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平成14年(行ケ)第640号 審決取消請求事件
平成15年4月8日口頭弁論終結
判        決
原      告    株式会社コム
訴訟代理人弁理士    重 信 和 男
同           清 水 英 雄
被      告    SMC株式会社
訴訟代理人弁理士    林     宏
同           林   直生樹
同           川 添 不美雄
主        文
原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第1 当事者の求めた裁判
1 原告
特許庁が無効2001-35547号事件について平成14年11月19日
にした審決を取り消す。
訴訟費用は被告の負担とする。
2 被告
主文と同旨。
第2 当事者間に争いのない事実
1 特許庁における手続の経緯
原告は,意匠に係る物品を「バルブ用筐体」とし,その形態を別紙審決書の
写し別紙第1記載のとおりとする,登録第1002366号意匠(平成4年4月2
8日意匠登録出願(以下「本件出願」という。)。平成9年10月31日設定登
録。以下,その意匠そのものを「本件意匠」という。)の意匠権者である。
被告は,本件意匠の登録を無効とすることについて審判を請求した。
特許庁は,これを無効2001-35547号事件として審理し,その結
果,平成14年11月19日に,「意匠登録第1002366号の登録を無効とす
る。」との審決をし,同年11月28日にその謄本を原告に送達した。
2 審決の理由
別紙審決書の写し記載のとおりである。要するに,本件意匠は,本件出願前
に頒布されたCETEC社(セテック社)発行のカタログ(審判甲第1号証,本訴
乙第1号証。以下「本件カタログ」という。)に記載され,本件出願日より前に外
国において公然知られていた,その形態を別紙審決書の写し添付別紙第2記載のと
おりとする,Serie12のアングルバルブの筐体(以下「本件アングルバル
ブ」という。)に係る意匠(以下「引用意匠」という。)に類似するから,意匠法
3条1項3号に規定する意匠に該当する,というものである。
第3 原告の主張の要点
審決は,引用意匠の公知性についての認定判断を誤ったものであり,この誤
りが結論に影響することは明らかであるから,違法として取り消されるべきであ
る。
本件カタログが1988年(昭和63年)9月以前に印刷され,本件アング
ルバルブが本件出願日である平成4年4月28日より前に外国において公然知られ
ていた,との審決の認定判断は,誤りである。
1 審決は,上記認定判断をするに当たり,スイスのフィテック株式会社(以下
「フィテック社」という。)の代表者と称するマルコ ヴェ・ティナーのスイスの
公証人の面前での宣誓供述書(審判甲第3号証,本訴乙第2号証。以下「本件宣誓
供述書」という。これによってなされた供述を「本件宣誓供述」ということがあ
る。)を主たる根拠とした。
本件宣誓供述書には,(a)本件カタログに記載された本件アングルバルブ
が,1992年4月28日以前に公知となっていること,(b)本件カタログの最
終印刷が1989年3月であること,(c)本件アングルバルブは1986年にデ
ザインされ,それ以後一般に販売されたこと(その例を示すものとして添付の請求
書4通が挙げられている。),(d)本件カタログに添付されたCetec社名の
シールの下に記載されている「BKF」の社名は1988年9月に契約を解消した
卸売業者であること,が記載されている。
しかし,本件宣誓供述書は,信用性がなく,証拠として価値のないものであ
る。
(1) 本件宣誓供述書には,供述者が,上記(a)ないし(d)の各事項が発生
した時期に,どのような立場にあり,どのような権限を有していたのかが全く示さ
れていない。供述内容の信憑性を裏付ける根拠・資料等は全く示されていない。
マルコ ヴェ・ティナーは,1968年11月生まれで,1992年12
月7日にフィテック社に入社し,1999年1月26日に現職に就いたのであるか
ら,上記(a)ないし(d)の各事項が発生した時期には,フィテック社に在籍し
ておらず,これらの事項を自ら直接体験したものではない。また,同人は,カタロ
グの印刷,バルブのデザイン,カタログ印刷の廃止の指示,請求書の作成などの事
実に直接関与することをしていない人物であることも,明らかである。そもそも,
同人は,上記(b)ないし(d)の各事項が発生した時期である1986年から1
989年の間,バルザーズ社において電気工という見習の職工をしていたにすぎな
いから,フィテック社(旧商号セテック社)の行う業務上の判断に対し口を挟む余
地はなかったことが明らかである。
したがって,本件宣誓供述書の内容は,信用することができないものであ
る。
(2) マルコ ヴェ・ティナーは,本件宣誓供述書の供述事項の(a)で「本件
カタログの中でシリーズ12と称されるアングルバルブは,1992年4月28日
以前に公知となっている。」と述べている。しかし,どのように公知になったのか
については,一切供述していない。
単に宣誓供述書中に「公知」という言葉が使用されていることだけを根拠
に,「外国において公然知られた」,と判断するのは不合理である。
2 審決は,本件カタログには,BKF社の社名が表示された上にセテック社の
