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神戸地方裁判所 平成14年10月15日判決 平成13年(わ)第1229号,第
1359号 銃砲刀剣類所持等取締法違反,殺人未遂,公務執行妨害(認定罪名 
銃砲刀剣類所持等取締法違反,殺人未遂,公務執行妨害,傷害)被告事件
主  文
被告人を懲役14年に処する。
未決勾留日数中230日をその刑に算入する。
押収してある回転弾倉式けん銃1丁(平成14年押第24号の1),けん
銃用実包4発(同押号の2,3。ただし,同押号の3はいずれも鑑定試射済みのも
の),けん銃3丁(同押号の4,5,29),実包143発(同押号の6ないし2
8,30ないし32。ただし,同押号の6ないし27,31,32はいずれも鑑定
試射済みのもの。同押号の28,30はいずれも鑑定のため解体されたもの)を没
収する。
理  由
(罪となるべき事実)
 被告人は,法定の除外事由がないのに,
第1 平成13年11月2日午後4時8分ころ,神戸市A区B町a丁目b番c号所
在のC株式会社D駅E口構内柵外コンコースにおいて,回転弾倉式けん銃1丁(平
成14年押第24号の1。以下「本件けん銃」という。)を,これに適合し,か
つ,けん銃に使用することができるものとして内閣府令で定める実包(以下,単
に,「けん銃実包」という。)6発(うち4発が同押号の2及び3。ただし,同押
号の3はいずれも鑑定試射済みのもの)を装填した状態で同実包とともに携帯して
所持した
第2 兵庫県警察本部地域部鉄道警察隊特務係の警察官であるF巡査部長(当時4
9歳)及びG巡査長(当時32歳)から,公衆に著しく迷惑をかける暴力的不良行
為等の防止に関する条例違反の容疑で最寄りの同隊D駅詰所まで任意同行を求めら
れてこれに応じ,自己の右側をFに,自己の左側をGに挟まれた状態で前記D駅E
口構内柵外コンコースを歩行中,本件けん銃等の所持が発覚することをおそれ,G
らに本件けん銃を突き付ける等して同人らが怯んだ隙に逃走しようと企て,前記第
1記載の日時場所において,所携のビニール袋から本件けん銃を取り出したが,こ
れに気付いたFに両手で自己の右手首を掴まれて押し下げられるや,その状態で本
件けん銃を発射すれば左前方直近にいたGに銃弾等が命中して死亡するに至るかも
しれないことを認識しながら,あえてこれを意に介さず,未必的殺意をもって,同
人の身体又はその周辺に向けられた状態で本件けん銃を1回発射した(以下,「第
1発砲」という。)が,同人には命中せず,その銃弾を同所付近の床面に炸裂さ
せ,飛散した同銃弾の鉛片を同駅E口構内柵内コンコースを通行中のH(当時57
歳。以下「H」という。)の左頚部に命中させ,同人に全治約5日間を要する左頚
部切創の傷害を負わせただけで,G及びHを死亡させるに至らず,引き続き,Gに
おいて本件けん銃を奪い取ろうとして自己の右手を掴む等したため,もはやこの場
から逃走するためにはGに向けて本件けん銃を発射するほかないと決意し,確定的
殺意をもって,同人の下腹部付近に向けて本件けん銃を1回発射した(以下,「第
2発砲」という。)が,同人が着用するズボンの左前ポケット部分を貫通したに止
まり,同人を殺害するに至らず,さらに,その後Gらとの間で本件けん銃の奪い合
いとなったが,その際,一旦仰向けに転倒した後起き上がってきたGに対し,本件
けん銃の用心鉄部分で同人の頭部を1回殴打する暴行を加えて,同人に加療約10
日間を要する頭部外傷等の傷害を負わせ,もって,法定の除外事由がないのに,不
特定若しくは多数の者の用に供される場所において,けん銃を発射し,F及びGの
前記職務の執行を妨害するとともに,第1発砲によりG及びHを死亡させるに至ら
ず,第2発砲によりGを殺害するに至らず,かつ前記本件けん銃による殴打によ
り,Gに前記の傷害を負わせた
第3 同月3日午前3時ころ,大阪市I区Jd丁目e番f号Kビルgーh号所在の
被告人方において,回転弾倉式けん銃2丁(同押号の4,5)をこれらに適合する
