弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


戻る

平成22年3月23日判決言渡
平成18年(行ウ)第28号損害賠償請求行為請求事件
判決
主文
1被告は,Aに対し,35万2800円の賠償の命令をせよ。
2原告らのその余の請求をいずれも棄却する。
3訴訟費用は,これを50分し,その1を被告の負担とし,その余を原告らの
負担とする。
事実及び理由
第1請求
1被告は,Bに対し,1583万9000円を請求せよ。
2被告は,Aに対し,386万9000円の賠償の命令をせよ。
3被告は,Cに対し,1197万円の賠償の命令をせよ。
第2事案の概要
1本件は,京都市の住民である原告らが,(1)京都市教育委員会(以下「市教
委」という)が実施又は関与した「歴史都市・京都から学ぶジュニア日本文。
化検定」の事業(以下「本件事業」という)は,公権力による教育内容へ,。
の不当な支配であって,憲法13条,19条,23条及び26条,地方教育行
政の組織及び運営に関する法律(以下「地教行法」という)24条並びに平。
成18年法律第120号による改正前の教育基本法(以下「旧教育基本法」と
いう)7条及び10条に反するなど違法なものである,(2)本件事業に関し,。
平成17年度から平成18年度にかけて行われた,①「京都・観光文化検定」
の関連書籍220冊の購入(代金34万1000円,②システム構築及び運)
営準備業務の委託(委託料352万8000円)及び③「歴史都市・京都から
学ぶジュニア日本文化検定テキストブック」3万8000部の購入(代金11
97万円)に伴う公金支出にも財務会計法規に反する違法がある,(3)専決権
者として上記①②の各支出負担行為を行ったA(市教委総務部総務課長)は上
記①②の各支出による損害につき,専決権者として上記③の支出負担行為を行
ったC(市教委総務部長)は上記③の支出による損害につき,京都市に対し,
それぞれ,地方自治法243条の2第1項後段に基づく損害賠償責任を負う,
(4)当時の京都市教育長であったBは,違法である本件事業を自ら推進すると
ともに,上記各支出につき管理監督責任を怠ったものであるから,上記各支出
による損害につき,京都市に対し,民法709条に基づく損害賠償責任を負っ
,,ているところ同損害賠償請求権の行使が怠られている事実があると主張して
京都市長である被告に対し,地方自治法242条の2第1項4号前段及び同号
後段に基づき,A及びCに対する損害賠償の命令並びにBに対する損害賠償の
請求をすることを求めた事案である。
2前提事実(争いのない事実,当裁判所に顕著な事実並びに後掲の書証及び弁
論の全趣旨によって認められる事実)
(1)当事者等
ア原告らは,いずれも京都市の住民である。
イ被告は,京都市長であり,地方自治法242条の2第1項4号の執行機
関として,京都市が受けた損害について,賠償請求や賠償命令を行う権限
を有する者である。
ウD(以下「D市長」という)は,平成17年度及び平成18年度当時。
に京都市長であった者,B(以下「B教育長」という)は同当時に市教。
委教育長であった者である。
エC(以下「C部長」という)は平成17年度及び平成18年度当時に。
市教委総務部長であった者,A(以下「A課長」という)は平成17年。
度当時に,E(以下「E課長」という)は平成18年度当時に,それぞ。
れ市教委総務部総務課長であった者である。
オF(以下「F部長」という)は,平成17年度及び平成18年度に,。
市教委生涯学習部長であった者,G(以下「G課長」という)は,同当。
時に市教委生涯学習部家庭地域教育支援課長であった者,H(以下「H係
長」という)は,同当時に,市教委生涯学習部みやこ子ども土曜塾推進。
係長であった者である。
(2)本件事業の概要(甲7,30,甲31の1∼184,甲48の1∼5,甲
64,乙12,弁論の全趣旨)
ア本件事業は京都商工会議所が実施していた京都観光文化検定以下京,(「
都検定」という)の子ども版として,主に京都市内の小中学生を対象と。
し,京都の歴史・文化に関する検定試験(習熟度に応じて,基礎コース,
発展コース及び名人コースの3種類)を実施するとともに,京都市立の小
学校・総合養護学校(以下「各学校」という)の4∼6年生の児童(以。
下「配布対象児童」という)に,同検定試験用のテキストである「歴史。
都市・京都から学ぶジュニア日本文化検定テキストブック(以下「本」,
」。),。件テキストというを配布し学習の機会を設けるというものである
イ平成18年度に実施された本件事業の内容は,おおむね次のとおりであ
る。
(ア)本件テキストの配布
市教委は,平成18年5月ころ,配布対象児童に対し,本件テキスト
を無償で配布した。
(イ)本件テキストを用いた学習
各学校は,社会科等の授業時間又は授業時間外の時間を利用して,本
件テキストを用いた学習を実施した。
(ウ)検定試験の実施
平成18年11月20日から同年12月1日にかけて,各学校におい
て基礎コースの検定試験が実施され,各学校の小学校5,6年生(以下
「受検対象児童」という)が受検した(検定料は無料とされた。。。)
同年11月25日,京都市総合教育センター等の会場において,受検
対象児童以外の者を対象として基礎コースの検定試験が実施された検,(
定料は1000円であった。。)
その後,平成19年2月14日から同月28日にかけて,通信検定の
方法で発展コースの検定試験が実施された(なお,名人コースの検定試
験については,平成19年度に入ってから実施された。。)
(3)推進プロジェクト(甲14,15,50)
アB教育長は,平成17年10月27日,地方自治法180条の2の規定
に基づき,市長権限に属する事務についての補助執行権限として「歴,『
史都市・京都から学ぶジュニア日本文化検定』推進プロジェクト(以下」
「推進プロジェクト」という)の設置要綱を決定するとともに,推進プ。
ロジェクトの委員16名(うち1名はB教育長)及び顧問8名(うち1名
はD市長)を委嘱した。同設置要綱では,推進プロジェクトの事務局は,
市教委生涯学習部に置かれることになった。
イ平成17年11月10日,推進プロジェクトの第1回会議が開催され,
I(以下「I委員長」という)が推進プロジェクトの委員長に選任され。
るとともに,F部長が事務局長に選任された。その後,平成18年2月1
4日に第2回会議が実施された。
(4)各コースの実施要項の決定(乙12,60)
,,B教育長は平成18年9月14日に基礎コースの検定試験の実施要項を
,。同年11月22日に発展コースの検定試験の実施要項をそれぞれ決定した
(5)本件テキストについて(甲8の1∼11,甲10の1∼4,乙2)
ア本件テキストは,京都市小学校社会科教育研究会(以下「小社研」とい
う,京都市図画工作教育研究会,京都市生涯学習研究会,京都市立中。)
学校教育研究会社会科部会,京都市立中学校教育研究会美術部会等に所属
する教員や,極覧会(小社研のOB団体)の会員が分担して執筆等を行い
(以下,これらの執筆等に関わった教員等を「執筆関係者」という,。)
その後,京都新聞開発株式会社(以下「京都新聞開発」という)による。
編集作業等を経て完成したものである。
具体的には,平成17年6月15日に,執筆関係者が集まり,第1回執
筆者会議を開催した上で,主に小社研に所属する教員が原稿の執筆を行っ
て,平成17年7月28日,同年8月29日及び同年9月27日に開催さ
れた執筆者会議や,同年8月4日及び同年9月14日に開催された執筆責
任者会議において原稿の集約を行い,京都市図画工作教育研究会及び京都
市立中学校教育研究会美術部会に所属する教員等が挿絵の挿入を行うなど
した上で,原稿を京都新聞開発に提供し,同社が編集作業や写真の挿入な
どを行い,株式会社石田大成社が印刷して,京都新聞出版センターが発売
したものである。
イ本件テキスト(初版(乙2)は全184頁であり「歴史「寺院・神),」
社「祭りと行事「町並みと道「文化「産業「知とスポーツ「暮ら」」」」」」
しと食「環境と自然「観光」の分野別に記載されており,別紙「本件」」
テキスト記載内容一覧表(以下「別紙一覧表」という)の「記載内容」。
等」欄記載のとおりの内容の記載等がある(又は,原告らの主張する事項
が記載されていない。。)
また,本件テキストのうち,63,126,149,170∼178頁
(全12頁)及び裏表紙(表裏とも)は,私企業等の広告にあてられてい
る。
ウ本件テキスト(初版)の奥書には,発行日として平成18年3月31日
と記載されており,編集者として京都新聞開発が,発行者として推進プロ
ジェクト及び市教委の名前が掲げられている。
(6)本件事業に伴う各支出
ア関連書籍の購入(乙3の1,2,乙25)
(ア)京都市は,平成17年9月21日付け支出負担行為(以下「本件支
出負担行為①」という)により,京都商工会議所から「京都観光文。,
化検定試験(公式テキストブック(淡交社)及び「第1回京都観光)」
検定問題と解説(京都新聞出版センター(以下,総称し「本件関連」)
書籍」という)をそれぞれ110冊ずつ代金34万1000円で購入。
(。),いずれの書籍についても定価での購入であったすることを決定し
同年11月18日付け支出命令(以下「本件支出命令①」という)の。
上,同月28日,京都商工会議所に対し,上記代金を支払った(以下,
この一連の財務会計行為を総称し「本件支出①」という。,。)
本件支出負担行為①の支出負担行為書(以下「支出負担行為書①」と
いう)には,本件関連書籍の購入の目的は「ジュニア京都検定協力。,
者の資料として使用するため」と記載されている。
(イ)本件支出負担行為①及び本件支出命令①を行ったのは,専決権者た
るA課長であった。
(ウ)支出負担行為書①には,起案日は平成17年9月16日,決裁日は
,,同月21日と記載されているが実際の起案日は同年11月1日であり
決裁日は同日以降であった。
(「」。),本件支出命令①の支出命令書以下支出命令書①というには
「履行年月日」は平成17年9月26日と記載されており,検収の確認
印として,H係長の押印がある。
イ委託契約の締結(乙4の1ないし5,乙27)
(ア)京都市は,平成18年2月28日付け支出負担行為(以下「本件支
出負担行為②」という)により,M社との間で,委託料を352万8。
000円として,本件事業のシステム構築及び運営準備業務の委託契約
(以下「本件委託契約」という)を締結することを決定し,平成18。
年5月1日付け支出命令(以下「本件支出命令②」という)の上,同。
月16日,M社に対し,上記委託料を支払った(以下,この一連の財務
会計行為を総称し「本件支出②」という。,。)
本件委託契約は,随意契約により締結されたものであり,本件支出負
担行為②の決定書には,随意契約による理由として,地方自治法施行令
167条の2第1項2号(不動産の買入れ又は借入れ,普通地方公共団
体が必要とする物品の製造,修理,加工又は納入に使用させるため必要
な物品の売払いその他の契約でその性質又は目的が競争入札に適しない
ものをするとき)が挙げられていた。
(イ)本件支出負担行為②を行ったのは,専決権者であるA課長であり,
本件支出命令②を行ったのは,専決権者であるE課長であった。
(「」。)(ウ)本件支出負担行為②の決定書以下支出負担行為書②という
には,起案日は平成18年2月22日,決定日(決裁日)は同月28日
と記載されているが,実際の起案日は同年4月26日であり,決裁日は
同日以降であった。
(「」。),本件支出命令②の支出命令書以下支出命令書②というには
「履行年月日」は平成18年3月31日と記載されており,検収の確認
印として,H係長の押印がある。
(エ)本件委託契約の内容は,おおむね,次のとおりであった。
a業務の名称平成17年度ジュニア京都検定システム構築・運営
準備業務
b成果物スケジュール表,仕様確認資料,システム構築・運
営イメージ資料,システム操作マニュアル資料,受験
票等帳票サンプル見本,議事録
c契約期間平成18年3月1日から同月31日まで
d委託料352万8000円
e委託料の支払M社が成果物を提出した後,京都市が成果物を検査
し,検査に合格したときは,M社が委託料を請求し,
京都市は,請求の日から30日以内に支払う。
ウ本件テキストの購入(乙5の1,2,乙26)
(ア)京都市は,平成18年3月27日付け支出負担行為(以下「本件支
出負担行為③」という)により,京都新聞開発から,本件テキスト3。
万8000冊を代金1197万円(1冊当たり315円)で購入するこ
とを決定し,平成18年4月26日付け支出命令(以下「本件支出命令
③」という)の上,同年5月2日,京都新聞開発に対し,上記代金を。
支払った(以下,この一連の財務会計行為を総称し「本件支出③」と,
いい,本件支出①及び本件支出②と併せて「本件各支出」という。。)
本件テキストは,随意契約により購入されたものであり,本件支出負
(「」。),担行為③の支出負担行為書以下支出負担行為書③というには
随意契約による理由として,地方自治法施行令167条の2第1項1号
(売買,貸借,請負その他の契約でその予定価格〔貸借の契約にあつて
は,予定賃貸借料の年額又は総額〕が別表第5上欄に掲げる契約の種類
に応じ同表下欄に定める額の範囲内において普通地方公共団体の規則で
定める額を超えないものをするとき)が挙げられていた。
(イ)本件支出負担行為③を行ったのは,専決権者たるC部長であり,本
件支出命令③を行ったのは,専決権者たるE課長であった。
(ウ)支出負担行為書③には,起案日及び決裁日は平成18年3月27日
と記載されているが,実際の起案日は同年4月21日であり,決裁日は
同日以降であった。
(「」。),本件支出命令③の支出命令書以下支出命令書③というには
「履行年月日」は平成18年3月31日と記載されており,検収の確認
印として,H係長の押印がある。
エ本件各支出の会計年度
本件各支出は,いずれも,平成17年度の予算を執行したものである。
オ専決権者について
上記の各支出負担行為及び各支出命令については,本来,京都市長の権
限に属するが,京都市においては,京都市教育長等専決規程(乙13,1
4)により,市教委の主管事務の一部が,総務部長や総務課長の専決事項
とされており,C部長,A課長及びE課長は,これに従い,上記の各支出
負担行為及び各支出命令を行ったものである。
また,専決者は,権限を行使するに当たっては,上司への報告,相談等
を行うこととされ,専決者の上司は,専決者による専決処理の状況につい
