弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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○ 主文
原判決中控訴人敗訴部分を取り消す。
被控訴人の請求を棄却する。
訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人の負担とする。
○ 事実
第一 当事者の求める裁判
一 控訴人
主文同旨。
二 被控訴人
控訴棄却。
第二 当事者の主張
当事者双方の主張は、次に付加、訂正するほか、原判決事実摘示と同一であるか
ら、これを引用する。
一 原判決二枚目裏二行目から四行目の括弧内を「以下、各土地を一括して「本件
土地」といい、各土地を同目録の各土地の表示に冠記した番号により「(一)の土
地」、「(二)の土地」又は「(三)の土地」という。」に、同五行目から六行目
の「公募(競争入札)に付することなく」を「一般競争入札に付することなく、同
市を代表して」に、同七行目の括弧内を「この売却を以下「本件売却処分」とい
う。」にそれぞれ改め、同三枚目表初行から二行目の「了した」の次に「(以下、
Aを「訴外A」、Bを「訴外B」、右両名を「訴外Aら」という。)」を加え、同
裏六行目の「本件売買契約が締結された」を「本件売却処分がなされた」に、同四
枚目表四行目の「本件土地の売却処分」を「本件売却処分」に、同裏二行目の「随
意契約」から同三行目の「講ずることなく」までを「随意契約の方法によつて契約
を締結するに当たつては、相手方の選定、売買価額の決定等について、一般競争入
札の場合に準じた配慮をして公正な契約を締結することに努め、土地価格の鑑定等
の客観的方法を講じて売買価額を決定するべきであるのにこれを怠り」に、同一〇
行目の「本件売買により」を「本件売却処分により本件土地の所有権を失い」にそ
れぞれ改め、同行目の「本件土地の」の次に「適正な対価である」を、同五枚目表
七行目の「被告に対し、」の次に「不法行為又は同市との委任関係に基づく善管注
意義務違背による損害賠償として、」をそれぞれ加え、同一〇行目から末行の「遅
延損害金の支払」を「遅延損害金を支払うこと」に、同裏三行目の「事実」を「事
実中、(二)の土地及び(三)の土地が海老名市の普通財産であり、控訴人が市長
としてこれを管理していたことは否認し、その余」にそれぞれ改める。
二 同六枚目裏末行を削る。
三 同七枚目裏二行目の「公法人」から同三行目の「組織変更されて」までを「組
織変更をして公地開発公社(以下「公社」という。)となり、」に改め、同末行の
「取得した」の次に「((三)の土地及び涯の土地を併せて、以下「本件取得地」
という。)」を加え、同八枚目表初行を「2公社が本件取得地を処分するに至つた
事情」に、同裏九行目の「公社が」から同一〇行目の「)」までを「本件取得地」
に、同九枚目裏二行目及び一〇枚目表九行目の「相鉄線及び小田急線」をいずれも
「相模鉄道及び小田急電鉄」に、同九枚目裏八行目の「西側を」を「西側が」に、
同行目、同一〇枚目表四行目及び同一六枚目表六行目の「国鉄」をいずれも「日本
国有鉄道」にそれぞれ改め、同一〇枚目裏三行目の「適せず、」の次に「また、本
件土地は、」を加え、同五行目から六行目の「耕作地」を削り、同一一枚目表二行
目の「考えられた。」次に「また、昭和五一年当時、本件土地は、東京電力株式会
社の高圧送電線用鉄塔の建設予定地となつていた。」を加える。
四 同一一枚目表三行目の「本件土地を」を「本件売却処分の経緯及び」に、同裏
三行目の「海老名市」、同七行目の「同市」及び同一二枚目裏八行目の「海老名
市」をいずれも「公社」にそれぞれ改め、同一三枚目表二行目から三行目の「海老
名市の理事者及び担当職員により」を削り、同五行目の「実勢」を「情勢」に改め
る。
五 同一三枚目表九行目から同一四枚目裏三行目までを次のように改める。
(四) また、(一)の土地は、従前、市道として認定使用されていたが、公社
は、本件取得地が、原判決別紙図面記載のとおり、その中間に右(一)の土地が存
在するため、涯の土地と(三)の土地とに分断されて利用価値が低下しているとこ
ろから、本件取得地の有効利用を図るため、昭和四八年四月六日、海老名市(以
下、単に「市」というときは同市を指す。)に対し、右涯の土地中東側の部分(の
ちに、分筆後海老名市<地名略>畑一〇九平方メートルとなつた部分。以下、分筆
後の右土地を「一五四八番四の土地」という。)を市道敷地として市に無償使用さ
せることを申し出るとともに、右(一)の土地に存する市道を右敷地に付け替える
ことを申請し、市議会においてその旨の市道の路線変更の議決を経て、市は、同年
七月三日、一五四八番四の土地を市道とする旨の告示をし、そのころ市道として供
用を開始した。右路線変更に際して、市と公社との間では、将来、公社が涯の土地
の残余の部分(のちに分筆後、(二)の土地となつた部分)及び(三)の土地を処
分するときは、市は(一)の土地をも一括して処分するよう協力する旨の合意が成
立した。
市は、昭和四九年一二月一〇日、国から国有財産であつた(一)の土地の無償譲与
を受けてその所有権を取得し、昭和五一年三月五日市の所有名義の所有権保存登記
がなされた。
(五) このような状況の下において、C議員の紹介により、訴外Aらからの買受
申入れがなされたので、市、公社及び訴外Aらで交渉の結果、市が本件取得地を公