けん銃実包52発(同押号の6,8ないし17,19ないし21。ただし,いずれ
も鑑定試射済みのもの)とともに,中折れ式改造けん銃1丁(同押号の29)をこ
れに適合するけん銃実包81発(同押号の22ないし27,30ないし32。ただ
し,同押号の22ないし27,31,32はいずれも鑑定試射済みのもの。同押号
の30は鑑定により解体されたもの)とともにそれぞれ保管して所持し,かつ,け
ん銃実包10発(同押号の7,18,28。ただし,同押号の7,18はいずれも
鑑定試射済みのもの。同押号の28は鑑定により解体されたもの)を所持した
ものである。
(証拠の標目)―括弧内の数字は証拠等関係カード記載の検察官請求証拠番号―
 省略
(補足説明)―括弧内の数字は証拠等関係カード記載の検察官請求証拠番号―
第1 争点の整理等
   判示第2につき,検察官は,被告人がGを殺害して逃走しようと企て,確定
的殺意をもって第1発砲,第2発砲に及び,引き続き殺意をもって本件けん銃で同
人の頭部を殴打した旨主張するのに対し,弁護人は,第1発砲及び第2発砲はいず
れも暴発であって,被告人がGに向けて意図的に本件けん銃で2回発砲したことは
なく,また,意図的に本件けん銃でGの頭部を殴打したこともない,被告人にはG
に対する殺意はなかった旨主張し,被告人も当公判廷で弁護人の主張に沿う供述を
する。
   当裁判所は,被告人が,Gに対する未必的殺意をもって第1発砲に及び,さ
らに同人に対する確定的殺意をもって第2発砲に及んだほか,殺意なくけん銃でG
の頭部を殴打して傷害を負わせたものと認めたのであるが,所論にかんがみ,以下
補足して説明する。
第2 前提事実
   前掲関係各証拠によれば,次の事実が認められる。これらの事実について
は,訴訟関係人間においても格別争いはない。
 1 被告人はその所属する暴力団の会計担当者であったが,かねてその資金約1
00万円を使い込んでいたところ,その穴埋めに窮し,通行人を標的に強盗等をし
て現金を奪取しようと企て,平成13年11月2日,実包6発を装填した本件けん
銃等をビニール袋に入れて携帯して神戸市内のD近辺を徘徊したが,結局実行でき
ないまま帰宅途中,L株式会社D駅に設置されたエスカレーターにおいて,2人連
れの女性のスカート内に手鏡を差し入れて覗こうとしたところを痴漢取締りに従事
中のFに現認され,同日午後4時6分ころ,Gから任意同行を求められてこれに応
じ,判示鉄道警察隊D駅詰所に向けてGに左側から寄り添われて歩き始め,その後
Fも被告人の右側に寄り添い,その両脇をGらに挟まれて前記詰所に向け連行され
た。被告人は,歩きながら,ひそかに所携のビニール袋内に右手を突っ込み,本件
けん銃のホルスターのホックを外して引き金に右手人指し指をかけた状態で本件け
ん銃の握り部分を握りしめ,逃走の機会を窺っていたが,同駅E口改札口前付近の
同駅E口構内柵外コンコースにおいて,ビニール袋内から本件けん銃を前記状態の
まま取り出した。
 2 同日午後4時8分37秒ないし39秒ころ,Fが本件けん銃を前記ビニール
袋から取り出した被告人の右手を押さえ込もうとするや,本件けん銃から銃弾1発
が発射された(第1発砲)が,前記銃弾は床面付近に炸裂して周囲に飛散し,その
破片の1つが同駅E口改札口付近にいたHの左頚部に直撃した。
   なお,Hは,前記地点で第1発砲に至る前から被告人らの挙動を注視してい
た者であるが,第1発砲時には,被告人において,本件けん銃を水平よりも20度
くらい斜め下方向,かつ,前記地点のHのやや左方向に向けているのを目撃した。
 3 その後,被告人を押さえ込もうとしたG及びFが被告人を間に挟んで同人と
もみ合いになったが,第1発砲から10秒ないし14秒後の時点で,さらに本件け
ん銃から銃弾1発が発射された(第2発砲)。   
 4 被告人が前記ビニール袋内で本件けん銃を握ってから第2発砲に至るまでの
間,本件けん銃の引き金部分には,被告人以外の者の指が触れることはなかった。
