弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
1 原判決を次のとおり変更する。
2 被控訴人が平成15年5月20日有限会社朝日商事に対して
した,別紙目録記載1の土地及び同記載2の建物の平成15年
分固定資産税及び都市計画税のうち,同記載3の固定資産税等
免除措置対象部分に係る固定資産税及び都市計画税の免除措置
を取り消す。
3 被控訴人は,Aに対し,30万5300円を支払うよう請求
せよ。
4 控訴人のその余の請求をいずれも棄却する。
5 訴訟費用は,第1,2審を通じてこれを3分し,その1を控
訴人の,その余を被控訴人の各負担とする。
事実及び理由
第1 当事者の求めた裁判
 1 控訴人
(1) 原判決を取り消す。
(2)ア 主文2項同旨
イ 被控訴人が平成15年5月20日有限会社朝日商事(以下「朝日商
事」という。)に対してした,別紙目録(以下「目録」という。)記載
1の土地(以下「目録1の土地」という。)及び目録記載2の建物(以
下「目録2の建物」という。)の平成15年度分固定資産税及び都市計
画税(以下「平成15年度分固定資産税等」という。)のうち,目録記
載3の固定資産税等免除措置対象部分(以下「本件減免対象部分」とい
う。)に係る固定資産税及び都市計画税の免除措置(以下「本件減免措
置」という。)は無効であることを確認する。
  (3) 被控訴人が本件減免対象部分に係る平成15年度分固定資産税等の徴収
権を朝日商事に対して行使しないことは違法であることを確認する。
(4) 被控訴人は,Aに対し,32万4900円及びこれに対する平成16
年2月1日から支払済みまで年14.6パーセントの割合による金員を支
払うよう請求せよ。
(5) 訴訟費用は,第1,2審とも被控訴人の負担とする。
 2 被控訴人
  (1) 本件控訴を棄却する。
(2) 控訴費用は,控訴人の負担とする。
第2 事案の概要等
1 事案の要旨
  本件は,熊本市の住民である控訴人が,朝日商事所有の目録1の土地及び
目録2の建物の平成15年度分固定資産税等のうち,本件減免対象部分に係
る本件減免措置は違法である旨主張して,被控訴人に対し,地方自治法24
2条の2第1項各号に基づき,次のように請求した事案である。
 (1) 同項2号に基づき,本件減免措置の取消し又は本件減免措置の無効確
認の請求
 (2) 同項3号に基づき,被控訴人が本件減免対象部分に係る平成15年度
分固定資産税等の徴税権を行使しないことの違法確認の請求
 (3) 同項4号本文に基づき,本件減免措置当時熊本市長の職にあったAに
本件減免対象部分に係る平成15年度分固定資産税等の各税額及びその延
滞金に相当する損害賠償の請求をすることを被控訴人に対して求める請求
2 前提事実(争いのない事実,各項末に記載の証拠及び弁論の全趣旨により
認定した事実)
(1) 当事者等
  控訴人は,普通地方公共団体である熊本市の住民である。
  被控訴人は,熊本市の執行機関であるとともに,本件減免措置の行政庁
である。
  本件減免措置を受けた朝日商事は,目録1の土地及び目録1の土地上に
昭和46年10月10日新築された目録2の建物である熊本朝鮮会館(以
下「朝鮮会館」という。)の不動産登記簿上の所有名義人であり,その固
定資産税等の納税義務者である。
(2) 朝日商事及び熊本朝鮮会館管理会等
    朝日商事は,昭和46年10月7日,不動産売買,並びに斡旋業,建物
賃貸業等を目的に,熊本市九品寺a町b丁目c番e号を本店として設立さ
れ,昭和62年6月15日,朝鮮会館について,朝日商事名義の所有権保
存登記がされた。しかし,朝日商事は,元々朝鮮会館を所有することを企
図して設立されたにすぎず,会社としての活動を何ら行っていなかった。
    朝鮮会館の管理・運営に関しては,昭和46年3月ころ作成の熊本朝鮮
会館管理会定款(乙5,以下「定款」という。)に基づき熊本朝鮮会館管
理会(以下「管理会」という。)が創立され,定款中には,朝鮮会館が管
理会の基本財産である旨定められている。
    本件減免措置がされた平成15年5月当時における管理会の役員は,理
事長1名,理事2名,評議員3名であり,その理事長には在日本朝鮮人総
聯合会(以下「朝鮮総聯」という。)熊本県本部委員長のBが,その他の
役員にはいずれも朝鮮総聯県本部副委員長Cや朝鮮総聯の関連団体である
熊本県商工会長Dなどの関係者が就任し,また,平成15年5月当時の朝
日商事の代表取締役にはCが,取締役にはB,D外1名が就任していた。
   (甲24ないし26,乙5,7,8,20,27,証人B)
  (3) 本件減免措置の経緯
    朝日商事は,目録1の土地及び朝鮮会館に係る平成15年度分固定資産
税30万3400円及び都市計画税4万3300円について,平成15年
5月9日付で,熊本市税条例(以下「本件条例」という。)50条2項の
規定に基づき,「この建物は在日朝鮮公民が無償で利用する公共施設であ
り」との理由でもって,その減免を申請した。そこで,被控訴人は,平成
15年5月20日,朝日商事に対し,本件減免対象部分につき,「在日朝
鮮公民の公共施設として使用されているため」の理由でもって,本件条例
50条1項2号,熊本市税条例施行規則(以下「本件規則」という。)6
条2号ウに定める公益のために専用される公民館類似施設に該当し,固定
資産税減免の必要性も認められるとの理由から,本件減免対象部分に係る
平成15年度分固定資産税26万7100円及び都市計画税3万8200
円を免除するという本件減免措置を行った。しかし,朝鮮会館のうち,本
件減免対象部分以外の部屋については,その主たる利用者が朝鮮熊本県商
工会,熊本県朝鮮人商工協同組合,朝鮮民主女性同盟及び朝鮮新報社であ
ることから,公益の用に供されているとは認められないとして,上記減免
申請を認めなかった(なお,朝鮮会館のうち,共用で使用していると認め
られるホール,階段室,廊下,便所,湯沸室等については,その床面積を
減免対象と課税対象とに按分して税額が算定された。)。その結果,朝日
商事は,平成15年度分固定資産税等合計34万6700円のうち,本件
減免措置を受けた合計30万5300円を控除した合計4万1400円を
納付した。
   (甲1,乙13,14,19,原審証人E)
  (4) 住民監査請求
    控訴人は,平成15年9月29日,熊本市監査委員に対し,本件減免措
置は違法・不当であると主張し,本件減免措置の取消し及び免除額の徴収
を求める住民監査請求を行って受理された。上記監査委員は,同年11月
18日,被控訴人に対し,同年12月18日までに本件減免措置を取り消
し,免除額を徴収するよう勧告したが,被控訴人は,上記勧告に従わなか
った。そこで,控訴人は,平成16年1月8日原審に本訴を提起した。
  (5) 固定資産税等の減免事由等に関する規定
   ア 地方税法367条は,「市町村長は,天災その他特別の事情がある場
合において固定資産税の減免を必要とすると認める者,貧困に因り生活
のため公私の扶助を受ける者その他特別の事情がある者に限り,当該市
町村の条例の定めるところにより,固定資産税を減免することができ
る。」と定めている。
   イ 本件条例50条1項は,上記地方税法の規定を受けて次のとおり定め
ている。
    「 市長は次の各号の一に該当する固定資産のうち,必要があると認め
るものについてはその所有者に対して課する固定資産税を減免するこ
とができる。
    (1)貧困により生活のため公私の扶助を受ける者の所有する固定資産
    (2)公益のために直接専用する固定資産(有料で使用するものを除