社から買い受けた上、(一)の土地と(二)の土地及び(三)の土地を一括して、
本件土地全体を代金合計一一九〇万円で訴外Aらに売却することとなり、同年四月
一日、市は、公社から、本件取得地を代金二四九万五五四五円で買い受け、同月三
日、訴外Aに対して(一)の土地及び(二)の土地を、訴外Bに対して(三)の土
地を売り渡したものである。
(六) 控訴人が、本件土地を売却するに当たり、競争入札の方法によらず、随意
契約の方法によつたことは次のとおり適法である。
(1) 本件売却処分のうち、(二)の土地及び(三)の土地の売買には、地方自
治法二三四条一、二項の規定の適用はない。
前記のとおり、公社は、本件取得地をできる限り早急に処分する方針を決めたにも
かかわらず、なかなか売却先が見当らず苦慮していたところ、訴外Aらから買受の
希望が出されたため、同人らと交渉し、売却に当たつての代金額等の契約内容を取
り決めた。ところが、公社は、公有地の拡大の推進に関する法律に基づいて設立さ
れたものであるが、本件取得地のように、公社が公共用地取得の際の代替用地とし
て取得した土地を直接私人に対して売り渡すことは、右法律一〇条一項、一七条の
法意に照らし相当でないと判断されたこと、公社所有地を代替用地として私人に売
却する場合も、公社から直接売却せず、いつたん市に売却し、市を経由した形で売
却することが従来からの慣行であつたこと、公社としては所有地をその帳簿価格
(公社の買取価額に売却時までの公社の借入金利息相当額と公社の事務費を加算し
たもの)で市に売り渡し、市がこれを買主に売却することによつて帳簿価格と右の
市の売却価額との差額を市の収入とすることができることの理由から、市、公社及
び訴外Aらの三者合意の上で、公社が本件取得地を、その帳簿価格である二四九万
五五四五円でいつたん市に売り渡し、市がそのうち(二)の土地及び(三)の土地
と(一)の土地とを併せて右の公社と訴外Aらとの間の交渉で決定した価格である
合計一一九〇万円で訴外Aらに売却するという形をとつたのである。したがつて、
本件取得地の訴外Aらに対する売主は、一応市となつてはいるが、実質は、公社所
有地について、公社と訴外Aらとの間で売買がなされたものといつてよいのであ
り、公社と市との間の売買契約は、右のような理由から、一時的に市を中間に介在
させるためになされたものにすぎず、市は、本件取得地を直ちに訴外Aらに売却す
るために取得したものであつて、その普通財産として取得する目的で買い受けたも
のではない。地方自治法二三四条一、二項の規定は、地方公共団体の本来の普通財
産を公正かつ有利に処分するために設けられたものであるから、右のような事情の
下に市が取得した本件取得地についてした本件売却処分にはその適用がないものと
いうべきである。
(2) 仮に、本件売却処分に地方自治法二三四条の規定の適用があるとしても、
同条二項の規定により随意契約の方法によることができる場合に該当する。
(イ) 訴外Aらに対する本件土地の売却は、随意契約ができる場合を列挙する地
方自治法施行令一六七条の二第一項二号の「契約の性質又は目的が競争入札に適し
ないものであるとき」に該当する。
右二号の解釈に当たつては、国有財産に関する会計法二九条の三第五項、予算決算
及び会計令九九条の規定が参照されるべきであるが、同令九九条二二号は「土地を
特別の縁故がある者に売り払うとき」を掲げている。
本件土地のうち、(二)の土地及び(三)の土地の売却については、右(1)のと
おり、すでに公社と訴外Aらとの間で、同人らに売却することが決定されたものに
前記のような理由で市が中間に介入して訴外Aらに売却する形がとられたものであ
るから、訴外Aらは右土地につき特別の縁故がある者に当たるものであり、右売買
は、その性質又は目的が競争入札に適せず、随意契約の方法によらざるを得ないも
のであつたというべきである。
また、本件土地のうち(一)の土地は、前記(四)のとおり、市有地ではあつたも
のの、路線変更の際の合意により、公社所有の涯の土地中一五四八番の四の土地に
相当する部分と実質的にはすでに交換されていたといつてよい状態にあり、市と公
社との間で、将来公社が涯の土地中(二)の土地に相当する部分及び(三)の土地
を処分するときは、市は(一)の土地をも一括して処分するよう協力する旨の合意
がなされていたばかりでなく、(一)の土地は、(二)の土地及び(三)の土地に
挾まれた鉤の手状の細長い形状の土地であつて、それ自体の独立した土地としての
利用価値は極めて低く、右(二)の土地及び(三)の土地と一括して処分すること
により最も高価に処分できるものであり、公社の訴外Aらに対する(二)の土地及
び(三)の土地の売却は、買手がなくて永年抱え込んでいる土地の処分に窮してい
た公社が、ようやく買受の希望者を得て処分し得るようになつたことによるもので
あり、市は、実質的に一身同体の関係にある公社の右土地処分を援け、その窮状の
打開に協力する目的で、(一)の土地を(二)の土地及び(三)の土地と一括して
売却したものであるから、右(一)の土地の売買も、その性質又は目的が競争入札
に適しない場合に当たるというべきである。
そして、「契約の性質又は目的が競争入札に適しないもの」に該当するか否かの判
断は、本来政策決定の問題であるから、地方公共団体の長の裁量に委ねられるべき
ものであり、右事由に該当する旨の長の判断は、裁量権の濫用又は裁量の範囲の逸
