弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


戻る

平成17年1月14日判決言渡 同日原本領収 裁判所書記官
平成15年(ワ)第1563号損害賠償請求事件
口頭弁論終結日 平成16年10月19日
          判決
          主文
 1 被告らは,原告Aに対し,連帯して金266万7077円及びこれに対する,被告医院
は平成15年5月16日から支払済みまで,被告Dは平成14年9月27日から支払
済みまで,それぞれ年5分の割合による金員を支払え。
 2 原告らのその余の請求をいずれも棄却する。
 3 訴訟費用は,原告Aに生じた費用の8分の1及び被告らに生じた費用の10分の1
を被告らの負担とし,原告Aに生じたその余の費用及び被告らに生じた費用の10
分の7を原告Aの負担とし,その余の費用は原告B及び同Cの負担とする。
 4 この判決は,第1項に限り,仮に執行することができる。
          事実及び理由
第1 請求
 1 被告らは,原告Aに対し,連帯して金2091万5753円及びこれに対する平成14
年9月27日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
 2 被告らは,原告B及び同Cに対し,連帯して金500万円及びこれに対する平成14
年9月27日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2 事案の概要
   本件は,原告Aが右足第5指の靴擦れによる水膨れが破れ,腫れてきたため,被
告医院を訪れ受診したところ,被告Dからフルマーク錠の投与を受け,服用し,皮
膚に発疹・紅斑が継続的に発生するに至った旨主張して,被告医院に対しては,
債務不履行に基づく,同Dに対しては不法行為に基づく損害賠償として,原告Aに
対して2091万5753円及び原告B・同Cに対して合計500万円並びにこれらに対
する症状固定日(平成14年9月27日)から支払済みまで民法所定年5分の割合
による遅延損害金の各支払を求めた事案である。
 1 前提事実
   以下の事実は,争いがないか,後掲各証拠及び弁論の全趣旨により容易に認めら
れる。
 (1)当事者等
    原告Aは,平成7年12月31日生の女児であり,原告B及び同Cは,同Aの親であ
る(甲A5)。
    被告Dは被告医院を経営しかつ同病院で医療行為を行う医師である。
 (2)フルマーク錠の投与
   ア 原告Aは,平成13年12月7日,右足第5指に膿をもった傷があり,被告医院を
受診した(以下「初診」という。)。被告Dは,原告Aの患部を診察して,原告A
に対してフルマーク錠1回1錠(100mg)を1日3回(1日300mg),5日分外
を処方した。
   イ 原告Aは,同月11日,被告医院を受診した。原告Aの両下腿には発疹が数個
認められた。被告Dは,フルマーク錠1回1錠(100mg)を1日3回,3日分外
を処方した(以下,被告Dの原告Aに対する同月7日及び同月11日のフルマ
ーク錠の各処方を「本件フルマーク投与」という。)。
 (3)原告Aの症状
    原告Aは,被告医院受診後,発疹・紅斑の発生・消褪(茶色になって薄くなること)
を繰り返し(以下,本件フルマーク投与から現在までの原告Aの皮膚状態の変化
を「本件皮膚症状」という。),現在(平成16年)に至るまで,甲病院や乙病院に
通院し治療を継続している。
 (4)フルマーク錠の薬理作用等
    フルマーク錠は,抗菌作用を有する薬剤で,細菌のDNAの複製を妨げ殺菌的に
作用する薬剤である。成人使用量は1日300ないし600mgを2,3回に分けて
使用するとされている。小児に対しては,投与が禁忌とされている(甲B1,2,
4)。
    本件皮膚症状は,本件フルマーク投与によって,発生した(甲A2,6,7の1,乙A
1,証人丁)。
 2 争点
 (1)本件フルマーク投与について被告Dに過失があったか
 (2)原告らの被った損害
 3 争点に対する当事者の主張
 (1)争点(1)(本件フルマーク投与について被告Dに過失があったか)について
   (原告らの主張)
    一般に,薬物投与を初めとする医療行為は,人体に対する侵襲を伴うものである
から,医師は,患者の容態や全身状態を十分に把握し,善管注意義務を尽くし
て適切な処置を講じることが要求されている。特に薬物投与については,副作用