く。)
     (3)市の全部又は一部にわたる災害又は天候の不順により,著しく価値
を   減じた固定資産
     (4)前各号に定めるもののほか,市長が特に必要と認める固定資産」 
   ウ 本件規則6条は,本件条例の上記規定を受けて,その本文で,「条例
第50条第1項各号に規定する固定資産税の減免は,次の各号の定める
ところによる。」と定め,その2号で,本件条例50条1項2号が規定
する「公益のために直接専用する固定資産」の一つとして,「ウ 公民
館類似施設,児童遊園地,防犯詰所,消防団施設,その他これらに類す
る固定資産」は全額免除する旨定め,また,その5号で「その他,前各
号に準ずるもので,市長が認めるものについては,減免することができ
る。」と定めている(同条5号)。
   エ なお,地方税法702条の8第7項は,都市計画税を固定資産税とあ
わせて賦課徴収する場合において,市町村長が同法367条の規定によ
って固定資産税を減免したときは,当該納税者に係る都市計画税につい
ても当該固定資産税に対する減免額の割合と同じ割合によって減免され
たものとする旨定め,本件条例150条本文は,都市計画税の賦課徴収
は,固定資産税の賦課徴収の例により,固定資産税を賦課徴収する場合
にあわせて賦課徴収する旨定めている。
    (乙1,2)
  (6) 公民館及び公民館類似施設に関する社会教育法の規定
    まず,公民館の目的について,同法20条は,「公民館は,市町村その
他一定区域内の住民のために,実際生活に即する教育,学術及び文化に関
する各種の事業を行い,もって住民の教養の向上,健康の増進,情操の純
化を図り,生活文化の振興,社会福祉の増進に寄与することを目的とす
る。」と定め,次に,公民館の行う事業について,同法22条は,「公民
館は,第20条の目的達成のために,おおむね,左の事業を行う。但し,
この法律及び他の法令によって禁じられたものは,この限りでない。1 
定期講座を開設すること。2 討論会,講習会,講演会,実習会,展示会
等を開催すること。3 図書,記録,模型,資料等を備え,その利用を図
ること。4 体育,レクリエーション等に関する集会を開催すること。5
 各種の団体,機関等の連絡を図ること。6 その施設を住民の集会その
他の公共的利用に供すること。」と規定している。他方,同法23条1項
2号・2項は,公民館において,特定の政党の利害に関する事業を行い,
又は公私の選挙に関し,特定の候補者を支持することが禁止されており,
市町村が設置する公民館は,特定の宗教を支持し,又は特定の教派,宗派
若しくは教団を支援することが禁止されている。そして,公民館類似施設
の設置について,同法42条1項は,「公民館に類似する施設は,何人も
これを設置することができる。」と定めている。
3 争点
 本件の争点は,本件減免対象部分に係る本件減免措置の適法性の有無であ
る。特に,当事者間では,本件減免対象部分が固定資産税の減免事由である
本件条例50条1項2号の「公益のために直接専用する固定資産」に当たる
か否か,本件規則6条2号ウの「公民館類似施設,・・・その他これらに類
する固定資産」(以下「公民館類似施設」という。)に当たるか否かを巡っ
て主に争われた。
  (控訴人の主張)
  (1) 本件減免措置における法的根拠の欠如について
    そもそも課税は,法に基づき,すべての住民に公平になされなければな
らないものであって,法令の根拠なく恣意や独断で特定の住民に対しての
み,特権的な恩恵を与えることはできない(憲法14条,84条)。すな
わち,本件減免措置は,何らの法的根拠を有しないから,違法・無効なも
のである。
  (2) 地方税法367条の減免事由の有無について
    地方税法367条は,①「天災その他特別の事情がある場合において固
定資産税の減免を必要とすると認める者」,②「貧困に因り生活のため公
私の扶助を受ける者」という2つの例を挙げた上で,「その他特別の事情
がある者に限り」固定資産税の減免を認めている。したがって,上記「そ
の他特別の事情がある者」とは,当然に上記①,②の条件に準ずる場合や
少なくとも同価値に評価される場合を指しており,経済的に納税が不能な
いし困難であるという要件を満たす必要があるというべきである。そし
て,本件条例50条1項の「公益のために直接専用する固定資産」及び本
件規則6条2号ウの「公民館類似施設」も,地方税法の上記規定を受けて
定められたものであるから,経済的に固定資産税を納税することが不能な
いし困難であることが要件となる。ところが,本件減免対象部分は経済的
に納税が不能ないし困難であるという要件を満たさないから,本件減免措
置は,違法である。
  (3) 本件条例50条1項2号及び本件規則6条2号ウの減免事由の有無につ
いて
   ア 本件減免措置における減免事由としては,被控訴人は,本件減免対象
部分が本件条例50条1項2号及び本件規則6条2号ウに規定する公民
館類似施設である旨を挙げている。関係法令がこのような公民館類似施
設を固定資産税の減免事由として認めるのは,公民館類似施設が,公民
館と同程度の公益性を有するためであるから,公民館類似施設は,公民
館と似通った事業や運営を行い,設備等を有して,公民館と同程度の公
益性を有する施設をいうべきである。そうすると,社会教育法や文部省
が告示した「公民館の設置及び運営に関する基準」にかんがみれば,公
民館類似施設とは,①同法20条に規定するような目的を有し,住民の
うち特定の者だけに限定されたものではなく,地域住民のために広く利
用が許された施設であって,公益目的に沿うものであり,②同法22条
に規定するような事業を行って,③学校,家庭及び地域社会と連携し,
地域住民の意向を適切に反映した運営がなされ,④公民館としての活動
を行えるだけの人的物的設備が備わっているものをいうべきである。し
かるに,管理会の定款によれば,本件減免対象部分を管理する管理会
は,在日朝鮮人の権益を擁護するために事業を行うとされている。そう
すると,本件減免対象部分は,一定地域内の住民の学習・文化活動の機
会を提供することを目的としておらず,在日朝鮮人という一部の者の利
益を意図し,目的としているものであり,公民館と同程度の公益目的,
公益性を有するとはいえない。
     被控訴人の主張によれば,朝鮮会館で,祖国や故郷訪問に関する事務
手続,中国・ハワイ・カナダ等への観光・留学・商業活動のためのパス
ポート発行事務手続等が行われているとのことであるが,これは,国家
の出先機関としての活動に当たり,公民館で行われる事業に当たらない
から,公民館の趣旨に反した利用がされている。
     公民館類似施設は,その性質上,程度の差はあれ,地域に密着し,地
域住民の用に供するという目的ないし機能を有して,利用者に対し開か
れた施設でなければならない。そして,開放された施設というために
は,その前提として,その運営主体ないし運営方針の意思決定過程に広
く住民の意思が取り入れられる仕組みがなければならない。ところが,
本件減免対象部分の運営主体は,住民の意思を反映したものではないか
ら,本件減免対象部分は公民館類似施設に当たらない。
     本件減免対象部分は,主に熊本県内ないしは熊本市内の在日朝鮮人を
対象とするものであり,その利用者に限定が加えられているから,開か
れた施設といえない。仮に,在日朝鮮人以外の住民が利用することも許
されているとしても,それは副次的あるいは恩恵的に許されているにす
ぎず,目的・機能の面から公に開放されているとはいえない。また,そ
の運営方法に関しても住民の意見が反映されるものではなく,実際にも
