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平成 平成14年10月16日 神戸地方裁判所 平成13年(わ)第1382
号,平成14年(わ)第703号 暴行,覚せい剤取締法違反,銃砲刀剣類所持等
取締法違反,盗品等有償譲受け被告事件
        主        文
  被告人を懲役3年及び罰金20万円に処する。
  未決勾留日数中210日をその懲役刑に算入する。
    その罰金を完納することができないときは,5000円を1日に換算した
期間,被告人を労役場に留置する。
    押収してある切出しナイフ1本(平成14年押第16号の1)及び覚せい
剤1袋(同押号の2)を没収する。
        理        由
(犯罪事実)
 被告人は,
第1 平成12年4月27日午後9時40分ころ,大阪府守口市A町a丁目b番c
号付近路上において,Bから,同人が窃取してきた盗品であることを知りながら,
普通乗用自動車1台(時価60万円相当)を代金5万円で譲り受け
第2 平成13年6月20日午後3時55分ころ,京都府福知山市C町d丁目e番
地のf付近路上において,D(当時17歳)が車両の通行方法について文句を言っ
たとして立腹し,同人に対し,右手でその頭髪を引っ張る暴行を加え
第3 法定の除外事由がないのに,同年11月14日ころから同月17日ころまで
の間,大阪府内又は兵庫県内若しくはその周辺において,フェニルメチルアミノプ
ロパンの塩類を含有する覚せい剤若干量を飲用その他の方法により自己の体内に摂
取し,覚せい剤を使用し
第4 業務その他正当な理由による場合でないのに,同月17日午前11時15分
ころ,神戸市中央区E町g丁目h番i号所在の(マンション名省略)4階通路にお
いて,刃体の長さ約6.2センチメートルの切出しナイフ1本(平成14年押第1
6号の1)を携帯し
第5 みだりに,前同日,同区F通j丁目k番l号所在の兵庫県G警察署保安経済
課1号取調室内において,覚せい剤であるフェニルメチルアミノプロパン塩酸塩の
結晶粉末約0.284グラム(同押号の2はその鑑定残量)を所持した。
(証拠の標目)
省略
(補足説明)
1.弁護人の主張は,必ずしも明らかではないが,釈明の結果等を併せ考えると,
要するに,判示第3の覚せい剤自己使用の事実について,①被告人に対する銃砲刀
剣類所持等取締法違反容疑での現行犯逮捕は,被告人の抵抗・逃走のおそれは小さ
かったにもかかわらず,必要以上の実力行使を加えてなされたもので,違法・不当
なものである上,令状に基づく強制採尿をするに当たっては,情理を尽くした説得
を行い,任意の排尿の機会を与える必要があるのに,本件では,十分な説得をして
いない疑いが濃いだけでなく,任意の排尿を申し出ていた被告人に対し,その申出
を無視して令状請求手続を取り,その執行をしたものであり,また,その執行にお
いても,終始手錠をかけ,数名の警察官が手足を押さえつけ,左右の手をねじり上
げた状態でなされたものであるから,その手続には重大な違法があり,このような
手続により取得された鑑定書は,証拠能力がないから,被告人は,無罪であり,②
同事実について作成された被告人の捜査段階の供述調書は,取調べを担当した警察
官から,供述すれば病院に連れていき,保護房からも出し,面会もさせると受け取
れる言葉を聞き,素直に供述すれば執行猶予になるなどと聞かされたため,供述す
ることとし,日時・場所などについては同警察官に話を合わせ,虚偽の事実が記載
された供述証書に署名指印したものであるから,任意性がなく,また,被告人の公
判廷供述と反する部分については,信用性がない,というものと解される。
2.関係各証拠によれば,本件採尿に至る経過として,以下の事実が認められる。
① 被告人は,平成13年11月17日午前10時30分ころから午前11時前
ころまでの間,神戸市中央区E町所在のマンション駐車場やエントランスに入り込
み,大声で独り言のような意味不明の言葉を口走り,棒状のものを持ち出してあた
り構わず振り回すなどしていたことから,付近住民が警察に通報し,警察官が駆け
つけたところ,被告人は,左手に判示第4記載の切出しナイフを持ち,「殺さな殺
されるんや。」などと大声で叫んでいたことから,警察官は,自傷他害のおそれが
あると判断し,被告人の左手をつかみ,被告人の背中を壁に押さえつけるなどして