て常に注意を払い,事務事業の厳正な進行管理に努めることとされている
(乙15。)
(7)監査請求(甲1,2,弁論の全趣旨)
,(),ア原告らは平成18年7月27日原告Jについては同年8月10日
京都市監査委員に対し,本件各支出は,本件テキスト,本件事業に問題が
あることからすると違法・不当な公金支出であるとして,地方自治法24
2条1項の規定により,必要な措置(D市長,B教育長及びC部長が連帯
して1197万円,D市長,B教育長及びA課長が連帯して386万90
00円の損害賠償金を支払うことの勧告)を求める内容の監査請求を行っ
た(以下「本件監査請求」という。。)
イ京都市監査委員は,平成18年9月25日,原告らの上記監査請求を棄
却し,そのころ,同監査結果を原告らに通知した。
(8)訴えの提起等
,,「,,,,,ア原告らは平成18年10月25日被告はDBCAに対し
連帯して1583万9000円を支払うように請求せよ」との判決を求。
め,本件訴えを提起した。その後,原告らは,平成19年1月17日の本
件第1回口頭弁論期日において陳述された平成18年11月10日付け
「」,「,訴状の補正についてと題する書面により上記請求の趣旨を被告は
(1)B,Aに対し,連帯して34万1000円を,(2)D,B,Aに対し,
連帯して352万8000円を,(3)D,B,Cに対し,連帯して119
7万円を京都市に支払うように各請求せよ」と補正した。。
イ原告らは,平成21年8月19日の本件第16回口頭弁論期日において
陳述された同日付け「訴状の補正の訂正申立」と題する書面により,請求
の趣旨を「(1)被告は,①Bに対し,34万1000円を,②D及びB,
に対し,連帯して352万8000円を,③D及びBに対し,連帯して1
197万円を京都市に支払うように各請求せよ。(2)被告は,Aに対し,
386万9000円の賠償の命令をせよ。(3)被告は,Cに対し,119
。」「」(「」。)。7万円の賠償の命令をせよと訂正した以下本件訂正という
ウ原告らは,平成21年12月18日の本件第18回口頭弁論期日におい
て,D市長を相手方とする訴えを取り下げた。
(9)本件に関連する規則等
ア京都市公文書管理規則(甲38,乙48)
第1条この規則は,京都市情報公開条例第37条の規定に基づき,公文
書の分類,作成,保存及び廃棄に関する基準その他の公文書の管理
に関し必要な事項を定めることにより,公文書の適正な管理を図る
ことを目的とする。
第6条意思決定に当たっては,公文書を作成するものとする。ただし,
処理に係る事案が特に軽易なものにあっては,この限りでない。
2意思決定と同時に公文書を作成することが困難な場合にあって
は,口頭により処理するものとし,事後速やかに公文書を作成する
ものとする。
イ京都市契約事務規則(甲52)
第27条随意契約により契約を締結しようとするときは,2人以上の者か
ら見積書を徴さなければならない。ただし,予定価格が100,0
00円以下の契約を締結しようとする場合その他特別の理由がある
ときは,この限りでない。
第29条(地方自治法施行)令第167条の16第1項及び京都市病院事
業の業務に係る地方公営企業法施行令第21条の15の規定による
契約保証金の額は,当該契約金額の100分の10以上に相当する
額とする。
2,3(略)
第29条の2契約保証金の納付に代えて提供させることができる担保は,
次の各号に掲げるものとする。
(1)(2)(略)
第30条市長は,次の各号に掲げる場合においては,契約保証金の全部又
は一部を免除することがある。
(1)∼(5)(略)
(6)随意契約により契約を締結する場合において,契約金額が少額
であり,かつ,契約の相手方が契約を履行しないこととなるおそ
れがないと認められるとき。
第35条契約書を作成する場合においては,契約の目的,契約金額,履行
期限及び契約保証金に関する事項のほか,次に掲げる事項を記載す
るものとする。ただし,契約の性質又は目的により該当のない事項
については,この限りでない。
(1)契約の履行の場所
(2)契約代金の支払又は納付の時期及び方法
(3)監督及び検査
(4)履行遅滞その他義務の不履行の場合における遅延利息,違約金
その他の損害金
(5)危険負担
(6)かし担保責任
(7)契約の履行の際生じる第三者との紛争の解決の方法
(8)契約の解除の要件
(9)その他市長が必要と認める事項
2,3(略)
ウ京都市会計規則(甲51)
第53条支出命令書(還付命令書を含む。以下同じ)には次に掲げる書類
を添付しなければならない。ただし,当該出納機関の承認を得て第
2号に掲げる書類の全部又は一部を省略することができる。
(1)請求書請求書により難い場合は支出調書又は納入通知書こ()(
れに類するものを含む。次項及び第66条において同じ)及び。
支出調書
(2)(略)
2,3(略)
エ京都市教育委員会通則(乙43)
第13条委員会は,次の各号に掲げる事項を除き,委員会の権限に属する
事務を教育長に委任する。ただし,教育長は,委任された事項のう
ち,特に重要なものについては,委員会に報告するものとする。
(1)∼(19)(略)
(10)随意契約に関するガイドラインについて(甲57)
京都市は,地方自治法施行令167条の2第1項各号に掲げる随意契約を
行うことができる場合の基準として「京都市物品等の調達に係る随意契約,
ガイドライン(以下「随意契約ガイドライン」という)を定めている。」。
同ガイドラインでは,同施行令167条の2第1項1号2号(不動産の買
入れ又は借入れ,普通地方公共団体が必要とする物品の製造,修理,加工又
は納入に使用させるため必要な物品の売払いその他の契約でその性質又は目
的が競争入札に適しないものをするとき)の基準のひとつとして「特定の,
1者でなければ提供できない役務に係る契約」で「特殊な技術又は秘密の技
術に関する情報その他の他の者が有し得ない専門的な知識,技術等を必要と
するもの」がこれに該当すると定めており,この場合の「運用上の留意点」
として「他の者では履行し得ない役務の提供であることについて同業他社,
に確認するなど客観的に確認すること「実績のある者が他にないこと又は」
実績が豊富であることのみをもって特定の1者でなければ履行できない理由
にはならないこと。契約の確実な履行には実績の有ることが望ましい場合は
実績要件を入札参加条件として競争入札に付すこと「独自のノウハウ等の」
必要性については,他の者が別の手段(ノウハウ等)によって達成できない
か確認すること」と定められている(同ガイドライン2(1)イ(イ)。)
3争点及び争点に関する当事者の主張
(1)B教育長を怠る事実の相手方とする訴えは不適法か(本案前の争点1。)
(被告の主張)
,,ア本件監査請求において原告らが監査を求めた対象は本件各支出であり
B教育長を相手方とする怠る事実は,本件監査請求の対象となっていない
(,,,なお監査結果においてもB教育長の不法行為責任の有無については
全く言及されていない。したがって,B教育長を相手方とする訴えは,。)
適法な監査請求を経ていない。
イまた,職員の非財務会計行為が不法行為に該当すると主張し,当該職員
に対する損害賠償請求権の行使を怠る事実を理由として住民訴訟を提起で
きるとすれば,地方公共団体の財務について創設された住民訴訟制度の趣
旨に反するから,そのような住民訴訟は,住民訴訟の対象に該当しないと
して却下されるべきであるところ,B教育長を相手方とする訴えは,これ
に該当する。
ウ以上のとおり,B教育長を相手方とする訴えは不適法であるから却下さ
れるべきである。
(原告らの主張)
ア被告の主張アについて
被告の主張を争う。監査請求の内容と訴えの内容を比較して,相手方又
は請求が同一であれば,適法な監査請求を経ているというべきところ,原
告らは,本件監査請求において,B教育長が違法な本件事業を行ったこと
や,これに基づく違法・不当な公金支出を具体的に指摘し,京都市はB教
育長に対する実体法上の請求権を有していると主張しているから,B教育
長を怠る事実の相手方とする訴えは,適法な監査請求を経ている。
イ被告の主張イについて
被告の主張を争う。
(2)C部長及びA課長を相手方とする訴えは出訴期間を徒過しているか(本案
前の争点2。)
(被告の主張)
ア本件訂正は,請求の趣旨を質的に変更させるものである上,賠償請求の
請求(地方自治法242条の2第1項4号本文)と賠償命令の請求(同号
ただし書)とは,請求の内容も根拠規定も異にするほか,その後の手続も
全く異なっており,訴訟物を異にするものというべきであるから,訴えの
交換的変更に該当する。
イそして,訴えの変更は,変更後の新請求については新たな訴えの提起に
ほかならないから,変更後の訴えに関する出訴期間が遵守されているか否
かは,両者の間に存する関係から,変更後の新請求に係る訴えを当初の訴
え提起のときに提起されたものと同視し,提訴期間の遵守において欠ける
ところがないと解すべき特段の事情がある場合を除き,訴えの変更のとき
を基準時として,これを決さなければならない(最高裁昭和54年(行ツ)
昭和58年9月8日第一小法廷判決・裁判集民事139号457頁参照)
ところ,本件訂正は,平成21年8月19日になされたものであり,本件
監査請求が棄却されてから30日以上を経過している。
ウしたがって,C部長及びA課長を相手方とする訴えは不適法であるから
却下されるべきである。
(原告らの主張)
ア被告の主張を争う。
イ住民訴訟における訴訟物は,住民の利益のために認められた住民自身の
権利としての違法是正請求権であるとみるべきであり,その一環としての
賠償請求の請求と賠償命令の請求とは同一の訴訟物であるから,本件訂正
は,訴えの変更には該当しない。
ウ仮に,訴えの変更に該当するとしても,本件では,旧請求,新請求とも
に,同一の公金支出を問題とし,その賠償請求を被告に促すものであり,
その違法性についての主張も全く同一であるから,被告の掲げる判例がい
う「出訴期間遵守において欠けることがないと解すべき特段の事情」があ
るというべきである。
(3)本件事業の違法性が本件各支出に承継されるか。
(原告らの主張)
ア原因行為となる事業自体が違法な行為であればそれに伴う財務会計行為
も違法になると解すべきであるところ,本件事業を原因行為とする本件各
支出は違法である。
イ仮に,原因行為の違法が常に財務会計行為に承継されないとしても,少
なくとも,①原因行為の違法が重大かつ明白である場合や,②原因行為と
財務会計行為を同一の行為者が行うなど,違法な原因を自ら是正すること
,,が可能である場合③当該財務会計行為自体に違法が認められる場合には
原因行為の違法は財務会計行為に承継されると解すべきである。
本件では,後述のとおり,①本件事業の違法は重大かつ明白であるし,
②本件事業の実施には市教委が関与しているところ,本件各支出に伴う各
財務会計行為を行ったC部長,A課長及びE課長はいずれも市教委の職員
であって,本件事業の実施に深く関与し,原因行為たる本件事業の違法に
加担しており,③本件各支出は,それ自体が様々な財務会計法規に反して
,,。おり違法なものであるから本件事業の違法は本件各支出に承継される
(被告の主張)
原告らの主張を争う。財務会計上の行為を行った職員に対し損害賠償責任
を問うことができるのは,先行する原因行為に違法事由がある場合であって
も,原因行為を前提にしてなされた当該職員の行為自体が財務会計法規上の
義務に違反する違法なものであるときに限られるというべきであるから,仮
に,本件事業に違法事由があったとしても,その違法性は,本件各支出に承
継されるものではない。
(4)本件事業の違法性
(原告らの主張)
ア本件事業の目的・内容の違法性
(ア)本件テキストの内容
a本件テキスト(初版)には,別紙一覧表記載のとおり,①多くの誤
りがあるのみならず(別紙一覧表の1∼12,②天皇を中心に京都)
の歴史を叙述し,人権や平和に関する記述を排除するなど,偏った特
,()。定の価値観歴史観に立って作成されている別紙一覧表13∼23
また,③京都市で使用されている社会・歴史の教科書の内容とも矛盾
・相違する点(別紙一覧表24∼31)が多いし,④男女共同参画社
会の教育に相反する記載(別紙一覧表32∼41)もある。
bまた「義務教育諸学校教科用図書検定基準(以下「教科書検定,」
基準」という)では「図書の内容に,特定の営利企業,商品など。,
の宣伝や非難になるおそれのあるところはないこと」とされており,
この趣旨は教材にも当てはまるところ,本件テキストには,⑤特定の
(),企業の紹介別紙一覧表42∼49・協賛広告が数多く入っており
同基準にも反する。
c以上からすると,本件テキストは,教材として有益適切なもの(学
校教育法34条2項)とはいえない。
(イ)本件テキストの作成者
a本件テキストの作成者は,本件テキストの奥書に発行者として記載
されている推進プロジェクト及びこれを補助した市教委である。
b推進プロジェクトは,本件事業を推進することにより,市長の施策
に基づく一方的な観念を児童らに植え付けることを目的とした組織で
あり,そのような事業主体が教材を作成すること自体が教育に対する
「不当な支配」であるし,また,教育委員会が教材の作成に関わるこ
とは,地教行法23条,33条,旧教育基本法10条の趣旨から許さ
れない。
(ウ)学習及び受検の強制
a市教委は,各学校の児童らに対し,本件テキストを用いた学習及び
検定試験の受検を強制していた。
すなわち,①各学校の校長に対し,2度にわたり,受検対象児童全
員が受検できるよう配慮を依頼することを内容とする文書が送付さ
れ,検定試験を受検対象児童全員に受検させることが指示されている
こと,②各学校の校長らは,保護者に対し,市教委から送付された例
文をもとに,検定試験の告知文書を作成・送付したが,その例文の中
では,受検が任意のものであることは記載されていなかったこと,③
各学校に対する本件テキストの必要部数の調査も,配布対象児童の数
を尋ねるものであり,本件テキストの使用の有無・必要部数を尋ねる
ものではなかったこと,④受検対象児童が,学校単位で検定試験を受
検した場合には,受検料が無料とされており,利益誘導があること,
,,,⑤検定試験では解答は記名式とされ各学校は受検番号を把握でき
児童の氏名,学年及び組につき管理され,情報管理業者を通じて,市
教委にも把握されるようになっていること,⑥受検した児童には参加
証が交付され,いわゆる「踏み絵」として,児童に対する心理的強制