脱がない限り尊重されるべきであるが、本件売却処分に当たつて控訴人のした判断
には、右のような濫用ないし逸脱のないことが明らかである。
(ロ) 訴外Aらに対する本件土地の売却は、また、地方自治法施行令一六七条の
二第一項第四号の「競争入札に付することが不利と認められるとき」に該当する。
本件取得地は、買手がつかず、公社が約一〇年間も抱え込まざるを得なかつた土地
である上、当時の社会情勢からして、本件土地を競争入札に付すれば予定価格であ
る三・三平方メートル当たり七万円を下回ることは確実であり、また、いつたん競
争入札に付して不調となれば、ますます右予定価格で売却することが困難となるこ
とは必至で、かえつて市に損害を与えることになるおそれがあると認められたので
あるから、本件土地の売買は、「競争入札に付することが不利と認められるとき」
に当たるものである。
(ハ) 本件売却処分のうち、(一)の土地の売買は、また地方自治法施行令一六
七条の二第一項第五号の「時価に比して著しく有利な価格で契約を締結することが
できる見込みのあるとき」に該当する。
(一) の土地を含む本件土地の売却予定価格を三・三平方メートル当たり七万円
としたのも、訴外Aらが本件土地をほぼ右価格で買い受けたのも、本件土地全体を
一括して評価した結果であり、(一)の土地のみを処分しようとすれば、前記
(イ)のとおりの事情からその売買価額が極めて低廉なものとならざるを得ないこ
とが明らかであるから、(一)の土地を、(二)の土地及び(三)の土地とともに
訴外Aらに売却することは、右五号の場合に該当するというべきである。
(七) 市の条例では、市有地の処分について、一件五〇〇平方メートル以上で予
定価格二〇〇〇万円以上のものの売払いは議会の議決を要することとし、その余の
売払いは市長の権限としているが、本件売却処分は右市長の権限内のものであり、
しかも、適正な対価をもつてなされたものであるから、地方自治法二三七条二項の
規定に反するものではない。右条項にいう「適正な対価」とは、地方公共団体にお
ける当該財産の取得価格、所有期間中の金利のほか、売買の難易、売却についての
財産上の必要性等諸般の事情を総合した妥当な価格を意味するものであり、必ずし
も時価を意味するものではないが、前記のような事情からすれば、本件売却処分の
対価は、右のいずれの意味においても適正なものである。
六 同一四枚目裏五行目から同一六枚目表二行目までを次のように改める。
市議会は、昭和五五年六月一三日、本件売却処分について、本件土地を表示し、契
約金額、及び相手方を具体的に明示して、地方自治法九六条一項六号の規定による
追認の議決を求める旨の控訴人提出の議案を、原案どおり可決した。
したがつて、仮に本件売却処分の対価が適正なものでなかつたとしても、議会の右
議決によりその瑕疵は治癒されたものであるから、もはや、右対価が適正でなかつ
たことを理由として、控訴人の損害賠償責任を問う余地はなくなつたというべきで
ある。
七 同一六枚目裏五行目の「同4(四)のうち、」から同七行目の「否認する」ま
でを「同4(四)の事実は不知」に、同八行目の「同4(五)の主張は争う」を
「同4(五)のうち、C議員の紹介により訴外Aが買受申入れをしたことは認める
が、その余は不知」にそれぞれ改める。
八 同一六枚目裏九行目から同一七枚目表二行目までを次のように改める。
(四) 同4(六)の主張は争う。
地方自治法施行令一六七条の二第一項二号の「契約の性質又は目的が競争入札に適
しないものであるとき」に「特別の縁故がある者に売り払うとき」が含まれるとし
ても、右の特別の縁故がある者への売払いとは、買収又は収用した土地を旧所有者
に更に売り渡すとき、地方公共団体の所有地の地元民に産物を売り渡すとき等を指
すものであるから、本件土地の訴外Aらへの売却がこれに該当しないことは明らか
である。
(五) 同4(七)のうち、控訴人主張のような条例が存在することは認め、その
余の主張は争う。
地方公共団体の財産の売却は、財務会計上、不用財産を処分して財源を獲得するこ
とが主要な目的であるから、その目的を達成するためには、最も高い価額で契約す
べきであり、地方自治法九六条一項六号、二三七条二項の「適正な対価」は、当
然、時価を基準とすべきものである。
控訴人主張の本件売却処分の際の価額の決定が合理性を欠き、右売却代金額が適正
な対価といえないことは、次の点からも明らかである。
九 同一七枚目表三行目一III赴、一信医一の「保育所用地」の一削に「控訴人
主張の」を加える。
一〇 同一七枚目裏七行目一律牡、一計L己から同一八枚目表五行目一作社r訃L
五一までを次のように改める。
5 (抗弁に対する反論一
住民訴訟の制度は、議会をも含めた地方公共団体の機関が正常な機能を果たさない
場合に、補充的にその財務会計上の非違を訴訟で是正させようとする趣旨に出たも
のである。そして、控訴人のした本件売却処分は、地方自治法二三四条二項の規定
に違反する違法な行為であり、議会の議決の有無にかかわらず本来違法な行為であ
るから、同法九六条一項六号所定の議決があつたからといつて適法な行為となるも
のではなく、住民訴訟が許されなくなるものではない(最高裁大法廷昭和三七年三
月七日判決(最高裁判所民事判例集一六巻三号四四九ページ)参照)。
三 証拠(省略)
○ 理由
一 請求原因1、6の事実及び控訴人が訴外Aらに対して本件売却処分をしたこと
