弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


戻る

○ 主文
原告が学校法人P23大学理事の仮の地位にあることの確認を求める訴えを却下す
る。
その余の訴えにつき、原告の請求をいずれも棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
○ 事実
第一 申立て
一 原告
(一) 1 (主位的に)被告が昭和三八年八月二二日学校法人紛争の調停等に関
する法律にもとづき原告に対してした学校法人P23大学の理事および評議員の解
職処分は無効であることを確認する。
2 (予備的に)前項の解職処分を取り消す。
(二) 原告が学校法人P23大学理事の仮の地位にあることを確認する。
(三) 訴訟費用は被告の負担とする。
二 被告
(一) 原告の(一)の請求をいずれも棄却する。
(二) 原告や(二)の訴えを却下する。
(三) 訴訟費用は原告の負担とする。
第二 主張
一 原告の請求原因
(一) 原告は、昭和三八年八月当時補助参加人学校法人P23大学(以下、補助
参加人あるいは学校法人P23大学という。)の理事および評議員をしていたとこ
ろ、被告は、同月二二日学校法人紛争の調停等に関する法律(昭和三七年法律第七
〇号、以下、本件調停法という。)一〇条四項にもとづき原告に対し右理事および
評議員を解職する旨の処分をした(以下、本件解職処分という。)。
(二) しかしながら、本件解職処分は次に述べる理由により無効である。
(1) 本件調停法は憲法二二条一項に違反し無効であるから、本件解職処分も無
効である。
本件調停法一〇条は、学校法人紛争調停委員による調停が成立しなかつた場合等に
おいて、当該学校法人に対し右調停の当事者であつた役員または評議員を解職すべ
きことを勧告し、あるいは右役員または評議員に対し辞職すべきことを勧告する権
限を所轄庁たる被告に与えるとともに(同条一、二項)、右勧告が実現されない場
合には、「当該学校法人の正常な管理及び運営を図るため他に方法がないと認める
とき」という要件のもとに右勧告にかかる者を解職する権限を被告に与えている
(同条四項)。
ところで、憲法二二条一項は職業選択の自由を保障しているが、学校法人の理事ま
たは評議員が行政権によりみだりにその地位を奪われないことも職業選択の自由に
含まれるというべきである。すなわち、国家資本によつて事業の経営が行なわれて
いる場合は格別、そうでない場合には(学校法人P23大学もこの場合にあた
る。)、役員間に紛争が生じたり、あるいは役員の事業経営が下手だからといつ
て、行政権によりその役員の地位を奪うことは許されないのである。仮に、私立大
学の経営に公共性があるとしても、それは国家事業を行なうような意味の公共性で
はなく、いわゆる社会的公共性にすぎないから(この意味において国家が私立大学
の経営に補助金を与えるのは憲法八九条に、違反する。)、行政権が私立大学の経
営機構に干渉することは許されず、また、仮に、その公共性の故にある程度国家の
監督が及ぶことを認めるとしても、行政権が私立大学の理事等の地位に干渉しうる
のは、その者が法律に違反したとか、あるいは不正行為をしたとかいう場合に限ら
れるべきである。
したがつて、本件調停法一〇条四項は、憲法二二条一項の保障する職業選択の自由
を侵害するものであつて、無効というべきである。
(2) 本件調停法は、学校法人P23大学の紛争にのみ適用する旨の黙約のもと
に制定された特殊立法であつて、このように単一事件の解決のみに資するものは憲
法で認められた法律とはいえないから、無効である。したがつて、本件調停法にも
とづく本件解職処分も無効である。
(3) 本件調停法一〇条四項は、学校法人の理事ないし評議員が紛争の解決を訴
求し、すでに裁判所の判断が示されている場合には、適用されないものと解すべき
である。
ところで、原告は、学校法人P23大学を被告として、原告が同大学の理事および
理事長の地位にあることの確認を求める訴えを提起し、本件解職処分当時、右事件
は名古屋高等裁判所に係属しでいたものであり(昭和三七年(ネ)第六三四号、以
下、この事件を本件名古屋高裁事件という。)、また、名古屋地方裁判所は昭和三
五年一〇月二一日原告が学校法人P23大学の理事の地位を有することを本案判決
の確定に至るまで仮に定める旨の判決をし、これにより原告は理事の地位を保全さ
れていた(以下、この判決を本件地位保全判決という。)。さらに、原告は、学校
法人P23大学の理事長として、P23大学学長Aを相手に同人の収受した学校法
人P23大学の入学金や授業料等の金員を裁判所の選任する管理人へ引き渡すこと
などを求める仮処分を申請したところ、名古屋地方裁判所は、昭和三七年四月六日
Aに対し、同人が収受し、保持する学校法人P23大学関係の受験料、入学金、授
業料等の金員を同裁判所が別に選任する管理人に引き渡すこと、いかなる名義をも
つてするを問わず、また、何人よりするを問わず、受験料、入学金、授業料等の金
員を収受し、借り入れてはならないことなどを命ずる判決をした(以下、この判決
を本件管理人引渡判決という。)。
このように、原告は、学校法人P23大学の紛争を裁判により解決するため右に述
べたような裁判を求め、すでに本件地位保全判決や本件管理人引渡判決において裁
判所の判断が示されていたのであるから、本件調停法一〇条四項は適用の余地がな
いのである。したがつて、本件解職処分は何ら法的根拠なしになされたものである
から、無効である。
(4) 本件解職処分は、憲法三二条および七六条二項後段に違反し、無効であ
る。
学校法人P23大学の紛争は理事者間における同大学の管理運営に関する紛争であ
つたが、その根本は誰が正当な理事であるかにかかつていた。そこで、原告は、右
根本の紛争を裁判によつて解決することを求め、裁判所の判断に従うことを提唱
し、右(3)において述べたようにいくつかの民事訴訟を提起したのである。すな
わち、本件解職処分当時、本件名古屋高裁事件が係属しており、また、すでに本件
地位保全判決や本件管理人引渡判決において裁判所の判断が示されていたのであ
る。しかるに、被告が本件解職処分をしたため、同処分にはいわゆる公定力がある
ので、本件名古屋高裁事件における訴訟物である原告の学校法人P23大学の理事
たる地位は一応喪失せしめられることになり、その結果、右事件における原告の請
求は棄却されるほかなくなり、ここに、原告の民事裁判を受ける権利は本件解職処
分により奪われてしまつたのである(もつとも、現実には、本件解職処分がなされ
た直後に名古屋高等裁判所より判決言渡期日の指定を受けたので、原告は請求が棄
却されることは必至であるとみて昭和三八年一一月七日に本件名古屋高裁事件の訴
えを取り下げた。)。すなわち、本件解職処分は、何人も裁判所において裁判を受
ける権利を奪われないことを保障する憲法三二条に違反するとともに、行政機関で
ある被告が学校法人P23大学の理事の地位の存否に関し終局的に判断を与えたこ
とになり、行政機関は終審として裁判を行なうことはできないとする憲法七六条二
項後段に違反する。のみならず、本件解職処分は、原告の学校法人P23大学の理
事および評議員たる地位を奪うものであるから、それは本件地位保全判決や本件管
理人引渡判決において示された裁判所の判断と矛盾し、これを踏みにじるものとい
わなければならない。学校法人P23大学の紛争のうち根本的なものは、前記のと
おり、誰が正当な理事であるかというきわめて司法的解決に親しむ事項であり、か
かる事項について裁判所の判断がすでに示されている場合には、行政機関は裁判所
の判断を尊重し、右判断の線に沿つてその権限を行使すべきである。しかるに、本
件解職処分は、これに反し、裁判所の判断を踏みにじるものであつて、司法権を侵
すものといわなければならない。
(5) 憲法三一条において規定するいわゆる適正手続の保障の精神は行政手続に
も及ぼされるべきである。学校法人における正当な理事は誰であるかという紛争に
ついて裁判所に民事訴訟が係属し、すでに裁判所の判断が示されている場合にも仮
に本件調停法一〇条四項が適用されうるとしても、それは同法制定後に民事訴訟が
提起された場合に限り許されるべきである。そうではなく、本件調停法制定当時す
でに民事訴訟が提起されていた場合にも、同法一〇条四項の適用が許されるとすれ
ば、それは、民事紛争の解決については裁判権が至上であると考えて民事訴訟を提
起した国民に対し右一〇条四項を遡及的に適用することにほかならず、それは憲法
三一条の精神に違反するといわなければならない。
(6) 本件解職処分は憲法二九条に違反するので、無効である。
何人も正当な補償なしにその財産権を侵害されることのないことは憲法二九条の保
障するところである。原告は学校法人P23大学の理事および理事長として月額一
〇万円の報酬請求権を有していたのであるが、かかる報酬請求権をともなう理事な
いし理事長の地位は憲法二九条において保障する財産権に含まれるものと解すべき
である。ところで、本件解職処分は原告の学校法人P23大学の理事たる地位を失
わしめるものであるが、それが公共の福祉のために有効とされるならば正当な補償
がなされなければならないにもかかわらず、原告には何らの補償も与えられていな
いので、結局、本件解職処分は憲法二九条に違反するといわざるをえない。
(7) 本件解職処分は、その手続が違法であるので無効である。
(ア) 本件調停法は、学校法人紛争が生じ、これにより学校法人の正常な管理お
よび運営が行なわれなくなり、かつ、そめため当該学校法人が法令の規定に違反す
るに至つた場合には、まず、学校法人紛争調停数員による調停を行ない、調停が成
立しなかつた者については解職または辞職勧告を経たのち、当該学校法人の正常な
管理および運営を図るため他に方法がないと認められるどきに解職することができ
る旨規定している。ところで、本件解職処分に先立つて行なわれた調停は、調停委
員の人選、調停委員会の運営ならびに調停案の内容のいずれの点においても違法で
ある。すなわち、被告が学校法人P23大学の紛争の調停のため任命した調停委員
はB、C、DおよびEの四名であるが、いずれも同法人の紛争に利害関係を有する
ものであつて、公正な第三者とはいえない。また調停委員会の運営は常に文部省管
理局長により指導され、調停委員独自の判断や行動はなされず、各調停委員が原告
に面会した時間は合計二時間を出ないのである。さらに、調停案の内容は、本件地
位保全判決や本件管理人引渡判決を踏みにじり、P23大学学長Aを責任者とする
教授団、職員および学生の各代表者からなる三者審議会による経営の違法な管理を
是認する結果になるとともに、後記のようなF一派による学校法人P23大学の敷
地予定地であつた国有土地の払下げ・転売の不正行為を隠ぺいするものであつた。
このように、本件解職処分に先立ち行なわれた調停は違法であるから、右処分は無
効である。
(イ) 右(ア)において述べたように、本件調停法一〇条四項にもとづく解職を
するにはこれに先立ち解職または辞職の勧告を経ているわけであるが、右勧告にあ
たつては私立大学審議会の意見をきかなければならないこととされている。本件解
職処分にあたつても、これに先立ち私立大学審議会の意見がきかれたが、右審議会
の組織、運営、諮問の内容のいずれにおいても違法の要素がある。すなわち、私立
大学審議会の委員はいずれも被告の意のままになる者ばかりで、公平な第三者とは
いえず、右審議会の審議は密行され、原告には弁明の機会が与えられず、被告提出
の資料のみにもとづいて審議が行なわれ、また、右審議会への諮問にあたり、何故
本件地位保全判決や本件管理人引渡判決に従つた解決方法はとりえないのか、ある
いはP23大学学長Aを責任者とする三者審議会がどのような不正行為をしている
のかなどといつたことについてまつたく説明がなされなかつた。このように、私立
大学審議会への諮問は違法になされたから、本件解職処分は無効である。
(8) 本件解職処分は、学校法人P23大学の正常な管理および運営を図るため
解職以外にも方法があるのになされたものであるから、無効である。
すなわち、本件解職処分当時すでに本件地位保全判決や本件管理人引渡判決がなさ
れていたのであるから、被告としてはまずこれらの判決に従い、その内容の実現に
努力するという方法があつたはずである。さらに、原告は名古屋簡易裁判所に民事
調停の申立てをしていたので、右調停により紛争を解決するという方法があつたは
ずである。しかるに、原告の解職以外には方法がないとした被告の判断は誤りであ
り、本件解職処分は無効である。
のみならず、Gは、昭和三八年七月に文部大臣に就任したが、その後わずか三週間
たらずで本件解職処分をしたのであり、本件調停法一〇条四項に定める解職の要件
である他に方法がないかどうかについて十分に時間をかけ、自ら慎重に判断すると
いうことをせず、もつぱら下僚の意見を鵜呑みにしたものであつて、その判断の方
法は違法である。さらに、本件解職処分の通知書には何故解職以外に方法がないと
判断したかの理由が示されておらず、ことに原告自身の非行が示されていないので
あつて、被告の判断は恣意的といわざるをえない。
このように、本件解職処分は、本件調停法一〇条四項に定める解職の要件がないの
になされたものであり、さらに、右要件の判断の仕方が恣意的であるから、無効で
ある。
(9) 本件解職処分は、公序良俗に違反し、無効である。
(ア) 学校法人P23大学の沿革
学校法人P23大学は、第二次大戦前Hが経営していた理工科専門学校が戦後急速
に膨張し、昭和二四年に財団法人P23大学に組織を改め、私立学校法の施行にと
もない昭和二六年三月に学校法人となつたものであり、Hが当初の理事長であつ
た。学校法人P23大学には大学院、大学、短期大学、付属高等学校等が設置され
ており、大学は法商学部、理工学部、薬学部、農学部が設けられている綜合大学で
ある。
(イ) 学校法人P23大学紛争の経過
昭和二九年一一月ごろ学校法人P23大学に第一次紛争が発生した。紛争は、表面
的には、H理事長が法学部を東京へ進出させる計画を独断専行しようとしたことに
対する批判として起こり、理事会もHを支持する派(以下、H派という。)とこれ
に反対する派(その筆頭はFである。以下、F派という。)に分裂した。この第一
次紛争は、昭和三三年八月両派間に私法上の和解が成立して解決するに至つたが、
その間、Hが一時理事長を辞任するといつたこともあり、また、両派から互いに民
事訴訟の提起や仮処分の申請がなされ、名古屋地方裁判所において理事長の職務執
行停止や理事長の職務代行者選任の仮処分がなされたりした。この間、原告はH派
に属し、一貫してHを擁護した。右私法上の和解の内容は、Hを理事長に推すこ
と、H派の理事はそのまま理事になるとともに、F派(もつとも、Fは表面より退
き、教授団が表面に出て来ていた。)の推す理事も二名認めること、過去のことは
水に流す方針をとり、愛学の精神に出でた行為はこれを罰せずとの声明書を出すこ
とというものであつた。
第一次紛争解決後、しばらくして、学校法人P23大学の理事者間に、表面的には
紛争中の事務の後始末の方法や学校運営の方法をめぐつて意見の対立が生じた。す
なわち、H派は、声明書にいう愛学の精神に出でた行為はこれを罰せずとの趣旨は
過去の一切の不正行為の責任を問わないという趣旨ではなく、不正行為ことに刑事
犯罪にふれる行為の責任はこれを追及しうるものと解し、これを追及しようとし
た。これに対し、Hの息子Iを中心とする派(以下、I派という。)およびF派は
反対した。また、Hはかねてより農学部のあつた愛知県春日井市<以下略>の鷹来
工廠跡へ大P23建設の理想を抱いていたが、たまたま大学本部等のあつた名古屋
市昭和区<以下略>の敷地について明渡訴訟を提起され、転借していた学校法人P
23大学が敗訴したのを機会に、大学本部等を鷹来工廠跡へ移転する計画を推し進
めようとした。これに対して、AP23大学長を中心とする教授団は猛烈に反対
し、H理事長の退陣を要求した。そこで、H理事長は、昭和三四年七月一七日A学
長の学長たる地位を罷免するとともに、同月二六日ごろIらの理事を解任し、さら
に、H理事長の退陣を要求した二〇名位の教職員を解雇した。ここに、第二次紛争
が発生するに至つた。第二次紛争は全学的な規模で行なわれ、対立抗争する各派よ
り互いに民事訴訟の提起や仮処分の申請が行なわれた。昭和三四年一一月には教授
会、職員組合および学生会の各代表よりなる三者審議会が結成され、同会がP23
大学の経営を違法に管理するに至つた。すなわち、学生は授業料等の延納を決議
し、これに相当する額を愛知労働金庫に預金し、この預金を担保に同金庫より三者
審議会が金員を借り入れ、教職員の給料等に支出した。Hは、これに対抗するた
め、一時従来の主義主張を捨て各派の理事会の大合同を図ろうとしたが、その結
果、原告と意見の衝突を生じ、原告の理事長たる地位を解任する挙に出たりした
が、昭和三五年一一月一一日にHが死亡した後は、原告がHの従来の主義主張を承
継した。その主義主張とは、まず経理の不正を追究し、これを正常明白な状態にお
くこと、紛争の解決はすべて法的手段にのみ訴え、裁判所の判断に従うこと、さら
に自主独立の精神をもつて建学の業にあたることであつた。とくに、原告は、本件
管理人引渡判決や本件地位保全判決に従うことを紛争解決の要として強調した。し
かるに、三者審議会と結託したI派およびF派はまつたくこれに従おうとしなかつ
た。
(ウ) 国有土地の払下げ・転売
学校法人P23大学の紛争は、第一次および第二次紛争を通じ、これを表面的に観
察すれば、右に述べたように同法人の管理運営の方法をめぐる理事者間の、そして
さらには教職員をも巻き込んだ紛争としてとらえることができるのであるが、この
紛争の真相は、F派による国有財産の払下げ・転売による不法利益の追求とその障
害となるH派の排斥にあり、さらにはF派による学校法人P23大孝の乗取りにあ
つたのである。
すなわち、Hはかねてより愛知県春日井市<以下略>所在の旧鷹来工廠跡地約二二
万坪を綜合P23大学の建設予定地と見立て、関係官庁等に懇請嘆願した結果、学
校法人P23大学は昭和二六年四月には右跡地の南北両側合計約八三、〇〇〇坪を
国(東海財務局)より借用することができ、ここに農学部が設置された。その後、
右鷹来工廠跡地に薬学部を設置することを計画し、被告の認可もえ、さらに、昭和
三四年にはP23大学の本部等を右鷹来工廠跡地に移転する計画を推し進めようと
した。
しかるに、右鷹来工廠跡地全部(学校法人P23大学においてすでに借用していた
農学部の敷地をも含めて)の払下げを受け、利益をえようと目論む者がいた。それ
は、ほかならぬFであり、同人を中心とするF派であつた。F派は、右計画を実現
するためには、まず、学校法人P23大学の鷹来工廠跡地への集結計画を破壊する
必要があつたのであり、そのために同法人に紛争を起こさせ、さらには右集結計画
を理想としてこれを実現しようとするH派を排斥し、同法人の経営権を掌握する必
