に使われる掘削機械の組立てセットでは,まず,オーガスクリュ
ーの先端にオーガヘッドを取り付け,次に,ケーシングの本体管の先端にケーシン
グヘッドを取り付ける。この取付段階において,「ケーシングは本体管の先端に掘
削刃を有するケーシングヘッドを嵌着するものであり,オーガヘッドの長さはこの
ケーシングヘッドの長さより数十センチメートル短いものとした」点は,重要であ
る。なぜなら,オーガヘッドの長さは,ケーシングヘッドの長さより短い方が,後
でケーシングヘッドをケーシングの本体管の先端に取り付けやすいからである。そ
して,安全性の点から,オーガヘッドを地上から浮かす距離は少ない方がよく,ま
た,ボルト止め等の作業を行う点から,オーガスクリューにオーガヘッドを接合す
る接合部は,ケーシングヘッドを嵌着する前のケーシングの本体管の先端から十分
下方に突出することが望ましい。このために,オーガヘッドとケーシングヘッドの
長さの差は,オーガヘッドの掘削刃とケーシング先端の掘削刃の先端の差のように
数センチメートル~十数センチメートルでは十分でなく,本件発明のように数十セ
ンチメートルの差が必要である。
以上の取り付けが完了した後では,「ケーシングヘッドの中にオーガヘッドが常
に位置するように配慮すること」,「ケーシングヘッド4bの中にオーガヘッド2
の全てが入るように配慮すること」になる。
オーガヘッドのオーガスクリューへの接合部とケーシングヘッドのケーシングの
本体管への接合部のそれぞれの接合部は,いずれも掘削の力の負荷に対して脆弱な
箇所となりやすく,その位置を横に重なることなく上下にずらすことで,力の負荷
に対する強度的な配慮も行うことができる。
第1要素は装置としての構成要素であり,第2の要素は工法としての構成要素で
あるとしても,掘削機械を組立てセットして第2の要素の工法を行うのに,第1要
素の装置としての構成要素は,オーガスクリューのオーガヘッドの掘削刃は前記ケ
ーシング先端の掘削刃より数センチメートル~十数センチメートル引っ込むように
するという位置決め等のために必要不可欠なものであり,これが前記効果に繋が
る。このように,位置決め等で必要不可欠なものであることをもって,第1要素と
第2要素に相関関係がある。
 (3-2) 第1要素と第2要素を組み合わせることは,容易ではない。
 甲7-1-1及び甲7-2-1の取合図に基づいて製作された掘削機は伸縮ケー
シングと記載された部分のものであり,ケーシングの長さが伸縮するものである。
そして,本件発明の出願前に販売された掘削機は,本件発明のごとく,ケーシング
長さとオーガスクリューの長さが固定された関係にあるような掘削機ではない。
このようなケーシングの長さが伸縮する掘削機が販売されたとしても,使用に際
しては通常の使用法のように,オーガスクリューのオーガヘッドの掘削刃は,ケー
シング先端の掘削刃より先行させていくことがほとんどであり,本件発明のよう
に,オーガスクリューのオーガヘッドの掘削刃は,前記ケーシング先端の掘削刃よ
り数センチメートル~十数センチメートル引っ込むようにケーシングをわずかに先
行させて切り込むということに直接結び付くものではない。
 甲7-1-1及び甲7-2-1には,掘削刃先端までの長さが720㎜のオーガヘッ
ドと,掘削刃取付部までの長さが1300㎜のケーシングヘッドが図示されており,オ
ーガヘッドの長さを,掘削刃の長さを含まないケーシングヘッドの長さより,580㎜
短いものとしているクィックジョイントケーシング取合図が描かれていて,このよ
うな装置が販売され,公知となったとしても,その使用法は,オーガスクリューの
オーガヘッドをケーシングヘッドより先行させることも可能であり,本件発明のよ
うにオーガスクリューのオーガヘッドの掘削刃は,前記ケーシング先端の掘削刃よ
り数センチメートル~十数センチメートル引っ込むようにケーシングをわずかに先
行させて切り込むということを特定させるものではない。
 甲7-1-1及び甲7-2-1の図面作成者である株式会社サンテック(以下
「サンテック」という。)は,製品の使われ方について確認しておらず,特に,ケ
ーシングの長さが伸縮する掘削機であるので,前記本件発明の第1要素と第2要素
を組み合わせることについて示唆する証拠はない。
 (3-3) 以上を総合すれば,本件発明は,周知発明,刊行物1,刊行物2に記載さ