 5 本件現場には,前記D駅E口改札口柵外コンコース及び同改札口柵内コンコ
ースに1つの銃弾の破片である可能性が高い鉛片様のもの9個がそれぞれ散乱して
いた。
 6 本件けん銃は,極めて強力な人畜殺傷能力が認められる真正けん銃である。
その弾倉には実包4発と撃ちがら薬きょう2個が装填されており,顕著な硝煙痕が
1発分の間隔を空けて合計2か所認められたほか,前記実包のうち1つには軽い激
震痕が認められた。
 7 Gが着用していたズボンには,正面に正中線側から左体側方向に向け銃器発
射残さの付着する貫通痕が3か所認められた。これらは同ズボンを貫通した弾丸が
ズボン中央側から入って左側ポケット部分から斜め下方向に抜け出たことを推認さ
せるものである。
 8 Hは,前記破片が左頚部に直撃したことにより全治約5日間を要する左頚部
切創の傷害を負い,Gは,左手拇指付け根部分に擦過傷が認められたほか,通院加
療約10日間を要する頭部外傷,頭皮挫創の傷害を負った。
第3 けん銃発射行為及び殴打行為について
 1 F及びG並びに被告人の各公判供述の概要は,以下のとおりである。
  (1) Fの供述概要
    前記3名が判示柵外コンコースを北向きに歩行中,自分は被告人の右側
を,Gは被告人の少し左前方を歩いていた。被告人がビニール袋から右手で鈍器様
の何か黒い物を取り出そうとしたので,体重をかけてその右手を押さえこれを押し
下げたところ発射音がし,硝煙の臭いがした。Gは第1発砲前には本件けん銃に気
付いていなかったと思うが,その発射音で振り向いて被告人の右手首を押し下げて
いた。自分は被告人の右手を握っていたが,その後けん銃の取り合いのような状態
の中で,自分の手がはずれてしまい,被告人とGが向き合うような姿勢になって,
Gが右手を被告人の体の右側の方に,左手を被告人の右手に伸ばして前かがみにな
った段階で第2発砲の銃声がした。その後自分は再び被告人の右手首を持ったが,
もつれるような態勢になって今度はGが転倒し,被告人は右手を振り上げてGの頭
部あたりを本件けん銃で殴打した。
  (2) Gの供述概要
    前記3名が前記コンコースを北向きに歩行中,Fは被告人の右側を,自分
は被告人の少し左前を歩いていた。自分が進行方向にある警察官詰所の方を確認し
ていた際第1発砲の銃声が聞こえた。その音で振り向いたところ,Fが黒いけん銃
様の物を持った被告人の右手を両手で下に押さえつけていた。そこで自分はやや前
傾姿勢になって右手で被告人の左肘を,左手で被告人の右手の甲を掴み,本件けん
銃を下に向けて押さえつけながらこれを取り上げるため左手で本件けん銃の撃鉄部
分を上から掴んだところ,被告人が引き金を引き,自分は左手に痛みを感じた(な
お,その際の銃口の向きについての公判供述には変遷がある。)。さらに,自分は
右手で被告人の左袖を掴んだまま左手で被告人の右手の甲を掴んだが,その際第2
発砲の銃声がした。その後被告人が左手を振り上げたはずみで被告人の左袖を自分
の右手で持った状態のまま転倒し,被告人の左肘を強く引いて起き上がろうとした
ところ,被告人は右手に持った本件けん銃で自分の左前頭部付近を殴打した。
(3) 被告人の供述概要
    前記3名が前記コンコースを北向きに歩行中,Fは被告人の右側で被告人
の左腕を巻くように,Gは被告人の左側で被告人の右腕を巻くようにして歩いてい
た。本件けん銃を示して警察官を怯ませて逃亡しようと考え,持っていたビニール
袋から,本件けん銃を引き金に右手人差し指をかけた状態で取り出し,Gに銃口を
向けた。その時Fが「あんた,何してんの。」と言いながら右手で被告人の右肘当
たりを引っ張り,Gも被告人の本件けん銃の上の部分を左手で掴むと右手も添えて
両手で引っ張り,頭を被告人の胸あたりにつけてきた。そして本件けん銃の取り合
いになったところ,本件けん銃が暴発した(第1発砲)。その後も同様の状況で本
件けん銃の奪い合いをしていたところ,本件けん銃が再び暴発した(第2発砲)。