要があつたのである。そして、まず、F派は、第一次紛争中である昭和三〇年に薬
学部の教授団と結託し、被告の認可まで受けていた薬学部の設置場所を新たな認可
ないし認可の変更を受けることなく鷹来工廠跡地から名古屋市昭和区天白町八事に
変更し、そこに薬学部の校舎を建設してしまつた。校舎建築の申請をしたのは農学
部長であり、これを許可したのはE愛知県知事であり、建築工事を請け負つたのは
学校法人P23大学の理事長代理をしていたJであつた。次に、F派は、大学本部
等の鷹来工廠跡地への移転計画を破壊すべく、教授団と結託し、教授団をして右計
画に猛烈に反対させるとともに、H理事長退陣要求運動を起こさせ、同理事長によ
るA学長を始めとする二〇名ほどの教職員に対する罷免、解雇を行なわせ、ここに
第二次紛争を発生させるに至つた。そして、昭和三五年八月には、国有財産東海地
方審議会において、鷹来工廠跡地のうち中央部分の約一一万坪をFが代表取締役を
していた東洋プライウツド株式会社へ払い下げることが決定され、その後、昭和三
八年一月に第一次分約八万坪が、同年五月には第二次分約三万坪がいずれも同会社
へ払い下げられた。ところで、同会社は右第二次分約三万坪の払下げを受けるや二
週間後にはその子会社を通してこれを松下電器株式会社へ転売し、一〇億円にのぼ
る利益をみた。
(エ) 本件調停法の制定
ところで、この間、H派ことに原告は、三者審議会による経営の違法管理を正常に
戻し、不正行為の責任を問うとともに、司法的手段(裁判)により紛争を解決する
ことを提唱し続けた。F派およびこれと結託した三者審議会の教授団は、原告の正
論に耳をかさず、数多くの司法権無視の行為(裁判所の仮処分判決に従わず、これ
を無視した行為)に出たばかりでなく、経営の違法な管理によつてえた不正な資金
等を使つて文部官僚や議員団へ働きかけた。そして、その結果、ついに昭和三七年
四月四日本件調停法が制定されるに至つたのである。本件調停法の内容は、学校法
人紛争を解決するために学校法人紛争調停委員による調停制度を設けるとともに、
調停不成立の場合に被告に理事の解職権を与えるというものであつた。法文の形式
上は一般的な法律として制定されてはいるが、その制定にあたつては学校法人P2
3大学の紛争についてのみ適用するものであることが公然と密約され、しかも限時
法とされているのであつて、それは、F派による国有財産(鷹来工廠跡地)の取得
を確実にするとともに学校法人P23大学経営の違法管理を隠ぺいするため、H派
を排斥すること、ことに原告を解職することを当初からの目的として制定されたも
のであつた。それ故、被告は、本件調停法の制定にあたり国会に対してした提案理
由の説明のなかで、F派および教授団による経営の違法管理を秘匿し、本件地位保
全判決や本件管理人引渡判決においてすでに裁判所の判断が示されていたにもかか
わらず、いまだこれが示されていないかのように説明し、あたかも原告が不正行為
をしているかのように印象づけているのである。
(オ) 本件解職処分の断行
昭和三七年六月ごろ本件調停法にもとづく調停が開始された。そして、昭和三八年
六月二一日調停案が発表されたが、その主な内容は、役員、評議員および学長はす
べて辞任し、被告において仮理事を選任すること、紛争の中心的役割を果たしてき
たと思われる教授については仮理事会において進退を決すること、三者審議会は調
停委員の指定する日に解散し、入学金や授業料等の金員はすべて裁判所の選任した
管理人へ引き渡し、同人はこれを仮理事会に引き継ぐこと、Hの遺族に対しては特
別の優遇方法を講ずることなどであつた。この詞停案に対し、多くの者は力つきて
これを受諾するに至つたが、正論の士である原告やKらはこれを受諾しなかつた。
そこで、ついに同年八月二二日本件解職処分がなされるに至つた。
(カ) 公序良俗違反
本件解職処分は、F派による鷹来工廠跡地の払下げ・転売による不正利得および教
授団(三者審議会)による経営の違法管理にもとづく不正利得を隠ぺいするととも
にF派による学校法人P23大学経営権の収奪(乗取り)を表現するために、なさ
れたものである。このことは、本件解職処分後、被告は七名の仮理事を選任した
が、そのうちの五名が鷹来工廠跡地の払下げ・転売の一派であつたこと(すなわ
ち、Fは払下げを受けた東洋プライウツド株式会社の代表取締役、Zは同会社のも
と嘱託、Lは払下げを決定した国有財産東海地方審議会会長、EおよびMは同会委
員であつた。)からも明らかである。
このように、本件解職処分は不法な目的のためになされたものであの、しかも前記
(4)において述べたように本件地位保全判決や本件管理人引渡判決を無視し、司
法権を侵害するものであるから、それは公序良俗に違反し、無効であるといわなけ
ればならない。
(三) 本件解職処分が無効であることは右(二)において述べたとおりである
が、仮に無効とはいえないとしても、取消事由たる瑕疵にはあたると解すベきであ
る。
(四) 本件地位保全判決がなされ、原告が学校法人P23大学の理事の地位を仮
に定められていたことは前記(二)の(3)において述べたとおりである。ところ
で、右仮の地位は本件解職処分がなされたことによりただちに喪失せしめられるも
のではない。しかるに、被告は、原告が学校法人P23大学の理事の地位にあるこ
とを認めず、理事が欠けたとして仮理事の選任等の行為に出ているのである。
(五) よつて、被告に対し、本件解職処分が無効であることの確認と原告が学校
法人P23大学理事の仮の地位にあることの確認を求め、本件解職処分の無効確認
請求が認められない場合の予備的請求として同処分の取消しを求める。
二 被告の本案前の主張
原告の訴えのうち原告が学校法人P23大学理事の仮の地位にあることの確認を求
める訴えは、次の理由により不適法である。
(一) 原告の右理事の仮の地位確認請求における訴訟物は私立大学の設置を目的
としている学校法人P23大学の理事の地位であり、それは原告と同法人との間に
おける私法上の法律関係である。被告は国の行政機関にすぎず、私法上の法律関係
の確認を求める訴えについては当事者能力を有しない。
(二) そればかりでなく、法律関係の直接の当事者でない第三者に対して右法律
関係の確認請求を維持するためには、原告においてこれを維持しなければならない
格別の利益を有することが必要であるが、原告は理事の仮の地位の確認を補助参加
人たる学校法人P23大学に対して求めれば足りるのであつて、被告に対し右確認
請求を維持する格別の利益を有しないことは明らかである。したがつて、右確認を
求める訴えは訴えの利益を欠くものというべきである。
(三) 本件解職処分が無効とされまたは取り消された場合には、同処分がない状
態が確認されあるいは同処分がなかつた状態に復帰するのである。したがつて、原
告の理事の仮の地位確認請求における究極の目的は、本件解職処分の違法性を争う
ことによつて達せられるはずのものであるところ、原告は右違法性を争い右処分の
無効確認請求(予備的に、取消請求)を提起しているのであるから、これと重複し
て理事の仮の地位の確認を請求することは、原告にとつて事実上および法律上何ら
の利益を与えるものでもない。したがつて、右理事の仮の地位確認の訴えは訴えの
利益を欠くというべきである。
三 請求原因に対する被告の答弁および主張
(一) 請求原因日の事実のうち、被告が本件解職処分をしたことは認めるが、そ
の余の事実は知らない。
(二) 請求原因(二)の(1)の事実のうち、本件調停法一〇一条が原告主張の
ような内容であることは認めるが、同条四項が憲法二二条一
項に違反し無効であるとの主張は争う。
憲法が国民に保障する基本的人権は決して無制限に認められるものではなく、常に
公共の福祉による制約を免れえないのである。職業選択の自由についても同様であ
つて、憲法の条文自体において公共の福祉による制約を明記しているのである。と
ころで、学校法人の設置する学校、すなわち私立学校がわが国の学校教育において
重要な一翼をにない、その特色ある教育と伝統ある学風によつて教育文化の進展に
多大の貢献をなしてきたことは衆知の事実であり、私立学校が極めて公共性め高い
存在であることはいうまでもないところである。このように私立学校が公共性の高
い存在であつてみれば、その経営主体たる学校法人の役員または評議員の間に当該
学校法人の管理および運営についで紛争が生じ、このため学校法人の正常な管理お
よび運営が行なわれなくなり、かつ、そのため当該学校法人が法令の規定に違反す
るようなことになると、公共の福祉のうえからゆゆしいことである。ことに、学校
法人P23大学における紛争は、大学の管理運営に関する意見の対立に端を発し昭
和二九年に発生したか、さらに役員の地位、権限をめぐる争いに発展し、他面理事
者と教職員団とが相対時する情勢をも招くに至つた。その後、昭和三三年に和解に
よつて一たん解決をみたが、わずか一年を出でずして再燃し、紛争が激化、長期化
するにしたがい大学の公共性に照らしもはや放置できない段階に達するに至つた。
それにもかかわらず、紛争関係者による自主的な解決は裁判手続による解決をも含
めてほとんど見通しが立たなかつたので、被告としでは私立学校法六二条による解
散を行なうほかなかつた。しかし、解散となると社会的影響がはなはだ大きく、解
散に至る前に何とか紛争を解決することが強く要望され、そのためには新しい立法
がどうしても必要となつた。そこで、被告は、学校法人運営調査会(私学関係者一
三人、国・地方公共団体の職員三人、学識経験者四人の合計二〇人から構成されて
いた。)の答申のうち「調停制度を設けること」との部分をとり入れて、本件調停
法を制定したのである。本件調停法は、まず調停委員による当事者間の斡旋を行な
い、合意による紛争の解決に努め、あるいは調停委員の作成する調停案を当事者に
示して受諾を勧告するなどの調停による紛争の解決を図つている(同法三条ないし
九条)。そして、調停によつては紛争が解決せず、紛争にかかるある役員または評
議員を解職しなければ当該学校法人の正常な管理および運営を図ることができない
と認められるときは、予め、当該役員または評議員に弁明の機会を与え、かつ、私
立学校審議会等の意見を聞いたうえで、被告は当該学校法人に対し右の者を解職す
ることを勧告し、あるいは直接右の者に対し辞職することを勧告できることとして
いる。そして、右の者が解職されずあるいは辞職しない場合において、当該学校法
人の正常な管理および運営を図るため他に方法がないと認められる場合に初めて被
告に右の者を直接解職することを認めている(同法一〇条)このように、本件調停
法は慎重な手続を経たうえで、しかも最後の手段として学校法人の役員または評議
員の解職な認めているのであつて、学校法人P23大学におけるように紛争が激
化、長期化し、正常な管理運営を回復するため他に方法がない場合には、右解職も
私立学校の公共性、すなわち公共の福祉のうえからまことにやむをえない措置とい
わなければならない。したがつて、本件調停法一〇条四項は憲法二二条一項に違反
するものではない。
なお、原告は国家が事業の経営に出資していない場合には行政権によりその役員を
解職することは許されない旨主張するが、国家が役員を直接解職する権限を有する
かどうかは、当該事業に対し国家が出資しているかどうかによつて決まるものでは
なく、もつぱら事業の有する公共性に着眼し、公共の福祉のため直接に解職する必
要があるかどうかによつて決まるのである。このことは、地方鉄道法三七条、軌道
法二七条、輸出入取引法三二条の一〇、中小企業団体組織に関する法律六七条等に
おいで行政権による役員の直接解職を認めているが、当該事業には国家は何ら出資
していないことからも明らかである。
(三) 請求原因(二)の(2)の事実および主張は争う。
本件調停法は学校法人P23大学紛争の解決に資することを主たる目的として立法
されたものではあるが(それ故右紛争に本件調停法を適用して解決するために要す
る期間を二年と見込んで、二年間の時限立法とされた。)、その適用が右紛争にの
み限定されるものではなく、当時本件調停法三条に規定するような学校法人紛争が
存在したとすればもちろんそれにも適用されるはずのものであつた。のみならず、
仮に本件調停法が原告主張のように学校法人P23大学紛争の解決のみを目的とし
た立法であるとしても、何ら憲法に違反するものではなく、一つの案件のみを解決
するための法律の制定も立法府の自由に委ねられているのである。
(四) 請求原因(二)の(3)の事実のうち、本件解職処分当時、本件名古屋高
裁事件が係属しており、本件地位保全判決や本件管理人引渡判決がなされていたこ
とは認めるが、その余は争う。
(五) 請求原因(二)の(4)の事実のうち、本件解職処分により原告の学校法
人P23大学における理事たる地位が一応喪失せしめられたことおよび原告が本件
解職処分後本件名古屋高裁事件の訴えを取り下げたことは認めるが、その余は争
う。
(1) 本件名古屋高裁事件は原告の訴えの取下げにより終了したものであつて、
本件解職処分により終了したものではないから、同事件における原告の裁判を受け
る権利が本件解職処分により侵害される旨の原告の主張は失当である。
(2) 被告は、学校法人P23大学の紛争が長期にわたり、かつ、深刻となつ
て、学校の有する公共性に照らし、もはや放置できない段階に達したと認められた
ので、同法人の正常な管理運営を図るための措置として、本件調停法にもとづき本
件解職処分を行なつたものである。もともと、同法人の紛争には法律的紛争ととも
に非法律的紛争も多く含まれているところであるが、本件解職処分は、それらの紛
争の一切を考慮して、同法人の正常な管理運営を図るための必要最少限度の措置と
して行なわれたものである。それは、裁判所に係属する法律的紛争について、裁判
所に代つて事実を確定し、当事者の主張する権利義務の存否を確定するというよう
に、いわゆる裁判を行なうものでは決してない。それとは別の角度から、すなわ
ち、右に述べたように同法人の正常な管理運営をはるために郎された行政措哲たの
である。したがつて、本件解職処分を目して行政庁たる被告が最終的に裁判を行な
つたものとし、憲法七六条に違反するとの原告の主張は失当である。また、このよ
うな本件解職処分の結果として、たまたま係属中の訴訟が訴えの利益を失い、その
ため本案について裁判を受けることができなくなつたとしても、それは訴えの利益
の喪失に伴う当然の結果にすぎず、これをもつて裁判請求権が侵害されたと主張し
うる筋合のものではない。もし、訴えの利益を違法に喪失せしめられたというので
あれば、そのこと自体を争えば足り、本件解職処分についても、これに不服がある
者はこれを争えばよいわけであつて、この場合に、本件解職処分の結果他の訴訟の
訴えの利益が失われることを本件解職処分の違法または無効事由として主張するこ
とは本末転倒の議論というほかない。
このことは、被告が私立学校法六二条にもとづきP23大学に対し解散を命ずる場
合を仮定してみれば容易に理解しうるところである。すなわち「この場合、理事の
地位の確認を求める訴訟が係属しているときは、解散により通常その訴えの利益が
失われるので、原告の主張に従えば、被告はどのような事態になろうとも解散を命
ずることができないことになるのであり、このような結果が不合理であることは多
言を要しない。したがつて、本件解職処分が本件名古屋高裁事件における原告の裁
判を受ける権利を侵害した旨の原告の主張は失当である。
(3) 原告は、本件地位保全判決によつて保全された原告の理事たる地位を解職
することはすでに示された裁判所の判断を踏みにじり、司法権を侵害するものであ
る旨主張する。しかしながら、原告の右主張の根底には、一たん仮処分で理事の地
位が保全されると、以後、何人も理事の地位に対して一指も触れられなくなるとい
うことを前提としているのではないかと思われるが、その前提は誤りであり、地位
保全の仮処分にはかかる効果は生じないのである。ことに、本件地位保全判決は、
原告の理事たる地位を解任する旨の理事会の決議の効力について争いがあり、果し
て原告が学校法人P23大学の理事の地位にあるのか否か不明であつたので、暫定
的に原告が理事の地位にあるものと定めたにすぎず、すなわち、原告が理事会の決
議前に有していた理事の地位を暫定的に確認したにすぎず、それ以上に別個の新し
い地位を創設したものでは決してないのである。本件地位保全判決の効力がこのよ
うなものであるとすれば、被告、が本件解職処分をすることは何ら差し支えなく、
まして司法権侵害の問題を生ずる余地はまつたくないといわなければならない。
(4) 原告は、本件解職処分は本件管理人引渡判決において示された裁判所の判
断を踏みにじり、司法権を侵害するものである旨主張する。しかしながら、本件解
職処分は原告の学校法人P23大学における理事たる地位を解職するものであつ
て、Aに対し裁判所の選任した管理人に入学金や授業料等の金員の引渡し等を命ず
る本件管理人引渡判決とは直接には何らの関係をももたないものであるから、原告
の右主張は失当である。
(5) なお、司法権の侵害によつて被害を被むるのは国家であつて、原告ではな
いから、司法権を浸害するので本件解職処分は憲法に違反する旨の主張は、主張自
体理由がないといわなければならない。
(六) 請求原因(二)の(5)の主張は争う。
そもそも、憲法三一条は刑事手続に関する規定であつて、行政手続に関しては適用
されない。それ故、行政手続である本件解職処分が憲法三一条に違反するかどうか
の問題を生ずる余地はない。仮に、憲法三一条が行政手続に関しても適用ないし準
用されるとしても、同条は国民の権利、自由を制限する場合には法律の定める手続
によらなければならないことを要請しているものと解されるところ、本件解職処分
は本件調停法一〇条にもとづいて行なわれたのであるから、何ら憲法三一条に違反
するものではない。
(七) 請求原因(二)の(6)の主張のうち、本件解職処分が憲法二九条に違反
するとの主張は争う。
憲法二九条三項は、財産権を公用徴収する場合に補償すべきことを規定したもので
あるところ、学校法人の理事たる地位は右にいう財産権に該当しないばかりでな
く、理事たる地位を解職することは公用徴収に該当しないので、本件解職処分には
補償を提供する必要がない。したがつて、補償を提供しなかつたことを理由として
本件解職処分は憲法二九条に違反す番旨の原告の主張は失当である。
(八) 請求原因(二)の(7)の(ア)の事実のうち、本件調停法の規定が原告
主張のとおりであることおよび学校法人P23大学紛争の調停のために被告の任命
した調停委員が原告主張のとおりであることは認めるが、その余は争う。
被告の任命した調停委員は当時として望みうるもつとも公正、妥当な人選であつ
た。すなわち、BはP23大学が所属する私立大学協会の会長であり、かつ、日本
医科大学理事受の職にあり、また、かつて私立大学審議会の会長を勤めたこともあ
る、いわば私立大学界の代表的な存在といえる。さらに、同人は、後述の学校法人
