弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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       主   文
一 原判決中、控訴人敗訴の部分を取り消す。
二 被控訴人の予備的請求を棄却する。
三 訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人の負担とする。
       事実及び理由
第一 当事者の求めた裁判
一 控訴人
 主文同旨
二 被控訴人
1 本件控訴を棄却する。
2 控訴費用は控訴人の負担とする。
第二 事案の概要
 本件は、Aが、いわゆる北方領土地域内の土地について、住所移転を原因とする
所有権登記名義人表示変更登記申請をしたが、不動産登記法四九条二号に該当する
として却下されたため、右却下決定の無効確認(主位的請求)及び取消し(予備的
請求)を求めたところ、原判決が、主位的請求は棄却したが、予備的請求を認容し
たため、これを不服として、控訴人が控訴した事案である。なお、平成一〇年四月
二四日にAが死亡したため、同人の相続人である被控訴人(選定当事者)を含む別
紙選定者目録記載の選定者らが本件訴訟を承継した。
一 前提となる事実(証拠を掲記しない事実は当事者間に争いがない。)
1 別紙物件目録記載の土地(以下「本件土地」という。)は、我が国の固有の領
土である北方領土地域内の水晶島に所在している。
2 本件土地はAの所有であったが、同人が死亡したため、被控訴人(選定当事
者)を含む選定者らが相続によりその所有権を承継取得した。
3 本件土地については、釧路地方法務局根室支局保管に係る北方領土地域に所在
する土地に対する登記簿上、Aを権利者とする昭和一八年一二月二四日受付の所有
権移転登記が経由され、同登記において、Aの住所は「根室郡<以下略>」と表示
されている(甲第三号証)。
4 Aは、本件土地につき、平成四年一一月一六日、釧路地方法務局根室支局に対
し、昭和五二年八月三日住所移転を原因とする所有権登記名義人表示変更登記申請
(Aの住所の表示を「根室市<以下略>」に改める内容の登記申請、以下「本件申
請」という。)をし、控訴人は、同日受付第二四一四号をもってこれを受け付け
た。
5 控訴人は、平成五年三月一五日付けで、本件土地が所在する北方領土地域は、
事実上我が国の統治権、行政権が及ばない地域であり、これらの地域に属する不動
産については、事実上、不動産登記法に基づく登記ができないので、本件申請は、
登記の対象外の不動産に係る登記の申請であり、不動産登記法四九条二号に該当す
るとの理由により、本件申請を却下する決定(以下「本件処分」という。)をし
た。
二 争点
1 本件申請について不動産登記法四九条二号所定の事由が存在するか、すなわ
ち、本件申請が「事件カ登記スヘキモノニ非サルトキ」に該当するか。
2 本件処分は憲法二九条一項、三一条に違反するか。
3 本件処分には理由付記不備の違法があるか。
三 争点についての当事者の主張
1 争点1について
(控訴人の主張)
(一) 不動産登記法は、他国が我が国の領土の一部を占拠し、そのために我が国
が当該地域について長期間にわたり事実上統治権を行使することができないという
異常な事態はおよそ想定していないのであるから、そのような地域に所在する不動
産についても、登記官が他の地域の不動産と同様に同法を適用して登記事務を行う
べきであるかどうかは、同法の趣旨に従って解釈されなければならない。
 不動産登記法による登記制度は、登記所に不動産の表示に関する事項と権利に関
する事項を記載した登記簿等を備え(同法一四条、一六条、一七条)、その謄本等
の交付や閲覧によって(同法二一条)、不動産の物理的な状況及びこれについての
権利関係を公示し、もって、不動産に関する取引の安全を確保し、その円滑に資す
る制度である。
 したがって、不動産登記法は、民法等の実体法規を前提とし、不動産に関する取
引の安全を確保し、その円滑に資することを目的とする手続法規ということになる
が、実体法規が一般に特に行政権限の行使を必要としないのと異なり、手続法規で
ある不動産登記法は、登記官による行政権限の行使を当然の前提として構成されて
いる。そうすると、我が国の領土の一部であっても、長期間にわたり我が国が事実
上行政権を行使することができない地域にある不動産については、不動産登記制度
を運用するための基礎が失われているのであり、このような不動産について不動産
登記法を適用することは、かえって同法の趣旨に反することとなる。
(二) 不動産登記制度の趣旨は前述のとおりであるから、登記簿等の正確性を確
保することがこの制度の重要な基礎である。不動産の登記簿は、これに不動産の表
示に関する事項として記載された内容の不動産が現に存在することを前提として、
その不動産についての権利に関する事項が記載されるものである。不動産の表示に
関する事項として記載された不動産が現実には存在しないという事態が生ずると、
不動産に関する取引の安全を著しく害することになる。そこで、不動産登記法は、
不動産が滅失した場合には、登記簿の表題部に記載された所有者等に滅失の登記の
