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平成17年(行ケ)第10570号 審決取消請求事件
平成18年2月27日判決言渡,平成18年2月8日口頭弁論終結
     判    決
原     告     三協アルミニウム工業株式会社
原     告      立山アルミニウム工業株式会社
上記両名訴訟代理人弁理士 湯田浩一
被     告     トステム株式会社
訴訟代理人弁理士     星野哲郎,復代理人弁理士 山本典輝
     主    文
 原告らの請求を棄却する。
 訴訟費用は原告らの負担とする。
     事実及び理由
第1 原告らの求めた裁判
 「特許庁が無効2004-80048号事件について平成17年5月31日にし
た審決のうち特許第3472717号の請求項2に係る部分を取り消す。」との判
決。
第2 事案の概要
 本件は,特許に対する無効審判請求の不成立部分の審決の取消しを求める事件で
あり,原告らは無効審判の請求人,被告は特許権者である。
1 特許庁における手続の経緯
 (1) 被告は,発明の名称を「上げ下げ窓または上げ下げ窓付戸」とする特許第3
472717号(請求項の数2。平成11年2月25日に出願,平成15年9月1
2日に設定登録。以下「本件特許」という。)の特許権者である。
 (2) 原告らは,平成16年5月14日,本件特許について無効審判の請求をし
(無効2004-80048号事件として係属),これに対し,被告は,平成17
年2月28日,明細書の訂正(以下「本件訂正」という。)を請求した。
 (3) 特許庁は,平成17年5月31日,「訂正を認める。特許第3472717
号の請求項1に係る発明についての特許を無効とする。特許第3472717号の
請求項2に係る発明についての審判請求は,成り立たない。」との審決をし,同年
6月13日,その謄本を原告らに送達した。
 2 請求項2に係る発明の要旨(本件訂正請求後のもの)
 「上枠,下枠および左右の縦枠からなる枠体内の室外側に固定障子を,かつ室内
側に上げ下げ可能な可動障子を設け,該可動障子をバネ力で巻取り付勢された吊り
材を介して吊下げるバランサーを前記枠体に取付けてなる上げ下げ窓または上げ下
げ窓付戸であって,前記可動障子には前記左右の縦枠の対向する縦溝内に位置して
前記吊り材を支持する支持部材が縦溝内に嵌め込めるように引込み位置から縦溝方
向へ突出可能で且つ調整可能に設けられ,前記支持部材は,支持部本体と,該支持
部本体の端部に形成されるとともに,前記吊り材の先端に設けられた輪を回動可能
に引掛けることのできる環状溝を有する支持部と,該支持部と同一又はそれ以上の
径を有するとともに,前記縦溝内に収まる規制部と,を備え,前記支持部材を支点
に前記可動障子は室内側に内倒し可能であることを特徴とする上げ下げ窓または上
げ下げ窓付戸。」
 3 本件発明についての審決の理由の要点
 本件発明についての審決の理由は,以下のとおりであるが,要するに,本件訂正
を認めるとした上,請求項2に係る発明(以下「本件発明」という。)は,特許法
29条2項の規定に該当しないから,本件発明に係る特許は,同法123条1項2
号の規定に該当せず,無効とすべきものとすることができない,というものであ
る。
 (1) 訂正の適否の判断
 本件訂正は,特許法134条の2第1項ただし書及び同5項で準用する特許法1
26条3項及び4項の要件を満たすものであるから,訂正を認める。
 (2) 無効理由についての検討
 ア 引用刊行物記載の発明
 (ア-1) ・・・実公昭61-33805号公報(本訴甲8,以下「刊行物1」とい
う。)には,次の発明が記載されていると認められる。
 「上枠1a,下枠および左右の縦枠1bからなる窓枠1内に上げ下げ可能な内障
子2および外障子3を設け,該内障子2および外障子3はロープ4を介して連結さ
れるとともに,ロープ4を巻装するバランサを有する上げ下げ窓であって,前記内
