弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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       主   文
一 原判決を取り消す。
二 被控訴人の請求を棄却する。
三 訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。
       事実及び理由
第一 申立て
一 控訴人
 主文同旨
二 被控訴人
1 本件控訴を棄却する。
2 控訴費用は控訴人の負担とする。
第二 事案の概要
 次のとおり付加・訂正するほか、原判決の「第二 事案の概要」(原判決三頁二
行目から一六頁七行目まで)に記載のとおりであるから、これを引用する。
1 原判決六頁初行の「同月一五日」を「平成八年一〇月一五日」と改める。
2 同七頁七行目の「(法人等事業活動情報)」を「法人(国及び地方公共団体を
除く。)その他の団体に関する情報又は事業を営む個人の当該事業に関する情報
(以下「法人等事業活動情報」という。)が記録されていて、開示しないことので
きる公文書」と改める。
3 同一一頁七行目の「本件条例一〇条三号本文」の次に「の法人等事業活動情報
が記録されており、開示することにより、正当な利益が損なわれると認められる公
文書」を、同一六頁三行目「本件条例一〇条三号本文」の次に「の開示しないこと
ができる公文書」をそれぞれ加える。
第三 当裁判所の判断
一 争点について
1 まず、本件非開示部分が、本件条例一〇条三号本文の法人等事業活動情報に該
当するか否かにつき、検討する。
 証拠(甲三ないし五、乙五、七)によると、同条同号本文の事業を営む個人の当
該事業に関する情報とは、営利を目的とするかどうかを問わず、事業内容、事業用
資産、事業所得等事業活動に関する一切の情報をいうと解される。そうすると、本
件非開示部分すなわち本件銀行名等及び本件印影は、それが法人(国及び地方公共
団体を除く。)その他の団体のものであれ、個人のものであれ、右法人等事業活動
情報に該当するとみるのが相当である。
2 次に、本件非開示部分に記録されている情報を開示することにより、本件条例
一〇条三号本文の法人等事業者(以下単に「事業者」という。)の競争上又は事業
運営上の地位、社会的信用その他正当な利益が損なわれるか否かにつき検討する。
 事業者が取引する銀行口座やそれに使用する印章・印影については、一般的に
は、いわゆる内部管理情報として秘密にしておくことが是認され、これらの内部管
理情報につき、事業者は、開示の可否及びその範囲を自ら決定できる権利ないしは
それを自己の意思によらないでみだりに他に開示、公表されない利益を有している
というべきである。したがって、事業者の意思によらないでその内部管理情報が公
表されることは、事業者の正当な意思、期待に反するというべきであるから、本件
非開示部分を開示することにより、同条同号本文の正当な利益が損なわれるとみる
のが相当である。
 なお、証拠(甲四、乙五)及び弁論の全趣旨によると、奈良県は、奈良県情報公
開条例の解釈運用基準として「情報公開事務の手引」を作成しているが、その中
で、同条同号本文の競争上又は事業運営上の地位、社会的信用その他正当な利益が
損なわれると認められるものとして営業上又は販売上のノウハウに関する情報等四
つの情報を挙げ、同情報の具体例の一つとして預金口座を挙げていることが認めら
れる。右認定によると、本件条例の立法者も、預金口座は開示しないことを予定し
ていたというべきである。
 これに対し、被控訴人は、同条同号本文の「開示することにより」という文言か
ら、事業者が秘密として取り扱っている内部管理情報であることが前提となってい
ることが明らかであるとか、「競争上又は事業運営上の地位、社会的信用その他正
当な利益が損なわれると認められること」の要件を充足するためには、本件非開示
部分の開示によって、いかなる個別具体的な利益侵害がいかなる程度に、かつ、い
かなる蓋然性をもって生ずるかを控訴人において主張立証しなければならない旨主
張するが、同条同号及び本件条例の文言、体裁のみならず、その趣旨、目的等を斟
酌しても、右主張を採用することはできない。
 また、被控訴人は、本件非開示部分は、それ自体営業上のノウハウや社会的信用
等と関連するものではないし、一応経理に関する情報といえるにしても、その開示
によって事業者の金融機関との取引内容や事業者の経理内容、経営状態等が第三者
