弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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       主   文
本件申請をいずれも却下する。
申請費用は申請人らの負担とする。
       理   由
第一 申立
一 申請人
1 申請人らが被申請人に対し、労働契約上の権利を有することを確認する。
2 被申請人は、平成二年二月以降本案判決確定に至るまで毎月二五日限り、申請
人Aに対し一一万円、申請人Bに対し一〇万円をそれぞれ支払え。
二 被申請人
 主文同旨
第二 当裁判所の判断
一 申請人らは、昭和六二年二月一四日、被申請人に同社所有の通称ファインビル
の保安係として採用され、保安業務及び防火管理業務に従事していたところ、被申
請人の代表取締役の選任をめぐって争いが生じ、当庁平成元年(ヨ)第三四五号仮
処分申請事件決定により被申請人代表取締役職務代行者として選任されたC弁護士
(以下「C弁護士」という。)から、平成二年一月一一日、解雇する旨の通告を受
けたが、右意思表示は何ら合理的理由なくなされたものであり、解雇権の濫用であ
るとして、地位保全及び賃金の仮払いを求めるので、以下検討する。
二 被保全権利について
1 当事者間に争いのない事実及び疎明資料によれば、以下の事実が一応認められ
る。
(一) 被申請人は、ビルの賃貸を主たる業務とする、役員四名(但し、実働して
いるのはD及びEの二名)、従業員数名の株式会社である。申請人らは、昭和六二
年二月一四日、被申請人に同社所有の通称ファインビル(熊本市<以下略>所在)
の保安係として採用され、被申請人との間でそれぞれ期限の定めのない雇用契約を
締結し(以下「本件雇用契約」という。)、毎日交替で同ビルの保安業務及び防火
管理業務に従事していたものである。なお、被申請人は、就業規則は設けていな
い。
(二) 被申請人会社では、平成元年八月一四日頃、それまで同社代表取締役であ
ったD(以下「D」という。)の辞任登記がなされ、E(以下「E」という。)の
代表取締役選任登記がなされたことから、DとEの間で同人の代表取締役就任の有
効性をめぐって争いが生じ、Dが職務執行停止の仮処分を申し立て(当庁平成元年
(ヨ)第三四五号仮処分申請事件)、平成元年一二月二二日、同事件の決定によ
り、Eの被申請人会社代表取締役としての職務執行が停止され、職務代行者として
C弁護士が選任された。
(三) Dは申請人らに対し、前記仮処分によりEの職務執行が停止されC弁護士
が職務代行者として選任されたので、平成元年一二月二二日頃から、被申請人会社
事務室(ファインビル六階)の整理をするよう指示していたが、申請人らは、Eに
指示を仰ぎ、現状維持との指示を受けるとDの指示を無視して右事務所を執務でき
ない状態のまま放置した。
(四) C弁護士はDに対し、平成元年一二月二六日、職員に対して職務代行者就
任の挨拶をし、今後の業務についての指示を与えるため、翌日二七日に全従業員を
召集することを依頼した。Dは申請人B(以下「申請人B」という。)に対し、同
月二六日、職務代行者の挨拶・事務連絡があるから翌日二七日午前一一時にファイ
ンビル六階の事務室に集まるよう他の従業員に連絡することを電話で指示したが、
翌日二七日、申請人らは姿を見せなかった。C弁護士は、同日、同ビル一階エレベ
ーター付近でEと申請人Bに偶然出会い、申請人Bのいる前でEに対し、今後の方
針について話し合いたい旨申し出たが、「聞く必要はない。」と拒絶された。C弁
護士は、さらに同日、被申請人の関連会社である株式会社桑本の保安係を通じて、
申請人らに対し、被申請人会社事務室を代表者としての執務ができるよう整理する
ことを命じたが、申請人らは、Eの指示に従って右事務室を執務ができない状態の
まま放置した。
 申請人らは、C弁護士から右事務室の原状回復措置を命ぜられたことはない旨主