等による被害を回避するため,当該医薬品の能書に記載された使用上の注意
事項を遵守すべき注意義務がある。
    しかるに,本件において被告Dは,フルマーク錠の副作用が「発疹,かゆみ,じん
ましん発熱,紅斑,むくみ及び光線過敏症」とされており,小児に対しては禁忌と
されているにもかかわらず,原告Aに対して,漫然と本件フルマーク投与をした
過失がある。
   (被告らの主張)
    医薬品の能書に記載された使用上の注意事項は,これに従わなかったことが直
ちに注意義務違反となるわけではない。
    平成13年12月11日のフルマーク錠の処方は,被告Dがクレマニルドライシロッ
プを処方しようとしたのに対し,原告Cが,粉薬よりも錠剤を希望したためにフル
マーク錠を処方したのであって,漫然とフルマーク錠を投与したのではない。
    またフルマーク錠の副作用は,ショック,アナフィラキシー様症状,皮膚粘膜眼症
候群,中毒性表皮壊死症,急性腎不全,アキレス腱炎,腱断裂等の腱障害,間
質性肺炎,低血糖,横紋筋融解症等である。
   被告Dは,フルマーク錠を,十数年前より使用してきた経験がある。小児に対しても
気管支炎や化膿症の薬剤として使用し数日で治癒した経験があり,今回のような
過敏症状が発生したことはなかった。したがって,フルマーク錠投与による本件皮
膚症状の発生については予見可能性がない。
 (2)争点(2)(原告らの被った損害)について
   (原告らの主張)
   ア 原告Aの被った損害
   (ア)治療費(将来にかかる治療費を含む) 225万9149円
      平成13年12月10日から平成14年8月末日までの治療費は8万1656円で
あるところ,少なくとも今後20年は通院加療が必要と考えられる。
      8万1656円÷9×12×20=217万7493円
      8万1656円+217万7493円=225万9149円
   (イ)通院費等雑費(将来にかかる雑費を含む) 236万3261円
      平成13年12月10日から平成14年8月末日までに要した雑費は8万5421
円であるところ,今後20年は必要である通院加療に伴い雑費も同期間に
相当する額が発生する(計算方法は(ア)と同じ)。
   (ウ)後遺障害逸失利益 495万4780円
      本件皮膚症状は平成14年9月27に症状固定したが,現在の原告Aには,顔
のみならず,手足,太股,ふくらはぎ,股間等に重度の湿疹が認められ,女
子の外貌に醜状を残すものであるから,後遺障害別等級表第12級に該当
する。
      349万8200円(女子労働者平均賃金)×10.117(ライプニッツ係数)×0.
14(労働能力喪失率)=495万4780円
   (エ)後遺障害慰謝料 224万円
     上記後遺症による肉体的・精神的苦痛を慰謝するには,少なくとも224万円が
必要である。
   (オ)通院慰謝料 300万円
      本件皮膚症状発生時から少なくとも20年は通院が必要であると考えられると
ころ,慰謝料としては300万円が相当である。
   (カ)本件皮膚症状によって受けた精神的苦痛に対する慰謝料500万円
      原告Aは,本件皮膚症状により,子供としての通常の学校生活や日常生活が
送れなかった。そのことによる精神的苦痛は,後遺障害慰謝料や逸失利益
では補えない別個のものであり,その精神的苦痛を慰謝するには500万
円でも足りない。
   イ 原告B及び同Cの被った損害 500万円
     原告B及び同Cは,娘である原告Aについて生じた本件皮膚症状の発生によっ
て,治癒の見込みがたたないことから生じる様々な不安を抱え続けており,こ
のような原告B及び同Cの精神的苦痛を慰謝するには,少なくとも両名併せて
500万円が必要である。
   (被告らの主張)
   ア 原告Aの被った損害
   (ア)治療費
      平成14年8月末日までの9か月と同じ通院治療が,今後20年間必要である
との前提は根拠を欠く。また中間利息も控除されていない。原告の請求は
過大である。
   (イ)通院費等雑費
      上記(ア)と同様,原告の請求は過大である。
   (ウ)後遺障害逸失利益
      本件において発生したとされる上下肢の発疹,紅斑は女子の外貌の醜状に当
たらない。
      原告Aは現在小学生であるから,逸失利益は発生しないと考えるべきである。