シールが貼られており,セテック社とBKF社との契約は1988年9月以前に解
消されたものであるから,本件カタログの印刷された時期は1988年9月以前で
あり,本件カタログは,本件出願日である1992年4月28日より前に,既に頒
布されたものと認めるのが合理的である,とした。
しかし,上記判断は,前記のとおり,その内容を信用することができない本
件宣誓供述書の記載のみを根拠としている点において,既に誤っている。
本件宣誓供述書中には,本件カタログが頒布されたとの記載はない。
3 審決は,本件カタログには,シリーズ12として,本件アングルバルブしか
掲載されていないことが認められるから,本件宣誓供述書添付の請求書は本件アン
グルバルブに関するものである蓋然性が高い,と認定した。
しかし,本件アングルバルブと上記各請求書中のシリーズ12のアングルバ
ルブとを結びつけるための根拠となるものはない。
本件宣誓供述書中には,①本件カタログの印刷が最終的に行われたのは19
89年3月である,②本件アングルバルブは1986年にデザインされ,それ以後
一般に販売された,との記載がある。上記各請求書の日付は,1989年5月18
日,6月30日,11月6日であり,上記の本件カタログの印刷の終了時点とされ
る日付と最も後の請求書の日付との間には8か月もの期間がある。会社が存続して
おり,販売中の製品についてカタログの印刷を一切中止することは一般常識では考
えられない。しかし,上記11月6日の時点で本件カタログが存在していたとは考
えられないから,当時,本件カタログとは別個のカタログが存在していたことが明
らかである。上記各請求書記載の1989年5月18日から11月6日にかけて販
売された「シリーズ12」が本件カタログ中のシリーズ12であると解釈するのは
不自然である。
上記各請求書が本件アングルバルブに関するものであるとの審決の判断は誤
りである。
4 審決は,審判乙第1号証のセテック社のカタログに,シリーズ12として複
数のアングルバルブが複数存在することが記載されていることを認めつつ,同カタ
ログのこの記載のみでは,そこに記載されたアングルバルブと本件アングルバルブ
との形状の異同が明らかでない,とした。
しかし,審判乙第1号証のカタログに示された「シリーズ12」のアングル
バルブを見れば,当業者であれば,本件アングルバルブを含め,その形状の異同を
判断することは容易である。審決が,本件アングルバルブの特徴部分を的確に認識
した上で,その意匠が本件意匠と類似すると判断したのであれば,本件アングルバ
ルブと,その特徴部分を明らかに有していない審判乙第1号証のカタログに示され
た「シリーズ12」のアングルバルブとの異同が明らかでない,との判断は,合理
的なものとしては生じ得ない。前記異同が明らかでないと判断するのであれば,本
件アングルバルブの形状も特定できないと判断することになるはずである。この点
についての審決の論理は矛盾している。
第4 被告の反論の骨子
審決の認定判断は正当であり,審決に,取消事由となるべき誤りはない。
1 原告の主張1について
(1) マルコ ヴェ・ティナーのセテック社への入社が1992年であって,原
告主張にいう(a)ないし(d)の事項の発生時期に同社に在籍していなかったと
しても,それらの事項は,本件宣誓供述に先立って,フィテック社の代表者(責任
者)として,社内調査により容易に確認することができた事項であるから,同人が
入社以前の事実を供述したことにより,直ちに,その供述に信用性がないとするこ
とはできない。
本件宣誓供述書の記載内容,同書に添付された資料並びに本件カタロ
グ,乙第4号証のカタログの記述等を総合すると,本件宣誓供述書は十分に信用性
を有するものと判断することができる。
(2) 本件宣誓供述書は,特許代理人事務所が関与して作成したものであるか
ら,そこに用いられている「公知」の語が正しい意味で用いられていることは明白
である。
2 原告の主張2について
本件宣誓供述書が信用性を有することは,1で述べたとおりである。本件カ
タログが本件出願日である1992年4月28日より前に頒布された,との審決の
認定に誤りはない。
3 原告の主張3について
カタログというものは,一般に,ある程度長い使用期間を予定して,その間
における必要部数を考慮して印刷するものである。原告の主張は,印刷の最終時点
において直ちにカタログがない状態になることを前提とするものであり,著しく不
自然で非常識なものというべきである。
4 原告の主張4について
審判乙第1号証のカタログは,本件カタログが発行されてから10数年を経
過している時点のものである。そこに,本件カタログに示されているのとは異なる
形状のものが示されているとしても,本件宣誓供述書に添付された請求書の発行の
時点に他の形状のアングルバルブも販売されていた,とするための根拠にはなり得
ない。
第5 当裁判所の判断
1 原告の主張1について
原告は,本件宣誓供述書(乙第1号証)の内容に信用性がない,と主張す
る。
しかし,マルコ ヴェ・ティナーがフィテック社(旧商号 セテック社)に
入社したのが,原告が主張するとおり,1992年12月ころであったとしても,
同社とBKF社との契約が1988年9月以前に解消されたとの事実,及び,本件
アングルバルブの販売が開始された時期など,本件宣誓供述書の記載内容となって