P23大学のいわゆる第一次紛争について名古屋地方裁判所より調停委員に指定さ
れ、裁判所による調停に尽力しており、その調停が不調に終つた後にも個人的な努
力によりついに第一次紛争を解決に導いたものであり、第二次紛争についても被告
の依頼により事実上の調停にあたり、学校法人P23大学の紛争について事情に通
じていた。ただ、同人は第一回調停委員会に出席した後、ほとんど調停活動を行な
うことなく死亡している。Cは、私立大学審議会の委員であつて、早稲田大学総長
の要職にあり、学者、教育者として代表的な存在であつた。Dは、名古屋商工会議
所会頭、東海銀行頭取の地位にあり、いわば地元財界の代表的な存在である。E
は、愛知県知事の地位にあつて、いわば地元政界の代表的な存在である。したがつ
て、これらそれぞれ人物、識見ともに各界の代表的な存在として社会的に認められ
た人々が合議のうえ調停を進めていくのであるから、そこに対立する一派に偏した
不公平な調停が行なわれる余地はなく、紛争の実情に即し、私学の特殊性を生か
し、しかも広い視野に立つての判断にもとづく妥当な解決に資することも期待でき
るのである。もとより、右各調停委員は自らの判断にもとづき合議を経たうえで調
停にあたつたものであつて、文部省管理局長に指導されたものではない。文部省組
織令三九条一三号により学校法人紛争調停委員に関する事務は文部省管理局振興課
の所管事務とされていたので、管理局長や振興課長が調停に立会い、調停委員を補
佐することは職務上至極当然のことである。原告が調停委員に面接して意見を述べ
たのは八回に及び、ことに昭和三八年三月一四日の面接だけでも優に二時間位はか
かつている。原告は、本件調停法にもとづく調停の内容が本件地位保全判決や本件
管理人引渡判決を無視している旨主張するが、民事判決と右調停とはそれぞれ独自
の存在意義をもつた紛争解決のための法的制度であつて、両者の間に上下、優劣の
関係はないから、仮に右調停の内容が本件地位保全判決等に矛盾、抵触するところ
があつても調停が判決を無視したとの非難を受ける道理はなく、まして違法の問題
を生ずる余地はない。のみならず、調停案において、いわゆる三者審議会は調停委
員の指定する日に解散し、学校法人P23大学に帰属すベき金員の保特者は調停委
員が指定する日に右金員を管理人に引き渡し、管理人はその金員を仮理事会に引き
継ぐことという条項があることからもわかるように、調停においては、可能なかぎ
り本件管理人引渡判決の趣旨を生かし、これを尊重しようとしたものであり、さら
に、文部省側は、調停委員の意を受けて、いわゆる三者審議会の構成員に対し再三
にわたり本件管理人引渡判決に従うよう説得したのであり、その結果、昭和三八年
度の入学受験料約九〇〇万円余の引渡しがなされているのである。また、原告は、
本件調停法にもとづく調停はいわゆる三者審議会による違法な経営管理を是認する
結果になる旨主張するが、このような異常な状態を解消し、学校法人P23大学の
管理運営を正常な状態に復帰せしめることこそ、本件調停法にもとづく調停の終局
の目的であつたといえるのである。さらに、原告は、右調停はF一派によるP23
大学の敷地予定地であつた国有土地の払下げ・転売の不正行為を隠ぺいするもので
ある旨主張するが、右払下げは大蔵省の東海財務局において行なわれたことであつ
て、被告や調停委員のまつたく関知しないところである。
(九) 請求原因(二)の(7)の(イ)の事実のうち、被告が本件調停法にもと
づき本件解職処分をするに先立ち私立大学審議会の意見をきいたことは認めるが、
その余は争う。
仮に原告主張のように私立大学審議会の組織、運営等に公正でない点があつたとし
ても、そのことにより同審議会の答申が当然に違法となるものではなく、また、仮
に、違法となるとしても無効ということはできず、もともと被告はその答申に拘束
されずに独自の立場で原告に対し辞職の勧告を行なうことができるのであるから、
答申が違法であつても原告に対する辞職の勧告、その後の本件解職処分が違法とな
るものではない。
のみならず、私立大学審議会の委員は私立学校法一九条にもとづき被告が任命して
いるが、その人選は公平に行なつている。また、同審議会の運営も公平に行なわれ
ているが、原告に対し同審議会に出席して意見を述べる機会を与えなかつたのは、
これを許す規定がなく、しかも原告にのみこのような機会を与えて対立派に与えな
いのはかえつて不公平となるおそれがあるからである。なお、本件調停法一〇条三
項によれば弁明の機会は処分庁たる被告により与えられることになつているのであ
つて、まつたくその機会が奪われているものではない。また、審議会への諮問にあ
たつては、調停の経過、紛争の実態の説明の際に原告主張の事実が述べられている
のである。
(一〇) 請求原因(二)の(8)の事実のうち、本件解職処分当時本件地位保全
判決や本件管理人引渡判決がなされていたこと、Gが昭和三八年七月に文部大臣に
就任したこと、本件解職処分の通知書に被告が何故解職以外に他に方法がないと判
断したかの理由が示されておらず、原告の非行も示されていないことは認めるが、
その余は争う。
(1) 原告を解職する以外には学校法人P23大学の正常な管理運営を図る方法
はたがつた。すなわち、同法人においては、役員、評議員が三派に分裂して互に自
派の正当性を主張し、対立派の人々の地位を否認して抗争に明け暮れ、そのため理
事会、監事、評議員会といつた同法人の管理機関はまつたく機能を喪失していた。
そして、大学部の財政面はいわゆる三者審議会が、教学面は協議会がそれぞれ事実
上管理するという変則的な状況にあつた。このような状況を解消して正常な管理運
営を図るためには、従来対立抗争してきた役員等に代えて、荒廃した同法人を管理
運営して行くだけの実力をもつた管理機関、すなわち、正当にして強力な管理機関
を新たに樹立することが先決条件である。新たな管理機関を樹立することなくして
は、従来の紛争をまつたく解消し、同法人の正常な管理運営を図ることはおぼつか
ない。そして、新たな管理機関の構成についても、従来の役員、評議員は、その地
位をめぐつて数十の訴訟が提起されているところからも明らかなように、すべてそ
の地位に争いがあつて誰が正当な地位にあるのか容易に決し難い状態にあつた。そ
れで、たとえば対立する三派のうちの一派あるいは二派を立てて他派を斥ける方法
により、あるいは三派のうちよりそれぞれ数名あてを選ぶ方法により学校法人P2
3大学の新しい管理機構を構成しようとしても、それを選ぶ基準に窮する。仮に、
何らかの基準により従来の役員、評議員の中から新しい管理機関を構成したとして
も、一〇年来の紛争による感情的、利害的対立は深刻なものがあつたので、紛争が
再燃することは必至とみるほかなかつた。それに、新しい管理機関の構成員となる
者とそれにより排除される者との間にしこりを残すことになつて、紛争の根本的な
解決を期することはできない。そのうえ、地元各界の間では従来の役員、評議員に
対して紛争中の言動し照らしきわめて批判的な空気が強く、また、学生、教職員
も、ことに原告派に対して強い反感を示していたので、従来の役員、評議員が再び
新しい管理機関の構成員となつた場合は、とうてい内外の支援を期待することはで
きなかつた。人的、物的設備において破綻に瀕している学校法人P23大学にとつ
て、学生、教職員、地元各界の力強い支援がなくては、とうてい正常な管理運営を
行なうことはできないところである。以上のような事情から、学校法人P23大学
の再建にふさわしい管理機関を作り出すためには、従来の役員、評議員にすべてそ
の地位を去つてもらつて、陣容を一新するよりほかに方法がなかつたのである。こ
のことは、本件調停法にもとづく調停案においても解決策として同様の方法が指向
され、さらに右調停案に対し紛争当事者二〇名のうち一七名が同意しているという
ことからも、当然の結論といえる。調停案を受諾した一七名の人々は、調停条項に
従いそれぞれ役員、評議員の地位を去ることを承諾しているが、これは、あくまで
も原告を含む調停案を受諾しなかつた三名をもあわせて、従来の役員、評議員が全
員同時に辞職することを条件に、辞職の承諾をしているのである。したがつて、原
告を含む三名が辞職しない以上、右一七名の辞職もありえないわけで、いぜんとし
て従来の役員、評議員はその地位にとどまつて紛争は解決されないのである。それ
で、原告を含む三名が辞職しない以上、同人らを解職する以外にP23大学の正常
な管理運営を図る方法がなかつたのである。
この点につき、原告は、本件管理人引渡判決に従つて紛争を解決する方法があつた
旨張主するが、被告には調停委員と同様何ら法的強制力を与えられておらず、いわ
ゆる三者審議会の管理する学校法人P23大学に帰属すべき金員を強制的に管理人
に引き渡させることはできないのである。仮に、何らかの方法により右金員の引渡
を実現したとしても、それによつて同法人の紛争が解決するわけのものではない。
現に、被告の説得により三者審議会より管理人へ金員の一部が引き渡されたが、そ
の配分をめぐつて新たな争いを生じたばかりでなく、役員の地位をめぐる訴訟を初
めとして、その他、多数の対立する役員間の訴訟はいぜんとして係属し、いつまで
も紛争の解決にはいたらない学校法人P23大学の紛争を一挙に抜本的に解決し、
正常な管理運営を図るためには、調停案の線に沿つて従来の役員、評議員を一新
し、同時に三者審議会も解散して、新しい仮理事会のもとに管理運営を図つていく
よりほかに方法はないのであつて、原告主張のように紛争当事者の一部の主張にこ
だわり紛争中の一部の事態に対処するだけでは、とうてい事態の根本的解決は期す
ることができないのである。
また、原告は、原告が名古屋簡易裁判所へ申し立てた民事調停を利用する方法があ
つた旨主張するが、右調停は昭和三七年一一月二九日に申し立てられ、同年一二月
一二日に第一回期日が指定されたもののようであるが、まつたく調停活動が行なわ
れないまま日時を経過し、昭和三八年一〇月一六日に取り下げられているのであ
る。もともと、調停は当事者の互譲により紛争を解決しようとするものであるか
ら、当事者が調停に協力しない場合には、いつまで経つでも紛争の解決は期待でき
ないのである。のみならず、右民事調停において仮に調停が成立したとしても、そ
れは紛争関係者の一部にしかすぎない民事調停の当事者間において、しかも特定の
事項について紛争が解決するにとどまり、必ずしも学校法人P23大学の正常な管
理運営が回復されるとは限らないのである。
(2) Gが文部大臣に就任したのは昭和三八年七月一八日、本件解職処分をした
のが同年八月二二日であるが、その間文部省の事務当局より詳細な報告を受け、ま
た、原告より提出された冬種書面をも十分検討のうえ、本件解職処分を行なつたも
のである。
次に、本件解職処分の通知書には「貴殿を解職する以外には、学校法人P23大学
の紛争を解決し、同法人の正常な管理及び運営を図るために他に方法がないと認め
られるからである」としか記載されていないが、解職処分の通知書に理由を付すべ
きことは何ら法令上要求されているものではないから、右程度の理由しか付されて
いなくても、そのこと自体から違法の問題を生ずる余地はないのみならず、理由の
付記が簡単だからといつて十分検討をしていないとか、あるいはその判断が恣意的
であると速断しえないことはいうまでもない。
さらに、原告は、本件解職処分の通知書に原告の非行に関する記載がない旨主張す
るが、そもそも原告に非行があることは本件解職処分の要件とはされていないので
あるから、原告の右主張は主張自体失当である。
(一一) 請求原因(二)の(9)の本件解職処分が公序良俗に反し無効であると
の主張は争う。
(1) 同(二)の(9)の(ア)の事実は認める。
(2) 同の(9)の事実のうち、H派に反対する派の筆頭がFであるとの点を除
き、その余は認める。
学校法人P23大学における第一次および第二次紛争の経過は次のとおりであつ
た。
H理事長はP23大学の創立者であるところから、創立以来とかく独裁的な学校運
営が多かつたようである。たまたま、昭和二九年九月ごろH理事長は理事会に計る
ことなく独断で法学部の東京進出を計画し、東京に建物を購入し、被告に学部設置
の認可申請を行なつた。これが契機となつて日ごろH理事長の独裁的運営に不満を
もつていた理事、教職員らは一せいにH理事長の排斥運動を起こし、ここにいわゆ
る第一次紛争が始まつた。そして、役員、評議員はH理事長派とその反対派に分裂
して、互に主導権を争い、同年一一月一五日の理事会においてH理事長は理事、理
事長の地位を辞任した。その後、J理事が理事長事務取扱となつたが、登記簿上は
いぜんとしてH理事長のままであつた。Hは昭和三〇年六月ごろより再び理事長で
あると称して行動を始めたため、反対派は同年九月二八日Hの理事、理事長登記を
抹消し、N理事の理事長就任の登記を行なつた。このころから両派の間で訴訟によ
りその地位を争う法廷闘争が始まり、名古屋地方裁判所は、同年一〇月七日仮処分
によりN理事長の職務執行停止を命じ、かつ、もと東北大学教授で弁護士であるO
を理事長代行者に選任した。そして、名古屋地方裁判所および名古屋高等裁判所に
両派より一〇数件の訴訟が相乱れて提起され、長期にわたり激烈な法廷闘争が行な
われた。また、両派は互に相手方を刑事告訴したこともあつて、紛争は一層深刻と
なつて行つた。この間昭和三二年五月ごろより一〇月ごろまでの間、訴訟り係属し
ていた名古屋地方裁判所において、白木伸裁判官が調停主任どなり、調停委員にB
(私立大学協会会長で日本医科大学理事長)およびP(明治大学学長)を指定し、
調停を試みたが成功しなかつた。その後、昭和三二年一二月にOは理事長職務代行
者の地位を辞任し、代つて衆議院議員であつたQが職務代行者に任命された。この
ように紛争は続いていたが、昭和三三年五月ごろよりBによる事実上の斡旋が行な
われ、ようやく同年八月一四日両派の間に和解が成立した。そして、Hが再び理事
長に就任し、新しい理事会が構成されて、「我々は今回の内紛のよつて来た源泉に
ついて卒直、深甚なる反省を行ない、将来再びかかる不祥事を重ねざるよう、私学
の本義に則し、自主と伝統の上に立ちながら、経営を組織化し、寄付行為の誠実な
る施行体制を確立するとともに、諸般の処務規定の整備をいそぎ、もつて、明朗清
新なる民主的学園を建設する決意である。さらに、内紛に伴う各人の行為は、これ
が愛学の精神に出でたる以上これを責め不当に解雇するがごとき小乗の途をとるこ
となく、総智総力を統合し、もつて大乗的再建を図る所存である。」旨の理事声明
が発表された。ここに第一次紛争は終つた。原告は第一次紛争中法商学部教授であ
つたが、Hの訴訟代理人として終始法廷闘争に従事した。
第一次紛争解決後、しばらくして、再び学校法人P23大学の理事の間に紛争中の
事務の後始末の方法や学校運営について意見の対立を生じた。すなわち、H理事長
や原告(昭和三三年一二月理事就任)は第一次紛争中の反対派の行動について責任
を追求しなければならないとして、反対派の中心であつたR理事兼教授らの罷免を
主張し、また、慣例として確立していた学長、学部長の公選制を廃止して理事長に
よる任命制にしようと計画したり、あるいは名古屋市昭和区天白町八事にある薬学
部を春日井市<以下略>にある農学部内に移転して、薬学部の跡に歯学部を新設し
ようと計画した。これに対し、A学長理事、I、S両理事らは、紛争中の反対派に
対する処分は和解の際の理事会声明に反し、かつ、再び紛争を惹起すると反対し、
また、学長、学部長の公選制の廃止は民主的学園の建設を唱つた理事会声明に反
し、かつ、教学の自由、独立が侵されると反対し、あるいは既存学部、学科の内容
の充実こそ緊急の問題であつて、歯学部の新設を計ることは財政的に無理であると
歯学部の新設に反対した。その他教職員の任免、学内規約の整備、大学の設備充実
のやり方等についてもH理事長に独断専行の傾向が復活したとして、反対する空気
が高まり、次第に学校法人P23大学の運営は円滑に行なわれなくなつた。そこ
へ、昭和三四年七月一七日にH理事長は、理事会、協議会(各学部長と各教授会に
おいて互選された二名あての協議員をもつて組織される)、教授会等の正規の議決
を経ることたく、独断でA学長理事の学長たる地位を罷免し、続いて同月二六日ご
ろ反対派のI、S両理事を解任し、また、監事、評議員の任期満了な理由に自分に
有利な監事、評議員の選任を行なつた。さらに、そのころ四学部長、短大部長、教
務部長、学生部長、教職課程部長、図書館長、事務局長事務取扱、各学部事務長、
庶務課長等H理事長の意向に同調しない教職員一九名を解雇した。そして、Hを理
工学部長に、原告を法商学部長に、また、その他の後任にもH理事長に同調する者
を任命した。ここに、役員および評議員はH理事長派とその反対派に分裂して抗争
することとなり、それに教職員、学生まで加わつて紛争が一段と大きくなり、いわ
ゆる第二次紛争が勃発した。H理事長によつて解任されたA、S、Iの各理事は名
古屋地方裁判所の仮処分により理事の地位を保全するとともに、前記のとおり任期
満了を理由に退任させられた評議員を母胎として昭和三四年一一月ごろよりTを理
事長とする事実上の理事会を発足させた。そのため、登記されているH派理事会と
事実上のT派理事会の二つが対立して存在し、互に正当性を主張して争い、抗争に
明け暮れたため、理事会は学校を管理運営する機能を失つた。H派理事会では四囲
の状勢の進展に伴い昭和三四年一一月五日Uを、また、昭和三五年二月一四日に原
告を順次理事長に選任しその旨の登記を行なつているが、実権はいぜんとしてHが
握つていた。その後、Hと原告は意見の対立をきたし、従来の二派が三派に分裂し
て争うようになつた。すなわち、Hは同年五月一一日に原告の理事長、理事の地位
を解任して、自ら理事長に就任するとともに、原告の後任としてKらを理事に選任
し、それぞれその旨の登記を了した。これに対し、原告は本件地位保全判決をえて
理事の地位を保全するとともに、同判決においてはHの理事長としての職務執行が
停止され、V(もと名古屋弁護士会長)がその職務代行者に選任された。そのうち
同年一一月一一日にHが死亡し、役員、評議員間に幾度か離合集散が行なわれ、結
局、原告、Kらの一派とA、Sらの一派とI、Wらの一派の三派に分裂して互に抗
争するようになつた。原告派では昭和三六年二月ごろ理事会の議決にもとづき原告
が理事長に就任したと称しているが、登記は受理されなかつた。このように、二
派、三派に役員、評議員が分裂して対立しているため、理事会、評議員会の開催、
理事、理事長等の選任、学長、教授等の任免その他の重要な事務処理が法令、寄付
行為等の定めるところに従い適法に実施されたか否かが凝問のような状態が継続寺
いた。時々の実権掌握者の専断的行為もしばしばあつたようである。その結果、一
派の者は他派の者を偽理事、偽教授などと呼んで罵倒し、相互に理事長、理事、学
長等の地位の存在または不存在確認請求、理事選任決議等の無効確認請求その他の
民事訴訟を提起し、それらの訴訟を本案訴訟とする仮処分を申請した。昭和三〇年