警察官4人がかりで制圧し,午前11時15分,被告人を現行犯逮捕したが,被告
人は,手錠をかけられていても,首や手足をばたばたさせていた。
② 被告人は,パトカーでG警察署に連行されたが,その言動から,覚せい剤使
用の疑いが濃厚であったため,薬物犯罪捜査を担当する同警察署のH巡査部長が取
調べに当たることになり,同日午後零時30分ころ,取調室に入ったところ,被告
人は,手錠をはめたままいすに座り,大声を出しており,2名の警察官がなだめて
いる状況であり,同巡査部長が,被告人のかばんの中に入っていた覚せい剤につい
て,「これは何だ,君のものか。」と質問したところ,被告人は,「知らんわい,
誰かが勝手にはめたんや。」などと言い,「尿を出してくれるか。」と言うと,
「何で出さなあかんのや。」などと答えた。
③ その後も,被告人には,覚せい剤使用者特有の症状があったことから,同巡
査部長は,説得に限界を感じ,強制採尿令状の請求手続を取り,令状が発付され
た。この間も,被告人は,座ったり立ち上がったりし,大声を出して警察官にたし
なめられたり,いすに座ったままロッカーに足をぶつけたり,あるいは,いすから
転げ落ちた形で,床に座って大声を出すなどしており,そのために,警察官は,被
告人に手錠をかけ,また,一時は足にも手錠をするなどしていた。
④ H巡査部長は,令状の交付を受けた後,被告人に任意の尿提出を説得した
が,被告人は,大声でこれを拒んだことから,令状を示そうとしたところ,被告人
は,「病院に行くのは格好悪いから出しますわ。」と言ったものの,「最後にシャ
ブを一発打たせて下さい。」などと要求したことから,令状を示して強制採尿手続
を取ることを告げると,被告人は,「好きにせい。」などと言った。
⑤ 被告人は,手錠をしたままで警察官6名に伴われて自動車に乗り込み,午後
5時18分,I病院に到着した。被告人は,同病院で,診察台に乗せられる際に
も,若干暴れるそぶりを示したので,4名の警察官が被告人の足を抱えるようにし
て乗せたところ,被告人は,「くそたれがはめたんや。」などと大声を出して体に
力を入れたので,4名の警察官が被告人を押さえ込み,医師の指示で警察官が被告
人のズボンを脱がせて,医師が採尿した。
3.以上認定した事実関係に照らすと,被告人は,覚せい剤の影響が疑われる錯乱
状態で切出しナイフを持って叫んでいたものであり,制圧され,手錠をかけられた
後も,首や手足をばたつかせるなどして抵抗していたのであるから,被告人を現行
犯逮捕するに当たり,ある程度の実力行使を伴うのはやむを得ないところであり,
警察官らにおいて,ことさら必要以上の実力を行使したことはうかがえず,その逮
捕手続に違法・不当な点は見当たらない。
  また,被告人は,G警察署に連行された後も,ロッカーに足をぶつけたり,い
すから転げ落ちて床に座って大声を出すなど,終始,反抗的な態度を続けていただ
けでなく,任意の採尿を促されたのに対し,「何で出さなあかんのや。」などと拒
否的な姿勢を示し,最終的に令状を執行される前には,覚せい剤を使用させるよう
要求するなど極めて不合理な言動をしていたものであって,到底,真摯に任意提出
の意思を示していたとは認められない。被告人は,公判廷において,取調室で,お
しっこがしたくなり,採尿すると申し出ていたと述べ,また,「目の前で一発打っ
たろか。」と言ったが,これは,G警察署に着いた直後に,注射器を見せられた際
に言ったことで,その後は言っていないと述べ,要するに,任意の採尿に応じる意
思があったという趣旨の供述をしている。しかし,被告人は,当時,覚せい剤の影
響により錯乱状態にあったことが認められ,その当時の言動に関する被告人の供述
は,警察官の証言に比べてたやすく信用することができない。なお,本件の採尿
は,被告人に手錠をしたまま,腕や足を4名の警察官が押さえ込んだ状態でなされ
たものであるが,前記のとおりの被告人の言動に照らすと,被告人及び医師の安全
を図るためにやむを得ない措置というべきであり,その執行方法が違法・不当なも
のであったとは認められない。
4.被告人は,公判廷において,取調べに当たったJ刑事に,父親に連絡して弁護
士を付けてもらえるなら付けてもらってくれと言ったが,弁護士には来てもらえな
かったとか,同刑事が蹴った机が自分の足に当たってけがをしたとか,同刑事に,
保護房から出してくれと言うと,まずこちらの言うことを聞いてもらってから,お