申請義務を負わせ(同法八一条ノ八、九三条ノ一一)、その者が申請を怠ったとき
は過料に処するものとし(同法一五九条の二)、一方、登記官が職権で滅失の登記
をすることもできることとする(同法二五条の二)とともに、登記官に実地調査権
を与えている(同法五〇条)。
 ところで、ソビエト社会主義共和国連邦・ロシア連邦(以下「ロシア国」とい
う。)が五〇年以上もの長期にわたって占拠を続けているという北方領土地域の状
況からすれば、当該地域の従前の登記簿又は台帳(旧土地台帳法及び旧家屋台帳法
によるもの。以下「旧登記簿等」と総称する。)に記載されている不動産のうち、
建物については、既に滅失しているものが多いと疑われるし、土地についても、占
拠が既に五〇年以上の長期に及んでいるため、その間に海水による浸食や河川の流
下経路の変動等によって、現在は海面下や河川の流水下に没してしまっているもの
等、現況が旧登記簿等の記載と著しく異なるものが相当数存在するおそれがあり、
このような旧登記簿等に記載された不動産で既に滅失しているものについては、そ
の上の権利も当然に消滅していることになる。
 ところが、我が国が北方領土地域について事実上行政権を行使することができな
いということは、登記官がその具体的行政権限の一つである実地調査権を事実上行
使することができないということであって、結局、登記官は、旧登記簿等に記載さ
れているとおりの不動産が現に存在するのかどうかを調査し、確認する方法がな
い。
 このような状況の下において、旧登記簿等に記載された不動産についての私法上
の権利を登記簿に記載することは、既に滅失した不動産についての存在しない権利
をあたかも存在するかのごとく国の機関が公示することとなるおそれがあり、かえ
って不動産に関する取引の安全と円滑を害する結果を招来することとなる。
(三) また、我が国の領土であっても、我が国が統治権を事実上行使することが
できない地域においては、国が同地域内の不動産に係る私法上の権利の行使を保護
し、その取引の安全及び円滑を一般的に確保することは困難である。このような地
域に不動産登記制度を適用してみても、同法の所期する取引の安全及び円滑に資す
ることがないばかりか、不測の損害を及ぼすおそれがあり、むしろ有害である。
 北方領土地域に所在する不動産についての私法上の権利は、ロシア国による占拠
が続いているという現下の状況においては、当該権利自体はなお失われていないに
しても、私法上の権利としての本来有すべき実効性を有しないものである。このよ
うに現実に行使する余地がない私法上の権利を不動産登記法上の権利として登記簿
に記載することは、実効性を有しない権利をあたかも実効性を有するもののごとく
国の機関が公示することとなって、かえって不動産に関する取引の安全と円滑を害
する結果を招来することとなるのであり、このような事態は、不動産登記法が全く
予想していないところである。
(四) 以上のとおり、極めて長期にわたりロシア国による占拠が継続しており、
我が国の統治権を事実上行使することができない状況が継続しているという特殊な
事情にある北方領土地域においては、不動産登記制度が前提とする基礎が失われて
おり、同地域の旧登記簿等に記載された不動産について、不動産登記法を適用して
登記手続を行うことは、不動産に関する取引の安全を確保し、その円滑に資すると
いう同法の目的に反し、かえって当該不動産に関する取引の安全と円滑を害する結
果を招来することとなるから、当該不動産については同法は適用されないというべ
きであり、換言すれば、当該地域に所在する不動産は同法に基づく登記の対象とな
る不動産に該当しないものというべきである。
 そうすると、本件申請に係る土地は、旧登記簿等の記載によれば北方領土地域内
の水晶島に存在することとされているので、登記の対象となる不動産には含まれな
い。
(五) 以上の点を、法令の属地的効力の点からみるならば、北方領土地域につい
ては、我が国が統治権の内容である立法権、司法権及び行政権を事実上行使するこ
とができないから、少なくとも、同地域内に所在する物に対し、行政権限を具体的
に行使することを前提とする法令の効力は、同地域については属地的効力が及ばな
い場合に準ずるものとして解釈すべきである。
 そうすると、不動産登記法が対象とする不動産は、本来、我が国の領土すなわち
我が国の統治権が及ぶ範囲内に所在する不動産をいうものであるが、右のとおり、
北方領土地域について、我が国は事実上統治権を行使することができないのである
から、登記官が行政権限の行使として登記事務を行う根拠となる不動産登記法は、
同地域においては、属地的効力が及ばない場合に準ずるものとして解釈すべきであ
る。
 したがって、法令上、明文で除外されていないけれども、北方領土地域について
は、行政権限の行使として行われる登記官の登記事務について不動産登記法は適用
されないというべきである。
(六) 以上の検討によれば、本件申請を「事件カ登記スヘキモノニ非サルトキ」
に該当するとして却下した本件処分は適法である。
(七) なお、昭和四五年四月一〇日付け法務省民事甲第一三二九号釧路地方法務
局長宛法務省民事局長通達により、北方領土地域に所在する不動産の旧登記簿等上
の所有名義人に関する相続関係を明確にしておくため、昭和四五年五月一日から当