ごろ以降昭和三七年初ごろまでに名古屋地方裁判所に提起された民事事件は約七〇
件以上の多数に及んでいた。なお、昭和三五年三月ごろ事件の係属していた名古屋
地方裁判所において和解を試みたことがあつたが、結局成功しなかつた。その他、
冬派は互に反対派を背任、業務上横領、詐欺、誣告等で刑事告訴を行ない、その数
も一〇数件に及んでいる。このようにして役員、評議員の紛争はいつ果てるともな
く続き、正に泥沼の状態を呈していた。一方、教職員らは、前記のようなA学長の
罷免や一九名の教職員の解雇等は大学の秩序を乱し、教学の自由と独立を侵すとし
て一せいにH理事長への抗議に立ち上つていた。これに対し、H理事長は、法商学
部と農学部の教職員を半減するとか、この紛争に負けたらP23大学を廃止してし
まうと発表して、教職員や学生に大きな不安を与え、さらに昭和三四年八月二五日
には教職員に対する八月分の給料支払日であるにもかかわらず給料不払の挙に出で
たりした。また、そのころすでに電燈料金、水道料金、ガス料金を数か月にわたつ
て滞納していたため、そのころ供給停北の予告を受け、授業の継続にも不安が生じ
た。このように不満や不安があつたにもかかわらず、教職員らは授業の継続を申し
合わせ、協議会の管理のもとに教学を維持するようになつた。それとともに、教職
員組合では同年九月愛知労働金庫より組合員の八月分給料に相当する金員を借り受
け、これを組合員に貸し付けて生活の資に供した。他方、学生間においては同年九
月の学生大会において、理事会が反省し、正常な理事会が成立するまでは授業料を
延納する旨の決議を行ない、学生たちは授業料に相当する金員を愛知労働金庫に預
金し、その払戻し、管理、支出を各学生の所属する学部の学生会に委任した。そし
て、同年一一月ごろ各学生会の代表によつて構成される全学生会協議会と教職員組
合代表および協議会の代表の三者によりいわゆる三者審議会が結成され、学長のA
がその代表者的地位についた。以後、右金庫に預金されている授業料相当の金員
は、三者審議会の議決を経て、一部は教職員に対する生活資金として教職員組合に
貸し付けられ、一部は学校運営費としてAに貸し付けられるようになつた。また、
受験料、入学金は各学部会計窓口を経てAが受領し、右金庫に預金し、同人が学校
運営費その他に使用するようになつた。このようにして、学校法人P23大学にお
いては、教学面は協議会が管理し、経理面は三者審議会が管理するという、きわめ
て変則的な管理、運営が行なわれた。右のような事態に加え、学生までが紛争に巻
き込まれて落着いて勉強に励むことができないということは、学校教育法、私立学
校法等に違反し、とうてい許されないところである。また、学校法人として当然備
えていなければならない理事会、評議会の議事録や毎会計年度の収支予算決算、貸
借対照表、財産目録等の法定帳簿が整理されておらず、教職員の任免が正規の手続
を経ることなく行なわれ、H、原告派の理事会によつてP23大学の財産である土
地や学生寮の建物等が正規の手続を経ることなく売却されたりした。さらに、第三
者より学校法人P23大学の土地、建物に対し差押えがなされたり、破産の申立て
がなされた。
(3) 請求原因(二)の(9)の(ワ)の事実のうち、学校法人P23大学が旧
鷹来工廠(旧名古屋陸軍造兵廠鷹来製造所)跡地のうち北端の三三、〇〇〇坪と南
端の四七、七九七坪を国より借り受け、ここに農学部を設置していたこと、同法人
が右場所に薬学部を設置することを計画し、被告の認可をえていたが、その後、薬
学部は名古屋市昭和区天白町八事に移転されたこと、右跡地のうちの中央部約一三
万坪が昭和三八年一月九日および同年四月二七日の二度に分けてFが代表取締役を
していた東洋プライウツド株式会社へ払い下げられたこと、同会社は右払い下げを
受けた土地のうち約四二、〇〇〇坪を右第二次払下げを受けた後間もたく他に転売
したことは認めるが、その余は争う。東洋プライウツド株式会社に対する旧鷹来工
廠跡地の中央部の払下げと学校法人P23大学の紛争や本件解職処分とは何らの関
連もない。そもそも、同法人は右中央部の土地について所有権や賃借権等の使用権
限を有しないことはもちろん、同土地の払下げを受けるについて何らの優先権をも
有しておらず、払下げの申請をもしていなかつた。
(4) 請求原因(二)の(9)の(エ)の事実のうち、原告がその主張のような
提唱をし続けたこと、昭和三七年四月四日に本件調停法が制定されたこと、本件調
停法の内容が原告主張のような内容のものであることは認めるが、その余は争う。
本件調停法が制定されるに至つた経緯は次のとおりである。
すなわち、前記(2)において述べ、たように、学校法人P23大学の紛争は激
化、長期化し、大学の有する公共性に照らしてもはや放置できない段階に達してい
るにもかかわらず、紛争関係者による自主的な解決は裁判手続による解決をも含め
てほとんど見通しが立たなかつた。被告は、X、B、Yといつた私学界の有力者三
名に依頼して、調停を試みたが成功せず、私立大学審議会に対し学校法人P23大
学役員の解職の勧告を諮問したところ、同審議会は解職の勧告が行なわれて運営の
正常化ができないかぎり、P23大学の解散もやむをえない旨の答申を行なつたの
で、昭和三五年六月二二日学校法人P23大学に対し私立学校法五九条三項にもと
づき役員の解職を勧告したが、無視されてしまつた。そこで、被告としては同法六
二条による解散を行なうほかなかつたが、解散となれば社会的影響がはなはだ大き
く、解散に至る前に何とか紛争を解決することが強く要望された。ことに、前記の
ように破綻に瀕し大学であるにもかかわらず、毎年二、〇〇〇名位の学生が入学
し、常時六、〇〇〇名位の学生が在学していたので、地元においても学校法人P2
3大学の存続を図りたいという強い要望がなされた。そこで、被告は学校法人運営
調査会の答申のうち調停制度を設けることという部分をとり入れることにし、本件
調停法が制定されるに至つたのである。
(5) 請求原因(二)の(9)の(オ)の事実のうち、原告やKらが正論の士で
あるとの点を争い、その余は認める。
長年にわたる激しい紛争の中においては、紛争当事者にはそれぞれ相当の言い分が
あり、これらの是非善悪を客観的に一概に決することは必ずしも容易なことではな
い。
(6) 請求原因(二)の(9)の(カ)の事実のうち、被告がF、L、E、Mお
よびZを仮理事に選任したこと、Fが鷹来工廠跡地の払下げを受けた東洋プライウ
ツド株式会社の代表取締役であり、LおよびEが右払下げの答申をしたころの国有
財産東海地方審議会の委員であつたことは認めるが、Zかもと右会社の嘱託であつ
たかどうかは知らず、その余は争う。
Eは右払下げの答申をした右審議会には出席していない。
(一二) 請求原因(三)の主張は争う。
(一三) 同四の事実のうち、本件地位保全判決がなされていたことおよび被告が
原告の学校法人P23大学の理事の地位を否定し、同法人には理事が欠けたとして
仮理事の選任等の行為に出たことは認めるが、その余は争う。
本件地位保全判決は、原告がなお従来どおり学校法人P23大学の理事の地位にあ
ることを本案判決の確定に至るまで暫定的に確認する確認的裁判にすぎず、これに
より実体的法律関係と離れた別個の訴訟上の地位を原告に対し創設・付与する非訟
的・形成的処分ではない。すなわち、本件地位保全判決は、いわゆる任意の履行に
期待する仮処分と称されているものであつて、執行力も形成効も有せず、学校法人
P23大学の理事会による解任決議前に原告の有していた理事たる地位が暫定的に
確認されるにすぎないのである。したがつて、実体法上の原告の理事たる地位が本
件解職処分により消滅せしめられる以上、本件地位保全判決は将来に向つて関係人
に対する拘束力を失なつたものというべきである。
四 補助参加人の主張
(一) 学校法人P23大学紛争の性質および原因について
(1) 学校法人P23大学における紛争はいわゆる第一次紛争および第二次紛争
を合わせ前後一〇年の長期にわたつたが、その主な紛争は役員間における同法人の
管理運営の方針についての対立抗争であり、それは主として妥当性ないし合目的性
に関する非法律的紛争であつた。そして、この非法律的紛争とは別個にあるいはこ
れに随伴して理事や理事長の地位の存否、教職員に対する解雇の効力の有無といつ
た法律的紛争が惹起されたのである。学校法人P23大学におけるこのような各種
の紛争は正常な管理運営を著しく阻害し、かつ、その結果法令の規定に違反する事
態が生ずるに至つたのである。
(2) 学校法人P23大学のいわゆる第一次紛争の原因は、同法人の創立者であ
り理事長であつたHの寄付行為や学則を無視した油断専行の学校経営とこれに対す
る他の理事や教職員の不満にあつた。すなわち、Hは、ほとんど理事会を開くこと
なくほしいままに学校経営を独断専行し、経理事務のうち主なものはHの私宅で行
なうなど財政をきわめて不明朗にし、教職員の待遇もその個人的好意によつて左右
し、既設学部、学科の内容の充実を図ることなく、いたずらに新しい計画を追い求
めたりした。このようなHの独裁的態度や大学を私物化する態度に対し他の理事や
教職員、学生は強い不満を抱いていたところへ、昭和二九年八月にP23大学の法
学部を東京へ進出させる計画をHが独断専行しようとしたため、ここにいわゆる第
一次紛争が発生するに至つたのである。
第一次紛争中、原告はHをせん動し、同人の好まない訴訟を提起せしめ、自らその
代理人となりあるいは当事者となつて、紛争を拡大紛糾せしめた。
(3) いわゆる第二次紛争(この紛争はさらに昭和三六年二月一四日にV理事長
職務代行者がその地位を失うまでとそれ以後本件解職処分がなされるまでの二つの
時期に区分することができる。)の原因は、H理事長および原告が第一次紛争解決
に際し発表された理事会声明を無視し、第一次紛争中反対派に属した人々の責任を
追求しようとしたことにある。理事や評議員は二派あるいは三派に分れて抗争し、
教職員や学生も巻き込まれ、数多くの民事訴訟が提起され、紛争は末期的症状を呈
するに至つた。
原告は、第二次紛争の当初においてはHを支援していたが、その後同人とも対立抗
争するに至り、公然と学校法人P23大学の理事長を僣称し、同法人の資産を違法
に処分し、管理運営を破壊せしめるような行動をとるに至つた。
(二) 本件調停法一〇条四項の合憲性について
(1) 教育の自由ないし私立学校経営の自由を保障する憲法上の明文の規定はな
いが、右のような自由が原則として憲法の保障するところであることは思想・良心
の自由、表現の自由、学問の自由ないし職業選択の自由を保障する規定の精神から
明らかである。学校教育法および私立学校法は学校法人による私立学校設置の自由
を認めている。
しかし、学校教育はどこまでも国の将来を荷うべき青少年の人づくりを目的とする
事業であり、その意味で高度の公共性を有するものであるから、学校法人による私
立学校設置の自由も私人の完全な自由に放任しておくことは許されない。そこで、
私立学校法は学校法人の設立、管理、解散、助成および監督について詳しく規制
し、また、学校教育法は私立学校の設置は監督官庁の定める設置基準に従わなけれ
ばならないとし、私立学校法により私立学校の設置廃止等はつねに監督官庁の認可
にかかわらしめられているのである。
すなわち、私立学校の正常で健全な運営は決して単なる私事ではなく、高度に公的
な関心事である。換言すれば、学校法人の紛争が生じ、その正常な管理運営が妨げ
られ、その結果、私立学校における教育の円滑な実施が行なわれないことは、何よ
りも教育を受ける学生にきわめて悪い影響を及ぼし、各国民に十分な教育を確保す
る国家としては無関心ではいられないのである。
(2) 本件調停法は学校法人の紛争を解決するための国の関与の一方式を定めた
ものであるが、同法一〇条四項は被告に学校法人の役員の解職権を与えているの
で、それは教育の自由ないし私立学校経営の自由を侵さないかということが問題と
なる。本件調停法はあくまで紛争の当事者間に自主的調停を成立させることを第一
義とし、それが成功せず、しかもほかに方法がないときに最後の手段として被告に
役員の解職権を認めているのである。しかも、それもやむをえない臨時の措置とい
う建前をとり、二年間の限時法としているのである。本件調停法がこのようにきわ
めて慎重な態度で、多くの条件の下に、最後の伝家の宝刀的手段として被告に役員
の解職権を認めたことは、学校法人P23大学のような目にあまる紛争により教育
機関としての能力を失つたような場合を考えれば、教育の公共性からいつて十分に
承認されると解すベきである。なお、国のある事業への介入の適否は、ひとえに当
該事業の公共性の性質および程度によつて決すべきであり、国が当該事業へ出資し
ているかどうかによつて決すべきものではない。
(3) 本件調停法一〇条四項は裁判を受ける権利を侵さないかということが問題
となる。同条項にもとづく役員の解職権は、学校法人の紛争を解決し、正常な管理
運営を図り、もつて私立学校における教育の円滑な実施に資するために被告に認め
られた行政処分である。それは、当該役員が役員たる地位を取得したかどうか、あ
るいはその地位を喪失したかどうかを判断するものではなく(役員の地位確認訴訟
においてはまさにかかる事項が審判の対象となる。)、一応役員の地位を有してい
ることを前提として、当該学校法人の正常な管理運営を図るため他に方法がないと
認められるときに、将来に向つて当該役員の地位を失わせるためになされる行政処
分である。もとより、この行政処分の合法性については行政訴訟を提起して争う途
が残されているのである。本件調停法一〇条四項は裁判を受ける権利を侵すもので
はなく、紛争の司法的解決を抑止するものでもない。
(4) なお、本件調停法一〇条四項は、学校法人の正常な管理運営を図るため他
に方法がないと認められる場合に、被告に役員の解職権を与え、その行使により学
校法人の紛争を解決し、もつて学問の自由と学生の教育を学ける権利を保障しよう
とするものである。すなわち、同条項は決して学問の自由を侵すものではない。
(三) 本件解職処分の合憲性について
原告は、本件解職処分当時原告の提起した理事の地位確認請求訴訟が名古屋高等裁
判所に係属していたが(本件名古屋高裁事件)、被告が本件解職処分をした結果右
訴訟は必然的に原告の敗訴に終らざるをえないので、本件解職処分は原告の裁判を
受ける権利を侵害する旨主張する。しかしながら、裁判を受ける権利とは本案の裁
判を受ける権利、すなわち、訴えを却下されずに請求の当否につき裁判を受ける権
利を意味するにとどまり、本案について勝訴の裁判を受ける権利までをも意味する
ものではないのである。本件解職処分により原告の理事たる地位が将来に向つて失
われる結果、本件名古屋高裁事件においては原告の請求が棄却されることになる
が、それは本案の裁判であつて、決して原告の裁判を受ける権利を侵害するもので
はないのである。
(四) 本件解職処分の合(適)法性について
(1) 原告は、本件解職処分以外にも、裁判、とくに当時すでに示されていた裁
判所の判断、とりわけ本件管理人引渡判決に従つて学校法人P23大学の紛争を解
決するという方法があつたので、本件解職処分は本件調停法一〇条四項の要件がな
いのになされた違法無効のものである旨主張する。
(ア) しかしながら、学校法人P23大学の紛争中に裁判所へ提起された民事事
件の数は約一〇〇件にものぼり、たとえば同法人の管理運営に関する紛争をめぐる
主な民事事件をあげれば第一次紛争中のそれは別表(一)のとおりであり、第二次
紛争中のそれは別表(二)のとおりであつた。そして、同一の法律問題に関し相反
する裁判がなされたため、紛争を裁判によつて根本的、終局的に解決することが困
難であつた。その顕著な例としては、理事長が欠けている場合に他の理事が各自学
校法人P23大学を代表する権限を有するかどうかに関する。これを積極的に解す
るものとしてはたとえば別表(二)の番号47、52、61の各事件についてなさ
れた裁判例があり、消極に解するものとしてはたとえば別表(二)の番号21、2
2、48、50、51、53、56、58の各事件についてなされた裁判例があ
る。また、ある理事の選任決議を無効とする裁判がなされた場合、右裁判がなされ
るまでの間は右理事の参加する理事会によつてなされた他の理事の選任も無効とな
るかどうか、あるいはある理事の地位を保全する仮処分がなされた場合、右仮処分
以前に右理事の参加していない理事会によつてなされた他の理事の選任は有効かど
うかにつきいずれも積極、消極両様の裁判がなされた。
こりように、同一の法律問題について同一の裁判所で裁判官を異にするにしたがい
異つた裁判がなされ、ことに仮処分事件についてはその性質上最高裁判所へ上告で
きないため裁判の統一が期待できなかつたのである。
(イ) 本件管理人引渡判決による紛争解決の可能性について
本件管理人引渡判決は、P23大学学長Aに対し、同人が学校法人P23大学のた
めに入学金や授業料等として収受し、保持する金員を裁判所の選任する管理人に引
渡すことを命じるとともに、入学金や授業料等に相当する金員の借入れを禁止して
いるものであるが、名古屋地方裁判所がP1を管理人に選任したのちはAは右のよ
うな金員を収受し、保持しあるいは借り入れるということをまつたくしなかつたの
で、右判決に違反するということはなかつた。のみならず、Aは教職員組合、学生
会を鋭意説得して受験料を自ら収受し(本件管理人引渡判決はAが自ら受験料を収
受すべきことまでも命じているものではないが)、昭和三八年二月二二日P1管理
人に対し九、三八二、五〇〇円を引き渡した。そして、Aは本件管理人引渡判決に
従いP1管理人に対し授業実施のため緊急に支払うことを必要とする経費八、八四
三、五四三円の交付を請求したが、同人はこれに応じなかつた。そのため、教職員
組合や学生会はP1管理人に対する不信感を一層強くし、以後Aの説得に応じよう
としなかつた。そもそも、本件管理人引渡判決は、Aに対する関係でなされたもの
であつて、その他の者に対して作為、不作為を命ずるものではないから、これによ
つて紛争を全体的に解決することは困難であるばかりでなく、同判決において定め
られている管理人の権限は暫定的であり、しかも消極的に金銭を預かるといつた程
度のことであつて、何ら大学経営のための積極的な権限が与えられているものでは
なく、ましてや正当な理事長や理事が誰であるかを確定するものではなかつたので
あるから、これによつて紛争を解決することは不可能であつた。また、Aの行為と
本件解職処分とは何ら関係がないのであるから、本件解職処分が本件管理人引渡判
決を無視するものであるとの主張は失当である。そもそも、本件管理人引渡判決は
紛争が根本的、終局に解決されるまでの(その解決は必ずしも本案訴訟による解決
のみを予定するものではない。)暫定的な仮の措置であつて、本件調停法にもとづ
く調停および本件解職処分、被告による仮理事の選任という一連の行為によつて学
校法人P23大学の紛争が終局的、根本的に解決されるに至り、本件管理人引渡判
