弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件上告を棄却する。
         理    由
一 弁護人松下宜且、同原田紀敏、同熊野勝之の各上告趣意及び被告人本人の上告
趣意のうち、憲法一三条違反をいう点について
  所論は、我が国に在留する外国人について指紋押なつ制度を定めた外国人登録
法(昭和五七年法律第七五号による改正前のもの。以下特に記載がない限り同じ)
一四条一項、一八条一項八号は、みだりに指紋を採られない権利を保障する憲法一
三条に違反すると主張する。
 本件は、アメリカ合衆国国籍を有し現にハワイに在住する被告人が、昭和五六年
一一月九日、当時来日し居住していた神戸市a区において新規の外国人登録の申請
をした際、外国人登録原票、登録証明書及び指紋原紙二葉に指紋の押なつをしなか
ったため、外国人登録法の右条項に該当するとして起訴された事案である。
 指紋は、指先の紋様であり、それ自体では個人の私生活や人格、思想、信条、良
心等個人の内心に関する情報となるものではないが、性質上万人不同性、終生不変
性をもつので、採取された指紋の利用方法次第では個人の私生活あるいはプライバ
シーが侵害される危険性がある。このような意味で、指紋の押なつ制度は、国民の
私生活上の自由と密接な関連をもつものと考えられる。
 憲法一三条は、国民の私生活上の自由が国家権力の行使に対して保護されるべき
ことを規定していると解されるので、個人の私生活上の自由の一つとして、何人も
みだりに指紋の押なつを強制されない自由を有するものというべきであり、国家機
関が正当な理由もなく指紋の押なつを強制することは、同条の趣旨に反して許され
ず、また、右の自由の保障は我が国に在留する外国人にも等しく及ぶと解される(
最高裁昭和四〇年(あ)第一一八七号同四四年一二月二四日大法廷判決・刑集二三
巻一二号一六二五頁、最高裁昭和五〇年(行ッ)第一二〇号同五三年一〇月四日大
法廷判決・民集三二巻七号一二二三頁参照)。
 しかしながら、右の自由も、国家権力の行使に対して無制限に保護されるもので
はなく、公共の福祉のため必要がある場合には相当の制限を受けることは、憲法一
三条に定められているところである。
 そこで、外国人登録法が定める在留外国人についての指紋押なつ制度についてみ
ると、同制度は、昭和二七年に外国人登録法(同年法律第一二五号)が立法された
際に、同法一条の「本邦に在留する外国人の登録を実施することによって外国人の
居住関係及び身分関係を明確ならしめ、もって在留外国人の公正な管理に資する」
という目的を達成するため、戸籍制度のない外国人の人物特定につき最も確実な制
度として制定されたもので、その立法目的には十分な合理性があり、かつ、必要性
も肯定できるものである。また、その具体的な制度内容については、立法後累次の
改正があり、立法当初二年ごとの切替え時に必要とされていた押なつ義務が、その
後三年ごと、五年ごとと緩和され、昭和六二年法律第一〇二号によって原則として
最初の一回のみとされ、また、昭和三三年律第三号によって在留期間一年未満の者
の押なつ義務が免除されたほか、平成四年法律第六六号によって永住者(出入国管
理及び難民認定法別表第二上欄の永住者の在留資格をもつ者)及び特別永住者(日
本国との平和条約に基づき日本の国籍を離脱した者等の出入国管理に関する特例法
に定める特号永住者)にっき押なつ制度が廃止されるなど社会の状況変化に応じた
改正が行われているが、本件当時の制度内容は、押なつ義務が三年に一度で、押な
つ対象指紋も一指のみであり、加えて、その強制も罰則による間接強制にとどまる
ものであって、精神的、肉体的に過度の苦痛を伴うものとまではいえず、方法とし
ても、一般的に許容される限度を超えない相当なものであったと認められる。
 右のような指紋押なつ制度を定めた外国人登録法一四条一項、一八条一項八号が
憲法一三条に違反するものでないことは当裁判所の判例(前記最高裁昭和四四年一
二月二四日大法廷判決、最高裁昭和二九年(あ)第二七七七号同三一年一二月二六
日大法廷判決・刑集一〇巻一二号一七六九頁)の趣旨に徴し明らかであり、所論は
理由がない。
二 弁護人松下宜且及び被告人本人の各上告趣意のうち、憲法一四条違反をいう点
について
  所論は、指紋押なつ制度を定めた外国人登録法の前記各条項は外国人を日本人
と同一の取扱いをしない点で憲法一四条に違反すると主張する。しかしながら、在
留外国人を対象とする指紋押なつ制度は、前記一のような目的、必要性、相当性が
認められ、戸籍制度のない外国人については、日本人とは社会的事実関係上の差異
があって、その取扱いの差異には合理的根拠があるので、外国人登録法の同条項が
憲法一四条に違反するものでないことは、当裁判所の判例(最高裁昭和二六年(あ)
第三九一一号同三〇年一二月一四日大法廷判決・刑集九巻一三号二七五六頁、最高
裁昭和三七年(あ)第九二七号同三九年一一月一八日大法廷判決・刑集一八巻九号
五七九頁)の趣旨に徴し明らかであり、所論は理由がない。
三 弁護人原田紀敏、同熊野勝之の各上告趣意及び被告人本人の上告趣意のうち、
憲法一九条違反をいう点について
  所論は、指紋押なつ制度を定めた外国人登録法の前記各条項は外国人の思想、
良心の自由を害するもので憲法一九条に違反すると主張するが、指紋は指先の紋様
でありそれ自体では思想、良心等個人の内心に関する情報となるものではないし、
同制度の目的は在留外国人の公正な管理に資するため正確な人物特定をはかること
にあるのであって、同制度が所論のいうような外国人の思想、良心の自由を害する
ものとは認められないから、所論は前提を欠く。
四 弁護人松下宜且、同原田紀敏、同熊野勝之の各上告趣意及び被告人本人の上告
趣意のうち、その余の点は、違憲をいう点を含め、実質は単なる法令違反の主張で
あって、いずれも適法な上告理由に当たらない。
五 弁護人菅充行の上告趣意は、違憲をいう点を含め、実質は単なる法令違反の主
張であって、適法な上告理由に当たらない。
 よって、刑訴法四〇八条により、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決す
る。
  平成七年一二月一五日
     最高裁判所第三小法廷
         裁判長裁判官    可   部   恒   雄
            裁判官    園   部   逸   夫
            裁判官    大   野   正   男
            裁判官    千   種   秀   夫
            裁判官    尾   崎   行   信

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