分の間の措置として、釧路地方法務局根室支局に保管されている旧登記簿等に記載
されている所有名義人からの相続の申出を受け付けているが、この取扱いは、不動
産登記法に基づいて登記の申請を受理しているものではなく、申出に係る事項を登
記用紙(同法一五条)とは異なる相続関係用紙に記載しているにすぎない。
 また、歯舞群島に所在する建物のうちの一部については、従前の登記簿の登記用
紙の表題部に、「昭和三十五年法務省令第十号附則第五条により建物の滅失を登記
する」との記載が、昭和三九年に登記官によってなされているが、前記不動産登記
制度の本質に照らせば、北方領土地域に所在する不動産について、その滅失の登記
をすることは、昭和三九年当時においてもできなかったと解され、これらの記載
は、不動産登記法に基づく登記としての効力を有するものではない。
(被控訴人の主張)
(一) 北方領土地域が継続的にロシア国の実効支配下にあるため、同地域に所在
する不動産に対しては、我が国の統治権、行政権が事実上阻害されている状況が存
在してはいるが、そのために当該不動産の法的性格やその上に存する権利関係に何
らかの影響が及ぶことはない。したがって、本件土地は、法律的に我が国の領土内
の不動産として登記能力を有していることは明白である。
 控訴人は、北方領土地域に所在する不動産については、私法上の権利が失われて
いないとしても、本来有すべき実効性を欠いていることをもって、本件処分の適法
性を理由づける一事由としている。
 北方領土地域においては、使用、収益という所有権の現実的行使が困難であるこ
と、また妨害排除請求権の行使も同様に困難であろうことは被控訴人も認めるとこ
ろであるが、このような実効性の有無は、所有権の内容、性質に変化を生じさせる
ものではない。すなわち、仮に一定期間、所有権の現実的行使に困難が伴おうと
も、所有権が内包する右権能が喪失してしまったのではない。不動産登記法一条一
号が規定する登記すべき所有権とは、まさにこのような性質を有する権利をいうの
である。控訴人が、所有権の実効性等その内包する機能を前提に登記の可否に論及
することは、その前提自体が誤っている。
 また、控訴人が、本件土地の存在する歯舞群島における建物登記簿のすべてにつ
き、昭和三九年一月一〇日付けで、昭和三五年法務省令第一〇号附則第五条によ
り、滅失の登記を職権で実行していることは、まさに同地域に存する不動産に登記
能力を認めたことにほかならない。
(二) 表示に関する登記における登記官の権限である実地調査権は、天災その他
の事由により一時的に、あるいは一定の期間事実上行使することができなくなる場
合が存する。このような場合は、当該地域の不動産について表示に関する登記が申
請されても、現実には登記が不可能ということになる。しかし、このような場合に
おいて、権利に関する登記の申請を受理することは不動産登記制度の趣旨に反する
ものではない。
 本来、不動産登記制度においては、不動産についての物権変動、権利関係を公示
することが中核的機能であり、このことは、不動産登記法の沿革として、不動産の
表示が、当初は、所有権の登記の一部(権利の対象となる不動産を特定するための
記載にすぎないもの)と観念され、独立の登記事項とされておらず、昭和三五年の
登記簿、台帳の一元化に伴い、独立の登記事項とされるに至った経過からも明らか
である。
 したがって、不動産登記制度においては、表示に関する登記については、登記官
の実地調査権の行使が可能な時点で、登記簿に正確な物理的状況が公示されれば足
りるのであり、仮に、実地調査権を事実上行使することができないことによって表
示に関する登記が遅延することになったとしても、中核的機能である権利関係の公
示機能が円滑になされているのであれば、制度上、これを特に問題にすべき理由は
ない。
 現実の登記実務においても、火山の噴火や地震等によって数か月あるいは数年間
にわたり登記官の実地調査権が事実上行使できない状態が続いている場合であって
も、実地調査を必要とせず書面審理のみで行われる権利に関する登記については、
実際には何らの支障なく行われているのであり、不動産登記法一一条による登記事
務の停止手続がされない限りにおいては、権利に関する登記が受理されている。
 そして、自然の災害と他国による事実上の占拠とは根本的に異なるものではな
く、登記官の実地調査権が事実上行使できなくなっているという点では本質的に同
質のものである。いわんや、そこに島があり土地が存在している以上、控訴人も認
めるように当該地域における私法上の権利は厳として失われていないことは明白で
あり、そこに存在する不動産は当然に取引等の対象となり、相続等の一般承継の対
象にもなることはいうまでもない。
 我が国全土の不動産について、このような実体的物権変動の事実をあまねく公示
することにより不動産取引の安全と円滑に奉仕することが不動産登記制度の本来の
趣旨であり、仮に、実体的物権変動が存在しているにもかかわらず、一部の地域の
不動産については登記を拒否するという事態が生ずるならば、それこそ不動産に関
する取引の安全と円滑を害する結果を招来することになるばかりか、国民の財産権
を保障し、法の下の平等を定めた憲法の精神をも踏みにじることになる。