が行われていること,⑦現に,京都市立の全小学校において,本件テ
キストを用いた学習及び検定試験が実施されていることに(大部分の
学校においては,検定試験は授業時間内に行われた)照らせば,事実
上の強制があったものと評価できる。
b被告は,検定試験を実施するか否か及び本件テキストを授業で使用
するか否かは,各学校の校長の裁量に委ねられていると主張するが,
仮に校長がそれを拒否すれば,当該校長へのマイナス評価や不利益処
分が課されることは明白であり,校長に対する関係でも,検定試験の
実施や本件テキストの使用が強制されているものといえるし,本件テ
キストについては教材使用届が提出されておらず,各学校の校長が使
用することを決定したものではないから,被告の主張は失当である。
(エ)本件事業の目的
本件事業の目的は,児童らに特定の思想を植え付けること(日本人で
あることの誇りを取り戻すこと及び愛国心を育成すること)にある。
①上記のとおり,偏った特定の価値観,歴史観に立って本件テキスト
が作成されていること,②D市長は,本件事業は「京都創生」の取組の
一環として行うことを再三強調しているが,この「京都創生」の取組自
体が,愛国心やナショナリズムを前面に打ち出したものであること,③
B教育長は,平成18年5月30日に開催された第164回国会衆議院
教育基本法に関する特別委員会の会議において本件事業について郷,,「
土を愛し,日本を愛する子供たちの育成につながっていく」と述べてい
ること(乙1,④推進プロジェクトが発行した「ジュニア京都検定通)
信」には「日本人であることの誇りを取り戻すことが検定の目的」と,
いうような委員の発言が掲載されていること,⑤推進プロジェクトのI
委員長は「新しい歴史教科書をつくる会」理事「日本女性の会」代,,
表委員「首相の靖国神社参拝を求める国民の会」代表発起人等を務め,
ていたことに照らせば,本件事業の目的が上記のとおりであることは明
らかである。
(オ)まとめ
以上のとおり,本件事業は,①児童らに特定の思想を植え付けること
を目的とし,②教材を作成することができない市教委及び推進プロジェ
クトが,特定の価値観・歴史観に立って,内容が有益適切ではない本件
テキストを作成し,③児童らに対し,本件テキストで学習しジュニア検
定を受検することを強制することを内容とするものであり,学校教育及
び社会教育の教育内容に対する公権力による「不当な支配」であって,
憲法13条,19条,23条及び26条,地教行法24条並びに旧教育
基本法7条及び10条に反する違法なものである。
イ意思決定手続を経ていないこと
(ア)本件事業は,正式な意思決定手続を経ずに進められていたものであ
り,違法である。
(イ)被告は,口頭での意思決定があった旨主張するが,京都市公文書管
理規則6条によれば「特に軽易なもの」以外は,公文書による意思決,
定が必要であり,口頭での意思決定というものは存在しない。
さらに,被告は,検定試験実施の準備段階であれば,意思決定が不要
であると主張するが,本件テキストの作成等は,本件事業の実施の準備
段階ではなく,本件事業そのものである。本件テキスト作成等は,本件
事業の不可欠の部分をなしており,これを「準備段階」とする被告の主
張は詭弁である。
(被告の主張)
ア原告らの主張ア(本件事業の目的・内容の違法性)について
(ア)原告らの主張(ア)(本件テキストの内容)について
a原告らの主張を争う。本件テキストは,教材として有益適切なもの
である。
b原告らは,とりわけ,本件テキストの歴史に関する記述に拘泥して
いるようであるが,本件テキストは,歴史の学術専門書ではなく,児
童らが幅広く京都のことを学べる読み物として,歴史以外にも京都に
,,関する暮らしや産業等多彩な内容をコンパクトに収める必要があり
原告らが主張する内容全てを説明するようなことは,本件テキストの
趣旨ではない。学校の授業は,教科書に基づいて行われており,歴史
の詳述は教科書に記載されている。
本件テキストは,補助教材として「表現が正確適切である」ことは
もちろんであり,原告らが指摘する項目についても,小中学生の読み
物として不適切な記述はない。
cまた,本件テキストに特定の企業の紹介が記載されていることは,
新しい京都の一端として京都の先端企業を紹介するという目的に照ら
して相当な表現の範囲内である(なお,本件テキストは教科書ではな
いから,教科書検定基準は適用されない)し,協賛広告についても,
市教委は,掲載にあたり,その内容が「京都市の広報媒体への広告掲
載に関する要綱(乙10)及び「京都市の広報媒体への広告掲載基」
準(乙11)に準拠し,妥当なものであるかどうかについて検討す」
,,るなどの配慮を行っている上分量も全体と比べるとわずかであって
相当と認められる範囲を逸脱するものではない。
(イ)原告らの主張(イ)(本件テキストの作成者)について
原告らの主張を争う。本件テキストは,市教委が,初期の原稿提供や
内容の確認など作成に関与したものであるが,実際には,京都新聞開発
が作成したものであるから,推進プロジェクトや市教委が本件テキスト
を作成したことを前提とする原告らの主張には理由がない。
なお,地教行法は教育委員会による教科書以外の教材の作成を制限す
るものではなく,他にこれを制限する法令はないから,市教委が本件テ
キストの作成に関与したとしても違法となるものではない。
(ウ)原告らの主張(ウ)(学習及び受検の強制)について
原告らの主張を争う。市教委は,検定試験を実施することや本件テキ
ストを授業で使用することを義務付けておらず,これらは,各学校の校
長の裁量に委ねられている。
(エ)原告らの主張(エ)(本件事業の目的)について
原告らの主張を争う。本件事業の目的は,その実施要項(乙12)に
記載されているとおり,京都で培われた日本の文化,伝統を次代の子ど
もたちに伝えていくことである。
(オ)原告らの主張(オ)(まとめ)について
原告らの主張を争う。上記のとおり,本件事業は,公権力が教育内容
へ介入するものではない。仮に,本件事業が教育内容への介入と評価さ
,,,れるとしても本件事業の目的は上記のとおりであって旧教育基本法
現教育基本法,学校教育法,学習指導要綱で規定する目的や目標にかな
うものであり,その内容も必要かつ合理的なものであるから「不当な,
支配」にはあたらない。
イ原告らの主張イ(意思決定手続を経ていないこと)に対して
原告らの主張を争う。B教育長が推進プロジェクトの委員に就任したこ
ろには,市教委として本件事業を実施する方針を意思決定していた。ただ
し,その段階では,本件事業の内容が決定書による決定を行う程度に定ま
っていなかったため,事業の詳細については,推進プロジェクトの委員の
意見を踏まえて市教委として決定する予定であった。
(5)本件支出①の違法性
(原告らの主張)
ア購入の必要性を欠くこと
(ア)支出負担行為書①によれば,本件関連書籍は,執筆関係者の資料と
して使用する目的で購入されたものであるところ,本件テキストの執筆
作業は,平成17年6月15日から始まっており,同年7月22日には
執筆関係者から原稿が提出され,同年9月27日以降は執筆者会議も開
かれていない。したがって,同月26日に納品されたとされる本件関連
書籍は,執筆関係者が資料として使用できるものではなかった。
したがって,本件支出①は支出の合理的必要性を欠き,地方財政法4
条1項に反し違法である。
(イ)仮に,本件関連書籍の購入自体が適法なものであったとしても,本
来であれば,出版社から定価の71∼80%の価格で購入すべきもので
あるところ,京都市は,京都商工会議所から定価で購入しており,少な
くとも,その差額については,支出の合理的必要性を欠く。
イ支出負担行為書による支出負担行為を欠くこと
(ア)前記のとおり,支出負担行為書①は,平成17年11月1日以降に
決裁されたものであるところ,仮に,被告の主張するように,本件関連
書籍が,平成17年6月15日の第1回執筆者会議で配布するために購
入されたものであるとすると,支出負担行為書による支出負担行為がな
いまま,本件関連書籍が購入され納品されたこととなる。
したがって,本件支出①は,地方自治法232条の3に反し違法であ
る。
(イ)被告は,平成17年6月13日又は同月14日に,A課長による口
,,頭の決定があった主張するが京都市公文書管理規則6条1項によれば
意思決定においては公文書を作成しなければならない上,京都市の契約
事務においては,支出の内容等を明確にした上で支出負担行為を行うこ
ととされており,支出負担行為書の記載事項が全て決定して初めて支出
負担行為の決定といえるのであるから,口頭での意思決定という概念は
存在せず,文書の決裁日を意思決定の日とみるべきである。
ウ支出の原因となる根拠を欠くこと
前記のとおり,推進プロジェクトの設置要綱の決定は,平成17年10
月27日であるところ,本件支出負担行為①は,それよりも前に行われて
おり,支出の原因となる根拠なくなされたものであるから,違法である。
エ検収が行われていないこと
本件関連書籍の購入にあたり,支出命令書①には納品書も添付されてお
らず,複数の職員による履行確認もされていないにもかかわらず,H係長
は支出命令書①の検収の確認印を押印しているし,A課長もその不備を知
りながら本件支出命令①を行っている。
したがって,本件支出命令①は,契約の履行の確保のために検査を行う
ことを定めた地方自治法234条の2第1項に反し違法である。
オ支出負担行為書・支出命令書の虚偽記載
前記のとおり,支出負担行為書①には,実際の起案日及び決裁日とは異
なる年月日が記載されている。また,支出命令書①には,履行年月日は平
成17年9月26日とされているが,被告の主張するように,本件関連書
籍が同年6月15日までに納品されていたのであれば,この記載も虚偽と
いうことになる。
このような虚偽記載は,虚偽公文書作成罪(刑法156条)にも該当す
る重大な違法行為である。
(被告の主張)
ア原告らの主張ア(購入の必要性を欠くこと)について
原告らの主張を争う。本件関連書籍は,第1回執筆者会議において,出
席した執筆関係者に配布されているし,欠席者にも後日送付されている。
本件関連書籍の購入については,A課長が,平成17年6月13日又は同
月14日に口頭で支出負担行為を行い,同月15日に京都商工会議所から
本件関連書籍が納品されたが,京都商工会議所が提出した見積書,納品書
及び請求書に不備があり,作り直しを繰り返していたために,事務処理が
遅れたものであり,見積書,納品書及び請求書の最終確認ができた同年9
月20日の日付を支出負担行為書①に記入したものである。
地方財政法4条1項の規定は,公金の支出を具体的に規制しているもの
ではなく,同条項にいう「必要かつ最少の限度」の判定にあたっては,広
く社会的,政策的ないし経済的見地から総合的にこれをなすべきであると
ころ,本件関連書籍は,本件テキストの執筆の資料として活用するために
執筆関係者に配布されたものであり,定価での購入であって適切であるか
ら,本件関連書籍の購入は,社会的,政策的ないし経済的見地から判断し
ても何ら問題はなく,地方財政法4条1項に反しない。
イ原告らの主張イ∼オについて
原告らの主張を争う。
(6)本件支出②の違法性
(原告らの主張)
ア契約の必要性を欠くこと
(ア)本件委託契約における業務は,具体的な成果を得るための準備に過
ぎない業務であり,システム構築等業務の委託契約を締結する際に,そ
の委託料にその作業に係る経費が反映されることはあっても,システム
構築等の業務の委託もされないうちに,本件準備業務のみを独立させて
委託することは通常考えられない。本件委託契約は,その締結時におい
て,何ら実質的な意義のある成果を得ることのできない契約であって,
契約の目的が明らかに合理性を欠くものであった。
(イ)したがって,本件委託契約は合理的必要性を欠き,本件支出負担行
為②は,地方財政法4条1項に反し違法である。
イ随意契約理由の不存在等
(ア)本件委託契約における業務は,M社でなければ提供できない役務で
はなく,地方自治法施行令167条の2第1項各号及び随意契約ガイド
ラインの定める基準に該当しない。
(イ)また,本件委託契約締結にあたり「他の者では履行し得ない役務,
の提供」であることについて,同業他社に対する確認等も行われておら
,「」,ず随意契約ガイドライン2(1)イの運用上の留意点にも反するし
M社以外からの見積書は取られていないから,京都市契約事務規則27
条に反する。
(ウ)上記のとおり,本件委託契約は,違法な随意契約であるから,本件
支出負担行為②は違法である。
ウ契約内容の不備
本件委託契約においては,その契約書(乙4の1)が,委託内容や契約
の目的等の記載及び仕様書の添付を欠くし,危険負担や,瑕疵担保責任,
第三者との紛争の解決方法に関する事項が定められていない(京都市契約
事務規則35条違反)上,契約保証金やそれに代わる担保を納めさせてい
ない(地方自治法施行令167条の16,京都市契約事務規則29条,2
9条の2違反)など,数々の不備があるから,本件支出負担行為②は違法
である。
エ会計年度独立の原則に反すること
(ア)前記のとおり,支出負担行為書②の実際の決裁日は平成18年4月
26日以降であり,この実際の決裁日を支出負担行為の日とみるべきで
ある。また,支出命令書②には,履行年月日は平成18年3月31日と
記載されているが,同日までに成果物は提出されていない。
,,(イ)このように本件支出負担行為②及び本件委託契約に基づく履行は
平成18年度に入ってからなされたものであるから,本件支出②につい
ては平成18年度予算から支出されるべきものであった。
したがって,本件支出②は,会計年度独立の原則(地方自治法208
条)に反し違法である。
,,(ウ)被告はA課長が平成18年2月28日に口頭で決定したと主張し
契約書上の契約締結日も同年3月1日とされているが,これは,同月1
6日の京都市とM社との間の議事録(甲54−10頁)の内容(京都市
が京都商工会議所に委託し,京都商工会議所がM社に委託する形が予定
されていた)に反する上,前記のとおり,口頭での意思決定という概。
念は存在しないから,被告の主張は失当である。
(エ)仮に,被告の主張するように,本件支出負担行為②及び本件委託契
約に基づく履行が平成17年度内になされたものであるとしても,前記
のとおり,本件委託契約は,その締結時において,京都市にとって何ら
実質的な意義のある成果を得ることのできない契約であって,契約の目
的が明らかに合理性を欠くものであり,本来的な契約の最終的な成果を