付近住民などが本件減免対象部分を自由に利用しているという実態はな
いから,本件減免対象部分は公民館類似施設に当たらない。
     施設の運営主体の目的や実体は,公益性や公民館の判断にとって重要
であるところ,本件減免対象部分を使用している朝鮮総聯は,朝鮮民主
主義人民共和国(以下「北朝鮮」という。)政府への結集・愛国を謳
い,祖国の富強発展に尽くし,祖国統一を目指す団体であり,政治目的
を有している。朝鮮総聯は,特定の政党・政治思想・国家体制を支持・
擁護する立場にあるが,これは社会教育法23条1項2号が禁止する
「特定の政党の利害に関する事業」を行うものであり,公益性も認めら
れない。実際にも,朝鮮総聯は,外為法改正反対運動を組織的に行うな
ど,政治活動を行っている。朝鮮総聯の傘下企業が営利事業を行ってい
るのみならず,朝鮮総聯自体もパチンコ業等の営利事業を行っている。
さらに,朝鮮総聯は,外為法違反の送金,関係の信用組合における横領
又は背任事件,拉致事件等様々な違法行為に組織的に関与している。な
お,朝鮮会館に入館している団体はすべて朝鮮総聯傘下の団体である。
このような団体が入館し,活動する施設は,公民館の趣旨に反し,公民
館類似施設とは認められない。
     そもそも本件減免対象部分の所有名義人は朝日商事であるが,朝日商
事は,有限会社であり公益法人ではない。本来営利を目的とする有限会
社が,公益性を有するというのであれば,その点の立証が必要である
が,被控訴人がこの点につき調査した形跡はない。公益法人であれば税
法上の特典等があるにもかかわらず,本件減免対象部分の所有名義人を
公益法人ではなく有限会社としたのは,結局,本件減免対象部分につき
公益性があるとの認定を得られないためであったと推測される。
     以上を総合すれば,本件減免対象部分は公民館類似施設に当たらない
から,本件減免措置には本件条例50条1項2号及び本件規則6条2号
ウに定める減免事由は無いことになる。
     なお,ある施設が公民館類似施設に当たるかどうかを判断するには,
そのために必要な実質的調査が行われなければならない。しかし,被控
訴人は,固定資産税減免の利益を受ける者が一方的に作成した書類を提
出させたのみで,主体的調査を行った形跡は何ら見られない。また,提
出された書類を見ても,被控訴人は,本件減免対象部分が公民館類似施
設とは異なる可能性があることを予測できたはずであり,より踏み込ん
だ調査を行うべきであったのに,これを怠って漫然と本件減免措置をし
たものであり,この点でも不当である。
   イ 上記のとおり本件減免対象部分には公益性が認められないから,公民
館類似施設以外の固定資産税の減免事由である本件規則6条2号ウの
「その他これらに類する固定資産」や本件条例50条1項4号の「市長
が特に必要と認める固定資産」にも該当しないことはいうまでもない。
(4) 固定資産税の減免事由に関する市長の裁量権について
    本件条例50条本文の「市長は次の各号の一に該当する固定資産のう
ち,必要があると認めるものについてはその所有者に対して課する固定資
産税を減免することができる」との規定から明らかなとおり,市長には,
「公益のために直接専用する固定資産」の認定については,何らの裁量権
も与えられていないのである。本来公益性というものは客観的なものでな
ければならなず,公益のために直接専用すると客観的に認められた固定資
産の中から,そのどれを対象とするかの選定について裁量権が認められて
いるにすぎない。
(5) 地方自治法242条の2第1項4号請求について
本件減免措置により減免されたのは,平成15年度分固定資産税28万
4300円及び都市計画税4万0600円であるから,被控訴人は,本件
減免措置及び徴税権不行使により,故意でもって,熊本市に対し,上記金
額相当及び地方税法369条1項が定めるこれに対する上記各税の納付期
限である平成15年12月31日から30日を経過した後である平成16
年2月1日から支払済みまで年14.6パーセントの割合による延滞金相
当額の損害を与えたものである。
  (被控訴人の主張)
  (1) 本件減免措置における法的根拠の欠如について
    本件減免措置は,地方税法367条,702条の8第7項,本件条例5
0条1項2号,150条,本件規則6条2号ウに基づくものであり,法的
根拠が欠如したものではなく,もとより憲法14条,84条に違反するも
のでもない。
  (2) 地方税法367条の減免事由の有無について
    地方税法367条の「その他特別の事情がある者」には,次のとおり経
済的に納税が不能ないし困難であるという要件は要求されておらず,公益
上の必要がある者が含まれる。
    すなわち,同条は,単に「その他特別の事情がある者」と規定するのみ
で,「その他特別の事情」が経済的なものであることは規定していない。
また,一般に,法令上,「その他の」という表現は,「その他の」の前に
表示された語句が後に表示された語句の一部に含まれる場合に用いられる
のに対し,「その他」という表現は,「その他」の前後にある語句が単に
並列的な関係にある場合に用いられている。そうすると,同条が「その他
特別の事情がある者」と規定して,「その他の特別の事情がある者」とは
規定していない以上,「天災その他特別の事情がある場合において固定資
産税の減免を必要とすると認める者」及び「貧困に因り生活のため公私の
扶助を受ける者」と「その他特別の事情がある者」とは並列的な関係にあ
り,かかる観点からも,「特別の事情」の解釈に当たっては,経済的な要
素を考慮に入れる必要はないことになる。そして,地方税法が,その総則
において,「地方団体は,公益上その他の事由に因り課税を不適当とする
場合においては,課税をしないことができる。」(同法6条1項),「地
方団体は,公益上その他の事由に因り必要がある場合においては,不均一
の課税をすることができる。」(同条2項)としていることからしても,
上記「その他特別の事情がある者」には,公益上の必要がある者も含まれ
ると解される。
  (3) 本件条例50条1項2号及び本件規則6条2号ウの減免事由の有無につ
いて
    本件減免対象部分は本件条例50条1項2号及び本件規則6条2号ウに
定める「公民館類似施設」に該当し,被控訴人がこれに公益性を認めたも
のであるから,本件減免措置は,適法である。
   ア 公民館類似施設の定義については,本件条例に何らの規定もないか
ら,結局,社会教育法の規定を参考にすべきことになる。そこで,同法
の規定にかんがみると,公民館類似施設とは,同法20条に規定する公
民館の目的の全部若しくは一部又はこれらに類することを当該施設の目
的とし,同法22条に規定する公民館が行う事業の全部若しくは一部又
はこれらに類する事業を行う施設をいうものと解すべきである。そこ
で,上記見地から検討すると,本件減免対象部分は,次のとおり公民館
類似施設に該当するというべきである。すなわち,
     まず,本件減免対象部分の主たる利用対象者は,在日朝鮮人(韓国併
合時から第二次世界大戦終戦時までの間に,朝鮮半島から日本に強制連
行,徴用又は生活などのために移住してきた者及びその子孫)及びその
家族,朝鮮半島からの移住者及び留学生,並びにそれらの知人である。
このほかに,その他地域住民も本件減免対象部分を利用できることはい
うまでもない。在日朝鮮人のうち,日本に帰化した者以外の者は,外国
人登録法による外国人登録を行っており,日本国との平和条約に基づき
日本の国籍を離脱した者等の出入国管理に関する特例法4条の特別永住