前の言うことも聞くと言われ,刑事の言うことを聞かなければ保護房から出られな
いと思ったとか,父親や知人に面会させてくれと言うと,同刑事と留置係が,相互
に向こうと相談しなければいけないなどと言ったことから,刑事の言うことを聞か
なければ面会もできないと思ったとか,あるいは,同刑事らから,言うことを聞い
ておけば覚せい剤の罪については執行猶予だ,銃砲刀剣類所持等取締法違反も罰金
だ,暴行もどうってことないと言われ,同刑事の言うことを聞かなければ,私の希
望も聞いてもらえないと思い,要するに,あきらめの気持ちで調書に署名した,と
いう趣旨の供述をしている。
  しかしながら,被告人の前記供述は,弁護人を依頼できなかったという点は,
結局,被告人の要望を,その父が聞き入れなかったに過ぎず,J刑事に蹴られてけ
がをしたという点は,そのような事実をうかがわせる客観的状況は全くなく,その
他の点も,証人Jの公判供述に比べ総じて信用性に乏しい。それだけでなく,要す
るに,被告人は,覚せい剤を使用したこと自体は争わず,その日時場所が違うとい
うだけであって,しかも,違う日時・場所を供述した理由としては,結局,「取調
べの時は,投げやりになっていた」というに過ぎないのであるから,供述の任意性
には疑いがないものと認め,その検察官(36)及び警察官(26ないし33)に
対する各供述調書を証拠として採用したものである。
  もっとも,判示第3の事実に関する被告人の捜査段階の供述内容は,被告人
が,平成13年11月15日ころ,大阪市西成区の路上に駐車させた普通乗用自動
車内で,覚せい剤を缶コーヒーと共に飲用したというもので,公訴事実に沿うもの
であるが,被告人の指示説明による引き当たり捜査報告書(20)があるほか,こ
れを積極的に裏付けるに足りる客観的証拠はない。他方,被告人は,公判廷では,
同月14日の夜,西成区内の「ホテルK」新館で,覚せい剤を飲んで使用したと供
述しているが,被告人が,同日,同ホテルで宿泊したことを示す証拠はなく,被告
人の公判供述についても,これを裏付ける客観的証拠はない。
  覚せい剤の使用は,もともと人目のないところで行われる犯罪であり,被害者
や被害品もないことから,その場所や方法を認定するには,被告人の供述に多くを
依拠せざるを得ず,本件のように,被告人の供述が捜査段階と公判で変遷し,その
いずれについても客観的な裏付けに乏しい場合には,覚せい剤使用の場所や方法
は,不明とするほかない。
5.以上のとおり,関係各証拠によれば,被告人が,覚せい剤を使用したことは明
らかであるが,その場所・方法を具体的に認定することができないので,変更後の
訴因に沿って,判示第3のとおり概括的な認定にとどめた。
(累犯前科)
 事実
 1 平成6年9月9日神戸地方裁判所で恐喝,同未遂罪により懲役1年10月
(3年間執行猶予・付保護観察,平成8年9月27日猶予取消し)に処せられ,平
成11年7月8日刑その刑の執行終了
 2 1の刑の執行猶予中に犯した脅迫,覚せい剤取締法違反罪により平成8年7
月11日京都地方裁判所福知山支部で懲役1年2月に処せられ,平成9年10月7
日その刑の執行終了
 証拠
  各裁判の判決書謄本(調書判決を含む。)及び前科調書
(法令の適用)
罰       条
  判示第1の行為  刑法256条2項
  判示第2の行為  刑法208条
  判示第3の行為  覚せい剤取締法41条の3第1項1号,19条
  判示第4の行為  銃砲刀剣類所持等取締法32条4号,22条
  判示第5の行為  覚せい剤取締法41条の2第1項
刑 種 の 選 択  懲役刑選択(判示第2,第4)
累犯加重  刑法56条1項,57条(再犯の加重)
併 合 罪 加 重  刑法45条前段,47条本文,48条1項,10条,14
条(懲役刑につき,刑及び犯情の最も重い判示第5の罪の刑に加重。判示第1の罰
金刑を併科。)
未決勾留日数の算入  刑法21条
労 役 場 留 置  刑法18条
没       収  刑法19条1項1号,2項本文,覚せい剤取締法41条の
8第1項本文
訴訟費用刑事訴訟法181条1項ただし書
(検察官大野雅祥 出席)
  平成14年10月16日
    神戸地方裁判所第4刑事部
          裁判官  笹  野  明  義

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