弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件各上告を棄却する。
         理    由
 弁護人高江洲良文の上告趣意は、単なる法令違反の主張であつて、刑訴法四〇五
条の上告理由にあたらない。(記録によれば、被告人Aが間接補助金である本件造
林事業補助金の交付につき単に沖縄県農林水産部林務課造林係員として上司の手足
となつて補助的な事務を執つていたにすぎずその交付決定処分をするについてこれ
を左右する地位にあつたものではない旨の原判決の認定は相当と認められるから、
同被告人は補助金等に係る予算の執行の適正化に関する法律二九条二項にいう交付
する者にあたらないとした原判決の判断は正当である。)
 よつて、刑訴法四一四条、三八六条一項三号になり、主文のとおり決定する。
 この決定は、裁判官下田武三、同岸盛一、同岸上康夫、同団藤重光の各補足意見
があるほか、裁判官全員一致の意見によるものである。
 裁判官下田武三の補足意見は、次のとおりである。
 わたくしは、補助金等に係る予算の執行の適正化に関する法律二九条一項の不正
受交付罪は真正身分犯であるから、補助事業者等又は間接補助事業者等の身分を有
しない被告人A及び被告人Bはいずれも同罪の正犯とはなりえないものであり、ま
たその身分を有する相被告人Cと共謀したからといつて、同罪の共同正犯となるこ
ともありえないと考えるものであり、従つて、右両被告人が受交付罪の共同正犯と
なるものとした原判決は、法令の解釈適用を誤つたものと考えるのである。
 ただ、わたくしは、本件の場合については、右両被告人の行為は、受交付罪に対
向する交付行為のみにとどまるものではなく、相被告人Cの受交付行為を積極的に
促した事実が認められるのであつて、そうである以上、受交付罪の教唆犯としての
処罰はこれを免れることができないわけであるから、原判決を破棄しなくても著し
く正義に反することとはならないものと考えるのである。
 わたくしは、以上二点の理由の詳細については、団藤裁判官の補足意見に同調す
るものである。
 裁判官岸盛一、同岸上康夫の補足意見は、次のとおりである。
 本件における重要な法律問題は、補助金等に係る予算の執行の適正化に関する法
律二九条一項の受交付罪につきその行為主体たりうる補助事業者等又は間接補助事
業者等の身分を有しない被告人A及び同Bが、その身分を有する被告人Cと共謀し
て行つた本件犯行につき刑法六五条一項を適用し、被告人Cとの共同正犯の成立を
認めた原判決の法律判断の当否である。換言すれば、いわゆる真正身分犯について、
右条項にいう共犯に共同正犯が含まれるかという問題であつて、正犯の実行行為に
加担しない共謀者も共同正犯としての刑責(いわゆる共謀共同正犯)を負わされる
かという問題と共通するものがあるのである。この点につきわが刑法六五条一項の
ような規定を欠くドイツでは、古くから真正身分犯にあつては身分のない者は共同
正犯となりえないとする一方、いわゆる共謀共同正犯についてはなんら条文の規定
がないにもかかわらず、これを肯定していることは周知のとおりである。
 ところで、大審院は、明治四四年四月一七日判決・刑録一七輯九巻六〇五頁以来
一貫して刑法六五条一項が共同正犯に適用があり身分のない者が身分のある者と共
同加功することによつて身分犯の正犯となることを肯定してきたのである。ことに
当初は右条項は共同正犯に関する例外規定であり、教唆犯等は正犯に従属するもの
であるから当然に身分犯の教唆犯等が成立しあえて本条のごとき例外規定を必要と
しないとしていた(大審院明治四四年一〇月九日判決・刑録一七輯二二巻一六五二
頁)ところ、その後右条項が教唆犯、幇助犯にも適用がある旨判示するにいたつた
(大審院大正四年三月二日判決・刑録二一輯三巻一九四頁)が、その具体的事案を
みるに、共同正犯に関する事例が圧倒的に多数を占めており、教唆犯、幇助犯に関
する事例は極めて少ないのである。当裁判所もこの見解をうけついで今日に及んで
いる(昭和二四年(れ)第二六四八号同二五年九月一九日第三小法廷判決・刑集四
巻九号一六六四頁、昭和二五年(れ)第七六六号同二六年三月一五日第一小法廷判
決・刑集五巻四号五三五頁、昭和三一年(あ)第三四二六号同三四年五月八日第二
小法廷判決・刑集一三巻五号六五七頁)。
 他面、大審院は、明治二九年三月三日判決・刑録二輯三号一〇頁以下無数の判例
において共謀にのみ関与し実行に加担しなかつた者が共同正犯となりうるとの判断
を示してきたのであるが、当初はいわゆる知能犯に限つてこれを認めていたところ
(大審院大正三年六月一九日判決・刑録二〇輯二三巻一二五八頁、大審院大正一一
年四月一八日判決・刑集一巻四号二三三頁)、昭和一一年五月二八日連合部判決・
刑集一五巻一一号七一五頁をもつてその適用をいわゆる強力犯にも拡げ、以来これ
を一般的に認めるようになり、当裁判所もこれをうけついできているのである(昭
和二九年(あ)第一〇五六号同三三年五月二八日大法廷判決・刑集一二巻八号一七
一八頁、外多数)。
 以上のとおり刑法六五条一項が共同正犯に適用があることを認める判例は共謀共
同正犯についての判例と共通の問題点を包蔵しているのである。身分のない者は単
独では身分を構成要件要素とする犯罪を犯すことはできないが身分のある者と共同
加功することによつて身分犯の共同正犯となることを認めてきた従来の判例の態度