なお第1発砲と第2発砲との間に本件けん銃の撃鉄が動いたかどうかは分からな
い。その後も銃の取り合いが続き,Gの体が後ろに倒れかけGが銃から手を放した
ため本件けん銃がGにあたった。
 2 G及びFの公判供述は,2発のけん銃発射の間に被告人がさらに本件けん銃
の引き金を1回引いたことも含めて判示第2記載の客観的事実に沿うものであると
ころ,いずれも具体的かつ詳細で迫真性に富み,相互に符合しており,概ね信用で
きる。
   弁護人は,G及びFの各公判供述は,「FとGの両名において本件けん銃を
取り出した被告人の右手を押さえて銃口を床面に向けさせて恫喝して発砲を阻止し
ようとしたが,被告人は本件けん銃を1発発射した。」旨の同人ら作成の現行犯人
逮捕手続書(1)の記載や被告人は発砲する前に腕を振り解こうと暴れ出した旨の
H(25,25)やM(33)の前掲各供述調書中の供述部分と矛盾するから信用
性に乏しい旨主張する。
   しかしながら,前記現行犯人逮捕手続書は,逮捕当初の混乱した時期にG及
びFから口授された別の警察官により下書きされたものであるから,GやFの実際
の認識内容と多少食い違った内容であるとしてもさほど奇異とは言えない上,Gが
被告人の右手を押さえたという点を除けば,G又はFのいずれかの供述内容と符合
した記載であるから特段不合理な記載とは言えない。また,前掲の司法警察員作成
の捜査報告書(43,ただし不同意部分を除く。)及びVHSビデオテープ(14
3)によると,第1発砲の直前と認められる同日(平成13年11月2日)午後4
時8分37秒ころにおいて被告人が暴れたりFやGともみ合っている状況は窺われ
ない上,Hは,「犯人が暴れようとしたと『同時に』その犯人の右側の人がやや左
側を向いて半身になった犯人の後ろからその胴体を抱え込むような感じで捕まえた
『瞬間』パーンという乾いた音がした」と供述しているのであって,必ずしもFや
Gの前記供述と矛盾した内容の供述とはいえない。加えて,被告人が前記ビニール
袋から本件けん銃を取り出してから第1発砲までの間に一定時間Fらともみ合って
いたとすれば,前記Mを含めた通行人らの1,2名は本件けん銃に気付いて逃げ出
すなどすると思われるが,そのような気配はない。かえって,Nは,同駅E口柵外
コンコース東側に隣接するアクセサリー店内から,Oは,同店北側に隣接する洋服
店の出入口付近から,それぞれ第1発砲の銃声後に被告人が本件けん銃を持つ右手
を上下に振り回したりしてGらともみ合う姿を目撃した者であるが,第1発砲前に
そのようなもみ合いがあったとは供述していないなど,目撃者らの多くは第1発砲
の前に被告人とFらがもみ合っていた旨の供述はしていない。そうすると,結局前
記Mの供述は前後関係を取り違えるなどした不正確な供述である可能性が高いとい
うほかはない。これらの点に照らすと,弁護人の前記主張を考慮しても,格別,G
及びFの各公判供述の信用性が減殺されるとは言えない。
 3 さらに,本件けん銃の暴発可能性につき,技術吏員Pは,前掲供述調書(5
1)において,本件けん銃は,安全子が取り付けられているため,撃鉄の引き起こ
し途中で暴発が起こることはあり得ず,また,回転弾倉式けん銃を複作動撃発形式
(いわゆるダブルアクション)により発射する場合には,指にかなりの力を入れて
引き金を深く引き切らなければならないから,暴発はあり得ない旨供述していると
ころ,その信憑性は十分であり,これを左右すべき証拠はない。
 4 これらに対し,被告人は,当公判廷において,本件けん銃から銃弾が発射さ
れた際には,Fにおいて被告人の右肘を掴んで引っ張っており,Gにおいて両手で
本件けん銃を引っ張っていたところ,第1発砲,第2発砲のいずれの場合も,自己
の意思で本件けん銃の引き金を引いていないのにけん銃が暴発した,Gの前額部に
本件けん銃が当たったのは,同人と本件けん銃を巡ってもみ合う中で同人が後方に
倒れそうになって同人の被告人の右腕を掴む力が緩んだためである等と供述する。
