弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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平成23年(わ)第357号
主文
被告人を懲役7年に処する。
未決勾留日数中160日をその刑に算入する。
押収してあるペティナイフ1本(平成23年押第23号の1)を没収する。
理由
(犯罪事実)
被告人は,
第1平成21年6月から精神障害の既往症を理由として生活保護費を受給してい
たところ,その業務を担当していた神戸市a区役所保健福祉部保護課職員のA
に対し,受給した生活保護費を使い果たしたとか紛失したとしてその前借りや
再支給を度々求めていたが,その都度,Aから生活保護制度の説明を受けるな
どして金銭の支給を断られていた。平成23年4月5日,前日に受給した生活
保護費を入れていた財布を落としたとして,Aに対し,電話でこれまでと同様
に金銭の支給を求めたものの,これを断られた上,被告人から窮状を訴えられ
た知人がAに頼んでも再び断られたことなどから,Aに対し激しい怒りを抱い
た。そこで,その直後ころ,自宅から徒歩で神戸市a区bc丁目d番e号の同
区役所1階保健福祉部に向かい,同日午前9時30分ころ,同所で,生活保護
に関する相談業務として応対したA(当時53歳)に対し,殺意をもって,持
っていた刃体の長さ約12.3cmのペティナイフ(主文掲記のもの)でその
左側胸部を1回突き刺し,もってAの上記職務の執行を妨害したが,Aに抵抗
された上,同課職員らに取り押さえられるなどしたため,Aに全治約14日間
を要する外傷性左血気胸の傷害を負わせたにとどまり,殺害の目的を遂げなか
った。
第2業務その他正当な理由による場合でないのに,上記日時,場所において,上
記ペティナイフ1本を携帯した。
(証拠の標目)
省略
(争点に対する判断)
1判示の殺人未遂の事実について,弁護人は,被告人には,Aに対する殺意はな
く,傷害罪が成立するにとどまる旨主張し,被告人もこれに沿う供述をしている
ので,以下検討する。
2判示のペティナイフ(以下「本件ナイフ」という。)は刃体の長さ約12.3c
mの先端が鋭利な刃物であり,これによるAの左側胸部の刺創の深さは約8cm
で,それは左肺にまで到達し,左肺に2cmくらいの幅の傷が出来ていたこと,
しかも,本件ナイフの刃先は肋骨に当たって跳ね返された後,角度を下に変えて
肋骨の間を通って肺にまで到達したものであり,もし肋骨に当たらなければ,そ
の刃先は心臓にまで到達して致命傷になったのは確実であることが,いずれも証
拠上認められる。そして,A及びBの各公判供述等によれば,被告人は,判示の
区役所で被告人に応対したAに向かって,上記のとおり殺傷能力が十分な本件ナ
イフを右手に逆手で持ち,受付カウンター越しにいきなりこれを振り下ろしたこ
と,その後,Aは被告人の右腕を両手でつかむなどして必死に抵抗したが,これ
に対して被告人は,本件ナイフの刃先をAに向けた状態のままAの胴体に向かっ
て体重をかけるようにして攻撃を加え続けていたことが認められる。なお,Aの
抵抗に対し,被告人が本件ナイフを持った右腕をAに向かって押し込もうとした
ことがあったことは,被告人自身も認めるところである。
ところで,被告人は,Aの腕を刺す意思しかなく,本件ナイフを順手に持ちA
に示したところ,Aから右腕をつかまれたためこれを振り払おうと右手を前後に
動かすなどしてもみ合う中で,本件ナイフがAの左側胸部に刺さった旨公判廷で
供述しているが,被告人がAから右腕をつかまれた後,少し移動した場所で他の
3人の職員らによって取り押さえられるまで,Aの胴体に対し執ように攻撃を加
え続けていたことは,Bら複数の目撃者の供述から明らかであり,Aの腕を刺す
意思しかなかったとは到底思えないし,被告人の供述する刺突状況は,Aの上記
刺創の状況とも整合しない上,被告人の捜査段階の供述との間でも一貫性がない
など,明らかに信用できない。
3上記2の認定事実によれば,本件ナイフがどの時点でAの左側胸部に刺さった
のかは必ずしも特定できないものの,被告人は,Aの胴体めがけて本件ナイフを
終始力を込めて刺そうとしていたことが明らかというべきである。そうすると,
本件ナイフを身体の枢要部である左側胸部に突き刺すという被告人の行為が,外
形的にみて,人が死ぬ危険性のある行為で,しかもその危険性が高いことは明ら
かである上,被告人においても,そのような行為であると認識しながら本件犯行
に及んだことも認められる。
4以上によれば,本件犯行時において,被告人にAに対する殺意があったことが
認められる。
(法令の適用)
省略
(量刑の理由)
殺人未遂の犯行は極めて危険なものであり,幸い被害者は一命を取り留めたもの
の,これはナイフの刃先がたまたま肋骨に当たって心臓への到達を免れるなどした
からに過ぎない。また,本件犯行は執務時間中の区役所内で敢行されたものであり,
他の職員らが受けた衝撃や抱いた恐怖心は強い上,生活保護行政一般に与える悪影
響も見過ごすことはできない。そして,被害者には被告人から刃物で刺されるよう
な落ち度は認められず,本件犯行の動機は余りに身勝手で短絡的であるのに,被告
人は,自身の金銭管理等の至らなさを顧みることなく,被害者の言動にも問題があ
ったと述べるなど,いまだ被害者に対し真しに謝罪し,本件犯行を心から反省する
には至っていない。そうすると,被告人の刑事責任は重いというべきである。
他方,結果的には,被害者の傷害が治癒するまでの期間は比較的短いものにとど
まり,被害者は本件から約1か月後には他の職場にではあるが復帰をするまで回復
していること,被告人の不遇な生い立ちや境遇がその他罰的な考え方の形成に影響
を与えている可能性を否定できないこと,この判決宣告の翌日にようやく22歳と
なるばかりの若年者であり,その可塑性に期待できることなど,被告人のために酌
むことのできる事情も認められる。
以上の事情を総合考慮して,被告人に対しては主文のとおりの刑を科し,矯正施
設内において生活指導等のほか,教科指導や就労支援指導などを受けさせて,その
更生を図らせるのが相当であると判断した。
(求刑懲役10年,ペティナイフ1本の没収)
平成23年12月22日
神戸地方裁判所第1刑事部
裁判長裁判官細井正弘
裁判官西森英司
裁判官長橋政司

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