許可を受けた者である。これらの在日朝鮮人は,所得税や住民税,固定
資産税等についても日本人と同様に納税の義務を負うなど,市民として
の義務を負う一方,行政サービスを受ける権利を有する。さらに,在日
外国人という一定の属性を有する住民を対象とするとしても,社会的少
数者の社会教育面における実質的公平性を確保するために有益なことで
あるから,決して本件減免対象部分の公益性を損ねることにはならず,
むしろ公益性に資するものであるというべきである。また,外国人登録
を行っている朝鮮半島出身者は,現在,市内に約650人,熊本県内で
は約1200人いるが,その家族や知人等も含めた数は上記人数の2倍
程度になると推定されるから,利用者数からみても本件減免対象部分は
公益性がある施設ということができる。
     次に,本件減免対象部分の設備としては,図書やビデオソフト,閲覧
スペース,視聴覚機材等を備え,歴史資料の展示等が常時行われてい
る。本件減免対象部分は,この点において,設備に乏しく集会場として
の機能が主な機能である地区・部落公民館等よりも,さらに公民館に類
似している。
     さらに,本件減免対象部分の利用実態等を見るに,本件減免対象部分
においては,在日朝鮮人にとっての市民生活上の問題に関する話し合い
や,個々の在日朝鮮人が抱える生活上の問題についての相談を始め,後
記のように様々な事業が行われている。地域に点在する在日朝鮮人が,
生活上の課題や問題について話し合おうとするとき,そのための場所を
提供する施設が存在していることは有益である。このような点からすれ
ば,本件減免対象部分は,在日朝鮮人にとっての公民館としての役割を
果たしているといえる。社会教育の推奨については,教育基本法7条及
び社会教育法3条において,国又は地方公共団体の責務とされており,
地方公共団体は,社会教育を推進する活動に対して助言を与え,様々な
形で援助していく必要がある。外国人は,戸籍事務上,日本人と異なる
取扱いを受けるが,市が行う行政サービスについて両者が異なる取扱い
を受けるべき合理的な根拠は見出し難く,両者は区別なく同じように快
適な生活を営む権利を有している。また,自らの言語や文化を伝承する
ことも社会教育の1つであるが,文化的意識において自己が所属する国
や地域と異なる言語や文化を享有する人たちにとっては,その言語・文
化を伝承する機会を設けることが,一見特別な取扱いであるように見え
ても,実質的な公平性が確保されるためには必要不可欠であり,このた
めの地方公共団体による相当な援助は合理的なものというべきである。
そうすると,仮に事実上本件減免対象部分の利用者が在日朝鮮人とその
家族や知人等に限られているとしても,決して公益性を損ねていること
にはならないというべきである。また,上記のような制限が管理会の管
理運営により行われている事実はなく,他の住民が利用することも許さ
れているのであるから,なおさら公益性は損なわれていない。そして,
朝鮮会館を管理する管理会は,在日朝鮮人の権益を擁護するために,朝
鮮会館を始めとする基本財産を所有し,その維持,管理を行う,文化・
社会・厚生・青年・婦人・商工人・出版等の各種団体に対する事務所・
会議室等の無償貸与,講演会,研究会,映画会,冠婚葬祭等のための会
場の無償貸与,災害などを受けた在日朝鮮人に対する一時的宿泊施設の
無償貸与,以上に準ずる各種の便宜貸与,管理会の目的並びに事業を行
うためにする寄附の受入れといった事業を行う旨を定款3条は定めてい
る。実際に,本件減免対象部分では,朝鮮のことば,民族,風習,歴
史,伝統等の学習会,講演会,映画鑑賞会等が定期的に開かれ,子ども
達にことば,歌,歴史を教える夏季学級,青少年達が朝鮮語や民族の文
化等を学ぶ青年学級も開催されており,女性を対象にした民族楽器や朝
鮮の歌や踊りのサークル活動が行われており,友好団体を始め,市民団
体,婦人団体等の交流会,親睦会が開催されており,友好親善のための
劇団公演などが開かれている。また,随時,生活相談が行われており,
各種図書が閲覧に供されており,さらに祖国や故郷訪問に関する事務手
続,中国・ハワイ・カナダ等への観光・留学・商業活動のためのパスポ
ート発行事務手続等が行われている。その結果,平成14年度の利用実
績は,学習会・映画会が21件,会議・討論会が32件,講演会が5
件,生活相談が25件,冠婚葬祭のための準備利用が3件,友好親善関
係の利用が5件となっており,例年ほぼ同様の実績がある。
     そして,社会教育法は公民館類似施設の設置者について制限を設けて
いないから,公民館類似施設が誰によって運用されているかは,固定資
産税減免の対象となる施設の要件である公益性とは直接的に関係のない
事項である。公民館類似施設につき,その基本的な施設の運用は地域住
民に委ねられている必要があるとする見解は,公民館類似施設の要件を
狭く捉えすぎているといわざるを得ない。また,朝鮮会館の運営は,そ
の主たる利用者である在日朝鮮人らの自主的運営に委ねられているが,
これは何ら法令に反するものではなく,公民館類似施設該当性を損なう
ものでもない。これは,同様に公民館類似施設である地区・部落公民館
が,地域住民すなわち利用者により自主的に運営されていることと同一
視することができる。上記のような利用対象者,設備,利用実態等から
すれば,本件減免対象部分は,公民館的機能を果たしており,公益性を
有していることは明らかである。
     なお,控訴人は,本件減免対象部分で,祖国や故郷訪問に関する事務
手続,観光等のためのパスポート発行事務手続等が行われていることを
問題視するが,上記事務手続は朝鮮会館の従たる事業の1つであり,主
たる事業内容はあくまで公民館的機能を果たすことにある。被控訴人
は,主たる事業内容に基づいて公民館類似施設と判断したものであり,
何ら問題はない。かえって,上記事務手続は,本件減免対象部分が公益
性を有することの1つの証左でもあり,他都市においては,パスポート
発行事務手続を行う施設について,在外公館に準ずる施設として固定資
産税を減免している例も見受けられる。
   イ 控訴人の主張に対しては,次のとおり反論する。すなわち,
    (ア) まず,控訴人は,社会教育法20条,22条,23条の規定を挙げ
た上で,「公民館類似施設」の利用者については広く「一定区域内の
住民」が予定され,「住民のうちの特定の者」を想定していない旨主
張する。
      しかし,上記各規定は,公民館についての規定であり,公民館類似
施設についての規定ではない。公民館類似施設の解釈・判断に当た
り,公民館に関する規定は参考になるものの,市町村等が設置する公
民館と,何人も設置し得る公民館類似施設とでは,その要件・効果に
ついて差異があることは当然であり,これらを全く同列に論じること
はできない。そして,社会教育法20条は,公民館につき「市町村そ
の他一定区域内の住民」を対象としており,必ずしも町内又は校区と
いった狭い地理的範囲によって画される住民のみを対象としてはおら
ず,例えば単に市内の住民ということでもよいと考えられる。この
点,主な公民館類似施設として,社会教育会館,児童文化センター,
婦人会館,市民会館,老人福祉会館,児童館,勤労青少年ホームなど
が挙げられることからも明らかなように,公民館類似施設の利用者や
運営主体は必ずしも狭い地域の住民に限られるものではないというべ
きである。本件減免対象部分は,上記のとおり,在日朝鮮人及びその
家族,朝鮮半島からの移住者及び留学生,並びにそれらの知人が主た
る利用者であるが,その他地域住民も本件減免対象部分を利用するこ