障子2および外障子3は前記左右の縦枠1bの対向する溝部内に嵌め込まれてお
り,前記内障子2および外障子3に前記溝部内に位置して前記ロープ4を支持する
吊り金具7を設けてなり,前記吊り金具7は,前記ロープ4を支持するフック部7
aを有し,該フック部7aに前記ロープ4の引掛け部4aを引掛けてなり,振れ止
め具8が溝部方向へ突出可能で且つ調整可能に設けてなる上げ下げ窓。」
 ・・・
 イ 対比・判断
 本件発明と刊行物1に記載された発明を対比すると,刊行物1に記載された発明
における「窓枠1」,「ロープ4」,「バランサ」,「溝部」,「吊り金具7」,
「フック部7a」及び「ロープ4の引掛け部4a」は,それぞれ,本件発明の「枠
体」,「吊り材」,「バランサー」,「縦溝」,「支持部材」,「支持部」及び
「吊り材の端部」に相当する。
 また,刊行物1に記載された発明における「内障子2」は,開閉移動することか
ら,可動障子とみなすことができる。
 そして,刊行物1に記載された発明も,内障子2は,左右の縦枠1bの対向する
溝部内に嵌め込まれていることから,縦枠1bの対向する溝部内に嵌め込めるよう
に構成されていることは明らかである。
 さらに,刊行物1に記載された発明における「振れ止め具8」と本件発明におけ
る「支持部材」は,いずれも,縦溝方向へ突出可能で且つ調整可能に設けられた部
材である点で共通する。
 よって,両者は,
「上枠,下枠および左右の縦枠からなる枠体内に上げ下げ可能な可動障子を設け,
該可動障子を吊り材を介して吊下げるバランサーを有する上げ下げ窓であって,前
記可動障子には,前記左右の縦枠の対向する縦溝内に位置して縦溝方向へ突出可能
で且つ調整可能に設けられた部材とともに,前記吊り材を支持する支持部材が設け
られ,前記支持部材は吊り材を支持する支持部を有し,該支持部に前記吊り材の端
部を引掛けてなる上げ下げ窓。」
である点で両者は一致し,以下の点で相違する。
<相違点3>
 本件発明では,バネ力で巻き取り付勢された吊り材を介して可動障子を吊り下げ
るバランサーが枠体に取付けられているのに対して,刊行物1に記載された発明で
は,バランサーを有するものの,バランサーの構造や取付けられた部位は不明であ
り,また,バランサー,吊り材,可動障子の関係が不明確である点。
<相違点4>
 本件発明では,可動障子が有する縦溝方向へ突出可能で且つ調整可能に設けられ
た部材が支持部材であり,前記支持部材が可動障子の嵌め込みに邪魔にならない引
込み位置から縦溝方向へ突出可能で且つ調整可能に設けられているのに対して,刊
行物1に記載された発明では,そのような構成になっていない点。
<相違点5>
 本件発明では,室外側に固定障子を,室内側に上げ下げ可能な可動障子を設けて
いるのに対して,刊行物1に記載された発明では,そのような構成になっていない
点。
<相違点6>
 本件発明では,支持部材が,支持部本体と,該支持部本体の端部に形成されると
ともに,前記吊り材の先端に設けられた輪を回動可能に引掛けることのできる環状
溝を有する支持部と,該支持部と同一又はそれ以上の径を有するとともに,前記縦
溝内に収まる規制部と,を備え,前記支持部材を支点に可動障子が室内側に内倒し
可能であるのに対して,刊行物1に記載された発明では,そのような構成になって
いない点。
 上記相違点のうち,まず,相違点6について検討する。
<相違点6について>
 可動障子を室内側に内倒し可能に構成すること自体は,従来周知の事項(必要あ
れば特開平6-313384号公報(本訴甲4),実公平2-47177号公報
(本訴甲2。以下「刊行物3」という。)等参照)である。
 しかしながら,支持部材が,吊り材の先端に設けられた輪を回動可能に引掛ける
ことのできる環状溝を有する支持部を備えた構成は,刊行物1ないし刊行物3のい
ずれにも記載されておらず,また,請求人が提出した他の甲各号証及び各参考文献
にも記載されていない。かつ,前記構成が,従来周知の事項であるということもで
きない。
 そして,本件発明の発明特定事項が奏する訂正明細書に記載の,