れた発明及び公知の発明に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたもの
ではなく,本件発明の特許は,特許法29条2項の規定に違反するものではない。
 3 被告の主張の要点
 (1) 取消事由1(周知発明の認定の誤り)に対して
 刊行物2(甲4)には,従来技術について,「岩盤等にケーシング先端及びオー
ガ先端が当たった場合にも,ケーシング先端の切削刃によって…」(2頁左上欄)
という記載があり,「オーガ」とは,刃先の付いた先端部をロッドの先につけたも
のであるから,オーガ先端とケーシングの先端には当然掘削刃が設けられていると
解される。したがって,刊行物2において,オーガの先端とケーシングの先端との
相対的位置を掘削刃をもって比較して,決定のように周知発明を認定したことに何
ら誤りはない。 
 (2) 取消事由2(公知発明との認定の誤り)に対して
 本件証拠に照らせば,決定において「甲第1号証-1(本訴甲7-1-1)及び
甲第2号証-1(本訴甲7-2-1)の取合図に基づいて製作された掘削機が,本
件特許の出願前に販売され公知の発明となったと認められ」と認定したことに誤り
はない。
 (3) 取消事由3(進歩性の判断の誤り)に対して
 (3-1) オーガヘッド,ケーシングヘッドの取り付けの段階においては,安全性の
点から,オーガヘッドを地上から浮かす距離は少ない方がよく,また,オーガスク
リューにオーガヘッドを接合する接合部は,ケーシングヘッドを嵌着する前のケー
シングの本体管の先端から下方に突出している方がボルト止め等の作業をしやす
く,これがために,オーガヘッドとケーシングヘッドの長さの差は,オーガヘッド
の掘削刃とケーシング先端の掘削刃の先端の差のように数センチメートル~十数セ
ンチメートルでは十分ではなく,本件発明のように数十センチメートルの差が必要
と考えられる。つまり,「ケーシングは本体管の先端に掘削刃を有するケーシング
ヘッドを嵌着するものであり,オーガヘッドの長さはこのケーシングヘッドの長さ
より数十センチメートル短いものとし,」という第1要素は,ただ単にオーガヘッ
ドの長さとケーシングヘッドの長さを規定したにすぎず,取り付けの段階において
は重要であるかもしれないが,そのような第1要素を有した構成のものを用意した
からといって,直ちに第2要素のように「オーガスクリューのオーガヘッドの掘削
刃は,前記ケーシング先端の掘削刃より数センチメートル~十数センチメートル引
っ込むようにケーシングをわずかに先行させて切り込む」ことになるわけではな
く,第2要素は,掘削時における両者の位置関係を規定するのであるから,第1要
素と第2要素の間に相関関係があるとはいえない。
 次に,原告らは,掘削機について「本件発明のごとく,ケーシング長さとオーガ
スクリューの長さが固定された関係にあるような掘削機」と主張しているが,本件
発明において,使用される掘削機がそのような掘削機であるとの限定はなく,仮に
あったとしても,ケーシングの本体管の先端とオーガスクリューのロッド先端との
位置関係の限定もなく,第1要素を有した構成のものを用意したからといって,直
ちに第2要素に必要な構成に固定されて組み立てられるわけではないから,第1要
素と第2要素の間に相関関係があるとはいえない。
 (3-2) 上記のように,第1要素と第2要素の間に相関関係があるとはいえず,第
1要素と第2要素を組み合わせることの必然性はないから,決定においても,第1
要素と第2要素を組み合わせることの容易性について何ら述べていない。
 なお,決定においては,甲7-1-1及び甲7-2-1の取合図に基づいて製作
された掘削機は,本件発明と周知発明との相違点bである「本件発明では,オーガ
ヘッドの長さはケーシングヘッドの長さより数十センチメートル短いものとしてい
るのに対し,周知発明では,そのような限定がない点。」に関して引用して検討
し,「周知発明の掘削機として,上記公知の発明の掘削機を採用して,上記相違点
bにおける,本件発明の構成のようにすることは,当業者が適宜なし得ることにす
ぎない。」としたのであって,上記取合図に基づいて製作された掘削機をもって,
第1要素と第2要素を組み合わせることの容易性について述べているのではない。
 (3-3) 本件発明の進歩性を否定した決定の判断に誤りはない。