得る目的からは,その実質的な成果を得られる平成18年度の支出とす
べきであったから,平成17年度の予算の執行としてなされた本件支出
②は,会計年度独立の原則に反する。
オその他
(ア)支出負担行為書による支出負担行為を欠くこと
本件委託契約は,支出負担行為書による支出負担行為のないまま締結
されたものであり,本件支出②は地方自治法232条の3に反し違法で
ある。
(イ)契約書,支出負担行為書,支出命令書の虚偽記載
本件委託契約の契約書や支出負担行為書②には,虚偽の契約締結日,
起案日,決裁日が記載され,支出命令書②にも,虚偽の履行年月日が記
載されており,これらは,虚偽公文書作成罪(刑法156条)に該当す
る重大な違法行為である。
(ウ)履行確認がされていないこと
支出命令書②では,履行年月日は平成18年3月31日とされ,H係
長は,検収の確認印を押印しているが,完了届も添付されておらず,複
数の職員による履行確認もされていない上,前記のとおり,平成18年
3月31日までに成果物が提出されていないことは明らかであって,本
件支出命令②は,履行確認のないまま決裁されたものであるから,地方
自治法234条の2第1項に反し違法である。
(エ)契約締結前から,M社に業務を行わせていたこと
平成18年3月1日に本件委託契約が締結されたとの被告の主張によ
ったとしても,市教委は,平成17年夏ころから,検定業務運営につい
て,委託契約も締結しないまま,M社に業務をさせており,契約締結以
前にM社に業務を行わせていたことになるから,本件支出②は,地方自
治法232条の3に反し違法である。
(被告の主張)
ア原告らの主張ア(契約の必要性を欠くこと)について
原告らの主張を争う。本件委託契約は,①京都検定を参考にした子ども
向けプログラムが短期間で組めるかどうかの見極め,②検定料を決定する
にあたり概算の数字の把握,③事業実施に際しての課題を明らかにするこ
とを目的としたものであり,委託したスケジュールや操作マニュアル資料
等の作成は,平成18年度以降の検定実施に向けての作業として必要不可
欠なものである。また,M社からも委託内容に合致した成果物が提出され
ており,本件委託契約には合理的必要性がある。
イ原告らの主張イ(随意契約理由の不存在等)について
(ア)原告らの主張を争う。
(イ)本件委託契約締結当時,本件事業の実施にあたっては,京都商工会
議所が実施する京都検定との提携を想定していた。M社は,京都検定に
関して唯一実績がある業者であり,京都検定のほかにも検定業務に関す
る実績があったため,問題作成や事業運営にあたり,京都検定の業務を
行っていたM社のノウハウを活用できるメリットがあり,M社と随意契
約を締結することが妥当であると判断したものである。
したがって本件委託契約は随意契約ガイドライン基準2(1)イ(イ),,
の「特殊な技術又は秘密の技術に関する情報その他の者が有し得ない専
門的な知識,技術等を必要とするもの」に該当するから,地方自治法施
行令167条の2第1項2号の要件を満たす。
,,,(ウ)なお本件委託契約にあたりM社以外の業者との契約はあり得ず
京都市契約事務規則27条に規定する「特別な理由」があるから,他の
業者から見積書を取っていないことは,同条に反するものではない。
ウ原告らの主張ウ(契約内容の不備)について
(ア)原告らの主張を争う。
,「」(イ)本件委託契約は委託料が352万8000円と契約金額が少額
,,,であり京都市契約事務規則30条6号に該当するから同規則29条
29条の2で規定される契約保証金又はそれに代わる担保の提供は必要
でない。
(ウ)また,京都市契約事務規則35条1項で記載事項としている,危険
,,,負担瑕疵担保責任等については契約書に記載されていない場合には
民法の規定を適用することになるから,これらの記載が契約書に記載さ
れていないことをもって,同条項に反することにはならない。なお,同
条項は,契約の履行の確保や紛争の予防及び速やかな処理を期すための
規定であり,記載事項とされている事項を契約書に記載しないことをも
って,直ちに契約が無効となったり,これに基づく公金の支出が違法と
なるものではない。
エ原告らの主張エ(会計年度独立の原則に反すること)について
原告らの主張を争う。G課長は,本件委託契約について,A総務課長に
対し,支出の可否を確認し,支出してよいとの了解を平成18年2月28
日までに得た。したがって,A課長の了解を得た時点で本件支出負担行為
②があったものとみるべきであるし,支出命令書②のとおり,本件委託契
約に基づく履行は平成17年度中にされていたのであるから,本件支出②
は会計年度独立の原則に反するものではない。
オ原告らの主張オ(その他)について
原告らの主張を争う。
(7)本件支出③(本件テキストの購入)自体の違法性
(原告らの主張)
ア無償配布決定の不存在
(ア)平成18年2月14日の第2回推進プロジェクト会議で,本件テキ
ストにつき,配布対象児童に対して有償配布(300円程度)する予定
であることが決定されたが,その後,市教委生涯学習部の職員は,内部
で協議を行っただけで,本件テキストを無償配布することを決めた。
推進プロジェクトは本件事業の実施主体であるところ,生涯学習部の
職員の協議だけで,推進プロジェクトの決定を変更することは許されな
い。
(イ)また,被告の主張するように,市教委が本件事業の実施主体であっ
たとしても,市教委内部において,本件テキストの無償配布につき,正
式な意思決定手続はとられていない。
被告は,支出負担行為書③により本件テキストの無償配布が決定され
たと主張するが,本件テキストの購入決定が直ちにテキストの無償配布
につながるものではない。
(ウ)以上のとおり,本件支出負担行為③は,無償配布の決定を経ないま
まなされたものであり違法である。
イ購入の必要性を欠くこと
前記のとおり,本件テキストは,有益適切なものではなく,1197万
円もの費用をかけて購入する必要性に乏しいものであり,本件支出負担行
為③は,地方財政法4条1項に反し違法である。また,被告の主張によれ
ば,配布対象児童及び教員への配布数は3万6197冊であったというこ
とであり,それ以外に1803冊も多く購入したことになるが,この意味
でも,本件支出負担行為③は,地方財政法4条1項に反する。
ウ会計年度独立の原則に反すること
(ア)前記のとおり,支出負担行為書③の実際の決裁日は平成18年4月
21日以降であり,この実際の決裁日を支出負担行為の日とみるべきで
ある。また,支出命令書③には,履行年月日は平成18年3月31日と
記載されているが,本件テキストは,平成18年3月31日までに納入
されていない。
(イ)このように,本件支出負担行為③及び本件テキストの納入は,平成
18年度に入ってからなされたものであるから,本件支出③については
平成18年度予算から支出されるべきものであった。
したがって,本件支出③は,会計年度独立の原則(地方自治法208
条)に反し違法である。
(ウ)被告は,C部長が平成18年3月27日に口頭で決定したと主張す
るが,前記のとおり,口頭での意思決定という概念は存在しないから,
被告の主張は失当である。
エその他
(ア)支出負担行為書による支出負担行為を欠くこと
前記のとおり,支出負担行為書③の実際の決裁日は,平成18年4月
21日以降であったにもかかわらず,支出負担行為書③上,納品日は同
月31日となっているから,本件テキストは,支出負担行為書による支
出負担行為のないまま購入・納品されたことになる。したがって,本件
支出③は,地方自治法232条の3に反し,違法である。
(イ)随意契約理由の不存在
本件テキストの購入は,契約金額が,地方自治法施行令167条の2
第1項1号の定める金額(160万円,同施行令別表第5−2)を超え
ていることは明らかであり,違法な随意契約であるから,本件支出負担
行為③は違法である。なお,被告は,同施行令167条の2第1項7号
の誤りであると主張するが,そのような誤りに基づいてなされた随意契
約の決定手続は無効である。
(ウ)物件供給契約書の不存在
支出負担行為書③には,京都市契約事務規則35条1項に定める契約
書が添付されていない。したがって,本件支出負担行為③は,同条項に
反し違法である。
(エ)支出命令書に請求書番号を欠くこと
支出命令書③には,請求書番号が記載されておらず,添付されている
京都新聞開発の請求書にも請求書番号は記載されていないから,本件支
出命令③は,京都市会計規則53条に反し,違法である。
(オ)支出負担行為書,支出命令書の虚偽記載
前記のとおり,支出負担行為書③には,虚偽の起案日・決裁日が記載
され,支出命令書③には,虚偽の履行年月日が記載されており,これら
は,虚偽公文書作成罪(刑法156条)に該当する重大な違法行為であ
る。
(カ)京都新聞開発に対する過剰な便宜供与
市教委は,本件テキストの著作権者は,京都新聞開発であると明言し
ている(甲47)ところ,執筆関係者は,京都新聞開発から原稿料・印
税等の支給を受けていない。
そうすると,市教委が,執筆関係者の了解もなく,京都新聞開発に対
し,執筆関係者の著作権を集約して本件テキストの著作権を無償譲渡し
たことにほかならない。その結果,京都新聞開発は,何ら執筆の労を割
くことなく,著作料に相当する金額を儲けることができた反面,市教委
は,本件テキストを高額で買い取ることとなった。
なお,今後も本件事業の実施を継続する限り,毎年,本件テキストを
大量に購入し続けることが予定されており,このように,市教委による
京都新聞開発への著作権譲渡を起点として,今後も永続的な不当な公金
支出がなされる癒着が生じている。
(被告の主張)
ア原告らの主張ア(無償配布決定の不存在)について
原告らの主張を争う。本件テキストの無償配布については,本件テキス
,。,ト購入時に本件支出負担行為③によりC部長が決定しているすなわち
有償配布の場合は,各学校が保護者から集金し,直接業者に代金を支払う
こととしているため,市教委で代金をまとめて支払う場合は,無償配布が
前提となっている。
また前記のとおり,推進プロジェクトは,本件事業の実施主体ではない
し,本件テキストを有償で配布することを決定してもいない。
イ原告らの主張イ(購入の必要性を欠くこと)について
原告らの主張を争う。前記のとおり,本件テキストは教材として有益適
切なものであるし,本件テキストの購入量も適正である。
ウ原告らの主張ウ(会計年度独立の原則に反すること)について
原告らの主張を争う。G課長は,本件テキストの購入について,C部長
に対し,支出の可否を確認し,支出してよいとの了解を平成18年3月2
7日に得た。したがって,C部長の了解を得た時点で本件支出負担行為③
があったものとみるべきであるから,本件支出③は会計年度独立の原則に
反するものではない。
エ原告らの主張エ(その他)について
原告らの主張を争う。なお,原告らの主張(イ)について,本件支出負担
行為書③に随意契約による理由として挙げられている「地方自治法施行令
167条の2第1項1号」は,同条項7号(時価に比して著しく有利な価
格で契約を締結することができる見込みのあるとき)の誤りである。
(8)損害
(原告らの主張)
ア本件事業が違憲・違法であることによる損害
本件事業自体が,違憲・違法なものである以上,本件各支出によって得
られたものは,京都市にとって有用なものではない。したがって,京都市
は,本件各支出によって,その支出された公金全額に相当する額の損害を
被ったものというべきである。
イ本件支出①による損害
前記のとおり,本件関連書籍の購入は必要性を欠くものであるから,京
都市は,本件支出①により,その支出された公金全額に相当する額の損害
を被ったものというべきである。
ウ本件支出②による損害
(ア)必要性を欠く契約を締結したことによる損害
前記のとおり,本件委託契約は必要性を欠くものであるから,京都市
は,本件支出②により,その支出された公金全額に相当する額の損害を
被ったものというべきである。
なお,M社は,平成18年度の基礎コース及び発展コースの検定処理
業務を受託しているが,これらの業務委託契約においては,本件委託契
約に基づく業務を含まないとは明記されておらず,準備業務と本業務を
分離することは困難である上,もし,他の会社が平成18年度の検定処
理業務を受託した場合には,その業務は準備業務から始めなければなら
なくなってしまうものであったから,京都市が損害を被ったことは明ら
かである。
(イ)違法な随意契約による損害
前記のとおり,本件委託契約は,違法な随意契約であるところ,公正
な手続がとられていれば,M社以外の会社が,より安価な価格で受託し
ていた可能性が高い。このことは,平成19年度の検定処理業務におい
ては,プロポーザル方式を採用し,この際のM社の見積額は2321万
8000円で,ワールドビジネスセンターの1695万4350円,株
式会社オクトパスの2145万765円と比較して,最も高額であった
(ワールドビジネスセンターの見積額は,M社の73%であった)こと
からも明らかである。
公正な手続がとられていた場合の価格は,上記各見積額に照らし,2
57万5440円(352万8000円の73%)程度であったと推測
され,その差額95万2560円が京都市が被った損害となる。
(ウ)杜撰な発注による損害
前記のとおり,本件委託契約には多くの不備があり,その内容が極め
て杜撰であり,契約金額の根拠が不明であって,M社の言いなりで決め
られたといわざるを得ず,この点からも京都市が損害を被っていること
は明らかである。
(エ)会計年度独立の原則違反による損害
本件支出②は,平成18年度に入ってから,平成17年度に割り当て
,,られた予算の執行残を不正な方法で支出したものであるから京都市は
本件支出②により,支出された公金全額に相当する額の損害を被ったも
のというべきである。
エ本件支出③について
(ア)本件テキストを無償で配布したことによる損害
前記のとおり,本件テキストは,無償配布決定のないまま,配布対象
児童らに無償で配布するために購入されたものであるから,京都市は,
本件支出③により,その支出された公金全額に相当する額の損害を被っ
たものというべきである。
(イ)本件テキストが有益適切でないことによる損害
前記のとおり,本件テキストは,前記のとおり有益適切なものではな
く,本件テキストを購入し,小学生に無償で配布することは,京都市に
とって有用といえないから,京都市は,本件支出③により,その支出さ