「【0036】・・・・。また,支持部材22は,ワイヤ12を回動可能に支持す
る支持部26を有しているため,可動障子3をピボット25を支点に室内側に倒す
場合に,可動障子3を容易に倒すことができる。前記支持部26は,円形に形成さ
れ,その外周にワイヤ12の輪16を引掛ける環状溝27を形成してなるため,簡
単な構造でワイヤ12を回動可能に支持することができ,また,部品の構造が簡素
化され,部品点数が減少し,コストを抑えられる。」
の作用効果は,刊行物1ないし刊行物3に記載の技術事項及び従来周知の事項から
当業者が予測できる範囲以上のものと認められる。
 よって,他の相違点について検討するまでもなく,本件発明は,刊行物1に記載
の発明に,刊行物2に記載の発明,刊行物3に記載の発明及び従来周知の事項を適
用したとしても,当業者が容易に本件発明の構成を得ることができたものというこ
とができないから,本件発明についての特許は,特許法29条2項の規定により,
特許を受けることができない発明に対してなされたものではない。
 (3) まとめ
 本件発明は,特許法29条2項の規定に該当しないから,本件発明に係る特許
は,同法123条1項2号の規定に該当せず,無効とすべきものとすることができ
ない。
第3 当事者の主張の要点
 1 原告ら主張の審決取消事由(相違点6の判断の誤り)
 審決は,本件発明と刊行物1に記載された発明との相違点6について,「支持部
材が,吊り材の先端に設けられた輪を回動可能に引掛けることのできる環状溝を有
する支持部を備えた構成は,刊行物1ないし刊行物3のいずれにも記載されておら
ず,また,請求人が提出した他の甲各号証及び各参考文献にも記載されていない。
かつ,前記構成が,従来周知の事項であるということもできない。」,「本件発明
の・・・の作用効果は,刊行物1ないし刊行物3に記載の技術事項及び従来周知の
事項から当業者が予測できる範囲以上のものと認められる。」と認定し,「よっ
て,他の相違点について検討するまでもなく,本件発明は,刊行物1に記載の発明
に,刊行物2に記載の発明,刊行物3に記載の発明及び従来周知の事項を適用した
としても,当業者が容易に本件発明の構成を得ることができたものということがで
きない」と判断した。
 (1) 実公昭61-16379号公報(甲13)は,本件発明の「支持部材が,吊
り材の先端に設けられた輪を回動可能に引掛けることのできる環状溝を有する支持
部」を備えた構成を開示している。
 (2) そして,回動したり,揺動したりする物体の支持軸を吊り材で吊る場合に,
吊り材の先端に設けた輪を支持軸の環状溝に嵌め込んで輪と支持軸との間を回動可
能にすることは,以下のとおり,慣用の手段である。
 例えば,特開平6-16381号公報(甲14)では,フック金具5,6が,フ
ランジ61,62間に引っかけ部分64(溝)を有する頭部63を備え,この頭部
63の引っかけ部分64にワイヤリング22,32を掛けてチェンブロックで吊り
上げる構造となっている。吊り上げた状態のパネルを反転(回動)させるとき,ワ
イヤリング22,32に対してフック金具5,6が回動するので,パネルの反転が
容易に行われる。
 また,実開平5-71396号公報(甲15)では,ワイヤ44が,下端部でリ
ング状とされ(図3),ドア本体26の下端部に突出形成された係止ピン48へ係
止されている。そして,ワイヤのリング状部分と係止ピン48との係合個所を見る
と(図3,図4),係合したリング状部分の両側にフランジ状部材が配置されて溝
を形成しているところ,この構造は,オーバースライディングドアのドア本体26
が横方向に配置された複数枚のパネル24からなり,オーバースライディングドア
の開き作動の最終段階では最下段のパネル24(係止ピン48が取り付けられてい
る)が垂直姿勢から水平姿勢へと係止ピン48を中心に回動するのを許容するため
であり,これにより,最下段のパネル24は容易に回動する。
