弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件上告を棄却する。
     上告費用は上告人の負担とする。
         理    由
 上告代理人浅井岩根、同浦田乾道の上告理由について
 上告人は、東京都に主たる事務所を有するD株式会社又はこれと同視することが
できる外国法人EがF丸の船舶所有者であり、上告人は、これに使用されることに
よって船員保険の被保険者資格を取得したと主張して、被上告人に対しその確認を
請求した(以下「本件確認請求」という。)ものであるところ、原審は、上告人は、
Gとの間で雇入契約を締結してF丸に乗船したものであるから、D又はEが船員保
険法(以下「法」という。)一七条所定の船舶所有者に当たるとみることはできな
いとして、これと同旨の判断の下に本件確認請求を却下した被上告人の処分に違法
の点はないとした。原審の右認定判断は、原判決挙示の証拠関係に照らし、正当と
して是認することができ、原判決に所論の違法はない。
 論旨は、右雇入契約の当事者となったGの法人格が全くの形骸にすぎず、F丸を
所有する株式会社H社は、法の適用を回避する目的をもって、GにF丸を貸し渡し
た上で、上告人を雇い入れさせたものであって、法の適用上は、Gの法人格を否認
し、H社が法一七条にいう船舶所有者に当たるものとみるべきであるとも主張する。
しかし、仮に、上告人がH社に使用されることによって船員保険の被保険者資格を
取得したものとみる余地があるとしても、その確認の権限を有するのはH社の主た
る事務所が所在する兵庫県の知事であって(法一九条ノ二、同二一条ノ五、船員保
険法施行令三条一項)、被上告人には、その確認の権限がないことが明らかである
(なお、この場合に本件確認請求を兵庫県知事に移送する措置を執る義務があると
解する根拠もない。)。
 したがって、被上告人が本件確認請求を却下した処分を違法ということはできず、
これと同旨の原審の判断は、結論において是認することができる。論旨は、以上と
異なる見解に立って原判決を非難するか、原審の結論に影響のない事項についての
違法をいうに帰し、採用することができない。
 よって、行政事件訴訟法七条、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官
園部逸夫の補足意見があるほか、裁判官全員一致の意見で主文のとおり判決する。
 裁判官園部逸夫の補足意見は、次のとおりである。
 私は、被上告人が本件確認請求を却下した処分を違法ということができないとす
る法廷意見に同調するものであるが、この際、日本船舶が我が国に住所を有しない
外国法人に貸し渡された場合に、その外国法人によって雇い入れられて右日本船舶
に乗船する船員に対する船員保険法の適用に関して、補足して意見を述べておきた
い。
 船員保険は、社会保障制度の一環として政府が管掌する強制適用保険であり、保
険給付に要する費用は、その一部を国庫が負担するが(法五八条)、その大部分は
被保険者たる船員及び船舶所有者が負担するものとされ(法六〇条)、船舶所有者
は、その使用する船員が負担する保険料についても納付義務を負うものとされてい
る(法六一条)。船員保険が船舶所有者の負担又は納付する保険料を主たる財源と
する拠出制の災害補償保険制度である性質上、我が国の強制徴収権が及ばない日本
に住所を有しない外国法人に使用されている船員については、船員保険の被保険者
資格を認めることはできないものといわざるを得ない。そして、日本船舶が外国法
人に貸し渡された場合においては、法一七条にいう船舶所有者となり得る者は、船
舶借入人である右外国法人にほかならないから、右外国法人に雇い入れられて船舶
に乗り組む船員には、船員保険の被保険者資格を認めることはできない。
 しかしながら、右外国法人の法人格が全くの形骸にすぎず、船舶の所有者である
日本法人が船舶を外国法人に貸し渡し、外国法人の名をもって船員の雇入れがされ
た目的が法の適用を回避することにあると認められる場合には、法の適用上、右外
国法人の法人格を否認し、その背後にあって船舶の運航を実質上支配している日本
法人をもって法一七条にいう船舶所有者に当たるものと認めて、法を適用する余地
があるものと考える。すなわち、船舶を日本法人から裸用船した外国法人がその配
乗権をもって外国人船員を雇い入れた後、船舶の所有者である日本法人又はその関
連会社が再び右船舶を定期用船して運航するというような運航形態が採られること
があり、これは、日本船舶における外国人船員の使用を可能にして日本船舶の国際
競争力を維持するという社会経済的必要性に基づくものであるものといえるが、右
のような運航形態を採って外国法人が日本人船員を雇い入れるについてはその必要
性を認めることはできない。そうすると、船舶借入人である外国法人が、船舶の所
有者である日本法人とその役員をおおむね共通にし、しかも事務所等の社会経済的
活動の拠点となる人的物的施設を持たないなど社会的実体を欠くものである場合に
おいて、船員に対する災害補償責任を担保するための措置も執らないまま日本人船
員との間で雇入契約を締結しているようなときは、右のような運航形態の下に外国
法人の名をもって日本人船員の雇入れがされた目的は、特段の事情のない限り、法
の適用を回避することにあるものとして、法の適用上は、右外国法人の法人格を否
認し、右日本法人をもって法一七条にいう船舶所有者に当たるものと認めるのが相
当である。このように解することが、強制適用保険である船員保険を実効あらしめ
るゆえんであると考える。
     最高裁判所第三小法廷
         裁判長裁判官    尾   崎   行   信
            裁判官    園   部   逸   夫
            裁判官    可   部   恒   雄
            裁判官    大   野   正   男
            裁判官    千   種   秀   夫

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