第3 当裁判所の判断
 1 取消事由1(周知発明の認定の誤り)について
 原告らは,周知発明の認定について,刊行物2(甲4)における「掘削手段先端
部」,「ケーシング先端」を「掘削刃」に相当するものとして認定したことの誤り
などを主張する。
 そこで,検討するに,刊行物2(甲4)には,次の記載がある。
 「ケーシング内のオーガ等の掘削手段先端部を,ケーシング先端とほぼ同一面と
した状態か,若しくはわずか10~20㎝程度ケーシング内に挿入した状態で掘削が行
われているため,例えば,地盤中の玉石等の転石にケーシング先端及びオーガ先端
が当たった場合,オーガの回転に伴ってこの転石も共に回転し,オーガによる掘削
及び土砂の排出が全く行われなくなり杭孔の掘削が不可能となっている。
 また,岩盤等にケーシング先端及びオーガ先端が当たった場合にも,ケーシング
先端の切削刃によって岩盤はコアー状に円切りされて,このコアー状の岩石が上記
同様オーガの回転により同方向に共回りしてこれ以上の掘削が不可能となってい
た。」(1頁右欄~2頁左上欄)。
 上記の「地盤中の玉石等の転石にケーシング先端及びオーガ先端が当たった場
合」,「また,岩盤等にケーシング先端及びオーガ先端が当たった場合にも,ケー
シング先端の切削刃によって」等の記載からすると,上記の記載は,ケーシング及
びオーガの先端に取付けられた切削刃の切削力の低下を問題としていることは明ら
かである。したがって,「10~20㎝程度ケーシング内に挿入した状態で」におけ
る「10~20㎝」は,ケーシング先端とオーガ先端の切削刃間の距離であることは明
らかである。
 よって,原告ら主張の取消事由1は理由がない。
 2 取消事由2(公知発明との認定の誤り)について
 (1) 原告らは,甲7-1-1及び甲7-2-1の取合図に基づいて製作された掘
削機が本件特許の出願前に製造(完成)され,丸泰土木株式会社(以下「丸泰土
木」という。)に販売(納入)されたことの立証はなく,公知の発明となったとの
認定は誤りであると主張する。
 (2) 検討するに,取合図である甲7-1-1及びその受注票である甲7-1-
2,並びに取合図である甲7-2-1及びその受注票である甲7-2-2~4が書
証として提出されており,これらと甲8(上記掘削機を丸泰土木から受注したとい
うサンテックの代表取締役であるAの陳述書の部分)及び甲10(審判手続におけ
るAに対する証人尋問の結果が記載された書面)を総合すれば,本件特許の出願前
にサンテックが丸泰土木から掘削機を受注し,甲7-1-1の取合図(甲7-1-
2の受注に対応)及び甲7-2-1の取合図(甲7-2-2~4の各受注に対応。
各受注内容が同一のため取合図は共通)を作成したことは,明らかである。
 一方,確かに,原告らの主張するとおり,上記取合図に記載された各掘削機が製
造(完成)されたこと,販売(納入)されたことを示す納入書,受領書,代金の請
求書,領収書等(各控えも含む)は,提出されていない。
 しかしながら,前記甲10によれば,Aは,サンテックにおいて,甲7-2-4
の受注に対応する甲7-2-1の取合図に記載の掘削機を製造し,平成2年9月1
0日に葛西陸運を使って丸泰土木に納品したこと(甲7-2-4の運送方法欄の記
載),同じ取合図に基づく各掘削機(甲7-2-2~3の受注に対応)及び甲7-
1-1の取合図に基づく掘削機(甲7-1-2の受注に対応)についても製造し,
日付は明確ではないが,丸泰土木が引き取りに来て引き渡したものと思われるこ
と,これらの掘削機の納入後に丸泰土木が現場で使用していることをAの命を受け
た技術担当ので社員であるBが確認していることなどを述べており,これに前掲書
証を総合すれば,本件特許の出願前に,甲7-1-1及び甲7-2-1の取合図に
基づく各掘削機が製造(完成)され,これらが丸泰土木に販売(納入)され,使用
されたことを認めることができる。
 甲10におけるAの供述は,上記の点について明確に供述しているほか,納品し
た掘削機が現場で確実に動くかどうかを確認し,クレーム処理などにも役立てるた
めに,Bに現場での掘削機の使用状況を確認させることにしていること,受注後に
キャンセルになった場合には,受注票にキャンセルと書き込むことにしていること
(上記受注票は,いずれもキャンセルとの記載はない。)など具体的な根拠をもっ