は、具体的事実に即して、共謀に関与したが実行には加担しなかつた者でも共同正
犯となることを認める基本的な態度に基づいているものであつて、今本件について
刑法六五条一項の解釈を変更することは相当でないと考えるものである。
 裁判官団藤重光の補足意見は、次のとおりである。
 補助金等に係る予算の執行の適正化に関する法律(以下、補助金等適正化法とい
う。)二九条は、補助金等(間接補助金等を含む。以下、同じ。)の不正受交付罪
(一項)および不正交付罪(二項)を規定している。判旨は右の不正交付罪の規定
の適用に関するものであつて、このかぎりでは、わたくしとして、とくに述べるこ
とはない。問題は、不正受交付罪についてである。
 原判決は、被告人Aおよび同Bの両名につき、被告人Cとともに不正受交付罪の
共同正犯(刑法六〇条)になるものとした。しかし、不正受交付罪は真正身分犯で
あつて、「交付を受けた者」とは補助金等を現実に受領した補助事業者等または間
接補助事業者等をいうものと解しなければならない。被告人Cは間接補助金を現実
に受領した林業者であるから、まさしく不正受交付罪の正犯であるが、被告人Aお
よび同Bの両名は、このような真正身分犯の正犯にはなりえず、したがつて共同正
犯にもなりえないはずである。刑法六五条一項は、真正身分犯の共同正犯について
は、性質上適用を制限されるものといわなければならない(団藤・刑法綱要・総論・
三二二頁以下参照)。岸・岸上両裁判官はその補足意見において原審の上記判断を
正当として支持されるが、わたくしは、この点において両裁判官と見解を異にし、
この問題に関する当裁判所の判例にも疑問をいだく者である。
 しかし、真正身分犯についても、教唆犯および幇助犯に関するかぎり、刑法六五
条一項の適用がある。けだし、教唆犯および幇助犯は、実行行為以外の行為をもつ
て正犯の行為に加功するものであつて、身分がない者にもその成立をみとめうるの
は当然だからである。
 ただ、本件においては、ここで、さらに、もう一つの重要な問題に行き当たる。
それは、受交付罪と交付罪とは、必要的共犯のひとつである対向犯に属するからで
ある。一般的にいつて、対向犯的な性質をもつa・bという二つの行為の中で、法
律がa行為だけを犯罪定型として規定しているときは、当然に定型的に予想される
b行為を立法にあたつて不問に付したわけであるから、b行為は罪としない趣旨だ
と解釈しなければならない。したがつて、b行為がa罪の教唆行為または幇助行為
にあたるばあいでも、それがa罪に対する定型的な関与形式であるかぎりは、これ
をa罪の教唆犯・幇助犯として罰することは許されないものと解すべきである。そ
の限度で、刑法六一条、六二条は適用を制限されることになり(団藤・前掲書三三
三―三三四頁参照)、同法六五条一項もその限度で適用の余地がないことになる。
補助金等適正化法二九条は、前述のとおり、a行為(受交付罪)・b行為(交付罪)
をともに犯罪定型として規定しているが、右の理論は、ここにもあてはまる。すな
わち、補助金等を受交付者に交付した者は、前述のような交付罪の要件を具備する
かぎりにおいて、交付罪によつて処罰されるにすぎないものといわなければならな
い。けだし、もし、右のような交付罪の要件を欠く者が、受交付者に補助金等を交
付したというだけで、すべて受交付罪の教唆犯・幇助犯として処罰されることにな
るとすれば、法律がとくに一定の要件のもとに交付罪を規定している趣旨は没却さ
れてしまうからである。したがつて、ここでも、その限度で、刑法六一条、六二条
は適用を制限されることになる。わたくしが、本件で、もう一つの重要な問題に行
き当たるといつたのは、この点である。
 しかし、本件では、記録によれば、被告人Aは、まず被告人Bを説得し、同被告
人とともに、しぶる被告人Cに対し、造林は来年すればよいといい、さらに人件費・
資材費等が上がつて本年度の予算で来年度造林すると損をするというCに対し、補
助金を先に受取つて銀行に預金すれば埋め合わせがつくではないか、村有地に適当
なところがあるから、これに造林すればよい、などと強く申し向けて、ついにCに
補助金の申請を承諾させたものであることがあきらかである(記録によれば、この
点につき、被告人三名の自白が一致している。)。そうであるとすれば、A・B両
名の行為は、受交付罪に対する定型的な関与形式としての単なる交付行為ではなく
て、Cの受交付行為を積極的に促進したものというべきであり、それはもはや前述
のような対向犯の特殊性による不可罰の限度内には属せず、受交付罪の教唆犯とし
ての処罰を免れないものというべきである。原判決が右被告人両名を被告人Cとと
もに不正受交付罪の共同正犯になるものとしたことは不当であるが、両名がいずれ
にせよ同罪の教唆犯としての罪責を免れないものとみとめられる以上、原判決を破
棄しなくてもいちじるしく正義に反するものということはできないので、いまだ刑
訴法四一一条の職権を発動するのは相当でないと考える。
  昭和五二年三月一六日
     最高裁判所第一小法廷
         裁判長裁判官    岸   上   康   夫
            裁判官    下   田   武   三
            裁判官    岸       盛   一
            裁判官    団   藤   重   光

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