に明らかになるわけでもなく、情報の性質上、開示により正当な利益を侵害するお
それがないものである旨主張する。しかし、本件非開示部分である本件銀行名等及
び本件印影は営業上のノウハウとみるのが相当であるうえ、その開示によって事業
者の金融機関との取引内容や事業者の経理内容、経営状態等が第三者に明らかにな
るわけではないが、前記のとおり、本件非開示部分である内部管理情報について、
事業者がその意思によらないで公表されることのない期待等は十分尊重されるべき
であるから、やはり正当な利益にあたるというべきである。また、証拠(乙一四の
一ないし一二、一八、一九、二二の一・二、二七)及び弁論の全趣旨によると、預
金口座や印章等を悪用して実際に犯罪が行われたり、行われるおそれのあることや
顧客情報及び消費者金融の個人情報が盗用されたり、流出している事例がかなり発
生していることが認められる。右認定及び顕著な事実によると、預金口座をはじ
め、営業上又は販売上のノウハウに関する情報は、悪用されるおそれが多分にある
というべきであり、この点からいっても、右情報は十分に保護されるべきである。
確かに、被控訴人主張のとおり、これまでに、本件と同様の情報公開制度の利用に
より得られた預金口座等の情報が悪用された実例は知られていないが、それは今の
ところ、情報公開制度を利用する人が限られているからで、将来、多数の人達がし
ばしば同制度を利用するようになった場合、悪用されるおそれがないと断定するこ
とまではできないと思われる。したがって、被控訴人の右主張は採用できない。
3 さらに、被控訴人は、本件非開示部分の開示の必要性(公益性)に鑑みれば、
本件条例一〇条三号ただし書ウに該当するものとして開示されるべきである旨主張
するので、検討する。
 本件条例一〇条三号ただし書ウは、同ただし書ア又はイに掲げる情報すなわち事
業活動によって生じ又は生ずるおそれがある危害から人の生命、身体等を保護する
ために開示が必要な情報、又は、違法、不当な事業活動から生じ又は生ずるおそれ
がある支障から人の財産、生活を保護するために開示が必要な情報に準ずる情報で
あって、開示が公益上必要であると認められるものと定めていることからすれば、
右ただし書ウが開示すべきものとする情報は、本来、単にそれが公益にかかわるも
のであるというにとどまらず、公益性が相当程度に高いものを予定しているという
べきであるから、当然に本件非開示部分が右情報に該当するとは考え難い(乙五に
よれば、奈良県作成の情報公開事務の手引は、右ただし書ウの具体例として「自然
環境、動植物の保護、文化財の保全等に関する情報のうち、要件に該当するもの」
を掲げているが、右例示は至当である。)。
 もっとも、右公益性の点をよりゆるやかに解するときは、被控訴人主張のとお
り、本件非開示部分が開示されることによって、奈良県民は、奈良県の相手方であ
る事業者の預金口座等を実際に調査することが可能であり、それにより奈良県の食
糧費にかかる正確な支出を把握しやすくなるから、開示の必要性は高いと一応いう
ことができるし、本件非開示部分の非開示により、控訴人担当者がその公文書の一
部を塗って見えなくするなどの煩瑣な事務手続が解消されることも、公益性につな
がるものではある。しかし、前記のとおり、事業者がその意思によらないで本件非
開示部分を開示されることのない期待等は十分に尊重されるべきであるうえ、控訴
人が開示しなければ、本件非開示部分の情報を入手できないというものではなく、
本件非開示部分の情報を入手したいのであれば、被控訴人も認めるとおり、事業者
と取引をするなど適宜な方法を利用すれば、比較的容易に入手できると思われるこ
となどに照らすと、本件非開示部分が同条同号ただし書ウにいう、開示することが
公益上必要であると認められるものに該当するとまでいうことはできない。
 したがって、被控訴人の右主張も採用できない。
4 以上のとおり、本件非開示部分は、本件条例一〇条三項の開示しないことので
きる公文書に該当するというべきである。
二 結論
 以上の次第で、被控訴人の本訴請求は、理由がないから棄却すべきであるとこ
ろ、これと異なり、被控訴人の請求を全部認容した原判決は不当であるから、主文
のとおり原判決を取り消すこととし、訴訟費用の負担につき、行政事件訴訟法七
条、民事訴訟法六七条二項、六一条を適用して主文のとおり判決する。
大阪高等裁判所第二民事部
裁判長裁判官 秋元隆男
裁判官 横田勝年
裁判官 岡原剛

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