決はその役割を終えたものと解すべきである。
(2) 原告は、本件解職処分はいわゆる三者審議会による経営の違法管理を隠ぺ
いし、また、F派による旧鷹来工廠跡地の払下げ・転売という違法な目的を達成さ
せるために、正論の士である原告を排除するためなされたものであるから(薬学部
の八事校舎への移転も右目的を達成させるための一環としてP23大学な旧鷹来工
廠跡地から追い出すためになされた。)、それは公序良俗に違反し、無効である旨
主張する。そこで、ここではいわゆる三者審議会なるものの実態についてまず述
べ、ついて薬学部の八事校舎への移転について、最後に、原告は決して正論の士で
はなく、非行があつたことについて述べる。
(ア) いわゆる三者審議会について
学校法人P23大学の第二次紛争中にいわゆる三者審議会が生まれたが、それは同
法人の経営を管理するものでは決してなかつた。すなわち、H理事長は昭和三四年
八月主要教職員の大量解雇を行なつたり、全教職員に対する俸給支払を停止したり
し、その停止が四か月に及ぶに至り、教職員の生活の窮乏はたえうる限界に達し、
授業の継続は不可能になつてきた。さらに、そのうえ、ガス、水道、電気料金の不
払が累積し、これらの供給が停止されるに至り、学生の実験も放棄しなければなら
なくなつてきた。かかる事態に対処し、授業や実験の継続を可能とするため、学生
たちは学生会において授業料の延納を決議するとともに、それぞれ授業料相当額を
学生会に預託し、学生会はこれを教職員組合の名義を借りて愛知労働金庫に預金
し、他方A学長に対し授業継続に必要な経費を貸与し、また、教職員組合に対して
は生活資金を貸与する旨を申し入れてきた。そこで、貸主たる学生会の代表と借主
たる教職員組合および大学協議会の各代表が貸借問題を交渉検討するため、定期的
に毎月一回、その他必要に応じて臨時に会合を持つようになつた。これがいわゆる
三者審議会であつて、それは金銭収支の主体となつたり、学校経営を担当する機関
ではなく、あくまでも金銭の貸借を交渉する場にすぎなかつたのである。
(イ) 薬学部の八事校舎への移転について
原告は、薬学部の八事校舎への移転はF派が薬学部の教授団と結託して行なつたも
ので、F派による旧鷹来工廠跡地の払下げを受ける計画の実現のための一環として
行なわれたものである旨主張するが、事実無根である。右移転は当時の理事長職務
代行者であるO(同人はHの申請にもとづき裁判所により選任されたものであ
る。)の承諾のもとに行なわれたものであり、そもそも薬学部は農学部の校舎を借
りて教育が行なわれていたが、施設として不十分であり、地理的にも不適当であつ
たうえに、農学部の敷地内に薬学部の校舎を建築するについては東海財務局より許
可をえていなかつた。そして、たまたま法商学部を設置してある駒方校舎に余裕が
あつたので、昭和三〇年四月ごろここに仮に移転し、約一年後に八事校舎に薬学部
校舎を建築して移転したのである。右建築を請負つたのは当時の理事Jが代表者を
している会社であつたが、それは財政的に苦しい学校法人P23大学を救うために
同会社がもつとも低廉な請負金額を申し出てくれたためである。
(ウ) 原告の非行について
原告は自らを正論の士である旨主張するが、決してそうではなく、原告には次のよ
うな非行があつた。
(a) 原告は、第二次紛争中、学校法人P23大学の寄付行為の定める場合にあ
たらないのに、しかもその定める手続にもよらずに、同法人の財産である山林、宅
地、寄宿舎建物等を売却してしまつた。そのうえ、右売却代金の使途は不明であ
る。
(b) 原告は、P23大学教授としての地位を放棄し、弁護士の地位を悪用し
て、学校法人P23大学の紛争に介入しこれを助長拡大させ、訴訟代理人としてあ
るいは自ら当事者として約一〇〇件にのぼる民事事件を裁判所に提起し、紛争の解
決を困難ならしめるとともに、神聖な教育の場を法廷闘争の渦中に陥れた。とりわ
け、入学許可禁止や学生募集禁止の仮処分を伸請したのは常軌を逸しているといわ
ざるをえず、また、民事訴訟を有利に展開するため無根の事実をねつ造しし、相手
方を告訴告発することを常套手段としたが、これは弁護士の品位をけがしたものと
いわなければならない。
(五) 本件解職処分後の学校法人P23大学について
学校法人P23大学の役員と称していた者たちは本件調停法にもとづく調停の条項
に従い辞任したりあるいは被告の解職処分によりすべてその地位を失うことになつ
たので、被告はEほか六名を仮理事し選任した。仮理事会はただちに声明を発して
大学再建への熱意を示したところ、教職員は仮理事会への全面的な協力体制を確立
して仮理事会の管理下に教育と研究に従事し、学生会も授業料延納決議を解消し、
仮理事会の下に正常な経営の管理を回復させるに至つたのである。そして、仮理事
会は昭和三九年二月一九日三雲次郎ほか七名を理事に選任し、この理事の手によつ
て学校法人P23大学の再建が着々と進められ始めたのである。
(六) 本件解職処分の本件地位保全判決に及ぼす影響について
本件解職処分は将来に向つて原告の理事たる地位を失わしめるものであるが、それ
はただちに本件地位保全判決によつて保全された原告の理事としての仮の地位を失
わしめるものではなく、本件地位保全判決の取消事由となるにすぎない。なお、本
件地位保全判決は取り消されていないが、補助参加人が本件解職処分後原告を理事
として遇しなかつたことは、同処分後の事情であつて、同処分の効力に影響を与え
るものでないことはいうまでもない。
五 被告の主張に対する原告の答弁
学校法人P23大学における第一次および第二次紛争の経過に関する被告の主張
(三、(二)、(2))は争わない。ただし、それは紛争の表面的な経過であつ
て、紛争の真相は原告がすでに請求原因(一、(二)、(9)、(ウ)ないし
(カ))で述べたとおりである。
第三 立証(省略)
○ 理由
第一 本件解職処分の無効確認請求について
一 学校法人P23大学の沿革と紛争の経過
学校法人P23大学の沿革に関し原告の主張する事実(一、(二)、(9)、
(ア))ならびにその紛争の経過に関し原告の主張する事実(一、(二)、
(9)、(イ)、ただし、H派に反対する派の筆頭がFであるとの点を除く。)お
よび被告の主張する事実(三、(二)、(2))は、その紛争の経過が表面的な経
過にすぎないものであるかどうかはしばらくおき、いずれも当事者間に争いがな
い。
成立に争いがない甲第四号証、同第四五号証、同四七号証、同第四八号証、その方
式および趣旨により公務員が職務上作成したものと認められるので真正な公文書と
推定すべき丙第九号証の一ないし三(ただし、同号証の二のうちP2作成の認諾書
は弁論の全趣旨によりその成立を認める)、同第一〇号証の一、二、同第一一号
証、同第二〇号証の一、同第二一号証、同第二二号証の一、二、同第二六号証の
二、同第二八号証、同第三一号証、同第三三号証、同第三四号証の二ないし四、同
第三五および第三六号証の各一、二、同第三八号証の二ないし四、同第四〇号証、
同第四二号証、同第六一号証、同第八〇号証、証人P3の証言および弁論の全趣旨
により成立が認められる丙第五号証、同第一二号証(ただし、裁判所の受付印の部
分はその方式および趣旨により公務員が職務上作成したものと認められるので真正
な公文書と推定する。)、同第一三および第一五号証の各一、二ならびに同第一八
号証(ただし、いずれも裁判所の受付印および消印の部分はその方式および趣旨に
より公務員が職務上作成したものと認められるので真正な公文書と推定する。)、
同第二〇号証の二、三、同第二三号証、同第二四号証、同第二六号証の一、三、同
第二七号証、同第二九および第三〇号証(ただし、いずれも裁判所の受付印と消印
の部分はその方式および趣旨により公務員が職務上作成したものと認められるので
真正な公文書と推定する。)、同第三二号証の「、二、同第三四号証の一、同第三
七号証(ただし、裁判所の受付印と消印の部分はその方式および趣旨により公務員
が職務上作成したものと認められるので真正な公文書と推定する。)、同第三八号
証の一、同第三九号証(ただし、裁判所の受付印の部分はその方式および趣旨によ
り公務員が職務上作成したものと認められるので真正な公文書と推定する。)、同
第四一号証(ただし、裁判所の受付印、期日呼出状及答弁書催告状および封筒の部
分はその方式および趣旨により公務員が職務上作成したものと認められるので真正
な公文書と推定する。)、同第四三号証の一ないし三、同第四四号証に弁論の全趣
旨を総合すれば、学校法人P23大学の管理運営の方法をめぐる紛争に関し第二次
紛争中に裁判所へ提起された民事事件の主なるものは別表(二)のとおりであるこ
とが認められ、この認定に反する証拠はない。
二 本件調停法の制定とその内容
(一) 本件調停法の制定
成立に争いがない甲第四二号証の一、二、同第四三号証、乙第二ないし第一〇号
証、同第一一号証の一ないし四、その方式および趣旨により公務員が職務上作成し
たものと認められるので真正な公文書と推定すべき乙第一二号証の一、二、同第一
三ないし第一七号証、弁論の全趣旨により成立が認められる丙第一九号証、同第五
〇ないし第五二号証、同第八八ないし第九二号証、同第九五号証、同第九八号証、
同第九九号証、同第一〇二ないし第一〇六号証、甲第八、九号証、同第五三号証に
証人P4および同P5の各証言を総合すれば、本件調停法が制定されるに至る経緯
は次のとおりであつたことが認められ、この認定を覆えずに足りる証拠はない。昭
和三四年七月学校法人P23大学に第二次紛争が発生し、前記認定のように、次第
にそれが深刻化し、かつ、長期化するにしたがい各方面から強い関心を呼ぶように
なつた。衆参両議院の文教委員会においても同年一〇月以降数度にわたり右紛争問
題をとりあげ、H理事長その他の関係者を喚問したり、被告ならびに文部省当局に
対し右紛争の解決のために最大の努力を払うよう超党派的立場で要望した。さら
に、地元各界の士より被告に対し私立大学の公共性の見地から積極的に紛争の解決
に乗り出すよう強い要望がなされた。そこで、被告は昭和三五年一月二〇日第一次
紛争を和解に導いたB(私立大学協会会長で日本医科大学理事長)とX(私立大学
審議会委員で日本大学理事長)およびY(法政大学常務理事)の三名に紛争当事者
間の調停を依頼した。右三名は、紛争の実情を調査するとともに、同年五月までの
間に三度にわたり紛争当事者に対し紛争解決の方法について勧告をしたが聞き入れ
られなかつた。そこで、右三名は同月一八日被告に対し、報告書を提出したが、そ
の中で、学校法人P23大学には数々の法令・寄付行為違反の事実があり、その運
営は正常とはいえず、私立学校の公共性の立場からもはや放置しておくことは許さ
れないので、被告において、調査を行ない、私立学校法にもとづく役員解職の勧告
を行ない、それが受け入れられないときは解散命令もやむをえない旨報告した。そ
こで、被告は係官を現地に派遣して調査を行ない、同年六月一五日私立大学審議会
に対し役員解職の勧告を諮問したところ、同審議会は解職の勧告が行なわれ、運営
の正常化ができないかぎり、学校法人P23大学の解散もやむをえない旨の答申を
したので、被告は同月二二日学校法人P23大学に対しHほか六名の役員の解職を
勧告したが、無視されてしまつた(なお、この段階で原告は被告に辞表を提出して
いたので、右解職の勧告からは除外された)。また、一方、被告は主として私立学
校関係者から構成される学校法人運営調査会を設け同月八日学校法人の紛争の防止
および解決の方法について諮問したところ、同年一〇月一四日「学校法人の紛争の
原因は種々であるが、帰するところは関係者の公共性に対する認識の欠如によると
いうことができる。学校法人の管理の適正を期するためには、理事・評議員等学校
法人の機関の選任・解任の方法、権限の明確化等検討すべき問題が少なくないが、
これはしばらくおき、少なくとも次のような措置を講ずることが必要である。
(ア)調停制度を創設すること。学校法人紛争は本来訴訟に適しない事例が少なく
ないので、公正迅速な解決を図る趣旨から、調停の方法により解決を図ることが適
正と考えられる。すなわち、学校法人紛争の定義を明らかにし、その紛争により教
育の遂行に支障を生じたとき、これを調停委員の調停に付することができることと
し、調停成立後当事者が正当な理由なく違背した場合、私立大学審議会の意見をき
いてその是正を命じ、その他法令違反等一定の要件の下に、同審議会の意見をきい
て役員の解職等の措置をとることができることとすること。(イ)学校法人の解散
に関する制度を整備すること。学校の公共性にかんがみ教育上の見地から清算学校
法人に対する現行の裁判所の監督の一部を所轄庁に移す等、学校法人の解散に関す
る現行制度について整備を行なうこと。すなわち、学校法人紛争により学校法人の
正常な運営が著しく阻害され、その設置する学校法人に管理されることが適当でな
い場合を解散命令の事由とするとともに、学生、生徒等が在学している私立学校を
設置する学校法人が解散した場合、所轄庁が清算人を選任・解任しうるものとし、
あわせて当該私立学校の設置者変更の途を開く等の措置をとること。」という趣旨
の答申をえた。被告としては私立本校法六二条により学校法人P23大学に解散を
命ずる方法が残されていたが、常時六、〇〇〇名位の学生と多数の教職員を擁する
P23大学に対し解散命令が出された場合、その社会的影響は大きく、地元におい
ても何とか紛争を解決してP23大学の存続を図りたいという強い要望がなされた
ので(ことに、地元選出の国会議員一〇名は党派を超えて「P23大学の問題は、
すでに長期にわたり、教学に重大な影響を与え、最悪の事態も予想され、憂慮にた
えない。この際文部省は、国会の意向に従い、三斡旋委員の意思にそつて、P23
大学問題解決のため速やかに断固たる決意をもつて役員を一新し、一日も早く教職
員、学生が安心して研究と勉学とに専念しうる大学たらしめるよう努力すべきであ
る。地元衆参国会議員団は超党的に一致して自ら努力することを申し合わせるとと
もに、強くこのことを文部省に要望し、その成果を期待する」旨の声明書を出して
いた。)、各方面において被告による解散命令に至る前段階の解決方法が模索され
た。そして、前記学校法人運営調査会の答申のうちの調停制度を法制化し、これに
より紛争を解決しようという動きが強くなり、途中、社団法人日本私立大学連盟か
らの反対の動きもあつたが、結局、政府提案により昭和三七年四月四日に法律第四
〇号として本件調停法が制定され、公布されるに至つた。
(二) 本件調停法の内容
本件調停法の目的は、学校法人紛争(同法二条三項において、学校法人紛争とは学
校法人の役員または評議員の間における当該学校法人の管理および運営についての
紛争をいうと定義されている。)が生じ、これにより学校法人の正常な管理および
運営が行なわれなくなり、かつ、そのため当該学校法人が法令の規定に違反するに
至つた場合において、当該紛争の処理に関し調停その他の措置を定めることによ
り、学校法人の正常な管理および運営を図り、もつて私立学校における教育の円滑
な実施に資することにある(同法一条)。すなわち、学校法人紛争により、学校法
人の正常な管理および運営が行なわれなくなり、そのため当該学校法人が法令の規
定に違反するに至つた場合において、所轄庁は、当事者の申し出または審議会の建
議もしくは審議会の意見を聞き、職権により調停委員(三人以上五人以下とし、事
件ごとに、審議会の委員その他学識経験者のうちから任命する。)に調停を行なわ
せることができる(同法三、四条)。調停委員は、当事者に出頭を求めて意見を聞
き、資料の提出を求めることができ(同法五条)、また、調停成立前の措置とし
て、調停の成立を困難にするおそれがある行為につき必要な勧告を行なうことがで
きる(同法六条)。調停は、当事者の全部または一部の間に合意が成立することに
よつて成立するほか(同法七条)、調停委員が全員一致で調停案を作成し、期限を
付して当事者に受諾を勧告し、当事者がこれを受諾することによつて成立する場合
もある(同法八条)。所轄庁は、成立した調停の内容を確保するため、当事者や学
校法人から必要な報告を求め、また、調停内容に違反した場合等に是正のため必要
な措置を命ずることができる(同法九条)。所轄庁の是正命令の違反者または調停
の成立しない当事者について、その者が当該役員または評議員の職にとどまつてい
たのでは学校法人の正常な管理運営を図ることかできないと認めるときは、所轄庁
は、あらかじめその者に弁明の機会を与えるとともに審議会の意見を聞いたうえ、
当該学校法人に対しその者の解職の勧告をすることができることとし(同法一〇条
一、三項)、なおこの場合、当該学校法人が勧告にかかる措置を実施することがで
きないと認められるときは、直接その者に対し辞職を勧告することができ(同法一
〇条二項)、さらに、勧告にかかる者が解職されない場合または辞職しない場合に
おいて、学校法人の正常な管理および運営を図るため他に方法がないと認められる
ときは、所轄庁は当該勧告にかかる者を解職することができる(同法一〇条四
項)。なお、本件調停法は施行の日から起算して二年を経過した日に効力を失うこ
ととされている(同法付則四項)。
三 本件解職処分とその効力
被告が昭和三八年八月二二日原告に対し本件調停法一〇条四項にもとづき学校法人
P23大学の理事および評議員を解職する旨の処分(すなわち本件解職処分)をし
たことは当事者間に争いがない。原告は本件解職処分は無効であると主張するの
で、その主張する無効事由について順次検討する。
(一) 本件調停法一〇条四項は憲法二二条一項に違反するか。
教育事業ないし私立学校運営の自由は、営業の自由の一種として、憲法二二条一項
で保障する職業選択の自由に含まれると解すべきである。さらに、私立学校の経営
者がその創意と責任において自主的に学校を管理運営していくことにより学校教育
をより豊かなものにし、ひいては憲法がひろく保障している学問の自由、思想・良
心の自由、表現の自由等の精神的自由を実質的に稔り多いものとしていくことが期
待されているというべきである。しかしながら、他方、学校教育は、国の将来を荷
うべき青少年の人づくりを目的とする事業、すなわち、あらゆる政治権力の源泉た
る主権者として各国民がその責任を分担していくに足りる肉体的および精神的能力
を具えるようになることを目的とする事業であり、その意味で高度の公共性を有す
るものである。
教育基本法は、その前文において、民主的で文化的な国家を建設し、世界の平和と
人類の福祉に貢献しようとする憲法の理想の実現は根本において教育の力にまつべ
きものであり、個人の尊厳を重んじ、真理と平和を希求する人間の育成を期すると
ともに、普遍的にしてしかも個性豊かな文化の創造をめざす教育を普及徹底しなけ
ればならないとし、六条一項において、法律に定める学校は公の性質をもつもので
あつて、国または地方公共団体のほか法律に定める法人のみがこれを設置すること
ができるとしている。これをうけて、私立学校法は、学校法人の設立、管理、解散