 (3) 以上のとおり,甲13ないし15に示されている技術事項が周知あるいは慣
用されており,このような技術を採用して上げ下げ窓の支持部を本件発明のように
構成することは,その採用に際して解決すべき技術的事項は何もないから,当業者
が容易にできることである。
 (4) さらに,実公昭61-16379号公報(甲13)に開示された上記(1)の
構成によれば,内障子側の支軸16がワイヤーロープ18の輪に対し回動すること
ができるから,内障子を容易に倒すことができ,また,部品の構造が簡素であり,
部品点数も少なくて済むという作用効果を奏するところ,本件発明の作用効果は,
これ以上のものでなく,このような周知の構成を採用すれば当然に発揮されるもの
にすぎない。
 2 被告の反論
 (1) 原告らが援用する甲13ないし15は,引用文献を補う周知技術を表す文献
ではなく,むしろ,特許無効の審判において審理判断されず,本件訴訟において初
めて提出された公知文献であって,原告らは,特許無効の審判において審理判断さ
れなかった公知事実との対比における特許無効原因を主張するものであるから,主
張として許されない。
 (2) 仮に原告らの取消事由の主張が許されるとしても,原告らの主張は,以下の
とおり,理由がない。
 ア 本件発明に係る請求項2には,「該支持部本体の端部に形成されるととも
に,前記吊り材の先端に設けられた輪を回動可能に引掛けることのできる環状溝を
有する支持部と,」と記載され,ワイヤの端部にあらかじめ形成した輪を支持部材
に容易に引掛けて取り付けることができることが構成要件として明確に示されてい
る。ここで「引掛けることのできる」とは,当然に,ワイヤ端部の輪が支持部より
も大きな径を有していることを意味する。
 これに対し,実公昭61-16379号公報(甲13)の第8図には,支持部よ
りも小さな径を有するワイヤ端部の輪が開示されているだけであって,「引掛ける
ことのできる」という構成を欠いているから,実公昭61-16379号公報(甲
13)は,「支持部材が,吊り材の先端に設けられた輪を回動可能に引掛けること
のできる環状溝を有する支持部」を備えた構成を開示していない。
 また,実開平5-71396号公報(甲15)の「係止ピン48が突出され(図
3及び図4),係止ピン48には,ワイヤ44の下端部がリング状とされて嵌合係
止され,」(段落【0015】)との記載や図3によれば,ワイヤ44の輪は,係
止ピン48と略同じ径であり,かつ,「環状溝」を備えていないから,実開平5-
71396号公報(甲15)も,本件発明の「支持部材が,吊り材の先端に設けら
れた輪を回動可能に引掛けることのできる環状溝を有する支持部」を備えた構成と
は異なる。
 イ 特開平6-16381号公報(甲14)は,1つの公知文献にすぎないか
ら,これのみをもって,本件発明の構成要素である支持部材が慣用の手段であると
いうことはできない。しかも,特開平6-16381号公報(甲14)には,「本
発明は,積み上げられているALCパネル等のパネルを,簡単な作業により台車等
に裏返して移載することにできる方法に関するものである。」(段落【000
1】)との記載があり,本件発明とは属する技術分野が異なっているのであるか
ら,これを適用すべき動機づけがない。
 仮に上記手段が慣用の手段であり,かつ,本件発明の属する技術分野に適用する
ことができるとしても,特開平6-16381号公報(甲14)の「ALCパネル
を人力を用いることなく引上げ,引き上げた状態で,ALCパネルをフック金具を
中心として反転させ,」(段落【0005】),「ALCパネルを台車等に移載し
た後は,フック金具をALCパネルから取り外す。」(段落【0006】)との記
載によれば,ALCパネルは,鋼製ワイヤリング22,32との関係で反転が可能
であり,かつ,取外しも容易であるから,吊り下げられた状態においてフック金具
5,6の2点でしか支えられておらず,反転可能とされるとともに左右に揺動可能
とされている。そして,環状である鋼製ワイヤリング22,32の径は,フック金