れた公金全額に相当する額の損害を被ったものというべきである。
(ウ)会計年度独立の原則違反による損害
本件支出③は,平成18年度に入ってから,平成17年度に割り当て
,,られた予算の執行残を不正な方法で支出したものであるから京都市は
本件支出③により,その支出された公金全額に相当する額の損害を被っ
たものというべきである。
(被告の主張)
原告らの主張を争う。
(9)各職員の責任
(原告らの主張)
アC部長及びA課長について
(ア)本件事業は教育内容への教育行政への介入の一環としてなされてい
るところ,これが教育委員会の存在理由に反することは明らかである。
また,本件事業につき,市教委及びその他の機関で正式な決定がなされ
ていなかった。これらは,教育委員会の職員であれば誰でも容易に理解
し得る事柄であるし,A課長及びC部長はそのことを認識していた。
A課長は,上記事実を知りながら,故意又は重過失に基づき本件支出
負担行為①及び本件支出負担行為②を行ったものであるし,C部長は,
上記事実を知りながら,故意又は重過失に基づき本件支出負担行為③を
行ったものである。
(イ)A課長は,本件支出負担行為①及び本件支出負担行為②の専決権者
であるところ「当該職員」として,故意又は重過失により,前記のと,
おり違法な支出負担行為①及び本件支出負担行為②を行ったものである
し,前記のとおり,A課長は,平成18年3月31日の時点で本件委託
契約に基づく成果物が提出されていないことを知りながら後任のE課長
に虚偽の引継を行ったものであるから,本件支出命令②についても故意
又は重過失がある。
(ウ)C部長は,本件支出負担行為③の専決権者であるところ「当該職,
員」として,故意又は重過失に基づいて,前記のとおり違法な支出負担
行為③を行ったものであるし,前記のとおり,E総務課長が本件支出命
令③を行うにあたり,指揮監督を怠ったものであるから「当該職員」,
として,故意又は重過失がある。
(エ)よって,A課長は,京都市に対し,地方自治法243条の2第1項
後段に基づき,本件支出①及び本件支出②による損害を賠償する責任を
負い,C部長は,京都市に対し,同項後段に基づき,本件支出③による
損害を賠償する責任を負う。
イB教育長について
(ア)B教育長は,推進プロジェクトの設置要綱を決定しており,前記の
とおり違法である本件事業の実施を決定したものであるから,本件事業
の実施につき故意又は過失がある。
また,本件事業は,前記のとおり,違憲・違法なものであり,B教育
長は,その立場上,それを容易に知り得たから,本件事業やそれに伴う
本件各支出が行われないように市教委の職員を指揮監督すべき義務を負
っていた。しかしながら,B教育長は,同義務を怠るのみならず,自ら
率先して本件事業を推進し,その結果,本件各支出が行われた。
(イ)さらに,B教育長は,本件事業や本件各支出についての指揮監督権
者であったにもかかわらず,C部長やA課長に対する指揮監督を怠った
ことにより,前記のとおり,それ自体が違法である本件各支出が行われ
た。特に,本件支出②及び本件支出③については,虚偽記載された支出
負担行為書や支出命令書に基づき,会計年度を偽って支出されたもので
あり,これだけの悪質な違法行為が,部長や課長レベルの判断で行われ
たことはあり得ず,市教委事務局全体としての違法行為であって,B教
育長が最も重大な責任を問われるべきである。
(ウ)よって,B教育長は,京都市に対し,不法行為に基づき,本件各支
出による損害を賠償する責任を負う。
(被告の主張)
ア原告らの主張ア(C部長及びA課長について)について
(ア)原告らの主張を争う。
(イ)仮に,本件事業が違法であったとしても,C部長及びA課長が本件
事業の違法性を事前に認識することは不可能であったし,本件各支出に
原告らが主張する違法事由があったとしても,その違法性を判断するこ
とは容易ではないから,C部長及びA課長には,重過失がない。
イ原告らの主張イ(B教育長について)について
(ア)原告らの主張を争う。
(イ)前記のとおり,職員の非財務会計行為による不法行為に基づく損害
賠償請求権の行使を怠る事実を理由として提起された住民訴訟は,住民
訴訟の対象に該当しないとして却下されるべきであるが,仮に却下すべ
きでなくとも,請求に理由がないとして棄却されるべきである。
(ウ)また,B教育長は,本件各支出については指揮監督権限を持ってい
,,,ないから本件事業の実施の過程において違法な支出があるとしても
B教育長は,これらの支出を実際に行った職員に対する指揮・監督につ
いて過失はなく,不法行為上の責任を負わない。
第3争点に対する判断
1争点(1)(B教育長を怠る事実の相手方とする訴えは不適法か)について
(1)ある怠る事実が監査請求の対象とされているかどうかは,監査請求の内容
を総合して合理的実質的に考えるべきであるところ,前記のとおり,原告ら
は,本件監査請求において,①本件事業及び本件各支出が違法であると主張
し,②とるべき措置として,B教育長に対して損害賠償を請求することを求
めているのでありこれは実質的には本件で主張されている怠る事実B,,,(
教育長が本件事業に関する指揮監督責任等を怠った不法行為に基づく損害賠
償請求権の行使を京都市が不法に怠る事実)を監査請求の対象としているも
のとみるのが相当であるから,B教育長を怠る事実の相手方とする訴えは,
適法な監査請求を経ているものというべきである。
(2)また,被告は,職員の非財務会計行為による不法行為に基づく損害賠償請
求権の行使を怠る事実を理由として提起された住民訴訟は,住民訴訟の対象
に該当しないとして却下されるべきであると主張するが,地方自治法242
条の2第1項4号の文言からして,直ちに住民訴訟制度の目的,趣旨に反す
るものとして不適法であるとはいえず,その主張する違法の内容,程度,損
害の内容,金額等,その請求内容に照らして住民訴訟制度の濫用と認められ
るものを不適法とするのが相当であり,そうでなければ,実体判断をすべき
であり,その実体判断の過程では,職員の非財務会計行為たる職務行為を不
法行為と評価できるだけの著しい違法性があるかどうかを判断することにな
るものである。
そして,本件訴訟では,その請求内容に照らして,住民訴訟制度を濫用し
たものとまではいえず,これを不適法な訴えということはできない。
(3)したがって,B教育長を怠る事実の相手方とする訴えは適法である。
2争点(2)(C部長及びA課長を相手方とする訴えは出訴期間を徒過している
か)について
(1)前記のとおり,原告らは,C部長及びA課長を相手方とする訴えにつき本
件訂正を行っているところ,地方自治法242条の2第1項4号本文に基づ
く賠償請求の請求と,同号ただし書に基づく賠償命令の請求とでは,請求の
内容も根拠規定も異なるものであって訴訟物を異にすることは明らかである
から,本件訂正は,訴えの交換的変更にあたる。
(2)そして,変更後の訴えに関する出訴期間が遵守されているか否かは,両者
の間に存する関係から,変更後の新請求に係る訴えを当初の訴え提起のとき
に提起されたものと同視し,提訴期間の遵守に欠けるところがないと解すべ
き特段の事情がある場合を除き,訴えの変更のときを基準時として,これを
決するのが相当であるところ,本件訂正前後の訴えの内容を検討するに,相
,,手方が同一である上違法と主張される財務会計行為もおおむね同一であり
その違法事由に関する主張についても,訴え当初から変遷を繰り返してはい
るものの本件訂正の前後では同一であって,本件訂正前の訴えと本件訂正後
の訴えとでは,単に,被告に対し求める行為が異なるものに過ぎないから,
本件においては,上記特段の事情を認めることができる。
(3)したがって,C部長及びA課長を相手方とする訴えは,いずれも,出訴期
間を徒過しておらず適法である。
3前記前提事実,証拠(後掲のもの)及び弁論の全趣旨によれば,次の事実が
認められる。
(1)本件事業の経緯
,(,,ア商工会議所からの提案本件事業の実施方針甲10の1∼4乙60
証人G)
(ア)京都検定を主催していた京都商工会議所のプロジェクト推進室の次
長であったK(以下「K次長」という)は,平成16年10月ころ,。
市教委を訪れ,F部長をはじめとする市教委生涯学習部の職員に対し,
京都検定の子ども版テキストを市教委で作成することを提案した。この
提案は,具体的な話ではなかったが,F部長は,K次長に対し,全てを
市教委で行うのは無理だが,大枠を京都商工会議所で決めてもらえば形
にできる旨回答した。
その後,平成16年12月に実施された京都検定が好評であったこと
から,市教委の職員の間でも,子ども版の京都検定を実施してはどうか
との話が持ち上がっていた。
(イ)F部長,G課長及びH係長は,平成17年4月27日,京都商工会
議所を訪れ,K次長らに対し,京都商工会議所が実施主体となって子ど
も版の京都検定を実施してもらいたい旨伝えたところ,K次長らは,明
確な返答をしなかった。
(ウ)K次長らは,平成17年5月11日,市教委を訪れ,B教育長及び
G課長に対し,子ども版の京都検定は市教委で実施した方が良いと思う
と提案するとともに,検定用のテキストの作成が必要であれば,京都商
工会議所から京都新聞グループの会社に対し協力を依頼することができ
る旨を伝えた。
(エ)B教育長は,平成17年10月27日,推進プロジェクトの設置要
綱を定めること及び推進プロジェクトの顧問及び委員等を委嘱すること
を決定したが,この原案はG課長が作成したものであり,F部長,G課
長,H係長らも,その決定書に押印している(甲10の1∼4,乙60
−6頁。)
イプロジェクト会議の実施(甲14,15,50,64,乙60)
(ア)平成17年11月10日,推進プロジェクトの第1回会議が開催さ
れ,事務局である市教委生涯学習部からの説明や各委員による協議等が
行われた。
(イ)その後,平成18年2月14日に第2回会議が,平成18年9月1
4日に幹事会が(幹事会においては,検定試験の実施要項につき協議が
行われた,平成19年3月26日に第3回会議が,平成20年1月。)
18日に第4回会議が,それぞれ開催された。
ウ検定試験の実施要項の決定等(乙12,60)
B教育長は,平成18年度の検定試験の実施に関し,平成18年9月1
4日に基礎コースの実施要項を,同年11月22日に発展コースの実施要
項を,それぞれ決定した。
基礎コースの実施要項(乙12)には「検定の趣旨」として「京都,,
は,山紫水明の自然や景観の中で,日本文化が暮らしに息づく世界でも有
数の歴史都市であり,このような優れた文化を守り,次代へ継承していく
子どもたちを育むことは京都の責務である。こうした文化を子どもたちが
知識と共に体験を通して学ぶ機会を市民ぐるみで創出する取組として,文
化・伝統産業・観光など幅広い分野の市民からなる『歴史都市・京都から
学ぶジュニア日本文化検定推進プロジェクト』を創設し,実施する」と。
記載されており「検定の目的」として「(1)京都から日本の文化・伝統,,
を次代の子どもたちにしっかりと伝えていくものとする。(2)子どもたち
が親,祖父母等と共に学び,体験することができ,親子や家族の絆を一層
深める契機とする。(3)『歴史都市・京都から学ぶジュニア日本文化検定
テキストブック(以下『テキストブック』という)等を通して学んだこ』
,(,とにより興味を持った内容について感性を研ぎ澄ます多様な体験茶道
華道,伝統行事,博物館や文化財など)へとつなげ,知識と体験を子ども
たちそれぞれの生活の中で,一体化させる。(4)子どもたちの体験の場を
地域全体で創出することにより,子どもたちは地域をもっと好きになり,
大人たちは互いの結びつきを強め,地域の子どもは地域で育む取組を一層
推進する視点から取り組む」と記載されている。。
エ本件テキストの作成過程(甲8の1∼11,甲47,49,乙54,6
0,証人G)
(ア)市教委は,本件事業の実施にあたり,独自のテキストが必要である
と考え,テキストの内容作成を,執筆関係者に依頼することとした。
(イ)平成17年6月15日に,執筆関係者が集まり,第1回執筆者会議
が実施された。市教委生涯学習部は,上記第1回執筆者会議の後,同会
議に欠席した執筆関係者に対し,平成17年6月17日付けの文書(乙
54)とともに,同会議で配布された資料として,本件関連書籍を送付
した。
(ウ)その後も,同年7月28日,同年8月29日,同年9月27日に,
執筆者会議が開催され,テキストの内容等につき協議が行われた。
(エ)平成17年10月27日の推進プロジェクト設置の際に,推進プロ
ジェクトにテキスト等作成部会が設置され,執筆関係者は,その部会員
に委嘱された。
(オ)G課長は,平成18年2月28日,B教育長名で本件テキストの協
賛広告の依頼文書(甲49−2頁)を作成し協賛広告を依頼することを
決定し,そのころ,京都新聞開発に対し,同文書を送付し,京都新聞開
発は同文書を用い,協賛広告を募集した。
その後,上記募集に応じ,各企業から広告が集まったが,市教委にお
いて,広告の内容を点検し,商品の宣伝が前面に出ていたものを企業イ
メージを中心とする広告にするよう意見を述べる等,一部の企業に対し
て広告の修正を依頼した。
オ本件テキストの完成・配布等(甲43,46,54,乙60,証人G)
(ア)G課長は,平成18年4月17日ころ,各学校の校長に宛て,本件
テキストを配布対象児童に無償で配布する予定であることを告げ,回答
期限を同月19日と定めて,配布対象児童の人数の調査を行った。
(イ)平成18年4月27日,本件テキストの完成報告会が実施され,I
委員長,B教育長に加え,執筆関係者代表として小社研のL会長が出席
した。
(ウ)市教委は,平成18年5月1日及び同月2日,各学校に本件テキス
トを配布した(実際の配布作業は京都新聞開発が行った。。)
各学校に配布された本件テキストは,児童・教員分の3万6197冊
に加え,各学校及び京都市立の各中学校に一部ずつの273冊を加えた
3万6470冊であった。その余部のうち1487冊は,推進プロジェ
クトの委員・顧問,事務局関係者配布用や広報用として使用され,残4
3冊が在庫となった。
,,。,(エ)その後本件テキストは一般書店においても販売された定価は
952円(消費税別)であった。
カ各学校に対する通知等(甲9,16,乙60)
(ア)G課長は,平成18年4月26日,各学校の校長に対し「歴史,『
都市・京都から学ぶジュニア日本文化検定』テキストブック配布のお知
らせ」と題する書面(甲9−2枚目)を送付することを決定し,そのこ
ろ,同書面を送付した。