張し、これに沿う疎明資料があるが、前記(三)及び右認定の事実に照らすと信用
することができない。
(五) C弁護士は申請人らに対し、平成二年一月一一日、ファインビル五階保安
室に於いて、それぞれ三〇日分の予告手当てを提供の上、会社の方針により解雇す
る旨を告げたが、申請人らの納得がえられず、予告手当ての受領も拒絶されたた
め、解雇理由として、平成元年一二月二七日に命じた被申請人会社事務室の原状回
復命令に違反したことを指摘した。
(六) 申請人らは、C弁護士が職務代行者として選任されたことを知ったのは平
成二年一月一一日である旨主張するが、前記(三)及び(四)に認定した事実に照
らして、右主張に沿う疎明資料は信用できない。
2(一) 本件解雇が「常務」に該当しない旨の主張について
 申請人らは、本件解雇は職務代行者が為すべき「常務」に該当せず、裁判所の許
可なく行われた本件解雇は無効である旨主張するので検討する。
 商法二七一条一項にいう「常務」とは、当該会社として日常行われるべき通常の
業務をいうが(最判昭和五〇年六月二七日民集二九巻六号八七九頁参照)、同条の
趣旨は、当該会社の業務・財産に重要な影響を与える事項について裁判所の許可を
必要とすることにより、職務代行者の権限を制限し、会社の運営を裁判所の監督に
服せしめるところにある。してみると、従業員の解雇が「常務」に該当するか否か
は一律に決せられるものではなく、会社の規模、当該従業員が当該会社の中に占め
る地位、解雇の目的、解雇する従業員の人数、従業員の補充の可能性等を参酌し、
解雇が当該会社の業務・財産に与える影響の大きさを考慮して決する必要がある。
被申請人会社は、わずかな従業員数で運営されている会社ではあるが、申請人らは
何ら経営には関与しない保安係であり、右職務は代替性があり、右係員の補充は容
易である。また、本件解雇の目的は、通常解雇ではあるが、その真意は職務代行者
の指示命令違反を理由としており、会社の通常業務に支障をきたすことを防止する
ことを目的としたものであることがうかがわれる。以上を総合考慮すると、本件解
雇は何ら申請人会社の業務・財産に影響を与えるものではなく、むしろ会社として
の通常の業務遂行を維持するための行為であって、「常務」に属するものというこ
とができる。したがって、この点に関する申請人らの主張は理由がない。
(二) 解雇権の濫用の主張について
 本件雇用契約は、期間の定めない契約であり、職務代行者であるC弁護士は、本
件解雇に際し、三〇日分の予告手当てを提供の上、申請人らに対し解雇通告をして
いるのであるから、本件解雇手続には何ら違法な点はない。申請人らは解雇権の濫
用を主張するが、この点については充分な疎明がなく、かえって、前記1のとおり
一応認められる事実に照らすと、申請人らは、遅くとも平成元年一二月二七日頃に
は、被申請人会社代表取締役職務代行者としてC弁護士が選任されたこと及び同人
の職務執行のため被申請人会社事務室の原状回復措置が必要であることを認識して
おり、また、C弁護士から桑本ビルの保安係を通じて、右事務所の原状回復措置を
指示されたことを了知していたにもかかわらず、Eの指示に従う意図でC弁護士の
指示を無視したことが認められ、また、C弁護士が申請人らを解雇した真意は、今
後の被申請人会社業務の円滑な遂行に支障を生じないようにするために、職務代行
者の指示に従わないことが予想される者を排除することにあったことがうかがわれ
るので、本件解雇には正当理由があるものと一応認められる。
三 以上のとおり、申請人らの本件各申請は、いずれも被保全権利について疎明が
充分でなく、疎明に代えて保証を立てさせることも相当ではないので却下し、申請
費用について民訴法八九条を適用して主文のとおり決定する。
(裁判官 脇博人)

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