一般に上下肢の発疹・紅斑は,稼働能力の喪失をもたらすものではなく,
逸失利益の主張は不当である。
   (エ)後遺障害慰謝料
      本件皮膚症状は,発生と消褪を繰り返すものであり,将来にわたり継続するか
も不明であるから,本件皮膚症状は後遺症ではない。したがって,後遺障
害慰謝料は発生しない。
   (オ)通院慰謝料
      上記(ア)と同様の理由により,原告の請求は不当である。
   (カ)本件皮膚症状によって受けた精神的苦痛に対する慰謝料
      争う。
   イ 原告B及び同Cの被った損害
     争う。
第3 争点に対する判断
 1 争点(1)(本件フルマーク投与について被告Dに過失があったか)について
 (1)フルマーク錠
    前記前提事実並びに証拠(甲B1,6の1ないし11,証人丁)及び弁論の全趣旨
によれば,フルマーク錠について以下の事実が認められる。
    フルマーク錠は,大日本製薬株式会社が製造・販売するニューキノロン薬で,緑
膿菌やブドウ糖非発酵菌を含むグラム陰性菌及びグラム陽性菌に対し強い抗
菌力を有し,各科領域の感染症に適応されている薬剤である。1996年当時の
医学文献によれば,投与禁忌として「小児」が挙げられており,その理由は動物
実験(幼若ビーグル犬)で関節軟骨の異常水疱又はびらんが見られ,動物で関
節障害の見られる時期がヒトの小児期に相当するためとされている。また,199
3年当時の副作用発現頻度表によれば,発疹が0.32パーセントと,他の副作
用発生頻度に比して最も高い。また大日本製薬株式会社が作成したフルマーク
副作用発現頻度表によっても,1985年8月22日の製造承認時迄の調査にお
いて,「皮膚・皮膚付属器障害」が0.68パーセントであり,そのうち「発疹」によ
るものが0.54パーセントであったが,この0.54パーセントという数字は,副作
用発現頻度としては,高い確率を示すものである。
    そのため,本件フルマーク投与当時,小児科医は,フルマーク錠を小児に投与し
ていなかった。
 (2)被告Dの過失について
   ア 医師の注意義務
     人の生命及び健康を管理すべき業務(医療)に従事する者は,その業務の性質
に照らし,危険防止のために最善の注意義務を要求されるが,その注意義務
の基準となるべきものは,一般的には診療当時のいわゆる臨床医学の実践
における医療水準である。
   イ 本件フルマーク投与時の医療水準と過失の有無
     そうすると,前記(1)の認定事実によれば,フルマーク錠投与による副作用とし
て発疹があり,発疹が発生する頻度は他の副作用に比して高いこと及び小児
に対する投与は禁忌であって,このことは本件フルマーク投与当時の臨床医
学の実践における医療水準であったと認められるから,被告Dが小児である
原告Aにフルマーク錠を投与したことは,当時の医療水準に反した処置に当
たり,過失があったと認められる。
   ウ 被告らの主張について
   (ア)この点,被告らは,被告Dは,フルマーク錠について十数年前より使用し,小児
に対してもフルマーク錠を気管支炎や化膿症の薬剤として使用した経験が
あり,今回のような過敏症状が発生したことはなく,したがって,原告Aに対
するフルマーク錠の投与から本件皮膚症状の発生を予見することは不可
能であったと主張する。
      しかしながら,被告Dの個人的経験は,発現頻度0.54パーセントの副作用発
現の予見可能性を何ら否定するものではなく,また当時の医療水準として,
小児への投与は禁忌とされていたのであり,前記前提事実のとおり,初診
時の原告Aの症状は,右足第5指の膿をもった傷に過ぎず,重篤なもので
もなく,小児へのフルマーク錠投与を例外的に認める合理的理由もない(証
人丁)から,被告らの上記主張は採用できない。
   (イ)さらに,被告らは,平成13年12月11日のフルマーク錠投与は,原告Cの希望
によるとも主張し,同日,被告Dがクレマニルドライシロップを処方しようとし
たのに対し,原告Cが粉薬より錠剤を希望した事実を挙げる。
      しかしながら,上記主張事実を認めるに足る証拠はなく,仮に認められるとし
ても,原告Cは飲みやすい錠剤を希望したにすぎず,フルマーク錠を希望し
たわけではないこと及び前記認定のフルマーク錠の副作用に照らせば,上
記事実は,被告Dの同日のフルマーク錠投与を正当化する理由にはならな
い。しかも,証拠(甲A5,10,原告C本人)によれば,原告Aは,同日処方