   しかしながら,前記被告人の供述するけん銃発射時の状況やけん銃による殴
打時の状況は,いずれも信用できるG及びFの各公判供述と相反し,また前記技術
吏員Pの供述内容とも合致しないものである。加えて,被告人は,捜査段階におい
て,逮捕当初は本件けん銃を2回発射し,本件けん銃で警察官に殴りかかったこと
を自認していた(65,66)が,検察官の弁解録取の際には一転して「警察官が
私の手首を掴んで引っ張るので弾が2発出ただけで発砲していない,傷害について
も,警察官が私の手首を掴むので,もみ合いになって警察官の頭にけん銃が当たっ
ただけである。」として否認し(67),けん銃発射の点については,その後さら
に,Fにおいて両手で被告人の右手を押さえ,Gにおいて本件けん銃と右手首付近
を持って引っ張ったため,引き金は引いていないが,なぜか本件けん銃から銃弾が
発射された旨供述し,明確に暴発を主張するに至った(74,78)のであり,こ
のようにけん銃を発射したか否かという極めて重要な事項について供述が著しく変
遷していること,しかも,その変遷理由について合理的な説明がなされていないこ
と,被告人の前掲供述調書(66)には本件けん銃の引き金を何回か引いて発射し
たことやけん銃で警察官に殴りかかった旨の記載があるところ,「私としては警察
官から逃げるためには隠し持っていたけん銃を使った方が一番に逃げ易いと思った
のでけん銃を撃ったのです。」としてけん銃発射に至った動機が具体的に記載され
ていること,被告人は同調書を読み聞かされることのないまま署名押印した旨強弁
するけれども到底信用できず,同調書の任意性及び信用性はともに認められること
などに照らすと,被告人の前記公判供述はこれとほぼ同旨の前掲各供述調書の供述
部分も含めて到底信用できない。
 5 そうすると,G及びFの各公判供述には十分な信用性が認められ,これらを
はじめとする前掲関係各証拠及び前記第2の認定事実によれば,本件けん銃の発射
状況については,次のとおりの事実が認められる。
  (1) 被告人は,所携のビニール袋から本件けん銃を取り出してGに向けようと
したところ,これに気付いたFに右手首を両手で押し下げられたため,その銃口
が,床面方向で前記第2認定の地点にいたHのやや左方向に向いた状態,すなわち
Gの身体又はその周辺に向けられた状態になったが,そのような状態で,本件けん
銃から銃弾が1回発射された。
  (2) その後,被告人は,Gが本件けん銃を取り上げようと被告人の左側から左
手で本件けん銃の撃鉄部分を上から掴んだ際,通常発砲する際の動きと同じく,本
件けん銃の撃鉄が1回起きて戻る動きがあったが,Gの左手が本件けん銃の撃鉄部
分に挟まったため発射されるに至らなかった。
  (3) さらに,被告人は,本件けん銃を持つ右手を上下に振り回したり,Fの右
手を振り払ったりし,これに対しGが被告人の左側から回り込んだ状態で右手で被
告人の左袖を掴みつつ左手で被告人の右手を押し下げた時点で,本件けん銃から弾
丸がさらに1回発射され,同弾丸はGが着用していたズボンの左前ポケット部分を
貫通した。
 6 そして,前記5認定の事実に加え,前記第2の認定のとおり本件ではわずか
10秒ないし14秒の間に本件けん銃の引き金が3回も引かれていること,前記第
3の3でみたところからは,本件けん銃が真正けん銃であり,通常の用法に従う限
り暴発は考えられないこと,本件けん銃を複作動撃発形式(いわゆるダブルアクシ
ョン)により発射する場合には指にかなりの力を加える必要があると認められると
ころ,本件けん銃の引き金を引きうるのは被告人のみであったこと,被告人の供述
によれば,被告人が右手全体で本件けん銃をしっかり握っていたというのであり,
Gらが本件けん銃や被告人の腕を引っ張る等してもその引き金部分にのみ前記のよ
うな強力な力が不意に加わることは通常は考え難いこと,Fらが被告人の右手を引
っ張るなどしたため本件けん銃が暴発したとすれば,Fらも通常そのことに気付く