上記書面は,本件テキストが完成したことや配布対象児童に本件テキ
ストを配布すること,検定試験の詳細については,同年5月末から6月
初めにかけて説明会を行う予定であることを通知するとともに,①各学
校から配布対象児童に本件テキストを配布すること,②保護者に対し本
件テキストの趣旨を説明すること,③受検対象児童全員が検定試験を受
検できるように各学校で配慮することを依頼する内容のものであった。
(イ)市教委は,平成18年5月30日,各学校の校長・教頭を対象とし
て,本件テキストの活用方法についての説明会を実施した。その際,担
当者は,いくつかの活用例を示したが,活用するかどうかや具体的な活
用方法については,各学校で考えるよう説明した。市教委は,同年6月
5日にも校長・教頭以外の教員を対象として同様の説明会を実施した。
(ウ)G課長は,平成18年9月29日,各学校の校長に対し「歴史,『
都市・京都から学ぶジュニア日本文化検定』基礎コースの実施について
(協力依頼」と題する書面(甲16−3枚目)を送付することを決定)
し,そのころ,同書面を送付した。
上記書面は,①各学校において,平成18年11月20日から25日
までの間の任意の時間に検定試験を実施すること,②受検対象児童全員
が受検することができる機会を設けること,③各学校で受検日時を設定
し保護者に対し通知することを依頼する内容のものであった。また,同
書面には,保護者に対する案内文の例文(甲16−2枚目)が添付され
ており,同例文では,検定試験を実施する旨の記載があるのみであり,
受検が任意のものであるとは記載されていないが,他方で,必ず受検し
なければならないものとも記載されていない。
キ各学校における検定試験の実施(甲30,31の1∼184)
平成18年11月20日から同年12月1日にかけて,各学校において
基礎コースの検定試験が実施され,受検対象児童が受検した。多くの学校
では,授業時間内に実施されたが,授業時間外に実施した学校もあった。
(2)D市長及びB教育長の発言(甲7,乙1−3頁)
アD市長は,平成17年11月2日の定例記者会見において,京都検定の
子ども版として本件事業を実施することを発表した。この会見の中で,D
市長は,本件事業の目的につき「京都のまちが有する日本の伝統や優れた
文化を学び,体験することにより,京都をよりよいまちにしていこうとい
,。」う意欲や次代に伝えていこうという気持ちをもった子どもたちを育む
,,「,ことであると説明し本件事業につき京都の文化や景観を次代に伝え
国を挙げて守り活かす『京都創生』の取組の裾野を広げることにつなげて
まいります」と説明した。。
イB教育長は,平成18年5月30日に開催された第164回国会衆議院
教育基本法に関する特別委員会の会議において,生涯学習につき「京都の
文化力,地域力,人間力を最大限活かした生涯学習を進めていこう。そし
,,,てその成果を子供の学びを支えるものに子供の学びにつなげていこう
そんな取り組みをしています「土曜日,日曜日に,大人が子供たちの。」
ためにいろいろな取り組みをしよう。町全体を子供の学びと育ちの場に,
大人はみんな先生に,そんな取り組みをしまして,1年半で4千の企画,
10万人の親子がこうした取り組みに参画しております。それをさらに発
展させまして『歴史都市・京都から学ぶジュニア日本文化検定,ジュ,』
ニア京都検定と言っています。京都の子供たちにしっかりと日本の文化,
伝統を知識として学ばせたい。同時に,体験もさせたい。お茶,お花,伝
統芸能,それらを,今京都検定が非常に好評でございますけれども,子供
版の日本文化検定,そうしたものを進めていきたい」と述べた上で「こ。,
うした取り組みが,郷土を愛し,日本を愛する子供たちの育成につながっ
ていく,そのように確信しておるところであります」と述べた。。
(3)本件事業に関する各書面の記載(甲14,15,41,43,48の2,
3)
ア平成17年11月10日に開催された推進プロジェクトの第1回会議に
おいて配布された書面(甲14)では,①本件事業の実施主体は推進プロ
ジェクトであり,市教委生涯学習部が事務局であること,②本件テキスト
の刊行は平成18年3月を予定していることが記載されていた。
イ市教委が平成18年1月ころに作成し,京都市議会に提出した平成18
年度の当初予算案(甲41)では,本件テキストの刊行予定は,平成18
年4月とされていた。
ウ平成18年2月14日に開催された推進プロジェクトの第2回会議にお
いて配布された書面(甲15)では,①本件テキストの価格は800円と
し,配布対象児童については特別価格(300円程度)で提供する予定で
あること,②本件テキストの作成スケジュールとして,同月末に第一稿が
完成し,校正作業に入り,同年4月中旬に最終稿が完成し発売予定である
ことが記載されていた。
エG課長は平成18年4月19日上記完成報告会の実施に先立ち歴,,,「『
史都市・京都から学ぶジュニア日本文化検定テキストブック』完成報告会
の実施について」と題する書面(広報資料(甲43−2枚目)のとおり)
広報することを決定した。同書面では,①本件テキストを配布対象児童に
無償で配布すること,②本件テキストの発行日は5月中旬を予定している
こと等が記載されている。
オ平成18年度の基礎コース及び発展コースの検定試験のパンフレット
(甲48の2,3)では,本件事業の主催者は,推進プロジェクト及び市
教委と記載されている。
(4)G課長とM社との間のやり取り(甲54)
G課長は,次のとおり,M社の担当者と,本件事業のシステム構築業務に
つき,打合せを行った。
ア平成17年11月18日の打合せにおいては,検定試験の実施に関する
具体的事項(基礎,発展,名人の3コースを設けることや,検定試験の実
施時期,試験問題の数等)につき協議が行われ,G課長は,M社の担当者
に対し,当初費用とランニング費用の提示や,システム稼働に向けてのス
ケジュール案の提出を要求した。その結果,M社は,同月21日から同月
25日までに,社内で調整・準備を行い,同月28日に,京都市に対して
上記費用の概算を提示することとなった。
イ平成18年2月10日の打合せにおいては,G課長は,M社の担当者に
対し,①京都市が業者を選定するにあたり,実績があり信頼できる業者を
選定するため,京都市が京都商工会議所に委託し,京都商工会議所が業者
に再委託する方針で検討されていること,②平成17年度の予算もある程
度見込まれており,平成17年度の作業分は,平成17年度の費用で実施
する予定であり,そのため,契約日付を平成18年3月末とした上で,遅
くとも同年4月下旬までに平成17年度作業分の成果物を提出する必要が
あることを伝えた。
ウ平成18年3月16日の打合せの結果,平成17年度の契約としては,
京都市が京都商工会議所に委託し,京都商工会議所が,M社に委託する形
式をとることとなり,M社としては,平成17年度作業分の成果物につい
て,何を提出するかを検討して通知することとなった。
(5)平成18年度及び平成19年度の検定処理業務(甲58∼62)
ア京都市は,平成18年10月1日ころ,平成18年度の基礎コースの検
定処理業務につき,M社との間で業務委託契約を締結した。同委託契約は
随意契約により締結されたが,次のとおり3社から見積書を提出させた上
で,随意契約による理由を地方自治法施行令167条の2第1項7号(時
価に比して著しく有利な価格で契約を締結することができる見込みのある
とき)としたものである。
(ア)M社2997万2000円
(イ)N社3724万円
(ウ)O社3924万円
イ京都市は,平成18年12月22日ころ,平成18年度の発展コースの
検定処理業務につき,M社との間で業務委託契約を締結した。同委託契約
は随意契約により締結されたが,次のとおり3社から見積書を提出させた
上で随意契約による理由を地方自治法施行令167条の2第1項7号時,(
価に比して著しく有利な価格で契約を締結することができる見込みのある
とき)としたものである。
(ア)M社550万7000円
(イ)N社2399万円
(ウ)O社1910万円
ウ京都市は,平成19年度の検定処理業務については,基礎コース,発展
コース及び名人コースの3コースをまとめて,プロポーザル方式を採用し
て受託候補事業者を募り,これに応じて提案書を提出したM社,株式会社
オクトパス及びO社の3社につき,提案書の内容等を比較検討し,その結
果,O社と随意契約により業務委託契約を締結した。なお,上記委託契約
に基づく支出予定額は1695万4350円であったのに対し,M社の見
積額は約2320万円であった。
4争点(3)(本件事業の違法性が本件各支出に承継されるか)について
(1)本件各支出に伴う各財務会計行為を行ったC部長及びA課長は,いずれも
市教委の職員であるとはいえ,本件事業の実施に事務局として関与した市教
委生涯学習部には属さず,本件事業についての意思決定に直接関与したこと
はないから,仮に各財務会計行為の原因行為となる事業自体が違法であると
しても,それが著しく合理性を欠き,そのため予算執行の適正確保の見地か
ら看過することのできない瑕疵があるという場合に限り,本件各支出に伴う
各財務会計行為を拒否することが許されるというべきであり,そうでない限
り,C部長及びA課長の行った財務会計行為は違法とはならないということ
ができる。そうすると,C部長及びA課長の関係では,本件事業の違法性に
ついて,本件事業に上記のような瑕疵があるかどうかを判断すれば足りると
いうことになる。
(2)B教育長は,教育長であり,市教委事務局の事務を統括し,所属の職員を
指揮監督する立場にあり(地教行法20条1項,C部長及びA課長の上司)
,,として同人らに対する指揮監督権限を有していたからB教育長の関係でも
本件事業の違法性についてC部長及びA課長の関係と同様の観点で判断をす
べきである。
また,B教育長が教育行政の一環としての本件事業を自ら推進したことに
ついて,職員の非財務会計行為たる職務行為そのものを不法行為と評価でき
るだけの著しい違法性があるといえるためには,教育長としての裁量権を逸
脱し又は濫用したといえることが必要であり,この観点からも,本件事業の
違法性について判断をすべきことになる。
5争点(4)(本件事業の違法性)について
(1)原告らの主張ア(本件事業の目的・内容の違法性)について
ア原告らの主張(ア)(本件テキストの内容)について
(ア)原告らの主張①について
原告らの主張は,いずれも,本件テキストの記載の中で些末な誤りを
取り上げ,ことさらに問題視するものであるところ,原告らが主張する
ように別紙一覧表1∼12の記載内容に誤りがあったとしても,本件テ
キスト自体が直ちに有益適切でなくなるものではない。
(イ)原告らの主張②について
原告らは,別紙一覧表13∼23の記載内容等は偏っており,特定の
価値観・歴史観に基づいて本件テキストが作成されたことが窺われると
主張するが,本件事業の目的は歴史を網羅的に学習する機会を設けるた
めではないのであって,本件テキストで取り上げる内容に原告らの主張
する内容が盛り込まれていないとしても,そこから,直ちに,特定の価
値観・歴史観に基づいて本件テキストが作成されたということはできな
い。
なお,別紙一覧表17,21の記載は,身分による差別を肯定するか
のような記載であり不適切であるといえるが,全体の分量からすれば,
これらの記載から,本件テキスト全体が有益適切でなくなるものとはい
えない。
(ウ)原告らの主張③について
教材の内容・表現が教科書と全て同一でなければ,その教材は有益適
切でないとはいえないから,このような立場による原告らの主張は採用
できない。
(エ)原告らの主張④について
原告らは,別紙一覧表32∼41の記載内容等から,本件テキストが
性別に基づく役割分担意識に基づいていることが窺われると主張する
が,①本件テキストに取り上げられた人物は,主に「歴史」分野で取り
上げられているところ,女性の数が少ないことは日本の歴史に照らしや
むを得ず(原告らも,取り上げられるべき女性として具体的な人物を指
摘しない,②本件テキストに記載された着物姿の女性の写真は,そ。)
のほとんどが本文との関係で意味のある写真であるものと認められる
し,③原告らの指摘する「性別によってイメージを固定した表現,男女
で異なった表現」は,いずれも本文の内容とは直接関係がない些末な点
を取り上げるものに過ぎず,これらの記載から,性別に基づく役割分担
意識が窺われたり,本件テキスト全体が有益適切でなくなるものとはい
えない。
(オ)原告らの主張⑤について
a教材として使用される書籍等に私企業を紹介する記述があることか
ら,直ちに,当該書籍が教材としての有益適切さを欠くことになるも
のとはいえず,当該書籍が教材として有益適切か否かは,その具体的
な記載内容を考慮して決すべき問題である。
本件事業の目的は後述のとおりであり,京都の私企業を紹介する別
紙一覧表42∼48の記載内容等は,この目的に沿うものであるし,
その内容についても,私企業をやや積極的に宣伝する内容とも思われ
るものも見受けられるところではあるが,全体として観察すれば,上
記目的に沿った私企業の紹介という範疇を逸脱するものではないか
ら,これらの記載内容等があることをもって,本件テキストが有益適
切でないとはいえない。そして,別紙一覧表49の記載内容について
も,本件事業に関し寄付等の協力を行った企業名を挙げているものに
過ぎないから,不適切なものとはいえない。
bまた,協賛広告についても,広告が掲載された書籍等を教材として
使用することを禁じる法令は存在せず,本件テキストに協賛広告が掲
載されていることをもって,直ちに,本件テキストが有益適切でなく
なるものではないから,当該書籍が有益適切なものでないか否かは,
広告の分量や内容に照らし判断すべきところ,本件テキストにおいて
は,広告にあてられているのは全184頁中12頁と裏表紙のみであ
り,広告の分量は過剰なものとはいえず,その内容にも教育上問題と
なるべき点は全く見受けられないから,協賛広告が掲載されているこ
とをもって,本件テキストが有益適切でないとはいえない。
(カ)以上のとおり,本件テキストが教材として有益適切でないとの原告
らの主張はいずれも採用できず,その他,本件テキストの記載内容を精
査しても,本件テキスト全体が教材として有益適切でなくなると認めら
れるような記載は見受けられない。
イ原告らの主張(イ)(本件テキストの作成者)について
本件全証拠によっても,本件テキストの作成者は明らかでないといわざ