されたフルマーク錠を服用していないから,いずれにしても,被告らの責任
を否定するものにはなり得ない。
 2 争点(2)(原告らの被った損害)について
 (1)原告Aの本件皮膚症状等
    証拠(甲A1,2,4の1ないし87,甲A5ないし7,8の1ないし35,甲A9の1ない
し30,甲A10,乙A1,原告C本人,証人丁)及び弁論の全趣旨によれば,以下
の事実が認められる。
   ア 症状
     原告Aの本件皮膚症状は,症状が重い時には全身に水疱を伴った発疹・紅斑
が生じ,症状が治まった時には手先,足先及び肘部分等に発疹がある多型
滲出性紅斑である。なお,顔面については,時に認められる時期があるもの
の,普段は顔面に発症していないし,痕跡も残っていない。また,日光に当た
ることと本件皮膚症状との相関関係は明らかでなく,日光過敏症については
認めることはできない。
   イ 経過
   (ア)本件フルマーク投与後の状況
      平成13年12月9日,原告Aの両下腿に小さな発疹が数個見られた。同月11
日被告医院を受診した際も,両下腿に痒みを伴う発疹が数個見られた。
      同月12日,原告Aの両足に紅斑が認められた。同月13日,原告Aは,甲病院
を受診した。甲病院皮膚科は,原告Aの症状について多型滲出性紅斑と診
断した。
      同月中旬には,原告Aの全身に発疹・紅斑が広がっていた。
      同月17日ころ,原告Aの両足先(かかとより先)ほぼ全体にわたって紅斑が生
じ,両下腿,両腕の肘部分,手の甲部分及び顔面には無数の水疱様の紅
斑が認められた。
      平成14年1月末ころには原告Aの紅斑等は一旦治まった。
   (イ)平成14年末までの状況
      平成14年に入ってから,発疹・紅斑の発生・消褪を繰り返したが,同年3月12
日には,原告Aの足部分,両足膝部分及び手の部分には,多数の水疱様
の発疹,紅斑が認められた。
      同年6月7日,原告Aの手先部分及び足先部分に紅斑が認められた。
      同月12日,原告Aは乙病院を受診した際,同月2日に運動会が行われ,同月
9日が最も症状がひどかった旨訴えた。同月26日ころ,原告Aの手部分,
足先部分,膝部分には水疱様の発疹が多数認められた。
      同年8月14日ころ,原告Aの足先,手先,肘及び膝部分には多数の発疹が認
められた。
      その後,同年8月中旬から同年9月末までは改善し,同年9月27日,乙病院
を受診したところ,丁医師は良好であると診断した。
      ところが,その後,再び悪化し,発疹・紅斑の発生・消褪を繰り返すようになり,
同年11月19日ころには,四肢発赤疹相変わらず,痛みも出現していた。
   (ウ)平成15年以降の状況
      平成15年に入ると,前年のように発疹・紅斑が全身に広がることがなくなった
ものの,発疹・紅斑は認められ,同年2月1日には,原告Aの足先には発疹
(茶色い斑点状のもの)が認められた。
      同月9日,原告Aの足指部分には紅斑が認められ,一部水泡様の発疹が見ら
れた。
      同年3月5日ころ,原告Aの足先部分には紅斑及び水疱が破れたとみられる
発疹が認められた。
      同年4月21日,原告Aの膝部分には紅斑が認められた。
      同年5月16日,乙病院を受診したところ,皮膚良好であると診断され,一旦皮
疹が消えた状態になった。
      ところが,同年8月1日宮古島へ行った際,同日の夜より発疹及び痛みが発生
し始めた。
      そして,同年12月31日ころの原告Aの膝,足先,臀部,肘及び手先部分には
紅斑及び水疱様の発疹が多数認められ,本件フルマーク投与直後の重症
時に次ぐ発疹・紅斑が出現した。
   (エ)平成16年の状況
      平成16年に入っても,時折,手先や足先に発疹・紅斑が出現し,原告Aは,現
在も通院治療を受けている。
   (オ)小括
      本件皮膚症状の推移をみると,本件フルマーク投与の数日後である平成13
年12月中旬には発疹・紅斑が全身に広がる重症となり,平成14年1月末
には一旦治まったものの,その後,同年8月中旬までは発疹・紅斑の発生・
消褪を繰り返した。同年8月中旬から同年9月末までは改善したものの,同
年9月末以降,再び悪化し,発疹・紅斑の発生・消褪を繰り返した。平成15
年に入ると,前年のように発疹・紅斑が全身に広がることがなくなり,同年5