はずであり,警察官であるFらがそのことに気付きながらなお同じように被告人の
両手を引っ張り続けるものとは考え難いことをも併せ考慮すると,被告人が,判示
第2のとおり,自己の意思に基づきその引き金を引いて,本件けん銃をそれぞれ発
射したものと認めるに十分である。
   また,前記のG及びFの各公判供述によれば,被告人が本件けん銃を2回発
射した後左手を振り上げ,その拍子にGが仰向けに転倒したが,被告人はFにその
右手を掴まれていたため,右手を振り上げてFの手を振り切るや,被告人の左袖を
引っ張って立ち上がり未だ膝を曲げた前傾姿勢の状態であったGに対し,本件けん
銃を振り下ろしてその頭部を1回殴打したことが優に認められ,意図的に本件けん
銃で殴ったわけではない旨の被告人の供述は信用できない。
第4 殺意について
前記第2,第3の認定事実を前提に,本件犯行に至る経緯,動機,凶器の種
類,性状,用法等を総合して検討する。
 1 被告人が,Gらともみ合い状態の最中,本件けん銃がGの身体又はその周辺
に向いた状態のまま,至近距離から極めて強力な殺傷能力を有する本件けん銃から
銃弾を2発発射したこと,被告人が10秒ないし14秒というごく短時間に本件け
ん銃の引き金を不発分も含めると3回引いたこと,被告人が逃走しようとする強い
意図を有していたこと,被告人が本件けん銃を発射するに当たりGに命中しないよ
うにことさら別の地点に銃口を向ける等していたわけではないことなど照らすと,
被告人が,Gに対する殺意をもって本件けん銃から銃弾2発を発射したものと認め
るに十分である。
 2 ところで,検察官は,前記のとおり,被告人が,当初からGを殺害して現場
から逃走しようと企て,強固な確定的殺意をもって一連のけん銃発射行為等に及ん
だ旨主張する。
   しかしながら,被告人は,当公判廷において,Gらに本件けん銃を見せる等
して怯んだ隙に逃走しようと決意し,本件けん銃を所携のビニール袋から取り出し
てGに突き付けたにすぎない旨供述するところ,検察官の前記主張によれば,所携
のビニール袋の中に入れたまま本件けん銃をGに向けて発射することで容易にGを
殺害することができたにもかかわらず,前認定のとおりビニール袋から本件けん銃
をわざわざ取り出そうとしたこと,第1発砲時におけるHの位置や同人の目撃内容
を考慮すると,本件けん銃の銃口がGの体に向いていたものとは断定できず,むし
ろGが立っていた位置とは多少離れた場所に向いていた可能性も否定できないこ
と,現場の状況等によれば,被告人が現場から逃走するためにGの殺害が不可欠で
あったとはいえず,前記のような被告人の精神状態を前提としても,なお被告人に
当初からGを必ず殺害しなければならないほどの積極的動機があったとはいえない
ことなどを併せ考慮すると,当初はGらに本件けん銃を示すなどして怯ませようと
した旨の被告人の弁解供述の信憑性を完全に排斥するには十分ではない。
 3 もっとも,第1発砲の時点では,前認定の状況下で本件けん銃を発射すれ
ば,銃弾等がGに命中する可能性があったのであり,もし命中すれば同人を死亡さ
せるに至るかもしれないことを被告人において,認識,認容していたものと優に認
められる。すなわち,第1発砲の時点において,被告人にGに対する未必的殺意の
あったことはこれを認めるに十分である。
   さらに,第2発砲の時点では,前認定のとおり,本件けん銃の銃口は身体の
枢要部であるGの下腹部周辺に向けられた状態にあったのであり,そのような状態
で被告人が本件けん銃から銃弾を1発発射したこと,第1発砲によってもGらの抵
抗を排して逃走できなかったのであり,被告人はさらに激しい手段を取る必要があ
ったものと考えられること等に徴すると,被告人はGに対する確定的殺意を有して
いたものと認めるに十分である。
   以上の認定に反する被告人の供述は採用できず,弁護人の前記主張は理由が
ない。
   なお,弁護人は,Hに対する殺人未遂罪の成立を争うが,前記のとおり被告