とができるのであるから,特定の住民のための施設ではなく,不特定
の住民に開かれた施設であるともいえる。仮に,本件減免対象部分が
特定の住民のための施設であるとしても,次のとおり,このような施
設は,公益性がないと考えるべきではない。すなわち,青年会館,子
ども文化会館,女性センター,勤労婦人センター,老人福祉センタ
ー,国際交流会館,市民会館等の「狭い範囲での地域住民」という単
位を利用者として想定していない様々な施設も公民館類似施設に当た
ると考えられているところ(身体ないし知的障害者のための社会教育
施設なども想定することができる。),これらの施設は,特定の度合
いや対象者の数に違いはあっても,特定の住民を対象にした施設とい
え,この点では本件減免対象部分との違いを見出すことは困難であ
る。そこで翻って考えるに,特定の住民を対象とした施設であって
も,決して公益性を損なうことにはならず,むしろ特定の住民を対象
にすることが公益に資する場合があるというべきである。この点,本
件減免対象部分について考えると,熊本市内ないしは熊本県内の在日
朝鮮人らが本件減免対象部分を利用して自己実現を図ることは正に公
益に資するというべきである。
    (イ) 次に,控訴人は,公民館は,政治的,宗教的に特定の団体(住民)
への関与・支援を明確に否定しているところ,本件減免対象部分に
は,政治目的を有している団体である朝鮮総聯が入居し,利用・活動
しているから公民館類似施設とはいえない旨主張する。
      しかし,政治的行為を制限する社会教育法23条は公民館に関する
規定であり,公民館類似施設についての規定ではない。また,同条1
項2号が禁止しているのは,公民館が,「特定の政党」や「特定の候
補者」の利害に関わるといった党派的政治行為を行うことであり,そ
の事業内容や施設利用が政治や政党に関するものであることを禁じて
いるものではないことに留意すべきである。そもそも,住民が民主主
義の担い手となっていくこと,あるいは政治の主体となっていくこと
に果たす社会教育の役割は広く深く開拓されていかなければならず,
当然,政治的素養の育成は尊重されなければならない。さらに,同号
が禁止しているのは日本国内の政党や選挙に関するものと解すべきで
あり,国外の政党や選挙に関わることは全く禁止していないというこ
とにも留意すべきである。控訴人の上記主張は,同号の誤った理解を
前提としているものであり,首肯し得ない。加えて,朝鮮総聯が一見
して反社会的で公益を害する団体であるならば格別,その綱領によれ
ば祖国政府への結集や愛国を謳い,祖国の発展に尽くし,祖国の統一
を目指すというのであるから,朝鮮総聯が反社会的団体であるという
ことはできず,そうであれば,仮に本件減免対象部分において朝鮮総
聯により一部政治活動が行われているとしても,何ら法令に反するも
のといえず,公益を損なうものともいえないから,本件減免対象部分
が公民館類似施設に該当するという判断を妨げるものではない。
   ウ 以上総合すれば,本件減免対象部分は,公民館類似施設に該当するも
のというべきである。
  (4) 固定資産税の減免事由に関する市長の裁量権について
    仮に,本件減免対象部分が上記「公民館類似施設」に該当しないとして
も,地方税法367条の定める減免措置は,個々の地方公共団体がその地
域社会における社会経済生活の特殊事情に考慮して,その独自の判断に基
づいて行うことを認めているから,本件条例50条1項4号の「前各号に
定めるもののほか,市長が特に必要と認める固定資産」,本件規則6条2
号ウの「その他これらに類する固定資産」,本件規則6条5号の「その
他,前各号に準ずるもので,市長が認めるもの」との各規定に基づき,固
定資産税の減免に関する裁量権が市長に付与されていることは明らかであ
る。そして,本件減免対象部分については十分な公益性が認められるか
ら,この市長の裁量権に基づく本件減免措置は,適法である。
(5) 地方自治法242条の2第1項4号請求について
本件減免措置は上記のとおり適法であるから,控訴人の上記4号請求は
理由がない。
  なお,本件減免措置による減免額は,固定資産税が26万7100円,
都市計画税が3万8200円である。また,延滞金の計算は,各納期毎に
納付すべき額につき,当該納期限の翌日から納付された日までの期間に応
じ,年14.6パーセント(納期限の翌日から1月を経過する日までの期
間については年4.1パーセント)の割合を乗じて行う。この延滞金の基
礎となる金額のうち,1000円未満の端数及び延滞金の金額のうち10
0円未満の端数に付いては,切り捨てることとされている。(地方税法2
0条の4の2第2項及び5項,369条1項,702条の8第1項,附則
3条の2並びに本件条例14条及び附則3条の2)。
第3 当裁判所の判断
 1 本件減免措置における法的根拠の欠如について(争点(1))及び地方税法3
67条の減免事由の有無について(争点(2))
   原判決「事実及び理由」欄の「第3 争点(本件減免措置の適法性)につ
いての当裁判所の判断」の1項及び2項に各記載のとおりであるから,これ
を引用する。
 2 本件条例50条1項2号及び本件規則6条2号ウの減免事由の有無につい
て(争点(3))
(1) 事実関係
 前記前提事実,証拠(各項末に記載のもの)及び弁論の全趣旨によれ
ば,以下の事実が認められる。
ア 朝鮮総聯の組織及び活動等
 朝鮮総聯は,昭和30年5月25日に結成された団体である。朝鮮総
聯の平成16年5月29日のホームページには,この朝鮮総聯の結成に
ついて,「朝鮮総聯の結成は,海外僑胞運動にたいする主席の思想と指
導の輝かしい結実であり,在日朝鮮人運動の発展と在日同胞の生活に根
本的な転換をもたらした歴史的出来事でありました。朝鮮総聯の結成に
より,在日朝鮮人運動は初めてチュチェ思想を指導理念とする民族的愛
国運動に確固と転換し,在日同胞は自らの民族的権利と利益を代表し擁
護する真の僑胞組織をもって,自らの運命を自主的に開拓できるように
なりました。金正日」と掲載し,朝鮮総聯の綱領についても,「朝鮮総
聯の綱領は,金日成主席が創始し,敬愛する金正日将軍が深化発展させ
た主体的な海外僑胞運動思想と理論を在日朝鮮人運動に実現するため
の,活動の目的と課題を明らかにしている。綱領は8項目からなってお
り,その基本内容はつぎの5つである。それは,第1に,在日朝鮮同胞
を朝鮮民主主義人民共和国のまわりに結集し,愛国愛族の旗のもとにチ
ュチェ偉業の継承完成のために献身し(第1項),第2に,諸般の民主
主義的民族権利を擁護し,民族性を生かすためにたたかい(第2,3,
4項),第3に社会主義祖国の富強発展に尽くし(第5項),第4に,
70万在日同胞の団結と,北,南,海外同胞との民族的連帯を強化し,
連邦制方式で祖国の自主的平和統一を成就するためにたたかい(第6
項),第5に,自主,平和,親善の理念のもとに,日本国民をはじめ世
界諸国民との友好親善と連帯をつよめる(第7,8項)という内容にま
とめることができる」と掲載して,朝鮮総聯が北朝鮮の指導のもとに北
朝鮮と一体の関係にあることを認めている。
 次に,同月30日の上記ホームページには,朝鮮総聯が都道府県ごと
に設けている地方本部について,「地方本部は,総聯中央の決定と方針
を自己の地域で執行するための事業を企画,遂行し,管下の諸団体と朝
鮮信用組合,金剛保険などの事業体,学校の事業を指導する。・・・地
方本部は,総聯の愛国運動の地域的拠点として,各界各層の在日朝鮮同
胞を結集し,民族教育の発展と諸般の民主主義的民族権利の擁護,祖国
統一の促進ため活動している。」とともに,熊本県本部の所在地として