て述べられており,信用に値するものである。そして,上記Aの供述の上記関係部
分は,納入書(控え)である乙1,図面台帳である乙2-1~3(甲10,7-1
-1,7-2-1,7-3-1及び弁論の全趣旨により,各原本の存在及び成立を
認めることができる。)によって裏付けられるものである。
 なお,製品の納入書(納品書),代金の請求書及び領収書(各控えを含む)並び
に製造のための資材等の仕入れ関係の伝票は,書証とされていないが,甲10によ
れば,Aは,審判における尋問の席に持参していると述べており,弁論の全趣旨に
よれば,審判の当事者がこれらの書面を証拠とする手続をしなかっただけであり,
持参した書面の一部及び図面台帳は,特許庁審判官により原本が確認されたことが
認められる。そうすると,上記各書面が書証とされていない事実をもってしても,
前記掘削機の製造,販売に関する認定を覆すには足りないというべきである。
 (3) 以上によれば,甲7-1-1(審判甲1-1)及び甲7-2-1(審判甲2
-1)の取合図に基づいて製作された掘削機が,本件特許の出願前に販売され,公
知の発明となったとの決定の認定は,是認し得るものであって,誤りはない。よっ
て,原告ら主張の取消事由2は理由がない。
 3 取消事由3(進歩性の判断の誤り)について
 (1) 原告らは,本件発明の特徴は,「ケーシングは本体管の先端に掘削刃を有す
るケーシングヘッドを嵌着するものであり,オーガヘッドの長さはこのケーシング
ヘッドの長さより数十センチメートル短いものとし,」という構成(第1構成要
素)と,「オーガスクリューのオーガヘッドの掘削刃は,前記ケーシング先端の掘
削刃より数センチメートル~十数センチメートル引っ込むようにケーシングをわず
かに先行させて切り込む」という構成(第2構成要素)の両方を取り入れたことに
あるとして,上記第1と第2の構成要素の間には重要な相関関係があると主張す
る。
 しかしながら,第2の構成要素が要求している構造的構成は,「オーガヘッドの
掘削刃はケーシング先端の掘削刃より数センチメートル~十数センチメートル引っ
込む」ようにした状態で掘削作業ができることであり,明らかに第1の構成要素の
規定する寸法関係とは無関係である。したがって,原告らが,第1の構成要素にあ
るケーシングヘッドとオーガヘッドの寸法関係を採用することが重量物であるオー
ガヘッドの取付作業の安全性を確保するために重要であると主張する点は,首肯で
きるものの,第1と第2の構成要素の間には重要な相関関係があるという原告らの
主張は,採用することができない。
 (2) 原告らは,第1の構成要素と第2の構成要素を組み合わせることが容易でな
いことをるる主張する。
 しかし,第1の構成要素と第2の構成要素の間には,特別な相関関係はなく,別
異の構成要素であることが明らかであることは,前判示のとおりである上,決定
は,第1の構成要素と第2の構成要素を組み合わせることが容易であると判断した
ものではないので,いずれにしても,第1の構成要素と第2の構成要素を組み合わ
せの非容易性をいう原告らの主張は,前提を欠くものといわざるを得ない。
 (3) 決定は,刊行物2が相違点aにおける本件発明の構成(第2の構成要素に相
当)に対応する構成を有しているとして,周知発明において,ケーシングを先行さ
せて地盤中に切り込むに際し,刊行物2に記載された従来技術を採用して行うこと
は当業者が適宜なし得ることにすぎないと判断し,さらに,周知発明の掘削機とし
て,甲7-1-1及び甲7-2-1に記載の公知の発明の掘削機を採用することに
より,相違点bにおける本件発明の構成(第1の構成要素に相当)のようにするこ
とは,当業者が適宜なし得ることにすぎないと判断し,本件発明の進歩性を否定し
たものであって,その判断は是認し得るものである。
 原告らの上記主張は,いずれも採用することができず,取消事由3も理由がな
い。
 4 結論
 以上のとおり,原告らの決定取消事由の主張は理由がないので,原告らの請求は
棄却されるべきである。
東京高等裁判所第18民事部
    裁判長裁判官   塚  原  朋  一
         裁判官   古  城  春  実
         裁判官   田  中  昌  利
【別紙】 異議の決定の理由
異議2000-73352号事件,平成14年1月15日付け決定
(下記は,上記決定の理由部分について,文書の書式を変更したが,用字用語の点