 さらに、北方領土地域に所在する本件土地については、実態はどうあれ、現在も
登記簿上存在しているということは、少なくとも登記用紙が起こされたときには物
理的にも存在していたことが明らかである。このような土地に対する権利登記を、
実地調査権を事実上行使することができないという理由をもって申請を却下するこ
とは、登記簿と申請書との形式的整合性のみを審査すべきとされる権利登記に対
し、表示登記の場合と同様の実地調査権を持ち込むことになり、迅速を要求される
不動産登記制度の趣旨はもとよりその運用をも逸脱したものとなり、到底容認でき
るものではない。
 加えて、控訴人は、行政権が事実上及ばないとしながら、昭和三九年には現地を
調査することなく北方領土地域内にある建物について滅失登記を行っているのであ
る。
 右のとおりであって、北方領土地域の不動産について、登記官の実地調査権を事
実上行使することができない間において、表示に関する登記ができない状況にある
ことはやむを得ないにしても、権利に関する登記については、これを妨げる何らの
支障も存在しないのであり、むしろ、将来の返還に向けてこれを積極的に行うこと
により、権利関係が一層明確なものとなり不動産登記制度の趣旨に合致することに
なる。
(三) 控訴人は、登記簿等の正確性を確保することが不動産登記制度の重要な基
礎であるとも主張しているが、そもそも、表示に関する登記の内容については、終
始正確性を確保することは困難である。
 不動産の物理的状況は刻々と変化するものであるが、表示に関する登記において
公示し得る事実は、論理的に、ある一時点における事実にすぎないため、終始現況
と一致させることは不可能である。また、現在の表示に関する登記の記載内容は、
地積について現況と一致していない事例が多く存在することや、地目についても農
地として登記されていながら、現況が宅地である場合には農地法の適用を受けない
ことが判例上容認されていること等が周知の事実であり、正確性が確保されている
とはいい難い。そして、不動産登記法は、表示に関する登記に現況との不一致が常
時存在することを予定し、このような不一致を事後的に治癒するための、更正登
記、変更登記の手法を用意しているのである。
 北方領土地域においては、登記官の実地調査権の行使が事実上困難であるため
に、表示登記に関しては、その正確性が保証されないという事態が生ずることはあ
り得るが、かかる事態の存在自体が右地域内の不動産の登記能力を一律に喪失せし
め、その結果、当該不動産についてなされたすべての登記申請は拒絶すべきである
とする合理性は認められない。
 また、登記簿の正確性は何も表示に関する登記に限って要請されることではな
く、権利に関する登記においても物権変動に基づく権利変動を正確に公示すべきこ
とは当然に要請されているところである。そして、権利の登記においては、現所有
権者の表示すなわち住所と氏名が登記簿上に正確に公示されていなければ、実体上
の所有権者と登記簿上の所有権者との同一性が判断できないことになり、結局、当
事者がその後の物権変動の事実を登記していくことが不可能となってしまうのであ
る。
 このように、不動産登記法は、住所や氏名の変更を登記しない場合には右のよう
な不利益を当事者に課すことによって権利登記の正確性を担保しようとしているの
であり、所有者の住所を正確に公示するための本件申請は、まさに登記簿の正確性
を確保せんとする同法の要請に応えようとするものであり、不動産登記制度の重要
な基礎を担う登記の実現を目的とするものである。
 しかも、本件申請に係る登記は、北方領土という特殊な状況下におかれている地
域の実体上の権利関係には何らの影響を及ぼすものではないばかりか、国が、現在
北方領土地域の不動産に対する権利関係を明確にするために行っている「相続の申
出手続」の趣旨にも合致するものであり、相続という実体的権利の移転を公示する
右手続行為に比較するならば、住所の表示を変更するだけというはるかに静的な行
為であり、取引の安全に直接関係しない行為である。加えて、控訴人主張の実地調
査権行使の事実上の困難性という議論は、かかる権限行使を要しない本件申請に係
る登記に妥当しないことは明らかである。
2 争点2について
(被控訴人の主張)
(一) 不動産登記制度は、不動産の実体的物権変動を登記事務をとおして正確か
つ迅速に公示することにより、不動産取引の安全と円滑に寄与するために設けられ
たものであり、登記によりもたらされる利益は不動産所有権の対抗要件という私法
上の権利関係の確立にあるといえるから、その保護法益は、不動産取引の安全と円
滑という目的のもと、私有財産権の保護にあるといわなければならない。
 北方領土地域が我が国の統治権、行政権が及ぶ領土である以上、同地域における
私有財産権もまた本国内における私有財産権と同様の保護を受けるべきであること
は当然であり、国には、同地域の不動産に対する個人の諸権利についても、本国内
におけると同様に登記事務を行う義務がある。
 よって、登記事務を阻害する法律上ないし事実上の障害が何ら存在していないに
もかかわらず、右義務を怠った本件処分は、私有財産権の保障に対する重大な侵害
行為であり、憲法二九条一項に違反する。
(二) また、法律上不動産登記法に基づく登記ができるにもかかわらず、事実上