朝鮮会館の所在地と同一地を掲載し,また,地方本部が当該地域を区分
して設けている支部についても,「支部は同胞を団結させる総合的拠点
であり,総聯の末端指導機関であり,愛国事業の執行単位であ
る。・・・支部は,総聯の活動方針と管下地域の同胞の志向とを密接に
結びつけて,すべての分野での愛国事業を具体的に計画し,それを執行
している。支部は同胞の生活と直接かかわる分会の活動を組織指導し,
商工会,青年同盟,女性同盟,青商会,学校,朝信などにたいする指導
もおこなっている」と掲載している。
 さらに,同月29日の上記ホームページには,朝鮮総聯の傘下団体と
して,在日朝鮮商工業者の企業活動に関わる様々な権利擁護と生活向上
をその活動目的とする在日本朝鮮人商工連合会(朝鮮商工会),朝鮮総
聯の愛国事業の継承者である広範な在日朝鮮青年を網羅した大衆団体
で,各地域に青年学校を設け,青年学生達に朝鮮のことばと文字を教
え,講演会や発表会などの文化,体育活動をしている在日本朝鮮青年同
盟(朝青),在日朝鮮女性の意思と利益を代表する大衆組織で,子女教
育や民族教育事業に特別な努力を傾けている在日本朝鮮民主女性同盟
(女性同盟)などがあり,また,その事業体として,朝鮮総聯中央常任
委員会機関誌などを出版して朝鮮総聯の出版宣伝事業の拠点である朝鮮
新報社,金剛保険株式会社などがある旨掲載している。
(甲3,乙7)
   イ 管理会と朝鮮総聯との関係等
     朝鮮会館を管理するとされる管理会の本件減免措置当時の役員は,理
事長のBが朝鮮総聯熊本県本部委員長であるばかりでなく,その他の役
員全員が朝鮮総聯熊本県本部副委員長や朝鮮総連傘下団体の熊本県役員
であった。そして,定款3条は,在日朝鮮人の権益を擁護するために,
①朝鮮会館を始めとする基本財産を所有し,その維持,管理を行うこ
と,②文化・社会・厚生・青年・婦人・商工人・出版等の各種団体に対
して事務所・会議室等を無償貸与すること,③講演会,研究会,映画
会,冠婚葬祭等のための会場を無償貸与すること,④災害などを受けた
在日朝鮮人に対して一時的宿泊施設を無償貸与すること等の事業を行う
と定めている。
     管理会から被控訴人宛の平成15年5月9日付け理由書(乙7)に
は,同日現在,管理会から無償貸与を受けて朝鮮会館に入館していた団
体としては,朝鮮総聯熊本県本部,朝鮮総聯熊本支部,朝鮮青年同盟熊
本県本部,朝鮮女性同盟熊本県本部,朝鮮人熊本県商工会,熊本県朝鮮
人商工協同組合,金剛保険,熊本県同胞生活相談総合センター,朝鮮新
報社,図書館が掲げられていた。また,朝鮮会館代表朝鮮総聯熊本県本
部及び朝日商事から被控訴人宛の同日付け証明書(乙8)には,朝鮮会
館は朝日商事から1の土地及び朝鮮会館を無償で貸与されている旨記載
されていた。
    (乙5,7,8,16,20,原審証人B)
   ウ 朝鮮会館内の部屋
    (ア) 1階部分(145.35平方メートル)
      主な部屋としては,朝鮮総聯熊本支部事務室(31.18平方メー
トル),会議室(32.30平方メートル),商工会・商工協同組合
事務室(17.40平方メートル)及び朝鮮女性同盟事務室(13.
78平方メートル)がある。このうち,本件減免措置の対象とされた
のは,熊本支部事務室及び会議室(対象面積合計63.48平方メー
トル)であり,商工会・商工協同組合事務室及び女性同盟事務室(面
積合計31.17平方メートル)は,それぞれ各団体の事務室として
使用されていたことから課税対象とされた。なお,熊本支部事務室,
商工会・商工協同組合事務室及び女性同盟事務室の各壁面上部には,
いずれも北朝鮮の故金日成主席と金正日総書記の各写真(以下「金親
子の写真」という。)が掲げられている。また,会議室内は,ステン
レス製と思われる簡易な流し台,ガス湯沸かし器,小容量の冷蔵庫,
簡易なガスコンロ,パイプ棚などで雑然としている。
    (イ) 2階部分(145.35平方メートル)
  主な部屋として,応接室(12.92平方メートル),朝鮮総聯熊
本県本部事務室(19.68平方メートル),朝鮮新報社事務室部分
(7.87平方メートル),図書室(32.30平方メートル),学
習室・講演会室・歴史展示室(31.18平方メートル)がある。こ
のうち,本件減免措置の対象とされたのは,朝鮮新報社事務室部分を
除く各部屋(対象面積合計96.08平方メートル)であり,朝鮮新
報社事務室部分は上記と同様の理由から課税対象とされた。なお,応
接室,上記事務室及び図書室の各壁面上部にはいずれも金親子の写真
が掲げられ,学習室・講演会室・歴史展示室の壁面にも故金日成主席
か金正日総書記のいずれかの写真が掲げられている。図書室には,机
は配置されているものの,多数の書籍が本棚以外にも雑然と置かれ,
各書籍に分類を示すラベルの貼付はなく,また,本棚にも書籍の分類
を示す表示も全くない。また,上記展示室には,朝鮮の近代史に関す
る歴史資料の写真等が壁面パネルに展示され,机等も配置されてい
る。
(ウ) 3階部分(113.05平方メートル)
  部屋は会議室のみであり,3階部分のすべてが本件減免措置の対象
とされた。
(エ) 4階部分(35.88平方メートル)
  宿直室(21.60平方メートル)と階段室があり,宿直室の壁面
上には金親子の写真が掲げられている。4階部分のすべてが本件減免
措置の対象とされた。
 (乙13ないし16,19,20,原審証人E,同B)
エ 朝鮮会館の利用状況についての説明
 朝鮮会館の利用状況について,管理会は,上記理由書(乙7)におい
て,被控訴人に対し,朝鮮総聯熊本県本部をはじめ朝鮮総聯傘下の各種
の団体等に事務所の無償貸与,会議室の無償貸与をはじめ在日朝鮮人の
社会的,文化的資質と地位を向上させるための映画会,各種発表会,学
術研究会等の会場無償貸与,各地の代表団や修学旅行団などへの休憩及
び宿泊施設の無償提供,冠婚葬祭,還暦祝などの会場の無償貸与などを
日常的に行っている旨説明し,平成15年5月16日の熊本市の担当者
による実地調査の際にも,管理会代表者から同趣旨の口頭説明があっ
た。
 また,被控訴人代理人らによる照会に対する管理会の平成16年3月
23日付け回答(乙6)においても,管理会は,朝鮮会館の利用状況に
ついて,次のとおり回答した。すなわち,朝鮮会館は,①朝鮮のこと
ば,民族,風習,歴史,伝統等の学習会,講演会,映画鑑賞会等の定期
的開催,子ども達にことば,歌,歴史を教える夏季学級,青少年達が朝
鮮語や民族の文化等を学ぶ青年学級の開催,②女性を対象にした民族楽
器や朝鮮の歌・踊りのサークル活動,③友好団体をはじめ,市民団体,
婦人団体等との交流会,親睦会の開催,④友好親善のための劇団公演の
開催,⑤生活相談(随時),⑥各種図書の閲覧(随時),⑦祖国や故郷
訪問に関する申請手続,中国,ハワイ,カナダ等への観光・留学・商業
活動のためのパスポート発行事務手続等に利用されている。平成14年
度の利用実態としては,学習会・映画会21件,会議・討論会32件,
生活相談25件,冠婚葬祭の準備利用3件,友好親善関係の利用5件で
あり,例年もほぼ同様である。定款3条にいう在日朝鮮人とは1910
年の韓国併合時から1945年の第二次世界大戦終戦時までの間に,朝
鮮半島から日本に強制連行,徴用又は生活などのために移住してきた者
及びその子孫をいい,朝鮮籍,韓国籍,さらには帰化して日本国籍とな
った者も含み,その家族・知人が利用しているが,これに限られず,終
戦後に朝鮮半島から移住してきた者や留学生にも利用されている。昔は
地域の人達との交流も行われて利用されていたが,最近はほとんど利用