を含め,その内容をそのまま掲載したものである。)
理 由
1.本件発明
 特許第3015842号に係る出願は、平成4年9月1日の出願であって、平成
11年12月24日に特許権の設定登録がなされたもので、その請求項1に係る発
明(以下、「本件発明」という。)は、特許明細書及び図面の記載からみて、その
特許請求の範囲の請求項1に記載された次のとおりのものである。
「【請求項1】 先端に掘削刃を設けたケーシングを回転させながら切り込み、こ
のケーシング内にオーガスクリューを該ケーシングと反対向きに回転させて掘削す
る掘削工法において、ケーシングは本体管の先端に掘削刃を有するケーシングヘッ
ドを嵌着するものであり、オーガーヘッドの長さはこのケーシングヘッドの長さよ
り数十センチメートル短いものとし、オーガースクリューのオーガヘッドの掘削刃
は前記ケーシング先端の掘削刃より数センチメートル~十数センチメートル引っ込
むようにケーシングをわずかに先行させて切り込むことを特徴とする掘削工法。」
2.引用刊行物等記載の発明
 平成13年10月10日付けの取消理由において周知例として引用した、本件特
許出願前に頒布された刊行物である、特公昭63-25130号公報(異議申立人
が提出した甲第6号証、以下「刊行物1」という。)、及び、特開昭60-133
189号公報(同じく甲第4号証、以下「刊行物2」という。)には、いずれに
も、「先端に掘削刃を設けたケーシングを回転させながら切り込み、このケーシン
グ内にオーガスクリューを該ケーシングと反対向きに回転させて掘削し、オーガー
スクリューの掘削刃は前記ケーシング先端の掘削刃より引っ込むようにケーシング
をわずかに先行させて切り込む掘削工法」が記載されており、また、刊行物1に
は、オーガスクリューは掘削刃を設けたオーガヘッドを有すること、及び、刊行物
2には、ケーシングを本体管の先端に掘削刃を有するケーシングヘッドを嵌着する
ものとすることも記載されていて、かつ、本件特許出願前に周知の技術であるか
ら、刊行物1,2には、「先端に掘削刃を設けたケーシングを回転させながら切り
込み、このケーシング内にオーガスクリューを該ケーシングと反対向きに回転させ
て掘削し、ケーシングは本体管の先端に掘削刃を有するケーシングヘッドを嵌着す
るものであり、オーガースクリューのオーガヘッドの掘削刃は前記ケーシング先端
の掘削刃より引っ込むようにケーシングをわずかに先行させて切り込む掘削工法」
という周知の技術(以下、「周知発明」という。)が記載されているといえる。さ
らに、刊行物2には、従来、ケーシング内のオーガー等の掘削手段先端部を、ケー
シング先端から10~20cm程度ケーシング内に挿入した状態で掘削が行われて
いることが記載されてる。
 同じく、先の取消理由において引用し、平成13年9月6日に行われた証人尋問
により、異議申立人が提出した甲第1号証-1及び甲第2号証-1の取合図に基づ
いて製作された掘削機が、本件特許の出願前に販売され公知の発明となったと認め
られ、甲第1号証-1及び甲第2号証-1には、掘削刃先端までの長さが720m
mのオーガヘッドと、掘削刃取付部までの長さが1300mmのケーシングヘッド
が図示されており、オーガヘッドの長さを掘削刃の長さを含まぬケーシングヘッド
の長さより580mm短いものとしているクイックジョイントケーシング取合図が
描かれている。
3.対比・判断
 本件発明と上記周知発明とを比較すると、両者は、先端に掘削刃を設けたケーシ
ングを回転させながら切り込み、このケーシング内にオーガスクリューを該ケーシ
ングと反対向きに回転させて掘削し、ケーシングは本体管の先端に掘削刃を有する
ケーシングヘッドを嵌着するものであり、オーガースクリューのオーガヘッドの掘
削刃は前記ケーシング先端の掘削刃より引っ込むようにケーシングをわずかに先行
させて切り込む掘削工法の点で一致し、次の点で、相違している。
a.本件発明では、オーガスクリューのオーガヘッドの掘削刃は、ケーシング先端
の掘削刃より数センチメートル~十数センチメール引っ込むようにケーシングをわ
ずかに先行させて切り込むのに対し、周知発明では、どれくらい引っ込むようにケ
ーシングを先行させて切り込むのか数値限定されていない点。
b.本件発明では、オーガヘッドの長さはケーシングヘッドの長さより数十センチ