は、当事者間に争いがない。
二 本件売却処分の経緯についての当裁判所の判断は、次に付加し、改めるものの
ほか、原判決二〇枚目裏初行から同三四枚目表初行までの説示と同一であるからこ
れを引用する。
1 同二〇枚目裏初行の「相鉄線及び小田急線」を「相模鉄道及び小田急電鉄」
に、同一〇行目の「国鉄」を「日本国有鉄道」に改める。
2 同二一枚目表三行目の「第三三ないし」の次に「第三六号証、第四〇号証、」
を、同四行目の「第五四号証」の次に「、第五五号証」をそれぞれ加え、同行目の
「乙第一」を「乙第二」に、同六行目の「一ないし三」を「一、二」にそれぞれ改
め、同七行目の「第二一号証」の次に「、第二六ないし第二八号証、第三〇ないし
第三五号証」を、同末行の「第六号証」の次に「、原審証人Dの証言により原本の
存在と成立を認める乙第一五号証」を、同裏初行の「D」の次に「、当審証人E」
をそれぞれ加える。
3 同二一枚目表五行目の「一日」、同一〇行目の「昭和三八年六月に、」及び同
二二枚目表初行の「四月一日」を削り、同七行目の「構成されており」を「構成さ
れ、理事長は理事の互選により助役又は市の総務部長がなつており」に改め、同八
行目の「確かに、」から同裏初行の「存在である。」までを削り、同末行の「ま
た、」の次に「昭和四一年五月二〇日」を加え、同二四枚目表四行目から五行目に
かけて及び同八行目の「海老名市」をいずれも「公社」に改め、同裏八行目の「涯
の土地」から一〇行目の「低くなつており」までを「涯の土地(畑)がやや低く、
(三)の土地が約八〇センチメートル低くなつており、低湿で」に改め、同二五枚
目表八行目の末尾に「右決定に当たつては、近隣の取引事例として、昭和四七年三
月八日、約三〇〇メートル南方の鉄道線路沿いで本件取得地同様の低湿な田五〇坪
が坪当たり一万円で売買されたことも考慮した。」を加え、同裏三行目の「昭和四
八年中には」、同四行目の「昭和四九年中には」及び同二七枚目裏五行目の「一般
私人」から同八行目の「あるが、」までを削り、同二八枚目表三行目の「公共機関
である市として」を「公社として」に、同四行目の「すぎること」を「すぎると考
えられたこと」に、同六行目の「考えはしなかつた」を「ことはしなかつた」にそ
れぞれ改める。
4 同二八枚目表六行目の次に、次のように加える。
(5) また、(一)の土地は、国有地であり、従前市道として認定されていた
が、公社は、右土地が、原判決別紙図面記載のとおり、本件取得地の中間に存在す
るため、本件取得地は涯の土地と(三)の土地とに分断され、利用価値が低下して
いるところから、本件取得地の有効利用を図るため、昭和四八年四月六日、市に対
し、涯の土地中東側の部分(のちに分筆され、一五四八番の四の土地となつた部
分)を市道敷地として市に無償使用させることを申し出るとともに、(一)の土地
に存する市道を右敷地に付け替えることを申請した。市はこれを受けて、市議会に
おいて、右のとおりの市道の路線変更の議決を経た上、同年七月三日、右路線変更
の告示をし、そのころ、一五四八番四の土地を市道として供用開始した。右路線変
更に際し、市と公社との間では、将来、公社が涯の土地の残余の部分(のちに分筆
され、(二)の土地となつた部分)及び(三)の土地を処分するときは、市は
(一)の土地をも一括して処分するよう協力する旨の合意がなされた。公社は、同
年一〇月五日、涯の土地を分筆して、(二)の土地及び一五四八番の四の土地とす
る分筆登記手続を了した。
その後、市は道路法九四条二項の規定により、建設省所管国有財産部局長である神
奈川県知事に対して(一)の土地の譲与を申請し、昭和四九年一二月一〇日その譲
与を受けて所有権を取得し、昭和五一年三月五日その所有権保存登記がされた。
5 同二八枚目表七行目の「(5)」を「(6)」に、同八行目の「呈示していた
が」を「呈示したものの売却できず、公社所有の代替用地の中では取得時期が最も
古いものとなつていたが」にそれぞれ改め、同行目の「その後も、」から同裏八行
目の「検討され、」までを削り、同一〇行目の「公社」の前に「改めて代替用地の
処分について検討され、」を、同二九枚目表三行目の「理事会として」の次に「、
当時の地価の状況をも考慮して」を、同四行目の「基準」の前に「おおむねの」を
それぞれ加え、同行目から五行目の「弾力をもつて」を削り、同行目の末尾に「そ
の後も、大和市土地開発公社から同市の地権者が本件取得地付近の土地の買受けを
希望しているとの紹介があり、本件取得地を呈示したが断られ、また、市の中学校
用地の地権者にも呈示したが断られた。」を加え、同六行目の「(6)」を
「(7)」に、同九行目の「市議」を「F」に、同裏四行目の「営なむ」を「営
む」にそれぞれ改め、同末行の次に、次のように加える。
(8) ところで、公社は、前記のように、公有地の拡大の推進に関する法律に基
づき設立されたものであるが、公社が公共用地取得の際の代替用地として取得した
土地を直接私人に売り渡すことは公社の性格から適当でないと考えられたこと及び
公社としてはその所有地をその帳簿価格(公社の取得価額に売却時までの公社の借
入金利息相当額及び公社の事務費を加算したもの)で市に売り渡し、市がこれを売
却することによつて、右帳簿価格と市の売却価額との差額を市の収入とすることが
できるということから、公社では、従来から、公社所有地を代替用地として私人に
売却する場合も、公社からは直接売却せず、いつたん市に売り渡し、市を経由した