について規定をおき、設立の際の寄付行為やその後の寄付行為の変更を所轄庁(同
法四条により私立大学および私立大学を設置する学校法人の所轄庁は被告とされて
いる。)の認可にかからしめ、国または地方公共団体による補助金の交付等による
助成と助成を受けている学校法人に対する所轄庁の勧告権限を定め、また、私立学
校や大学の学部等の設置廃止を所轄庁の認可にかからしめ、所轄庁の私立学校に対
する報告書の提出を求める権限や私立学校が法令の規定に違反した場合等の閉鎖を
命ずる権限を規定し、さらに、学校法人が法令の規定に違反し、または法令の規定
にもとづく所轄庁の処分に違反した場合において、他の方法により監督の目的を達
することができない場合には、所轄庁は学校法人に対し解散を命ずることができる
旨を規定している。これら私立学校法にもとづく学校法人ないし私立学校に対する
規制は、私立学校の特性にかんがみ、その自主性を重んじるとともに、公共性を高
めることにより、私立学校の健全な発達を図ることを目的としているわけである
(同法一条)。換言すれば、私立学校の教育を個性豊かな創意にみちたものにする
ためには、これを設置している学校法人の管理運営の自主性を尊重する必要がある
とともに、教育め公共性の面からは、右管理運営が正常に行なわれ、これにより私
立学校の教育が円滑に実施されることが公共の福祉の強く要請するところとなるの
である。すなわち、学校法人ないし私立学校に対する種々の規制は、教育の公共性
という公共の福祉の観点から合理化されるわけであるが、いかなる規制でも許され
るというものではなく、その限界(すなわち、規制が許される場合とその方法・程
度についての限界)は右公共性の要請と私立学校経営の自由ないし学校法人におけ
る管理運営の自主性の要請との調和点に求められなければならない。
ところで、本件調停法一〇条四項は、被告に対し学校法人の理事や評議員を解職す
る権限を与える点で、私立学校経営の自由ないし学校法人における管理運営の自主
性を制限し、これに干渉することを認めるものであることは明らかである。そこ
で、この制限ないし干渉が許されるものであるかどうかを考えるに、本件調停法
は、前記のとおり、学校法人紛争が生じ、これにより学校法人の正常な管理運営が
行なわれなくなり、かつ、そのため当該学校法人が法令の規定に違反するに至つた
場合に、まず調停委員による調停により紛争の当事者間に自主的に紛争を解決させ
ることを第一義とし、調停が成立しない場合には、その成立しない当事者が理事等
の職にとどまつていたのでは当該学校法人の正常な管理運営を図ることがでぎない
と認められるときは、あらかじめその者に弁明の機会を与えるとともに、審議会の
意見を聞いたうえで、その者の解職ないし辞職の勧告をなし、それが聞き入れられ
ない場合に学校法人の正常な管理運営を図るため他に方法がないと認められるとき
に、最後の手段として所轄庁による理事等の解職が認められることになつているの
である。学校法人紛争が生じ、その正常な管理運営が妨げられ、学校法人が法令の
規定に違反し、その結果、学校教育の円滑な実施が行なわれなくなることは、何よ
りも教育を受ける学生に対しきわめて悪い影響を及ぼすものであるから、国家がこ
のような紛争の解決のために最大の協力をすることはまさしく公共の福祉の要請に
応えるところといわなければならず、学校法人における正常な管理運営を回復する
ために、他に方法がないと認められる場合に(この要件の認定は所轄庁の恣意に委
ねられているものではなく、公平な第三者が客観的にみて他に方法がないと認めら
れる場合であることを要すると解すべきである。)、調停や審議会への諮問という
慎重な手続を経たうえで、学校法人に対する解散命令(私立学校法六二条)といつ
た終局的な段階に至る前の救済方法として被告に理事等の解職権を認めることは、
教育の公共性という公共の福祉の観点からみてまことにやむをえないものといわな
ければならない。ことに、前記認定のような学校法人字城大学における紛争のよう
に、紛争が長期化かつ深刻化し、まつたく異常な事態が持続する場合には、私立学
校における教育の円滑な実施を確保し、学生の正常な教育を受ける権利を守るため
に、本件調停法一〇条四項のような制度を設けることは十分承認されうると解すべ
きである。
以上は、主として学校法人自体の私立学校経営の自由ないしその管理運営の自主性
と教育の公共性という観点から、本件調停法一〇条四項が憲法二二条一項に違反し
ないかどうかを検討したのであるが、さらに、特定個人が学校法人の理事等になる
自由ないし理事等の地位を行政権によりみだりに奪われない自由との関連において
も検討する必要がある。これらの自由が憲法二二条一項で保障する職業選択の自由
に含まれることは明らかであるが、これらの自由も絶対無制限のものではなく、公
共の福祉に反しないかぎりで認められるものであるところ、右に述べたように、学
校法人における正常な管理運営を回復し、教育の公共性を実現するために慎重な要
件と手続の下に被告に対し理事等の解職権を認めても、公共の福祉の観点からやむ
をえないものというべく、教育という高度の公共性を有する事業を経営する学校法
人の理事等という特殊の職業を選択した者としては高度の公共性の面からくる右の
自由に対する制限ないし干渉を承認するほかないというべきである。
したがつて、本件調停法一〇条四項は憲法二二条一項に違反するものではない。
原告は、行政権が私立大学の理事等の地位に干渉しうるのはその者が法律に違反し
たとかあるいは不正行為をしたとかいう場合に限られるべきである旨主張するが、
右干渉が許されるものであるかどうかは、前記のとおり私立学校経営の自由(理事
等の職業を選択する自由を含む。)ないし学校法人における管理運営の自主性の要
請と教育の公共性の要請との兼合いによつて判断されるべきであり、原告主張のよ
うな要件を必ずしも必要とするものではない。
なお、本件調停法一〇条四項により被告に理事等の解職権が認められるのは、これ
により学校法人の正常な管理運営を回復し、私立学校教育の円滑な実施に資するた
めであつて、すなわち、学校法人紛争により危機に陥つている学問の自由等の精神
的自由を回復するためにほかならないから、これらの自由を侵害するものでないこ
とはいうまでもない。
(二) 本件調停法は単一事件処理のためのものであつて、憲法に違反するか。
本件調停法が、学校法人P23大学の紛争をきつかけとし、この紛争の解決方法を
模索する過程で生まれたものであることは前記本件調停法制定の経緯について述べ
たところからも明らかであり、それが二年間の限時法とされていることや成立に争
いがない甲第四二号証の二によれば本件調停法案が衆議院の文教委員会において審
議された際、当時の文部大臣が同法案を成立させて適用しようと考えているのは当
面卒直にいつてP23大学の問題以外にはなかろうと思う旨答弁していることが認
められることを合わせ考えれば、本件調停法は主として学校法人P23大学の紛争
に適用することを意図して制定されたものということができよう。
しかしながら、その法文を見れば明らかなように、本件調停法は、必ずしも学校法
人P23大学の紛争にのみ適用することを当然の前提としているものではなく、ひ
ろく学校法人紛争に適用することができるような形で制定されているのであつて、
この点において原告の主張は前提を欠き理由がないといわなければならない。
(三) 本件解職処分は法律の根拠を欠くか。
原告は、本件調停法一〇条四項は、学校法人の理事ないし評議員が紛争の解決を訴
求し、すでに裁判所の判断が示されている場合には適用されないものと解すべきで
ある旨主張するが、同条項の法文のうえからも、また、本件調停法の制定に関する
資料である前掲二、(一)の各証拠を検討してみても、原告主張のように制限的に
解すべき根拠は何ら存在しない。
したがつて、本件解職処分は本件調停法一〇条四項という法律の根拠にもとづいて
なされたものである。
(四) 本件解職処分は憲法三二条および七六条二項後段に違反するか。
本件解職処分当時本件名古屋高裁事件が係属しており、本件地位保全判決や本件管
理人引渡判決がなされていたことは当事者間に争いがない。
(1) 原告は、本件解職処分は本件名古屋高裁事件における原告の裁判を受ける
権利を侵害する旨主張する。
原告が本件解職処分後に本件名古屋高裁事件の訴えを取り下げたことは当事者間に
争いがないから、右事件はこれにより終了したものというべく、本件解職処分によ
り右事件における原告の裁判を受ける権利が侵害された旨の原告の主張は失当であ
る。
のみならず、何人も裁判所において裁判を受ける権利を奪われないことは憲法三二
条の保障するところであるが、そこで保障されているのは本案の裁判を受ける権利
にとどまり、本案において勝訴の裁判を受ける権利までも保障されているわけでは
ないと解すべきである。本件解職処分は学校法人P23大学における原告の理事お
よび評議員たる地位を将来に向つて失わしめるものであり、それには行政処分とし
てのいわゆる公定力があるため、本件名古屋高裁事件においては、少なくとも本件
解職処分がなされた以後は同処分のなされたことが弁論に上程されるかぎり原告の
理事および評議員たる地位を否定せざるをえず(もつとも、本件解職処分が無効と
判断される場合にはこのかぎりでないことはいうまでもない。)、したがつて、原
告の理事および評議員たる地位の確認を求める請求は棄却されざるをえないことに
なるが、これはとりもなおさず本案についての裁判にほかならず、原告の本案の裁
判を受ける権利は本件解職処分により何ら影響を受けないのである。したがつて、
本件名古屋高裁事件における原告の裁判を受ける権利が本来解職処分により侵害さ
れた旨の原告の主張は、この点からも失当である。
(2) 原告は、本件解職処分は行政機関である被告が学校法人P23大学におけ
る原告の理事たる地位の存否に関し終局的に判断を与えるものであり、憲法七六条
二項後段に違反する旨主張する。
本件名古屋高裁事件における審判の対象(訴訟物)は学校法人P23大学における
原告の理事の地位の存否であり、原告が理事の地位を取得したかどうか、取得した
としてその後喪失したかどうかが争点となるものであるところ、本件解職処分は、
これらの争点について裁判所に代つて事実を認定し、法律判断をするものでは決し
てなく、原告が理事の地位にあることを一応前提としたうえで、学校法人P23大
学における紛争(それには法律的紛争とともに非法律的紛争も多く含まれてい
る。)の一切を考慮し、同大学における正常な管理運営を回復し、教育の公共性へ
の侵害を除去するという観点からなされる行政措置なのである。もとより、この行
政措置としての本件解職処分に対しては、これにより権利ないし法律上の利益を侵
害されたと主張する者は抗告訴訟を提起し、司法的救済を求めることができること
はいうまでもない(現に本訴がそれにあたる。)。
したがつて、本件解職処分が憲法七六条二項後段に違反する旨の原告の主張は失当
である。
(3) ところで、本件名古屋高裁事件が係属しているということは、たとえその
事件の原告がその事件についてなされる裁判によつてのみ紛争を解決することを希
望し、これを提唱している場合において本、裁判以外の紛争解決方法(たとえば、
和解、調停、右(2)に述べた行政措置による解決方法など)を排除するという法
的効果を生ぜしめるものでないことは明らかである。ことに、学校法人P23大学
における紛争のように法律的紛争のほかに非法律的紛争も多く含まれている場合に
は、右の理は一層明らかである。そして、この場合に裁判以外の紛争解決方法がと
られても、これにより司法的解決方法(裁判)を抑止し、司法権を侵害したもので
あるとの非難があたらないことはいうまでもない。
また、本件地位保全判決がなされているということは、以後、何人も別個の事実関
係や法令の根拠にもとづき理事の地位を新たに喪失せしめるような行為をしてはな
らないとの法的効果を生ぜしめるものではないのである。このことは、右仮処分判
決の性質を暫定的・確認的なものと考えるかそれども形成的なものと考えるかによ
つて異なるものではない。
さらに、本件解職処分は原告の学校法人P23大学における理事および評議員たる
地位を解職するものであり、Aに対し裁判所の選任した管理人に入学金や授業料等
の金員の引渡し等を命ずる本件管理人引渡判決とは直接には何らの関係をももたな
いものである。
してみれば、本件解職処分が本件地位保全判決や本件管理人引渡判決をふみにじ
り、司法権を侵害するものである旨の原告の主張は失当である。
(五) 本件解職処分は憲法三一条に違反するか。
一般に行政手続にも憲法三一条が適用されるかどうかはともかく、営業の自由ない
し職業選択の自由に対する制限ないし干渉が問題となる場合には少なくとも同条の
精神に反することは許されないと解するのが相当である。ところで、本件調停法に
よれば、前記のとおり、調停委員による調停・解職または辞職の勧告・解職処分と
いう手続を段階的に踏むことになつており、解職または辞職の勧告をするにあたつ
ては当該勧告にかかる者に対し弁明の機会を与えるとともに審議会の意見をきかな
ければならないことになつている。すなわち、本件解職処分がなされるにあたつて
は慎重な手続を踏むことが要請されるとともに、調停委員による調停および解職ま
たは辞職の勧告にあたつての弁明の機会において原告の言い分は十分に聴取される
ことになつているのであるから、憲法三一条の精神に反することはないといわなけ
ればならない。
原告は、本件調停法制定当時すでに学校法人における正当な理事は誰であるかとい
う紛争につき民事訴訟が提起されていた場合にも同法一〇条四項の適用が許される
とすれば、それは民事紛争の解決については裁判権が至上であると考えて民事訴訟
を提起した国民に対し同条項を遡及的に適用することにほかならず、憲法三一条の
精神に違反する旨主張する。しかしながら、民事訴訟が係属しているということは
それ以外の紛争解決方法を排除するという法的効果をもつものでないことは前述の
とおりであるから、本件調停法制定当時同法に定める学校法人紛争が現に存在する
以上これに同法を適用しても遡及適用かどうかの問題は生じないと解すべきであ
る。
(六) 本件解職処分は憲法二九条に違反するか。
原告は、本件解職処分は原告の学校法人P23大学における理事ないし理事長とし
ての月額一〇万円の報酬請求権を公共の福祉のために奪うものであるから、正当な
補償をしない以上、憲法二九条に違反する旨主張する。
しかしながら、学校法人の理事ないし理事長は、学校法人より委任ないし委任類似
の契約によりその業務の管理運営を委ねられている役員であつて、法律上当然に報
酬請求権を有するものではないのである。原告の場合仮にその主張のように月額一
〇万円の報酬請求権を有していたとしても、それは原告が理事ないし理事長の地位
にあることを前提とし、かつ、原告と学校法人P23大学との特約にもとづき認め
られるところの、理事ないし理事長たる地位より派生的・付随的に生じたものとい
うべきである。したがつて、本件解職処分により原告の理事ないし理事長たる地位
が将来に向つて失われる結果、原告主張の報酬請求権も以後発生しなくなるのであ
るが、それは本件解職処分の派生的・付随的効果にすぎないとかうべきである。す
なわち、原告の理事ないし理事長たる地位は憲法二九条にいう財産権ないし私有財
産にはあたらないと解するのが相当である。さらに、また、本件解職処分は公共の
福祉のためになされるものではあるが、学校法人の理事ないし理事長たる地位はそ
もそも公共的使命を有すべきものであるところ、これが果たせなくなつている場合
に、これを回復するためになされるものであつて、それは私有財産を公共のために
用いる場合にはあたらないと解するのが相当である。
これを要するに、本件解職処分が憲法二九条に違反する旨の原告の主張は失当であ
る。
(七) 本件解職処分の手続は違法であるか。
原告は、本件解職処分に先立つて行なわれた調停委員による調停および辞職の勧告
(の際の私立大学審議会の意見)はいずれも違法であるから、本件解職処分は無効
である旨主張する。
調停委員による調停および辞職の勧告と本件解職処分とは一応別個独立の行為とし
て前者の違法は後者には影響を及ぼさないと一応みることもできるが、本件解職処
分は営業の自由ないし職業選択の自由に対する公共の福祉の観点からの制限ないし
干渉たる性質を有し、それが慎重な手続を経て行なわれることも本件解職処分が憲
法二二条一項や三一条に違反するものではないとする理由の一つであることは前述
のとおりであるから、調停委員による調停や辞職の勧告という手続を踏んでおくこ
とが本件解職処分をするための必要不可欠の前提をなすといわなければならない。
したがつて、調停委員による調停や辞職の勧告という手続を踏まなかつた場合はも
とより、これを形式的には踏んでも実質的には踏まなかつた場合と同視しうる場
合、すなわち調停委員による調停や辞職の勧告が無効と解されるような場合には、
本件解職処分も無効となるもめと解するのが相当である。そこで、本件解職処分に
先立つて行なわれた調停委員による調停および辞職の勧告が無効と解されるかどう
かについて判断する。
(1) 調停は無効か。
原告は、まず、被告が学校法人P23大学紛争の調停のために任命した調停委員は
いずれも右紛争に利害関係を有するものであつて、公正な第三者とはいえない旨主
張する。調停委員は事件ごとに審議会の委員その他の者で学識経験を有するものの
うちから所轄庁により任命されるのであるが(本件調停法四条一項)、具体的に誰
を調停委員に任命するかはその事柄の性質上所轄庁の広範な裁量に委ねられている
ものと解するのが相当である。したがつて、仮に公正な第三者と思えない者を調停
委員に任命したとしても、そのために調停手続全部が無効となるものではない。
のみならず、被告が学校法人P23大学の紛争の調停委員としてC、B、Eおよび
Dの四名を任命したことは当事者間に争いがないところ、証人P5の証言および同
証言により成立が認められる乙第三三号証の一ならびに証人P4および同Cの各証
言によれば、Cは、早稲田大学総長で私立大学審議会の委員であり、もと私立大学
連盟の会長も六、七年間務めたことがあること、Bは、日本医科大学理事長で私立
大学協会の会長もし、学校法人P23大学の第一次紛争中名古屋地方裁判所により
調停委員に任命されて調停にあたり、それが不調に終つた後も個人的な努力によつ
て右第一次紛争を和解に導いたものであり(これらのことは前記認定のとおりであ
る。)、私立大学審議会の委員をしていたこと、Eは、愛知県知事であり、Dは、
東海銀行頭取で名古屋商工会議所会頭をしていたことが認められるが、右四名の者
が学校法人P23大学の紛争に利害関係を有し、公正な第三者とはみられないこと
を認めるに足りる証拠はない。むしろ、右認定の事実によれば、CとBは私学界の
代表として、Eは地元政界の、Dは地元財界の各代表として、しかもBは学校法人
P23大学紛争の事情にも通じている者として選ばれているのであつて、その任命