るを得ないが,仮に,本件テキストの作成者が,推進プロジェクト及び市
教委であったとしても,原告らの主張するように,推進プロジェクトが一
定の政治的意図を持った団体であることを認めるに足りる証拠はないし,
教育委員会が教材の作成に関与すること自体が違法であるとの原告らの主
張は採用できない。
ウ原告らの主張(ウ)(学習及び受検の強制)について
(ア)前記認定の事実関係によれば,本件テキストは配布対象児童全員に
配布されたものの,本件テキストを使用するか否か,どのように使用す
るかは各学校の校長の判断に委ねられており,また,検定試験について
も,授業時間内に実施するか否かや,受検の自由の有無についていかな
る告知を行うかについても,各学校の校長の判断に委ねられていたもの
と評価できるから,市教委により,本件テキストを使用した学習や検定
試験の受検が,児童らに強制されていたものとみることはできない。。
(イ)原告らは,市教委生涯学習部から各学校の校長に対し,受検対象児
童全員が受検できるよう配慮を依頼したことをもって「全員受検」が,
指示されたと主張するが,前記のとおり,これは,全員が受検すること
ができる機会を設けるよう依頼したものに過ぎないから,原告らの主張
は採用できない。
また,原告らは,参加証の交付や受検料が無料となることをもって,
「踏み絵」であるとか「利益誘導」であるとか主張するが,これらが,
児童らに受検を強制する契機であるとまではいえない。
(ウ)さらに,原告らは,本件テキストの使用や検定試験を実施しないと
校長が判断すると,校長に対する不利益処分やマイナス評価につながる
と主張するが,憶測を述べるものであり採用できない。
また,原告らは,本件テキストについて,教材使用届が提出されてい
ないから,各学校の校長が本件テキストの使用を決定したものではない
と主張するが,証拠(甲44)によれば,教材使用届の提出が義務付け
られているのは,継続的(おおむね1学期間)に使用する場合のみであ
るから,継続的に使用されていなかったと考えられる本件テキストにつ
き,教材使用届が提出されていないことは当然であり,原告らの主張は
採用できない。
エ原告らの主張(エ)(本件事業の目的)について
(ア)前記認定の本件テキストの内容や本件事業の内容,平成18年度の
基礎コースの検定試験の実施要項の内容,D市長及びB教育長の発言内
,,容本件事業は京都商工会議所の提案から始まっていることからすると
本件事業の目的は,児童らが,京都に関する知識を得たり様々な体験を
するなどして,日本や京都の伝統・文化を学習する機会を設けることに
あると認められ,原告らの主張するように,児童らに特定の思想を植え
付けることが本件事業の目的であると認めることはできない。
(イ)原告らは,本件テキストの内容,D市長やB教育長等の発言の一部
分や,推進プロジェクトの一委員の発言を取り上げ,本件事業の目的が
原告ら主張のとおりであることが推認されるかのように主張する。
しかしながら,上記のとおり,特定の価値観・歴史観に基づいて本件
テキストが作成されたものと認めることはできないし,前記のとおり,
本件テキストの作成に関わったのは主に執筆関係者や京都新聞開発であ
り,これらの者に対して,市教委や推進プロジェクトの委員等が本件テ
キストの具体的内容につき指示を行った等の事実は窺われない。また,
D市長やB教育長の発言内容を総合すると,原告らの指摘する発言は本
件事業の主たる説明内容ではなく,同人らの発言から本件事業の目的が
原告ら主張のとおりであると推認することはできないし,推進プロジェ
クトの一委員の発言をもって,本件事業の目的が決まるものではない。
したがって,原告らの主張は採用できない。
また原告らは本件事業の背景には京都創生の取組があり京,,「」,「
都創生」の取組自体が愛国心やナショナリズムを前面に打ち出したもの
であると主張するが,本件全証拠によっても「京都創生」の取組が本,
件事業の背景にあるとは認められない上,また,証拠(甲12,13)
によれば「京都創生」の取組自体,観光の振興を目的とするものに過,
ぎないと認められるから,原告らの主張は採用できない。
(2)原告らの主張イ(意思決定手続を経ていないこと)について
ア前記認定の事実関係によれば,本件事業を市教委が行うにつき明確な意
思決定手続を欠いていることは明らかである。
イもっとも,京都市教育委員会通則13条によれば,市教委に関する権限
は包括的に教育長に委任されているものと解され,B教育長は,市教委と
して本件事業を実施することの意思決定権限を有していたものといえる。
そして,前記のとおり,B教育長は,市長権限に属する事務についての
,,補助執行権限として推進プロジェクトの設置要綱を自ら決定している上
自ら推進プロジェクトの委員に就任しているし,推進プロジェクトの事務
局を市教委生涯学習部に置くことが決定され,F部長が事務局長に選任さ
れているのであるから,遅くとも推進プロジェクトの設置要綱決定の時点
では,推進プロジェクトとの役割分担はともかくとして,市教委として本
件事業を実施することの意思は固まっていたものとみることができる。
したがって,本件事業の実施につき実質的な意思決定は行われているの
である。
ウなお,本件事業の実施主体について,前記認定の事実関係によれば,当
初は,推進プロジェクトの設置要綱に記載されていたように,推進プロジ
ェクトが実施主体となって本件事業に関する様々な協議・決定を行うこと
が予定されており,市教委生涯学習部はその事務局に過ぎなかったものと
認められるが,同時に,推進プロジェクトと市教委生涯学習部との間の役
割分担が明確に定められていなかったものと認められ,両者の役割・権限
の分担は,当初から曖昧なものであったものといえる。また,推進プロジ
ェクトが,第1回会議以降,本件事業に関し何らかの具体的意思決定を行
った事実は窺われない上,前記のとおり,市教委が中心となって本件事業
を進めていたのに対し,推進プロジェクトの委員が異議を述べたような事
情も全く見受けられない。
これらの事情に照らすと,推進プロジェクトの設置要綱の定めに反し,
市教委が,実質的な実施主体となって,当初から本件事業に関する業務を
行っており(生涯学習部が実際の業務を行っていた,推進プロジェク。)
トは諮問機関的な役割を果たしていたに過ぎないものとみるのが相当であ
る。
このように,実施主体に関する明確な手続を欠いたまま,市教委が本件
事業を実施してきたことは,本件事業に関する責任の主体等を不明確にす
るものであり不適切といわざるを得ないが,市教委が実施主体となって本
件事業を実施すること自体には問題はなく,正式な手続を欠いたという手
続上の問題に過ぎない。
(3)まとめ
以上のとおり,(1)本件事業の目的・内容,(2)意思決定手続を経ていない
ことの点から,本件事業の違法性について問題となり得る点を検討してきた
が,前記4で検討した,本件事業が著しく合理性を欠き,そのため予算執行
の適正確保の見地から看過することのできない瑕疵があるとか,本件事業の
推進が教育長としての裁量権を逸脱し又は濫用したものであるとかというこ
とはできないから,本件事業自体の違法性という観点からの原告らの主張は
いずれも採用できない。
6争点(5)(本件支出①の違法性)について
(1)原告らの主張ア(購入の必要性を欠くこと)について
ア原告らは,本件関連書籍は,執筆関係者に配布されていないと主張し,
本件関連書籍の購入が不必要であったと主張するが,前記のとおり,第1
回執筆者会議を欠席した執筆関係者には,同会議で出席者に配布された資
料として本件関連書籍が平成17年6月17日付けの文書とともに送付さ
れていることからすれば,そのときには,既に本件関連書籍が納入されて
,。おり同会議に出席した執筆関係者にも配布されているものと認められる
したがって,原告らの主張は前提を欠き採用することができない。
イまた,原告らは,本件関連書籍は,出版社から割引価格で購入すべきも
のであったから,定価で本件関連書籍を購入した本件支出負担行為①は違
法であると主張するが,本件関連書籍の購入冊数(各110冊)に照らせ
ば,定価を超える価格で購入したのであれば格別,定価で購入したことが
違法であるとまではいえないから,原告らの主張は採用できない。
(2)原告らの主張イ∼オについて
原告らは,上記の違法事由以外にも,本件支出①の違法事由として縷々主
張するが,これらの違法事由と因果関係のある損害が京都市に生じるとはい
いがたいし,損害については原告らから具体的な主張もないから,原告らの
主張イ∼オについてはこれ以上判断しないこととする。
7争点(6)(本件支出②の違法性)について
(1)原告らの主張ア(契約の必要性を欠くこと)について
,,,前記認定の事実関係によれば本件委託契約は契約締結当初においては
締結の必要性に乏しく(すなわち,平成18年度の検定処理業務と一括で業
務を委託すれば足り,準備業務のみを切り取って委託契約を締結する必要性
に乏しい,平成18年度の検定処理業務の一部を前倒しして委託したも。)
のと評価せざるを得ない。
もっとも,前記のとおり,M社は,平成18年度の基礎コース及び発展コ
ースの検定処理業務を受託しており,また,その仕様書(甲61,62)を
見ると,本件委託契約の成果物と重複するものは含まれていないのであるか
ら,M社は,本件委託契約の成果物を前提として平成18年度の検定処理業
務を行ったものと推認される。そうすると,結果として,本件委託契約が無
意味な契約であったとみることはできない。
したがって,本件委託契約の締結は,結果として,必要性を欠くものであ
ったとみることはできず,原告らの主張アは採用できない。
(2)原告らの主張イ(随意契約理由の不存在等)について
ア前記のとおり,本件委託契約は随意契約により締結され,その理由とし
て,地方自治法施行令167条の2第1項2号が挙げられている。
イ随意契約ガイドラインでは,地方自治法施行令167条の2第1項2号
に該当する場合として「特定の1者でなければ提供できない役務に係る,
契約」で「特殊な技術又は秘密の技術に関する情報その他の他の者が有し
得ない専門的な知識,技術等を必要とするもの」が挙げられており,被告
は,本件委託契約がこれに該当すると主張するが,本件委託契約の内容や
(,,,),成果物乙61∼6364の12乙65の1∼23を精査しても
本件委託契約における業務がM社でなければ提供できない役務であると認
めることはできない(被告は,京都検定との連携のためM社との契約が必
要であったと主張するが,そのような事情は見受けられない。さらに,。)
同ガイドラインでは「運用上の留意点」として「他の者では履行し得,,
ない役務の提供であることについて同業他社に確認するなど客観的に確認
すること独自のノウハウ等の必要性については他の者が別の手段ノ」「,(
ウハウ等)によって達成できないか確認すること」などが挙げられている
,,。が本件委託契約の締結にあたりこのような確認は一切行われていない
ウ以上によれば,本件委託契約は,地方自治法施行令167条の2第1項
2号には該当せず,その他随意契約によることを違法でないとする理由は
何ら見受けられないから,本件支出負担行為②は違法であるものといわざ
るを得ない。
(3)原告らの主張ウ(契約内容の不備)について
原告らは,本件委託契約においては,①委託内容や契約の目的等の記載及
び仕様書の添付を欠く上,②契約保証金やそれに代わる担保を納めさせてい
ないなどの不備があると主張する。
しかしながら,①委託内容が「成果物」とされているのものの作成である
ことや,契約の目的が本件事業のための準備であることは,契約書上明らか
であるし,②証拠(甲77−15頁)によれば,京都市においては,入札予
定金額が4億円以上の工事請負契約について入札保証金の納付を原則とする
運用を行っていることが認められ,これに照らすと,委託料が352万80
00円である本件委託契約は「契約金額が少額」であるといえるし,後述,
のとおり,M社は,本件委託契約締結前から業務を行っており,本件委託契
約締結時には,本件委託契約の成果物はおおむね完成していたものと考えら
れることからすると「契約の相手方が契約を履行しないこととなるおそれ,
がな」かったものと評価でき,契約保証金又はそれに代わる担保の提供は必
要でないものと認められる(京都市契約事務規則30条6号)から,原告ら
の主張は採用できない。
(4)原告らの主張エ(会計年度独立の原則に反すること)について
ア平成18年2月28日付けの支出負担行為書②の実際の決裁日が同年4
月26日以降であったことは当事者間に争いがない。
イそして,前記認定のG課長とM社との間のやり取り(前記3(4))に加
え,本件委託契約が契約締結当初は必要性に乏しい契約であったことや,
本件委託契約が,随意契約理由が存在しないにもかかわらず,随意契約に
より締結され,しかも,同業他社に対する確認も行われていないこと等に
照らせば,①M社は,平成17年度中から,事実上,本件事業に関する業
務を行っていたこと,②市教委とM社は,その業務の一部を切り取って本
件委託契約の対象としたこと,③M社は,平成18年3月末までに本件委
託契約に基づく成果物を提出していないこと,④京都市とM社は,平成1
8年度に入ってから,平成18年3月1日付けで本件委託契約を締結した
ことが認められ,したがって,平成18年度に入ってから本件委託契約の
締結やそれに基づく成果物の提出があったにもかかわらず,市教委は,平
成17年度中にこれらが行われた形式を整えたということになる。
ウ被告は,平成18年2月28日にA課長が口頭で支出負担行為を行った
と主張し,これに沿う証拠(乙60,証人G)があるが,Gの証言は,上
記各事実に照らし,にわかに採用することができない。
エ以上のとおり,本件委託契約に基づく履行(成果物の提出)は平成18
年度に入ってなされたものであるから,本件支出②は平成18年度の会計
年度に属するものであるところ(地方自治法施行令143条1項4号,)
平成17年度の予算において支出がなされた本件支出②には,会計年度独
立の原則に反する違法があり,直接の財務会計行為である本件支出命令②
のみならず,会計年度を偽る目的で行われた本件支出負担行為②も違法で
あるものといわざるを得ない。
(5)原告らの主張オ(その他)について
原告らは,上記の各違法事由以外にも,本件支出②の違法事由として縷々
主張するが,これらの違法事由と因果関係のある損害が京都市に生じるとは