月16日当時は一旦皮疹が消えた状態になったが,同年8月1日から発疹
が生じ始め,平成15年12月31日ころには,膝,足先,臀部,肘,手先とい
った広範囲に発疹・紅斑が見られて,本件フルマーク投与直後の重症時に
次ぐ発疹・紅斑が出現した。平成16年に入っても,時折,手先や足先に発
疹・紅斑が発生し,原告Aは,現在も通院治療を受けている。
   ウ 治療法と予後
     本件皮膚症状は以上のとおりであり,薬疹の中では重症に近いと考えられる
が,これに対する根治療法はなく,対症療法に依らざるを得ない。本件フルマ
ーク投与から現在まで約3年が経過しているが,発疹・紅斑はなお発生してお
り,このように長期間持続するメカニズムについては医学的に解明されていな
い。今後治癒するか否か,治癒するとしてどの程度の年月が必要であるか
は,明らかでない。
   エ 日常生活への影響
     本件皮膚症状が原告Aの日常生活に及ぼす影響をみると,症状が悪化したとき
には,その痛みとかゆみにより,睡眠障害を来たしたり,泣いたり暴れたりす
る状況になり,保育園に行くことができない時期もあったし,それまで行ってい
た柔道ができなくなったり,プールに入れないなど,運動が制限されるようにな
った。また,時折,関節が曲がりにくいという運動障害や握力の低下によっ
て,鉛筆や箸が持てなかったり,歩きにくいといった現象もみられるが,その原
因は,関節が発疹によりむくむことにより関節が曲げにくくなったり,湿疹が手
のひらに発生することにより,痛みから握力が入らないことによって生じるもの
であって,神経疾患や筋肉疾患によるものではない。
 (2)後遺障害の有無等
   ア 後遺障害の有無について
     上記認定のとおり,原告Aの本件皮膚症状は,症状発生部位及び程度が変化
するものであり,固定継続した症状とはいえないが,その発生・消褪という変
化自体が継続していることが固定継続した症状に当たると認めることができ,
これは後遺障害というのが相当である。
   イ 症状固定時期について
     上記のとおり,原告Aの症状の変化を見ると,平成13年12月中旬に重症化し,
平成14年1月末に一旦治まり,その後同年8月中旬までは症状の発生・消
■を繰り返し,一旦治まった後,同年9月末から再び悪化したというのであり,
本件後遺障害は発疹・紅斑の発生・消褪という症状の変化自体が持続するも
のであることからすると,同年8月中旬に症状の発生・消褪が一旦治まり,皮
膚症状としては改善したとも考えられたにもかかわらず,再び症状の発生・消
褪が開始した同年9月末を,原告Aの症状固定時期と解するのが相当であ
る。
   ウ 後遺障害の程度について
     原告Aの後遺障害の内容は前記ア記載のとおりであって,発疹・紅斑が,発生
及び消褪を繰り返すものであり,その発生場所,程度が変化しながら継続して
いくものである。
     これについて原告らは,原告Aの症状は「女子の外貌に醜状を残すもの」に該
当し,後遺障害等級第12級14号に該当すると主張する。しかしながら,同項
の「女子の外貌に醜状を残すもの」とは,主として顔面について判断するとこ
ろ,原告Aの本件皮膚症状は,顔面にも認められる時期はあるものの,継続
固定した傷痕とまでは言えないことから,同号に該当するとはいい難い。
     また,他の身体部分についても,傷痕が残っている箇所があると認めるに足りる
証拠もないので,後遺障害等級14級4号の「上肢の露出面に手のひらの大き
さの醜いあとを残すもの」あるいは同級5号の「下肢の露出面に手のひらの大
きさの醜いあとを残すもの」にも該当しないが,本件後遺障害の内容に照らす
と,後遺障害等級14級に近い程度の後遺障害であるというべきである。
 (3)損害額
   ア 原告Aの被った損害
   (ア)治療費
      証拠(甲C1の1ないし58)によれば,平成13年12月10日から平成14年8
月末日までの治療費は8万1656円であると認められる。
      そして,今後20年間の治療費については,本件皮膚症状が20年間継続する
こと及び上記期間の治療と同程度の費用がかかることを認めるに足りる確
たる証拠はなく,将来の治療費として独立の損害を認めることは相当でな
く,症状固定後の治療費については,慰謝料の算定に当たって斟酌するこ
ととする。
   (イ)通院費等雑費
      弁論の全趣旨によれば,平成13年12月10日から平成14年8月末までにか