人がGに対する未必的殺意をもってけん銃発射行為に及んだ結果,その銃弾の破片
がHに命中して同人を負傷させたのであるから,被告人の殺意が阻却される理由は
なく,また,本件けん銃発射行為の実行行為性や実行行為と結果との間の因果関係
も優に認められるので,Hに対する殺人未遂罪が成立するのは明らかである。
 4 他方,被告人が本件けん銃でGの頭部を殴打した際には,前記第3の6の認
定事実によれば,被告人は本件けん銃で身体の枢要部であるGの頭部を1回殴打し
たものの,本件けん銃の鈍器としての殺傷能力はそれほど高くはなく,攻撃回数も
1回だけでGの判示傷害も致命的なものではなく,強烈な打撃とはいえないこと,
前記のとおりそもそも被告人にはGに対する積極的かつ強固な殺意の生じるような
動機が認められないこと,仮に被告人が検察官主張の強固な殺意を有していたとす
れば,Gが仰向けに転倒した時点で,本件けん銃の銃口がGに向けられていたので
あるから,被告人がけん銃発射行為に及んでしかるべきであるのにこの時点でけん
銃を発射しようとした形跡は認められないことなどを総合考慮すると,本件証拠
上,被告人が前記殴打の際Gに対する殺意を有していたものと認めるには十分では
ないから,傷害罪が成立するに止まると認めるのが相当である。
(法令の適用)
 被告人の判示第1の所為のうち,けん銃をこれと適合する実包とともに携帯して
所持した点(以下,その所持態様を問わず「けん銃加重所持」と略する。)は銃砲
刀剣類所持等取締法(以下「銃刀法」という。)31条の3第2項,1項,3条1
項に,けん銃実包を所持した点は同法31条の8,3条の3第1項,同法施行規則
3条の2に,判示第2の所為のうち,けん銃を発射した点は包括して同法31条,
3条の13に,各殺人未遂の点はいずれも刑法203条,199条に,各公務執行
妨害の点はいずれも同法95条1項に,傷害の点は同法204条に,判示第3の所
為のうち,けん銃加重所持の点は包括して銃刀法31条の3第2項,1項,3条1
項に,けん銃実包を所持した点は同法31条の8,3条の3第1項,同法施行規則
3条の2にそれぞれ該当するが,判示第1は1個の行為が2個の罪名に触れる場合
であるから,刑法54条1項前段,10条により1罪として重いけん銃加重所持罪
の刑で,判示第2は1個の行為が6個の罪名に触れる場合であるから,同法54条
前段,10条により1罪として刑及び犯情の最も重いHに対する殺人未遂罪の刑で
処断することとし,判示第3は1個の行為が2個の罪名に触れる場合であるから,
同法54条前段,10条により1罪として重いけん銃加重所持罪の刑でそれぞれ処
断することとし,判示第2の罪について所定刑中有期懲役刑を選択し,以上は同法
45条前段の併合罪であるから,同法47条本文,10条により犯情の最も重い判
示第2の罪の刑に同法14条の制限内で法定の加重をした刑期の範囲内で被告人を
懲役14年に処し,同法21条を適用して未決勾留日数中230日をその刑に算入
し,押収してある回転弾倉式けん銃1丁(平成14年押第24号の1)及び実包4
発(同押号の2及び3。ただし,同押号の3は鑑定試射済みのもの)は判示第1の
けん銃加重所持の,けん銃3丁(同押号の4,5,29)及び実包133発(同押
号の6,8ないし17,19ないし27,30ないし32。ただし,同押号の6,
8ないし17,19ないし27,31,32はいずれも鑑定試射済みのもの。同押
号の30は鑑定のため解体されたもの)は判示第3のけん銃加重所持の,実包10
発(同押号の7,18,28。同押号の7,18はいずれも鑑定試射済みのもの。
同押号の28は鑑定のため解体したもの)は判示第3のけん銃実包所持の各犯罪行
為を組成したものであり,いずれも被告人以外の者に属
しないから,同法19条1項1号,2項本文を適用してこれらを没収し,訴訟費用
は,刑事訴訟法181条1項ただし書を適用して被告人に負担させないこととす
る。
(事案の概要並びに量刑の理由)