具5,6のフランジ61,62に対して大幅に大きくされ,鋼製ワイヤリング2
2,32がフック金具5,6から取り外しやすくされていて,取付けと取外しの一
連の動作が繰り返し行われる。これに対し,本件発明は,支持部材22にワイヤ1
2を取り付け容易とされているが,ワイヤ12は,一度取り付けると,支持部材2
2に安定して係止され,輪16も支持部材に取り付けるために必要な大きさ以上の
径とはされていないから,本件発明の支持部材22とワイヤ12とについて,甲1
4の技術的思想である取外しも容易な構成を適用すれば,ワイヤ12は支持部材2
2から容易に離脱してしまい,本件発明は成り立たないことになる。
 したがって,本件発明と特開平6-16381号公報(甲14)に記載された発
明とでは,技術的思想が異なり,互いに異なる構成を備えているから,特開平6-
16381号公報(甲14)の構成を上げ下げ窓に適用しても,本件発明にはなら
ない。
 ウ さらに,実公昭61-16469号公報(甲13)は,「引掛けることので
きる」という構成を欠いているから,本件発明の「ワイヤ12の端部を支持部材2
2に容易に引掛けられることにより組み立て容易となり,その結果作業コストを含
めコストを抑えることができる。」という作用効果を奏しない。
第4 当裁判所の判断
 1 実公昭61-16469号公報(甲13)には,「内障子戸枠14の縦框1
5の下端部に支軸16が固定され,その支軸16に回転自在に嵌設された下部ガイ
ドローラ17は,前記縦枠12における室内側の縦溝に嵌設され,かつ前記支軸1
6に一端部が連結されているバランス用ワイヤロープ18・・・の他端部は外障子
戸枠9の上部に連結され,内障子戸13を昇降移動すると,これに連動して外障子
戸21が自動的に昇降移動されるように構成されている。」(1欄26行ないし2
欄10行)との記載があり,第5図及び第8図には,支軸16の断面が円形である
こと,ワイヤロープ18の他端部に形成された輪を支軸16の環状溝に連結するこ
とが示されている。これらによると,実公昭61-16469号公報(甲13)に
は,「支持部材が,吊り材の先端に設けられた輪を回動可能に引掛けることのでき
る環状溝を有する支持部」を備えた構成が開示されていると認められる。
 また,特開平6-16381号公報(甲14)には,「フック金具6の頭部63
は,一対のフランジ61,62の間が脚部と同径の円柱部分64によって連結され
ている。この円柱部分64が,上記のチェイン・ブロックの側のワイヤリング32
の引っかけ位置となっている。」(段落【0013】)との記載があり,実開平5
-71396号公報(甲15)には,「係止ピン48には,ワイヤ44の下端部が
リング状とされて嵌合係止され」(段落【0015】)との記載がある。これらに
よると,特開平6-16381号公報(甲14)や実開平5-71396号公報
(甲15)には,「回動したり,揺動したりする物体の支持軸を吊り材で吊る場合
に,吊り材の先端に設けた輪を支持軸ないしは支持軸の環状溝に嵌め込んで輪と支
持軸との間を回動可能とすること」が記載されていると認められる。
 実公昭61-16469号公報(甲13)に記載された技術は内障子戸に,特開
平6-16381号公報(甲14)に記載された技術はパネルに,実開平5-71
396号公報(甲15)に記載された技術はオーバースライディングドアにそれぞ
れ適用されるものであって,対象となる物品を異にするが,物品の吊り下げ技術で
ある点では共通するから,上記各公報の記載からすると,吊り材の先端の輪を,支
持部(支持軸ないしは支持軸の環状溝)に引掛けて,被吊持物品を回動ないし揺動
させるようにすることは,本件出願前において,周知の慣用手段であると認められ
る。
 2 しかし,本件発明の支持部材は,「支持部本体と,該支持部本体の端部に形
成されるとともに,前記吊り材の先端に設けられた輪を回動可能に引掛けることの
できる環状溝を有する支持部と,該支持部と同一又はそれ以上の径を有するととも