できないという理由をもって適法な登記申請を却下した本件処分は、適正手続の保
障を規定した憲法三一条にも違反する。
(控訴人の主張)
 被控訴人の主張は、北方領土地域の不動産についての登記申請が適法であること
を前提としており、実質において本件処分が不動産登記法に違反すると主張してい
るにすぎないところ、前記のとおり本件処分は適法である。
3 争点3について
(被控訴人の主張)
 本件処分に付された処分理由は、該当条文の結論を述べたにすぎず、控訴人がい
かなる事実関係を認定し、その認定した事実についていかなる判断を加えたかとい
う結論に至る具体的な理由が、その記載自体からは全く了知し得ないものである。
 よって、本件処分は、不動産登記法四九条ひいては憲法二九条、三一条に違反し
ている。
(控訴人の主張)
 不動産登記法四九条が登記申請の却下決定に理由を付記すべき旨を規定している
のは、登記官の判断の慎重と公平妥当を担保してその恣意を抑制するとともに、却
下の理由を申請人に知らせて、不服申立てに便宜を与えるためである。右規定の趣
旨に鑑みると、登記申請を却下する決定に付記すべき理由としては、いかなる事実
関係に基づき、いかなる法規を適用して申請を却下したかを申請者がその記載自体
から了知し得る程度で足りる。
 そして、本件処分に記載された理由においては、公知の事実である北方領土地域
に我が国の統治権、行政権が事実上及ばないことを前提として、本件申請に係る土
地が同地域に所在する事実及びこの事実に基づき不動産登記法四九条二号を適用し
たことが記載され、根拠とした事実関係及び適用した法規が明らかにされているか
ら、理由の記載に何ら不備な点はない。
第三 争点に対する判断
一 争点1について
1(一) 不動産登記法に基づく不動産登記制度は、不動産の物理的状況及び権利
関係を登記簿に記載してこれを公示することにより、不動産取引の安全と円滑を図
るための制度であり、現行の不動産登記法において、登記は、不動産の表示に関す
る登記と権利に関する登記より成っている。不動産の表示に関する登記は、不動産
の物理的形状・位置等の物理的状況を登記簿に記載し、もって不動産それ自体の客
観的現況を公示することを主たる機能とするものであり、権利に関する登記が正確
かつ円滑に行われるための前提となる意義を担っている。
 不動産登記制度の右のような趣旨からいって、登記簿の正確性、すなわち登記簿
の記載が実体と符合していることを確保することが、この制度の重要な基礎である
ということができるが、不動産登記法は、不動産の物理的状況を正確に把握し、公
示することができるように、表示に関する登記について、登記官に実地調査権を付
与し(同法五〇条)、職権で登記を実行する権限を認めており(同法二五条の
二)、不動産の物理的状況の正確な把握と公示は、不動産登記事務の管掌機関たる
登記所(登記官)の職責であるとしている。また、同法は、不動産の所有者等に対
し、土地の地目や地積、建物の所在・構造・床面積等の不動産の物理的状況に変更
があった場合等に表示変更登記等の表示に関する登記を申請することを義務づけ、
これを怠った者には過料の制裁を課してその履行の確保を図っているが(同法八〇
条、八一条、八一条の八、九、九三条、九三条の四の二、九三条の五、九三条の一
一、一五九条の二)、これも不動産の物理的状況が正確に登記簿に公示されるよう
にするために設けられているものである。
(二) ところで、本件土地が所在する北方領土地域においては、戦後極めて長期
にわたり、ロシア国が占拠しているため、我が国の行政権を事実上行使することが
できない状況が継続しており、登記官がその具体的行政権限の一つである実地調査
権を行使して、釧路地方法務局根室支局保管に係る登記簿に記載されているとおり
の不動産が現に存在するかどうかを調査し、確認することが事実上不可能な状態に
あり、また、戦後、右地域内の土地の登記簿の記載内容が更正又は変更された事例
はない(甲第三号証、甲第一一号証及び弁論の全趣旨。なお、これらの証拠によれ
ば、同地域内の不動産については、登記簿と土地台帳、家屋台帳との一元化を図る
ため昭和三五年になされた不動産登記法の改正及び土地台帳法、家屋台帳法の廃止
に基づく不動産登記簿の表題部の改製も未了であると認められる。)。
 そして、右のような状態が長期間にわたり継続していることから、北方領土地域
に所在する不動産については、登記簿に記載された物理的状況と現況とが乖離し、
登記簿の正確性が相当に低下している可能性が大きい上に、この乖離を是正し、不
動産の物理的状況を適時に登記薄に反映させるために不動産登記法が設けた前記
(一)の仕組みが長期間にわたり機能し得ない状態が継続しており、その回復時期
を予測することも困難である。
 このように、北方領土地域内の不動産に係る表示に関する登記については、不動
産登記法が予定している、不動産の物理的状況を登記簿に記載し、もって不動産の
客観的現況を公示するという主たる機能が阻害されている状態にあることは明らか
である。
(三) 前記のとおり、不動産の表示に関する登記は、権利に関する登記が正確か
つ円滑に行われるための意義を担っていて、不動産の登記簿には、不動産の表示に