メートル短いものとしているのに対し、周知発明では、そのような限定がない点。
しかしながら、刊行物2には、従来、ケーシング内のオーガー等の掘削手段先端
部を、ケーシング先端から10~20cm程度ケーシング内に挿入した状態で掘削
が行われていることが記載されており、これは、上記相違点aにおける、本件発明
の構成に対応するから、周知発明において、ケーシングを先行させて地盤中に切込
むに際し、刊行物2に記載された従来技術を採用して行うことは当業者が適宜なし
得ることにすぎない。
 一方、上記したように、異議申立人株式会社豊栄アーキテックス(外9名)が提
出した、甲第1号証-1及び甲第2号証-1には、オーガヘッドの長さを掘削刃の
長さを含まぬケーシングヘッドの長さより580mm短いものとしているクイック
ジョイントケーシング取合図が描かれており、特許権者が、平成13年12月25
日付け特許異議意見書で述べている、ケーシングヘッドの刃、いわゆるケーシング
ビットの最長(150mm)、最短(107mm)いずれの刃を取り付けた場合で
も、オーガヘッドの長さはケーシングヘッドの長さより数十センチメートル(73
0~687mm)短いものとなり、かつ、甲第1号証-1及び甲第2号証-1の取
合図に基づいて製作された掘削機が、本件特許の出願前に販売され公知の発明とな
ったと認められるから、周知発明の掘削機として、上記公知の発明の掘削機を採用
して、上記相違点bにおける、本件発明の構成のようにすることは、当業者が適宜
なし得ることにすぎない。
 したがって、本件発明は、上記周知発明、刊行物2に記載された発明及び上記公
知の発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件
発明の特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものである。
 なお、特許権者は、平成13年12月25日付け特許異議意見書で、「甲第1号
証-1及び甲第2号証-1の取合図に基づいて製作された掘削機は伸縮ケーシング
と記載された部分のものであり、ケーシングの長さが伸縮するものである。そして
本件発明の出願前に販売された掘削機は、甲第1号証-1及び甲第2号証-1の取
合図ににおいて掘削の全体が一つの図面として記載された掘削機、すなわち、本特
許発明のごとく、ケーシング長さとオーガスクリューの長さが固定された関係にあ
るような掘削機ではない。」(第4頁第17~23行)と述べているが、本件発明
においてそのような限定はなされていない。また、「本特許発明の特徴は、「ケー
シングは本体管の先端に掘削刃を有するケーシングヘッドを嵌着するものであり、
オーガーヘッドの長さはこのケーシングヘッドの長さより数十センチメートル短い
ものとし、」(以下第1要素という)という構成と、「オーガースクリューのオー
ガヘッドの掘削刃は前記ケーシング先端の掘削刃より数センチメートル~十数セン
チメートル引っ込むようにケーシングをわずかに先行させて切り込む」(以下第2
要素という)という構成の相関関係にあり、その効果として、(1)セットまたは
交換の際のオーガヘッドのオーガースクリューへの取り付け、および、ケーシング
ヘッドのケーシングへの取り付けの容易性と(2)それぞれの接合部がかさならな
いようにして、力の負荷に対する強度的な配慮が得られる。」(第4頁第2~12
行)と述べているが、第1要素は、装置としての構成要素であり、第2の要素は、
工法としての構成要素であり、それらの間にどのような相関関係があるのか不明で
あるし、かつ、上記したように、本件発明において、ケーシング長さとオーガスク
リューの長さが固定された関係にあるような掘削機であるとの限定もない以上、特
許権者の主張は採用できない。
4.むすび
 以上のとおりであるから、本件発明についての特許は、拒絶の査定をしなければ
ならない特許出願に対してされたものと認める。
 よって、特許法等の一部を改正する法律(平成6年法律第116号)附則第14
条の規定に基づく、特許法等の一部を改正する法律の施行に伴う経過措置を定める
政令(平成7年政令第205号)第4条第2項の規定により、結論のとおり決定す
る。
 平成14年 1月15日

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