は正に当をえたものとさえいうべきである。
次に、原告は、調停委員会の運営は違法である旨主張するが、調停委員会の運営を
どのようなものにするかについては本件調停法およびその施行令に若干の規定があ
る(たとえば、本件調停法五条では調停委員は期日を定めて当事者に対し出頭を求
めてその意見をきき、または資料の提出を求めることができる旨を、施行令四条で
は調停委員は委員長を互選し、委員長は調停委員を代表する旨を、同五条では調停
は調停委員の合議によつて行なう旨などを規定している。)ほか、特別の法令の規
定がないので、事柄の性質上調停委員の広範な裁量に委ねられているものと解する
のが相当である。したがつて、調停委員会の運営上の問題は原則として調停手続を
無効ならしめるものではないと解すべきである。
のみならず、証人P5の証言および同証言により成立が認められる乙第三三号証の
一、二ならびに証人P4および同Cの各証言によれば、本件調停法にもとづく調停
委員の庶務に関する事項は文部省組織令により文部省管理局振興課の所掌事務とさ
れていたため、同局長や同課長その他同課の職員が調停委員会の庶務を担当した
が、調停手続そのものはC委員長はじめ調停委員が主体的にこれを進めたこと、調
停委員が調停のため直接原告と面接したのは昭和三七年九月七日、同年一二月七
日、昭和三八年三月一日、同月九日、同月一四日、同月二三日、同年六月六日、同
月七日の八回に及んでいることが認められ、この認定に反する証拠はないので、調
停委員会の運営が違法である旨の原告の非難はあたらない。
次に、原告は、調停の内容が違法である旨主張するが、原告との間には調停が成立
しなかつたのであるから、原告の右主張は調停委員が受諾を勧告した調停案の内容
が違法である旨の主張であると解したうえで考.えるに、調停はもともと調停委員
の斡旋によつて当事者間に合意が成立しあるいは調停委員の示した調停案を当事者
が受諾することによつて紛争を解決することを目的として行なわれる一連の手続で
あるから、調停委員の示した調停案の内容が仮に違法であつたとしても、調停手続
全部が無効となるものではないと解するのが相当である。のみならず、民事裁判と
本件調停法にもとづく調停とはそれぞれ独自の存在意義をもつた紛争解決のための
法的制度であるところ、本件地位保全判決や本件管理人引渡判決がなされていると
いうことは他の紛争解決制度による紛争の解決を排除するものではないと解するの
が相当であるから、仮に調停委員の示した調停案の内容が本件管理人引渡判決と牴
触するとしても、そのことのゆえに違法となるものではないというべきである。ま
た、原告は、調停委員の示した調停案の内容はいわゆる三者審議会による経営の違
法な管理を是認する結果になる旨主張するが、前記本件調停法の制定に関して述べ
たとおり(二、(一)、そもそも本件調停法はいわゆる三者審議会による経営の違
法な管理をも含めて学校法人P23大学における紛争を早急に解決し、正常な管理
運営を回復するために制定されたものであり、本件解職処分に先立つて行なわれた
調停も右のような目的のためのものであることは証人P4、同P5および同Cの各
証言によつて認めうるところであるから、原告の右主張は失当である。さらに、原
告は、調停委員の示した調停案の内容はF一派による国有土地の払下げ・転売の不
正行為を隠ぺいするものである旨主張するが、右不正行為と右調停案との間に関連
性を認めることができないことは後記認定のところから明らかであるから、原告の
右主張も失当である。
(2) 辞職の勧告は無効か。
原告は、被告は辞職の勧告をするにあたり私立大学審議会の意見を聞いたが、同審
議会の委員は被告の意のままになる者ばかりで、公平な第三者とはいえない旨主張
する。しかしながら、私立大学審議会の委員は私立学校法一九条二項により「私立
大学の学長若しくは教員又は私立学校を設置する学校法人の理事」および「学識経
験のある者」のうちから被告により任命されることになつており、その任命にあた
つては学識経験者をどの程度任命できるかといつた定数について(同条三、四項)
と委員候補者の推選について(同法二〇条)法の制約があるほかは、具体的に誰を
委員に任命するかは事柄の性質上被告の広範な裁量に委ねられているものと解する
のが相当である。したがつて、右任命の適否は私立大学審議会の答申を無効とする
ものではないと解すべきである。
次に、原告は、私立大学審議会の審議は密行され、原告に対し弁明の機会が与えら
れず、被告提出の資料のみにもとづいて行なわれたので違法である旨主張する。し
かしながら、私立大学審議会の審議へ原告のような紛争の当事者を出席させ、弁明
の機会を与えるべきである旨を定めた規定はないから、右のような機会を与えなか
つたとしても違法となるものではなく(本件調停法一〇条三項によれば、辞職の勧
告をするにあたつては所轄庁により当該勧告にかかる者に対し弁明の機会が与えら
れることになつてやる。)、また、私立大学審議会の審議が被告提出の資料のみに
もとづいて行なわれたとしても、これを違法とする旨の規定は何ら存在しない。
次に、原告は、私立大学審議会への諮問にあたり被告のした紛争の事案の説明が不
十分であり違法である旨主張する。しかしながら、私立大学審議会への諮問にあた
りいかなる事情をいかなる程度に説明するかということは諮問を求める被告の広範
な裁量に委ねられていると解するのが相当であるから、原告の右主張は失当であ
る。
(八) 本件解職処分は本件調停法一〇条四項の要件をみたすか。
原告は、本件解職処分は本件調停法一〇条四項にいう「当該学校法人の正常な管理
及び運営を図るため他に方法がないと認めるとき」にあたらないのになされたもの
であるから無効である旨主張する。そこで、本件解職処分以外にも学校法人P23
大学の紛争を解決し、教育の公共的使命を果たすべき方法があつたかどうかについ
て検討する。
(1) 前記一において述べたように、昭和一二四年七月に学校法人P23大学に
第二次紛争が発生し、次第にそれは深刻化し、かつ、長期化するに至つた。理事や
評議員たちは離合集散をくり返し、二派、三派に分裂して互に自派の正当性を主張
し、対立派の人々の地位を否認して抗争亡、そのため誰が正当な理事、評議員であ
るか容易に確定しがたい状態が継続し、理事会や評議員会といつた学校法人P23
大学における管理運営機関はまつたくその機能を喪失してしまつた。そして、学校
法人P23大学における大学部の財政面はいわゆる三者審議会が、教学面は協議会
がそれぞれ事実上管理するという違法状態が続いた。原告は、紛争の当初よりHを
支持し、同人と行動を共にしてきたが、昭和三五年五月ごろに至り同人と意見の対
立をきたし、同月一一日同人より理事長、理事の地位を一方的に解任されるや、本
件地位保全判決をえて理事の地位を保全した。同判決においては、Hの理事長とし
ての職務執行を停止し、もと名古屋弁護士会会長をしたこともあるVがその職務代
行者に選任されたが、紛争は一向に解決するに至らなかつた。同年一一月一一日H
が死亡した後は、原告を中心とする派、Aを中心とする派、Iを中心とする派の三
派に分裂して抗争を続け、相互に理事長、理事、学長等の地位の存在または不存在
確認請求等の民事訴訟を提起し、これらの訴訟を本案とする仮処分を申請し、その
数は数十に及んだ。また、相互に刑事告訴も行なわれた。紛争、か深刻化し、か
つ、長期化するにしたがい、各方面より被告に対し私立大学の公共性の見地から紛
争の解決に積極的に乗り出すよう強い要望がなされるに至つた。そこで、被告は、
昭和三五年一月B、XおよびYの三名に紛争当事者間の調停を依頼し、同人らが調
停に努めたがこれも成功しなかつた。そして、前記二、(一)に述べたような事情
により本件調停法が制定されるに至つた。
(2) 成立に争いがない甲第三号証、同第一一号証、同第一二号証、同第一四号
証、同第一七号証の一、二、同第五〇号証、同第五一号証、乙第一号証、同第一八
ないし第二〇号証、同第二六ないし第三一号証、その方式および趣旨により公務員
が職務上作成したものと認められるので真正な公文書と推定すべき乙第三二および
第三四号証、証人P5の証言により成立が認められる乙第二三および第二四号証、
同第二五および第三三号証の各一、二、証人P3の証言により成立が認められる丙
第五号証、証人P4、同P5、岡P3、同Cおよび同Sの各証言ならびに原告本人
尋問の結果(第一、二回)を総合すれば、本件調停法にもとづく調停および辞職の
勧告の経緯は次のとおりであつたことが認められ、この認定を覆えずに足りる証拠
はない。
本件調停法が制定された後、Aより同法三条にもとづく調停開始の申出がなされた
りしたが、被告は学校法人P23大学の紛争について職権をもつて調停を開始する
ことにし、私立大学審議会の意見を聞いたうえ昭和三七年七月一〇日調停委員とし
て前記認定のとおりC、B、Eおよび鈴木享市の四名を任命するとともに、調停に
かかる当事者としてP6、P7、原告、P8、P9、P10、P11、S、P1
2、P13、I、W、伴林、A、K、P14、P15の一七名を指定した。同月二
六日第一回調停委員会が開かれ、Cを委員長に互選し、文部省当局より紛争の経過
および現状の説明を受けた。以後昭和三八年六月二一日までの間、調停委員会は回
を重ねてあるいは東京においておるいは名古屋において直接当事者に面接して意見
を聴取し、当事者提出の文書により事情を把握し、当事者間に種々斡旋を試みた
(なお、Bは昭和三七年九月一六日に死亡したので、その後の調停活動は残りの三
調停委員によつて行なわれた。)。しかしながら、当事者は三派に対立したまま、
ついに合意の成立に至らなかつた。ことに原告は調停開始直後の昭和三七年七月二
六日に文部大臣を被告として東京地方裁判所に本件調停法は憲法違反の法律である
ことを理由に調停委員任命の無効確認を求める訴えを提起し(のちに、原告を紛争
当事者としてした調停手続開始決定の無効確認を求める訴えに変更した。)、調停
に対し非協力的な態度を示した(東京地方裁判所は昭和三八年一一月一二日に原告
の請求を棄却する旨の判決を言い渡した。)。
三 派の主張の要点は次のとおりであつた。
(ア) A派
紛争の原因はHを中心とする理事の大学経営のあり方を理解しない運営にあり、原
告派はこれに同調し、助長してきたもので、役員、評議員として不適当である。ま
た、原告派は正規の手続を経ることなく財産を不当に処分するなど違法行為を重ね
ており、その行動を信頼することができない。さらに、原告派の理事はその地位の
正当性に疑問がある。大学再建のためには、現在の役員、評議員は全員辞任し、一
新される必要がある。いわゆる三者審議会による管理は正当にして有能な理事会が
成立すれば移管する。
(イ) 原告派
紛争の本質はAを中心とする教授団による経営権の乗取りであり、いわゆる三者審
議会が学校を管理し、原告派の役員、評議員は学校経営より違法に排除されてい
る。この三者審議会による経営管理を解消し、法人の運営を理事会に回復し、教職
員側の背任を追及する必要がある。ことに、本件管理人引渡判決において三者審議
会の保管する授業料等の金員は裁判所の選任する管理人に引き渡すことが命じられ
ているにもかかわらず、これが履行されないのは法秩序を無視するものである。右
判決が履行されることが先決である。
(ウ) I派
紛争の本質は一部教授団の経営権の乗取りであり、その責任を追及する必要があ
る。しかし、役員、評議員は大学の公共性を無視した経営を行ない、P23大学の
運営を混乱に陥入れた責任があり、全員辞任すべきである。
三派の主張の要点は右のとおりであり、それぞれ自説を固執して譲ろうとしなかつ
た。この間、昭和三八年一月一七日以降、P16名古屋高裁長官の依頼を受けてP
17名古屋大学総長が紛争当事者間の斡旋に乗り出し、各派間の斡旋に努めたが、
結局、これも成功するに至らず、ついに同総長は同年三月一五日斡旋を打ち切つ
た。
調停委員は、学校法人P23大学における紛争の経過および調停の経過を総合的に
考察した結果、右紛争を解決し、破綻に瀕している同大学を再建するためには管理
機関の地位を争いのない状態にすることが先決であり、そのためには従来役員また
は評議員と称している者その他紛争について重要な役割を演じたと認められる者に
その地位から去つてもらい、私立学校法にもとづき所轄庁が職権により仮理事を選
任し、これに事後処理および再建の方策の一切を委ねる以外に適当な解決策はない
との結論に達した。そこで、調停委員は、同年六月二二日別紙調停案記載の内容の
調停案を作成し、これを全当事者(同月一五日にP18、P19およびP20の三
名が新たに当事者に加えられ、当事者は二〇名になつていた。)に示し、同月三〇
日までに受諾するよう勧告した。これに対し、原告、KおよびP11の三名は右調
停案を受諾しなかつたが、その余の一七名はこれを受諾した(ただし、調停案にか
かる調停条項第一項にもとづき役員や評議員等を辞任することについては、紛争当
事者の全員が同時に辞任することを条件に辞任することを承諾した。)。調停委員
は本件調停法八条五項にもとづき同年七月一三日再び原告ほか二名の非受諾者に対
し舞停案を受諾するよう勧告したが、右三名はついに応じなかつた。その後、同条
四項に定める手続がなされ、右一七名の受諾者の間に同年七月二〇日調停が成立す
るに至るとともに、原告ほか二名の非受諾者については調停が終了した。
被告は、学校法人P23大学における紛争の経過および調停の経過にかんがみ(調
停委員と同様学校法人P23大学の正常な管理運営を回復するためには従来の役員
や評議員等が一新される以外に方法はないとの結論に達した。ところで、前記のと
おり、調停が成立した一七名の者は紛争の当事者が全員同時に辞任することを条件
に辞任することを承諾していたので、原告ほか二名の非受諾者が辞任しない以上右
一七名の者の辞任もありえず、いぜんとして従来の役員や評議員等の地位にとどま
つているので、事態は何ら解決されないことにある。そこで、被告は、原告ほか二
名も辞任するか、辞任しなければ解職するより以外には学校法人P23大学の正常
な管理運営を回復する方法はないとの結論に達し、同年七月三一日本件調停法一〇
条三項にもとづき原告ほか二名に対し弁明の機会を与えるとともに、私立大学審議
会の意見を聞いたうえ、同条二項にもとづき同年八月一〇日原告およびKに対し理
事、評議員の地位を、P11に対し評議員の地位をそれぞれ同月一七日までに辞職
するよう勧告したが、いずれも無視された。そこで、被告は同月二二日本件解職処
分をするとともに、Kに対し理事および評議員の地位を、P11に対し評議員の地
位をそれぞれ解職する旨の処分をした。
(3) 本件調停法が制定された日の二日後に本件管理人引渡判決がなされたこと
は前記認定のとおりである。原告は、右判決に従うという方法によつて学校法人P
23大学の紛争を解決する方法があつた旨主張する。しかしながら、右判決は、仮
処分としての暫定的性質を免れず、また、いわゆる任意の履行に期待する仮処分の
一種として執行力を有せず、さらに、前記認定のとおり右判決に対してはAより控
訴がなされていて確定していなかつた。そして、被告としてはAに対し右判決に従
うよう説得することはできても、それ以上に強制力により右判決に従つた状態を実
現させる手段を有してはいなかつた。のみならず、右判決は裁判所の選任する管理
人が学校法人P23大学の金員を保管すべきことを定めたにすぎず、右管理人が右
大学の管理運営全般を行なうべき旨を定めたものではないから、これにより正常な
管理運営機関が構成されるものではなく、したがつて、従来の役員や評議員の対立
はいぜんとして続くことになるのである。すなわち、紛争の根本的な解決は右判決
に従つた状態を実現することによつてはなしえず、やはり、その地位について争い
がなく、しかも多数の支持がえられる正常な管理運営機関を構成することによつて
はじめてなしうるものというべきである。
(4) 原告が本件地位保全判決により学校法人P23大学の理事たる地位を保全
されていたことは前記認定のとおりである。原告は、右判決に従うという方法によ
つて紛争を解決するという方法があつた旨主張する。右主張が具体的にいかなる内
容を意味するか必ずしも明らかではないが、右判決により理事の地位を保全されて
いた原告に対しては本件解職処分をすることなくその理事たる地位を残すという方
法で紛争を解決する方法があつた旨の主張であるとすれば、前記認定のとおり、紛
争当事者が全員同時に辞任しない以上調停成立にかかる一七名の者も結局辞任しな
いこととなり、紛争は一向に解決しないこととなる。
(5) 原告が名古屋簡易裁判所へ民事調停の申立てをしたことは当事者間に争い
がなく、成立に争いがない乙第二二号証によれば、右調停は原告ほか五名が申立人
となりAほか二名を相手方として昭和三七年一一月二八日に申し立てたものである
ことおよびその第一回調停期日が同年一二月一二日に指定されたことが認められる
が、弁論の全趣旨によればその後の調停活動は行なわれなかつたことが認められ
る。したがつて、右調停によつて紛争を解決することは困難であつたといわざるを
えず、しかも、右調停は紛争当事者のうちの限られた者の間における調停であるか
ら、紛争全体の根本的解決を右調停に期待することは無理であるというべきであ
る。
(6) 以上(1)ないし(5)に述べたところにもとづいて考えるに、深刻化し
長期化した学校法人P23大学の紛争を全体的、根本的に解決するためには、まず
何よりもその地位について争いがなく、しかも、多数の信頼をえられる正常な管理
運営機関を構成することが必要であり、そのためには紛争の経過および調停の経過
に照らし従来の役員や評議員等とされている者はすべてその地位を退き、これを一
新する必要があり、そのためには原告を解職する以外に方法がなかつたものといわ
なければならない。したがつて、本件解職処分は本件調停法一〇条四項にいう「当
該学校法人の正常な管理及び運営を図るため他に方法がないと認めるとき」にあた
らないのになされた旨の原告の主張は失当である。
(7) 原告は、.Gは文部大臣に就任後わずか三週間たらずで本件解職処分をし
たものであり、本件調停法一〇条四項に定める解職の要件である他に方法がないか
どうかについて十分に時間をかけて慎重に判断するということをせず、もつぱら下
僚の意見を鵜呑みにしたものであつて、その判断の仕方は恣意的である旨主張す
る。しかしながら、、判断に用いた期間が短いからといつて(もつとも、被告の主
張によれば、Gが文部大臣に就任したのは昭和三八年七月一八日であるというので
あるから、本件解職処分までに三六日間あつたことになる。)、必ずしもその判断
が恣意的であるということはいえないのみならず、本件においては右(6)におい
て述べたように本件解職処分をする以外には紛争の全体的、根本的解決はできない
状態にあつたのであるから、被告(文部大臣G)の判断は正しかつたといわなけれ
ばならない。
また、原告は、本件解職処分の通知書には何故解職以外に方法がないと判断したか
の理由が示されておらず、ことに原告自身の非行が示されていないので、被告の判