形をとつて売却するのが慣行であつた。そして、その際、買受希望者との売買価額
の協議はすべて公社において行い、右協議が成立したのち、公社からその土地を公
社の帳簿価格で市に売り渡し、市が右の買受希望者との間で右協議のととのつた価
額による売買契約を締結するという方法をとつていた。
6 同三〇枚目表初行から同裏末行の「ことになつた。」までを、次のように改め
る。
(9) 当初、訴外Aは、本件取得地のうち比較的立地条件のよい(二)の土地の
みを買い受けたいとの意向であつたが、公社の担当者から、市の所有となつている
(一)の土地(廃道敷)については、市と公社との間で、(二)の土地及び(三)
の土地を処分する際には一括して売却する旨の合意がなされていることの説明とと
もに、立地条件の悪い(三)の土地のみが売れ残つた場合、それを処分することは
ますます困難となるので、(二)の土地のほか、(一)の土地及び(三)の土地を
含め、本件土地全体を一括して買い受けてほしいとの要望がなされ、結局、本件土
地全体を売買交渉の対象とすることになつた。
7 同三〇枚目裏末行の「本件土地」の前に「公社及び市の担当者との」を加え、
同三一枚目表初行の「坪当り六万円」を「せいぜい坪当り六万円まで」に改め、同
三行目の「決定された」の前に「おおむねの基準として」を加え、同四行目から五
行目の「応じなかつた」から同六行目の「その見返りとして」までを「応じられな
いとの態度をとつた。そして、交渉の結果、価額の点は端数の金額を減額して合計
一一九〇万円(坪当たり六万八七三一円)とし、その見返りとして、訴外Aの要望
により」に、同一〇行目の「等の」を「についての」にそれぞれ改め、同行目から
同末行の「、坪当り七万円で」及び同裏二行目の「都市計画法施行令」から同四行
目の「による」までを削り、同九行目の「表向きは」を「ただ、公社及び市に対し
ては建売分譲の目的を告げず」に改める。
8 同三二枚目表初行から同末行までを次のように改める。
(10) 右交渉の結果、公社及び市の担当者と訴外Aらとの間に、本件土地の売
却について一応の合意が成立したので、前記(8)のとおり、公社が本件取得地を
その公社における帳簿価格でいつたん市に売り渡し、市がそのうちの(二)の土地
及び(三)の土地と(一)の土地を併せて売却することとなつたが、控訴人を初め
とする市の担当者は、改めて本件土地の価格鑑定を経ることはしなかつた(控訴人
が右鑑定を経なかつたことは当事者間に争いがない。)ものの、本件取得地が、公
社の保有地の中で取得時期の最も古いもので、これまで何度となく地権者らに代替
用地として呈示しながら、公社が処分の際の基準としていた坪当たり七万円の価額
では割高であるとして、結局、処分できなかつた立地条件の悪い土地であり、土地
ブームが去つた後は特に立地条件の悪い土地の処分が困難となつている情勢であつ
たため、自ら進んで買い受けたいという申出があつたこの機会に、不要な残土の搬
入によつて埋立てに便宜を与えることを考慮しても、前記のような経緯、事情のあ
る(一)の土地と一括して、本件土地全体をほぼ右の価額で処分することができる
なら上首尾であつて、市にとつて有利であり、相当の期間と手数を要する一般競争
入札に付していたのでは、ようやく現れた買受希望者が買受けの意思をひるがえし
てまた売れ残つたり、立地条件の悪さから買いたたかれて、右の価額より低額にし
か売却できないおそれがあると判断し、地方自治法二三四条二項、地方自治法施行
令一六七条の二第一項四号の「競争入札に付することが不利と認められるとき。」
に当たると考え、随意契約の方法によつて訴外Aらとの売買契約を締結することと
した。
海老名市には、地方自治法九六条一項七号の規定により議会の議決に付さなければ
ならない財産の処分は、予定価格二〇〇〇万円以上の不動産の売払いで、土地につ
いては一件五〇〇〇平方メートル以上のものに係るものに限る旨の条例が存し(こ
の事実は当事者間に争いがない。)、その余の市有地の売却は市長の権限とされて
いた。
そして、控訴人は、市を代表して、昭和五一年三月四日、本件取得地を公社での帳
簿価格(涯の土地は一八五万八〇五四円、(三)の土地は六三万七四九一円)で公
社から買い受けた上、随意契約により、本件土地のうち(一)の土地及び(二)の
土地を訴外Aに対し代金八二六万円、(三)の土地を訴外Bに対し代金三六四万円
合計一一九〇万円で売却することを決裁し、
9 同三二枚目裏初行の「三者間において、」の次に「(一)の土地は、まだ市名
義の所有権取得の登記が未了であつたところから、」を加え、同三行目の「三番」
を「八番」に、同九行目の「締結」を「作成」に、同三三枚目表初行及び六行目か
ら七行目の「涯の土地」をいずれも「(一)の土地及び(二)の土地」に、同五行
目の「(9)」を「(11)」にそれぞれ改め、同八行目の「、事実上」から同裏
初行の「なされている。)」までを削り、同二行目の「(一)(二)の土地」を
「(一)の土地及び(二)の土地」に改め、同七行目から九行目の括弧書き部分を
削る。
三 本件売却処分の経緯は、以上のとおりであり、被控訴人は、まず本件売却処分
は、控訴人、公社関係者、訴外Aらが共謀して一建築業者の利益を図るためにした
違法なものであると主張するが、右事実を認めるに足りる証拠はなく、かえつて、
前記認定の事実によれば、そのような共謀は存しなかつたことが認められる。