かった通院費等雑費は,8万5421円と認められる。
      症状固定後の通院費等雑費については,上記(ア)と同様の理由により,慰謝
料額の算定に当たって斟酌することとする。
   (ウ)後遺障害逸失利益
      本件フルマーク投与後現在に至るまで約3年の年月が経過しているが,その
期間の症状の変化を見ると,当初の症状に比して現在の症状が明らかに
軽減したとまでは認められないこと,2年を経過した後でも広範囲の発疹・
紅斑がみられ,薬疹としては,3年の間症状の発生・消褪を繰り返すことは
重症に近いと評価できるものの,このように長期間継続して発生するメカニ
ズムについては解明されておらず,さらに原告Aが現在(口頭弁論終結時)
8歳であることからすれば,3年間症状が継続していることから直ちに18歳
(労働能力喪失期間の始期)になった後も症状が継続するとまでは認める
ことができず,他に,18歳になった後も同症状が継続することを認めるに
足りる証拠はない。
      そうすると,原告Aの後遺障害を理由とする逸失利益を認めることはできない
といわざるを得ない。
      もっとも,原告Aの症状は決して軽いものではなく,本件フルマーク投与から3
年経過しても軽快に向かわないことから,原告らが,将来に対し多大な不
安を抱くこと,そして,18歳以降も症状が継続して,それが労働能力喪失
に影響する可能性が皆無とはいえないことは考慮すべきであり,この点は
慰謝料において斟酌することとする。
   (エ)慰謝料
      前記認定の本件皮膚症状の内容・程度,経過,予後の見通し及び日常生活
への影響の内容・程度,そして,原告Aは本件フルマーク投与から症状固
定日(平成14年9月末日)まで約9か月余り通院したこと(実通院日数41
日。通院は不規則)(甲C1の1ないし58),さらには,前記認定の後遺障害
の程度,将来の治癒の見通しが立たないことへの不安感並びに労働能力
に対する影響がないとはいい切れないこと,症状固定後の治療費及び通
院費等雑費などを総合考慮し,原告Aの肉体的・精神的苦痛を慰謝する金
額としては250万円が相当である。
   イ 原告B及び同Cの被った損害
     原告らは,原告B及び同Cについて,固有の慰謝料が発生すると主張する。
     しかしながら,身体を害された子の両親の精神的な苦痛は,原則として本人に
対する損害の賠償がなされることによって慰謝され,それ以外に固有の損害
は発生しないというべきであり,例外的に子が,生命を害されたにも比肩すべ
きないしは,それに比して著しく劣らない程度の精神的な苦痛を受けたときに
限り,自己の権利として慰謝料を請求することができる(最高裁昭和43年9月
19日第一小法廷判決・民集22巻9号1923頁参照)。
     そうすると,本件についてみると,原告Aの本件皮膚症状は上記程度に至ったと
まではいうことができず,原告B及び同Cについては,それぞれ固有の権利と
しての慰謝料は認められない。
   ウ したがって,原告らの請求は,被告らが原告Aに対して金員の支払を求める限
度で理由があり,その額は前記アで認めた各金額の合計である266万707
7円となる。
     なお,原告らは,症状固定日を平成14年9月27日とし,同日からの遅延損害
金を請求しているが,被告医院に対する請求は債務不履行に基づく損害賠償
請求権であり,履行の請求が記録上明らかな訴状送達の日の翌日(平成15
年5月16日)から遅延損害金が発生すると認められる。
 3 結論
   よって,原告Aの本訴請求は,金266万7077円及びこれに対する被告医院につ
いては平成15年5月16日から,被告Dについては平成14年9月27日から,それ
ぞれ支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限
度において理由があるからこれを認容し,原告Aのその余の請求及びその余の原
告らの請求は理由がないからいずれも棄却し,訴訟費用の負担につき民事訴訟法
64条,65条1項,61条を,仮執行の宣言につき同法259条1項を,それぞれ適
用して,主文のとおり判決する。
    福岡地方裁判所第3民事部
        裁判長裁判官   一   志   泰   滋
           裁判官   松 葉 佐   隆   之
           裁判官   三   島   聖   子