はない。
(乙6,7,19,20,27,原審証人E,同B)
オ 平成17年8月当時の朝鮮会館の利用状況
 控訴人が平成17年8月1日から同年9月2日までの約1か月間に行
った朝鮮会館の利用状況調査において,朝鮮会館には朝鮮総聯関係者の
若干の出入りがあったのみで,その属性を問わず,朝鮮総聯関係者以外
の者が朝鮮会館を利用した形跡は全く見られなかった。
(甲27,30)
  (3) 検討
   ア地方税法における固定資産税等の納付義務者と減免事由
     地方税法343条1項は,固定資産税の納税義務者を固定資産の所有
者と定め,同条2項は,この固定資産の所有者を,土地又は家屋につい
ては,登記簿等に所有者として登記又は登録されている者をいう旨定め
ている。また,同法702条1項は,都市計画税の納付義務者を土地又
は家屋の所有者と定め,同条2項は,この所有者とは,当該土地又は家
屋に係る固定資産税について同法343条(3項,8項及び9項を除
く。)において所有者とされ,又は所有者とみなされる者をいう旨定め
ている。他方,同法367条が規定する固定資産税の減免のような地方
税の減免は,地方公共団体が法令又は条例の規定により課税権を行使し
た結果,ある人について発生した納税義務を,当該納税者の有する担税
力の減少その他納税者個人の事情に着目して,課税権者である地方公共
団体自らがその租税債権の全部又は一部を放棄し,消滅させることによ
って解除するものであると一般に解されている。そうすると,固定資産
税等の減免事由の存否は,当該固定資産の納税義務者とされている登記
簿等に所有者として登記又は登録されている者について判断されなれば
ならないこというまでもない。
     そこで,本件を見るに,本件減免措置の対象である1記載の土地及び
朝鮮会館について,登記簿に所有者として登記されているのは朝日商事
である。すなわち,本件減免措置の根拠としての減免事由の存否が判断
されなければならないのは,この朝日商事についてということになる。
しかし,前記前提事実から明らかとおり,朝日商事は,元々朝鮮会館を
所有することを企図して設立されたにすぎず,会社としての活動は何ら
行われていないものである。すなわち,朝日商事は,地方税法367条
が定める「その他特別の事情がある者」に該当しないことはもちろん,
本件減免対象部分を本件条例50条1項2号に定める「公益のために直
接専用する」者に該当しないことも明白であるから,朝日商事が所有者
として登記されている1記載の土地及び朝鮮会館については,その固定
資産税の納付義務者である朝日商事に,地方税法367条及び本件条例
50条1項2号に定める減免事由は何ら認められないことになる。しか
るに,この点について,被控訴人からは何らの主張,立証もない。そう
すると,本件減免対象部分が,被控訴人が本件減免措置の根拠の一つと
して主張する,地方税法367条の下位規範である本件条例50条1項
4号に定める「市長が特に必要と認める固定資産」,本件条例50条1
項2号の下位規範である本件規則6条1項2号ウに定める「公民館類似
施設」や「その他これらに類する固定資産」にそれぞれ該当するか否か
を検討するまでもなく,本件減免措置は,既に違法といわなければなら
ない。
   イ本件条例50条1項2号の「公益のために直接専用する固定資産」と
本件減免対象部分について
 仮に,上記「公益のために直接専用する固定資産」という減免事由の
存否を納税義務者自身についてではなく,現実の利用者について判断す
べきであるとしても,次のとおり,本件では,この減免事由は存在しな
いというべきである。すなわち,
     上記「公益のために直接専用する固定資産」とは,上記説示のとお
り,地方税法367条の「その他特別の事情がある者」を受けて規定さ
れているが,その内容については必ずしも明らかでない。しかし,地方
税法及び本件条例がいずれも我が国法体系の中の法令である以上,この
「公益のために」とは「我が国社会一般の利益のために」と解すべきこ
とは,文理上からも,また,その対象が我が国内の固定資産である土地
又は家屋等である以上,当然である。そこで,本件を見るに,上記認定
の,朝鮮総聯の組織及び活動等,管理会と朝鮮総聯との関係等,朝鮮会
館内の部屋に関する各事実,特に,朝鮮会館の大部分の部屋を,朝鮮総
聯の地方組織である朝鮮総聯熊本県本部及び朝鮮総聯熊本支部,朝鮮総
聯の傘下団体である商工会等や朝鮮総聯の事業体である朝鮮新報社が,
朝日商事ないしは管理会から無償で借り受けて,その事務室,応接室,
会議室として使用し,その室内には金親子の写真が掲げられている事
実,朝日商事や管理会の役員には朝鮮総聯熊本県本部等の役員が就任し
ている事実からすると,朝鮮会館全体が,朝鮮総聯の活動拠点として,
そのために専ら使用されていることは明らかといわなければならない。
すなわち,このような朝鮮会館の使用が「我が国社会一般の利益のため
に」ということができるかが問われることになる。この観点から見たと
き,上記認定の朝鮮総聯の組織び活動等に関する事実からは,朝鮮総聯
が,北朝鮮の指導のもとに北朝鮮と一体の関係にあって,専ら北朝鮮の
国益やその所属構成員である在日朝鮮人の私的利益を擁護するために,
我が国において活動をおこなっていることは明らかである。このような
朝鮮総聯の活動が「我が国社会一般の利益のために」行われているもの
でないことはいうまでもない。被控訴人自身,既に,朝鮮会館の事務室
のうち,朝鮮総聯の傘下団体である商工会等事務室やその事業体である
朝鮮新報社事務室部分については本件減免措置の対象外としているが,
このことは,その包括団体である朝鮮総聯の活動の評価としても同様と
いうべきである。
     上記説示のとおり,本件減免対象部分の利用者である朝鮮総聯等の使
用が上記「公益のために」という要件に該当しない以上,本件減免措置
は,上記減免事由が存在しない違法な処分といわなければならない。
ウ 本件規則6条2号ウの「公民館類似施設」と本件減免対象部分につい

  上記「公民館類似施設」が社会教育法42条に規定する「公民館に類
似する施設」を指すことは明らかであり,同法20条によれば,公民館
は,実際生活に即する教育,学術及び文化に関する各種の事業を行う施
設とされている。この公民館類似施設が,上記「公益のために直接専用
する固定資産」を例示列挙したものであることはいうまでもない。これ
らのことからすれば,この公民館類似施設等とは,専ら上記の意味にお
ける公益的な活動を目的,内容とする施設を指すものと解するのが相当
であり,公民館と同様に,一定の属性を有する者を対象とした施設では
なく,一定区域の住民を広く対象とした施設を予定しているものと解す
るのが相当である。そして,公平性が強く要請される課税事務におい
て,このような減免事由が例外的に不公平な取扱いを正当化する要件で
あることに照らすと,この公益性の有無に関しては,当該固定資産で営
まれる事業の目的及び内容,その設備内容,さらにはその利用実態等の
具体的事実の存否を客観的資料でもって認定した上で,その事実をもと
に厳格に判断されなければならない。
  そこで,本件減免対象部分についてみるに,まず,上記認定のとお
り,定款によれば,管理会は,各種団体に対する事務所・会議室等の無
償貸与,各種会合のための会場の無償貸与などの事業を行うとされてい
るが,その使用目的においては,必ずしも教育,学術,文化等の公益活
動であることを要する等の限定はされていない。また,朝鮮会館のう
ち,商工会等の事務室や朝鮮新報社の事務室部分については,被控訴人