いいがたいし,損害については原告らから具体的な主張もないから,原告ら
の主張オについてはこれ以上判断しないこととする。
(6)まとめ
以上のとおり,本件支出②については,随意契約理由を欠く違法(本件支
出負担行為②の違法)及び会計年度独立の原則に反する違法(本件支出負担
行為②及び本件支出命令②の違法)が認められる。
8争点(7)(本件支出③の違法性)について
(1)原告らの主張ア(無償配布決定の不存在)について
ア原告らは,推進プロジェクトが,本件テキストを有償で配布することを
,(,決定したと主張するがこれを認めるに足りる証拠はない前記のとおり
推進プロジェクトの第2回会議において,有償配布の方針が示されている
が,これが決定されたことを認めるに足りる証拠はない。。)
イまた,原告らは,市教委内部においても本件テキストを無償で配布する
ことの意思決定手続がとられていないと主張するが,本件テキストの無償
配布に際し,京都市において,本件支出負担行為③と別に何らかの意思決
定手続が必要であったとしても,これを欠いたことは手続上の問題に過ぎ
ず,本件支出③の違法性の判断に影響を与えるものではないから,原告ら
の主張は採用できない。
(2)原告らの主張イ(購入の必要性を欠くこと)について
ア原告らは,本件テキストは有益適切なものではないから,本件テキスト
の購入は必要性を欠くと主張するが,前記のとおり,本件テキストが有益
適切でないとはいえないから,原告らの主張は採用できない。
イまた,前記のとおり,本件テキスト3万8000冊の大部分は,実際に
配布対象児童や教員,各学校に配布されていて,その余部のうち1487
冊は,推進プロジェクトの委員・顧問,事務局関係者配布用や広報用とし
て使用され,残43冊が在庫となったものと認められ,この冊数が,上記
使用目的に照らし,不相当であるとは認められないから,京都市が不必要
に過剰な量の本件テキストを購入したとの原告らの主張は採用できない。
(3)原告らの主張ウ(会計年度独立の原則に反すること)について
ア平成18年3月26日付けの支出負担行為書③の実際の決裁日が同年4
月21日以降であったことは当事者間に争いがない。
イそして,①平成17年11月10日当時,本件テキストは平成18年3
月に完成予定であったのが(前記3(3)ア,平成18年2月14日の時)
点で,同月末第一稿完成,同年4月完成予定と変更されていた(同ウ)に
もかかわらず,それが再び同年3月中に完成することになったのは不可解
であること,②G課長は,同年2月28日に,B教育長名の文書で本件テ
キストの協賛広告を依頼することを決定しているが,それからわずか1か
月間で,協賛広告を募集し,広告内容の点検等が行われ,本件テキストが
同年3月31日に完成したとは考え難いこと,③G課長は,同年4月17
日に各学校に対する配布対象児童の人数の照会文書を送付しており,これ
以前の時点で,本件テキストの購入部数が確定していたか疑問を差し挟ま
ざるを得ないこと,④本件委託契約の締結も日付を遡らせたものであると
認められること等に照らせば,①本件テキストが完成したのは平成18年
度に入ってからであり,本件テキストの納入・検収が行われたのもそのこ
ろであったこと,②C部長は,平成18年度に入ってから本件支出負担行
為③を行ったことが認められ,したがって,平成18年度に入ってから本
件支出負担行為③や本件テキストの納入・検収があったにもかかわらず,
市教委は,平成17年度中にこれらが行われた形式を整えたということに
なる。
ウこの点につき,被告は,本件テキストの購入につき,平成18年3月2
6日ころに,C部長による口頭での意思決定があった,平成18年3月3
1日に,本件テキストのゲラ刷りを確認することによって検収を行ったと
主張し,これに沿う証拠(乙60,証人G)があるが,Gの証言は,上記
各事実に照らし,にわかに採用することができない。なお,Gの証言する
ように,平成18年3月31日の時点で,ゲラ刷りを確認したとしても,
その時点では,本件テキストは完成すらしていなかったと認められるから
(完成していれば,京都新聞開発は実物を見本として持参するはずであ
る,これをもって,本件テキストの納入・検収があったものと評価す。)
ることはできない。
エ以上のとおり,本件テキストの納入は平成18年度に入ってなされたも
のであるから,本件支出③は平成18年度の会計年度に属するものである
ところ(地方自治法施行令143条1項4号〔なお,本件テキスト購入に
係る契約書が提出されていないが,京都新聞開発の請求書や支出命令書③
の日付や実際の支払日に照らすと,本件テキストの納入があってから,代
金を支払う約定であったと認めるのが相当であるから,同号が適用される
と解される,平成17年度の予算において支出がなされた本件支出③。〕)
には,会計年度独立の原則に反する違法があり,直接の財務会計行為であ
る本件支出命令③のみならず,会計年度を偽る目的で行われた本件支出負
担行為③も違法であるものといわざるを得ない。
(4)原告らの主張エ(その他)について
原告らは,随意契約理由がなかったと主張するところ,確かに地方自治法
施行令167条の2第1項1号には当たらないが,本件テキスト(乙2)の
内容,装丁,分量などからすると,定価の3割である300円という価格は
時価に比して著しく有利であるということができ,被告が正しくは同項7号
に当たるというべきであったと主張するところに合致するので,随意契約理
由の点をもって,本件支出③が違法であったということはできない。
また,原告らは,上記の各違法事由以外にも,本件支出③の違法事由を縷
々主張するが,これらの違法事由と因果関係のある損害が京都市に生じると
はいいがたいし,損害については原告から具体的な主張もないから,原告ら
の主張エについてはこれ以上判断しないこととする。
(5)まとめ
以上のとおり,本件支出③については,会計年度独立の原則に反する違法
(本件支出負担行為③及び本件支出命令③の違法)が認められる。
9争点(8)(損害)について
(1)前記のとおり,本件支出①は違法なものとは認められないので,同支出に
よる損害については判断の必要がない。
(2)本件支出②について
ア前記のとおり,本件委託契約は違法な随意契約により締結されたもので
あり,本件支出負担行為②は違法であると認められる。
そこで,上記違法による損害につき検討するに,前記のとおり,平成1
9年度の検定処理業務では,プロポーザル方式を採用して受託候補事業者
を募り,その結果,O社との間で委託契約が締結されたが,その契約にお
ける支出予定額(1695万4350円)は,M社の見積額(2320万
円)と比較し約73%と大幅に安価であったことに照らせば,本件委託契
約についても,このようにプロポーザル方式によって契約の相手方を選択
(「」するなど適正な方法を採っていた場合の契約金額以下本来の契約金額
という)は,実際の契約金額(352万8000円)と比較して相当程。
度安価になっていたと推認され,その差額につき,京都市は損害を被った
ものとみることができる(なお,前記のとおり,平成18年度の検定処理
業務については,M社が最も安価な金額を見積もっているが,これは,M
社が,本件委託契約の成果物を利用することができるなどの点で他の者に
比べ有利であった結果に過ぎないと考えられるから,上記判断を左右しな
い。。)
もっとも,プロポーザル方式においては各業者の提案に係る具体的な業
務内容が異なることにも照らし,上記割合から直接,損害額を算出するの
は相当でない。そこで,損害の控えめな認定という見地から,損害額を算
定するに,本来の契約金額と実際の契約金額の差は,1割を下ることはな
いとみるのが相当である。したがって,本件委託契約が違法な随意契約で
あることによる損害額は,352万8000円×0.1=35万2800
円となる。
イなお,前記のとおり,本件支出②に関しては,会計年度独立の原則に反
する違法も認められるが,本件委託契約の締結は,結果として京都市にと
って不必要であったものとは認められず,本件支出②については,平成1
7年度予算において支出されなくても,平成18年度の予算で支出されて
いたものと認められるから,京都市に損害が発生しているものと認めるこ
とはできない。
(3)本件支出③について
前記のとおり,本件支出③に関しては,会計年度独立の原則に反する違法
が認められるが,本件テキストの購入は,京都市にとって不必要であったも
のとは認められず,本件支出③については,平成17年度予算において支出
,,されなくても平成18年度の予算で支出されていたものと認められるから
京都市に損害が発生しているものと認めることはできない。
10争点(9)(各職員の責任)について
(1)前記のとおり,本件支出負担行為②については,違法な随意契約により本
件委託契約が締結されたという違法が認められ,これによる損害も認められ
る。したがって,この点に関するA課長及びB教育長の責任についてのみ検
討する。
(2)A課長について
A課長には,本件支出負担行為②を行うにあたり,随意契約ガイドライン
に定められているように同業他社に確認することをG課長に指示するなどし
て,本件委託契約が地方自治法施行令167条の2第1項2号に該当するか
否かを確認すべき義務を負っていたにもかかわらず,同義務を怠った過失が
ある。
そして,A課長は,その立場上,地方自治法施行令167条の2第1項2
号の要件や随意契約による場合の手続について熟知していたものと認めら
れ,本件支出負担行為②の時点において,本件委託契約が地方自治法施行令
167条の2第1項2号に該当しない可能性を認識し,上記の確認を行うこ
とは極めて容易であったものといえるから,A課長には,本件支出負担行為
②を行うにつき,重過失があったものと認めることができる。
よって,A課長は,京都市に対し,地方自治法243条の2第1項後段に
基づき,前記損害35万2800円を賠償する責任を負う。
(3)B教育長について
B教育長は,教育長であり,市教委事務局の事務を統括し,所属の職員を
指揮監督する立場にあり(地教行法20条1項,C部長及びA課長の上司)
として同人らに対する指揮監督権限を有していたといえる。
しかし,前記のとおり,本件支出負担行為②のような支出負担行為につい
ては,本来は京都市長の権限であるものが,京都市教育長等専決規程により
総務課長の専決事項とされていたのであって,教育長がこれらの専決権者に
対し個々の支出負担行為について具体的指揮監督を行うことは予定されてい
ないとみるべきである上,専決権者が決裁する事項は多岐にわたると考えら
れ,その全てを教育長が指揮監督することはおよそ不可能であるものといわ
ざるを得ない。したがって,専決権者が日常的に違法な支出負担行為を行っ
ており教育長がそのことを知っていたとか,教育長が専決権者から当該支出
負担行為について相談を受けていたなど,具体的指揮監督義務を基礎付ける
ような特段の事情のない限り,教育長は,個々の支出負担行為について専決
権者を具体的に指揮監督すべき義務を負っているものとみることはできな
い。
,,本件では上記特段の事情は認められないから本件支出負担行為②につき
B教育長がA課長を具体的に指揮監督すべき義務を負っていたものとみるこ
とはできず,原告らの主張は採用できない。
11結論
以上の次第で,原告らの請求には,A課長に対する35万2800円の損害
賠償命令を求める限度で理由があるからその範囲で認容し,その余はいずれも
理由がないから棄却することとして,主文のとおり判決する。
京都地方裁判所第3民事部
裁判長裁判官瀧華聡之
裁判官佐野義孝
裁判官中嶋謙英
(別紙省略)

戻る



採用情報


弁護士 求人 採用
弁護士募集(経験者 司法修習生)
激動の時代に
今後の弁護士業界はどうなっていくのでしょうか。 もはや、東京では弁護士が過剰であり、すでに仕事がない弁護士が多数います。
ベテランで優秀な弁護士も、営業が苦手な先生は食べていけない、そういう時代が既に到来しています。
「コツコツ真面目に仕事をすれば、お客が来る。」といった考え方は残念ながら通用しません。
仕事がない弁護士は無力です。
弁護士は仕事がなければ経験もできず、能力も発揮できないからです。
ではどうしたらよいのでしょうか。
答えは、弁護士業もサービス業であるという原点に立ち返ることです。
我々は、クライアントの信頼に応えることが最重要と考え、そのために努力していきたいと思います。 弁護士数の増加、市民のニーズの多様化に応えるべく、従来の法律事務所と違ったアプローチを模索しております。
今まで培ったノウハウを共有し、さらなる発展をともに目指したいと思います。
興味がおありの弁護士の方、司法修習生の方、お気軽にご連絡下さい。 事務所を見学頂き、ゆっくりお話ししましょう。

応募資格
司法修習生
すでに経験を有する弁護士
なお、地方での勤務を希望する先生も歓迎します。
また、勤務弁護士ではなく、経費共同も可能です。

学歴、年齢、性別、成績等で評価はしません。
従いまして、司法試験での成績、司法研修所での成績等の書類は不要です。

詳細は、面談の上、決定させてください。

独立支援
独立を考えている弁護士を支援します。
条件は以下のとおりです。
お気軽にお問い合わせ下さい。
◎1年目の経費無料(場所代、コピー代、ファックス代等)
◎秘書等の支援可能
◎事務所の名称は自由に選択可能
◎業務に関する質問等可能
◎事務所事件の共同受任可

応募方法
メールまたはお電話でご連絡ください。
残り応募人数(2019年5月1日現在)
採用は2名
独立支援は3名

連絡先
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所 採用担当宛
email:[email protected]

71期修習生 72期修習生 求人
修習生の事務所訪問歓迎しております。

ITJではアルバイトを募集しております。
職種 事務職
時給 当社規定による
勤務地 〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
その他 明るく楽しい職場です。
シフトは週40時間以上
ロースクール生歓迎
経験不問です。

応募方法
写真付きの履歴書を以下の住所までお送り下さい。
履歴書の返送はいたしませんのであしからずご了承下さい。
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所
[email protected]
採用担当宛