戻る



採用情報


弁護士 求人 採用
弁護士募集(経験者 司法修習生)
激動の時代に
今後の弁護士業界はどうなっていくのでしょうか。 もはや、東京では弁護士が過剰であり、すでに仕事がない弁護士が多数います。
ベテランで優秀な弁護士も、営業が苦手な先生は食べていけない、そういう時代が既に到来しています。
「コツコツ真面目に仕事をすれば、お客が来る。」といった考え方は残念ながら通用しません。
仕事がない弁護士は無力です。
弁護士は仕事がなければ経験もできず、能力も発揮できないからです。
ではどうしたらよいのでしょうか。
答えは、弁護士業もサービス業であるという原点に立ち返ることです。
我々は、クライアントの信頼に応えることが最重要と考え、そのために努力していきたいと思います。 弁護士数の増加、市民のニーズの多様化に応えるべく、従来の法律事務所と違ったアプローチを模索しております。
今まで培ったノウハウを共有し、さらなる発展をともに目指したいと思います。
興味がおありの弁護士の方、司法修習生の方、お気軽にご連絡下さい。 事務所を見学頂き、ゆっくりお話ししましょう。

応募資格
司法修習生
すでに経験を有する弁護士
なお、地方での勤務を希望する先生も歓迎します。
また、勤務弁護士ではなく、経費共同も可能です。

学歴、年齢、性別、成績等で評価はしません。
従いまして、司法試験での成績、司法研修所での成績等の書類は不要です。

詳細は、面談の上、決定させてください。

独立支援
独立を考えている弁護士を支援します。
条件は以下のとおりです。
お気軽にお問い合わせ下さい。
◎1年目の経費無料(場所代、コピー代、ファックス代等)
◎秘書等の支援可能
◎事務所の名称は自由に選択可能
◎業務に関する質問等可能
◎事務所事件の共同受任可

応募方法
メールまたはお電話でご連絡ください。
残り応募人数(2019年5月1日現在)
採用は2名
独立支援は3名

連絡先
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所 採用担当宛
email:[email protected]

71期修習生 72期修習生 求人
修習生の事務所訪問歓迎しております。

ITJではアルバイトを募集しております。
職種 事務職
時給 当社規定による
勤務地 〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
その他 明るく楽しい職場です。
シフトは週40時間以上
ロースクール生歓迎
経験不問です。

応募方法
写真付きの履歴書を以下の住所までお送り下さい。
履歴書の返送はいたしませんのであしからずご了承下さい。
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所
[email protected]
採用担当宛