いる前記各事実は,フィテック社の取引関係書類等で容易に確認することができる
性質の事実であるから,マルコ ヴェ・ティナーが,本件アングルバルブに関連す
る事実で同人が入社する以前の事実を本件宣誓供述書において供述したからといっ
て,直ちにその供述書の内容の信用性がなくなるというわけのものではないこと
は,当然である。本件宣誓供述書の内容の信用性は,他の客観的な証拠と併せて検
討した上で,その内容が全体的にみて合理的であるか,あるいは,不自然ないし不
可思議な事由が存在するかなどの点を総合的に勘案して,決すべきである。本件に
おいては,BKF社の社名が印刷された本件カタログ(乙第1号証)及び1989
年当時の複数の請求書(乙第2号証参照)等と併せて総合的に判断してみても,こ
れを疑うべき不合理ないし不可思議な事由を見いだすことはできない。
すなわち,証拠(乙第1ないし第4号証)によれば,①本件カタログには,印刷年
月日も発行年月日も記載されていないものの,その裏表紙には,ドイツ連邦共和国
のBKF社の社名,住所・電話番号等が印刷されており,そのBKF社の社名,住
所等の印刷部分を覆うようにして,セテック社のシールが貼ってあること,②BK
F社は,セテック社のドイツにおける卸売業者であったものの,セテック社は,1
988年9月以前にBKF社との契約を解消したため,上記のシールを貼った本件
カタログを使用していたこと,③セテック社は,1989年において,少なくとも
4社に対して,アングルバルブ(シリーズ12)を販売し,その請求書を発行して
いることが認められ,これらの認定事実によれば,本件カタログは,BKF社との
契約を解消した1988年9月より前に印刷されたものであり,セテック社は,1
989年当時,本件カタログに記載されている本件アングルバルブを既に販売して
いたものであることが認められるから,本件カタログは,遅くとも1989年以前
に印刷され,発行されていたものであるということができる。
原告は,本件宣誓供述書で「公知」との言葉を用いていることについて,そ
の判断の根拠が明らかでない,と主張する。しかしながら,本件宣誓供述書は,本
件カタログの印刷時期や,そこに添付された請求書等を根拠に本件アングルバルブ
が公知であると述べているのであって,単に「公知」との結論を述べただけのもの
でないことは,その記載自体から明らかである。
原告の主張1は採用することができない。
2 原告の主張2について
原告の主張2に理由がないことは,1で述べたところから明らかであるとい
うべきである。
本件宣誓供述書自体に本件カタログが頒布されたとの直接の記載がないこと
が,同供述書や本件カタログ等の客観的な証拠を総合することによって頒布の事実
を認定することを何ら妨げるものでないことは,当然である。
原告の主張2も採用することができない。
3 原告の主張3について
原告は,本件宣誓供述書添付の各請求書の日付は,いずれも,本件カタログ
の印刷の終了時点であるとされる1989年3月より後のものであり,上記各請求
書が発行された時点では,本件カタログとは別個のカタログが存在していたことは
明らかであるから,上記各請求書記載のアングルバルブが,本件カタログに記載さ
れたアングルバルブであると解釈するのは不自然である,と主張する。
しかしながら,原告の主張は,本件カタログが印刷の終了後間もなくなくな
ることを前提とするものである。しかしながら,一般に,カタログの印刷は,ある
程度長い使用期間を予定してその間における必要部数を考慮してなされるものであ
ることは当裁判所に顕著であり,印刷終了の時点から8か月程度の期間,本件カタ
ログが使用されていたと認めることは,反対の結論に導く事情が認められない限
り,当然のことであって,何ら不自然なことではない。本件においては,上記反対
の結論に導く事情は見当たらない。
原告の主張3は,その前提において誤っており,採用することができない。
4 原告の主張4について
原告は,審決は,審判乙第1号証のセテック社のカタログにシリーズ12と
して複数のアングルバルブが複数存在することを認めつつ,同カタログの記載のみ
では,そこに記載されたアングルバルブと本件アングルバルブとの形状の異同が明
らかでないとしたとして,このことと審決が本件アングルバルブの形状を特定でき
るとしたこととの間には論理矛盾がある,と主張する。
しかしながら,審決中には,審判乙第1号証のカタログの記載のみでは,そ
こに記載されたアングルバルブと本件アングルバルブとの形状の異同が明らかでな
い,と述べた個所はない(原告は,別件の侵害訴訟事件の判決の記載(乙第5号証
の15頁5行~6行)と本件の審決の記載とを混同しているものと思われる。)。
原告の主張4は,その前提において既に誤っており,採用することができな
い。
第6 結論
以上のとおりであるから,原告主張の審決取消事由は理由がなく,その他審
決には,これを取り消すべき誤りは見当たらない。よって,原告の本訴請求を棄却
することとし,訴訟費用の負担につき,行政事件訴訟法7条,民事訴訟法61条を
適用して,主文のとおり判決する。
東京高等裁判所第6民事部
裁判長裁判官  山  下  和  明
裁判官  阿  部  正  幸
裁判官  高  瀬  順  久

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