四 次に、被控訴人は、控訴人が海老名市長として、市を代表して訴外Aらに対し
て本件土地を一般競争入札の方法によらず、随意契約によつて売却したことは違法
であると主張する。すなわち、地方自治法二三四条一項は、普通地方公共団体の締
結する売買契約については、一般競争入札、指名競争入札(同条三項は、これらを
併せて「競争入札」と称している。)、随意契約又はせり売りの方法により締結す
るものとし、同条二項において、随意契約によることができるのは、政令で定める
場合に該当するときに限るものとしており、地方自治法施行令一六七条の二第一項
は、右の随意契約によることができる場合として一号ないし七号の場合を掲げてい
る。そして、控訴人のした本件売却処分は、同法二三四条二項及び同令一六七条の
二第一項の規定により随意契約によることができる場合に該当せず、一般競争入札
の方法によるべきものであつたのに、随意契約の方法によつたものであるから、こ
れらの法令に違背する財産の処分であると主張する。
そこで、次に、この点について判断する。
1 右のように普通地方公共団体がその所有の不動産を売却する場合においても、
地方自治法二三四条一項及び二項の規定により契約締結の方法として一般競争入札
を原則とし政令で定める場合に該当するときに限り、随意契約の方法によることが
できるものとしているのは、主として、契約手続の公開による公正の確保、契約価
額の有利性を図るためであり、随意契約によることがより有利であり、合理的であ
る場合もあり得るが、随意契約によることの弊害を防止することを重んずる趣旨に
出たものである。そして、地方自治法二三四条一項、二項及び同法施行令一六七条
の二第一項は、およそ普通地方公共団体の締結する売買、貸借、請負その他の契約
全般について適用されるものであり、普通地方公共団体の長の行う事務の執行は、
さまざまな事情の下で、多種多様な個別的、具体的事情を総合的に考慮し、合目的
的判断により遂行するものであることからすると、同法施行令一六七条の二第一項
各号に掲げる場合に該当するか否かは、抽象的な形式的又は画一的基準によつて決
すべきものではなく、法が同法二三四条二項の規定により確保しようとしている売
却手続の公開による公正の確保及び契約価額の有利性を図るという目的に照らし、
諸般の事情を総合的に勘案して決すべきものである。
2 前記のとおり、本件売却処分に係る本件土地のうち、(二)の土地及び(三)
の土地は元来市の所有ではなく、公社の所有であつたが、その買受けを希望する訴
外Aらとの協議がととのつたため、従前からの慣行に従い、いつたん市の所有とし
た上同人らに売却するために公社から市に売り渡されたものであり、(一)の土地
は、もともと国有の市道敷であつて、公社所有の(二)の土地及び(三)の土地を
有利に処分することを可能ならしめるため、市道の路線変更を行つた上、道路法九
四条二項の不用物件として市が国かた譲与を受けたものである。
そして、控訴人は、本件土地を訴外Aらに売却するに際し、前記二の(二)の(1
0)認定のとおりの理由から、同人らと協議のととのつた坪当たり約七万円の価額
で売却できるなら、上首尾であつて市にとつて有利であり、一般競争入札に付して
いたのでは、同人らが買受けの意思をひるがえしてまた売れ残つたり又は買いたた
かれて、市にとつて不利になるおそれがあると考え、地方自治法施行令一六七条の
二第一項四号の「競争入札に付することが不利と認められるとき。」に当たると判
断して、随意契約の方法により本件売却処分をしたのである。
3 前記のとおり、本件土地は、訴外Aらに売却されたのち宅地として造成された
ものの、それ以前は、南側道路より相当低くなつていた上、地盤も極めて軟弱で、
日照も十分でなく、残土等が搬入されていて耕作地としても使用し難く、宅地とす
るには相当の造成費用を要するばかりか、鉄道線路沿いに位置していて立地条件の
よくない土地であつた。そして、本件取得地は、市の財政が逼迫する中で会社の保
有地の処分を促進する方針がとられ、再三再四、公共用地取得等の際の地権者らに
代替用地として呈示されたにもかかわらず、右のような立地条件が災いして買受け
を申し出る者がなく、本件売却処分当時は、取得後一〇年を経た、公社の保有地中
最も取得時期の古いものとなつて、公社関係者はその処分に苦慮していた状況にあ
つた。そして、いわゆる石油シヨツク後、土地ブームが去つた情勢下において、土
地条件の悪い土地の処分は特に困難な状況となつていた。
4 訴外Aは、右のような経過の中で、本件取得地についてようやく現れた買受申
出者であり、しかも、同人は、当初、(二)の土地のみを坪当たり六万円以下で買
い受けたい意向であつたものを、公社との交渉の結果、従前から公社の理事会で処
分の際の基準の価額と決定していた坪当たりおおむね七万円という価額にそう価額
で、(二)の土地のほか、(一)の土地及び(三)の土地を一括して売買すること
に協議がととのつたのである。
そして、右の坪当たり、おおむね七万円という価額は、市において、改めて鑑定人
に依頼して鑑定を行うことをしてはいないが、公社の理事会において、前記認定の
ような近隣土地の鑑定価格、売買事例、地価の状況を考慮して決定したものであ
り、従前、繰り返し地権者らに呈示しながら割高にすぎるとして買受けを申し出る
者のなかつた価額である。しかも、本件土地のうち(三)の土地は、最も鉄道線路
に近い位置にあり、(二)の土地より更に低い帯状の地形であつて、それ自体単独