断は恣意的である旨主張する。しかしながら、解職処分の通知書に理由を付すべき
ことは法令上要求されているものではなく、理由の付記が簡単だからといつて(成
立に争いがない甲第一八号証によれば、本件解職処分の通知書には「貴殿を解職す
る以外には学校法人P23大学の紛争を解決し、同法人の正常な管理および運営を
図るため他に方法がないと認めるからである」旨の理由が付記されていることが認
められる。)、その判断が恣意的であるとはいえず、また、そもそも原告に非行が
あることは本件解職処分の要件ではないのであるから、本件解職処分の通知書に原
告の非行が示されていないのはむしろ当然であるといわなければならない。原告の
前記主張は失当である。
(九) 本件解職処分は公序良俗に違反するか。
一般に、行政処分に公序良俗の法理が適用ないし類推適用されるかどうかについて
は議論のあるところである。民法九〇条は公序良俗に反する事項を目的とする法律
行為は無効である旨を規定するものであり、それは法律行為、すなわち私人の自由
な意思によつて形成される法律行為について個人意思の自治を制約するものである
から、その形成実現につき行政庁の意思の優越性が認められているところの行政処
分に関しては同条自体の適用ないし類推適用はないと解するのが相当である。しか
しながら、同条の背後にはすべての法律関係は公序良俗に反してはならないとの理
念がひそんでいると解するのが一般であるところ、この理念は単に私法にとどまら
ず、法律秩序全般に通ずる法の一般理念と解することができるので、それは行政処
分にも妥当すると解するのが相当である。
したがつて、たとえば、ある行政処分が法律の定める手続に従い、法律の定める要
件のもとに行なわれた場合でも、当該行政斤の意図する真の目的が人倫に反しある
いは社会的正義に反すると認められる場合には、その行政処分は公序良俗に反し違
法性を帯びるものと解するのが相当である。もつとも、この場合その行政処分が無
効となるかどうかは、行政処分の瑕疵についての無効と取消しの区別に関する一般
理論に従い、公序良俗に反することが重大かつ明白な瑕疵といえるかどうかによつ
て決すべきである(そして、一般に公序良俗に反することは重大な瑕疵にあたると
みることができるので、それが明白であるといえるかどうかによつて無効かどうか
が決まるということになる。)。
これを本件に則していえば、原告主張のように、被告はF派と結託し、F派による
鷹来工廠跡地の払下げ・転売による不正利得(これをえるために学校法人P23大
学に紛争をまきおこした。)および三者審議会の教授団による経営の違法管理にも
とづく不正利得を隠ぺいするとともにF派による学校法人P23大学の経営権の収
奪を実現することを真の目的として、その障害となる原告に対し本件解職処分をし
たという事実が仮に認められるとするならば、本件解職処分は、それが本件調停法
に定める手続と要件に従つて行なわれたものであるとしても、公序良俗に反し違法
性を帯びるものと解すべきである。
そこで、原告の右主張事実の有無について考えるに、原告はその本人尋問(第一、
二回)の際右主張に副う供述をし、また、成立に争いがない甲第五六号証によれ
ば、昭和四〇年二月一六日に開かれた衆議院の大蔵委員会においてP21議員が
「承知をしておつたとなつたらまことにもつてこれはけしからぬ処分のしかたで
す。なぜならばP23大学の理事を追い出すためにだれがその理事にかわりに入つ
たかというと東洋プライウツドの社長のP22という人が学校の仮理事に飛び込ん
でさらにそれと提携をしている親分子分のような深い関係にある人、すなわち名古
屋前商工会議所会頭Fというのですが、この経済界に顔のきく人も理事に入れたわ
けです。そして払下問題をめぐつてこの二人の実力者に反対する者の首をちよん切
ろうというので、ちよん切るために政治家を動かし財界を動かして私学紛争に関す
る特別法まで国会でつくらせて、公共のために国の土地を使いたいという人たちを
追つ払い東洋プライウツドにこれが売り払われた。まことにもつて奇々怪々な事件
ですよ。そういうことを知つておつて東洋プライウツドに払い下げしたとなつた
ら、まことにもつて財務局の処置は手抜かり――手抜かりでは済まされない、その
裏に何かがある、この事件は汚職のにおいがぷんぷんとしている、そうあなたはお
考えになりませんか。」と大蔵省国有財産局長に対して質問していることが認めら
れる。さらに、旧鷹来工廠跡地のうち学校法人P23大学が借用していた南北両端
の約八万坪を除く中央部約一三万坪が昭和三八年一月九日および同年四月二七日の
二度に分けてFが代表取締役をしていた東洋プライウツド株式会社へ払い下げられ
たこと、本件解職処分後に被告は七名の仮理事を選任したが、その中にFのほか右
旧鷹来工廠跡地の東洋プライウツド株式会社への払下げを答申したころの国有財産
東海地方審議会の委員をしていたLおよびEが含まれでいたことは当事者間に争い
がない(原告は、さらに、仮理事に選任されたZは東洋プライウツド株式会社のも
と嘱託をしていたことがあり、Mは国有財産東海地方審議会の委員をしていた旨主
張する。右両名が仮理事に選任されたことは当事者間に争いがないが、郵便官署作
成部分の成立については当事者間に争いがなく、その余の部分については原告本人
尋問の結果《第一回》により成立が認められる甲第五七号証の一、二によれば、原
告およびKあての各書簡中にZがかつて東洋プライウツド株式会社の相談役をして
いたことがある旨の記載があることが認められるけれども、右書簡には署名がなさ
れておらず、右書簡のみではZがもと東洋プライウツド株式会社の嘱託をしていた
ことを認めるに十分でなく、他にこれを認めるに足りる証拠はない。また、原告本
人尋問の結果《第一回》により成立が認められる甲第二七号証によれば、Mが国有
財産東海地方審議会委員名簿に記載されていることが認められるが、同号証によれ
ばそれは昭和三八年九月三〇日現在の委員名簿であることが認められるので、Mが
鷹来工廠跡地約一一二万坪の東洋プライウツド株式会社への払下げを答申した当時
《成立に争いがない甲第三五号証によれば、それは昭和三五年八月一日であること
が認められる。》の国有財産東海地方審議会の委員であつたことを認めるに十分で
なく、他にこれを認めるに足りる証拠はない。)。
しかしなから、原告本人もP21衆議院議員も被告がF派と結託している事実を具
体的に明らかにしていないのみならず、証人Mおよび同P5の各証言によれば、学
校法人P23大学の紛争が始つてから本件解職処分がなされるまでの間に文部大臣
も管理局長も数回交代があつたことが認められるところ、そのうちの誰とあるいは
すべてとF派がどのように結託したかについて原告は何ら主張しない。これを要す
るに、学校法人P23大学の紛争の真相が、仮に原告主張のように、F派による鷹
来工廠跡地の払下げ・転売による不正利得および三者審議会による経営の違法管理
による不正利得を隠ぺいするとともにF派による学校法人P23大学の経営権の収
奪にあつたとしても、前記原告本人尋問の結果(第一、二回)および甲第五六号証
によつては被告とF派とが結託していた事実を認めるに十分でなく、また、被告よ
り学校法人P23大学の仮理事として選任された七名のうち三名が鷹来工廠跡地の
払下問題に関係をしていたという事実を合わせ考えても被告とF派が結託していた
事実を認めるに十分ではないといわなければならない。その他右結託の事実を認め
るに足りる証拠はない。
してみれば、本件解職処分が公序良俗に反する旨の原告の主張はその余の点を判断
するまでもなく失当ということになる。
四 結論
以上のとおり、原告の主張する本件解職処分の無効事由はいずれも認めることがで
きないので、本件解職処分の無効確認を求める原告の請求は理由がないことにな
る。
第二 本件解職処分の取消請求について
一 本訴の適否
本件解職処分が昭和三八年八月二二日になされたものであることは前記認定(第
一、三)のとおりであり、本件解職処分無効確認の訴えが同年九月三日に提起され
たものであることは本件記録上明らかである。したがつて、本件解職処分無効確認
の訴えは同処分取消訴訟の出訴期間内に提起されたものであることが明らかであ
る。ところで、行政処分取消訴訟の出訴期間内に提起された行政処分無効確認請求
にはその取消請求を含むものと解すべきであるから(最高三小昭和三三年九月九日
判決、民集一二巻一三号一九四九頁参照)、本件解職処分無効確認請求にはその取
消請求も含まれているものと解すべきである。この考えに立てば、本件解職処分無
効確認の訴えを同処分取消訴訟の出訴期間内に提起した原告が新たに同処分取消請
求を追加的に併合することは無意味であり、同処分の違法性の有無については同処
分無効確認請求に含まれているところの同処分取消請求において判断すべきであ
り、予備的な同処分取消しの訴えは不適法として却下すべきであるようにも思われ
る。しかしながら、原告がまず行政処分の無効確認を求め、それが認められない場
合に予備的にその取消しを求めたいという意思を有している場合には、この意思を
不合理なものとして無視してしまうのは相当でなく、法律上も考慮に値するものと
してこれを尊重するのが相当である。本件記録によれば、原告は当初本件解職処分
無効確認の訴えを提起していたが、昭和四七年八月二九日の第四二回口頭弁論期日
において陳述した第三〇準備書面において本件解職処分取消請求を予備的に求める
旨の請求の趣旨の変更の申立てをしていることが明らかであるから、右変更の申立
てがなされた時点において、当初本件解職処分無効確認請求に含まれていた同処分
取消請求(選択的併合の形で含まれていたと解するのが相当である。)がその併合
の態様につき予備的併合の形に変更されたものと解するのが相当であり(もとよ
り、この場合には出訴期間の遵守に問題はないと解すべきである。)、以後本件解
職処分の取消事由の存否はもつぱら予備的に併合された同処分取消請求の中におい
て判断するのが相当である。
二、本件解職処分の違法性の有無
原告が本件解職処分の違法事由として主張するところのものがいずれも違法でない
ことは前記(第一、三)のとおりである。そして、前記第一、三、(七)および
(八)において述べたところによれば、本件解職処分は、本件調停法に定める手続
に従い、同法一〇条四項の定める要件のもとに行なわれたものであることが認めら
れるので、違法性はないと解すべきである。
してみれば、本件解職処分の取消しを求める原告の予備的請求も理由がないことに
なる。
第三 理事の仮の地位の確認請求について
原告は、本件地位保全判決により学校法人P23大学の理事の地位を保全されてい
たとして、被告に対し右理事の仮の地位にあることの確認を求めている。しかしな
がら、右理事の仮の地位は原告と学校法人P23大学との間の私法上の法律関係で
あるところ、私法上の法律関係の確認を求める訴えについては国の行政機関である
被告には当事者能力がないというべきである。したがつて、その余の点を判断する
までもなく、右理事の仮の地位にあることの確認を求める訴えは不適法といわなけ
ればならない。
第四 むすび
以上のとおりであるから、本件解職処分の無効確認請求および(予備的な)その取
消請求をいずれも棄却し、学校法人P23大学の理事の仮の地位にあることの確認
の訴えを却下し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条を適用して、主文のとお
り判決する。
(裁判官 高津 環 牧山市治 上田豊三)
(別紙)
調停案
学校法人P23大学においては昭和二九年以来当該学校法人の管理および運営をめ
ぐつて紛争を繰り込し、これに関連していまなお係属中の訴訟または告訴も数十に
及んでいる。その結果、三者審議会と称する変則的な組織が結成され、学校の運営
は、事実上これらの組織により運営される事態にまで進展してしまつた。
紛争の当事者についてみれば、各人の立場からそれぞれ言い分はあるであろう。し
かし、果てしなく紛争を続けることは事態をますます紛糾させるだけで一向に解決
の見込みがたたないばかりでなく、学校がいつまでも変則的な組織により運営され
ることは公益上許されるものではない。また、関係当事者の本意は、ただ争うこと
それ自体にあるのではなく、むしろ一日も早く混乱から脱却し、P23大学をその
あるべき本来の姿に建直して将来の発展を期するにあるものとみるべきである、、
これが共通の目標であるかぎり、関係当事者さえ大乗的な見地に立つて事に臨めば
打開策が見出せない理由はないはずである。
ところで、P23大学を再建するにはまず法人の各機関を争う余地のない姿に建直
すことが先決条件であるが、それには役員または評議員とされている者その他紛争
について重要な役割を演じたと認められる人びとにその地位から去つてもらつたう
えで、法律の定めるところに従い所轄庁が職権をもつて仮理事を選任し、これに事
後処理および再建の方策の一切を委ねる以外に適当た解決策はないものと考えられ
る。
調停委員はこの見地に立つて、左記の調停条項を提示する。
調停条項
一 学校法人P23大学の役員および評議員ならびにP23大学学長とされでいる
者は、すべて辞任することとし、辞表を調停成立後調停委員が指定する日までに調
停委員に寄託すること。
二 学校法人P23大学の役員および評議員ならびにP23大学学長の辞任後の役
員、評議員および学長は、次の方法によつて選任すること。
1 所轄庁は、職権をもつて五名以上八名以内の仮理事を選任する。
2 仮理事をもつて構成する理事会(以下、仮理事会という。)は、所定の手続を
経て、学長、監事および評議員を選任する。
3 仮理事会は、適当と認める時期に、学校法人P23大学の寄付行為の定めると
ころによつて理事の選任手続を進める。
三 すでに自発的に辞意を表明し、辞表を調停委員に寄託した教授を除き、P23
大学の再建を図るため、退任させることが適当と認められる教職員については、仮
理事会において、新たに選任されるP23大学の学長および学部長と協議のうえ、
所定の手続を経て、その進退を決すること。
四 現にP23大学の学部長、短期大学部長、教職課程部長および図書館長である
者ならびに協議会の構成員である者は、その役職を辞任することとし、辞表を調停
成立の日までに調停委員に寄託すること。これらの者は仮理事会が必要と認める期
間、上記の職に、就任しないこと。
五 P23大学の協議会、教職員組合および学生会の代表者によつて構成するいわ
ゆる三者審議会は調停委員が指定する日に解散し、入学試験手数料、入学金、授業
料等の学校法人に帰属すべき金員の保持者は、当該金員を、その収支の状況を明ら
かにした書類とともに調停委員が指定する日に管理人に引き渡し、管理人はその金
員および書類を仮理事会に引き継ぐこと。
六 P23大学の創立者故中寿一氏の学校経営方針には批判の余地があつたとして
も、創立者としての功績は無視することはできない。この観点から、H家の立場を
尊重し、その遺族に対しては、特別の優遇方法を講ずること。この趣旨にもとづ
き、学校法人P23大学の設置する東京テレビ高等枝術学校は、同法人の経営から
分離して別個の学校法人の経営とし、当該法人の役員に故H氏の遺族を含めるこ
と。
七 学校法人P23大学の役員および評議員を辞任する者ならびにP23大学の学
長または教授の職を辞任する者に対しては、仮理事会が、退職金、慰労金、報酬等
について調停委員の示す別紙基準により相当の処遇をすること。
八 学校法人P23大学の紛争に関連して行なわれた昭和三四年八月以降の教職員
の人事については、仮理事会において検討のうえ、善処すること。
九 学校法人P23大学の紛争に関連して提起された訴訟に係る訴訟費用および弁
護士費用のうち仮理事会において相当と認めるものは、学校法人P23大学が負担
すること。
一〇 学校法人P23大学の役員の地位をめぐる訴訟は、すべて調停成立後すみや
かに取り下げ、その相手方は、これに同意すること。
一一 P23大学の協議会、教授会および教職員一同は、この調停条項の実施なら
びにP23大学の再建のために必要な諸規則の改訂および整備については、仮理事
会および理事会に協力すること。

戻る



採用情報


弁護士 求人 採用
弁護士募集(経験者 司法修習生)
激動の時代に
今後の弁護士業界はどうなっていくのでしょうか。 もはや、東京では弁護士が過剰であり、すでに仕事がない弁護士が多数います。
ベテランで優秀な弁護士も、営業が苦手な先生は食べていけない、そういう時代が既に到来しています。
「コツコツ真面目に仕事をすれば、お客が来る。」といった考え方は残念ながら通用しません。
仕事がない弁護士は無力です。
弁護士は仕事がなければ経験もできず、能力も発揮できないからです。
ではどうしたらよいのでしょうか。
答えは、弁護士業もサービス業であるという原点に立ち返ることです。
我々は、クライアントの信頼に応えることが最重要と考え、そのために努力していきたいと思います。 弁護士数の増加、市民のニーズの多様化に応えるべく、従来の法律事務所と違ったアプローチを模索しております。
今まで培ったノウハウを共有し、さらなる発展をともに目指したいと思います。
興味がおありの弁護士の方、司法修習生の方、お気軽にご連絡下さい。 事務所を見学頂き、ゆっくりお話ししましょう。

応募資格
司法修習生
すでに経験を有する弁護士
なお、地方での勤務を希望する先生も歓迎します。
また、勤務弁護士ではなく、経費共同も可能です。

学歴、年齢、性別、成績等で評価はしません。
従いまして、司法試験での成績、司法研修所での成績等の書類は不要です。

詳細は、面談の上、決定させてください。

独立支援
独立を考えている弁護士を支援します。
条件は以下のとおりです。
お気軽にお問い合わせ下さい。
◎1年目の経費無料(場所代、コピー代、ファックス代等)
◎秘書等の支援可能
◎事務所の名称は自由に選択可能
◎業務に関する質問等可能
◎事務所事件の共同受任可

応募方法
メールまたはお電話でご連絡ください。
残り応募人数(2019年5月1日現在)
採用は2名
独立支援は3名

連絡先
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所 採用担当宛
email:[email protected]

71期修習生 72期修習生 求人
修習生の事務所訪問歓迎しております。

ITJではアルバイトを募集しております。
職種 事務職
時給 当社規定による
勤務地 〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
その他 明るく楽しい職場です。
シフトは週40時間以上
ロースクール生歓迎
経験不問です。

応募方法
写真付きの履歴書を以下の住所までお送り下さい。
履歴書の返送はいたしませんのであしからずご了承下さい。
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所
[email protected]
採用担当宛