関する事項として記載された物理的状況を有する不動産が現に存在することを前提
として、その不動産についての権利に関する事項が記載されるものであり、それら
が一体となって、不動産取引の安全を確保し、その円滑に資することが図られてい
るのである。しかるに、北方領土地域内の不動産に係る表示に関する登記について
は、前記のような事情から、不動産の客観的現況を公示するという主たる機能が阻
害されている状態にあるのであって、このような表示に関する登記を含む不動産登
記は、不動産登記制度の重要な基礎である登記簿の正確性を十分に確保することが
できないことからいっても、本来、不動産登記法が予定していないものであること
は明らかである。そして、右のような状態にある表示に関する登記を前提として権
利に関する登記を行うことは、例えば、ある不動産が既に滅失していて、その上の
権利が消滅しているにもかかわらず、その点が登記簿に反映されていないことか
ら、結果的に、右不動産の存在を前提とする権利があたかも存在するかのごとく国
の機関たる登記所が公示することとなるおそれがあり、不動産に関する取引の安全
と円滑を害する結果を招来することになりかねない。また、北方領土地域内に所在
する不動産についての私法上の権利は、私法上の権利としての本来有すべき実効性
を有するものとは認め難いが、このような私法上の権利を登記簿に記載し、更には
その権利変動についても登記簿に記載することは、国の機関たる登記所が、右のよ
うな権利について、通常の、実効性を有するもののように公示することとなって、
かえって不動産に関する取引の安全と円滑を害する結果を招来することになりかね
ない。
 右のとおり、北方領土地域内の不動産に係る表示に関する登記については、不動
産の客観的現況を公示するという主たる機能が阻害されている状態にあり、このよ
うな表示に関する登記を含む不動産登記は、本来、不動産登記法の予定していない
ものである上、右地域内の不動産について、権利に関する登記を行うことは、同法
が目的とする取引の安全と円滑を害する結果を招来することになりかねないことか
らすると、右地域内の不動産については、同法を適用し得る状況にはなく、したが
って、右不動産は、同法に基づく登記の対象となる不動産に該当しないものと解さ
ざるを得ない。
(四) 以上のとおりであるから、本件申請を「事件カ登記スヘキモノニ非サルト
キ」に該当するとして却下した本件処分に違法はないものというべきである。
2(一) 被控訴人は、北方領土地域には我が国の統治権、行政権が事実上阻害さ
れている状況が存在しているからといって、そのために同地域内の不動産の法的性
格やその上に存する権利関係に何らかの影響が及ぶことはなく、したがって、本件
土地は、法律的に我が国の領土内の不動産として登記能力を有していることは明白
であり、控訴人が本件土地の存在する歯舞群島における建物登記簿について滅失登
記を実行していることは、まさに同地域に存する不動産に登記能力を認めたことに
ほかならない旨主張する。
 確かに、北方領土地域も我が国の領土に属するものであるから、我が国の統治
権、行政権が事実上阻害されている状況が存在しているからといって、同地域内に
ある不動産に対する権利自体が失われるわけではない。しかし、本件で問題とされ
ているのは、右地域内にある不動産が、不動産登記法に基づく登記の対象となる不
動産に該当するかどうかということであって、このことは、同法が登記官の登記事
務を行う根拠となる手続法規であることや、同法に基づく不動産登記制度の目的等
に照らして考察すべきであって、実体法上の権利が認められるからといって、当然
に必ず、当事者として登記の申請をすることができ、登記官としては登記をなす権
限、職責を有するという意味での登記能力を有するものということはできない。
 また、弁論の全趣旨によれば、歯舞群島に所在する建物のうちの一部について、
昭和三九年一月一〇日付けで、昭和三五年法務省令第一〇号附則第五号により、職
権による滅失登記がなされていることが認められるが、前記1に説示したとおり、
北方領土地域に所在する不動産は不動産登記法に基づく登記の対象となる不動産に
該当しないものであるから、右滅失登記は本来行うことができなかったものであ
り、同法に基づく登記としての効力を有しないものと解するのが相当であって、右
滅失登記がなされていることをもって、右地域に所在する不動産について登記能力
を認めなければならないというものではない。
 したがって、被控訴人の右主張は採用することができない。
(二) 被控訴人は、①不動産登記制度においては、不動産についての物権変動、
権利関係を公示することが中核的機能であり、したがって、表示に関する登記につ
いては、登記官の実地調査権の行使が可能な時点で、登記簿に正確な物理的状況が
公示されれば足りるのであり、仮に、実地調査権を事実上行使することができない
ことによって表示に関する登記が遅延することになったとしても、中核的機能であ
る権利関係の公示機能が円滑になされているのであれば、制度上、これを特に問題
にすべき理由はない、②登記実務においても、火山の噴火や地震等によって登記官
の実地調査権が事実上行使できない状態が続いている場合であっても、実地調査を
必要とせず書面審理のみで行われる権利に関する登記については、何らの支障なく