自身,上記のとおり現に公益のために使用されているとはいえないと判
断しているが,これら課税対象部分と本件減免対象部分について,特に
区分されて使用目的が定められているわけではない。このように,朝鮮
会館の運営規則上,本件減免部分が専ら上記「公益のために」使用され
るべきものとは定められていないのである。次に,朝鮮会館の利用状況
についても,上記認定のとおり,本件減免を申請した朝日商事代表者,
すなわち,管理会代表者で朝鮮総聯熊本県本部委員長でもあるBから熊
本市の担当者に対してるる説明がされているものの,これを客観的に認
めるに足りる資料の提出は全くない。逆に,上記認定の平成17年8月
1日から同年9月2日までの利用状況を見る限り,特に,この期間が一
般的には夏期休暇中の活動期間であると思われるにもかかわらず,朝鮮
会館が上記「公益のために」利用された形跡は全く認められない。これ
らのことからすると,本件減免措置の当時も,朝鮮会館が必ずしも上記
「公益のために」という目的,内容の施設としてふさわしい利用状況で
あったかについては,大いに疑問があることになる。結局,本件減免部
分については,上記減免事由の存在を未だ認めることができないといわ
なければならない。
エ まとめ
  以上のとおり,本件減免対象部分については,地方税法367条,本
件条例50条1項2号,本件規則6条2号ウに規定する固定資産税の減
免事由が存在するとは到底認められない。
 3 固定資産税の減免事由に関する市長の裁量権について(争点(4))
 被控訴人は,固定資産税の減免事由に関する市長の裁量権について,るる
主張する。しかし,厳格な租税法律主義のもと,租税法領域での課税庁の処
分に自由裁量は認められず,裁量が認められるとしても,それは,法規裁量
の範囲内であることに異論はない。このことは,固定資産税の減免事由につ
いても同様である。そうすると,上記説示のとおり,本件減免対象部分の納
税義務者である朝日商事に公益性が認められないばかりでなく,朝鮮総聯等
の使用についても公益性が認められないことからすれば,本件減免対象部分
が,本件条例50条1項4号に規定する「市長が特に必要と認める固定資
産」,さらには,本件規則6条5号に規定する「その他,前各号に準ずるも
ので,市長が認めるもの」に該当するものとは認め難いことになる。実際に
も,本件減免措置において,被控訴人は,上記各号の要件該当性の有無を判
断したものとは認められない上,審理においても,法規裁量としての要件該
当性について何ら主張,立証をしない。したがって,被控訴人の上記主張
は,到底採用の限りではない。
 4 本件減免措置の無効確認請求及び取消請求について
 上記説示のとおり,本件減免措置は,違法なものといわざるを得ない。し
かし,本件減免措置は,地方税367条,702条の8第7項,本件条例5
0条1項2号,150条本文,本件規則6条2号ウに該当するものとして,
所定の手続により行われたものであるから,その瑕疵が重大かつ明白で,当
然に無効とまでは言い難い。したがって,控訴人の本件減免措置の無効確認
請求については,未だ理由がないといわざるを得ないが,これと選択的関係
に立つ本件減免措置の取消請求は,理由があるといわなればならない。
 5 本件減免対象部分に対する徴収権不行使の違法確認請求について
 上記説示のとおり,被控訴人は,本件減免措置をすることによって,朝日
商事が納税義務者として負っている本件対象部分の平成15年度分固定資産
税等を免除したものであり,その賦課徴収を怠ったものではない。すなわ
ち,本件減免措置は,地方自治法242条の2第1項3号所定の「怠る事
実」に当たるものではないことになる。また,本件減免措置に関しては,監
査委員が同法242条4項に基づいて,本件減免措置を取り消して免除額を
徴収するよう勧告しているが,勧告が被控訴人に対してその内容どおりの法
的拘束力を持つとまでは認められないから,勧告に従わなかったこと自体が
独自に違法性を帯びるとも言い難い。したがって,本件減免対象部分に対す
る徴収権不行使の違法確認請求は理由がない。
 6 Aに対する損害賠償請求について
 本件減免措置をするに当たり,被控訴人がその減免事由の存否の判断を誤
って違法に本件減免措置をしたこと,その結果,熊本市が本件減免措置に相
当する本件対象部分に係る平成15年度分固定資産税等の租税債権30万5
300円を喪失するという損害を被ったことは,いずれも上記説示から明ら
かである。そこで,本件減免措置に際してのAの注意義務違反の有無が問題
となる。この点,控訴人は,Aの故意を主張するが,その主張の中には当然
Aの過失,すなわち注意義務違反の主張も含まれていると解するのが相当で
ある。そして,前記認定の本件減免措置の経緯に関する事実,上記説示の本
件減免措置の違法内容からすると,その担当者に対する指揮監督上の義務を
含めてAの注意義務違反が事実上推認されるので,被控訴人において,Aに
この注意義務違反がなかったことについて,主張,立証をしなければならな
い。しかし,被控訴人からは,この点についての主張,立証は何らない。そ
うである以上,Aは,熊本市に対し,上記金額について不法行為による損害
賠償義務を負っているといわなければならない。そして,控訴人は,上記損
害に併せて,地方税法369条1項に規定する延滞金相当の損害を主張す
る。しかし,本件減免対象部分の納税義務者である朝日商事において,未だ
その納期限後にその税金を納付する場合に該当するとはいえないから,この
延滞金は未だ請求できず,この延滞金相当の損害は未だ発生していないとい
わざるを得ないことになる。結局,控訴人が本訴において求めるAに対する
損害賠償請求は,上記30万5300円について理由がある。
なお,控訴人は,本訴のAに対する損害賠償請求について,賠償命令とい
う表現を用いているが,Aは熊本市長の職にあった者である以上,地方自治
法242条の2第1項4号ただし書きが規定する賠償の命令の対象となる者
ではなく,同号本文の損害賠償等の請求の対象となる者にすぎない。したが
って,この控訴人の上記4号請求を上記説示のとおりAに対する同号本文の
請求として判断する。
 7 結論
  以上のとおり,控訴人の請求のうち,本件減免措置の取消請求及び上記6
の限度におけるAに対する損害賠償請求はそれぞれ理由があるが,その余の
請求はいずれも理由がないことになる。よって,これと異なり,控訴人の本
件請求をすべて棄却した原判決を変更することとして,主文のとおり判決す
る。
 福岡高等裁判所第5民事部
 裁判長裁判官    中  山  弘  幸
裁判官    岩  木     宰
裁判官    伊  丹     恭
(別紙)
  目      録
1 土  地
所  在熊本市a町b丁目
地  番c番d,c番e
地  目宅地
地  積238.34平方メートル
2 建  物
所  在熊本市a町b丁目c番地d,c番地e
家屋番号c番e
種  類事務所
構  造鉄骨造陸屋根亜鉛メッキ鋼板葺4階建
床面積439.63平方メートル
3 固定資産税等免除措置対象部分
(1) 上記1の土地のうち,209.74平方メートル
(2) 上記2の建物のうち,
1階 朝鮮総聯熊本支部事務室,会議室
2階 朝鮮総聯熊本県本部事務室,応接室,学習室・講演会室・歴史
展示室,図書室
3階 会議室,ホール,階段室
4階 宿直室,階段室
及び共有面積を含めた合計390.24平方メートル
                                (以 上)

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