での利用価値は小さく、成立に争いのない甲第五四号証によれば、(三)の土地の
みの価格は(二)の土地の半額程度と認められ、また、(一)の土地も、(二)の
土地及び(三)の土地に挾まれた鉤の手状の細長い形状の地形で、同土地のみ売却
することは、極めて困難である上、(一)の土地のみではその価額は、(二)の土
地のそれより相当低いことが明らかである。
5 以上のところからすれば、市所有の(一)の土地は、それ自体独立の取引の対
象とし難いものであり、また公社所有の(二)の土地及び(三)の土地は、立地条
件が悪いため妥当な条件で売却することが極めて困難であり、しかも、これら三個
の土地を一括して売却することが合理的であつて市にとつて有利であること、市及
び公社においても、財政の健全化のため、本件取得地の処分が急がれる状況にあつ
たところ、ようやく、従来公社において種々検討して、でき得ればその程度の価額
で売却したいと考えていた平均坪当たり単価約七万円で本件土地を一括して売却で
きることについて、訴外Aらと市及び公社の間で協議が成立し、その協議結果を実
現するために、(二)の土地及び(三)の土地を公社からその帳簿価格で市が譲渡
を受け、市の本来の所有の(一)の土地と併せて一括して売却したものであつて、
そのような方式が採られたことには充分の合理性があり、市にとつてそれが得策で
あつたことがうかがわれる。そして、このような事情の下において、本件土地を訴
外Aらに随意契約により売却したとしても公正の維持に欠けるところはなく、市に
とつて不利益というよりはむしろ有利であるというべく、それにもかかわらず、改
めて相当の期間と手数、費用を要する一般競争入札の方法を採つていたのでは、従
前の経過からして、訴外Aらが買受けの意思をひるがえし、結局、同人らにも売却
することができず、折角の有利な機会を逸するおそれがあつたものというべきであ
つて、以上の事情を総合的に考えれば、本件土地の訴外Aらへの随意契約による売
却については、地方自治法施行令一六七条の二第一項四号の「競争入札に付するこ
とが不利と認められるとき」に該当するものというべきである。
6 しかも、原審証人Dの証言及びこれにより原本の存在及び成立を認める乙第一
四号証によれば、不動産取引業者である同人は、本件売却処分から一年後の昭和五
二年三月、本件土地の東側の水路を隔てて隣接した土地五〇坪を坪当たり九万円で
買い受け、坪当たり約二万円の造成工事費を費やして宅地としたが、同土地は地盤
が堅固であり、同人としては本件売却処分当時の本件土地の価格は坪当たり六万五
〇〇〇円と考えていることが認められる。
また、成立に争いのない乙第一三号証(不動産鑑定士G作成の不動産鑑定評価書)
は、昭和五一年二月二九日当時の本件土地の価格を坪当たり七万七五五〇円と評価
している。しかし、成立に争いのない甲第五四号証、第五五号証、原審証人Hの証
言及び原審における鑑定人Hの鑑定の結果によれば、右乙第一三号証では、本件土
地の場合に提供する必要のない公園用地及び学校用地の負担を見込んでいるため、
有効宅地化率を八〇・九パーセントとしているが過小であり、八五パーセント程度
とみるべきであると認められ、また、原審証人Gの証言によれば、乙第一三号証
は、本件土地が通常程度の地盤の状態であることを前提としたものであつて、特に
地盤が軟弱であれば修正を加える必要があり、その見込んでいる一平方メートル当
たり四五〇〇円の造成工事費もより高額となることがうかがわれ、前掲H証言によ
れば造成工事費は、一平方メートル当たり最低が三〇〇〇円、通常が八〇〇〇円、
困難なものは一万二〇〇〇円であることが認められる上、前記認定のとおり、昭和
五二年三月、Dの買い受けた本件土地に東側水路を隔てて隣接する地盤の堅固な土
地の造成工事費用が坪当たり約二万円であつたことを勘案して、右有効宅地化率及
び造成工事費の額、個別要因の格差につき修正を考慮すると、ほぼ坪当たり七万円
程度にはなるものと考えられる。
原審における鑑定人Hの鑑定の結果は、昭和五一年四月三日当時の本件土地の価格
を一平方メートル当たり三万三三〇〇円(坪当たり一〇万九八九〇円)と鑑定する
が、乙第一三号証が埋立て前の状態の宅地見込地としての評価をしているのに対し
て、同鑑定は、埋立て後の宅地化した状態における本件土地の評価をしたものであ
り、原審証人Hの証言によつても、宅地見込地の場合の価格は相当低額となること
がうかがわれるから、埋立て前の前記のような状態における本件売却処分当時の本
件土地の価格は、右鑑定価格を相当大幅に下回るものと考えられる。
甲第五四号証(勧業不動産株式会社作成の不動産鑑定評価書)は、昭和五一年二月
二八日当時の埋立て前の宅地見込地としての(一)の土地及び(二)の土地の価格
を一平方メートル当たり三万三〇〇〇円(坪当たり一〇万八九〇〇円)と評価する
が、造成工事費を乙第一三号証とほぼ同額の一平方メートル当たり四五三三・八七
円とするのは過小であるのみならず、以上述べたところに照らすと、右の評価額は
過大に失するものと認められる。
以上のところからすると、本件売却処分当時、本件土地全体を一括してみた場合の
価格として坪当たりほぼ七万円という価額は、客観的にも時価と一致するものであ
つたと認められる(原審証人Iの証言及び原審における被控訴人本人尋問の結果
中、右認定に反する部分は採用できない。)が、(一)の土地又は(三)の土地の