行われているところ、自然の災害と他国による事実上の占拠とは根本的に異なるも
のではなく、登記官の実地調査権が事実上行使できなくなっているという点では本
質的に同質のものである、③我が国全土の不動産について、実体的物権変動の事実
をあまねく公示することにより、不動産取引の安全と円滑に奉仕することが不動産
登記制度の本来の趣旨であり、仮に、実体的物権変動が存在しているにもかかわら
ず、一部の地域の不動産については登記を拒否するという事態が生ずるならば、そ
れこそ不動産に関する取引の安全と円滑を害する結果を招来することになる、④北
方領土地域にある本件土地は、少なくとも登記用紙が起こされたときには物理的に
も存在していたことが明らかであり、このような土地に対する権利登記を、実地調
査権を事実上行使することができないという理由をもって申請を却下することは、
登記簿と申請書との形式的整合性のみを審査すべきとされる権利登記に対し、表示
登記の場合と同様の実地調査権を持ち込むことになり、迅速を要求される不動産登
記制度の趣旨はもとよりその運用をも逸脱したものとなるなどとして、北方領土地
域の不動産について、表示に関する登記ができない状況にあることはやむを得ない
にしても、権利に関する登記については、これを妨げる何らの支障も存在しないの
であり、むしろ、将来の返還に向けてこれを積極的に行うことにより、権利関係が
一層明確なものとなり不動産登記制度の趣旨に合致することになる旨主張する。
 しかしながら、不動産登記制度においては、不動産についての物権変動、権利関
係を公示することがその中核的機能であるとしても、不動産の登記簿は、不動産の
表示に関する事項として記載された物理的状況を有する不動産が現に存在すること
を前提として、その不動産についての権利に関する事項が記載されるものであり、
それらが一体となって、不動産取引の安全と円滑が図られているのである。そし
て、北方領土地域内の不動産については、その物理的状況を調査し、正確に把握す
ることができず、表示に関する登記において、不動産の客観的現況を公示するとい
う主たる機能が阻害されており、その回復時期を予測することも困難な状況にある
以上、そのような表示に関する登記を前提として、権利に関する登記を行いこれを
公示することが、不動産登記制度上特に問題にすべき理由がないとはいえないこと
は明らかである。
 次に、火山の噴火や地震等の自然災害が発生した場合であっても、我が国の行政
権を行使することができる地域であれば、何らかの手段によって実地調査をする
か、あるいは他の手段、方法により、不動産の物理的状況を把握することが可能で
あるのに対して、他国により占拠されたような場合には、右の点が事実上不可能で
あると考えられる。すなわち、登記官が不動産の物理的状況を把握することが困難
な事情は、自然災害による場合と他国により占拠された場合とでは、本質的に同質
であるとはいえない。したがって、仮に、自然災害が発生し、登記官による実地調
査権が一定期間できないような場合であっても、権利に関する登記が行われるとい
った登記実務があるからといって、北方領土地域内の不動産について、権利に関す
る登記を行うことに何ら支障がないということはできない。
 また、我が国全土の不動産について、実体的物権変動の事実をあまねく公示する
ことにより、不動産取引の安全と円滑に奉仕することが不動産登記制度の本来の趣
旨であるが、前記のような事情により、北方領土地域内の不動産について権利に関
する登記を行うことは、かえって取引の安全と円滑を害する結果を招来することに
なりかねないから、同地域内の不動産については、不動産登記法を適用することが
できないものとするのはやむを得ないことと考えられる。
 さらに、北方領土地域内の不動産について権利に関する登記を行うことが許容さ
れないとする理由は前記1に説示のとおりであって、権利に関する登記に対し、表
示に関する登記の場合と同様な実地調査権を持ち込むことになるというものではな
い。
 右のとおりであって、北方領土地域内の不動産について、権利に関する登記を行
うについて何らの支障も存在せず、これを積極的に行うことにより、権利関係が一
層明瞭なものとなり、不動産登記制度の趣旨に合致する旨の被控訴人の主張は採用
することができない。
(三) 被控訴人は、①表示に関する登記の内容について終始正確性を確保するこ
とは困難であり、不動産登記法は、表示に関する登記に現況との不一致が常時存在
することを予定しているのであるから、北方領土地域内の不動産について、表示登
記に関する正確性が保証されないという事態が生ずるとしても、右事態の存在自体
によって、右地域内の不動産の登記能力を一律に喪失せしめる合理性は認められな
い、②登記簿の正確性は表示に関する登記に限って要請されることではなく、権利
に関する登記においても正確に公示すべきことは当然に要請されるところであり、
所有者の住所を正確に公示するための本件申請は、まさに登記簿の正確性を確保せ
んとする不動産登記法の要請に応えようとするものである、③本件申請に係る登記
は、北方領土という特殊な状況下におかれている地域の実体上の権利関係には何ら
の影響を及ぼすものではないし、国が現在北方領土地域の不動産に対する権利関係