に,前記縦溝内に収まる規制部と,を備え,前記支持部材を支点に可動障子が室内
側に内倒し可能である」というものであって,単に,吊り材の先端の輪を支持部に
引掛けて,可動障子を回動ないしは揺動させるようにしたものにとどまらず,①
「該支持部と同一又はそれ以上の径を有するとともに,前記縦溝内に収まる規制
部」を備え,かつ,②「前記支持部材を支点に可動障子が室内側に内倒し可能であ
る」ようにされていることを構成上の特徴とするのである。
 そして,本件発明と引用発明との相違点6は,第2の3(2)に記載のとおりである
から,上記1のとおり,吊り材の先端の輪を支持部に引掛けて,被吊持物品を回動
ないしは揺動させることが周知の慣用手段であるとしても,この周知の慣用手段
は,上記①,②の構成上の特徴点を示唆するものではない。
 そうであれば,相違点6に係る構成は,当該周知の慣用手段に基づいて,当業者
が容易に想到することができるということはできない。
 3 もっとも,審決は,「支持部材が,吊り材の先端に設けられた輪を回動可能
に引掛けることのできる環状溝を有する支持部を備えた構成は,・・・従来周知の
事項であるということもできない。」と認定して,「本件発明は,刊行物1に記載
の発明に,刊行物2に記載の発明,刊行物3に記載の発明及び従来周知の事項を適
用したとしても,当業者が容易に本件発明の構成を得ることができたものというこ
とができない」と判断しているのであって,相違点6のうち,上記①,②の構成上
の特徴点に係る構成については,当業者が容易にこれを得ることができたかどうか
について明示していない。
 しかし,審決は,本件発明の作用効果として,「支持部材22は,ワイヤ12を
回動可能に支持する支持部26を有しているため,可動障子3をピボット25を支
点に室内側に倒す場合に,可動障子3を容易に倒すことができる。前記支持部26
は,円形に形成され,その外周にワイヤ12の輪16を引掛ける環状溝27を形成
してなるため,簡単な構造でワイヤ12を回動可能に支持することができ,また,
部品の構造が簡素化され,部品点数が減少し,コストを抑えられる。」(段落【0
036】)と認定しているところ,「支持部材22は,ワイヤ12を回動可能に支
持する支持部26を有しているため,可動障子3をピボット25を支点に室内側に
倒す場合に,可動障子3を容易に倒すことができる。」という作用効果は,本件明
細書に,「前記支持部材22は,吊り材であるワイヤ12を回動可能に支持する支
持部26を有している。この支持部26は,前記ピボット25の端部に円形に形成
されており,その外周にワイヤ12の輪16を回動可能に引掛けるための環状溝2
7を有している。このワイヤ12を回動可能に支持する構造は,特に後述するシン
グルハング式の上げ下げ窓における可動障子(内障子)3をピボット25を支点に
室内側に倒す場合に役立つようになっている。」(段落【0021】),「ピボッ
ト25の基部側は略上半分が切除されており,その上面にピボットバー24が載置
されて下方からネジ28で固定されている。ピボットバー24の先端は,円形の支
持部26に形成した嵌入溝29に嵌入されて一体的に固定されている。前記ピボッ
ト25の基部側略下半分は,前記支持部26と同じか若干大きい径の規制部30と
して形成されており,図2に示すように,この規制部30が縦枠1cの縦溝19の
開口部19aに収まることにより可動障子2,3の室内外方向の動き(振れ)を規
制(抑制)するようになっている。」(段落【0022】)と記載されているよう
に,上記①,②の構成上の特徴点に係る構成を必須とする。
 そうすると,審決は,本件発明の支持部材が上記①,②の構成上の特徴点に係る
構成を備えていることを前提にして,「本件発明は,刊行物1に記載の発明に,刊
行物2に記載の発明,刊行物3に記載の発明及び従来周知の事項を適用したとして
も,当業者が容易に本件発明の構成を得ることができたものということができな
い」と判断したものと解することができる。
