弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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平成23年(わ)第23号
主文
被告人を懲役3年8か月に処する。
未決勾留日数中210日をその刑に算入する。
理由
(犯罪事実)
被告人は,前刑の服役を終えて出所した平成22年6月8日以降,兵庫県豊岡市
ab番地cの共同住宅「A」dの自宅で実父のBらと同居していたが,実父らから
仕事を探すよう言われ続けていたことなどから,精神疾患を理由に病院に入院でき
れば上記のように言われることもないなどと考え,同年7月6日,自宅から歩いて
交番へ行き,病院に入院させてほしいと訴えたが,受け入れられず,パトカーで自
宅に送り届けられたため,実父から厳しく叱責された。
翌7日,被告人は,実父に一人で暮らしたい旨申し出たが,実父からさらに厳し
く叱責されたため,実父らに対する腹いせに,実父を含め6名が現に住居として使
用している上記共同住宅(木造瓦葺2階建共同住宅,延床面積約134.66㎡)
に放火しようと決意し,同日午後6時20分ころ,上記自宅の台所で,点火したガ
スコンロの上に足ふきマット等5枚を次々と置いて燃え上がらせ,その火を同共同
住宅に燃え移らせてこれを焼損しようとしたが,実父に発見されて消し止められた
ため,同マット等を焼損したにとどまり,その目的を遂げなかった。
(証拠の標目)
省略
(争点に対する判断)
本件の争点は,責任能力の程度,すなわち,犯行当時,被告人が心神耗弱の状態
ではなかったか否かである。
まず,被告人が犯行当時を含めて精神遅滞と広汎性発達障害の精神疾患を有して
いることには争いがなく,証拠上も明らかである。しかし,被告人の精神遅滞の程
度については争いがあり,捜査段階で鑑定を行ったC医師は,IQ値がWAIS-
Ⅲ知能検査では51と判定され,さらにその後行われた田中ビネー知能検査では4
2と判定されたこと等を踏まえて中等度と判断しているのに対し,医療観察手続の
中で鑑定を行ったD医師は,上記各IQ値のほかに,鑑定入院中の被告人の問診内
容や行動なども踏まえて軽度と判断しているところ,この点に関しては証拠上明確
な認定はできないといわざるを得ないが,少なくとも,被告人に軽度ないしは中等
度の精神遅滞があることは認められるのであって,被告人の犯行当時の責任能力が,
上記の精神疾患のため,その程度はともかくとして,減退していたことに疑いはな
い。
そして,関係証拠によると,被告人は,判示のとおりの経緯,動機により犯行に
及んでいるところ,実父らに対するうっ憤をはらすための手段として,実父らの使
用している車あるいは家の鍵を隠すことも考えた後,4年前に当時の自宅に放火し
たときの経験から,より実父らを困らせることができる手段として,自宅への放火
を選択していること,実父に放火を止められるのを防ぐため,実父が自宅から出て
玄関扉を閉めた機会を見のがさず,内側から鍵をかけて実父が自宅内に入って来ら
れないようにした上で放火に及んでいること,放火の際,そのすぐ足下に灯油入り
のポリタンクが置かれていることは分かっていたのに,自分や共同住宅の他の住民
に危害が及ぶのを避けるために,火の回りが早くなる灯油をあえて使用しなかった
こと,足ふきマット等を次々と燃え上がらせた後,煙で息苦しくなったものの,火
を完全に消そうとはせず,その勢いを少し弱めるために上記マット等に水をかけた
こと,その後,息苦しさにいよいよ耐えられなくなり,台所の窓を開けて外に向か
って助けを求めていること,以上の各事実が認められる。
上記のとおりの経緯,動機に基づいて犯行に及んでいる点は,十分に了解可能で
ある上,被告人による一連の行為は,実父らに対するうっ憤をはらすという目的を
確実に達成しようとする一方で,自分や他の住民に必要以上に危害が及ばないよう
配慮して行動するなど,周囲や犯行着手後の状況に応じた合理的なものといえる。
また,被告人は,本件の4年前にも当時の自宅に放火して服役したことがある上,
上記のとおり助けを求めた際,「私が火をつけました。今から警察に行きます。」
などと叫んでおり,捜査段階では取調官に対して放火は悪いことだと分かっている
旨述べていたほか,公判廷でも一応反省の弁を述べているのであって,犯行当時,
少なくとも放火が悪いことであるという程度の違法性の認識を被告人が持っていた
ことは明らかである。
加えて,被告人が少年時(12~13歳のころのIQ値等からみて,少年時の精
神遅滞の程度が軽度であったとみられることに格別の疑いはない。)から非行を繰
り返していることからすると,本件犯行は,精神遅滞や広汎性発達障害の影響のみ
によるものではなく,被告人の性格や環境等によって形成された自身の人格による
部分が小さくないものと評価できる。
以上によれば,犯行当時,被告人は,前記精神疾患の影響により,善悪の判断能
力や行動制御能力が幾分障害されていたことは否定できないが,これらの能力が著
しく減退まではしていなかったものと認められる。なお,以上のような,精神疾患
の内容,程度等のほか,犯行の動機,態様などを総合して判定する判断手法は,広
汎性発達障害のケースにこれを適用する場合,相応の配慮を要すべきものではある
が,基本的には,広汎性発達障害を有する者についても適用するのが相当であると
解される。
したがって,犯行当時,被告人は心神耗弱の状態ではなかったことが認められる。
(累犯前科)
省略
(法令の適用)
省略
(量刑の理由)
本件は,住宅密集地にある木造共同住宅の一室に放火するという非常に危険な犯
行であり,幸いにも被告人の父の懸命な消火活動により未遂にとどまったものの,
同共同住宅に幼児とともに住んでいた一家が本件後に転居するなど,その居住者や
所有者,近隣住民に与えた不安感や影響は大きい。被告人は,前記の累犯前科2犯
に加えて,服役した前科が4犯あるところ,前々刑の犯行は,動機,経緯,場所等
が本件と酷似した現住建造物等放火の事案であり,今回も全く身勝手で短絡的な動
機から放火行為に及んでいる。前記の精神疾患の影響を否定できないものの,公判
での供述内容をみても,被告人の反省は表面的なものといわざるを得ず,その規範
意識の乏しさは顕著である。したがって,社会内での継続的で実効性のある指導,
監督が必要不可欠であるが,それもあまり期待できないことをあわせ考えると,今
後の再犯が相当に懸念される。
そうすると,被告人の刑事責任は重いが,一方で,犯行は未遂にとどまっており,
上記共同住宅自体に財産的被害を与えていないこと,前記の精神疾患の影響により
善悪の判断能力や行動制御能力が幾分減退していたことは否定できないこと,同共
同住宅全体を積極的に燃やそうという意思までは認められず,被告人なりに抑制的
に行動している面もうかがわれることなどの,被告人のために酌むべき事情も認め
られる。
以上の諸事情を総合考慮し,未遂減軽をした上,被告人を主文のとおりの刑に処
するのが相当であると判断した。
(求刑懲役5年)
平成23年12月14日
神戸地方裁判所第1刑事部
裁判長裁判官細井正弘
裁判官西森英司
裁判官林奈桜

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