みの時価はこれを大幅に下回るものであつたと認められる。
したがつて、少なくとも、(一)の土地の訴外Aへの売却は、地方自治法施行令一
六七条の二第一項五号の「時価に比して著しく有利な価格で契約を締結することが
できる見込みのあるとき。」にも該当し、この点からも随意契約によることができ
る場合に当たるものというべきである。
7 また、(二)の土地及び(三)の土地は、前記のような経過をたどつて、公社
において訴外Aらと売買についての交渉を行い、これらの土地と市所有の(一)の
土地とを一括して同人らに売却する協議がととのつた段階で、前記のような事情か
ら、市によつて一括して売却を行い、差益を市に取得させるために、市の所有に移
されたものであつて、市としては、これを公社の帳簿価格である二四九万五五四五
円で買い受け、そのうちの(二)の土地及び(三)の土地を、国から無償で譲与を
受けていた(一)の土地と一括して、訴外Aらに一一九〇万円で売却し、九四〇万
四四五五円の差益を得たものであり、これに右6の事実を併せ考えると、本件土地
を一括して、しかも平均坪当り単価七万円程度による本件売却処分は、競争入札に
よるときは、右のような内容による売却が極めて困難であつて、正に地方自治法施
行令一六七条の二第一項二号の「その性質又は目的が競争入札に適しないもの」に
も該当し、この点でも随意契約によることができる場合に当たるというべきであ
る。
したがつて、本件売却処分には、一般競争入札の方法によるべきであるのに随意契
約によつた違法がある旨の被控訴人の主張は理由がない。
五 次に、被控訴人は、また、随意契約における相手方の選定、売買価格の決定等
について控訴人が著しく注意義務を欠いた旨主張し、控訴人が本件売却処分をする
について本件土地の価格の鑑定を経なかつたことは前記のとおりであるが、前記四
の事実からすれば、控訴人が市を代表して訴外Aらと本件土地の売買契約を締結す
るに当たり、市長として尽すべき注意を怠つたとは認められないから、被控訴人の
右主張は理由がない。
六 また、被控訴人は、本件売却処分は、本件土地を不当に低廉な価格によつて売
却処分したものであるから、裁量の範囲を著しく逸脱した違法な行為であると主張
する。しかし、前記四のとおり、本件売却処分における売買価額は、本件土地全体
を一括してみた場合、時価による適正な価格であるというべきであるから、本件売
却処分は、控訴人が不当に低廉な価格によつて売却したもので、裁量の範囲を著し
く逸脱した違法な行為である旨の被控訴人の主張は、その前掲を欠くものであつ
て、失当である。
七 しかも、地方自治法二三七条二項は、普通地方公共団体の財産は、条例又は議
会の議決による場合でなければ、適正な対価なくして譲渡してはならない旨を規定
し、右の議決は、同法九六条一項六号の規定するところであるが、成立に争いのな
い乙第二四号証によれば、本件売却処分は、同法二三七条二項にいう市の条例によ
る場合に該当しないことが明らかである。そして、右各条項にいう適正な対価と
は、原則として時価をいうものと解されるが、右の議決を要する場合に、議決なく
してなされた譲渡は、その効力を生じないものと解すべきであるから、被控訴人主
張のように、本件売却処分が不当に低廉な価格によつたものであつたとすれば、本
件売却処分は、同法九六条一項六号の規定による市議会の議決がない限り、同法二
三七条二項の規定に違背し、その効力を生じないこととなる。そうだとすれば、市
は、本件売却処分によつては本件土地の所有権を喪失しないから、市には被控訴人
主張のような損害は生じないものというべきである。
もつとも、成立に争いのない乙第二三号証によれば、本件売却処分については、原
判決言渡しの後である昭和五五年六月一三日、市議会において、控訴人が抗弁で主
張するような地方自治法九六条一項六号による議決がなされていることが認められ
るから、本件売却処分が仮に適正な対価なくしてなされたものであるとしても、譲
渡の効力を生ずるに至つたものというべきであり(被控訴人の援用する最高裁判所
大法廷昭和三七年三月七日判決は、地方公共団体の議会の議決があつても適法とな
る余地のない無効な法律に基づく公金の支出について、議会の議決があつたからと
いつて、法令上違法な支出が適法な支出となる理由はないとするものであるが、適
正な対価なくしてする財産の譲渡は、地方自治法九六条一項六号、二三七条二項に
よる議会の議決があれば適法であるから、右判例は、本件とは事実を異にし、本件
に援用するのは適切でない。)、これにより本件土地の所有権は、訴外Aらに移転
したことになるが、その場合、本件土地の適正な対価なくしてなされた本件売却処
分は、適法なものとなるのであるから、適正な対価との間に差額があるとしても、
何らの違法性もなく、控訴人が市に対して損害賠償責任を負担することはあり得な
いというべきである。
八 したがつて、被控訴人の本訴請求は、いずれの点からしても理由がなく、これ
を一部認容した原判決は失当であり、本件控訴は理由があるから、原判決中被控訴
人の本訴請求を認容した部分を取り消して、被控訴人の本訴請求を棄却し、訴訟費
用の負担について、行政事件訴訟法七条、民事訴訟法九六条、八九条の各規定を適
用して、主文のとおり判決する。
(裁判官 香川保一 菊池信男 柴田保幸)

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