 4 そうであれば,上記2のとおり,相違点6に係る構成は,吊り材の先端の輪
を支持部に引掛けて,被吊持物品を回動ないしは揺動させるという周知の慣用手段
に基づいて,当業者が容易に想到することができないから,これと同旨の審決に誤
りはなく,原告ら主張の審決取消原因は,理由がないといわざるを得ない。
第5 結論
 以上のとおり,原告ら主張の審決取消事由は理由がないから,原告らの請求は棄
却されるべきである。
    知的財産高等裁判所第4部
        裁判長裁判官                     
                   塚   原   朋   一
           裁判官                     
                   髙   野   輝   久
           裁判官                     
                   佐   藤   達   文

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弁護士募集(経験者 司法修習生)
激動の時代に
今後の弁護士業界はどうなっていくのでしょうか。 もはや、東京では弁護士が過剰であり、すでに仕事がない弁護士が多数います。
ベテランで優秀な弁護士も、営業が苦手な先生は食べていけない、そういう時代が既に到来しています。
「コツコツ真面目に仕事をすれば、お客が来る。」といった考え方は残念ながら通用しません。
仕事がない弁護士は無力です。
弁護士は仕事がなければ経験もできず、能力も発揮できないからです。
ではどうしたらよいのでしょうか。
答えは、弁護士業もサービス業であるという原点に立ち返ることです。
我々は、クライアントの信頼に応えることが最重要と考え、そのために努力していきたいと思います。 弁護士数の増加、市民のニーズの多様化に応えるべく、従来の法律事務所と違ったアプローチを模索しております。
今まで培ったノウハウを共有し、さらなる発展をともに目指したいと思います。
興味がおありの弁護士の方、司法修習生の方、お気軽にご連絡下さい。 事務所を見学頂き、ゆっくりお話ししましょう。

応募資格
司法修習生
すでに経験を有する弁護士
なお、地方での勤務を希望する先生も歓迎します。
また、勤務弁護士ではなく、経費共同も可能です。

学歴、年齢、性別、成績等で評価はしません。
従いまして、司法試験での成績、司法研修所での成績等の書類は不要です。

詳細は、面談の上、決定させてください。

独立支援
独立を考えている弁護士を支援します。
条件は以下のとおりです。
お気軽にお問い合わせ下さい。
◎1年目の経費無料(場所代、コピー代、ファックス代等)
◎秘書等の支援可能
◎事務所の名称は自由に選択可能
◎業務に関する質問等可能
◎事務所事件の共同受任可

応募方法
メールまたはお電話でご連絡ください。
残り応募人数(2019年5月1日現在)
採用は2名
独立支援は3名

連絡先
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所 採用担当宛
email:[email protected]

71期修習生 72期修習生 求人
修習生の事務所訪問歓迎しております。

ITJではアルバイトを募集しております。
職種 事務職
時給 当社規定による
勤務地 〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
その他 明るく楽しい職場です。
シフトは週40時間以上
ロースクール生歓迎
経験不問です。

応募方法
写真付きの履歴書を以下の住所までお送り下さい。
履歴書の返送はいたしませんのであしからずご了承下さい。
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所
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採用担当宛