 本件は,被告人が,いわゆるJRD駅構内で,けん銃1丁を適合実包6発ととも
に携帯して所持した銃刀法違反の事案(判示第1),痴漢の容疑で警察官に呼び止
められて任意同行途中,逃走を図って警察官に対し,未必的又は確定的殺意をもっ
てけん銃を2回発射したが,うち1発の銃弾が炸裂飛散してその鉛片を通行人に命
中させて傷害を負わせたに止まり警察官らを死亡,殺害するに至らず,さらに,け
ん銃で警察官を殴打し,公務の執行を妨害するとともに警察官に傷害を負わせたと
いう銃刀法違反,殺人未遂,公務執行妨害,傷害の事案(判示第2),自宅でけん
銃3丁を適合実包等143発とともに保管して所持したという銃刀法違反の事案
(判示第3)である。
 まず第1及び第2の各犯行をみるに,被告人は,所属暴力団の資金を使い込んで
その穴埋めに窮し,銃器を用いて前記D駅周辺で強盗等をしようと決意し,第1の
犯行に及び,前記の経過で痴漢の容疑で警察官の任意同行に応じることになったも
のの,第1の犯行の発覚や所属暴力団の処分をおそれ,本件けん銃を示す等して警
察官らを怯ませ逃走しようと企てたあげく,同警察官の生命を犠牲にしてでも逃走
を図ろうとして第2の犯行に及んだのであり,その余りに短絡的かつ自己中心的な
動機に酌量の余地は全くない。その犯行態様をみるに,被告人は,本件けん銃に適
合実包6発を装填してこれを携帯した上,白昼多数の駅利用者や通行人がひしめく
D駅構内において,警察官に対し,殺意をもってその至近距離から真正けん銃を2
回発射し,うち1発の銃弾を炸裂飛散させて,その鉛片を通行人の頚部に命中させ
て傷害を負わせ,もう1発は警察官が着用していたズボンの下腹部付近を貫通させ
る等し,加えて,けん銃発射行為や警察官に対する殴打行為により警察官2名によ
る適法な職務執行を妨害するとともにうち1名を負傷させたもので,けん銃発射行
為により通行人や職務に従事中の警察官の生命を奪いかねない危険かつ悪質な犯行
と言うほかはない。通行人及び警察官らは,本件犯行により心身に多大な苦痛を受
けたのに,何らの慰謝の措置も講じられておらず,被告人に対する厳重処罰を望ん
でいる。また,駅構内にいた多数の市民は計り知れない恐怖感や精神的衝撃を被っ
たのであり,本件犯行が地域社会に与えた不安感などその社会的影響は極めて大き
いのであって,犯行の結果は誠に重大である。
 次に第3の犯行をみるに,もとよりその動機に酌むべき事情はなく,所持に係る
銃器・実包が多量であり,被告人が暴力団組織の一員であったことから,暴力団組
織において現実に使われる可能性が強かったものというほかはなく,極めて危険な
犯行であり,近時の銃器を使用した犯罪の増加及びこれに伴う社会不安の増大を併
せ考慮すると,その反社会性は顕著である。
 以上の諸事情に加え,古いものではあるが,被告人には,昭和52年7月20日
岐阜地方裁判所で強盗強姦等の罪により懲役12年に処せられた前科があるほか,
暴力団組織に加入し,無為徒食の生活を送るなかで,生活態度も極めて不良である
こと等を併せ考慮すると,被告人の刑事責任は重大であるといわざるを得ない。
 そうすると,第2の犯行につき,偶発的な犯行であり,幸いにも死亡者は生じ
ず,通行人や警察官の傷害も比較的軽傷に止まったこと,第3の犯行につき,法律
上の自首は成立しないものの,逮捕後まもなく警察官に自己の犯罪事実を申告し,
けん銃等の所在を明らかにする等してその押収に協力したことのほか,被告人が所
属暴力団から絶縁処分を受けたこと,最終懲役前科が10年以上前のものであるこ
と,被告人なりの反省悔悟の情など,被告人のために酌むべき事情を最大限に考慮
しても,被告人は,主文掲記の刑を免れない。
 よって,主文のとおり判決する。
  平成14年10月15日
神戸地方裁判所第1刑事部
裁判長裁判官   杉森研二
   裁判官   橋本 一
   裁判官   林 史高

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