を明確にするために行っている「相続の申出手続」の趣旨にも合致するものである
などと主張する。
 確かに、被控訴人主張のとおり、表示に関する登記の内容について終始正確性を
確保することは困難であるが、不動産登記法が、不動産の物理的状況を正確に把握
し、公示することができるように、表示に関する登記について、登記官に実地調査
権を付与し、職権で登記を実行する権限を認めていることや、表示に関する登記に
現況との不一致が存在する場合には、不動産の所有者等に、前記1(一)に認定の
ような不一致を是正するための登記申請をすることを義務づけていることなどから
しても、不動産登記法が、表示に関する登記に現況との不一致が常時存在すること
を予定し、そのことを不動産登記制度運用の前提として許容しているとは認められ
ない。少なくとも、不動産登記法が、表示に関する登記と現況との不一致がいかな
る態様、程度のものであっても、表示に関する登記としての適格を有するものと想
定していないことは、同法の目的からいっても明らかであるところ、前記のとお
り、北方領土地域内の不動産に係る表示に関する登記については、不動産の客観的
現況を公示するという主たる機能が阻害されている状態にあり、表示に関する登記
の記載では不動産の現況を特定することができないといった事例だけではなく、表
示に関する登記に係る不動産自体が存在しないといった事例も想定されるから、右
地域内の不動産の登記能力を一律に喪失せしめることは不合理である旨の被控訴人
の主張は採用することができない。
 また、登記簿の正確性は、表示に関する登記に限って要請されるものではなく、
権利に関する登記においても要請されるものであるところ、本件申請に係る登記
は、所有者の住所を正確に公示するためのものにすぎず、直接的には実体上の権利
関係に影響を及ぼすものでないことは被控訴人主張のとおりである。しかしなが
ら、本件で問題にすべきことは、北方領土地域内にある不動産が、不動産登記法に
基づく登記の対象となる不動産に該当するかどうかということであり、これが消極
に解すべきものである以上、本件申請が右のような趣旨のものであるからといっ
て、登記すべきものであると解することはできず、この点についての被控訴人の主
張は採用することができない。
 なお、甲第一一号証、乙第一号証によれば、昭和四五年四月一〇日付け法務省民
事甲第一三二九号釧路地方法務局長宛民事局長通達により、北方領土地域に所在す
る土地又は建物の登記簿又は台帳上の所有名義人に関する相続関係を明確にしてお
くべく、昭和四五年五月一日から当分の間、右土地又は建物についての従前の登記
簿又は台帳で釧路地方法務局根室支局に保管されているものに記載されている所有
名義人に関して、相続人から相続の申出がされたときは、所要の事項を記載した相
続関係用紙を土地又は建物についての登記用紙の甲区用紙の次に編綴する(登記簿
が在する場合)取扱いを行っていることが認められるが、この取扱いは不動産登記
法に基づくものではなく、右取扱いがあるからといって、本件申請に係る登記を許
容すべきであるということにはならない。
二 争点2について
 本件処分は憲法二九条一項、三一条に違反する旨の被控訴人の主張は、実質にお
いて、本件処分が不動産登記法に違反していることを前提とするものであるとこ
ろ、前記説示のとおり、本件処分が適法である以上、被控訴人の右主張は理由がな
いものというべきである
三 争点3について
 不動産登記法四九条において、登記官が登記申請を却下する決定をする場合には
理由を付記すべきこととしているのは、登記官に対し慎重で恣意的ではない判断を
求めるとともに、却下の理由を申請人に知らせて不服申立ての便宜を与えるためで
ある。右規定の趣旨に照らすと、登記申請を却下する決定に付記すべき理由として
は、いかなる事実関係に基づき、いかなる法規を適用して却下したかを申請人がそ
の記載自体から了知することができる程度に記載する必要があり、またその程度で
足りるものと解される。
 甲第二号証によれば、本件処分に付された理由として、「本件申請事件は、事実
上我が国の統治権、行政権が及ばない地域であり、これらの地域に属する不動産に
ついては、事実上、不動産登記法に基づく登記ができないので、本件申請は、登記
の対象外の不動産に係る登記の申請であり、不動産登記法第四九条第二号の規定に
より却下する」旨記載されていることが認められるから、付記すべき理由として不
備な点があるとは認められず、争点3についての被控訴人の主張は理由がない。
四 結論
 以上のとおりであって、本件申請を不動産登記法四九条二号に基づき却下した本
件処分は適法であり、また、本件処分に憲法違反、理由付記不備の違法はない。
 よって、本件処分の取消請求(予備的請求)を認容した原判決は不当であり、本
件控訴は理由があるから認容することとし、訴訟費用の負担について行政事件訴訟
法七条、民事訴訟法六七条二項、六一条を適用して、主文のとおり判決する。
(口頭弁論終結の日 平成一〇年一一月二四日)
札幌高等裁判所第三民事部
裁判長裁判官 濱崎浩一
裁判官 土屋靖之
裁判官 竹内純一

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